@フライ英国大使の記者会見
先日、日本記者クラブでグレアム・フライ英国大使(ゴマソール大使の後任者)の昼食会がありました。フライさんは、私が英国大使館広報部というところに職を得て間もなく、私のボスとなった人でした。と言ってもそのころは「駆け出し外交官」(失礼!)であったわけです。
それから10数年経ってロンドンの本省でアジア局長のような仕事をしていて日本へ来た時に、日本人の新聞記者とちょっとした会見をやったことがあります。話題は「英国政府のアジア政策」。その時に彼の日本語の上手さ加減に心底恐れ入ってしまったのを覚えています。 話す日本語のうまさは言うまでもなく、私が舌を巻いてしまったのは、記者の言っている日本語に対する理解力の確かさでした。私の知る限りにおいて、東京の大使館で一緒に仕事をさせてもらった英国外交官の中で、日本語のうまさについては文句なしに「ナンバーワン」でした。
で、記者クラブでの昼食会です。ポイントの一つであったのが、日本の国連安保常任理事国入りについて英国政府がどのような姿勢でいるのかということでした。以前(と言っても2ヶ月ほど前)アメリカのパウエル国務長官が「憲法9条を改正すれば、日本の常任理事国入りを支持する」という趣旨の発言をした(と報道されていた)。で、フライ大使によると英国は「無条件で支持する」ということでした。つまり憲法9条はそのままでいいということです。
ただ大使は、この問題とは別の部分で、日本はこれからも平和維持活動とか人道支援などには積極的にかかわるべきだという趣旨の発言をしていた。英米軍によるイラク爆撃は正しいし、日本の自衛隊派遣はもちろん歓迎というわけです。日本の常任理事国入りについての「無条件支持」も、この部分と一緒に考えると「あえて条件などつけなくても、どのみち第9条は変えざるを得なくなるし、日本が自主的に変えるだろう」と読んでいるってことなのかな?と私などは考えてしまったわけ。
「憲法改正しなきゃ、入れてやらない」というアメリカと「変えなくても入れましょう(どうせいつかは変えるのだから)」と言う英国。結局、同じなんじゃないの!?と思っていたら、つい最近になってワシントンを訪れた日本の政治家に対してアーミテージ国務副長官という人が「100%支持」と言ったと報道されています。まさかフライ大使の発言を聞いてアメリカも「英国みたいにうまくやろうぜ」という気になったわけでもないと思いますが。
ところで司会者の紹介によると、フライ大使はバードウォッチングが好きで、日本野鳥の会の会員なのだそうです。
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A保守党、共和党離れの背景
8月末にニューヨークで開かれた米国共和党大会には英国保守党の国会議員約20人が出席したのですが、肝心のハワード党首の出席を断られてしまったそうです。知らなかった!The Economistの9月4日号がそのあたりの事情を非常に興味深く解説しています。英国の政治に関心のない人(殆どがそうかもしれない)のために念のために言っておくと、保守党は現在野党で、考え方としては「小さな政府・市場経済至上主義」というわけで、思想的には米国の共和党に近い。
共和党の怒り
共和党大会に出席しようと思っていたハワード党首の秘書にブッシュ大統領のアドバイザーから電話がかかってきた。メッセージは「大統領に会いたいと言ってもダメ。来る必要はない(Don't bother coming)」という実に冷たいものであったそうです。本来仲良しのはずの共和党が冷たい理由は、ハワード党首のブレア批判にある。大量破壊兵器の問題で「ブレア首相は国民を欺いた」というわけで、イラク戦争を巡って批判している。その批判はブッシュに向けられたのも同然、ということで共和党がカンカンに怒ってしまった。
普通なら怒るブッシュを懸命になだめても良さそうなものですが、案に相違して「あんたらがブレアを保護したいのならどうぞ。私は私なりに正しいと思うこと(ブレア批判)をするのみだ」と開き直ってしまった。何故ハワード党首は開き直ったのか?そのあたりを分析すると英国人の考え方が出てきて面白い(と私は思っています)。 一つには、保守党の支持層も含めた英国人の間に根付いている「ブッシュ嫌い」のフィーリング。保守党議員の間でも反ブッシュの雰囲気は強いのです。
熱狂的キリスト教についていけない?
一つには共和党がブレアに肩入れしすぎるということへの反発があるけれど、もっと根本的な理由として、米国の右派勢力(共和党のこと)が冷戦終結以来、極めて元気であるのに対して、英国の保守党は97年の選挙で完敗してからというもの、ブレアの労働党が保守党と変わらない政策を展開してしまっているので、保守党が自らの存在基盤さえ見失って、ウロウロしている状態が続いている。
ただブレアがいようがいまいが、米国的保守主義にはとてもついて行けないと思っている。特に共和党に強く根付いている強烈な宗教色が英国の保守党支持者には受け付けられない。英国には米国のような強硬な堕胎反対主義はいないし、ゲイの結婚についても共和党などに比較するとはるかに「寛容」。即ち英国は他の欧州諸国と同様、キリスト教の存在感が極めて薄くなったpost-Christian社会であるわけで、保守党としてもそのような世論の雰囲気に逆らうわけに行かず、ゲイとかシングルマザーらを候補者として立てることに躍起になっている。
共和党にももちろんシュワルツネッガーだのジュリアーニ(前ニューヨーク市長)のような「穏健派」もいるし、共和党も保守党も「小さな政府・少ない税金」というスローガンでは共通していても、それぞれ、全く違う方向へ歩んでいることは否めない(Nothing can disguise the fact that these are two parties heading at speed in opposite directions)というわけです。
保守党でも比較的名前の知られている政治家(例えばマイケル・ポーティロ、マルコム・リフキンドら)でもおおっぴらに「ケリーに勝って欲しい」と言ってしまっている人もいるのだそうです。まだソ連という国があった時代、サッチャーとレーガンが手を携えてこれと戦っていた時代が懐かしい!?
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Bパブの変遷
使われなくなったオフィスビルなどを飲食店に改造することを専門にやっている会社が英国にあるそうです。The Economistの記事に出ていたもので名前はJD Wetherspoon。12年前に上場されてから結構順調なビジネスを続けていたのに、最近利益が落ち始めているらしい。何が理由かというとパブの変遷にあるのだそうです。
(英国のことを知っている人ならお分かりのとおり)パブといえばビール・・・というのはどうやら昔のことらしい。英国におけるビールの消費量は1990年で一人平均7・9リットル(年間)、それが2003年では9・1リットルと上がっている。問題はビールをどこで飲んでいるのかす。家庭で飲んでいるのです。BBPAという英国のビールとパブの業界団体によると、今から40年前の1971年、ビールを「家庭で飲む」という人は全体の10%以下だった。それが今ではほぼ40%にまで増えている。
ビールの値段は下げにくい
何故そうなのか、という点について9月9日付けのThe Economistは「スーパーでのビールの値段がパブの3分の1」と伝えています。そもそもパブの場合ビールの値下げが難しい理由の一つに地方自治体との取り決めの問題がある。ビールの最低価格(これ以上下げていけないという価格)が決められている町が結構あるらしい。理由は「酒飲みを増やさない」ということ。 しかし何と言ってもこれまでのパブが時代に合わなくなってきているということもあるようで、1988年以来の統計ではパブの軒数が5000減って現在の合計は6万。今でも一月に20軒の割りで昔ながらのパブがつぶれている。
代わってヤング向けのナイトクラブのようなところが増えているらしい。 生き残っているパブも昔と違ってコーヒーのようなソフトドリンクを出したり、朝食を食べられるところも出てきている。今やパブの売り上げの40%は食べ物とソフトドリンクから来るものなのだそうです。場所によっては、パブの一部を乾物屋にしたりするケースもあるなど、以前のパブとは違うものになりつつある。
世の中が中流化している
中には教会の礼拝サービスまで提供するビレッジ・パブまで出てきているのだそうです。 パブの様変わりは、まさに英国社会の様変わりを反映しています。エクセター大学のジェレミー・ブラックという教授は「BRITAIN SINCE THE SEVENTIES」という本の中で、英国社会の中流化をその理由に挙げています。パブのファミリーレストラン化現象もその一つの象徴なのではありませんか?
ところで昔ながらのパブ党によると、英国ビールは室温で飲むのが「通の飲み方」なのだそうです。私の個人的好みによるならば、英国のビールって、室温で飲んでも冷蔵庫温度で飲んでも「さして美味しいものではない」という点において変わりはないと思いますね。
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Cマスター由の<アメリカ南部体験ルポ後編・メンフィスにて>
ナッシュビルを満喫した後は舞台を移して、今度はロックの発祥地として知られるメンフィスへ。この街はテネシー、アーカンソー、ミシシッピの3州の境の近くにあり、あのエルビスプレスリーの故郷としても有名である。僕もエルビスが住んでいた大豪邸のツアーに行ってみた。
ちなみに、僕はカントリーだけでなく、いわゆるロックと呼ばれる音楽もあまり好んで聴くほうではない。ロックなんて不良か野蛮人の聴く音楽だ、とこれまた「馬鹿にしていた」からである。
またエルビスについても僕は「アメリカの有名なロックスター」ということ以外はほとんど何も知らなかった。エルビスが亡くなったのが僕がまだ3歳の時だったから、当然といえばそうかもしれない。でも、何も知らずに行ってもあまり面白くないのではと思い、とりあえず最低限のリサーチだけは事前にしておいた。 エルビスについて知りたいという人は、ここに行ってみるといいだろう。そこでは僕が行ったエルビスの所有する土地グレースランドを見ることもできる。
ちなみにエルビスの好物は「バナナとピーナッツバターのサンドイッチ」だったそうだが、少なくとも僕が見た限りでは、グレースランドのどの店でもこのようなサンドイッチは売っていなかった。グレースランドに行ったらこのサンドイッチを食べるべきだ、と強く勧められていたのだが、ピーナッツバターの嫌いな僕は、そのサンドイッチが売っていなかったのには、がっかりしたと同時にほっとした。
グレースランドの後はダウンタウンメンフィスへ。 このダウンタウン、特にBeale Streetはいかにも古い南部の街という雰囲気で、煉瓦の敷かれた道の両側には古びたバーや土産物屋が立ち並ぶ。その数々の店から、日中にも関わらずロックやジャズのバンドの演奏が聞こえてくるという、非常に雰囲気のある街だった。
また、ダウンタウンに入る前にスラム街のような雰囲気のエリアを通らなくてはならなかった。人はほとんど歩いておらず、閉鎖されたり放置された建物が並び、それらのほとんどには防弾用の金網がガラス窓の外に張りつくされている。立ち寄ったガソリンスタンドでも、店員とはガラス越しにしか応対できず、せまい店内には黒人の警備員がうろうろとパトロールしていた。 ダウンタウンの華やかさと、スラム街の荒れ果てた姿の二面を見て、僕はこの南部の古い街に魅了されてしまった。
はっきり言って住みたいとは思わないが、もう一度来てみたいと思わせるものがメンフィスにはあった。最後に僕が経験した南部の「人」と「心」について書く。南部の人達のことを話す時によく「サザン・ホスピタリティ」という言葉を耳にする。要するに南部の人達特有の「もてなしの精神」のことである。実際ナッシュビルはアメリカで「一番フレンドリーな街の一つ」だそうである。
ちなみにこのコラムは、帰りの飛行機の中で書いているのだが、使っているペンはナッシュビル空港の売店の人がタダでくれたものである。 ということでこの「サザン・ホスピタリティ」のおかげでこうしてこのコラムを書くことができているのである。聞くところによると南部の人達はアジア人のことは白人と同様に見ているらしく、いわゆるエスニック・マイノリティ(少数派民族)というのは黒人(それに「ひょっとすると」ラテン系も)のことを指すらしい。
そういう点では、アジア人のこともマイノリティだと思っている北部の人こそレーシスト(人種差別主義者)だと思っているらしい。僕は南北戦争前の奴隷制度の歴史から、南部の人達はレーシストだと聞いたことがあるので、これにはちょっと驚いた。
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D短信
やってないのに・・・ スノーモービルの駐車違反
スウェーデンの首都、ストックホルムの北300キロにあるBollstabrukという名前の町に住むKrister Nylanderという人がスノーモービルの駐車違反ということで90ポンドの罰金チケットをもらってしまった。が、納得いかないのは、これが「イングランドのウォリックにおける駐車違反」ということで罰金請求されていること。違反は今年の6月。
何故、納得いかないのかというと、そもそもこの人、ウォリックなんかに行ったことがない。「だいいち6月のイングランドに雪なんかないのでは?」と言っている。チケットを送ってきたのはEuro Parking Collectionsという会社で、この会社のサイトを見ると駐車違反・速度違反などについて罰金を集める「権限」を与えられていると書いてある。しかし英国の新聞、ガーディアンが連絡しようとしてもコンタクトできなかったらしい。
つまりインチキってことでしょ?最近、日本でも流行っていますね、この種の詐欺が。実は最近、我が家でも「何とか督促状」というハガキを貰ったのですが、それには「お宅はXXXXの件で料金が未払いになっており、当社はこれを徴収する権限を与えられている・・・」というわけで、これに応じないと「ご近所さんにあらぬ噂を振りまく」というニュアンスの脅迫まがいの言葉も書いてありました。こんなもの受取ったら誰だってびびります。
よせばいいのに、ハイテクシステム
オーストリアのプルケンズドルフという町からの、いまいちよく分からないニュース。この町のスーパーマーケットがお客サービスのつもりでいろいろとハイテクシステムを導入して失敗したというもの。例えばショッピングカートにスピーカーがついていて、そこから大安売りの情報を声で流したところ「うるさい」と大不評。直ちに廃止。
次にロボット式店内掃除システム。客の間を無人で動きながら「掃除ロボットです。よけてください!」という声が流れるシステムになっていたのですが、しょっちゅうお客にぶつかるというので、これも大不評。室内の清掃は人間のスタッフがやることにした。
次にキャッシュカウンターを「自動支払いシステム」にすることで客の行列ができないようにした(つもりだった)。が、結果として買った商品のお金を払わないで行ってしまう客が沢山出てきたので、結局スフタッフがショッピングバッグの中身をチェックすることになったということでこれもアウト。というわけで、この店が導入したハイテクシステムの中で生き残ったのはお客が自由に使える血圧計だけだった。何故かこの血圧計、キャッシュカウンターのところに設置されているのだそうです。
分からないのは何故「血圧計」なの?ってこと。スーパーの血圧計で自分の血圧を測る人なんているんでしょうか?それと店内掃除のロボットを開店中に動かす方がどうかしています。おしゃべりカートなんて付き合ってられません!
E編集後記
●人間てぇものは、夢中になると全く奇妙なことを口走るものですね。アテネ五輪で金メダルを獲得したアメリカの選手が試合後にTVインタビューに答えて、感激の余り口走ってしまったのが"I
owe a lot to my parents, especially my mother and my father…"というコメント。あえて翻訳は止めましょう●プロ野球。近鉄がオリックスとの合併を希望するのは、要するに自分とこではもう営業しいけないということが理由ですね。ではオリックスがこれに応じる理由は何なのか?もともと人気があるとは思えない二つのチームが合併したからって、人気なんか出るわけないのに●先日お会いした、あるスポーツ・ジャーナリストが教えてくれました。オリックスはこれを機会にパリーグが4球団になって欲しい。そうすればセリーグとの合併で1リーグになる。そうすればジャイアンツとの対戦カードが出来てオリックスとしても見入りが増える環境になる●となった時点でオリックスを売りに出すかこれをリースするというアイデアなのだそうであります。ウーン、そこまでは知らなかった。でもそのためにはパ・リーグでもう一つ合併が出来ないとダメ。とうことは宮内社長の思惑ははずれたということ!?