1)ヒロシマ・ナガサキ・ガザ・・・
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戦闘を続けていたパレスチナとイスラエルが「停戦」に合意したのが11月21日。その3日前の11月18日付のイスラエルの英字新聞、Jerusalem
Postにイスラエルのアリエル・シャロン元首相の息子のジラード・シャロン(Gilad Sharon)という人がA decisive conclusion is necessary(決定的な結末が必要だ)という見出しのエッセイを投稿したことは日本では伝えられたのでしたっけ?私の見落としかもしれないけれど、主なるメディアのサイトには全く載っていなかったと思います。
彼のいわゆる「決定的な結末」(decisive conclusion)というのは、パレスチナのガザ地区を徹底的に破壊し尽くすこと、誰が勝者で誰が敗者なのかをはっきりさせるような終わり方にすることだそうです。ジラード・シャロンはガザのすべてをぺちゃんこにしてしまうことなのだ(We
need to flatten entire neighborhoods in Gaza. Flatten all of Gaza)と述べたあとで次のように書いています。
- アメリカ人はヒロシマにとどまることがなかった。日本人が降伏するのが遅すぎたからアメリカ人はナガサキまでやってしまったのだ。
The Americans didn’t stop with Hiroshima - the Japanese weren’t surrendering fast enough, so they hit Nagasaki, too.
すなわちジラード・シャロンによると、アメリカが日本を降伏させたようなやり方でパレスチナを屈服させるべきだ、でないと、これからも同じような争いが繰り返されることになると言っている。この人のことは全く知らなかったけれど、新聞に寄稿することはよくやっている人のようであります。
イスラエルには主なる新聞が二つあり、その一つが保守派のJerusalem Post、もう一つがリベラルといわれるHaraatzなのだそうですが、主流は前者だそうです。このエッセイは、Jerusalem Postの第一面のいわゆるOp-Ed(opposite the editorial)と呼ばれる部分に掲載されている。「社説の向い側」という意味で、外部の筆者による署名入りの記事だからそれなりに注目を浴びるスペースです。創刊1932年という古い歴史を持つ新聞で、そのような目立つ場所にこのような内容のエッセイが載るというのがイスラエルの現実のようです。
▼1993年にイスラエルとパレスチナ解放機構(PLO)の間でオスロー合意なるものが締結され、イスラエルを国家として、PLOをパレスチナの自治政府として相互に承認するとされてから20年経つのですね。ジラード・シャロンの発言を伝える英国のチャンネル4(テレビ局)のブログサイトは「オスロー合意も時間の無駄にすぎなかったと歴史が判断するだろう」(History will judge the Oslo process a period of time wasting)と言っています。
▼最近、選挙がらみで東京の外国人特派員協会で行われた記者会見で、石原慎太郎さんが「いまの世界の中で核を持っていない国は外交的に圧倒的に弱い」という発言をしたのだそうです。この人とジラード・シャロンの共通点は、何ものかに対するコンプレックス(劣等感)であると思えて仕方ない。やられる前にやっつけろという発想です。核兵器を持たない国は弱いというけれど、核保有国なんて世界で何か国あるのですか?英米仏中ロとインド、パキスタン、北朝鮮(とおそらくイスラエル)の9か国だけ。そんな「エリート」の仲間入りをしないと生きた心地がしない・・・劣等感の持ち主というのはそういう意味です。
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2)日中ナショナリズムの行き着くところ
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ちょっと古いけれど、The Economistの10月6日号に「日本のナショナリズム」、11月10日号に尖閣問題についての中国の対応についての論評記事が出ています。合わせて簡単に紹介します。
まずは11月10日号に掲載されていたBlunt words and keen swords(ぶしつけな言葉と鋭い刃)という記事の方から紹介すると、書き出しが
- 中国が東シナ海において日本との対立の炎を煽り立てているかのように見える理由
Why China seems to be fanning the flames of its row with Japan in the East China Sea
となっている。このような対立は日中両国、特に中国にとって損である(とThe Economistが考える)にもかかわらず中国は強硬な姿勢をとり続けていることへの疑問を投げかける文章が並んでいるのですが、野田首相が尖閣を「国有化」した意図について「石原東京都知事(当時)による購入を妨害する(to thwart their purchase by Shintaro Ishihara, then governor of Tokyo)」ことにあったと説明し、
- ほとんどの中国の専門家は野田氏が石原氏と共謀していると思っている。
Most Chinese analysts suspect Mr Noda of conniving with Mr Ishihara.
という見方を紹介しています。中国側が野田さんの意図を考慮することさえも拒み事態をヒートアップするという危険な行為をしている(China is heating it up, dangerously)として、中国の行為に対して批判的なトーンを見せている。
The Economistはさらに、中国の国内では第二次大戦における日本の軍国主義ファシズムの振る舞いを非難する声も大きく、「日本による占領および戦時中の暴虐に対する記憶はいまだに新しいものがある」と書いたうえで、いま現在、日本のファシズム復活を云するということは、欧米の耳には「あまりにも物事を知らなさすぎる態度に聞こえる」(alarmingly ill-informed)としています。
- 日本が戦争に負けてからほぼ70年が過ぎており、日本は(たまには機能不全に陥ることがあるとはいえ)安定した民主主義の国となっている。日本には少数の右翼的ナショナリスト(耳障りでうるさい)がいるには違いないが、尖閣についての政策が帝国主義的な過去の(日本の)復活を意味すると考えるのは非常識なことである。
Nearly 70 years have passed since Japan lost the war. It has become a stable if often dysfunctional democracy. It has a small if strident nationalist right wing, but the idea that its policy on the Senkakus somehow marks a resurgence of its imperialist past seems preposterous.
とThe Economistは論評している。
The Economistの記事は、最後の部分で、中国側の事情通(One well-informed Chinese analyst)の見方を紹介しています。実は日中間では「暗黙の妥協」(unacknowledged “compromise”)がすでになされているというのです。それによると、中国側は日本による尖閣の国有化を受け容れ、日本側は中国の船舶がたびたび尖閣を訪問することを受け容れているということなのだそうです。ただこの考え方についてThe Economistは「戦争よりはまし」(much better than a war)ではあるけれど、
- その発想はそれぞれの国が自分の主張を相手に押し付けることなく、しかも尖閣諸島を管理しているふりをするということでもある。これほど誤りと計算違いに結びつきやすい対策はない。
But it involves each country pretending that it controls the islands without enforcing the pretence. It is hard to imagine an arrangement more vulnerable to mistake and miscalculation.
と疑問を呈しています。
▼言論NPOという組織の工藤泰志代表が「尖閣問題について我々はどう対応すべきか」というタイトルで語ったテキストが出ています。「私は尖閣諸島が日本の領土だという点は譲れない事実だと考えています」という書き出しで始まっているのですが、「この問題が軍事衝突にならないために、まずお互い自分の立場を言い合ってもいいから対話のチャンネルを作りましょう」とも言っています。
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次にThe Economistの10月6日号に掲載された「日本におけるナショナリズム」という記事ですが、見出しが「ポピュリストに注意を(Beware
the populists)」となっており、書き出しは
- 第二次大戦に敗れて以来、日本はアジアにおける平和と繁栄のための力強い勢力となってきた。ほかにもいろいろと貢献はしてきたが、中でも日本は最も寛大なる経済援助の供給国として近隣諸国を貧困から救い出してきた。
SINCE the defeat that ended the second world war, Japan has been a powerful force for peace and prosperity in Asia. Among other things, it has been easily the most generous aid giver, helping lift poor neighbours out of poverty.
となっています。にもかかわらず、近隣諸国からは、日本の帝国主義が復活のための時間稼ぎをしているにすぎないなどと言われているが、その主張自体はナンセンスである(The claim is nonsense)としています。ただ
- 一握りのナショナリストとはいえ、これに迎合するメディアの助けを借りると日本を超えた国々に危険な影響を与える可能性がある。
Aided by a pandering press, a handful of nationalists can have a dangerous impact beyond Japan’s shores.
この記事によると、石原慎太郎・東京都知事(記事掲載当時)は「日本の右翼の年寄りごろつき」(an old rogue of the Japanese right)であり、彼のような極端な右翼思想がこれからの日本の政治の世界に浸透してくるかもしれない。それはかつての戦争内閣の閣僚であった人物(岸信介首相のこと)の孫にあたる安倍晋三氏が自民党の総裁に選ばれたことでより可能性が高まったと言えるというわけです。
日本のあるNPOの調査によると、尖閣問題や中国における反日デモが起こる前でさえも中国を好ましく思わない日本人は84.3%に上っていた。The Economistは、いまの日本では筋金入りの保守主義者と目される人たちの間でも「石原スタイルのポピュリズム」には憂慮の念が広がっているとして、日本財団の尾形武寿理事長(president)が、領土問題に火をつけてしまった石原氏こそが「すべての問題の根源」(cause of all these problems)とコメントしていることを紹介しています。
そして日本におけるナショナリスト的ポピュリズムの台頭を後押ししているのがメディアである(abetted by the media)として、テンプル大学のJeff Kingston教授の「尖閣問題に関してはメディアが火付け役のチアリーダーになっている」というコメントを紹介しています。
- (日本のメディアは)理性の声を裏切り者の声であると考えている。
They see the voice of reason as the voice of treason.
というわけですが、The Economistは、一方的なメディア報道にもかかわらず、日本では中国におけるような騒乱状態は起きていないとしており、Kingston教授の「日本のナショナリズムは片手で拍手するようなもので、音が出ないような力(all
the power of one-hand clapping)しかない」というコメントを紹介しながらも
- その片手の拍手も、海外では大きく増幅されるものである。あたかも東京の町をがなり立てながら走る(右翼の)黒塗りのトラックのように、である。
Abroad, though, the clapping is amplified as loudly as those blaring black trucks in Tokyo.
と警戒しています。
▼石原慎太郎氏のことを形容するのにrogueという言葉が使われています。英和辞書には「ならず者」「ごろつき」などの訳が出ていますが、英国の辞書によると「普通でない振る舞いをする、破壊的なことをする」という意味が出ています。私が知っている使い方としてはrogue
stateというのがあります。フセイン時代のイラク、カダフィ時代のリビア、北朝鮮、イランなどのことを形容して使われているけれど、大体においてアメリカ政府によるレッテルなのだそうです。いずれにせよThe
Economistという雑誌から見ると石原さんはrogueであると。アメリカ嫌いの石原さんはこれを聞いて喜ぶかもしれないですね。
▼もう一つ、いまいち自信なしに訳してしまったのが、one-hand clappingという言葉です。「日本のナショナリズムの力は”片手で拍手”をするようなもの」というのですが・・・。前後の文章からすると、大した影響力はないという風にとれます。尤もむささびはそれほど小さなものとは考えていない。「政治家なんてどいつもこいつもロクなやつがいねえ」とかいう現状不満の行き着くところを想像すると、あまりいい気持ちにはなれない。この種の社会的な雰囲気をもたらしている元凶の一つがメディアであるという点では当たっていると思うけれど。
▼The Economistの記事の原文をお読みになりたい方は「むささび」宛てお知らせを。
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3)日産自動車が救った(?)町
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前々回、認知症に優しい町づくりに取り組むヨークという町のことを紹介しましたが、今回も英国の町の紹介をしてみたいと思います。ヨーク同様、私自身は行ったことがないのですが、ヨークから北へ120キロほど行ったところの港湾部にあるサンダーランド(Sunderland)という町です。いまから34年前、破たん状態あったのですが、ある自動車工場の進出によって救われた。
サンダーランドは、イングランド北東部、大西洋に面した海岸線に沿って発達した町で、人口は約30万人、19世紀初頭から20世紀の半ばまでは港湾エリアを利用した造船の町として栄えたところです。19世紀の半ば(1840年)には65の造船所があり、第二次世界大戦が始まるころには英国の商船や軍艦の4分の1がこの町で作られるほど造船で持っていた町だった。が、戦争が終わって1950年代になると日本や韓国のような国の造船業に押されて衰退が始まり、1988年にサンダーランド最後の造船所が閉鎖され、造船の町としての歴史は終わった。
サンダーランドはまた炭坑と工業用ガラス作りの町でもあったのですが、炭坑はエネルギー源としての石炭への需要が減ったこと、ガラス産業はアジアからの安い輸入品に押されて衰退。つまり町を支えていた三つの産業がアウトになってしまったのですが、それにとって代わる新しい産業が全く育っていなかった。1980年代初期のサンダーランドは失業者があふれ、犯罪も急増するという危機的な状況だった。
そのサンダーランドが立ち直るきっかけとなったのが、日本の自動車メーカー、日産の工場進出だった。1986年に生産を開始したのですが、いまや英国最大の自動車メーカーとして6000人を超える雇用を創出しています。2010年の英国の自動車メーカーのトップ5はNissan(423,262台)、MINI(216,302)、Land Rover(179,165)、Honda(139,278)、Toyota(137,054)となっています。英国で生産される3台に1台の車がサンダーランドのNissanで作られているという数字が出ています。
日産の工場進出に大きな役割を果たしたとされているのがマーガレット・サッチャーです。BBCのサイトによると、サッチャーさんが日本にある日産の工場を初めて訪問したのは1977年、彼女が野党・保守党の党首であったときです。その後1982年に首相として訪日した際に再び日産を訪問、川又克二会長に会って英国への工場進出を働きかけた。さらに1983年、米ウィリアムズバーグにおけるG7サミットで中曽根首相と会う機会があった際にも協力を要請しています。
日産の工場進出はサンダーランドのみならず英国にとっても極めて大きな意味を持っていた。これがきっかけとなって外国からの対英国投資の波が始まったと言ってもいいくらいで、BBCは「これ(日産のサンダーランド進出)こそがサッチャーがのこした最大の遺産かもしれない」(Was this Thatcher's greatest legacy?)と言っており、
- (日産の進出によって)これまでに数万もの職場が生まれ、地方自治体による指導の下にサンダーランドの町全体が日産を原動力とする復興(ルネッサンス)を遂げたのだ。
Tens of thousands of jobs have been created and under the guidance of the local authorities the whole city has undergone a Nissan-powered renaissance.
と報道しています。
Financial Timesはサンダーランドについて"Once it was ships; now it is cars"(昔は船、いまはクルマ)と言っているのですが、現実はそれほど簡単ではない。日産の進出以来クルマ関連の企業による雇用が生まれたことは事実なのですが、Financial
Timesによると、サンダーランドの失業率は12.2%で全国平均(8.1%)の1・5倍、特に若年層の失業が深刻で、16~18才のNEET(not
in education, employment or training)は11%でイングランドで第6位となっている。若年層の失業対策のために新しい地元企業の育成が要求されているのですが、サンダーランドにおける中小企業の育成率は全国平均の半分でしかないというのが現状なのだそうです。
サンダーランドでは若者の雇用促進のための経済開発計画として"an entrepreneurial city at the heart of a low-carbon regional economy"というやたらと長いスローガンを掲げています。「低炭素による地域経済の中核となる起業家精神に富んだ町」という意味ですが、日産自動車の工場では来年から電気自動車の生産が行われることになっているし、昔からあった港湾部を利用した洋上風力発電施設を使った電力供給事業なども進められています。
▼日産自動車のサンダーランド進出劇を通じて、英国という「国の生き方」を教えてくれるような気がします。英国貿易産業省の中に対英投資局(Invest
in Britain Bureau: IBB)という、外国企業による英国内への直接投資を呼びかけるセクションができたのが1977年、労働党政権の時代です。伝統産業の落ち込みで不振に見舞われていた地域経済を活気づかせるために外国の企業を誘致しようという政策がとられた。BBCによると、日産のサンダーランド進出には英国内に拒否反応も見られたのだそうです。
- 現状を維持することで既得権益が保護される組織の多くがこれを阻止しようとした。
Plenty of organisations with a vested interest in the status quo lined up to block or slow the investment.
▼例えば英国の自動車メーカーは国内での競争相手が増えることに神経をとがらせたし、労働組合は日産が要求するストなし協定(no strike agreements)労組同士が連携することを禁止する単一労組制度などに難色を示した。さらに一般市民のレベルでも戦時中の日本の振る舞いに対する反発感情などもあった。BBCによると、サッチャーさんはこのあたりのことは全く気にかけていなかったのだそうです。特に国内メーカーによる過当競争への不満については"If they couldn't compete, they shouldn't survive."と考えていた。「競争に勝てないのなら生き残る価値はない」ということですね。
▼1980年代にはトヨタ、ホンダ、ソニー、パナソニック、NEC等々、主なる日本の製造企業はほとんど英国に進出を果たしています。BBCの経済記者、Evan Davisが書いたMADE IN BRITAINという本は、英国経済の現状を産業構造を通して解説しているのですが、彼が考える英国の経済構造の強みの一つに「開放性」が挙げられています。外国企業による市場参入を自由にすることで、競争にさらされた英国企業が生き返るという考え方です。ただ彼はまた英国における「経済ナショナリズムの欠如」(lack of economic nationalism)によって、うまくいかなければ何でもかんでも外国に頼ろうとして、自力の解決を目指すことがないことの弱点も指摘しています。
▼メディアを通じていま(2012年)の日本企業の苦境について知らされると、「あの頃」の英国を思いますね。それまでは当たり前のように思っていた自国の大企業が次々と倒産したり、名前が変わったりしていく。それが生み出す社会的な不安感。英国はそのような状態をもくぐり抜けて生きてきたのですよね。想像するに、あのころの英国人がメディアを通じて日本に対して持っていたイメージは、いまの日本人が中国や韓国に対して持つ感覚と似ているかもしれない。働き中毒(ワーカホリック)で、まともな住宅にも住んでいない、そのくせモノだけは売り込みたがる、何を考えているのか分からない、得体のしれない人々・・・そんな日本人の下で働くことへの抵抗感は絶対にあったはずです。
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4)ジャーナリストと政治家は信用できない!?
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昨年(2011年)の夏、メディア王といわれるルパート・マードックが経営する大衆紙、News of the Worldによる取材対象の電話盗聴事件が明るみに出て、新聞そのものが廃刊に追い込まれたということはむささびジャーナル219号で紹介しています。その事件をきっかけにメディア(特に新聞)によるさまざまな「悪行」が明るみに出たことからキャメロン首相の要請により2011年11月に判事のレブソン(Lord
Justice Leveson)氏を委員長にした独立調査委員会が組織されました(むささびジャーナル234号)。
それから1年後の11月29日、新聞ジャーナリズムによる不適切な取材活動をどのように防止するのかについての報告書がレブソン判事から首相あてに提出されました。報告書はこれからの新聞の取材・報道の「規制」のあり方についていろいろな提言を行っているのですが、BBCのサイトによると最大のポイントは
- A tougher form of self-regulation backed by legislation should be introduced to uphold press standards.
報道の水準を維持するために、法令に基づいた、より厳しい自己規律の形式を導入するべきである。
という点にある。報道関係者による不適切と思われる行動については、新聞業界が運営する自己規制機関である報道苦情委員会(Press Complaints
Commission:PCC)というのがあり、今回のスキャンダルをめぐっては、新聞業界からPCCの権限を強化すればいいのではという意見も出ていたのですが、レブソン委員会はそれでは不十分だというわけで、新しい組織は、政府はもちろんのこと業界からも独立した自己規律による組織(independent
self-regulatory body)であり、そのトップや取締役会のメンバーなどは透明性を確保したうえで任命され新聞業界からも政府からも影響は受けない。
さらにこの機関の権限強化のためには「法令に基づいて設置されることが欠かせない(Legislation is essential to underpin the new body)」としています。但し
- 提案される法令は議会、政府、その他の組織に何らの権利も与えることがなく、その権利によって新聞社の報道・出版の自由を妨げられることはない。
The proposed legislation would not give any rights to parliament, to government, or any other body to prevent newspapers from publishing anything they wanted.
とされている。
この報告書に対する反応はさまざまです。新聞の場合、どちらかというと「リベラル」とされるThe IndependentやGuardianは「尊敬の念をもって扱う」と言っているのに対して、保守的とされるTelegraphは「新聞業界でこの精神を生かした監督機関を作ろう」と呼びかけ、The Timesは「調査そのものは尊重するべきだが法令で監督機関を作る必要はない」と言い、Daily Mailは「自由にとって腐った日となった」、The Sunは「新聞を警察で取り締まるのか」と叫んでみたりしています。
微妙なことになっているのは連立政権です。保守党のキャメロン首相(この調査委員会の設立を命じた)は保守派の新聞と同じような発言をしている一方で自民党のクレッグ副首相は委員会の意見に賛成だと言っている。労働党のミリバンド党首は賛成の意見を明らかにしている。
かつて新聞の取材攻勢でひどい目にあった人たちは例外なく調査委員会の提案に賛成しており、中にはキャメロン首相が慎重であることに批判的なコメントを述べている人もいる。つまりキャメロンは新聞社には好かれているけれど被害者には批判されているというわけです。
で、普通の英国人はどう思っているのか?報告書が発表される前に世論調査機関のYouGovがアンケート調査を行っています。例えば・・・
- メディア被害に関する苦情を新聞社自身が処理するのはやめるべきだ:
賛成(77%)・反対(5%)・分からない(17%)
- 言論の自由は大切であり、報道についての規制は報道機関が自主的に行うべきだ:
賛成(23%)・反対(41%)・分からない(36%)
- 新聞記者が公共の利益のために活動するように編集者が気を付けていると思う:
賛成(8%)・反対(71%)・分からない(21%)
このアンケート調査の結果の詳細はここをクリックすると見ることができますが、5人のうち4人が「ジャーナリストの規制は法律によって定められた独立機関が行うべきだ」と考えており、「議会によって設置された機関が行うべきだ」(24%)という意見を大きく上回っている。また新聞社が自分で規律を作って自分でそれを守るなんてことあり得ないとする意見も多く、YouGovでは
- 一般的に言って、大衆は政治家もジャーナリストも信用していないということだ。
In general, the public trust neither politicians nor journalists.
と言っています。
▼メディア人であろうとなかろうと、「報道の自由」を叫んでいるのはどちらかというと「保守派」と言われる人たちであり、必要なら規制すべしと主張しているのが「リベラル」というのが面白いと思いません?
▼電話盗聴というものではありませんが、日本における橋下徹氏と「週刊朝日」のゴタゴタは何だったのですかね。何回も連載する予定であったのが橋下さんに文句をつけられて一回だけで連載中止、橋下さんにお詫びまでしている。朝日新聞と「週刊朝日」の発行元である朝日新聞出版は別会社であるとはいえ、同じ家族みたいなものですよね。このようなドジがあって朝日新聞は橋下さんについてのまともな記事など書けるのだろうか・・・などと、私のような(それほど事情通ではない)人間にまで疑われている。
▼この問題について週刊朝日は「朝日新聞社報道と人権委員会」という機関から見解を受け取り、連載中止を決めると同時に橋下さんにも謝罪をしたと言っています。ここをクリックするといきさつが出ています。文字が小さくて行間も狭く、しかもやたらと長い文章なので、読めと言う方が無理なのですが、要するに「身内が身内を裁いている」ということに違いはない。そのような「裁き」がまかり通るわけですか?
▼連載中止になるような記事を掲載しておいて、相手がかんかんに怒ったらあっさり非を認めてお詫びする。なぜそんなにあっさり謝ったのですか?取材拒否が怖かった?橋下さんも、取材拒否だ!と息巻いておきながらお詫びされるとあっさり了承してしまった。朝日にネガティブキャンペーンでもされるかもしれないのが怖かった?何やら両者で適当に手を打ったという感じですね。読者は関係ない、と。メディアと政治家は信用できないというのは英国だけではなかったってこと?
▼今回のレブソン報告書はもっぱら従来メディアである新聞ジャーナリズムに対する規制を取り扱っているわけですが、将来的にはむしろネットメディアをどうするのかということでしょうね。ウェブサイトやブログ、ツイッターのようなメディアによる集中豪雨的な名誉棄損などです。あることないこと書きまくって無実の人の人生を破壊することだってある。そのあたりのことに関連する記事は次に出ています。 |
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5)ツイッター時代の名誉棄損
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前号のむささびジャーナルで、BBCの会長が辞任したことをお話しました。辞任の理由は、BBCのニュース番組が児童の性的虐待事件を伝える調査報道をする中で、ある保守党の政治家が関与していたと報道、これが根も葉もない誤報であったということでしたよね。番組ではこの保守党政治家の名前に触れたわけではないのですが、番組が終わるとざっと1000人のツイッター・ユーザーが政治家の名前(Lord
McAlpine)を特定する「つぶやき」を送り、さらに9000人がそれを「再つぶやき」という形で自分のツイッター上で仲間に伝えてしまった。それを受け取ったツイーターたちがそれぞれどうしたのかは分からないけれど、かなり広範囲にわたってLord
McAlpineの名前が出回ったことは間違いない。
被害を受けたLord McAlpineはこの現象を「ツイッター裁判」(trial by Twitter)と呼んでおり、BBCのみならず根も葉もないことをつぶやきまくったツイーターたちも名誉棄損で訴えると言っている。最近になって、この人の弁護士がフォロー人数が500人以下の小規模ツイーターに対して「児童チャリティに献金をすれば訴えることはしない」と伝えたとされている。
この事件に関連してThe Economist(英国内版)の11月24日号が「ツイッターと名誉棄損法」(Twitter and libel law)という小さな記事を掲載しています。インターネット時代になってオンライン情報の流布をめぐって名誉棄損の裁判沙汰になることは珍しいことではないけれど、この種の名誉棄損訴訟というと出版社とか放送局のような大メディアが被告というのが普通で、今回のように何千・何万の個人的ツイーターを相手に訴訟というのは珍しい。結果がどうなるのかはともかくいろいろと考えさせられる事件ではある。
ツイッターに限らずインターネットの世界でブログだのホームページだのを作って自分なりのメッセージを発信するということは「誰でも出版社になれる(everyone
is a publisher)」という意味ですよね。ということは間違ったことを言うと「誰でも訴訟を起こされ得る(everyone can be
sued)」という意味でもある。なぜならネットの世界が誰でもアクセスできる「パブリックスペース」だからです。
私(むささび)自身、ツイッターなるものはやったことがないのですが、フォロアー(あるツイッターを常に注目して見ている人)の数によっていろいろあるんだそうですね。数十人単位の友だち同士というのもあれば、政治家や芸能人のようなセレブともなると数十万人のフォロアーということもあり得る。となるとツイッター上で悪口を言っても、それによる名誉棄損の程度がまったくまちまちだから被害額の算定も難しい。ただツイッター上での「140文字のつぶやき」は誰でも見ることのできるスペース上でつぶやくのだから完全な独り言ではありえないことだけは間違いない。
英国下院議長の奥さんがBBCの報道に絡んでLord McAlpineの名前を自分のツイッターで触れたということで訴えられるとされている。この人の場合、ツイッター上での失言のたぐいが結構多い人らしいのですが、今回の場合は(本人によると)"Why is Lord McAlpine trending?"(なぜLord McAlpineが話題になっているの?)とつぶやいただけなのだそうです。それだけで訴えられるなんて・・・というわけで「最近じゃ、ツイッターをやるのに法律の学位が必要のようです」(You need a law degree to be on Twitter nowadays)と不満を語り、結局自分のツイッターはキャンセルしてしまったそうです。
▼ところでLord McAlpine事件のお陰で辞任したジョージ・エントウィスル氏に代わってBBCの新会長にはTiny Hallという人が任命されています。この人は名門歌劇場「ロイヤル・オペラハウス」の最高責任者であった人です。
▼The Economistの記事とは関係ないけれど、日本で「週刊朝日」が維新の会の橋下さんのことを特集した際にいろいろともめたことがありました。そのときに、橋下氏が自分のツイッター上で発言したことをメディアが報道するということが起こっていましたよね。ツイッターは誰にでも見ることができるのだから、橋下さんに限らず有名人の発言を新聞や放送を通じてのみ知ることができるという時代ではなくなったということですよね。その意味では、従来メディアがほとんど役割を果たさなくなったということですね。橋下さんのツイッターを覗いたら「フォロワー903662人」となっていました。つまりほぼ100万人(!)の人が橋下さんの発する言葉を直接読んでいるということです。はっきり言って、数はすごいし、よくぞこれだけ書き込む時間があるものだと「感心」するけれど、書いてある内容についてはスローガンの羅列のようでさっぱり分からない。何せ140文字で勝負しろというのだからそれも仕方ないか。石原慎太郎さんが、自分たちで立ち上げたはずの「太陽の会」なるものを放り出して、維新の会に入会したのも分かりますね。橋下さんのインターネット活動を見るにつけ、石原さんなりにいまどきの選挙は、「太陽の会」の面々では勝てっこないということを察したのでしょう。 |
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6)フォークランド紛争:サッチャーに挑戦した女性教師
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前々回に続いて30年前のフォークランド紛争と報道にまつわるハナシを紹介します。政府と国民の間に存在する(ことになっている)メディアの在り方にも関係しています。フォークランド紛争が始まって一か月後の1982年5月2日、アルゼンチンの巡洋艦Belgranoが英国海軍の原子力潜水艦Conquerorによって撃沈され、アルゼンチン乗組員323人が死亡するという「戦闘」がありました。
それから約1年後の1983年5月24日、BBCがNationwideというニュース番組の中で、1年前に英国側の「勝利」で終わったフォークランド紛争を話題にして視聴者参加型のディスカッションを放送したことがある。その年の6月9日はサッチャー政権2期目をかけた選挙の投票日だったから、このディスカッションは選挙の約2週間前に放送されたことになる。司会はSue Lawleyという有名なキャスターで、スタジオにはサッチャー首相がいて視聴者からの質問に直接答える形をとった。首相に質問する視聴者として選ばれたのがDiana Gould(ダイアナ・グールド)さんという女性で、グロスタシャーで暮らす50代の教師だった。
グールドさんとサッチャーさんのやりとりは次のように始まりました。
- グールド:首相、アルゼンチンの戦艦(実際には巡洋艦)Belgranoは排他的水域の外にいて、しかもフォークランドから離れて行こうとしていた。そんなときに何故あなたはこれを撃沈する命令を出したのですか?
Gould: Mrs Thatcher, why, when the Belgrano, the Argentinian battleship, [the Belgrano was in fact a cruiser] was outside the exclusion zone and actually sailing away from the Falklands, why did you give the orders to sink it?
- サッチャー:Belgranoはフォークランドから離れて行こうとはしていませんでしたよ。Belgranoは我が国の船舶と乗組員にとって危険を及ぼすような水域にいたのですよ。
Thatcher: But it was not sailing away from the Falklands. It was in an area which was a danger to our ships, and to our people on them.
ここで司会者が「でも排他的水域の外ではあったのですね」(Outside the exclusion zone, though)と念を押すと、サッチャーさんは、Belgranoがいわゆる「排他的水域」の外側にいたのかどうかには触れず、英国が危険水域と警告した海域にいたのであり、英国にとって危険とみなされる船舶は撃沈されることもあり得るという警告を発していたとして
- サッチャー:あの船(Belgrano)は撃沈されたとき、我が国の船舶にとって危険な存在であったのです。私の仕事は我が国の軍隊、船舶、我が国の海軍を守ることにあるのです。冗談ではありませんよ、私は(そのために)日夜、不安にさいなまれながら暮らしているのですよ。
Thatcher: When it was sunk, that ship which we had found, was a danger to our ships. My duty was to look after our troops, our ships, our Navy, and my goodness me, I live with many, many anxious days and nights.
「冗談ではありませんよ」と私は訳しているけれど、my goodness meというのは首相という立場の人が使うにしてはかなり感情的な言葉です。このあとグールド夫人はBelgranoが「フォークランドの西280度の方角へ進んでいた、従って島から離れようとしていた」とかなり技術的なことを持ち出してサッチャーを追い詰める。
- グールド:あなたは私の問いに答えて、Belgranoはフォークランドから離れようとしていたのではないと言いました。あの船はすでにフォークランドの西280度のところにいたのですよ。だから申し訳ないけれど、なぜ、フォークランドから離れようとしていたのではないなどと言えるのか、私には理解できませんね。
Gould: But Mrs Thatcher, you started your answer by saying it was not sailing away from the Falklands. It was on a bearing of 280 and it was already west of the Falklands, so I'm sorry, but I cannot see how you can say it was not sailing away from the Falklands.
- サッチャー:あの船が沈没した時点において、我が国の船舶にとって危険な存在であったのです
Thatcher: When it was sunk...it was a danger to our ships.
- グールド:違いますよ。あなたはいちばん最初に、(Belgranoは)フォークランドから離れようとしていたのではないとおっしゃったのですよ。私が言っているのは、あの発言を訂正するべきだということなのですよ。
Gould: No, but you have just said at the beginning of your answer that it was not sailing away from the Falklands, and I am asking you to correct that statement.
このあと「Belgranoは敵の軍艦であり、英国海軍の戦艦に危険をもたらす状態にあったのだから、自国の軍隊を守る命令を下すのは首相として当然だ」と主張するサッチャーさんに対して、ダイアナ・グールドが、ペルーによる和平案がロンドンに届いており、サッチャーさんはその案を検討する時間が14時間もあったのにそれぜずに相手を攻撃したものであり、さまざまな国による和平の努力を踏みにじるものだ(sabotaging
any possibility of any peace plan succeeding)と非難します。
それに対してサッチャーさんが「ペルーによる和平案はBelgrano撃沈のあとにロンドンに届いたものだ」と反論すると、グールドも負けていない。「あの和平案が首相の手元に届くのにそれほど長い時間がかかるのは、首相と関係者の間の意思疎通(コミュニケーション)が不足しているからだ。核戦争さえ起こりかねない時代にそんなことでは困る」と主張する。
この会話の最後の方でサッチャーさんが言い放った言葉は次のようなものだった。
- 自分の国の海軍が危険にさらされているのに、首相が敵の船を撃沈して非難されるのは、英国だけですよ。我が国の海軍を守るということが私の主なる動機でしたし、そのことを誇りに思います。いつの日かすべての事実が明らかになり、私の言った通りであったことが分かるでしょう。
I think it could only be in Britain that a Prime Minister was accused of sinking an enemy ship that was a danger to our Navy, when my main motive was to protect the boys in our Navy. That was my main motive, and I am very proud of it. One day all the facts will be revealed, and they will indicate as I have said.
ここに書きだしたのはディスカッションのほんの一部に過ぎません。ここをクリックするとYouTubeで見ることができ、ここをクリックするとディスカッションを文字で読むことができます。
サッチャーさんのいわゆる「いつの日かすべての事実が明らかになる」というのは公文書が閲覧できるようになるときと言う意味で、英国の場合は30年後、つまり今年(2012年)です。ただ私が探した限りこの件について英国の公文書が明らかになってサッチャーさんの言うとおりだったということを伝える記事はありません(だから絶対ないというつもりはないけれど)。あえて言うと、昨年12月16日付の保守派の新聞、Telegraphが国防省からの情報として、Belgranoはやはりフォークランドに向かっていた(Belgrano was heading to the Falklands)と伝えています。
▼サッチャーを問い詰めたダイアナ・グールドさんは昨年(2011年)85才で他界しています。彼女は小学校の教師ではあったけれど、実はケンブリッジ大学で地理を研究した「専門家」でもあったし、夫は英国海軍で海洋地理の担当をしていた。つまりサッチャーさんにとっては手ごわい相手であったわけです。そのことを事前に調べなかった(とされる)キャスターのSue Lawleyは番組を降板させられる。サッチャーさんの怒りを買ったからかどうかは分からないけれど、ディスカッションの放送後、サッチャーさんの夫であるデニス・サッチャーが「BBCにはピンク人間がたくさんいる」と発言したことがよく知られています。「ピンク人間」というのは「アカ(共産主義)がかった人間」という意味です。
▼サッチャーさんがもともとBBCのフォークランド紛争に関する報道の姿勢に不快感を持っていたことはよく知られています。報道が「愛国的」でなく「中立的」なのが気に入らないということです。例えばBBCは英国軍のことをBritish
forcesと言い、アルゼンチン軍のことをArgentine forcesと呼んだのですが、サッチャーによると「わが軍(our forces)」、「敵軍(enemy
forces)と言うべきだとなる。
▼グールドさんもすごいと思うけれど、これを放送したBBCもすごいと思います。グールドさんがどのような質問をするのかは(おそらく)事前にある程度の打ち合わせはできていたはず。それでも放送してしまった。ラジオの専門誌、Radio Timesはサッチャーvsグールドのディスカッションを歴史に残る「インタビュー」であると絶賛しています。ちなみにこの放送が行われてから約2週間後に行われた選挙ではサッチャー率いる保守党が圧勝しています。しかしこの「インタビュー」を通じて、英国の人たちは両方の意見をきっちり聴くことができたわけです。 |
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7)どうでも英和辞書
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wine and dine:接待する
11月28日付のGuardianによると、
- Senior civil servants responsible for ensuring the building of the UK's
new fleet of nuclear power stations have been extensively wined and dined by nuclear industry lobbyists(英国の原子力発電所の新規建設にかかわる高級官僚が、広範囲にわたって原子力発電の関連企業のロビイストから飲食の接待を受けていた)
となっています。この高級官僚(senior civil servants)というのは英国原子力開発庁(Office for Nuclear Development)の偉いお役人たちであり、接待した企業のロビイストとしてはBabcock、EDF、Areva、GE
Hitachiらの名前が挙がっています。情報公開法によってGuardianが入手した資料に出ていたのだそうで、接待の場として使われた「贅沢なレストラン・クラブ」(luxurious
restaurants and clubs)の例として、Reform Club、Cavalry and Guards Club、RAC Club、Roux at Parliament Square、Naval & Military Club、1 Lombard Street、Cinnamon Clubのような名前が挙がっています。
私、この種の世界には無縁なので何とも言えないのですが、例えばCinnamon Clubはインド料理の店で、メニューによるとセットコース(Tasting Menu)だと一人当たりワインつきで150ポンド(約2万円)となっております。個人レベルでは安いとは思わないけれど、企業の接待だとしたら大して高くもないのでは?
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8)むささびの鳴き声
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▼エリザベス女王とエディンバラ公が11月20日に結婚65周年を迎えたのですね。結婚25周年を「銀婚」といい、50年は「金婚」で、65年は「青いサファイア(Blue
Sapphire)」なのだそうですね。女王が86才、フィリップ殿下は91才ですよ。すごいじゃありませんか。英国内でBlue Sapphireを迎えた夫婦は推定で2000組ほどいるのだそうです。英国の「国王・女王」で結婚65周年を夫妻で祝うのはエリザベス女王が初めてなのですが、少なくとも王室に関する限りこの記録が破られることはないだろうとTelegraphの記事が言っています。この夫妻の子供4人(チャールズ皇太子、アン王女、エドワード王子、アンドリュー王子)のうち3人が離婚している。また女王は21才のとき結婚しているのですが、彼女の子供たちの結婚はいずれも女王よりも年を取ってからのことだった。現代の英国人の平均結婚年齢は30代だそうです。時代の変化ということでもある。
▼全く関係ないけれど、コーヒーショップのスターバックスは世界55カ国に1万7000軒のショップがあるのだそうですね。知らなかったのですが、昨年(2011年)ロゴを変えたのですね。STARBUCKSという文字とCOFFEEという文字が消えた。ビジネス誌によると、特にCOFFEEの文字が消えたのが重要なのだそうです。事業をコーヒー以外に拡大しているということで、ジュース・メーカー、ベーカリーなどを次々買収してきたのですが、最大の買収はアトランタに本社を置くTeavanaという紅茶の小売企業を傘下に収めたものだった。アメリカ人が飲むのはもちろんコーヒーで、紅茶は南部で飲むアイスティーだけだったのですが、最近になってコーヒーの消費が落ちて紅茶の消費が伸びていることへの対応だそうです。
▼で、日本にはどのくらいのスタバがあるのか?全国で850軒。一番多いのは東京の250軒、2位は神奈川の65軒、3位は大阪府で63軒・・・わが埼玉県は46軒で第5位だそうです。これらはいずれも人口が多い都府県です。10万人あたりの軒数ということになると、1.94軒の東京が1位であることは変わらないのですが、2位は沖縄の1.01軒が来ています。0軒は島根と鳥取です。自慢じゃありませんが、埼玉県飯能市にもあります!ちなみにマクドナルドは118カ国に約3万3000軒(More than 33,000 restaurants)、日本国内では3286軒となっているのですが、なぜか当地にはありません(昔はあったのに・・・)。
▼さらに関係ないハナシですが、民主党政権で内閣府参与を務め、今年3月に辞任した湯浅誠さんがラジオの番組で、この選挙における争点の一つであるといわれる「社会保障」に臨む各党の姿勢について「自助」、「公助」、「共助」という言葉を使って説明していました。自助は自分で自分を助ける(self-help)ことで自民党や維新の会がこれにあたり、公助は政府が面倒を見るというので共産党や社民党、そして共助は皆がお互いに助け合おうというわけで、そのためにNPO活動のようなものを奨励するという姿勢でこれは民主党なのだそうです。なるほど・・・これなら分かりやすい。ここをクリックすると、湯浅さんが内閣府参与を辞任するにいたったいきさつが出ています。とても長くてフォントが小さく、しかも行間が狭いので読みにくいことおびただしく、私自身も一字一句読んだわけではないのですが読む価値は大ありです。
▼来週の選挙、私はおそらく民主党に投票すると思うけれど、テレビを見ていたら小沢一郎さんが「民主・自民・維新が連携して右傾化の道を歩もうとしている」と言っていました。NHKを中心としたいまのメディアを見ていると、選挙の争点として原発・TPP・消費税などだけが語られているように思えるけれど、私も小沢さん同様、「右傾化」が争点であると思っています。小沢さんと少し違うかもしれないのは、民主党までその波に乗るとは思えないと考えている点でしょうね。自民党+維新vs右傾化阻止グループという構図です。
▼ちなみに私は、TPPは日本を開放的にすると思うので賛成、とてつもない財政赤字を考えると消費税も値上げやむを得ないので、これも賛成。原発は「卒」だか「脱」だか「反」だか知らないけれど、とにかくこれを持たない方向に進むことに賛成(その代償として経済的に貧困化することは我慢する)ということです。いちばん我慢できないのは、「右傾化」ですが、右翼だの左翼だの中道だのというのは抽象的でいまいちよく分からないので、別の言い方をすると「劣等感のかたまりみたいな人たちにリーダーになって欲しくない」ということです。
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