musasabi journal

246号 2012/7/29
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美耶子の言い分 美耶子のK9研究 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
海外で「むささびジャーナル」をお受け取りの皆さま、最近の日本の暑さは本当に尋常ではありません。「明日の気温は30度」なんて言われるとほっとするんです。クルマで出かける時もほぼ必ずクーラーを入れてしまいます。以前はこんなことなかったのですがね。

目次

1)ロンドン五輪の「福袋」的開会式
2)コロラド・銃乱射事件の伝え方
3)イチローの辞め方
4)日曜日には店を閉じよう
5)中古は「日本車」に限る・・・
6)人口増加と移民
7)どうでも英和辞書
8)むささびの鳴き声

 
1)ロンドン五輪の「福袋」的開会式
 
 
ロンドン五輪の開会式、私は聖火が点火されるあたりから見たので、ごく一部ってことかもしれないですね。でも複数の人たちがみんなで点火するというあのアイデアは良かったですね。映画監督のDanny Boyleの指揮による開会式についてDaily TelegraphのTim Stanleyというジャーナリストは「皮肉っぽくて複雑、そして素晴らしい。まるで英国そのものだ(as ironic, complex and beautiful as Britain herself)」と言っています。

産業革命前から現代までの英国の歴史を振り返ることを主題にしていたのだそうですね。Tim Stanley(この人は政治記者だそうです)によると、産業革命前の英国はノスタルジックな保守主義者が大好き、産業革命は自由主義的資本家階級が好き、大きな政府による国民保健制度(National Health Service: NHS)は社会主義者のお気に入り・・・ほとんど何でもあり。つまりおよそ無秩序でゴチャゴチャ、英語でいうとまさにmessそのものであるというわけです。唯一なかったのは帝国主義の英国(empire was never mentioned)であったのですね。そしてStanleyは
  • It is a mess. A jolly wonderful mess. We’re good at those.
    これこそゴチャゴチャだ。それもとても素晴らしいゴチャゴチャ。我々(英国人)はゴチャゴチャがうまいのだ。
と宣言しています。

一方、Andrew Gilliganという記者もあの開会式は宝探しの福袋(grab-bag)のようで、あれをテレビで見た外国の人たちは分からなかったのではないかと言っています。女王がヘリコプターからパラシュートで降下という設定、ギャグのミスター・ビーン、五輪の輪が繋がるシーンなどは誰にでも分かってよかったのではないかと言っているのですが、国民保健制度の部分でNHSなどと人文字で描いても分からない人たちだっていたはずだし、そもそも英国のNHSは英国人が考えているほどには世界に誇れるものではない。ヨーロッパのほとんどの国の制度の方が英国のそれよりも充実しているのだから、五輪の開会式で取り上げるのは「英国人の自己欺瞞」(national self-delusion)を示したにすぎない、と結構厳しいことを言っています。

▼開会式は世界中でとてつもない数の人々がテレビで見たわけですが、Danny Boyleの仕事は「世界の人たちに見て、感じてもらいたい英国」を見せることにあった。かつて英国のPRを担当する仕事をしていた私も同じようなことを考えたものです。英国という国をどのような国として受け取ってもらいたいのか?ということです。「歴史と伝統の国」、「モダンで革新性がいっぱいの国」、「年寄りに優しい国」、「若者が元気な国」・・・いろいろありますよね。Boyle監督は「面白いこと好きの国と人々」と考えて欲しいと思ったのかもしれないですね。

▼私が思ったのは「これ、ひょっとして閉会式?」ということでした。オリンピックの開会式というと大体において厳かでみんなマジメな顔をしていますよね。でもロンドンの場合、ミスター・ビーンだのポール・マッカートニーだのがいて、選手や観衆も笑っていましたよね。Tim Stanleyは「なんでもありのゴチャゴチャ」、Andrew Gilliganは「何が出てくるのか分からない福袋(grab-bag)」と表現しているのですが、同じことですよね。これはエンターテイメントなのです。私は「これこそ英国的」だと思いました。いいんじゃありませんか?

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2)コロラド・銃乱射事件の伝え方
アメリカのコロラド州で起こった銃の乱射事件は英国のメディアでも大きく報道されていますが、7月21日付の雑誌、New StatesmanがHelen Lewisという人のエッセイを掲載しています。コロラドの事件のような大量殺人の報道の仕方について語っているのですが、ある法医学者(心理学)の話として、似たような事件を繰り返さないための報道の在り方を紹介しています。6つの原則があるのだそうです。
  1. 記事の書き出しをパトカーがどでかい音でサイレンを鳴らしているかのような調子にしないこと:Don't start the story with sirens blaring.
  2. 殺人犯(容疑者)の顔写真は掲載しないこと:Don't have photographs of the killer.
  3. 四六時中(一日24時間・一週間7日)その事件の報道に明け暮れないこと:Don't make this 24/7 coverage.
  4. 死者数(死体の数)をトップ記事にしないようにできるだけの努力をすること:Do everything you can not to make the body count the lead story.
  5. 犯人を反英雄に仕立て上げないこと:Not to make the killer some kind of anti-hero.
  6. 記事を直接影響を受けたコミュニティで起こったローカルニュース的なものにとどめ、それ以外の場所では極力退屈なものにすること:Do localise this story to the affected community and as boring as possible in every other market.
 
6つの原則のうち5つ目の「反英雄」ですが、普通の意味でのヒーロー(正義感・強さ・美しさ等々)には完全に反しているけれど「主役」には違いない状態のことを言っている。犯人にそのような扱いを与えるなということは悪役に仕立て上げるなということなのでしょうね。6つ目のメディア報道のローカル化ですが、私の想像によると、国中・世界中が大騒ぎという報道をすると、それを見た射殺犯予備軍が「オレもやったろか」と考えないとも限らないということです。要するにセンセーショナリズムに対する戒めです。


New StatesmanのHelen Lewisはコロラドの事件を英国の全国紙がどのように扱ったかということを実際の例を挙げて紹介しています。いずれも7月21日(土曜日)付の新聞です。ここをクリックするとぞれぞれもっと大きくして見ることができます。ここに紹介する6紙ですが、最初の3つはいわゆる大衆紙、下の3つは高級紙と呼ばれる新聞です。

全部の新聞に共通しているのは、サイズの大小はともかく「犯人」(とされる人物)の顔写真を掲載していることですね。New Statesmanに掲載されている法医学者からのアドバイスに最も反していると思われるのはThe SunとDaily Mailでしょう。顔写真は大きいし、死者数は見出しで扱っており、The Sunは「犯人」をBATMAN MADMANと呼び、Daily Mailは彼が言ったとされるI'M THE JOKERという言葉を特大で扱っている。「反英雄」扱いの見本のような感じであります。

センセーショナリズムを避けているかに見えるのはDaily MirrorとDaily Telegraphです。顔写真を掲載しているけれど、サイズが非常に小さい。

▼この事件の報道についてアメリカのテレビ局のやり方もひどいですね。朝のニュース番組にGood Morning Americaというのがあるらしいのですが、George StephanopoulosというキャスターとBrian Rossという記者のやりとりです。キャスターはニューヨークのスタジオに、記者はコロラドの「現場」にいる。
  • キャスター:Brian Rossに伝えてもらいましょう。あなた(Ross)はずっとJim Holmes(容疑者)についての取材をしてきたのですよね。何やら重要な情報を手に入れたとのことですが・・・。
    I'm going to go to Brian Ross. You've been investigating the background of Jim Holmes here. You found something that might be significant.
  • 記者:コロラド・ティーパーティーのホームページに、コロラド州オーロラのJim Holmesという人物に関するページがあるんです。果たしてそれが問題のJim Holmesなのかどうかは分かりませんよ。しかしですね、コロラド州オーロラのJim Holmesであることは間違いないのです。
    There's a Jim Holmes of Aurora, Colorado, page on the Colorado Tea party site as well, talking about him joining the Tea Party last year. Now, we don't know if this is the same Jim Holmes. But it's Jim Holmes of Aurora, Colorado.
  • キャスター:分かりました。そのあたりは注目しておきましょう。ありがとうございました。
    Okay, we'll keep looking at that. Brian Ross, thanks very much.
▼これだけです。これだと容疑者の行動があたかもティーパーティーという超保守政党の活動に関係があるかのように響きますよね。別のテレビ局ではJim Holmesという人物が民主党員として登録されているという情報があるが、それがあのJim Holmesと同一人物であるかの確認はとれていない・・・と言っておいて、結局は違う人間である可能性が高いという報道をしたりしている。両方とも「確認はとれていませんが・・・」と言いながら、あたかもこの銃撃事件が政党と関係があるかのようなニュアンスで伝えている。朝のニュース番組のひどさ加減は日米いい勝負なんですね。

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3)イチローの辞め方
米大リーグのイチローがシアトル・マリナーズからニューヨーク・ヤンキースへ移籍することを発表する記者会見を行ったのが7月24日。その三日前の7月21日、シアトルの新聞、Seattle Timesが
  • The Mariners must choose between improving their team and honoring a declining superstar.
    マリナーズはチームを強化するのか、衰退するスーパースターの顔を立てるのか、どちらかを選ばなければならない。
という書き出しの記事を掲載しています。書いたのは同紙の野球担当記者、Larry Stoneであり、「衰退するスーパースター」というのはイチローのことです。

Larry Stoneの記事のメッセージは、マリナーズはいい加減にイチローに頼るのを止めて若手を起用するべきだというものです。理由は簡単で、いくらスーパースターでも年齢による衰えは止められない。今年の10月で39才にもなるイチローがかつてのエネルギーを取り戻せるとはとても思えないということです。それより若手を起用してチームの強化を図れというものです。

この時点(7月21日)ではマリナーズがイチローとの契約をさらに3年延長するという噂が真面目に語られていたそうで、かつてのチームメートなどはラジオ番組で「たった一人の男にすべての金を使うわけにはいかないだろう」(You can't be spending all the money on one guy)としたうえで、マリナーズがそのようなことをしたら「吐き気を催す」とまで言っていた。

そして7月24日の移籍発表会見となるわけですが、同じSeattle Timesの野球担当コラムニスト、Jerry Brewerは「イチローの退団はマリナーズを苦痛と失望から救った」(Ichiro's exit saves Mariners pain, disappointment)と言っている。イチローは「弱いチームのスター選手」(the star of a bad team)の常で、チームの成績が振るわないのはイチローのせいだと言われるようになった。そうなると試合前に早くグラウンドに来て準備をすることが「利己主義」といわれ、彼のプロフェッショナリズムよりも「リーダーシップの欠如」が大きな話題になったりし始める。

Brewerがイチローの移籍と対照的なものとして挙げているのが、ケン・グリフィー・ジュニアという選手の引き際です。外野手で、1989年にシアトル・マリナーズ入団、その後シンシナティ・レッズ、シカゴ・ホワイトソックスなどでプレーした後に2009年にマリナーズに復帰、2010年に引退した。超の文字がつくような素晴らしい選手で、マリナーズに復帰したときにはシアトルのファンは大喜びであったのですが、年齢的な衰えは隠せず、かつての面影はなく振るわない成績のまま引退したわけです。

Brewerによると、マリナーズほどノスタルジアにひたりたがる球団は他にないそうで、かつてのスーパースター、ケン・グリフィーを呼び戻したのはその典型であり、イチローについてもおなじことを繰り返すつもりでいた。なのにイチローから言われた言葉は、想像もしなかった「もうたくさん」(Enough)というものだった。
  • いま消えゆくスターであるイチローは拍手と良き思い出とともに去っていくのだ。チームを分裂させることも、もうない。ただただ尊敬の伝説のみが残ったといえるのだ。
    And now, Ichiro, the fading star, exits to applause and fond memories. He's not polarizing anymore. Legends only garner respect.

というのがBrewerの結論です。

▼つまりマリナーズ球団の意図とは別に地元メディアの間では「もうイチローの時代ではない」という雰囲気が高まっていたということであり、イチローにもそれは分かっていた。当たり前ですよね。長嶋茂雄が引退したのは38才、王貞治は40才です。イチローは間もなく39才になる。そんな選手と3年契約など考える方がおかしい。

▼これからシーズン終了までヤンキースのイチローとしてプレーするわけですが、来年もヤンキースでプレーする保障など全くない。どころか年齢を考えたら戦力外とされる可能性の方が高いですよね。だから最後のシーズンである今年、ヤンキースの一員としてワールドシリーズに出る可能性に賭けるというのは極めて合理的な判断であるし、移籍先がヤンキースというのはイチローにしてみればバンザイですよね。

▼昔、阪神タイガースに藤村富美男というスターがいました。4番でサード。私はタイガースが東京に来ると、藤村を見たさに後楽園球場へ通いつめたわけ。でも年をとるにつれて代打でしか登場しなくなった。それでも私、通いましたね。ある日、国鉄スワローズとの試合を見に行ったのですが、試合の終盤になって藤村が代打で登場したときは嬉しかったですね。ただ・・・相手はスワローズのエース、あの金田正一でんがな。藤村のバットはカネヤンの速球にかすりもしなかったですね。悲しかった。藤村39才、むささび15才だった。

▼ところでイチローの記者会見ですが、シアトルのファンやマリナーズのチーム関係者には感謝の言葉を述べていたけれど、チームメートに対する言葉がなかったのでは?

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4)日曜日には店を閉じよう

Keep Sunday Specialという名前のNPOが英国にはあるのですね。目的は読んで字のごとくで、「日曜日は特別な日として保ち続けよう」ということにあるのですが、実際の意味は日曜日におけるスーパーやデパートの営業は止めさせようということになる。

先週の日曜日(7月22日)からロンドン五輪(パラリンピックも含む)の期間中の9月9日まで、イングランドとウェールズでは日曜日でもお店が一日中営業しても構わないことになっている。英国には「日曜営業法」(Sunday Trading Act 1994)という法律があって、店舗の広さが280平米以上の大型店舗の日曜日の開店時間は午前10時から午後6時までの間の6時間に限って許されているのですが、五輪の期間中は特例措置として時間制限なしでオープンが許されることになっている。

せっかく海外からたくさんの人たちがやって来るというのに「日曜はお休みです」ではあまりにも不親切だし、お店のビジネスにとってもいいことではないというわけで政府が昨年(2011年)3月に特例措置として店舗の規模にかかわらず営業時間はフリーということになったわけです。

1994年に現在の「日曜営業法」ができる前の英国はデパートもスーパーも日曜閉店だからその種のショッピングは不可能だった。ただ地元の小さな乾物屋とかDIY店、薬局などは例外的に営業が認められていた。それがこの法律ができて、営業時間に制限はあるけれどデパートもスーパーも日曜営業が認められるようになったというわけです。1994年というとジョン・メージャーの保守党政権だった。実はサッチャー政権も日曜営業を解禁しようとしたのですが議会で否決されてしまった。否決の先頭に立っていたのが「日曜日には教会へ」という保守党議員と「小売業界の労働者の日曜休暇の権利を守れ」という労働党議員だった。

Keep Sunday Specialの活動はサッチャー政権による日曜ショッピングの提案(1986年)に反対する中で生まれたものなのだそうです。それが2012年のいまでも五輪期間中の営業解禁策に対して断固反対と言っているのだからすごいですね。なぜそれほど日曜営業反対にこだわるのか?

彼らのサイトによると主なる理由として4つ挙げられています。
  1. Protecting Relationships:日曜日は家族で一緒に過ごすべきであり、父親は子供たちとフットボールをしたりするなどして大切な「関係」を保持するために使うべきだ。
  2. Preserving Community:いわゆるコミュニティ活動が実施できるのは日曜日であり、ショッピングなどに費やすべきではないし、日曜営業が故に出勤などとんでもない。
  3. Saving Local Business:1994年以後、大型店舗が日曜営業を認められたことで地元の小規模店舗や昔ながらのコーナーショップなどの中には廃業に追い込まれているケースが多い。
  4. Respecting Faith:日曜日には教会へ行くという個人の信仰心や宗教活動は尊重されるべき。
英国の場合、日曜営業が認められている店舗の従業員には日曜日に休みをとる権利が認められているのですね。だけどその権利を行使する人はほとんどいない。職を失う(losing their job)、昇進の機会が奪われる(harming their promotion prospects)、同僚との関係が気まずくなる(damaging relationships with colleagues)等々の恐怖心があるからだそうです。

▼確かに1994年前のロンドンは日曜日ともなるとシーンとしていましたよね。ハロッズであれマークス&スペンサーであれ、主なるお店は全く営業していないのだから。短期の滞在客であった私の眼についたのは金曜日の夕方、ウィンドーショッピングをする人の姿だった。彼らは翌日の土曜日にショッピングするをするための品定めをしていたのですね。

▼日曜日には休む権利が認められているのに殆ど誰もそれを行使しない。その理由を読むと、古今東西人間の心理には変わりがないということが分かりますよね。

▼ところでイースター(復活祭)の日曜日だけは今でも営業禁止なのだそうですね。英国はキリスト教の国であるということです。

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5)中古は「日本車」に限る・・

7月25日付のBBCのサイトによると、英国で最も信頼されている中古車はHondaなのだそうですね。専門誌のWhat Car?と車両保険のWarranty Directという会社が合同で行ったアンケート調査の結果判明したもので、2位はToyota、3位はLexus、4位がSuzuki、5位がSubaruだそうです。いずれも3年~10年の中古車を対象に人気調査を行ったものです。ついでに(と言っては申し訳ない?)言うと6位はMazdaとMitsubishiそれと韓国のHyundaiが分け合っています。


詳しいリストはここをクリックすると出ていますが、調査のポイントはFailure rate(故障確率)と呼ばれる数字で、中古車の購入後に故障する確率を示しています。Warranty Directによる車両保険5万件を調査して出したものですが、Hondaの中古車が故障する確率は10%、つまり10台に1台なのに対して、最悪のLand Roverの故障率は71%(!)となっています。つまり中古のLand Roverが故障しない確率は10台に3台だけってこと!?

日本車の中でいちばん故障確率が高いのはNissanで25%。それでも一応10位に入っているのだから、日本のクルマはすべてベスト10に入っていることになる。ベスト10のうち8社が日本車のメーカー、残りは韓国のHyundaiとアメリカのChevloret(9位:故障確率22%)の2社となっています。またこの調査は毎年行われているのですが、Hondaはこれで7年連続のトップなのだそうです。

▼故障が少ないというのは文句なしに素晴らしいことですよね。この調査で取り上げられているHondaはおそらく英国にあるホンダの工場で作られたものであろうと推測するのですが、となるとこれは日本車なのか英国車なのか?


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6)人口増加と移民

 

昨年(2011年)の3月、英国で行われた国勢調査(2011 Census)の結果がこのほど統計局(Office of National Statistics: ONS)から発表されたのですが、それを見ると英国は人口が目立って増加している国なのですね。日本などとは大違いです。

昨年3月現在の英国(イングランドとウェールズ)の人口は5610万人、英国の場合、ONSが行うこの種の調査はイングランドとウェールズをカバーしておりスコットランドと北アイルランドは含まれていない。この2地域の人口(スコットランド:520万、北アイルランド:180万)も合わせると約6300万人ということになる。

イングランド+ウェールズの5610万についてですが、これは10年前(2001年)の人口(5240万)に比較すると7.1%(370万)の増加で、英国において国勢調査が始まった1801年以来、10年間の増加率としては最高です。1991年~2001年の10年間では160万の増加であったことを考えるとこの10年間の伸びが目立ちます。

また人口構成でいうと、中央年齢(median age)は50年前の35才から39才へと上がっており高齢化が進んではいるのですが、日本の44.6才などから比べるとまだまだ若いですね。それと英国でも人間長生きするようになっているようで、90歳以上の高齢者は43万ですが2001年(34万)よりもほぼ10万人も多い。100年前(1911年)の英国で90歳以上の人って何人くらいいたと思いますか?答えは1万3000人。つまり100年間で40倍になったってことです。

将来の人口ですが、ONSの推定では今から20年後の2032年には英国全体で7200万、2060年には8100万人に達しているのではないかとされている。人口減少に悩む日本のような国から見るとうらやましいような話ですが、英国内には適切な人口の限度は7000万という人もいる。MigrationWatch UKという、移民に消極的な団体もその一つで人口は7000万を超えるべきではないというネット署名活動を実施、10万人を超す署名を集めることに成功しています。10万人を超す署名を集めるとそれが下院における討論の対象になる。

また適切人口財団(Optimum Population Trust)というthink-tankなどは、家族に対して子供を二人でストップするように政府が奨励すべきだと提唱したりもしている。さらにこの団体では移民の数も制限すべきだとしており、移民一人につき一人の海外移住者をつくるone-in one-out 政策を進めるべきだとも主張しています。

最初に挙げたイングランドとウェールズの人口が10年間で370万人増えたという数字ですが、実はその55%が移民の数なのだそうです。つまり10年間で約180万人が移民として英国に住み着いたということになる。これは人口増と移民の直接的な関係を示す数字ですが、The Economistによると、間接的な理由もある。女性の出生率がそれで、外国生まれで英国暮らしという女性の出生率は2.45で、英国女性の全体のそれ(1.88)よりもかなり高いのだそうです。

▼ロイター通信のサイトを見ていたら「日本再生への提言」というシリーズを掲載していて、コロンビア大学のカーティス・ミルハウプトという教授が「移民政策でダイナミズムを喚起せよ」と提言していました。
  • それぞれが多種多様な背景や経験を持つ移民は、それがどんな人たちであれ、日本に新しいアイデアや新規ビジネス、新たなエネルギーだけではなく、新たな血をもたらしてくれる。
▼というのが教授のメッセージです。また移民政策研究所の坂中英徳所長は、日本記者クラブで「日本型移民国家宣言」というテーマで講演を行い「日本はこれから先の50年間に1000万人の移民を受け入れるべきだ」と主張したとのだそうです。この講演を聴いたある日本の新聞記者が
  • 移民開国へのハードルは高いようにも思われる。異文化に違和感を抱かないか、治安の悪化を招かないか、教育・福祉コストが高くつかないか・・・
▼と書いています。英国で移民が増加しているのは、人口減に悩んでいるからではない。EUの加盟国であるということもあるし、かつての植民地からの人口流入というのもある。それがゆえに悩みも深くて、世論調査などでも移民の流入制限を主張する声が高いわけです。日本の「再生」のために移民を増やせというのはどうかと思うけれど、国を開放しようというのは正しい意見ですよね。

▼日本の記者のいう「異文化への違和感」や「治安の悪化」というのは起こるであろうし、「教育・福祉コストの高騰」もあるはずです。坂中さんやミルハウプト教授は、それらのハンディは承知の上で提言をしているわけです。なのに現在の日本は「移民開国の理想からは程遠いことを付言しておきたい」などと言われると、いまさらアンタに言われなくても分かっとるがねと言いたくなりますね。

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7)どうでも英和辞書
A-Zの総合索引はこちら

shoestring:靴ひも

「靴ひも暮らし」なんて日本語があるのかどうか知りませんが、英語のliving on a shoestringは「細々と暮らす」という意味なんですね。知らなかった。手持ちの英和辞書によると「貧しい行商人が靴ひもを売って生計を立てた」ことが言葉の由来なのだそうです。それから派生してけちけち旅行をすることをtravelling on a shoestring budgetという。

英国のFamily Actionというチャリティ組織のサイトによると、今年の夏、多くの家族が日帰り旅行さえも控えなければならないような経済状態に陥っているのだそうです。
  • Families are facing summer on a shoestring with parents and children cooped up at home as a result of falling incomes and rising prices.
収入が減少する一方で物価が上がるという悪循環のなせるわざであるわけですが、このチャリティのサービスを利用する低所得家庭の多くが、住宅費や光熱費を差し引いた可処分所得が1週間100ポンドを切っている。子供二人を連れてレジャー施設のようなところへ日帰りで遊びに行くと、交通費、入場料それにちょっとした飲み物を買うと合計99ポンドかかる。ぎりぎりのshoestring budgetでもそのくらいはかかるのだそうです。日常の金銭感覚でいくと、100ポンドは1万円だと考えればいいと思います。

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8)むささびの鳴き声
▼皆さんすでにご存じかもしれないのですが、ロンドン五輪の開催にまつわる英国政府の当初の予算は24億ポンド(3120億円)だった。それが膨らみに膨らんで結局93億ポンド(1兆2100億円)ということになっている。The Economistによると、1960年以来、政府の予算が予定通りであったことは一度もないのだそうですね。平均すると当初見積もりの179%なのだそうですが、これは政府が絡む巨大プロジェクトとしては最悪なのだとか。ダム建設もひどいらしいのですが、五輪はその上を行っている。

▼で、ここからはオリンピックには関係ないけれど、7月16日付け毎日新聞の『余禄』というコラムを読んで笑ってしまった。かつては大いに使われたけれど現在は使われなくなった言葉、いわゆる「死語」について語っているのですが、民主党がらみの死語として「政治主導」、「コンクリートから人へ」、「情報公開」などとともに「国民の生活が第一」というのがあるのだそうです。最後の「国民の生活が第一」は小沢さんが作った新しい党の名前になってしまったのでいったん死んだものが生き返ったケースであります。元々、民主党のキャッチフレーズの一つであったものが小沢さんらに持ち去られてしまったわけですが、この言葉は民主党のボードに入っているのだそうで、いまやこのフレーズを隠すのに大慌てらしいのです。

▼「ボード」というのは、テレビのインタビューを受けたりする人の背後に置かれている、あれですよね。普通は企業PRに使われるので、会社のロゴなどがずらずら並んでいるものが多いけれど、政党の場合は政治スローガンを書いてあったりする。民主党が「国民の生活が第一」というボードを使うたびに小沢さんの政党のPRをしてあげていることになるので「裏返して隠すなど大慌て」だとのことであります。小沢さんがそこまで考えたのだとしたら恐れ入りましたとしか言いようがないけれど、やはり笑えますね。

▼前回、反原発デモについて「ぜひ続いて欲しい」という趣旨のことを書いたのですが、代々木公園で行われたデモ(17万人が参加したとされている、あれ)のニュースをテレビで見ていたら大江健三郎さん、永六輔さん、瀬戸内寂聴さん、坂本龍一さんらが壇上にあがって演説をしていました。有名人で、この人たちの参加によってメディアに報道されたりする可能性が高くなったりするのですが、年齢を調べてみたら大江さんが76才、永さんは78才、瀬戸内さんは90才、坂本さんがいちばん若くて60才だった。あの炎天下でよく頑張ったものですが、もっと若い「有名人」は参加していたのでしょうか?

▼反原発の活動が有名人を頼りにするのはどうかと思うし、現にそんなことはないと思うのですが、ひょっとして20代、30代、40代の若いセレブの中に、参加しようとしたら止められたというようなケースはないのでありましょうか?止められたわけではないけれど、芸能界の仕事が出来なくなるかもしれないと自分で考えて自分で止めたというようなケースは?反原発のためにというよりも、セレブ本人のためによくないですよね、そういうのは。テレビなどで政治・社会番組の司会者として名前の売れているような人は参加したのでしょうか?

▼オリンピックですが、IOCに払われる放送権料は48億7000万ドル(3900億円)なんだそうですね。このうちNHKが払っているのはいくらくらいなのでしょうか?私、どう考えてもはしゃぎ過ぎだと思うのであります。テーマ音楽まで作って盛り上げている外国のテレビ局なんてNHK以外にあるのでしょうか?こんなこと言うと「せっかくみんなが楽しんでいるのに水を差すようなことを言うな」と文句を言われるかもしれない(現に自宅では言われている)けれど、キャスターやらアナウンサーやら一体何人のスタッフを派遣しているのですかね、NHKは。やり過ぎです、どう考えても。

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