musasabi journal

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254号 2012/11/18
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美耶子の言い分 美耶子のK9研究 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
埼玉県も寒くなってきました。紅葉がとてもきれいですが、本当に冬はもうそこまで来ているという感じです。個人的なもので申し訳ないけれど、上の写真は当方のワンちゃんです。よろしく。

目次

1)インドへの経済援助打ち切り
2)近所づきあいとシェアリング経済
)Googleと新聞社の駆け引き
4)BBC会長の辞任
5)独立後のスコットランド
6)どうでも英和辞書
7)むささびの鳴き声

1)インドへの経済援助打ち切り
 
11月9日に英国メディアが伝えたニュースが気になりました。英国がインドに対する経済援助を2015年で打ち切りにすると発表したというものだった。国際開発省(DFID:Department for International Development)のサイトによると2011~12年の海外援助対象国のトップはエチオピア(3億2400万ポンド)ですが、第2位にインド(2億8400万)が来ているのですね。それ以前の3年間では常にインドがトップだった。

インドという国の経済力や国際的な立場を考慮しての決定であると国際開発大臣(Justine Greening)は言っており、インドのSalman Khurshid外相も「援助は過去のもの。これからは貿易で」(Aid is the past and trade is the future)と発言している。

インドはいわゆる新興国の一つであり、自前の宇宙開発までやっているし核保有国でもある。いまさら援助もないものだという気がするけれど、援助団体のOxfamは「世界の最貧人口の3分の1がインドで暮らしている」と言い、子供のための福祉団体であるSave the Childrenなども「インドでは昨年160万人の子供が貧困が理由で死んでいる」というわけで、英国内には援助の打ち切りは早すぎる(premature)という声もある。

で、普通のインド人はどう思っているのかと思って、The Times of Indiaのサイトを見ると
  • 我々は英国の援助など要らないが、英国は200年間もインドを支配したときにこの国から奪っていったものを返還しなければならない。
    We dont need UK aid, but UK must return whatever it had looted from india during its ruling for 200 yrs.
  • 英国人は植民地支配者として、インド人に対して長年にわたって収奪・殺害・拷問を繰り返しており、その借りをインドに返すということは絶対にできない。
    The British who had looted, killed and tortured Indians for centuries as colonialists can never repay the debt owed to India.

などというコメントがありました。

最近、インドが外国から戦闘機を購入する際に入札を行った結果、フランスのものを導入することになったことがあるのですが、インド政府の決定について英国メディアなどは、英国から経済援助をしてもらっているのに「恩知らずだ」(ingratitude)と非難するような論調もあった。が、インドの経済学者であるJayati Ghoshさんは、見返り(quid pro quo)を期待するような援助は英国自体の外交的な利益にはならないだろうとしています。またGuardianが行った英国人を対象にしたアンケート調査によると、援助打ち切りに賛成が47%、反対が30%となっています。

▼インドは1750年代から約200年間にわたって大英帝国の植民地であり、1947年8月に独立しています。それから約60年後の2006年、在英インド人のラクシュ・ミタルが経営するミタル・スチールがルクセンブルグの企業を買収して世界一の鉄鋼メーカーとなり、2007年にはインドのタタ・グループの鉄鋼部門であるタタ・スチールが英国とオランダの合弁企業・コーラスを買収したのですが、そのときの買収額、130億ドルはインド系企業による買収としては最大のものとして注目されたということもある。

▼英国におけるインドの存在感をさらに強めたのは2008年、タタ・モーターズがフォード社の傘下にあった自動車メーカーのジャガー・ランドローバーを買収したことです。タタ・スチールはウェールズで鉄鋼工場を経営、7500人を雇用しているし、自動車部門は英国内3か所に工場を所有して1万7000人を雇用しています。

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2)近所づきあいとシェアリング経済
 
New Statesmanのサイトを見ていたら英国で行われているStreetbankという、インターネットを使ったモノの貸し借り運動のことが出ていました。ちょっと変わっていると思うのは、インターネットを使っているにもかかわらず活動範囲が自分の住んでいるところから1マイル四方に限られるということで、一種のコミュニティ活動のことだった。Streetbankのサイトには、
  • Streetbankは近所の人たちとモノをシェア(共有)したり、隣人からモノを借りたりするお手伝いをするウェブサイトです。
    Streetbank is a site that helps you share and borrow things from your neighbours.
と書いてある。

Streetbankのサービスを使うためにはまずは会員(無料)になるための申し込みをしなければならないのですが、その際に自分が持っていて他人に貸したり、場合によってはあげてしまったりすることができるものを一つ以上登録する。穴あけドリルでもいいし、使わなくなったベビー用品、買ったのはいいけれど一度も使ったことがない玩具等々。モノだけではない。自分が持っていて誰かのために使う気のある特殊技能(外国語ができるとか)でもいい。

それをStreetbankのサイトに登録するのですが、その際、自分の郵便番号(postcode)も同時に登録する。すると自分の近所に住んでいる人が何を提供する気があるのかが分かる。芝刈り機かもしれないし、古自転車かもしれない。あるいはものではなくて「編み物教えます」というサービスかもしれない。要するに何でもあり。原則として半径1マイル(1.6キロ)の範囲内の会員同士が交換する。それだけ?それだけのようです。

創設者のSam Stephensという人が目指しているのは、住みやすいコミュニティを作ることのようで、そのためにキーとなるのがモノの貸し借りであるということです。つまりStreetbankはモノの貸し借りを促進するけれど、究極の目的はご近所同士の触れ合いの機会の提供なのですよね。

10月22日付のHuffington Postによると、Streetbankの会員は現在のところ約1万人だそうですが、発想が面白いと(むささびが)思うのは、インターネットという無機質・無記名な手段を通じて具体的な人間同士の顔が見える接触を促進しようという点です。

ただNew StatesmanのエッセイはStreetbankの活動を世界的な広がりを見せる「シェアする経済」(sharing economy)という活動の一つとして紹介しています。この経済活動については「現代ビジネス」というサイトが

  • 欧米を中心に拡がりつつある新しい概念で、ソーシャルメディアの発達により可能になったモノ、お金、サービス等の交換・共有により成り立つ経済のしくみのことを指します。
と説明しています。

いまから12年前の2000年、世界中の消費支出(普通の家庭レベルで使われたお金)の総額は20兆ドル超えた。これはその40年前(1960年)に比べると4倍の増加であったのですが、そのころは「消費」は経済を刺激するという意味で「美徳」とされていた。最近ではそのような消費活動が生む無駄や行き過ぎた消費熱に応えようとする産業活動がもたらす環境破壊に目が向けられるようになっている。これまでの「好きなものを好きな時に好きなだけ」手に入れるという消費ではなく、消費者が持っているものを交換したり、共有しようとする動きが広がっているということです。

Streetbankもそのような思想に基づいている活動で、他にもいろいろあるのだそうですね。自宅を無理なくプチホテルとして使おうという人々のAirbnbのサイトには192カ国、3万都市で自宅をホテルがわりに提供する人たちがリストアップされているし、「車を貸したいオーナーと、借りたいドライバーとの出会いをウェブサイトで仲介する」(日経ビジネス)whipcarというのもある。


▼世界野生動物基金(WWF)のサイトに「環境に優しい生き方10項目」(Top ten ways to reduce your ecological footprint)というのが出ているのですが、その中に「モノは、新品を買うのではなく中古を買うか借りて使おう」(Instead of buying new things buy second-hand, or borrow)というのがあります。それによると、ホームセンターなどで売っている穴あけドリル(安くても3000円はするのでは?)が購入されてから使われなくなるまでの「時間」は平均でたった15分だそうです。だったら借りて済まそうということになるけれど、そんなものどこで借りられるの?という時にStreetbankのような組織があると役に立つということです。

▼WWFのいう「10項目」を見ていると、日本ではすでに日常生活として実践されているものが結構あります。「クルマを使わずに公共の乗り物を使おう」(日本ほどこれが発達している国も珍しいのでは?)、「なるべく小型車に乗ろう」(これは日本のお家芸)、「断熱材や二重窓を使おう」(日本の雨戸というシステムは外国にはあるのでしょうか?)etc。GDPによる経済規模が大きくなることだけを考えると原発が必要ということになるけれど、その発想はいい加減に止めるべきですよね。

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3)Googleと新聞社の駆け引き

 
私、毎朝パソコンを開いてGoogleの「ニュース」というボタンを押します。するといろいろなメディアが伝えているニュースの見出しが出ています。どのようなプロセスで編集しているのか知りませんが、ここに出ているニュースの発信元はいずれも名の知られた新聞やテレビです。Googleのスクリーンではニュースのイントロだけ出ており、クリックすると発信元のサイトへ飛んでいきさらに詳しい情報を見ることができる・・・ということは(おそらく)誰でも知っていますよね。

知らなかったのですが、いま欧州の国々でGoogleのこのやり方が問題になっているのですね。11月10日付のThe Economistに出ています。自分たちが配信するニュースをGoogleが使うのなら金を払え、という要求がドイツ、フランス、スイス、オーストリアなどのメディアから出ているとのことで、ドイツやフランスではGoogleに対して金銭の支払いを命ずる法律を制定しようという動きまであるのだとか。

The Economistの記事は、Googleとニュースの発信元であるメディアの間でどのような取り決めがなされているのかということを書いていない。ただGoogle側のコメントとして、お金を払わなければならないのだとすると、Googleニュースそのものの「存在が危なくなる」(threaten its very existence)というのが紹介されています。メディア側に言わせれば、自分たちのニュース素材を一部のみとはいえ利用しているのだから金を払うのは当然ということになるのですが、Googleのような検索サービスのお陰で新聞社や放送局のサイトへのアクセスも増えているはずという見方もある。Googleニュースのユーザーのほぼ4分の3が発信元メディアのサイトにアクセスするのだそうで、その件数は一か月で40億回にのぼる(とGoogleは主張している)。

ニュースの発信元メディアへの金銭の支払いが義務付けられた場合、Googleの対抗策としては、その国における自社の検索サービスから問題の新聞社らを「検索結果」から外すということが考えられる。「XX新聞」と入れてもその新聞社のサイトには行き着かないということです。そうなると困るのはメディアの方かもしれない、とThe Economistは言っている。Googleのサーチエンジンにかかるからこそヒット件数が増え、それが新聞社のサイトのネット広告収入の増加に繋がるのだから、というわけです。

あのメディア王、ルパート・マードックもGoogleが自分のメディアが発信する情報をタダで使っていることを苦々しく思っており、自分が経営するメディア企業をGoogleの検索サービスから外したりしたこともあるけれど、結局は見出しとイントロ程度なら使ってもいいということに落ち着いた。尤もベルギーでは版権の問題としてGoogleを裁判所に訴えて勝利した新聞社もあることはあるらしいのですが。

しかし問題の本質は従来メディアの凋落にある(The real issue behind all this, however, is the decline of traditional media)というのがThe Economistの指摘です。「フランス国内で黒字の新聞社はただの一社もない」(not a single national newspaper is profitable)とのこと。知らなかったのですが、フランスでは直接・間接的に政府から新聞業界に対して補助金(約15億4000万ドル)が出るのだそうですね。The Economistによると、この補助金があっても黒字の新聞社はゼロなのだとか。

だからと言って、読者数や広告収入の減少という新聞業界の苦境をGoogleのせいにすることはできない、とFinancial Timesの元代表取締役であるOlivier Fleurotはコメントしている。ネット媒体としての新聞の広告収入が紙媒体としての広告収入には全く追いつかないのだそうです。世界新聞協会(World Association of Newspapers)の調べによると、昨年(2011年)の世界の新聞広告からの収入は760億ドルであったのですが、これは2007年に比べると41%ものダウンを意味している。新聞社の広告収入のうちネットからの収入はわずか2.2%であったのだそうです。要するにほとんどゼロってことですよね。

ただ新聞業界としてもインターネットを否定することはできない。欧州評議会のメディアの専門家(Jan Malinowski)は
  • メディアの記事使用についてGoogleに金銭を払わせようとするのは、写本筆写業者を保護するためにグーテンベルグの印刷機を禁止するのと同じことだ。
    trying to get Google to pay for articles “is like trying to ban Gutenberg’s printing press in order to protect the scribes”
とまで言い切っている。

そこでインターネット時代の新聞社のビジネスモデルとして台頭してきているのがmetered paywall(メーター付き課金)というシステムなのだそうです。つまり掲載記事の一部だけを無料にして、それ以外の記事を読みたい読者からはお金を取るというやり方です。New York Timesがそうであり、The EconomistやFinancial Timesもそのシステムです。今年に入ってから課金(paywall)制度を導入したメディアのサイトはアメリカでは倍増しているし、メディア業界が一致団結して利用者からお金をとろうという動きをしている国もある。
  • ユーザーへの課金システムの方がGoogleからの小切手を待つよりは得策かもしれない。
    Such ideas may work better than hoping for a cheque from Google.
というのがThe Economistの記事の結論であります。

▼Googleをグーテンベルグの印刷機に譬えるのは面白いですね。聖書の普及は彼の印刷機なしにはあり得なかった。でもキリスト教を普及したのはあくまでも聖書であって印刷機ではない。新聞のサイトに掲載されている情報に到達するためにはGoogleのような検索サービスを利用するしかないけれど、それらの情報を集めて提供しているのは新聞社であってGoogleではない。ただ新聞社にとっては癪の種かもしれないけれど、結局、紙媒体ではなくデジタル媒体として生きるためにはやはり読者からお金をとる、これっきゃないのでは?つまり新聞社のサイトの中身がお金を払ってでもアクセスしたいと思わせるような内容でなければならないということです。

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4)BBC会長の辞任

BBCのジョージ・エントウィスル(George Entwistle)会長が辞任したことは日本のメディアでも広く伝えられました。Newsnightという報道番組が保守党の有力者を未成年者わいせつに関わったと誤報してしまったことの責任をとっての辞任です。エントウィスル氏が会長に就任したのは今年(2012年)9月17日のこと。辞任が発表されたのが11月10日だから会長職2か月以下での辞任ということであり、BBC始まって以来のことです。

BBCはかつての人気司会者が少年に対する性的嫌がらせをしていたことが暴露されたばかり(むささびジャーナル253)ですが、このスキャンダルでもNewsnightが取材したものの報道を差し控えてしまったことが問題になった。今回もまた同じ人気報道番組が問題となっただけにショックはタイヘンなものがあります。

エントウィスル氏が会長辞任に追い込まれた背景をごく簡単に時系列で説明しておくと、11月2日、1970~80年代にウェールズの児童福祉施設で起こった未成年者わいせつ事件について、Newsnightが報道した。その中で、このわいせつ事件の被害者を名乗る男性がインタビューされて、わいせつ行為を行った人物の中にサッチャー政権の幹部であった有名な政治家がいたとする証言を行った。この政治家の名前は報道されなかったのですが、当時の政権を知る人であれば誰のことであるのかはすぐに分かるような存在であったそうで、Newsnightの報道後、ネット上ではある人物が名指しで流布されていた。

11月8日、Guardian紙がNewsnightの報道は「人違い」(mistaken identity)だったのではないかとする記事を掲載、11月9日、名指しされた政治家がNewsnightのインタビューで証言した人物とBBCを名誉棄損で訴えると声明、同じ日にNewsnightの証言者が自分の証言が誤っていたとする謝罪声明を発表、11月10日、BBCが謝罪、エントウィスル会長が辞任すると発表した。

普通ならこのインタビューを放映する前に問題の政治家に連絡をとり確認するはずなのにNewsnightがそれをしなかったのは、番組で名前を特定することはしないことになっていたからなのだそうです。

むささびジャーナルが紹介したいのは、上記の中の11月10日の朝放送されたBBC Radio 4のTodayという番組においてジョン・ハンフリーズというジャーナリスト(この番組の司会役)がエントウィスル会長を相手に行ったインタビューのやりとりです。このインタビューが放送されたのは会長の辞任が発表される前、11月10日の朝9時過ぎです。

ハンフリーズ: When did you know that this film was being broadcast?
(Newsnightの)ビデオが放映されると知ったのはいつのことですか?
エントウィスル: The film was not drawn to my attention before transmission.
私はこのビデオについては放映前に知らされなかった。
ハンフリーズ: But you must have known because a tweet was put out 12 hours before telling the whole world that something was going to happen on Newsnight that would reveal extraordinary things about child abuse and involve a senior Tory figure.
しかしNewsnightで何かが起こり、保守党の大物政治家が児童虐待に関与していたという、とんでもない暴露話が放送されるという情報が、番組放映の12時間も前にツイッターによって、世界中にばら撒かれていたのですよ。
エントウィスル: I didn’t see the tweet.
私はそのツイッターは見なかった。
ハンフリーズ: You have a staff? They didn’t see the tweet that was going to set the world on fire?
あなたにはスタッフがいるでしょ?世界中を興奮のるつぼに叩き込むツイッターを、あなたのスタッフが見なかったというのですか?
エントウィスル: John, this wasn’t brought to my attention.
ジョン、いいかね、それが私のところへは上げられなかったということだ。
ハンフリーズ: So when did you find out?
で、いつ分かったのですか?
エントウィスル: The following day.
(放映の)翌日だ。
ハンフリーズ: The following day? You didn’t see it the night it was broadcast?
翌日ですって?放映されたその夜には見なかったってことですか?
エントウィスル: No. I was out.
見なかったね、外出していたから。
 ハンフリーズ:  And you didn’t ask any questions during the week?
その週(10月29日~11月3日)、Newsnightについて何も質問もしなかったということですか?
 エントウィスル:  No, John. I didn’t
しなかった。
 ハンフリーズ: So you’ve no natural curiosity? You wait for someone to come along and say: “Excuse me, Director General, but this is happening, you might be interested.” You don’t do what everyone else in the country does ? read newspapers, listen to everything that’s going on … Did you see The Guardian’s front page yesterday morning?
ということは、あなたには普通ならあるような好奇心がないってことですか?誰かがあなたのところへやって来て「会長、こういうことがありますのでお耳にいれておこうかと・・・」とでも言うのを待っているということですか?普通なら誰でもやるようなことをやらないってことですね。新聞も読まないし、ニュースを聴くこともしない。昨日のGuardianの一面も見ていないということ?
 エントウィスル:  I was giving a speech.
その朝は講演をすることになっていたから。
 ハンフリーズ:  The Guardian yesterday carried a story which cast doubt on the Newsnight programme. You didn’t know that happened?
GuardianはNewsnightの番組内容に疑わしい点があると伝えたのです。そのことも知らなかったということですか?
 エントウィスル:  No, I’m afraid I didn’t.
残念ながら知らなかった・・・。

というわけです。これはインタビューのすべてを文字化したものではありません。インタビューそのものはここをクリックすると聴くことができますが、15分くらい続くもので、文字化したらとてもこんなものではありません。ただこれらの文字からもジョン・ハンフリーズというジャーナリストが自分が属する組織の会長を相手にズバズバ詰問していることが感じられませんか?音で聴くとそれがもっと迫力を持って迫ります。John Humphrysというジャーナリストは特に政治家を相手にずけずけモノを言うインタビューで知られており、時にはそれが物議を醸すことがあるのですが、2000年のJournalist of the Yearに選ばれています。1943年生まれだから今年で69才です。

▼ジョン・ハンフリーズが司会・進行役を務めるBBC Radio 4のTodayという早朝ニュース番組は、夜のテレビのNewsnightと並ぶ看板番組です。私の知る限りにおいてBBCはラジオ番組が特に素晴らしいし、日本のラジオ番組よりも社会的影響力がはるかに強いのではないかと思います。2003年にこの番組でAndrew Gilliganという記者が、英国政府によるイラク攻撃に関する資料を取り上げて大量破壊兵器の存在を大げさに書きすぎていると報道したことでブレア政府と大ゲンカになり、結局記者がBBCを辞めざるを得なかったという事件がありましたね。

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5)独立後のスコットランド
 

英国という国の正式名称はUnited Kingdom of Great Britain and Northern Ireland(グレート・ブリテンおよび北アイルランド連合王国)です。駐日英国大使館のサイトに書いてある。このうちGreat Britainにはイングランド、スコットランド、ウェールズが含まれる。つまり英国全体は3地域から成るGreat Britain+北アイルランド=4つの地域から成るということで、どこか日本(北海道・本州・四国・九州)と似ていなくもないけれど意味合いが全く違う。英国の「地域」(regions)はそれぞれの独立性が非常に強い・・・とこのあたりのことを説明し始めると長くなってしまいます。

むささびが何を語りたいのかというと、スコットランドの独立です。再来年(2014年)にスコットランドでは「英国」(UK)からの独立の是非を問う国民投票が行われることになっており、これが実現すると英国にとっては歴史的な出来事になる。スコットランドは700年前ごろからイングランドとの間で征服・独立の争いを繰り返していたのですが、1707年にイングランドに併合され、それ以来ずっとGreat Britainの一部として存在してきた。

スコットランド独立の気運についてはむささびジャーナルでも何度か取り上げています。最近では昨年11月の227号と今年4月の239号です。最近のスコットランドにおける世論調査によると、独立に賛成が37%、反対が63%となっているのですが、国民投票までまだほぼ2年はあるのでその間に世論がどのように変わるのか分からない。ちなみに国民投票が行われる2014年は、スコットランド軍がイングランドのエドワード二世の軍隊を打ち破ったBattle of Bannockburnという戦闘から数えて700年にあたるのだそうです。

11月3日付のThe Economistにこの問題に関連してBreaking up is hard to do(破断とは難しいもの)という記事が出ていますが、独立後のスコットランドとEUの関係について書いています。スコットランドがUK(イングランド、ウェールズ、北アイルランド)から独立した場合、自動的にEUの加盟国となるのか?独立されたUKはそのままEUの加盟国となり続けることができるのか?EU憲章にはっきりとした規定らしきものがない。そもそも既存のEU加盟国が分裂したという前例がないのだそうですね。ある国が分裂した場合、新しい国が二つ誕生したものと考えて、それぞれ別個に新しく加盟するための手続きをする必要があるという人がいるかと思うと、両方ともそれまでの国の「後継国家」(successor states)なのであり、自動的に加盟国になるという人もいる。さらに独立された国についてだけ自動的に加盟資格が継続し、独立した側は新しい国として加盟手続きをする必要があるという説もある。The Economistによると、最後の説が最も一般的なのだそうで、だとするとUKの加盟国資格はそのまま継続し、スコットランドは新しい国として最初から加盟手続きをすることになる。

国連、NATO、WTO等々、スコットランドも含めた現在の英国が加盟している国際組織は他にもいろいろありますよね。1922年、それまではUKの一部であったアイルランドが独立してIrish Free Stateとなったことがあるけれど、残りのUKはそのまま継続して国際組織の加盟国となった。もっと最近では1991年にソ連が崩壊してロシア連邦(Russian Federation)に縮小されたときでもそれがSoviet Unionの後継国家とみなされ、そのまま(例えば)国連の常任理事国になっている。1947年、パキスタンがインドから独立したときにもインドはそのままつづき、パキスタンだけが「新しい国家」という扱いを受けた。1993年にエリトリアがエチオピアから独立したとき、2011年に南スーダンがスーダンから独立したとき・・・いずれも独立した側が「新しい国家」となり、された側は国際機関の加盟資格をそのまま受け継いだわけです。

これらのケースと異なるのはチェコスロバキア(Czechoslovakia)の例ですね。1993年にチェコ共和国(Czech Republic)とスロバキア(Slovakia)の二つに分かれることになったのですが、この場合は両方が新しい「後継国家」となった。ただこの場合は双方が合意して分かれたもので、いわば「円満な協議離婚」(amicable divorce)だったので英国とスコットランドのケースとは違う。

で、EUに話を戻すと、「英国」がそのまま加盟国資格を持ち続け、スコットランドは加盟のための新たな手続きをしなければならなくなる可能性が高い。その場合には現在の加盟国の同意が必要になるわけですが、気になるのはスペインです。この国はカタロニア地方が独立を要求しています。独立スコットランドのEU加盟に賛成すると、国内のカタロニア独立派を刺激することになりかねないので、スコットランドのEU加盟には拒否権を行使しないとも限らない(とThe Economistは言っている)。

▼The Economistの記事が全く触れていないのは、独立後のスコットランドの国際機関への加盟についての「英国」の立場です。例えばEU。スペインが反対という可能性もさることながら、英国がどうするのかということは気になりますね。いまや英国内では、英国自体のEU離脱論がかなり大きな声になってきていることを考えると複雑ですね。

▼もう一つはNATOへの加盟問題。サーモンド首相率いるスコットランド民族党(Scottish National Party: SNP)は選挙公約として「独立後は核兵器は持たない」としているのですが、現在、スコットランドのクライド川の河口付近にある基地に停泊する英国海軍の潜水艦には核ミサイル搭載されている。この件についてサーモンド首相は最近のBBCとのインタビューで「出て行ってもらうしかない」と言っている。そうなると「英国」内のどこか別の停泊基地を探すか、現在の基地を英国に使わせることに合意するか、核ミサイルそのものをギブアップするしかない。三つ目の選択肢はまず無い。となると、スコットランドのNATO加盟に際してこれに反対することで、スコットランド政府から譲歩を引き出すということになる。

▼これはスコットランドにも英国にも関係ないけれど、沖縄では日本からの独立論がかなり盛んになっているのだそうですね。ラジオを聴いていたら佐藤優という人もその種のことを言っていました。もし沖縄が独立すると、沖縄県にある尖閣は「日本の領土」ではなくなるのでは?

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6)どうでも英和辞書
A-Zの総合索引はこちら 
inappropriate:不適切な

子供に対する異常な性的虐待が明るみに出たJimmy Savileというかつての有名人(むささびジャーナル253号)について、New York TimesのブログでAlan Cowellという人が、Savileの性犯罪が長年にわたって見過ごされてきた背景を次のように書いています。
  • he evaded scrutiny for decades, in part through a British tradition of readiness to remain silent on topics deemed ‘‘inappropriate.’’
    彼が長年にわたって調査を免れてきた背景の一部に、「不適切」とみなされる話題についてはだんまりを決め込もうとする英国的な伝統がある。

Alan Cowellは、1947年生まれの英国人ジャーナリストなのですが、その人がinappropriateなものについて「見て見ぬふり」をすることがBritish traditionであると言っており、inappropriateという言葉が、「開放的であることへの拒否反応」(aversion to openness)を表している、と言っています。Jimmy Savileの件についていうと、inappropriateなのは彼の性犯罪であるはずなのに、彼やBBCを取り巻くセレブたちは、そのことをおおっぴらにすることがinappropriateだと思い込んでしまったというわけです。

「開放的であることへの拒否反応」という意味では、私などは英国よりも日本にそれを感じますね。日本では何を言うにしてもappropriateかinappropriateかを気にする必要がある(ような気がする)。inappropriateを日本語に直すと「世間的な常識をわきまえないアホ」ということになる。黙っているのがいちばん安全(appropriate)ということが非常に多い社会です。

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7)むささびの鳴き声
▼ノンフィクション作家の魚住昭さんのブログに『中国人留学生の憂鬱』というタイトルのエッセイが出ています。早稲田大学大学院のジャーナリズム・コースで学ぶ中国人の学生(女性)との会話です。尖閣問題以来、反中的な雰囲気の日本における体験を語っているのですが、ちょっと面白いと思うのは日本と中国の若者の違いについての観察です。彼女によると中国の若者は「向日葵のように太陽に向かってまっすぐ行く」のに対して、日本の若者は「いろんな人がいていろんなことをやるでしょ。変な服を着て変なことしても注目されない。自由なんです。だから人生面白い」のだそうです。彼女によると「中国では女性が30歳前後で独身だと、すごく変な目で見られるけど日本にはそれがない」のが日本の魅力であるそうです。

▼8月に丹羽宇一郎・駐中国大使の公用車が男女4人に襲われた事件がありましたよね。日本のメディアでは、中国のネットに「愛国無罪」とか「4人は英雄だ」とかの書き込みがあったという報道が相次いだのですが、彼女によると、この種の「愛国的書き込み」は、共産党に雇われてその種の書き込みを行う「五毛党」と呼ばれるグル-プによるものなのだそうです。五毛は一元の半分です。つまり共産党から五毛もらってその種の書き込みをやる人たちがいるということで、そのことは中国人の間で常識であるばかりでなく、日本人の記者だって知っているはず。なのに日本のメディアはその種のことはほとんど報道せず「中国の反日感情ばかりを拡大・強調して報道する」とのことであります。

▼私、妻の美耶子にいつも言っていることがあります。NHKの夜9時のニュースだけは信用しない方がいいということ(私は最近は全く見なくなったけれど、パソコンをやっていると音だけ聞こえてくる)。特にあの番組の「政治」と「中国」関連の報道です。私に言わせると、ほとんど何の意味もない石原慎太郎氏の動きをトップニュースで取り上げ、中国の船が尖閣の「接続水域」を航行しているということをやたらと深刻な顔で伝える。この番組の伝えることを真面目に受け取ると、中国は常に傍若無人、今は亡き「太陽の党」は日本の閉塞状況を打破できる唯一のグループであるかのように思えてくる(かもしれない)から気をつけた方がいいということです。親切この上ない私のアドバイスに対して、美耶子が「でもそれは視聴者が知りたがっていることだから伝えるのであって、NHKが悪いとは言えないのでは?」などと生意気千万にも、この私の言うことに疑問を呈するようなことを言う。

▼で、私は、「限られた時間内に何を伝えて、何を伝えないのかは必ずしも視聴者の興味で決めているのではない。NHKの番組制作者の価値観によって決められているはずだ」と哀れな子羊を諭すように教えてあげる。つまり「視聴者が知りたいこと」ではなくて、「視聴者に知らせるべきだ」と番組制作者が考えている情報を伝えるということです。番組制作者がそのような価値基準を持つこと自体は悪いことではない。けれど、私の価値観によるとNHKの担当者の価値基準そのものが誤っている(としか思えない)ということです。何ごとにも両面があるということを視聴者に伝えていない。中国といえば反日感情のことしか伝えない。慎太郎といえば彼の反中感情の発露しか伝えない。

▼石原氏が尖閣を購入すると言ったときに、NHKはそのことの善し悪し両方の意見をきっちり伝えたのか?野田政府が「国有化」したことが中国を怒らせたとは伝えたかもしれないけれど、元はと言えば石原知事による「購入」にすべての原因があることを伝えたことがあります?いわゆる「日中関係の冷え込み」によって景気がますます悪くなっていることのきっかけを作ったのが石原氏である、と考えている人たちもいるということを報道したことあります?あるいは尖閣についての中国側からの見方をきっちり伝えたことあります?

▼NHKの夜9時のニュースが伝えるのは、「中国は悪くて怖ろしい国」「日本政府はお手上げ」「アメリカは沖縄にオスプレイを押し付けている」「民主党の支持率が急速に下落」ということだけ。となれば、反中・反米でしかも「歯に衣着せぬ」石原さんの人気があがるのは当たり前ですよね。そうしておいて、世論調査をやると「第三勢力」に期待する声が高く、それは「国民の声」ということにもなる。ものごとの両面をきっちり伝えないことから来る一方的な見方の蔓延状況が生まれる。だからあの番組だけは信用してはいけない・・・これが私の美耶子への有難いアドバイスなのでありますよ。

▼で、話を魚住さんのエッセイに戻すと、ジャーナリスト志望のこの中国人留学生は、右翼の講演会のようなものを授業の一環として聞いたことがあるのだそうです。その中で右翼の日本人が「チベット問題を維持することで中国を混乱させたい」という趣旨の発言をした。それを聞いてこの中国人は「カッときた」のだそうです。「チベットの人権問題を人道的見地から論じるのではなく<中略>ただ中国を混乱させたいなんて何で正々堂々と言えるのか」というわけで「大人としてあり得ない」と思ったのだそうであります。「チベットの人にも失礼でしょ!」というわけです。この人の言うことは当たっている。

▼というようなことを考えていたら、12月16日に総選挙ということになりましたね。東京新聞11月17日付のサイトに政治部長の高田昌也という人が書いた「嘆いても変わらない」という短いエッセイが載っていました。この人によると、野田さんは「反対の声をよそに」原発を再稼働させ、「削減できる歳出をカットする前に消費税を上げ」「復興予算とは名ばかりのでたらめな税金の使い方」をやってしまい、おかげで「政治と私たちの思いは離れるばかりだ」と嘆いている。そして「民主党への期待は政権交代三年で、失望に変わった」とも。が、高田部長さんは「嘆いていても何も変わらない」と言って、政治を政党や政治家に任せるだけではダメだというわけで次のように言っている。
  • 百パーセント自分の考えと一致する政党を見つけることは難しい。決してムードに流されずに、自分で考えて、よりましな選択をする。その判断材料を紙面で提供していきたい。
▼高田さんは「民主党への期待は政権交代三年で、失望に変わった」と書いているけれど、私、結論から言うと、民主党に投票すると思います。いわゆる第三勢力に投票することは絶対にない。自民もダメ、民主もダメ、だから第三勢力・・・という風には行かないのであります、私の思考回路は。どの党が政権をとっても100%満足なんてことはあり得ない。それは人間のやれることに限界があるからです。つまりどこが政権をとっても劇的に物事が変わるということはない。民主党が政権についたのは3年前、たった3年間でダメの烙印を押すのはアンフェアであるということです。憶えてます?日本人は自民党政権とは50年以上もお付き合いしたのですよ。その間に原子力ムラなるものが着々と出来上がった・・・。

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