musasabi journal

248号 2012/8/26
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美耶子の言い分 美耶子のK9研究 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
最近、日の暮れが早くなりましたね。考えてみると8月も末ですから当たり前なのですが、夜になると虫の鳴き声が聞こえるようになりました。
目次

1)83才以後は「ボーナス」
2)「BBC流」がNew York Timesを立て直す?
3)王子のヌード写真と報道の自由
4)オリンピックで湧いて、政権は沈む?
5)竹島、尖閣、そしてアメリカ
6)どうでも英和辞書
7)むささびの鳴き声


1)83才以後は「ボーナス」
 
 
英国では100才まで生きると女王から祝電をもらえるのだそうです。が、英国人の半数以上が「83才まで生きれば十分、それ以上はおまけみたいなもの」(getting anything beyond the age of 83 would be a 'bonus')と考えているという調査結果が8月21日付のDaily Mailのサイトに出ています。ちなみに国連の調査(2005~2010年)によると、英国人の平均寿命は80.5才(男:78.1 女:82.1)で世界13位(1位は日本で82.6才)となっています。

このアンケート調査はヘルスケア提供企業のBenendenが2000人を対象に実施したものですが、英国人の人生観がいろいろな数字で表されているようで面白いのであります。例えば:
  • 10人中6人が、年とって独りで取り残されたり、病気で迷惑になるくらいなら死んだ方がいいと考えている。
    Six out of ten said they would rather die than be left alone in old age or be a burden due to illness.
  • 6人に一人が70まで生きればハッピーと考えており、100才まで生きたいという人は全体の4分の1だった。
    one in six would be happy just to reach the age of 70, while only a quarter want to live to the grand old age of 100.
そもそもこの記事には調査に応えた人たちの年齢層が書かれていないという弱点があるのですが、記事そのものよりもこれを読んだ読者からのコメントの方が、私(むささび)には面白い。
  • 私は今年で87才になるが、これほど長生きすると分かっていたらもっと身体の手入れをちゃんとしておけばよかった。
    I am 87 and if I knew I was going to live this long, I would have taken better care of myself.

▼これ、可笑しいような悲しいようなコメントだと思いませんか?ひょっとすると現在は身体の調子がまともでないのかもしれない。長生きも健康が伴ってこそというわけですね。
  • 私、1929年生まれなんですが、この話に入れもらえます?毎日仕事をしていてあまり時間がありません。家内がダイエットについて四六時中文句ばかり言います。運動が足りないとか。彼女は私より13才若いのですが、彼女の言うことは当たってはいる。私にはいろいろと気をつけなければいけないことがある。はめているメペースメーカーの電池こととか・・・。だけど、私は神を信じているし、いつも正しいことをしようと努力はしている。だから寝つきはよくて、夜になると赤ん坊のように眠るのです。もっともおしっこのために一回か二回は起きなきゃいけないのですが・・・。
    I was born in 1929, can I join this discussion. Haven't got much time, I work every day. My wife is on at me all the time about diet, and excercise, she is thirteen years younger, but she is right. I have a lot to worry about, including the bettery life of my pacemaker, but since I believe in God, and try to do the right thing, I sleep like a baby at night. (have to get up to pee once or twice.)

▼この人、何を言いたくて投書したんですかね。私より12才上だから83才ですね。これ以後は「ボーナス」というわけですが、神を信じているからよく眠れるというのは泣かせる。おしっこに起きる回数まで書かなくてもいいのに。きっと奥さんに怒鳴られてますね。83歳以後はボーナスどころか、私なんかいま(71才)でもボーナスだと思っていますね。

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2)「BBC流」がNew York Timesを立て直す
 

BBCが新しい専務理事を迎えたことはむささびジャーナル245号で紹介しましたが、それまで専務理事であったMark Thompsonという人がアメリカのNew York Times(NYT)の社長に就任したことは日本のメディアではどの程度伝えられたのでしたっけ?8月14日に発表されたのですが、英国はともかく日本には関係ないことだからほとんど伝えられてはいないかもしれませんね。


Mark Thompsonを社長に迎えたのはNYTオーナー、Arthur Sulzberger。それまで社長だったのはJanet Robinsonという人だったのですが、この人はNYTの中でも広告局で仕事をしてきた人だった。オーナーとしては彼女の手腕によって広告収入が増えることを期待したのですが、そうはいかず発行部数も落ち込む一方になってしまった。The Economistなどによると、新聞が広告で大きな収入をあげるという時代はもう終わっていたということです。

SulzbergerがBBCあがりのMark Thompsonに期待するのは、NYTの読者をよりグローバルなものにすることと、電子版の有料読者を増やすということです。BBC時代のThompsonはオンライン・テレビ、iPlayerなどの新機軸を打ち出して成功した実績がある。この際その経験をNYT再生のために生かしてもらいたいというわけです。

が、この人事には疑問を呈する声もある。経営不振の企業を救うために大きなチャリティ組織のボスを雇うようなもの(hiring the boss of a big charity to do a corporate turnaround)ということ。BBCのことを「公共放送」(public-service broadcasting)というけれど、「国営放送」(state-owned broadcasting)とは言わない。とはいうもののBBCはその経営の圧倒的な部分を視聴料という名の「税金」によって賄っている(昨年の収入は36億ポンド)。

しかしNYTでは利益をあげなければならない。Thompsonが直面する唯一最大の課題は、どのようにしてオンラインによるニュースの有料読者を増やすのか(how to get readers to pay for news online)ということであり、Thompsonが指揮を執ったBBCのサイトは素晴らしいものではあった。が、彼は金儲けの心配をしなくてもいい立場であった。

NYTとInternational Herald Tribuneがタッグを組むオンライン・サービスは悪い話ばかりではない。今年の6月現在の有料読者は509,000人で、3か月で12%の増加を記録している。ただ広告収入は貴重で、NYTの全収入の40%を占めている。電子版の広告料金は印刷版の新聞よりは安いのだから、それでこれまでのような収入をあげるためにはThompsonはかなりラディカルなビジネスプランを考え出す必要がある。

さらにThompsonが取り組まなければならないのが、あのルパート・マードックとの競争である、とThe Economistは言います。マードックの傘下にあるWall Street Journalは経済紙ですが、最近になって一般ニュース(特にニューヨークについてのニュース)掲載に力を入れ始めている。明らかにNYTの読者を惹きつけようという作戦です。BBC時代のThompsonは英国におけるマードック傘下のメディア経営についておおっぴらに批判していた。戦いの舞台はニューヨークに移ったわけですが、ロンドン時代のThompsonと違うのは、単にマードックのやり方を批判するだけでは済まないということ。マードックをビジネスで打ち負かさなければならないのだ(complaining about Mr Murdoch is not the same thing as beating him)とThe Economistは言っている。

▼何年か前に比べると予算不足もあってBBCのサイトはサービス縮小を余儀なくされています。例えば昔は「本日のBBC」というニュースレターを毎日のように配信していたのですが、これがなくなった。とはいえBBCのサイトの充実ぶりはすごいと思います。ラジオの部門にReith Lecturesという番組がある。年に一度、さまざまな分野の専門家を招いてレクチャーをするのですが、そのアーカイブには1948年にレクチャーを行った哲学者のバートランド・ラッセルによる講義があったりする。それをpodcastでダウンロードして何回でも聴くことができる。それもこれも「利益を上げる」ことを考えなくてすむからだ、と言われるとどうしようもない。しかしNYTが有料読者を増やすことで生きていこうとする限りサイトの中身がいかに面白いかが勝負になることは間違いない。Mark Thompsonの手腕に注目です。

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3)王子のヌード写真と報道の自由
 
 
チャールズ皇太子の次男ハリー王子(27才)が休暇先のラスベガスで、全くのヌード姿で女性と遊んでいる写真がアメリカの芸能情報サイトに掲載されて話題になっていることは、日本のメディアでも報道されていますよね。英国王室はその写真が本物であると認めたうえで、プライバシー保護を理由に英国メディアに対してこの写真を掲載しないようにと要請し、実際どのメディアも掲載はしていなかった。

が、8月24日付のThe Sunがついにこれを掲載して話題になっています。主見出しは
  • HEIR IT IS!
となっています。「ほら、これですよ(Here it is)」という意味ですが、HereをHEIRとしています。発音は同じですが、HEIRは継承者と言う意味ですよね。ハリー王子が王位継承順位3位に当たる人であることにひっかけた言葉遊びです。

英国メディアでは初めてこの写真を掲載したことについてThe Sunの社説は

  • ハリー王子の写真(を掲載するかどうか)は英国における自由な報道に対する重要な試金石である。このインターネットの時代に、ネット上ですでに何百万人もの人たちが眼にしている記事や写真をThe Sunのような新聞が掲載することを止められるということ自体がばかげている。
    “The Prince Harry pictures are a crucial test of Britain’s free Press . . . it is absurd that in the internet age newspapers like The Sun could be stopped from publishing stories and pictures already seen by millions on the free-for-all that is the web.”

と言っています。Googleによると、王子のヌード写真はThe Sunが掲載する以前に、世界中で一日で1億3000万人がネットで見ているのだそうです。

王子のヌード写真がネット上に公開されたことについては新聞という新聞が記事として報道しているのに「肝心の」ヌード写真は掲載しないという自己規制状態であったわけですが、それにつけても思い出すのが、大衆紙による電話盗聴事件をきっかけに開催された報道の倫理についてのLeveson公聴会です。公聴会そのものは終わっており、今年の11月をめどに報告書が提出されることになっているのですが、ハリー王子のヌード写真問題を契機に再びプライバシー尊重と報道の自由のことが話題になっています。

The Sunの元編集長であるKelvin MacKenzieはBBCのテレビ番組で、Leveson公聴会以来英国の新聞編集者が「政治家や裁判官によって脅かされている」状態にあり、「いい加減にびくつくのは止めるべきだ」(stop being “cowed” by politicians and judges)として
  • プライバシー(の侵害)の心配をするより、言論の自由(が制限されること)を心配するべきだ。
    People should stop worrying about privacy and start worrying about free speech.
と言っています。ちなみにThe Sunによる写真掲載について、報道苦情処理委員会(Press Complaints Commission:PCC)には約850件の苦情が寄せられています。
▼この話にはおまけがあります。英国王室がこの写真を掲載することを止めるように新聞各社に呼びかけたのが8月22日、にもかかわらずThe Sunが王子のヌード写真を掲載したのが8月24日付の新聞です。実はThe Sunはその間の8月23日付の新聞に左のような写真を第一面に掲載している。これは本物の写真ではなく、The Sunの男女スタッフがわざわざ裸になってハリー王子の裸パーティーを「再現」したものだった。もちろんThe Sunは「再現」と断ったうえで掲載したわけですが、王室からの一種の掲載禁止命令への対抗措置だった。他の新聞も王子の記事と一緒に写真は掲載したのですが、海水パンツ姿の王子とか、ほとんど当たり障りのないものばかりだった。

▼この再現写真に裸で写っている女性の方は、The Sunの見習社員(インターン)だったのですが、同社ではこの社員と男性スタッフの名前で「読者のお楽しみの役に立ててうれしい」(we were delighted to have played our part in making the readers laugh)という声明を発表してこれが強制されたものではないことを強調しています。

▼とにかく英国の大衆紙というのは裸が好きなんですよね。ほとんどお笑いです。

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4)オリンピックで湧いて、政権は沈む?

国中がオリンピックで沸き返っている一方で政権がおかしなことになっている・・・日本にもあてはまるかもしれないけれど、これは英国の話です。8月11日付のThe Economistは保守党と自民党(特に前者)が「まったくもって下らないこと(something truly silly)」をしてしまったお陰で連立が非常にぎくしゃくしていると伝えています。

連立のパートナーである保守党と自民党の間をおかしくしている問題は二つあります。一つは自民党が熱心な英国上院(House of Lords)の改革問題、もう一つはキャメロンの保守党が進めたい選挙区の線引き見直し問題です。House of Lordsの改革についていうと、2010年に連立政権を作ったときに両党間で合意した文書の中にこれが入っている。現在の上院は議員数が825人、そのうちおよそ700人が一代貴族、残りは世襲貴族です。いずれにしても上院議員は選挙で選ばれるのではなく、その大部分が独立機関であるHouse of Lords Appointments Commission(上院議員任命委員会)によって任命される。ほかにも上院議員になるルートはあるのですが、ここでは省きます。詳しくはここをクリックすると出ていますが、自民党はこの上院の議員数を減らすと同時に大半を選挙で選ぶ制度にしようと言っている。

保守党議員の間では自民党のアイデアが不評です。The Economistによると、その理由は上院を選挙で選ぶことにしてしまうと、議会における下院(House of Commons)の地位が揺らぐのではないかということです。この反対が結構根強くてキャメロンも押さえきれずにいる。そうなると自民党としては「連立合意で決まっている自分たちの提案を反故にするのなら、連立合意文書に入っているもう一つの政治改革である選挙区境界線(electoral boundaries)の見直しにも反対する」と言い始めた。こちらの改革は保守党の提案です。

保守党の提案は、すべての選挙区を同じ程度の人口にしようというものなのですが、結果的に現在の選挙区(650)が600程度にまで減ることになる。ただこれを実行すると最も議員数が減るとされているのは自民党なのだそうです。

保守党内の反自民グループが上院改革に反対したおかげで、選挙区の見直しという保守党の政策が自民党の反対に遭ってぽしゃりってしまう可能性が高い。そうなると損をするのは保守党だろうとThe Economistは言っている。いまの選挙区制度は労働党に有利にできているのだそうです。

1992年の選挙でジョン・メージャーの保守党が労働党を破ったとき、獲得票数では保守党が労働党を7.5ポイントもリードしたのに、獲得議席数では21議席しか上回らなかった。2005年の選挙はブレアの労働党が2.8ポイントの差をつけて勝利したのですが、議席数の差は65もあった。次なる選挙は2015年に行われるのですが、選挙区の線引きを改正すると、それだけで保守党は12から20程度の議席を増やすことができる。保守党が単独政権を作るために必要なのは21議席です。でも自民提案の上院改革に保守党が反対したことへの仕返しに自民党が選挙区の見直しに反対するので、結局選挙は労働党の有利ということになる。
  • Well done: you saved the Lords and lost the election
    キミたちは上院を現状のまま救って、選挙で負けたんだ、素晴らしいじゃないですか
と皮肉られている。保守党は上院改革に反対して自分の首を絞めている。truly silly(全くあほらしい)とはこのことである、とThe Economistは言っています。

▼おそらく連立政権にとって最大の難関は対EUの問題です。EUに残るべきかどうかの国民投票を行ええという声が保守党内には強いのですが、自民党はEU加盟賛成でこれに関しては保守党右派との接点は全くない。世論調査などでは脱退の意見が多い。国民投票そのものは行われたとしても次なる選挙(2015年5月)の後になるのですが、それを行うための法案を現政権下で成立させるべきだという声が保守党内にあってキャメロンに圧力をかけている。どちらかというと親EUのキャメロンの苦しいところです。

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5)竹島、尖閣、そしてアメリカ

「尖閣」と「竹島」の問題について最近のThe Economistに記事が二つ出ていたので紹介します。まずは8月18日付の記事で韓国大統領の竹島訪問を伝えているのですが書き出しは次のようになっています。
  • 今年もまたあの時期がやってきたのだ。つまり北東アジアにおける第二次大戦の終戦記念日であり、古傷を開く愛国者たちが歴史上の不満の上に貼られた絆創膏を取り去り、強い一撃を与える時期でもある。今年の一等賞は韓国の李明博大統領に与えられるだろう。
    IT IS that time of year again: the anniversary of the end of the second world war in North-East Asia, when wound-opening patriots take the sticking-plaster laid over historical grievances and give it a hard tug. This year the top prize goes to the president of South Korea, Lee Myung-bak.
うまい日本語に直すことができず、分かりにくいかもしれませんが、意味としては「毎年8月になると、第二次大戦をめぐる日中・日韓の対立を明らかにするような事件があるけれど今年は竹島へ行った大統領がその中心になった」と言っている。

この記事は李大統領が天皇の訪韓について、慰安婦問題に関連して、天皇が日本の植民地支配について深く謝罪しないかぎり「来る必要はない」と発言したことについて、「天皇を2008年に招待したのは大統領であったのに」(extending the emperor an invitation in 2008)として、「前向きの外交のために」(“forward-looking” diplomacy)天皇の訪韓が大いなる助けとなると語ったのも大統領であったとしている。しかしながら、あれ以来大統領の人気が低迷状態となり、12月の選挙に彼の党が勝てるかどうか微妙な状態になってきた・・・そうした中で大統領が竹島問題で強硬姿勢をとることで超党派の姿勢を示したものだ、としています。

とこの辺りまでは、日本のメディアでもさんざ報道されているわけですが、The Economistの記事は次に日本の対韓姿勢について書いています。まず
  • 日本はこれまでもしばしば竹島(日韓併合の過程において日本が手に入れた島)についての韓国側の微妙な感覚に対して鈍感であった。
  • Japan has often displayed a tin ear to South Korean sensitivities over the island, which it calls Takeshima, having acquired it in the process of annexing Korea.
としながらも、2009年の政権交代以来、日本の(民主党)政府の政策は柔軟な(conciliatory)ものとなったとしています。自民党時代とは違ってきていたということですね。2010年は日韓併合100周年であったわけですが、当時の菅直人首相は「大げさで不自然ではないかとさえ思われるような謝罪」(fulsome apology)を行ったし、
  • 天皇は長い間日本の侵略行為にについてきちんと謝罪する習慣を続けてきている。
    The emperor has long been in the admirable habit of apologising for Japanese aggression.
と言っています。さらに本質的な問題として、日本の新しい防衛白書は地域の安全保障と協力関係の重要性を強調しており、韓国を「歴史的にも経済的にも文化的にも日本と最も近い関係にある国」(It identifies South Korea as the country “that shares the closest relationship with Japan historically and in areas such as economy and culture”)と認めていると指摘している。

「しかしながら、日本側の変化を公に認めるだけの勇気を持った要人は韓国にはほとんどいない」(Yet few senior South Koreans have the courage to acknowledge this in public)とThe Economistは言って、
  • 李大統領による前例のない人気取り行動は、(日本の)民主党がよくやっていたことの多くを台無しにしてしまう危険をはらんでいる。
  • Mr Lee’s unprecedented stunt means that much of the DPJ’s good work risks unravelling.
と警告しています。

そこで気になるのはアメリカの態度です。北東アジアにおける存在感を強くしたいアメリカにとって二大同盟国同士が喧嘩をしているという絶望的な状況にあるわけです。竹島問題は日韓双方で解決するべき問題というのがアメリカの態度ですが、「それではこの問題ついての自らの役割に眼をそむけるものであろう」(that is to wash its hands of its own part in the saga)とThe Economistは指摘している。1951年のサンフランシスコ講和条約でアメリカは、竹島の領有権については意図的に見逃す態度をとった(deliberately overlooked the matter)。朝鮮戦争によってこの島が共産主義の北朝鮮の領土になってしまうことを怖れたのだ、とThe Economistは言っています。そして最後に日韓関係の歴史を研究している米コネチカット大学のAlexis Dudden教授の
  • アメリカがこの問題(歴史をめぐる戦争)に果たす役割があることを認めることによって、アジアのより大きな地域主義を育てることをアメリカ自身が心から望んでいるということを全ての当事者たちに分からせることになるかもしれない。
  • Acknowledging its role in the history wars might persuade all the protagonists that America really wants to foster a greater sense of Asian regionalism.
という主張を紹介しています。

▼この記事の中で最も重要なのは最後の部分(アメリカの姿勢)のように思えるのですが、悲しいかな文章の真意というか意味がいまいちはっきり分からないのであります。コネチカット大学の教授が言っているgreater sense of Asian regionalismが何を意味しているのか・・・。「アジアのより大きな地域主義」では何の事だかよく分からないと思いません?単に「日韓対立は二国間の話」とだけ言って逃れようとするのではなくて、アメリカ自身も日韓も含めた新しいアジアの平和や繁栄の促進に重大な関心を有しているということを日韓の指導者たちに伝えろと言っているのかもしれない。


一方の尖閣諸島をめぐる日中対立については8月25日付の社説として「不毛の岩と不毛なナショナリズム」(Barren rocks, barren nationalism)というタイトルの記事を掲載しており、イントロは
  • 日本と中国は尖閣諸島をめぐる紛争に対処するために、金切声で怒鳴り合うのではなく、現実主義でいくべきだ
    Both countries should turn to pragmatism, not stridency, in dealing with island spats
となっています。

この記事は「双方ともに友好関係を壊すことを望んではいないが、双方の国内政治がナショナリズムの方へ振れないためには両政府がやらなければならないことが二つある」と言っている。

一つは短期的にいますぐ考えるべき事柄で、両国の戦艦が行きかう海上における誰も望んでいない衝突の危険性を最小限に押さえるということで、
  • 最低限度必要なのは、両政府の間にホットラインを敷くだけでなく、中国側は電話が鳴ったら必ずこれをピックアップするという厳重な約束をしなければならない。
  • At a minimum that means not only having hotlines between the two governments, but also cast-iron commitments from the Chinese always to pick up the phone.
としており、さらに中国側は日本の海域にオフィシャルな船舶を派遣することを止めるべきだとも言っています。

The Economistの社説はまた、長期的な課題として日中両国の政治の世界において有害このうえないナショナリズムの蛇たち(nationalist serpents)が頭をもたげないないようにするためにやるべきことがあるとして、日本については
  • 日本が過去において行ったことを子供たちに正直に伝えるような教科書を作ること
    producing honest textbooks so that schoolchildren can discover what their predecessors did.
であると言っています。また中国については「正直な教科書という意味ではとてもお手本とは思えないが」(no promulgator of honest textbooks itself)として
  • (中国の)政府は大衆の怒りの矛先として反日感情を利用するという癖を改めなければならない。現代の日本はアジアにおける平和と繁栄の大きな推進役となってきたのだから。
    the government must abandon its habit of using Japanophobia as an outlet for populist anger, when modern Japan has been such a force for peace and prosperity in Asia.
と主張しています。

尖閣諸島そのものについて、The Economistの社説は、島を国が買い上げるという野田首相の提案は、これらの島々を訪問しないという約束が伴うのなら価値がある(Mr Noda’s proposal to buy them would have value if accompanied by a commitment to leave them unvisited)が、アメリカにもやるべきことがある、としています。即ち
  • アメリカは尖閣諸島の領有権をめぐる諸々の主張をないものとして隠ぺいしてしまったという自分が過去において果たした役割を認めるならば、両国政府がお互いのナショナリストたちを抑え込むことが少しは容易になるであろう。
  • And it would be easier to face down the nationalists if America acknowledged its own past role in sweeping competing claims over the Senkakus under the carpet.
ということです。

そしてThe Economistの社説は次のような結論になっています。ちょっと長いけれどそのまま紹介しておきます。
  • 我々が提案したいのは、尖閣諸島およびその海域、さらに日韓が領有権を主張しているもう一方の岩石(竹島)を海洋生物の保護区域に指定することである。そのことによって人間同士の戦争を回避するのみならず人間以外の生物にとっても助けになるものである。長年に及ぶ過剰漁業によってそれらの海域を泳ぎ回る魚が非常に少なくなっているのは事実なのだから。
    Our own suggestion is for governments to agree to turn the Senkakus and the seas round them - along with other rocks contested by Japan and South Korea - into pioneering marine protected areas. As well as preventing war between humans, it would help other species. Thanks to decades of overfishing, too few fish swim in those waters anyway.

▼尖閣問題については「むささび」の199号でも紹介しています。

▼ひょっとすると、The Economistのメッセージは「日本を孤立させるな」ということかもしれないですね。孤立した日本、核兵器の原料になる核物質がわんさとある日本、もちろん技術は大あり、となると誰でも心配するのが日本の核武装です。しかも尖閣購入を言い出した石原慎太郎・東京都知事は日本は核武装すべしという意見であるし・・・そんな人の言うことを聞いて尖閣購入費を寄付する人がわんさといるというのだから誰だって心配になります。

▼8月17日付の毎日新聞のサイトに、専門編集委員の西川恵さんが「なぜ自ら争点化?」というエッセイを書いています。外交上手の韓国が「竹島問題では自分から争点化する愚を犯している」として、「韓国が国際社会で占める位置と、稚拙な対日外交の間には大きなギャップがある」と書いています。潘基文・国連事務総長と李明博大統領は両方とも韓国人ですが、この二人に代表される「韓国」は全く別の国という感じです。このギャップの根源はどこにあるのか、西川さんにも謎としか言いようがないようです。


▼もう一つ気になったのは、尖閣、竹島についての共産党と社民党の姿勢でした。8月25日(昨日)、共産党と社民党のサイトを調べてみました。共産党のサイトには竹島問題で志位委員長が「冷静な外交交渉で解決を」とコメントしたと書いてあるけれど尖閣については何もなし。社民党にいたっては反原発と被災地復興についてはデカデカと書いてあるけれど国際問題についてはゼロだった。社民党は本当にひどいですね。何も言わないのでは、この党が何を考えているのか分からない・・・というより実際には何も考えられないということなのかもしれないですね。1995年の終戦記念日に社会党の村山富市首相が、アジア諸国に対し「痛切な反省」と「心からのお詫びの気持ち」を表明している。当時の社会党といまの社民党では違うのかもしれないけれど、何も言わないというのはどういうことなのか?


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6)どうでも英和辞書
deliver:実現する

deliverにはもちろん「配達する」という意味があるけれど、案外よく使われるのが「(約束を)果たす」とか「実現する」という場合です。政治家が「公約を果たす」などというケースですね。
  • I wonder if that politician can deliver (on his promise).
は「あの政治家は(公約を)果たせるだろうか」ということですが、カッコ内のon his promiseはなくてもいい。ロンドン五輪の最終日にキャメロン首相が記者団に語った言葉は:
  • Today at the end of these, the third London Olympics, with third place for Team GB in the medals table, I think you only need two words to sum up these games: Britain delivered.
    英国チームはメダル争いで第3位となった、ロンドンでは三度目のオリンピックが本日終わります。今回のオリンピックは二つの言葉に要約されるものであります。すなわち「英国は約束を果たした」ということであります。
別に英国が世界に何かを約束したという意味ではないし、世界が英国チームに何かを期待していたわけではないけれど、それでもBritain deliveredという言葉には万感の思いがこもっていたでしょうね。この言葉のあとにキャメロンが言ったのは"we reminded ourselves what we can do"という言葉だった。国民向けのメッセージで「自分たちの能力に改めて感激しましたよね」というわけです。まさかここまでできるとは思わなかった・・・という感じでしょう。

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7)むささびの鳴き声
▼今回は竹島と尖閣に関連してThe Economistに出ていた記事を紹介しましたが、The Economistは英国というよりも国際的な読者を持っている雑誌です。読者層としては、ビジネスマン、外交官、政治家など国際問題に関わっているような人が圧倒的に多く、その種の人たちの間の世論形成に大きな役割を果たしています。

▼そのThe Economistに掲載されたこれらの記事を読んでいて、日本という国の持っている国際的なイメージがほんの少しだけとはいえ変わりつつあるように(私は)感じます。日中・日韓のように第二次大戦の歴史がからむ事柄になると、日本は自らの過去についてまともに謝罪していないというニュアンスの記事が多かったと思うのですが、上の二つの記事を読むと、天皇の謝罪についてadmirableという形容詞が使われています。「立派な」とか「称賛されて然るべき」というような意味ですよね。また尖閣に関連して日本はa force for peace and prosperity in Asiaであったと表現しています。

▼それで思い出したのですが、むささびジャーナル210号で、BBCが主宰した国別好感度ランクというのを紹介しましよね。それによると中国人の対日評価は18対71で悪印象を持っている人が圧倒的に多いけれど、韓国の対日イメージは68対20とかなり高いものになっている。ついでにいうとロシア人の対日評価は「好意的」が65%、悪印象がたったの7%と非常に低い。日本人に特徴的なのは自国に対する評価が非常に低い(39%)ことだった。

▼竹島も尖閣も私のような普通の人間が考えてみてもどうなるものではないけれど、特定の国に対して不愉快かつ不安な想いを抱きながら生きているのは日本だけではない・・・ということは頭に浮かべてみてもいいのでは?イスラエルとパレスチナ、英国とアルゼンチン、インドとパキスタン、中国やロシアと国境を接する国等々、みんな心のどこかですっきりしない思いをしながら毎日を生きている。日本もそのような状態に置かれてしまったというわけです。それに慣れるしかないのでは?

▼自分自身は外交官でも政治家でもないけれど(あるいはそれが故に)、私は中国人や韓国人もさることながら日本国内の「強硬論者」に対して大いなる違和感を持っております。無力感と言ってもいい。彼らの感覚は「いつまでも舐められてたまるか」という被害者意識(いじめられっ子感覚)なのでしょうが、そのようにして拳を振り上げて、尖閣に日の丸を掲げた結果として何が生まれるのか?どのようないいことが日本人の上に訪れるというのか?あるいは尖閣や竹島が「相手側」のものになってしまったとして、どのような悪いことが日本人の上に訪れるというのか?日本人としてのプライドに傷がつくってこと?でもそんなもの傷ついても死にはしませんよ。

▼この際、中国や韓国にいる(と日本のメディアが伝える)「強硬論者」や日本のそれについては敢えて無視するしかない。それよりも日本にいる中国人や韓国人、テレビをつければ「中国も韓国もけしからん」というニュースしか流れない日本で暮らしている「相手側」の人たちの気持ちに想いを馳せたいものです。

▼先日TBSラジオの番組(夜10時ごろ)を聴いていたら、この局の「国会担当記者」という人が登場して、韓国大統領の行動について「李明博のバカが・・・」という発言をしていました。それを聴いていて、この記者の方がよほど「バカ」であるように響きました。異常な振る舞いをした大統領ですが、それでも一応選挙で選ばれた人です。そのような立場の人を「バカ」と呼ぶのは、日本人として情けない。相手がどのように振る舞っても、こちらは礼儀正しく振る舞うべきです。中国人が自国内の日本料理店を破壊しているからと言って、こちらも同じことをするのではないということです。

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