musasabi journal

239号 2012/4/22
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美耶子の言い分 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
上の写真はブルーベルの花が咲き乱れるイングランドの林。英国の春の風物詩です。が、BBCによると最近、ブルーベルの世界で異変が起こっているのだそうです。英国生まれのブルーベルが消えていきつつあるのだとか。一つには外来種、特にスペインのブルーベルに押されていることがあるのですが、主なる脅威は人間。森に入ってブルーベルを根っこごと持って行ってしまう人があとを絶たず、ついにこの花は保護植物に指定されてしまったのだそうです。

目次
1)パスティ税:「暖かい食べもの」の定義
2)社会企業を助ける新BSCファンド
3)スコットランド独立?やりたきゃ、どうぞ・・・
4)美耶子のK9研究:ワンちゃんの身体を知る
5)キャメロンの東アジア訪問始末記
6)どうでも英和辞書
7)むささびの鳴き声


1)パスティ税:「暖かい食べもの」の定義

コーニッシュ・パスティという英国の食べ物をご存じでしょうか?パイ皮の中に肉や野菜を包み込んで焼いたもので、いかにも労働者の食べ物という感じで結構ヘビーなので(私などは)たくさんは食べられないけれど、英国人なら腹ペコ状態だとたまらないほど食べたくなるかもしれない。暖かいものは特に美味しいので、日本における似たような食べ物というと肉まんかな?

いま英国でパスティ税(pasty tax)なるものがちょっとした話題になっています。コーニッシュ・パスティ、ソーセージロールに代表される暖かい食べ物(hot food)に付加価値税(20%)をかけようというのが政府の方針で、YouGovの調査によると反対が69%、賛成が21%となっています。ご存じのように英国の場合、原則として食料品には付加価値税(VAT: Value-added Tax:日本でいうと消費税)がかからない。但しそれはスーパーなどで買う食料品で、レストランで食する食べ物や、ファストフードやテイクアウェイ・ショップで持ち帰るようなものには20%のVATがかかっています。

ややこしいのはこれまでのところ同じように「暖かい」食べ物でもテイクアウェイ・ショップで出来立てのアツアツを買うと税金がかかり、スーパーで買うと、暖かくてもVATはかからなかった。オズボーン財務相によると、これからはスーパーで買っても、パン屋さんで買っても、それがambient temperature(外気温)よりも高い温度であればVATをかけることになる。何やら分かりにくい話ですが、要するにどこで売ろうが、然るべき温度以上の食べ物はすべてVATの対象にする(all food that is above ambient temperature when provided to the customer is standard [VAT]-rated)ということです。例外はパン屋さんやスーパーで売っている「焼きたてのほやほやのパン」(freshly baked bread)だそうです。なぜなら店で売っているパンの類は陳列棚に並べられるときは暖かいかもしれないけれど、消費者が買う時点ではambient temperatureよりも冷たいのが普通だからです。

パスティ税が消費者の間では評判が悪いのは、税金なんて誰も払いたくないのだから当たり前ですが、コーニッシュ・パスティの本場であるコーンウォール地方のパスティ業者はかんかんに怒っております。Helstonという町でパスティ・ショップを営んでいるAnn Mullerさんによると、彼女が売っているパスティは一個2.75ポンドで20%のVATがかかると3.25ポンドにまで値上げせざるを得なくなる。「この税金は貧乏人にはきついわよ」というわけで'Hot for the rich, and cold for the poor'(暖かいのは金持ち用・冷たいのは貧乏人用)という看板をだしてやろうと思っていると言っています。コーンウォール選出の議員もパスティ税には断固反対であり「最後まで戦う」と息巻いている。

またパン屋の全国チェーンであるGreggsも暖かい状態で売るコーニッシュ・パスティ、ソーセージロールへの課税には反対で、
  • こんな経済状況だから勤勉な庶民の生活は苦しく、少ないお金でなるべくたくさん買えるようにしてもらいたいはず。そんなときにこれまでは税金を払う必要がなかったものにこれまで以上の税金を払うのは厳しい。
  • At a time when ordinary, hard-working people are under enormous pressure, they need help in making their money go as far as possible, not to see an increased tax on something they didn’t have to pay tax on previously...

というわけで、店舗によっては反対の署名活動まで始めているところもあるのだそうです。

が、パスティ税に賛成という人たちもいる。例えばFish and chipsの業界とかカフェの経営者にしてみれば、これまで何を売ってもVATを取られており、パン屋やスーパーなどに比べて差別されていると感じていた。 BristolでClifton Fish Barというテイクアウェイショップをやっている経営者は「スーパーやパン屋ではソーセージロール1個70ペンス。ウチじゃVATがあるから、そんなことできっこないもんな」というわけで
  • スーパーの暖か食品の品ぞろえはすごいですよ。ウチのようなテイクアウェイショップと何も変わらない。なのに我々と同様の税金を払わずに済んでいる。なぜ?
    Supermarkets’ hot food ranges are now huge, and no different to a take-away, so why should they avoid being subject to the same taxes?
と文句を言っている。彼らにしてみれば、大手スーパーやパン屋チェーンがあまりにも優遇されすぎていた、これでようやく平等な条件で競争ができるというわけです。

で、今回新たにVATがかかることになっているものは、暖かい食べ物以外にスポーツ・ドリンク、ヘアドレッシング用品、キャラバンカーなどがあります。

▼日本で消費税が問題になるときに、よく引き合いに出されるのがヨーロッパのVATの例ですよね。英国人に日本の消費税が5%であることを告げると「うそだろ!?」という顔をします。信じられないくらい安いということです。で、今回のパスティ税でありますが、2.75ポンドであったものが3.25ポンドになるというのは、お金の感覚からすると280円だったものが330円になるという感じです。かなりのものでありますよね。英国における庶民の食べ物というとfish & chipsという人が日本では多いように思うけれど、コーニッシュ・パスティの方が一般的かもというのが私個人の印象です。

▼日本の消費税論議の中では、生活必需品にはかけないという案は検討されているんでしたっけ?それはともかく、消費税反対論を主張する人たちの中に「その前にやることがあるだろう」という人がいて、それが真面目に取り上げられているようですが、なんだか「受け狙い」という気がしません?「役人の給料を下げろ」とか「政治家の数を減らせ」なんてことやっても、社会保障費を中心とする赤字の改善にとっては焼け石に水であることは百も承知であるくせに「その前にやることが・・・」なんてしらじらしい。それより食べ物にはかけないような選択的課税のアイデアの方が納得いきますね。
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2)社会企業を助ける新BSCファンド

英国政府がBig Society Capital(BSC)というファンドを設立してチャリティ活動やコミュニティ運動に取り組む「社会企業」(social enterprises)を支援することになったというニュースが4月4日付のBBCのサイトに出ています。BSCファンドの資金は6億ポンドですが、その大半がいわゆる銀行の「休眠口座(unused cash in bank accounts)から調達される、とBBCは伝えています。15年以上、休眠(dormant)状態にあるお金が使われるのだそうです。

BSCファンドからの投資を受ける社会企業は、自分たちの活動を通じて生み出された収入によって返済が可能である(they can repay an investment through the income they generate)ことを証明する必要があるのですが、このファンドの会長を務めるベンチャー・キャピタリストのSir Ronald Cohenは、BSCファンドの目的は「社会投資のための活発なマーケットを創り出す」(to create a "thriving market for social investment")ことにあるとコメントしています。

英国のNPOの多くが、担保がないという理由もあって銀行からの融資を受けることができず活動資金を寄付に頼らざるを得なくなっているわけですが、
  • (このファンドの)考え方は、いわゆる「利益」よりもはるかに大きな社会への利益を生み出しているビジネスを援助するということにある。
    The idea is to help out businesses that provide a benefit to society much greater than the profits they make.


    とSir Ronaldは言っている。
このファンドへの返済の一部が政府によって負担されるケースもあるのだそうで、その例として刑期を終えた犯罪者の社会復帰を助ける活動をしているNPOを挙げている。刑務所を出ても職が見つからず、また犯罪を犯して刑務所に逆戻りというケースが非常に多い。このNPOの活動をBSCファンドが投資という形で応援するわけですが、NPOの活動がうまくいけばそれだけ社会から犯罪が少なくなるのだから、刑務所人口が減るし、犯罪に対処する警察の負担も減る。ということは、このNPOの活動がなければ政府の負担になっていたであろう経費の節約に繋がるということで、そうして浮いたお金をBSCファンドに回す・・・理屈はとおるというわけです。

BSCファンドがすでに投資の了解をしている活動がいくつかある。若い人たちの就職と教育を助けるThink Forward Social Impact、現在失業している人にフランチャイズ・ビジネスの訓練を行うFranchising Works、地方コミュニティのための再生可能エネルギーのインフラ開発を支援するCommunity Generation Fundなどがこれにあたります。

尤もBig Society Capitalについての批判もあります。New Philanthropy Capitalの理事で、ブラウン前首相のアドバイザーも務めたDan Corryという人はBig Society Capitalの良さは認めながらも、それによって助けられるチャリティ活動はほんの一握りにすぎないと言っています。このファンドによる融資を受けても返済が必ずしも可能でないチャリティ活動がたくさんある。彼らの場合、必要なのは政府からの交付金(grant)であるというわけです。それが現政権の財政削減政策のおかげで大幅にカットされてしまっており、チャリティとか社会企業の分野では昨年一年間で7万人もの失業者が出てしまっている。Big Society Capitalファンドはこうした問題を隠ぺいしてしまう役割を果たすとも言っている。

Big Society Capitalは政府によって設立されたファンドですが、政府からは独立した組織で、株式の6割は民間組織であるBig Society Trustが所有し、残りはBig Society Capital, HSBC, Lloyds Banking Group, the Royal Bank of Scotlandの大手銀行が所有しています。

またこのファンドの資金に「休眠口座」のお金が使われることについて、英国銀行協会(British Bankers' Association :BBA)では、My Lost Accountというスキームを作っており、顧客が申し出ればいつでもキャッシュを提供できる体制は作っているのだそうです。

▼このファンドの名前にあるBig Societyという言葉については、キャメロンの考え方として過去のむささびジャーナル(173205217号)で触れたことがあります。元々の発想はマーガレット・サッチャーの「小さな政府」にとって代わるべき保守党のスローガンとして言われたものです。サッチャー語録の中でも最も頻繁に取り上げられて批判の対象となったThere is no such thing as society(この世に社会などというものはない)に対して、党首に選ばれたキャメロンが言ったのがThere IS such thing as societyだった。そして「大きな政府」(面倒見のいい政府)はダメだけど「大きな社会」ならいいではないかというわけで、市民の自発性を尊重するボランティアリズムやチャリティ活動が盛んに行われる社会を作ろうというのです。

▼むささびジャーナル151号で『金融NPO』という本が紹介されているのですが、Big Society Capitalはこの本で書かれているコンセプトのようなものなのかもしれない。ちょっと違うのはBig Society CapitalがHSBCのような主要銀行も巻き込んでいるという点です。

▼1979年から1997年までの18年間、サッチャーとメージャーによる保守党政権が続いた後、労働党は「第三の道」を謳い文句にして保守党寄りになることで政権についた。その労働党政権が13年続き、労働党よりになった保守党(+自民党)が政権についてBig Societyを謳っている。確かに二大政党間の違いが分からなくなっています。


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3)スコットランド独立?やりたきゃ、どうぞ・・・

上の写真は4月14日付のThe Economist誌の表紙です。但しこれは英国で発行された同誌の表紙で、アジア版やアメリカ版とは異なります。スコットランドの地図の上にIt'll cost youという見出しが太い文字で並んでいます。主見出しの下にThe price of Scottish independence(スコットランド独立の代償)というサブタイトルが掲載されています。主見出しのIt'll cost youは「高くつきますよ」という意味ですね。

むささびジャーナル227号でスコットランドが英国から独立する可能性についてお話しました。そのときは主にスコットランド側からの見方を紹介したと思います。4月14日付の表紙のメッセージは「独立したければどうぞ。でも、あんたらには高くつきますよ」というわけで、今回は独立に否定的な記事になっており、これが社説欄に掲載されている・・・ということはイングランドのインテリがThe Economist誌を通して、独立・独立と騒ぐスコットランド人に冷水をかけているということにもなる。

スコットランド王国とイングランドが合体したのは1707年のことです。ただThe Economistの記事によると、その10年ほど前の1698年に、南米と中米をつなぐくびれた部分(パナマ地峡:isthmus of Panama)をスコットランドの王族たちが植民地として開発しようという計画(Darien scheme)に着手したのですが失敗、国自体が破産に追い込まれるかもしれないような借金を背負うことになるということがあった。スコットランドとしては、海外植民地を開発することで世界的な貿易立国として成長したかったのですが、それがあえなく失敗してしまい、国力が低下したこともイングランドとの合併に応じざるを得なくなった。こうしてUnited Kingdom of Great Britainが生まれたということです。
  • 18世紀の昔、スコットランド人たちはグローバル化する世界において小国であることの難しさを悟ったものである。が、いまや(スコットランドの)ナショナリストたちは大いなる楽観主義者たちであると見えて、なんとしてでも同じことをもう一度やりたいと思っているようなのである。
    Scots found it tough in the 18th century to be a small nation in a globalising world. But nationalists are an optimistic bunch, and they would dearly like to have another go.

2年後の2014年にスコットランドが独立国(independent sovereign state)となることの是非を問う国民投票が行われるわけですが、300年続いたUKという連合が解体するかもしれないという事態は、単に500万のスコットランド人だけの問題ではなく、同じような背景を有する人々(例:スペインのカタラン人)にとっても無関心ではいられない問題であるわけです。

スコットランドの独立についてはスコットランド人の間でも意見の違いがあるのですが、独立派を支持する議会第一党であるスコットランド愛国党(Scottish National Party:SNP)は「スコットランドにはそれなりの社会と国家があり、自治によって繁栄する」(Scotland has its own “society and nation” that could thrive with autonomy)と主張しており、ロンドンの傲慢な政治家に大きな顔をされたくないという感情面にも訴えている。

一方、独立反対派は、もしスコットランドが独立の道を歩めば世界の舞台における英国(Britain)の存在感はぐっと小さなものになる、これまでの300年間、いろいろ問題はあったにせよイングランドとは「名誉ある共通の歴史(glorious common history)」を作ってきたではないか、いまさら離婚してどうなるのか?(Why dissolve the marriage now?)と主張している。

文化面・感情面での激論は続いているけれど、国富論のアダム・スミスを生んだ国だけあってスコットランド人の関心は経済的な損得にある(とThe Economistは言っている)。世論調査によると「年間収入の減少が500ポンド程度ですむのなら独立を望む」という意見が21%という数字がある一方で、このままの状態を続けると経済的に損をするかもしれないが、それでも現状のままがいいという人は24%だった。その他は「独立すれば新しいiPadが買える程度の収入増になるのなら独立賛成、そうでない場合は反対」(Almost everyone else would vote for independence if it brought in roughly enough money to buy a new iPad, and against it if no)という感じなのだそうです。

独立派の主張の一つに北海油田から出る石油と天然ガスがすべてスコットランドのものになるというのがある。彼らに言わせると、北海油田が英国全体を助けているということになる。しかし現在の調子で石油やガスが出続けたとして、独立後のスコットランドは石油とガスの生産に伴う税金を徴収することはできるかもしれないけれど、UKの一部であるが故にロンドンの政府がもらっている交付金(grants)が同じような額であり、独立後はこれがなくなるので、結局差引はゼロということになる。そもそも北海の石油やガスがいつまでも出続けるわけではない。アバディーン大学のアレックス・ケンプ教授によると、多くの油田が2020年代に生産をストップすると予想されているのだそうです。

おそらく独立後のスコットランドにとって最大の問題は通貨であろうとThe Economistは言っています。これまで独立派はユーロへの加盟を言ってきたのですが、ユーロ圏の現状を見れば、スコットランドにとっては独立後も当面はポンドで行く方が安全である。ということは、独立スコットランドは通貨では、英国とともに「ポンド圏」に属することになる、けれど財政は別々ということになる。それこそが最近のユーロ危機を招いた。さらにスコットランドは独立後も自動的にEU加盟国となれるとは限らない。いろいろと加盟条件について交渉しなければならないし、その中には将来はユーロに加盟することを約束させられるということも含まれるかもしれない。

というわけで・・・
  • もしスコットランドの人々が本当に政治的・文化的な理由で独立を望むのであればそうすべきであろう。国としての誇りはカネに換えられるものではない。しかし独立賛成に投票する人たちが分かっておかなければならないことがある。それはスコットランドが結局欧州の中の弱くてさしたる存在価値もない経済国に成り下がる可能性が大いにあるということである。18世紀の昔、エディンバラは優れた建築物や啓蒙主義運動で果たした役割によって「北のアテネ」と言われたものである。その名声があまり芳しからぬ理由で繰り返されるとしたら残念とか言いようがない。
    If Scots really want independence for political or cultural reasons, they should go for it. National pride is impossible to price. But if they vote for independence they should do so in the knowledge that their country could end up as one of Europe’s vulnerable, marginal economies. In the 18th century, Edinburgh’s fine architecture and its Enlightenment role earned it the nickname “Athens of the North”. It would be a shame if that name became apt again for less positive reasons.
とThe Economistは言っています。

▼エディンバラが「北のアテネ」ということは、スコットランドが財政的にギリシャのようになるということです。こんなところでギリシャを例に出すのは(ギリシャに対して)失礼だと思うけれど、英国からの独立はスコットランドにとってもイングランドにとっても望ましいこととは思えない。ただこの種のアングルから英国を考えると、ウェールズ人、アイルランド人、スコットランド人がそれぞれにイングランド人に対して複雑な感情を抱えながら暮らしており、イングランド人もその点については居心地の悪い思いをしながら共存しているということが分かる。この辺りが日本人にも学ぶべき点がある部分だと思います。
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4)美耶子のK9研究:ワンちゃんの身体を知る

Module 1を読み終わり、全単元終了後に受けるDiploma試験の準備も兼ねているSelf Assessment PreparationというAssignment(レポート形式のテストのようなもの)をCollegeに提出し 、今はAnatomy & Physiology(解剖学と生理学)というModule 2を読んでいるところです。これはModule1と違い、かなりな部分人間にも当てはまる哺乳動物に共通な身体のしくみについての単元と言えます。若い時に受けた生化学の授業でも感じたことなのですが、今回もこれを読んでいて強く感じるのは、何と言っても「動物の肉体構造の緻密さとその働きの精巧さ」であり、私には単なる進化でこのような精密なしくみが出来上がったとは到底思えないということです。

Anatomy is the study of the structure of the body and Physiology is the study of how these structures workという説明からこのModule 2は始まっています。この中で学ぶのはイヌのSkeleton(骨格)Muscle(筋肉)Nervous System(神経系統)Sensory Organs(感覚器官)Endocrine System(内分泌系統)Circulatory System(循環系統)Respiratory System(呼吸器系統)Immune System(免疫系統)であり、Digestive System(消化器系統)とReproductive System(生殖器系統)の二つは別のModuleで学ぶことになっています。

まず骨格について意外だったのはイヌの骨の数がおよそ300、人間の場合は206で犬より少ないということ。我が家ではすでにこれまで5頭のワンちゃんを見送って来ました。それぞれ火葬をしてもらい、その都度我々が骨を拾って骨壺に入れたのですが、彼らの骨の数のことは考えてもみませんでした。

joint(関節)が曲がる仕組み、筋肉の伸縮の仕組み、まして神経の伝達の仕組みなどを詳しく知ると、これはまさに神業としか思えない。それぞれの役割分担についても然りです。ligament(靭帯)は骨と骨をつなぐ働きをし、tendon(腱)は骨と筋肉をつなぐ働きをするものであり、この二つは筋肉と違って血液の供給が殆どないために損傷した時の回復に時間がかかるのだそうです。こういった修復作業も担っている血液なのですが、平均的なイヌの脳の重さが体重の僅か0.5%以下なのにもかかわらず、全血液の20%以上が脳を働かせるために使われているというのも驚きでした。neuron(神経細胞)の接合部(synapse)で起こる電気的伝達のメカニズムはまさしくSFに出て来そうな最新の精密機械のようです。

次はイヌのSensory Organs(感覚器官)についてです。視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚について書かれています。視覚についてはイヌのoptic nerve(視神経)の数は人間120万本に対してたった17万本であるのに、人間よりも光や動くものにはかなり敏感です。いわゆる動体視力が優れているということです。放り投げられた小さなTreat(おやつ)を空中でキャッチ出来るのも、動体視力が良いからと言えます。その代わり静止しているものを見つけることは苦手なので、草むらに紛れ込んだボールなどは視覚ではなく嗅覚を使って見つけるのだそうです。我が家のワンちゃんは極小さな食べ物のかけらを見逃すことなくしっかり見つけて食べるのですが、あれも鼻で見つけているということなのです。イヌは嗅覚動物と言われますが、人間のI see.(なるほど)をワンちゃんに言わせるとI smell.となるのだと、何かの本で読んだことがあります。イヌの色彩判別能力についてはまだはっきりと判っていないのだそうですが、ある程度の色を識別することは出来るらしいと書いてありました。我が家のワンちゃん達の場合、赤と黄色のフリスビーは明らかに識別します。赤のフリスビーを出すと「それじゃない」という顔をして、別の手に持っている黄色のフリスビーの方を取ろうとしたりします。でも毎回黄色の方を選ぶとは限らないので、色の好みで選んだのではないようですが、何故その時黄色に拘ったのかは謎です。もっともこれは色の違いで選んでいるのではなく、何らかの臭いの違いで選んでいるという可能性もないわけではないけれど。

聴覚もイヌは人間の4倍の能力があります。人間が10メートル離れたところで聴き取れる音を、イヌは40メートル離れた所でも聞こえるということになります。イヌは人間の声の母音を頼りに言葉を聴き分けるのだと、あるブログに書いてあり、「だめじゃないの、そんなことしちゃ」という言葉は「あえああいお、おんあおおいあー」としか聞こえていないのだと言うので、試しに我が家のワンちゃん達に彼らの大好きなことば「Dog run」を「オッウアン」と言ってみたのですが、まったく無反応。そのすぐあとで「ドッグラン」と普通に言ってみたら、耳をピンと立てて生き生きとした表情に変わりました。つまり子音も普通に聴き取って言葉を記憶しているのではないかというのが私の結論です。

もう一つイヌの聴覚と記憶力にまつわることで、私が以前から不思議に思っていて、未だにスッキリ解決していないことを書いて今回は終わりにしようと思います。それは以前我が家で生まれた4つ子の柴イヌ達(上の写真)が、一度にどうやって四つの名前のうち自分の名前がこれだと認識することが、わずか2~3か月の間に出来るようになったのかという疑問です。4匹のうち自分の名前を他の名前と混同して覚えられなかったワンちゃんが誰もいなかったという事実が、私には不思議であり大きな驚きだったのです。各個体に異なる呼び名をつけて呼ぶという行動(習慣)は人間以外の動物にはないはず・・・。ワンちゃん全員に向かって発せられた「ご飯よ!」という言葉と、特定のワンちゃんに向かって発せられた個人?の名前とを、彼らはどんな風に頭の中で仕分けるのか、出来ることなら是非本人たちに聞いてみたい。

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5)キャメロンの東アジア訪問始末
 
 
4月15日付のSunday Telegraphに
  • 私は英国を世界に売り込むことに誇りを覚えた:デイビッド・キャメロン
    David Cameron: I was proud to promote Britain to the world
という見出しの記事が掲載されています。キャメロン首相がSunday Telegraphに寄稿したエッセイで、4月10日から14日まで日本・マレーシア・インドネシア・ミャンマーの4か国を訪問した首相がアジア訪問を振り返って書いているわけですが、イントロは次のようになっています。
  • ユーロ圏の経済成長が停滞している現在、ダイナミックなアジアの経済圏こそが偉大な英国の産業界にとって完璧なパートナーなのである。
    With sluggish growth in the eurozone, Asia’s dynamic economies are the perfect partners for our great businesses.
エッセイそのものはここをクリックすると読むことができます。日本に関する記述部分は下記のとおりです。
  • 日本はこんにち世界第4位の貿易国であるにもかかわらず、英国の輸出先としては14位にとどまっているのだ。
    Today Japan is the fourth biggest trading country in the world. But it is only our 14th biggest export market.
  • (東アジア諸国がきわめて重要なパートナーであるはずなのに)我々はこれらの国々を無視してきたのだ。事実、この週にいたるまで10年間も英国の首相が二カ国関係のために日本を訪問していないのだ。
    Yet Britain has been ignoring them. In fact, until this week no British prime minister had made a bilateral visit to Japan for a decade.
  • 我々の努力の甲斐あって(今回の東アジア訪問で)7億5000万ポンドにのぼる契約をとりつけることができた。日本では日産自動車が英国・サンダーランドで新型のハッチバック車を生産することを発表したのだ。
    As a result of our efforts, we secured deals for Britain worth almost £750 million. In Japan, Nissan announced that they will produce their new hatchback in Sunderland, creating more than 1,000 jobs.
今回のミッションには英国企業の代表が30数人同行しており、いわば首相を団長とする貿易促進使節団という感じであったわけですが、そのことについて、保守派のオピニオン誌、The SpectatorのコラムニストFraser Nelsonは、首相が先頭に立つ貿易促進使節団は意図は間違っていないかもしれないけれど、政治家を巻き込んだセールス促進の効果のほどは疑わしい(questionable)と言うエッセイを書いています。

1960~70年代には民間企業が自ら外国へ出かけて行ってコンタクトを確立してビジネスを行うのは必ずしも楽なことではなかったので、政府の助けが必要だったかもしれないが、グローバル化時代のいまでは企業自身でやっている。政府が組織する貿易使節団の効果は"Small, negative and mainly insignificant"なのだとのことです。政治家は産業人を自己宣伝のために使い、産業人はこのような使節団をロビー活動の一環として使う傾向があるので、本当のビジネス効果は小さいかゼロ、あったとしてもさして重要なものではないというわけで、Nelsonは次のように書いています。
  • 英国の外交政策が物売り用の道具になり下がってしまうのは決して望ましいことではないと思う。キャメロンは外交政策に関しては健全かつ勇敢な本能を持ち合わせており、優れた見識と能力をもつ、天性の政治家であるといえる。その意味からすると、この次に旅立つときには企業関係者は国に残していくべきである。そうすることによって(キャメロンは)英国経済と英国国民のために役に立ってくれることになるのだ。
    I think that it’s unedifying for British foreign policy to be reduced to flogging kit. Cameron is a natural statesman, with sound and bold instincts on foreign policy. This makes it all the more important that, next time he heads off, he should do the British economy (and people) a favour by leaving the businessmen at home.
キャメロンの訪日が日本のメディアでどの程度報道されたのか、私の見る限りにおいてはそれほどの報道はされていなかったように思います。ちょっと興味があったのは、キャメロンが最初の訪問地である日本へ向かっている飛行機の中で同行記者たちと交わした会話の内容です。今回の東アジア訪問に参加している企業の中に「死の商人」とも言われる武器メーカーが含まれていることについて、道徳上の問題はないのか?という質問が出たのですが、それに対するキャメロンの答えは、英国の防衛産業は世界の最先端を行っているし、極めて多くの職場を提供している重要な産業分野であるとして
  • (防衛機器メーカーをこの訪問に参加させることは)完全に責任ある行為であり、尊敬されるべきことであると思う。
    I think that's perfectly responsible and respectable.
と答えています。
  • ▼キャメロンへの支持率がこのところ低下しています。YouGovの調査によると1月の時点では「支持」が44%で「不支持」は51%だった。支持から不支持を引いたマイナス点は7だった。それが3月末になると「支持」が34%で、「不支持」は61%でマイナスポイントはなんと27にまで跳ね上がってしまった。ということもあって貿易促進使節団を率いての東アジア訪問となったのですが、帰国後の政党別支持率調査では相変わらず労働党に6ポイントの差をつけられています。

    ▼ちょっと興味深いのはSunday Telegraphに掲載されたキャメロン自身のエッセイについて、Fraser Nelsonが「ほとんど守勢」(almost-defensive)であり、「自分を守ろうとむきになっている」と評価している点です。I was proud to...とかI’ve not been afraid to...とかThat’s why I have been leading trade missions...のように自分の行動を正当化しようとする言葉があちこちに出てくる。Sunday Telegraphの読者の中には「まるで自分の旅行について先生に叱られるかもしれないとびくついている中学生みたいだ」というわけで、「いい加減に謝るのは止めなさいよ(stop apologising for doing it)」と投書した人もいるくらいだった。

    ▼最後にもう一つ。Sunday Telegraphという普通の新聞が首相の寄稿文を掲載したということにも注目したいと(私は)思います。キャメロン首相に直接自己主張する場を提供したということです。Telegraphは保守党支持で知られる新聞であり、キャメロンのエッセイを掲載することでそれを再度鮮明にしている。日本の一般紙は現政権の首相の投稿をそのまま掲載したりするだろうか?たぶんしないだろうと私は思います。「自分たちは政府の広報紙ではない」というのが理由になる。キャメロンのエッセイを掲載したSunday Telegraphのサイトには読者からのコメントが700件以上寄せられており、それを全部読むことができる。中にはキャメロンに反対するような意見もたくさんある。私はディスカッションを喚起するTelegraphの「政治色」の方が、日本のメディアのような政治的無色よりもはるかに健全であると思っています。

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6)どうでも英和辞書
A-Zの総合索引はこちら

fighting on the beaches:浜辺で戦う

オズボーン財務相がコーニッシュ・パスティへのVAT課税を明らかにしたことについて、コーンウォール地方選出のAndrew George下院議員が言った言葉がこれ。「浜辺で戦う」がなぜ「断固反対」という意味になるのか?fighting on the beachesは1940年6月4日、ウィンストン・チャーチルが下院において行った、対ナチ戦争についての演説の中で使われた表現として有名であるからです。
  • we shall fight on the beaches,
    we shall fight on the landing grounds,
    we shall fight in the fields and in the streets,
    we shall fight in the hills...
という具合にwe shall fight...というフレーズを繰り返し使って国民の士気を鼓舞したとされている。それにしても自分の演説が70年以上も経ってから、パスティへのVAT反対に使われようとは、チャーチルも考えなかったでしょうな。

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7)むささびの鳴き声
▼NHKのEテレ(昔の教育テレビ)にハートネットTVというのがあって、私は面白くて見てしまうのですが、先日は『希望のはがき届けます ―被災地にあてた290枚の絵―』という番組をやっていました。愛知県に住むドン・カ・ジョンというアーティストの活動報告だったのですが、東日本大震災の被災地へ行って被災者から「願い事」を聞き出してそれをはがき絵にして届けるというものだった。290の異なる願い事をはがき絵にする作業は正に「生みの苦しみ」そのものであったのですが、出来上がった作品はそれぞれ見事なものだった。

▼ちなみにこのカードは、津波で奥さんを亡くしたかなりの年齢の男性のために描かれたものです。この人は近くの海で獲れた新鮮なイカを使ってイカせんべいを作ることを商売にしていたのですが、津波で商売道具はもちろんのこと、家も流されてしまった。彼の願い事は、かつて奥さんと二人でやっていたイカせんべい作りをもう一度やることだった。カードはイカを干すロープを五線譜に見立てているという作品です。こんなこと、よく考えつくもんだ。

▼名前はドン・カ・ジョンですがアーティストは日本人です。NHKによると、この人は「人々の願い事をはがきの絵に表現して送り届ける活動を続けている」のだそうです。日本にもちゃんとした人がいるのです。それと・・・ハートネットTVを見て思うのですが、NHKにもちゃんとした番組があるのですね。

▼反対に、全くお粗末なのが東京都の石原知事で、尖閣諸島を「東京が買う」と言っているのだそうですね。それについて大阪市の橋下市長が「さすが石原さん」と称賛していたのだとか。街頭インタビューに応じた60過ぎとおぼしきおっさんが「素晴らしいじゃありませんか」と言っておりました。どれもまともな人たちでないことだけは間違いない。自分が首相になるという可能性があまりにも薄いので、都民のお金を使って(首相みたいに)中国と対決する夢を実現しようってわけですね。国がやらないのなら、東京がやる・・・というのは、つまりそういうことですね。

▼いずれにしても首都の知事がこんな発言をして、それがメディアで大きく(必ずしも否定的・批判的ではなく)取り上げられるという状態はとてもまともではない。この人は首都直下型地震なんて起こりっこないし、起こったとしても中国相手にケンカする方が大切であると考えている。私は、都民であることを止めてから40年ほど経つけれど、こんな人が知事でありつづけることを東京都民はいつまで許しておくつもりなのでしょうか?

▼大飯原発の再稼働について地元の福井県おおい町の町民は、54%が運転再開について「賛成・どちらかといえば賛成」と答えて、「反対・どちらかといえば反対」の37%を上回ったとNHKが伝えています。では原発の危険性についてはどうかというと71%が「不安」だと言っている。運転再開に賛成という意見の人だけに限っても55%が「不安だ」としています。

▼再開すると町が金銭的に潤う、でも不安は残るというわけですよね。経済的な繁栄は、原発がなくても(理論的には)可能だけど、不安感は原発がある限り絶対に消えない。貧しいけれど不安感がない町がいいのか、不安だけど経済的に豊かな町がいいのかという選択ですが、これは日本全体の選択でもある。経団連と(枝野さん以外の)民主党・自民党(ついでに読売新聞?)は「不安でも豊かな生活がいい」と言っている(ように見える)。

▼「貧しいけど不安がない」という選択を「内向き」と決めつけるのはやめてほしい。今回もお付き合いをいただきありがとうございました。
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