1)英国下院:パレスチナ国家を承認
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10月13日(月曜日)、英国の下院で注目すべき動議が可決されました。労働党の議員が提出したもので、パレスチナを国家として認めようというものだった。賛成274票・反対12票というわけで半分以上の議員が欠席、政府の大臣も欠席する中での投票だった。この動議には拘束力がなく、これが可決されたからといって英国政府の方針としてパレスチナを認めるというわけではない。が、それにしても圧倒的多数で可決されたということは、英国世論の傾向を反映したものであり、イスラエルのナタニエフ首相としてはあまり気持ちのいいものではないだろう(profoundly unsettling for Benjamin Natanyahu, Israel’s prime minister)とThe Economistのブログが言っています。
動議の文章は
- この議会は、(英国)政府はパレスチナ国家をイスラエル国家と同列で認知するべきであり、そのことによって交渉による二国家併存による解決を確かなものとするべきであると信ずるものであること。
That this House believes that the government should recognise the state
of Palestine alongside the state of Israel as a contribution to securing
a negotiated two-state solution.
となっている。今回の動議は野党である労働党の議員から提出されたものなのですが、ミリバンド党首はユダヤ人であり、何度もイスラエルを訪問している。彼もこの動議には賛成票を投じています。
The Economistによると、この動議に賛成票を投じたリチャード・オタウェイ(Richard Ottaway)という保守党議員は下院の外交委員長をつとめるベテランで、これまではイスラエル支持の姿勢で知られてきた。今回賛成票を投じたことについて同議員は、最近行われたイスラエルによる西岸入植地拡大の決定(decision to expand its settlements in the West Bank)は特に許しがたいとして、
- この際イスラエル政府に言っておきたい。私のような支持者を失うということは、非常に多くの人びとの支持を失うことを意味するということだ。
I have to say to the government of Israel: if it is losing people like me, it is going to be losing a lot of people.
と言っている。
10月3日に主なEU加盟国としては初めてスウェーデンがパレスチナを正式に国家として認めると発表して注目されたけれど、イスラエルという国家の誕生に果たした英国の役割、イスラエルにとって最大の同盟国であるアメリカと英国の親密な関係などを考えると、単なる下院の動議とはいえ大きな意味を持っていることは間違いない・・・とThe Economistは言っています。
▼あまりあてにはならないけれど、来年の英国の選挙では労働党が勝つというのが賭け屋の予想だそうです。それがあたってしまうと、英国は限りなくパレスチナ承認に近づくことになる。2013年9月現在の数字ですが、国連加盟193カ国のうち約7割に当たる134カ国がパレスチナを国家として認めているのですね。日本はというと「将来の承認を予定した自治区」として扱っているのだそうです。
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2)眉唾!?あの新聞が反テロ運動の先頭に立つなんて
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上の写真は10月8日付の大衆紙、The Sunの第一面です。ユニオンフラッグのスカーフをかぶった女性が大写しになっており、紙面の下のほうに大きな白抜き文字で
という見出しが躍っています。「イスラム国に対抗して団結しよう」と呼びかけているわけです。そして右上には「警察が英国で最初のテロリストのアジトらしきものを捜索している」としたうえで
- The Sun urges Brits of all faiths to stand up to extremists
ザ・サンはあらゆる宗教の英国人に呼びかける、過激派に反対して立ち上がろう
というイントロ風の記事が印刷されています。この号はイスラム国反対のための大特集号であるわけですが、この第一面をポスターとして使うように呼びかけてもいる。The Sunが新聞として反テロ・キャンペーンに立ち上がったというわけです。
全部で7ページにわたる特集なのですが、イスラム国という集団が英国の若者を過激派に仕立てようとしているとして、全てのコミュニティがテロリストの排除のために立ち上がるべきだと呼びかけている。もちろんこの特集にはイスラム教徒も参加、イスラム国という集団がイスラム教の教えに反した行動をとっており、反イスラム国の運動にはイスラム教の聖職者が大きな役割を果たさなければならないと訴えている。そしてキャメロン首相、メイ法務大臣、ミリバンド労働党党首らのメッセージも掲載されています。
で、この特集企画については同じ10月8日付のGuardianがネスリン・マリク(Nesrine Malik)というスーダン生まれの女性ジャーナリストのエッセイを載せています。それによると、The Sunの特集は「反イスラム偏見助長特集」(proxy for anti-Muslim bigotry)にすぎないのだそうであります。
- ちょっと、そこのイスラム教徒さんよ、アンタのイスラム教はしっかり「英国風」になっとるかね。過激派に反対して断固立ち上がるつもりはあるのか?もしそれがないとすると・・・アンタこそ問題の一部なんだということだ・・・だってさ。
You, Muslim! Is your Islam ‘British’ enough? Are you standing up to extremism? If not, you are Part of the Problem, apparently
ネスリン・マリクによると、この企画は、外見上は「あらゆる宗教の英国人」(Brits of all faiths)に呼びかけているけれど、実際の意味するところは
- イスラム教徒は英国に対する忠誠を証明しなければならない。そのためにはそれをはっきりと態度で示さなければならない。すなわちイスラム教徒は、自分たちが英国人であることを証明するまでは当然のごとく英国人であるというわけにはいかない。アンタはまず得体の知れないイスラム教徒であり、英国人であることは二番目にくるということなのだ。
What the Sun says is that Muslims have to prove their British credentials with a display of loyalty ? that their Britishness is not taken for granted until they do so. You are a shady Muslim first, and a citizen second.
ということなのだそうであります。
彼女によると、英国内のイスラム社会はこれまでにも様々な形でイスラム国を始めとするテロ集団を非難してきており、それは(例えば)クルマにスティッカーを貼るというような目に見える形で示してきている。にもかかわらず英国社会はそれを認めようとしてこなかった。彼らはイスラム教徒はみんなテロリストの同調者であると思い込んでいるのだ、というわけです。そしてユニオンフラッグを国旗として仰ぎたければ反イスラム国の運動に賛同しろ、さもないと・・・これは脅迫(threat)というものだとネスリンは主張している。
ネスリン・マリクはThe Sunのこのキャンペーンは「不寛容」(intolerance)の精神が主流になりつつある、いまの英国の風潮を再確認させるものだと言っている。この特集企画は、イスラム・テロリストに攻撃されているという脅迫観念を撒き散らす働きをする。UNITED
AGAINST I.S.などというメッセージに毎日のように晒されれば、誰だって「イスラム」と聞いただけで眉をしかめるようになる。普通のイスラム教徒にとって、イスラム教徒であるということは、単に昔からそうであったということに過ぎないのに、である。The
Sunのようなキャンペーンが助長するのは英国社会に対するイスラム教徒の疎外感だけである・・・というわけで、
- もしThe Sunが本当に団結した英国を望むのであれば、この特集企画はそれを達成するためには最悪の方法であると言わざるを得ない。
If the Sun really wants a united Britain, this is the very worst way to go about it.
とネスリン・マリクは主張しています。
▼The Sunがこの新聞の表紙をポスター風に家の窓に張り出しましょうなどと呼びかけているということは、英国中この表紙で一杯にしようってわけですね。だったら左上のThe
Sunという文字を消してからにしたら?単なる広告作戦なのに、それを対テロ活動と結びつけようという厚かましさはすごい!
▼いつも言うことですが、英国の新聞が運営するサイトの面白さの一つに読者からのコメント欄の充実ぶりがあります。この記事について言うと、掲載後1週間の時点で1600件以上ものコメントが掲載されている。「アホだけがthe Sunを読む」(Only scum buy the Sun)というのもあるし、この記事が「情けない」(miserable)というのもある。まさにいろいろですが中には「なるほど」を思わせるものもある。さらに言うと、およそ10~15件に一つ程度の割合で「このコメントはモデレータによって削除されています」(This comment was removed by a moderator)というのもある。おそらく新聞などでは使うことが禁止されている言葉が入った罵詈雑言の類なのでしょう。
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3)マララと栄作:ノーベル平和賞にもいろいろ
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今年のノーベル平和賞に「イスラム武装勢力に銃撃されながらも女性の教育権を訴えた」パキスタンのマララ・ユスフザイ(Malala Yousafzai)さんが選ばれたことは、むささびでさえも知っていたけれど、もう一人、インドのカイラシュ・サティアルティ(Kailash Satyarthi)氏の受賞についてはどの程度知られていたのでありましょうか?私は全く知りませんでした。お恥ずかしい。読売新聞のサイトによると「児童労働に反対する世界的な運動を組織している」ということが受賞の理由なのですね。
The Economistのサイトによると、インドでは約8万人の児童が奴隷労働に従事させられている。大体が親の借金の肩代わりという形で働かされるのだそうですが、インドではこの種の労働は1975年に禁止されている。にもかかわらずそれが行われており、しかもそれによって処罰されることがほとんどないというのが現状なのだそうです。サティアルティ氏の場合、1980年に「児童救援行動」(Save Childhood Movement)を作ってからインドのみならず国際的な児童労働禁止活動に取り組んできているのですね。
インドとパキスタンといえば両方とも核保有国であり、カシミール地方の領有権をめぐって対立、現在でも銃撃戦で死者が出たりしているのですね。とても平和とは言えない。おそらくノーベル平和賞の委員会としては、これを機に印パ両国の和平も前進して欲しいと願っているのだろうとは思うけれど、受賞後の二人から出たコメントにはカシミールのことは全く入っていなかった。それはそうでしょう、二人の活動には直接関係ないのだから。1993年のネルソン・マンデラとデ・クラークは南アのアパルトヘイト集結、98年のジョン・ヒュームとデヴィッド・トリンブルは北アイルランド和平のための貢献というわけで受賞理由が共通していた。将来、インドとパキスタンの間で恒久的な和平が成立した場合には、「両国からの受賞ということもあり得る」とThe
Economistは期待を込めて言っています。
ところで1974年のノーベル平和賞は日本の首相であった佐藤栄作氏に与えられていますよね。この年も佐藤氏とショーン・マクブライド(Sean MacBride)という人の二人が受賞しています。佐藤氏への授賞理由についてノーベル賞委員会のサイトには "Symbol of Japan's Will for Peace"(日本の平和への意志のシンボル)であるという見出しが出ています。具体的には1970年に核拡散防止条約(Non-Proliferation Treaty:NPT)に署名したことを挙げており、
- In the Committee's opinion, the award to Sato would encourage all those who were working to halt the spread of nuclear arms.
当委員会の意見としては、佐藤氏を表彰することが核兵器の拡散を防止しようと努力する人々全てを勇気づけるものになるであろうということです。
と書いている。
が、このサイトによると、佐藤氏は日本では「物議をかもすこと多い政治家」(controversial politician)であり、彼の受賞は日本国内でも議論の対象になっている(heatedly discussed)。そして
- Sato supported the US war in Vietnam, while at the same time urging the United States to return the island of Okinawa to Japan. This happened in 1972, but the United States retained control of the military bases.
佐藤氏はアメリカのベトナム戦争を支持したが、その一方でアメリカに対して沖縄の返還を強く求めた。沖縄返還は1972年に実現したがアメリカは軍事基地の管理・支配の権利を保持した。
とも書いてある。平和賞を授けておきながらここまで批判的なニュアンスの紹介をするのも変わっています。
一方、佐藤氏と共同で受賞したショーン・マクブライドという人について委員会のサイトは "From the IRA to Amnesty International" と書いています。この人は人権団体のアムネスティ・インタナショナルの創設者なのですね。テロ組織と言われる "IRA"
ですが、アイルランド人である彼の父親は対英独立運動の中で英国軍に殺され、彼自身もIRAに参加して戦ったことがあるのだそうです。最終的にはこれを脱退するのですが、弁護士となってからは刑務所に入れられたIRAの弁護などにも活躍したと書いてある。
▼いまさら言っても始まらないけれど、佐藤栄作氏の受賞が「核拡散防止条約に署名した」ことが理由というのでは、何だか悲しいと思いません?IRAで自国の独立闘争に参加し、アムネスティを創設した人物でもあるマクブライドの人類への貢献と比較すると、どう考えても格が落ちる。核拡散防止条約に署名したのはこの人だけじゃないでしょ?ちなみに佐藤栄作の前年は、あのヘンリー・キッシンジャーです。受賞理由の説明として「ベトナム爆撃と停戦」(Bombs and Cease-Fire in Vietnam)とある。爆撃でさんざ脅かして和平交渉のテーブルにつかせたということです。それで「平和賞」なんですか!?ちなみにキッシンジャーは北ベトナムの外交官、レ・ドク・トとの共同受賞だったけれど、こちらは受賞を辞退した。ヘンリーや栄作より、はるかにまともです。
▼そういえば確か今年の平和賞には日本の憲法第9条も候補に挙げられていたのですよね。40年前の栄作さんの受賞理由だった "Symbol of Japan's Will for Peace" は憲法第9条にこそ当てはまるものだった・・・。
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4)「独裁」と「無政府」:どちらがマシなのか?
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ドイツの週刊誌、シュピーゲル(Spiegel)の英文サイトに出ていたエッセイは、「国のあり方」の問題を素朴な疑問を通して考えるもので、読んでみてかなり納得が行くものでありました。見出しからして(むささびには)刺激的であります。
というのです。「独裁政治」と「無政府主義的混乱」のどちらかを選べと言われても困りますよね。どちらもイヤとしか言いようがないのだから。しかし現実の世界ではそういう選択を迫られることが多い・・・と筆者は言っている。
2003年、アメリカのブッシュと英国のブレア政府が中心となって敢行したイラク戦争によって、独裁者・フセインは処刑されていなくなった。あれからほぼ10年、イスラム国(Islamic State:IS)の登場によってイラクの事態はフセイン時代より悪くなったとは言えないのか?これがこのエッセイの問題提起。書いたのは同誌のコメンテイターであるクリスチャン・ホフマン(Christiane Hoffmann)です。
あの当時、ドイツの作家、エンゼンバーガーが有力紙に寄稿したエッセイの中で、サダム・フセインの没落についてこれを「大いなる喜びとする」というニュアンスの主張をしていた。フセインという独裁者の残忍さにふれて「あんなヤツ、いなくなって良かった」と言ったわけですが、彼は同時にその当時のドイツ国内では主流の世論であったイラク戦争反対の意見に対してこれを批判する意味のことを書いていたのだそうです。
そしてエンゼンバーガーのエッセイを読んだクリスチャン・ホフマンは少数ながらも自分の意見を主張する作家に大いに感銘を受けた。それだけではない。ホフマンは英米によるイラク爆撃が開始される直前にイラク北部のハラージャ(Halabja)というところを訪問、フセインによるクルド人虐殺(1988年)についての証言を聞くに及んで、戦争には反対であるけれど独裁者(フセイン)の崩壊そのものは大いに喜ぶべきことであると確信していたのだそうです。
しかし2014年の今になって考えると、あの当時戦争に懐疑的だった意見が正しかったようだ、とホフマンは感じている。あの当時、反戦論者たちは、戦争の結果20万人を超える死者が出ると予想していたのですが、エンゼンバーガーはこれを一笑に付していた。そんなに死ぬわけないということです。しかしいろいろな調査を見ると、あれからの11年間で戦争に関連して死んだ人間は20万人を超えているし、何よりもイラクおよびその周辺全体が混乱と無政府状態に放り込まれ、それがイスラム国の台頭をうながしているではないか・・・とホフマンは思っている。
- 独裁者がいなくなったことについて有難いと思うべきだという理由も多くある。犯罪者が政権の座にあるということがなくなっただけでも結構なことではないか。さらに、民主主義はこれから根付く可能性だってある。人によっては、どんなものであっても独裁政治よりはマシだという意見だってある。
There are many reasons to be gratified by the end of a dictatorship. For one, it means that a criminal is no longer in a position of power. And there's the prospect that democracy could take root in its stead. Some people also believe that anything is better than despotism.
しかし(とホフマンは言います)「どんなものであっても独裁よりはマシ」という考え方は正しくない。最近のイラクを見ると、独裁とか自由の欠如とか抑圧などよりもさらに悪い状態にある。それが内戦と混乱(civil war and chaos)であるということです。彼によると、今の世界で「落第国家」(failing states)とされる国々を見ていると、独裁者を打倒したから必ず民主主義が来るというものではないということがわかる。独裁のあとに無政府状態が来ることがあまりにも多いではないかということです。別の言い方をすると、これからの世界は「民主主義国家vs独裁国家」ではなくて、「機能国家vs不機能国家」(functioning and non-functioning states)という対立軸になるのではないか・・・とホフマンは考えている。
「大切なのは秩序なのだ」(Rule is order)とのことで、国家というものが秩序を保てなくなったとき無秩序・無政府の危機が迫るとホフマンは言うのですが、17世紀英国の思想家であるトマス・ホッブスはこれを
"war of every man against every man" (万人の万人に対する戦争)と表現しているのだそうです。ホッブスによると、そのような状態になった人間(国民)を手なづける(taming)のが国家の役割である。
冷戦時代を振り返ってみると、西側諸国にとっての脅威はすべて共産主義に関係するものであり、いわゆる「不機能国家」やテロ組織などではなかったのですよね。あの時代は西側民主主義vs社会主義独裁国家との対立という構図であったのであり、「独裁」の反対は「民主主義」だったわけです。1990年代を彩った東欧諸国の革命がそのことを確証している。つまり東欧の社会主義独裁の場合は、それに取って代わったのが無政府状態ではなく民主主義であったということです。
- このことがある幻想を生んだ。すなわち民主主義にとっての障害物を除去すれば、社会はほぼ自動的に民主主義になるという幻想である。
This created the illusion that one merely had to remove obstacles for democracy to appear, almost automatically.
ロシアを見ろ、とホフマンは言います。ソ連時代の独裁体制は打倒され、そこそこ民主主義的な選挙と経済の民営化が行われたけれど、ロシアの場合は法の支配というものが根付くことがなく、権力者の気まぐれや汚職などが国家を支配するようになってしまった。そしてチェチェンが独立を求めて戦うようになり、その意味ではロシアという国家そのものが崩壊を始めてしまった。そんなときにエリツィンに大統領を託されたのがプーチンだった。プーチンの仕事はロシアという国家の機能を回復することだった。ただロシア人の間では厳重な独裁体制を敷いたブレジネフ時代を懐かしむ声がいまでも極めて強いのだそうです。自由もなかったし民主的でもなかった、でも安定はしていたというわけです。、
ここで極めて素朴な質問。
- 安定しているということはそれ自体で価値のあるものなのか?
Is stability a value in and of itself?
世の中、安定さえしていればそれでオーケーということなのか?これに対して「もちろんそうだ」と肯定的に答える人は、cynics(皮肉屋、悲観論者)と言われることが多い。自由や人権よりも国家としての安定が大事だという意見です。そして少なくともアナキー(無秩序・無政府)よりは独裁の方がマシだという人は結構いる。機能する独裁政治と機能を失った国家では前者のほうが「悪さ加減が少ない」(lesser evil)という意見の方が多いはずだ、とホフマンは言う。
このような態度を「遅れている」(backward)とするのは簡単ではあるけれど、それは欧米の「快適なる民主主義」に浸っている人間の言うことであるとして、彼とイラン人の友人との会話について語ります。イスラム教が嫌ならなぜ現在のイスラム体制に反抗しないのか?という彼の問に対するイラン人の答えは極めて単純で、「革命など起こそうものなら物事はさらに悪化する」というものだった。イランでホメイニ師を指導者とする革命が起こったのはわずか35年前のことであり、そのときの混乱を思えば、現在の安定の方がよほどマシであるということです。社会が不安定になると、人びとが何を犠牲にしてでも「安定」を求めることは歴史的にも数多くあった。ドイツではワイマール共和国(1919年~1933年)のあとにヒットラーが登場したし、ロシアにおけるスターリニズムの台頭はロシア革命とそれに続く内戦状態を前提にしていた。アフガニスタンでは侵略したソ連の撤退後の混乱に乗じてタリバンが登場した。そしてイラクではイラク戦争後の混乱に乗じてイスラム国が勢力を増大させた。
イラクにおける民主化の失敗とシリアにおける「アラブの春」の失敗がイスラム国を招いたというわけです。イラクでもシリアでも近い将来において民主主義が花咲くとはとても思えない。それが現実というものだ。そのように見ていくと、シリアにとっての最善の策はシリア軍による反アサド・クーデターのようなものかもしれないとホフマンは主張します。それによって独裁者のアサドが追放される一方で軍という国家の中枢そのものは安泰でイスラム国と戦う体制が保たれる。一挙両得というわけですね。
しかし軍事クーデターの薦めのような発想は必ずしも健全なものではない。それは取りも直さず欧米の価値観(民主主義、自由など)を「輸出」することができないという限界を認めざるを得ないということだからです。混乱よりは独裁の方がマシという考え方は、欧米の企業が独裁者を相手にビジネスを進める際の言い訳にも使われている。
ただ、それでもその種の考え方が「間違っている」(wrong)と言い切ることもできない、とホフマンは主張します。平和基金(Fund for Peace)という国際機関の調査によると、崩壊の危険性のある国が2006年からの8年間で9カ国から16カ国へと増えている。一方でFreedom HouseというNGOの調査では、冷戦の終焉に伴って1990年代には自由主義国家がかなり増えたことはあったけれど、1998年以後はほとんど増えていないのだそうです。
- 民主主義が機能するのは最小限の安定が確保された状況においてのみである。しかも民主主義それ自体にはこの安定を確立する能力があるとは限らない。
Democracy can only function in an environment where there is at least a minimum of stability. And it cannot necessarily establish this stability itself.
確かにイラクやエジプトにおける民主化の動きは今のところは挫折しているように見える。ヨーロッパのように何百年にもわたって民主主義を試行錯誤してきたところは例外として、それ以外のところでは独裁者が打倒されて選挙が実施されたというだけでは民主主義が確立されたということにはならないというのが現実である、とホフマンは言って
- 民主主義というのはそういうものなのだから、欧米諸国はこれまで以上に「機能国家」という存在を認めるべきなのである。
As such, the West should value functioning states to a greater degree in the future.
と主張します。欧米にとってはロシア、中国、中央アジアなどのエリアにおける独裁的な政治のあり様は望ましいものとはうつらないかもしれないが、それを打倒した後に何が来るのかということを慎重に考える必要があるということです。イラクにおいてイスラム国を空爆することについてオバマ大統領は最初は大いに慎重であったわけですが、8月8日付のNew York Timesとのインタビューの中で自分は常に次のように自問自答することにしていると述べています。
- 我々(アメリカ)は軍事介入を行うべきだろうか?(それを行ったとして)その後に来るものについての答えはあるのだろうか?
Should we intervene militarily? Do we have an answer (for) the day after?
ブッシュとブレアのコンビが2003年に敢行した軍事介入の後にイラクに起こったのは無政府と混乱だけだったではないか・・・これがオバマの自問自答のテーマなのだろう、とホフマンは言っています。そして2003年当時のドイツにおいて英米軍によるフセイン打倒を支持する発言をした作家のエンゼンバーガーは、今年の8月にポツダムで行われた文学祭において、あの発言は「完全に失敗だった」(fell heavily on my face)と認めたのだそうです。
▼クリスチャン・ホフマンのこのエッセイについて、同じシュピーゲル誌のローというコメンテイターが「無政府状態よりも機能的独裁政治の方がマシだ」というホフマンの考え方は間違っているという記事を書いています。この人の意見によると、ホフマンが最も避けるべきだと言っている「無政府」や「混乱」も結局は独裁政治の結果として生まれる(Dictatorships and Chaos Go Hand in Hand)ものであるというわけです。
▼イラクやリビアやシリアなどのハナシになるとピンと来ないかもしれないけれど、さして機能しているとは思えない北朝鮮の場合はどうなのか?ブッシュやブレアがやったように武力で独裁者をやっつけるというやり方によって生まれる可能性がある無政府状態と現在の独裁政治のどちらを許すべきなのか・・・こういう選択肢だと後者の方が「悪さ加減が少ない」(less bad)ということになるかもしれない。
▼ヨーロッパやアメリカでは、イラクのフセイン、シリアのアサド、リビアのカダフィらはいずれも「悪者」の代名詞のように言われており、ホフマンのように
"less bad" という評価はあっても積極的に「フセインは立派だった」という意見はゼロです。しかしこれらの「悪者独裁者」はその国の人びとの支持があってこそ君臨していたという事実はどのように評価するつもりなのか?支持したイラク人やシリア人がアホであったということ?ということは、欧米人は「正義の味方」であった、と。そういうこと?自分たちだけが常に正しいってことですね?
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5)テレサ・メイの研究:キャメロンの後継はこの人、かな?
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これまでにも何度か触れたことですが、来年(2015年)5月7日は英国における総選挙の日です。現在の保守党党首はデイビッド・キャメロンですよね。彼が来年の選挙の前までに辞任でもしない限り保守党はキャメロン党首で選挙を戦うことになる。そして今のところキャメロンが辞任するという話は全く報道されていない。が、仮に次の選挙で保守党が敗れるようなことがあったらどうなるのか?当然、キャメロン党首の責任を追及する声が党内で出てくる→キャメロンが辞める→次期党首が選ばれるとなりますよね。
で、いまから注目されている次期党首候補の一人がテレサ・メイ(Theresa May)現法務大臣(Home Secretary)です。いまのところ彼女以外に名前があがっているのは、ジョージ・オズボーン(George Osborne)現財務大臣(Chancellor of the Exchequer)とロンドン市長のボリス・ジョンソン(Boris Johnson)ですが、最近(9月28日~10月1日)開かれた保守党大会でテレサ・メイが行った演説が大変な評判となり、これまで以上に注目が集まっているというわけであります。
まずテレサ・メイの略歴を簡単に紹介しておくと、1956年生まれの58才だからキャメロンよりもちょうど10才年上です。オックスフォード大学で地理を専攻したけれど、卒業後はイングランド銀行など金融関係の職場で働き、30才でロンドンの区議会議員(1986~1994年)になったことが政治家としての第一歩だった。
1992年に国会議員(保守党)に立候補したけれどこれは落選。尤も立候補した選挙区が北イングランドのダラムという典型的な労働党の地盤だったから、党としてはいわば「練習」のつもりだったはず。1997年、今度は南東イングランドのバークシャーにあるメイドンヘッド(Maidenhead)選挙区から立候補して初当選。39才だった。その5年後の2002年には英国保守党史上初の女性幹事長(Party Chairwoman)に就任しています。2002年から1年間つとめたのですが、その年に開かれた保守党大会で幹事長として演説、次のくだりが物議を醸す。
- 確かに我々は進歩しました。しかし自分を誤魔化すのは止めましょう。我々が政権に復帰するにはまだまだ道は遠いのですよ。自分たちの党の中でやらなければならないことがたくさんあるのです。支持基盤があまりにも狭いし、自分たちだって視野は広くない。この党がなんと呼ばれているか知っていますか?薄汚い党、そう呼ぶ人たちもいるんですよ。
Yes, we've made progress, but let's not kid ourselves. There's a way to go before we can return to government. There's a lot we need to do in this party of ours. Our base is too narrow and so, occasionally, are our sympathies, You know what some people call us: the nasty party.
最後の "nasty party" という言葉が問題になった。nastyというのは、「汚らわしい」とか「見るだけで不愉快」などという、ほぼ最悪と言っていいくらいのけなし言葉であるわけで、「いくらなんでも言いすぎだ」と党内からも反発があった。ただその頃の保守党は、若い女性幹事長にnasty呼ばわりされてもやむを得ない状態ではあった。1979年のサッチャー政権から18年も続いた政権を97年に労働党に奪われ、2002年の選挙にも敗れてしまって、若き宰相・トニー・ブレアの「新しい労働党」(New Labour)の華やかさに押されて「万年野党」の雰囲気さえ出てきてしまった。そしてメイ幹事長が訴えたのが保守党の変革であり、その中で「薄汚い党」発言が出てきてしまったというわけです。
そのころの政治的な雰囲気を振り返っておくと、労働党が万年野党を脱した1997年の選挙でブレアが訴えた「新しい労働党」とは、それまでの労働党を右寄りにするというものだった。古臭い左翼思想にこだわっていたのではいつまでたっても野党でしかない・・・というわけで産業の民営化のような保守党的な路線を取り入れた。そして2002年にメイ幹事長が訴えた保守党変革とは、労働党と反対に保守党を左寄りにしようとするものだった。いわば「進歩的保守党」ですね。そのような流れに乗って2005年に党首になったのがデイビッド・キャメロンであるわけです。
保守党は2010年の選挙でようやく政権に復帰するのですが、テレサ・メイはキャメロン政権で法務大臣となり現在に至っている。今年9月にキャメロン内閣の改造が行われた際に、絶対に交代はないとされた大臣が二人いた。一人はオズボーン財務大臣でもう一人がテレサ・メイだった。
で、大評判だったという保守党大会におけるテレサ・メイの基調講演ですが、主なるテーマが二つあった。一つは警察官と市民の関係、もう一つは国内で起こるかも知れないと言われているイスラム過激派によるテロ行為についてです。いずれも法務大臣に直接関わりのある話題です。
最初に語ったのが警察官による職務質問のあり方で、次のような出だしだった。
- この会場にいる私たちのほとんどは、警察官による職務質問の効果について本当に分かってはいません。なぜなら我々のほとんどが白人であり、然るべき年齢の人間だからです。もはやティーンエイジャーではないからです。
It’s difficult for most of us here in this hall to really appreciate the effects of stop and search. You see, most of us are white. Most of us are of a certain age. Well, we’re certainly not teenagers anymore.
つまり非白人の若い人たちは警察官によって呼び止められて体中を触られて身体検査をされることが多いということに注目して欲しいと言っている。何もしていないのにこのような侮辱を繰り返しされてご覧なさい、というわけです。
- 想像してみてください。心の底で何を感じると思います?こんなことをされるのは、自分が若くて、男で、そして黒人であるから・・・。
And imagine what it’s like to feel, deep down, that this is only happening because you’re young, male and black.
警察官による職務質問や身体検査がすべて違法というわけではないけれど、そのような行為の結果として逮捕にいたるのは10%、黒人がこのような仕打ちを受ける確率は白人の6倍、しかも職務質問の27%が「疑うに足るそれなりの根拠」(reasonable
grounds for suspicion)もないのに行われている、つまり違法の職務質問が年間約25万件にものぼる・・・とテレサ・メイは語ります。Guardianの記者によると、党大会に出席した保守党員にとって最も気に障る(uncomfortable)語りであったわけ。
彼女が次に語ったのが、イスラム国による「怖しいテロ活動の脅威」(deadly terrorist threat)だったのですが、テレサ・メイがむしろ力を入れたのは、テロリズムのもとになる「過激思想」(extremism)の脅威だった。
- 不寛容、憎しみ、他者に対する優越感・・・このようなものを振りまく過激思想が、自分たちの価値観を暴力的に押し付けようとする人たちの行動に結びついているということはある。それには疑問の余地がない。
There is, undoubtedly, a thread that binds the kind of extremism that promotes intolerance, hatred and a sense of superiority over others to the actions of those who want to impose their values on us through violence.
つまり世間のいわゆる「イスラム過激派」「イスラム・テロリスト」などのことを言っているのですが、テレサ・メイは、過激思想とイスラムは全く無関係である、と訴えます。
- 本当のことを言いましょう。彼ら(イスラム国)はイスラムではないし、国家でもありません。彼らの行動はコーランに書かれていることとは何の関係もありません。彼らが信じていることは、世界で10億以上もいるイスラム教徒の信仰とは全く違うものです。
I will tell you the truth: They are not Islamic. And they are not a state. Their actions have absolutely no basis in anything written in the Quran. What they believe has no resemblance whatsoever to the beliefs of more than a billion Muslims all over the world.
メイ大臣は、いわゆる「過激派」の憎しみの思想(hateful ideology)は英国に「分離と差別とセクト主義」(separation, segregation
and sectarianism)をもたらそうとするものだ、としてコーランに出ている
- 宗教に押しつけがあってはならない。
Let there be no compulsion in religion.
という言葉を引用しています。
彼女の演説を取材したGuardianの記者は、メイ大臣が会場で参加者からもみくちゃにされて身動きができず、保守党大会にしてはロック歌手のような人気だったと伝えています。クリックして見ると面白いと(むささびが)思うのは次の3つです。
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6)どうでも英和辞書
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A-Zの総合索引はこちら
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minimum wage:最低賃金
英国における最低賃金は時給で6.50ポンド(21才以上)であり、来年の選挙を控えてキャメロン政府はこれを引き上げようとしているのですが、そうした折も折、政府の福祉改革担当大臣(Minister
for Welfare Reform)の立場にある人物が「障害者には全額払う必要はないのではないか」(they’re not worth the
full wage)とか「時給は2ポンドでもいいかも」(someone wants to work for £2 an hour)などと発言して大問題になっています。
発言したのはLord Freudという貴族院議員で、9月末に開かれた保守党大会の関連イベントで参加者からの質問に答える中での発言だった。この人はかつて銀行関係の仕事をしており、そのころから失言癖で有名だったという説もあるのですが、この問題を国会で取り上げた労働党のミリバンド党首はキャメロン首相への質問で
- まさか、こんな考え方の人があなたの政権に居座るということはないですよね?
Surely someone holding those views can't possibly stay in your Government?
と迫る。さすがにキャメロンはその場で「クビにする」とは言わなかったけれど「あの発言は自分の政府の見解ではない」と強調したのですが、ミリバンド党首がさらに障害者の福祉について追及すると
- 障害者の福祉について誰からも教えを受ける必要はない。従ってその件についてはこれ以上は聞きたくない!
I don't need lectures from anyone about looking after disabled people, so I don't want to hear any more of that.
と声を荒げる一幕もあった。かつてキャメロンには障害をかかえた息子がいたのですが、2009年に6才で失ったという辛い経験もある。ミリバンド党首とのやりとりはここをクリックすると見ることができます。この失言をしたフロイトという大臣はブレア政権でも財政問題のアドバイザーをつとめたことがある。64才。なんとあの心理学者のシグモンド・フロイトのひ孫にあたる人なのだそうです。
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7)むささびの鳴き声
▼自民党の河野太郎衆議院議員から一か月に一度「マンスリーニュースレター」というのが届きます。これがけっこう面白いのであります。最近受け取ったニュースレターの中に「マスコミの矜持」というエッセイが載っています。河野さんはいまから2年前に牧野洋さんというジャーナリストと共著で『共謀者たち』という本を出したけれど「あまり話題にならなかった」と言っている。この本はサブタイトルが「政治家と新聞記者を繋ぐ暗黒回廊」となっているところを見ると、新聞社の政治記者と政治家の関係について語っているらしい(むささびはまだ読んでいない)。河野議員によると、その本の中で訴えたことの一つとして
- 発表が決まっていることを数日前にスクープするのは正しいジャーナリズムではない。
というのがあった。
▼今年の9月3日に安倍内閣の改造というのがありましたよね。あの場合、新しい閣僚が9月3日に発表されるということが予め分かっていたのに「驚くほど事前に記事が書かれました。そしてその確度はかなり高かったのです」と河野さんはニュースレターで言っている。河野さんが例として挙げているのは次のような記事です。
- 8月26日・産経新聞:「安保相、江渡氏で調整」「岸田外相は留任へ」
- 8月28日・読売新聞:「拉致問題相 山谷氏起用へ」
- 8月29日・朝日新聞:「石破幹事長、入閣へ」
▼これらはいずれも新聞の第一面に掲載された記事の見出しです。河野さんは産経、読売、朝日、東京の各紙を例として挙げているのですが、この種の見出しが第一面に載った回数でいうと、8月26日から9月3日までの9日間で最も多かったのが産経新聞で7回(記事:20件)、二番目が読売新聞の6回(18件)、三番目が朝日新聞で3回(7件)だった。変わっているのは東京新聞で、改造人事発表の9月3日当日の紙面に「主要6閣僚留任」、「安倍内閣きょう改造」という記事を載せただけだった。
▼河野さんによると、発表前に記事が書けるということは、記事のもとになる情報をリークしてもらえたという意味でもある。そのためには記者が常日頃から情報源と深い関係を作っておく必要がある。さらにそのためには情報源から信頼されなけばならない。情報源にとって悪いことをしない記者であると思われること・・・これがここでいう「信頼」です。
- ということは、その記者は、その情報源が悪いことをしても、それを記事にすることができなくなります。取材対象を批判的に見るのではなく、取材対象と同一化していかなければリークをもらえないのです。それはジャーナリストとしてあるべき姿ではないというのが我々の主張です。
▼河野さんによると、閣僚を任命するのは首相であり、内閣改造についての情報の出どころは首相官邸に決まっている。ということは官邸からリーク情報を貰い続けようとすれば「官邸との距離感はおのずと決まっていきます」というわけであります。そして新聞社や放送局自体が、その種のリークによるスクープを評価する(第一面に掲載したりすること)ということは、自分の会社の記者たちに対して「批判的な立場を忘れて、取材源とグルになれと言っているのと同じ」であると・・・。
▼河野さんは立場上、記者たちと接触する機会が多いと思うのですが、その彼の観察によると安倍内閣の改造人事についてメディア各社が気にしていたのはNHKだった。NHKが流す入閣情報は間違いないという評価であったそうです。「NHKと官邸の距離感がよくわかる」と河野さんはコメントしています。リークする側もされる側(NHK)も「一蓮托生」のつもりなのでしょうね。
▼で、組閣人事に関する報道を第一面においては当日まで全くしなかった東京新聞ですが、それは官邸からリークをしてもらえなかった(つまり首相官邸の記者クラブのようなところで冷遇されていた)ということなのでしょうか?そのあたりのことが気になって、知り合い(東京新聞の関係者)に聞いたところ、嘲笑されてしまった。すなわちスクープというのは「お上が隠していることを暴くものであって、お上が発表したいことを先取りする記事はスクープではない」とのことでありました。内閣改造報道については、入閣するとされる人物が何をするのか、どんな人間なのかを伝えることは意味があるけれど、「人名だけ報道することがどれだけ大事なのか」と言われました。つまり読者が知るべきなのは「拉致問題相 山谷氏起用へ」ではない。山谷という人が大臣になると何がどうなるのかということなのだ、というわけです。
▼この人の言うとおりだと(むささびは)思うのですが、では産経や読売の皆さんはリーク情報をなぜ大きく扱ったのでしょうか?第一面に掲載する価値がある思ったのですよね。なぜそう思ったのか?おしえてくんなまし(と急に意味もなく「おいらん言葉」になる)。
▼河野さんの言うところによると(例えば)読売新聞の記者に首相官邸の誰かが「拉致問題相 山谷氏起用へ」という情報をリークしたわけですが、リークした人間は読売が記事にするであろうと期待して漏らしたのですよね。そこで情報をもらった側がこれを記事として使わなかったら、記者とリーク人間の関係はどうなるのでしょうか?「これからはあの記者にリークするのは止めよう」ってことですか?いずれにしても何やら疲れる(アホらしいという意味)世界のようではあります。
▼ちなみにここをクリックすると、コロンビア大学のジェラルド・カーティス教授が日本の政治メディアについて語った講演について書いてあります。だんだん寒くなります。お元気で! |
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