3月ともなると、さすがに春らしくなりました。梅の花が満開という感じだし、空気もどこか穏やかになっているし・・・。つまりこの冬の関東地方は、昨年のような大雪はない、と?そう願いたいですね。みなさまのところは如何でありましょうか?関係ありませんが、本日(3月8日)はあの忠犬ハチ公の命日なのですね。1935年というから、ちょうど80年前に亡くなったのだそうです。 |
目次
1)語学不足で290億ポンドの損!?
2)自分自身の過去にも向き合わない国?
3)「ジハディー・ジョン」って何者?
4)シリアへ消えた「三人娘」の評判
5)「EU離脱は英国の解体に繋がる」という見方
6)どうでも英和辞書
7)むささびの鳴き声
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1)語学不足で290億ポンドの損!?
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2月28日付のThe Economistに
- 未だに続く嘆かわしい言語教育
A woeful approach to language education continues
という記事が出ています。ウェールズに本社を置くエリーズ・マグネティクスという産業機器メーカーの輸出部門が、さらに海外での売り上げを増やそうと、最近、新入社員を3人採用した。一人はロシア語、ポーランド語、ドイツ語を話せるリトアニア人、もう一人はフランス語が話せるイタリア人、そして三人目はスペイン語とポルトガル語ができるベネズエラ人だった。3人ともこれらの言語に加えて英語が堪能なのだそうです。もちろん自分の母国語も。同社によると、まともな外国語ができる英国人は応募者の中にはいなかったのだとか。
3年前の2012年に欧州委員会(European Commission)が、EU加盟国の中の14カ国における14~15才の学生5万4000人を対象に外国語能力(foreign-language
proficiency)についてのテストを行ったことがある。トップに来たのはスウェーデンで82%の学生が「自由に使える」というレベル、14カ国の平均は42%だった。最下位が英国で、外国語が「自由に使える」学生はわずか9%だった。
なぜ英国の若者たちは外国語とくると、かくも弱いのか?ほかの国の若者にとって「外国語」(第二言語)は大体において英語であるのに対して英国の学生たちは、第二言語なんて習得しなくても世界中どこでも英語が通じるのだから、わざわざ外国を勉強する必要がないという感覚が強い。学生たちだけではない、政府でさえも若者たちの外国語習得には大して熱意があるとは思えない。2004年、当時のブレアの労働党政権が14才の子供の授業で「外国語」を必須科目から外してしまった。おかげで16才の子供たちがすべて受けなければいけない全国学力テスト(GCSE)において外国語を選択する者の数が半分に減ってしまった。
ただ2010年に発足した現政権によって、各学校の学力比較の対象科目として英語(English)以外に言語(language)が入れられたことで、外国語の授業を行う学校が増えて、全国学力テストの選択科目として外国語を選ぶ学生も2割ほど増えた。なのに来年(2016年)から新しい教育計画が実施される中で外国語は必須ではなくなってしまう可能性が高いのだそうであります。
The Economistの記事によると、英国の大学受験生でフランスもしくはドイツ語で受験する学生は20年前に比べると半分に減っている。そればかりではない、語学の学位を設けている大学の数はドイツ語で50%、フランス語で40%も減少しているのだそうです。多少伸びているのはアラビア語と中国語ですが、それも未だごく少数にすぎない。
要するに英国では外国語が使える人材が非常に少ないということです。2012年に英国商工会議所が英国企業8000社を対象に調査したところ、なんと96%の企業が外国語を話せるスタッフがいないと答えており、特に海外に販路を求めようとする会社にとって「外国語」がネックになっていることが明らかになった。企業の世界だけではない。英国の人口はEU全体の12%を占めるにもかかわらず、ブラッセルのEU本部で働く職員のうち英国人はわずか5%。ドイツ語もしくはフランス語を操れる英国人が余りにも不足しているからなのだそうです。
The Economistの記事はまた外国語ベタと経済成長についても触れています。ウェールズにあるカーディフ大学のフォアマン=ペックという経済学の教授が、言語の障壁が故に失われた国際貿易上の収入について「総言語効果」(gross
language effect)という概念を思いつき計算したところ、2012年において英国は590億ポンド(約10兆円)の損失であったそうであります。
キャメロン政府としてもこれではいけないと思っており、昨年(2014年)になってすべての小学校は外国語を一つは教えなければならないという方針を打ち出しているのですが、The Economistは
- 大学卒業者で外国語を学んだ人間の数が非常に少ないということを考えると、早い時期に子供たちが(外国語を)学び始めるのはいいことではあるにしても、一体誰が教えるのか?という疑問につき当たる。
Getting children started at a young age is admirable. But, with so few language graduates coming out of universities, who is going to teach them?
と言っています。
▼日本の文科省が小学校から英語を教えようというのと、英国の政府が子供の頃から外国語をというのでは言っている大人たちの姿勢が違うと思いません?英国の場合、どれほど深刻に考えているのか、疑問ですよね。
▼それにしても、世界中どこへ行っても自分たちの言葉が通用するというのはどんな気分なのですかね。楽には違いないけれど、その分だけアタマを使わないのだから言語的な脳は衰退せざるを得ない。必ずしもいいこっちゃないよね。 |
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2)日本:自分自身の過去にも向き合わない国?
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3月7日付のThe Economistに「日本と過去」(Japan and the past)という見出しの記事が出ています。サブタイトルが「消化不良の歴史」(Undigested
history)となっており、イントロが次のようになっている。
- 犠牲者としても侵略者としても、日本は自分の過去を直視することに困難を感じる国のようだ。
Whether as victim or as aggressor, the country finds it hard to face up to the past
日本はこれまでは韓国や中国から、第二次大戦における侵略行為を反省していないという批判を浴びてきているけれど、この記事が取り上げているのは「犠牲者としての日本」です。第二世界大戦では大変な人命を失っているのに、その部分をしっかり記憶も記録もしていない部分があると言っている。戦争中に爆撃を受けて多くの人命が失われた主な都市を比べると次のような数字が明らかになる。
The Economistによると、英国の場合、ロンドン以外の都市爆撃による死者数は2万人とされている。 日本の場合は東京以外では20万人が命を落としたと推定されている(広島・長崎の21万4000人を除く)。この記事が特に比較しているのが東京とドイツのドレスデンの場合です。
英国空軍によるドレスデン爆撃はヨーロッパでは大いに関心を集めたのに、規模の点では前例を見ないような米軍による日本の民間人の殺害は欧米ではそれほどの忌避反応は引き起こすことがなかった。70年後の今年でさえもヨーロッパではドレスデン爆撃を思い出すための行事が行われた。なのに東京には公的な資金によって作られた記念館のようなものさえない・・・というわけで、The
Economistは今年で83才になる作家・早乙女勝元氏が民間レベルで行っているささやかな資料館(東京大空襲・戦災資料センター)のことを紹介しています。
The Economistの記事によると、戦後の日本においてはアメリカに遠慮して東京空襲について申し立てることがなされず、公的な資料館を建設する動きも保守勢力によって1990年代に潰されてしまった。展示される資料の中に戦争犯罪に関する記述が含まれており、これが「非愛国的かつ自虐的」(unpatriotic
and “masochistic”)とされてしまったことが原因だったとThe Economistは書いています。
▼戦後70年の首相談話とかいうものが話題になるとき、殆どの場合、中国や韓国との関連で語られますよね。あの戦争を遂行した当時の日本の指導層が日本人の安全や保護について何を考えていたのかという点は殆ど語られなくなってしまった。彼らの戦争責任は近隣諸国に対してもあるかもしれないけれど、日本人に対しても大いにある。「アメリカが残酷だった」と言うかもしれないけれど、そのようなアメリカの「残酷さ」に自国民をさらした責任はどのようにとるつもりだったのか?東京裁判は勝者が敗者を裁いた不公平なものだと聞いたことがあるけれど、本当は日本人が彼ら(日本の戦争指導者たち)を裁くべきであったのですよね。
▼東京の人びとの苦難を公的なものとして遺すこともせずに、靖国神社へ行って「戦争で命を落とした人びとに敬意を表する」なんてこと言っている・・・そんな人物を首相にしているのだから、日本人も大したものではありませんか?外国に対して謝罪を続けることを「自虐的」と言う人たちがいるけれど、自分たちの親戚が殺されたのに、そのきっかけを作った指導者を糾弾せずに黙っている方がよほど自虐的ですよね。 |
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3) 「ジハディー・ジョン」って何者?
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2月27日付のProspect誌のサイトに
というエッセイが出ています。ジハディー・ジョンはイスラム国が人質をとったときに、必ずナイフを持って動画に出演して殺しのメッセージのようなものを告げる、あの人物で、最近その正体が明らかにされましたよね。Prospect誌にエッセイを寄稿したのはマアジッド・ナワズ(Maajid
Nawaz)という英国の社会活動家なのですが、この人自身、かつてはイスラム過激派としての活動を行っていたけれど最近では、極端な過激思想(extremism)に走る組織に反対するQuilliamというNPOを立ち上げて活動しています。
ジハディー・ジョンと呼ばれている人物が「クエート出身のロンドン在住者で、名前をモハメッド・エムワジ(Mohammed Emwazi)」ということで明らかになったことで、英国メディアが大騒ぎしており、正体が分かっただけで何やらほっとしたような気分があることは事実なのですが、マアジッド・ナワズによると、実はこの人物の正体が明らかになり、その生い立ちなどが詳しく知られたとしても、あまり意味のあることではない。なぜなら「ジハディー・ジョン」はあくまでも「ブランドであって人間ではない」(a
brand not a man)からだ、というのです。
「ブランドであって人間ではない」という言葉の意味は、モハメッド・エムワジという名前のクエート人は実在する生身の人間かもしれないけれど、「ジハディー・ジョン」はイスラム国による「聖なる戦い」のシンボルであるということです。オバマさんや安倍さんが言うように、この男を捕まえて「罪の償い」をさせたとしても次なるジハディー・ジョンが出てくることは間違いない。あのオサマ・ビン・ラディンが殺されてアメリカ人は欣喜雀躍であったかもしれないけれど、彼が体現したアルカイダのような発想そのものは全く死んでいなかったことでもそれが分かるではないかというわけです。マアジッド・ナワズが言うのは「ジハディー・ジョンによって体現される過激思想の根っこを絶やすことが重要」(it
is important to extinguish the root causes of extremism)ということです。
どのようにすれば、イスラム国を支える過激思想を根絶やしにできるのか?という問題になると、マアジッド・ナワズも抽象的にならざるを得ないようなのです。彼が強調するのは教師の役割で、若者たちに対して自由、他者への寛容さ、民主主義などの価値観をしっかり主張することだと言います。またコミュニティ・レベルではさまざまな宗教グループが社会と一体化できるような支援を行うことも挙げられている。
- このような取り組みによって過激主義の存在を減らすことができるし、近い将来においてはモハメッド・エムワジのような過激派への参加の呼びかけに対してはっきりしたビジョンをもって「ノー」と言えるようになるだろう。
These measures should greatly reduce the existence of extremism and in the nearer future, at least give potential recruits to extremist groups, such as Mohammed Emwazi was, the clarity of vision to say “no.”
とナワズは言っています。
英国におけるイスラム教の人口は2011年現在で約280万人だったのですが、2001年における人口が155万人であったことを考えると10年間で130万人の増加ということになる。さらに特徴的なのは年齢が若いことで、イスラム人口の3分の1が15才以下となっています。また英国における宗教人口の内訳はキリスト教徒が59.5%で一番多いのは当たり前なのですが、無宗教というのが25.7%とけっこういる。そしてイスラム教は4.4%でヒンズー教徒(1.3%)よりもはるかに多く、存在感を示しています。
▼英国のメディアでは、「ジハディー・ジョン」ことモハメッド・エムワジという人物のことがいろいろと書かれているのですが、マアジッド・ナワズの言うとおり、その種の記事は読者の好奇心は満足させるかもしれないけれど、いま問題なのはこの人物がどのような生い立ちであったかということではなく、彼の極端な思想そのものをどうするのかということですよね。アメリカ政府などは、「本日はXX人のイスラム国戦士を殺した」という発表をしているけれど、彼らを何人殺しても思想そのものが死ぬわけではない。その思想そのものを何とかしなければ「「ジハディー・ジョンは永遠に不滅です!」ということです。むしろ有志軍による「空爆」で間違って殺されてしまう市民のことはどう考えているのか、とオバマに聞いてみたいよね。 |
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テロリストは軍隊では負かせない |
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4) シリアへ消えた「三人娘」の評判
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このむささびジャーナルが出るころに、あの人たちがどうなっているか分からないけれど、ロンドンの若い女子学生(15~16才)が3人失踪し、トルコ経由でシリアのイスラム国支配地域に入ったというニュースは日本でもかなり報道されましたよね。3人とも学力テストでは「全科目A」(straight-A )という超優秀学生のイスラム教徒だった。
イスラム国の戦いにヨーロッパの若者が馳せ参じるという傾向についてはむささびジャーナル312号でドイツの例を紹介しました。英国のこの3人の若者たちについては、両親がメディアを通じて帰ってくるように呼びかけるなど、かなりの騒ぎになっていた。テレビのトーク番組に出演したウィリアム・ヘイグ前外相は、「空港の監視カメラの数を増やして、このようなことが起こらないようにすべきだ」と言われ、「政府に監視カメラを増やせという要求が出るのは珍しい」とコメントしたりしたのですが、3人の若者たちの行動そのものへの意見は(むささびの見た範囲にすぎないけれど)あまり報道されていなかった。数少ないコメント風の記事の一つが2月23日付のGuardianに出ていた
というエッセイだった。書いたのはマリー・デジェフスキー(Mary Dejevsky)という女性のコメンテーターなのですが、次のようなイントロが彼女の意見を要約しています。
- ここは自由な国なのだ。ロンドンの学生たちがシリアへ旅立ったとしてもそれは国を挙げて大騒ぎするようなことではない。あくまでも家庭の問題だ。
This is a free country, and the departure of the London schoolgirls - presumably for Syria - is not a cause for national breast-beating but a family matter.
3人に帰国を呼びかける家族たち。 |
個人の旅行を国家が規制するべきではないし、出国規制を厳しくしても実際の効果は疑わしいというわけですが、むささびが興味を持ったのは、普通の英国人が3人の行動についてどのように思っていたのかということだった。というわけで、このエッセイに寄せられた読者からのコメント(2700件以上)をいくつか紹介してみます。ネットへの書き込みの場合、必ずしも「英国人」とは限らないのですが、それでも主語が「我々」(we)となっている書き込みには英国人が多いのではないかと思う。
- 自由な国だというのに出国規制など設ける必要はない。入国管理は必要悪で仕方ないとしても、出国しようとしている人を国が規制することなど断固としてするべきではない。
- 彼らは子供ではない。やったことは賢明なことではないかもしれないし、彼ら自身が後悔することになるだろう。しかしそれは首相だのメディアだの警察だのがとやかく言う問題ではない。
- 行きたいというのなら行かせればいい。そのかわり英国の市民権を取り上げて、帰って来れないようにすることだ。
- 3人の帰国は許されるべきではないのは当然であるが、イスラム国に惹かれるようなイスラム教徒ならシリアへ行ってくれた方が有難いくらいのものだ。このようなことを言うのは余りにも冷淡かつ無感情なのだろうか?
- 愚かな彼らを罰したいというのはわかるが、彼らが人生のコースを変えたいと思っても(市民権を取り上げて)それができないようにするのは近視眼的だ。16才のころにはいろいろと間違いもする。それが一切許されないとしたら、彼らは一生を棒に振らせることになり、さらなるテロリストの育成に繋がる。
- 彼らが大人ならばテロリストのキチガイ集団に入会したって、私の知ったことではない。でもこの3人は「勝手にしろ」というには子供すぎる。自分たちの子供が自分を破壊することを許すような国には住みたくない。(Guardianの)このエッセイが言っている意見と論理は不愉快で、心がこもっていない。
3人のシリア行きについては、スコットランド出身で20才の女性イスラム教徒がそそのかしたのではないかと言われています。この女性は2年前の2013年に「聖戦士の花嫁」(jihadi bride)としてシリア入りしており、あちらから今回の3人とも連絡を取り合っていたと報道されている。彼女の両親は自分たちの娘について「家族の恥」(digrace of the family)だとコメントすると同時に彼女のツイッターなどが警察によって監視されており、3人とのやりとりも掴んでいたはずだと言っている。3人が英国を抜け出すことができたのは警察のドジのおかげだというニュアンスのコメントです。
ところで、この女の子たちの話題とは別に、1月末から2月下旬にかけて英国内のイスラム教徒約1000人を対象にBBCが行った意識調査が2月26日付のサイトに出ています。それによると95%が英国に対する忠誠心を持っていると答え、93%がイスラム教徒であっても英国の法律に従うべきだとしているのですが、次の3つの数字は気になりますね。
46% |
自分たちの宗教に対する偏見を感じており、その分だけ英国には住みにくいと考えている。We feel prejudice against Islam
makes it difficult being Muslim in Britain
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78% |
預言者ムハンマドの肖像画が印刷されるのを見ると侮辱されたと感じる。 We feel offended when images of the Prophet
Muhammad are published
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11% |
欧米の利益に反抗して戦う人びとに対して共感を覚える。 We feel sympathy for people who want to fight
against western interests |
▼最初に紹介したエッセイについての読者からのコメントはざっと3つに大別できます。一つは、「イスラム国に参加したいというのなら、そうさせればいいのでは?」というのは子供に対して冷たすぎるというもの、2番目はかなり冷淡に「帰国させるな」「そんなイスラム教徒は出て行ってくれてけっこう」と言い切るもの、そして3つ目が「本人たちの意思を尊重しろ」という意見で、彼らが「子供」であるということは考慮に入れていない。「政府や世間に迷惑をかけた」という類のものは(むささびが見た限りでは)見当たらなかった。15才が二人と16才が一人・・・つまり高校一年生ということですよね。確かに「子供」ではありますね、本人たちは「子供扱い」されるのを嫌がるであろうけど。
▼これもむささびが見た範囲のことに過ぎないけれど、数ある記事の中で、この3人の家族の人種的背景に触れたものがゼロであったことも興味のある点でしたね。家族の写真を見たり、名前からしてもおそらくアジア系の人たちなのであろうと思うけれど、それには全く言及していないのは英国メディアの間の決まりのようなものなのでしょうね。 |
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若者が「イスラム国」へ向かう理由 |
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5) 「EU離脱は英国の解体に繋がる」という見方
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英国の政治メディアはもっぱら5月に行われる選挙に関する報道でいっぱいですが、英国という国にとって、ある意味で5月の選挙以上に重大な意味を持つ行事が2017年に控えています。それはEUへの加盟を続けるかどうかの国民投票です。これは一昨年(2013年)の1月末にキャメロン首相が行った演説の中で約束したものです。正確に言うとキャメロンが約束した国民投票は2015年の選挙で保守党が勝って単独政権を作ることを条件にしていたのだから、労働党が勝って政権を取った場合この約束に縛られることはない。
ただEUからの離脱を叫ぶ独立党(UKIP)の人気上昇や移民規制の世論などを考えると、今年の選挙でどの党が勝って政権に就いたとしても、キャメロンが約束した国民投票を反故にするのは難しい。つまり2017年の国民投票は間違いなく行われ、英国人は、EU残留か・離脱かという選択を迫られる。
むささびなどは、英国は政治的にも経済的にもヨーロッパの国として存在するしかないと考えているわけですが、2月25日付のOpen Democracyのサイトに出ていたオックスフォード大学のダグラス=スコット(Sionaidh Douglas-Scott)教授のエッセイを読むと、EUから離脱すると英国という国そのものの枠組みが成り立たなくなるという視点もあるということが分かります。エッセイは次のような書き出しになっています。
- 英国のEU離脱論が無視しているのは次の単純な事実である。すなわちEU離脱によって分権状態に関連する(国としての)枠組みに危機が訪れ、場合によっては英国(United Kingdom)の解体にも繋がりかねないということである。
All the talk of a Brexit seems to have ignored one salient fact: that a British withdrawal from the EU would spark a constitutional crisis regarding the devolution settlement, and potentially lead to the breakup of the United Kingdom.
むささびの下手くそな日本語訳では分かりにくいとは思うけれど、上の文章の中のキーワードは "constitutional crisis" です。英国という国が北からスコットランド、イングランド、ウェールズ、北アイルランドという「国」(nation)から成り立っていることはご存じだと思います。イングランド以外の3つの「国」にはそれぞれの議会があり、政府があり、首相にあたるリーダーがいる。日本の北海道・本州・四国・九州のような単なる地域(region)でないことは、スコットランドの独立騒ぎを見ても分かります。場合によっては4つの別々の国になることも理論的には可能なわけです。
ダグラス=スコット教授によると、英国のEU離脱は、そのような国としての成り立ちそのものの危機(constitutional crisis)をはらんでいることがあまり語られていない。EUを離脱すると、何故UKの枠組みがおかしくなる可能性があるのか?
教授がまず挙げているのは、EU離脱についての意見が場所によって違うという点です。2013年に下院が発行した報告書によると、英国(UK)全体では「離脱賛成」が48%、「反対」は44%だったけれど、スコットランドに限ると53%が残留を希望、離脱賛成は34%だった。ウェールズの場合は42%が残留希望で35%が離脱を希望している。しかしイングランドでは50%が離脱に賛成、42%が残留を希望するとしている。
昨年(2014年)5月に行われた欧州議会議員の選挙では、EU離脱の急先鋒とも言える独立党が英国全体の投票の27.5%を獲得してトップだったのですが、スコットランドに限るとUKIPの得票率は10.46%しかなかったという数字も出ている。要するにEU離脱論が受けているのはイングランドのハナシであって、それ以外ではむしろ慎重な意見の方が上回っているということです。
ダグラス=スコット教授がさらに挙げているのが、EUから加盟国内の地域振興策として交付されるお金です。英国についていうと、この交付金の恩恵を最も受けているのは北アイルランド、次いでウェールズ、スコットランドときて、イングランドにはそれほどの額が降りていない。例えば北アイルランドにおけるコミュニティ活動やボランティア活動などの組織に入る年間収入(約7億4000万ポンド)のおよそ10%(7000万ポンド)がEUからの交付金で占められている。英国がEUを離脱するとこの収入がなくなってしまう。程度の差こそあれウェールズやスコットランドも同じことであるわけで、嬉しいはずがない。
あまり語られていないけれど、英国のEU離脱が北アイルランドの情勢を再び不安定にしかねないということもある。現在、北アイルランドもアイルランド共和国もEUの一部なのでお互いの行き来は自由です。しかし英国がEUを離脱すると、アイルランド島がEU加盟国とそうでない国で分断されることになる。北アイルランドの安定は1998年に英国とアイルランド共和国の間で締結された「ベルファスト合意」(Belfast Agreement)という国際条約によって保たれているのですが、英国とアイルランド共和国の両国は「友好的な隣国同士およびEU加盟のパートナーとして」(as friendly neighbours and as partners in the European Union)協力を保たなければならないと謳われている。英国がEUを離脱すると、この歴史的な合意も再び見直されなければならないというハナシになる。
EU離脱についてはイングランド以外の「英国」はさして乗り気ではないのですが、かと言って国民投票で「離脱反対」が勝つかというとそんなことは全くない。人口の差が余りにも歴然としているからです。
このうち投票資格者が何人いるのかはわかりませんが、イングランド以外の人口を全部足しても、イングランドの5分の1にも届かない。これでは、離脱賛成が多いイングランドも入れて「英国全体」という数え方をすると、離脱派が勝ってしまう可能性が高い。そこでスコットランド民族党などは、国民投票にあたっては、「英国全体」の票数のみならず、それぞれの「国」における国民の意向も反映されなければならないと言っている。離脱賛成が勝つためには英国全体のみならず、それぞれの「国」においても賛成派が勝つ必要があるということです。英国と似たような国家体制にあるカナダ、オーストラリア、ドイツなどではそのような方法が使われているのだそうです。こうなるとイングランドが数の力で押し切ることが出来なくなるというわけです。いずれにしても2017年の国民投票が、スコットランドにおける独立の気運を再び盛り上げることに繋がる可能性は大いにあるということです。
このように考えていくと、EU離脱派は、それによって英国の独立や国としての主権回復が達成されると言うけれど、実際には極めて微妙なバランスの上に成り立っている英国(UK)という国そのものが分解しかねない危機をはらんでいるというわけで、ダフラス=スコット教授は
- そのような国の成り立ちそのものへのリスクは軽々しく考えられるべきではない。だとすると、EU離脱を呼びかける人びとはそのことについて真剣に考える必要がある。
Surely such constitutional risks are not to be taken on lightly? But if so, those calling for an EU exit should give them serious thought.
と言っています。
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6) どうでも英和辞書
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weasel:イタチ
上の写真、鳥の背中にへんなものが乗っているように見えます?アタリ!写真をクリックしてもらうと分かる。鳥はキツツキ、その背中に乗っているのはイタチであります。この決定的瞬間を撮影したのは、アマチュア写真家のマーチン・ルメイという人で、場所はイングランドのエセックスにある公園。マーチンが散歩していたら背後でけたたましい叫び声のようなものが聞こえたので振り返ってみたら、背中に乗った小動物風のものを振り落とそうともがいている鳥がいたというわけ。もちろん撮ってツイッターで公開したところ大騒ぎとなり、ついにGuardianのような新聞にまで掲載される騒ぎとなった。
問題はこの写真が合成ではないのかという疑いが広がってしまっているということ。キツツキがイタチを背中に積んで空を飛んだりできるわけないじゃんというわけ。ある鳥類学者はテレビで「変わっているが、聞いたことがないわけではない」(not unheard of)とややこしい表現で肯定的なコメントしているんですが、これに対してアメリカの生物学者であるダン・グラワー氏は「合成(fake photo)に決まっている」と決めつけている。写真の背景のぼかし方を見るとPhotoshopソフトでも使ったのだろうと言っています。
マーチン・ルメイによると、この写真を撮ったのちにイタチはキツツキの背中から降りて草むらの中へ消えて行ったとのことで、「おそらくイタチが鳥を襲ったのだろう」と言っています。 |
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7) むささびの鳴き声
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▼1月22日付のアメリカCNNのニュースサイトに出ていた記事の書き出し:
▼今から半世紀以上も前、ベトナム戦争でアメリカが苦戦していた頃、むささびはある職場でアメリカの通信社の原稿を毎日読む仕事をしていました。いまでも憶えているのですが、毎日のように "US soldiers killed more than a hundred communists"(米国は共産主義者を100人以上殺した)という類のニュースが入っていた。最初のうちは "kill" という言葉のどぎつさに大いに抵抗を感じたのですが、次第に慣れっこになってしまった。
▼私が毎日のように見ていた通信社の記事は、アメリカ国防省の発表に基づく数字を伝えたものだったのですが、ニュアンスとしては「アメリカ軍が勝っている」ということを強調したさに書かれたものだった。CNNの記事も、政府発表の資料が元になっている。日本で言う「大本営発表」というやつですね。
▼ところで、"kill" という言葉のどぎつさには大いに抵抗を感じていた自分ですが、その次に来ていた "more
than a hundred communists"(100人を超える共産主義者)という言葉に何を感じていたのか、思い出せないのであります。この「共産主義者」とは北ベトナムの兵士か南ベトナム解放戦線のベトコンという意味なのですが、100とか500とかいう数字には目が行っても、そのあとに来るもの(殺された人たち)については何も考えていなかったのではないか?
▼最初に挙げたCNNの記事が「6000人以上のイスラム国の戦士」と伝えるのを読みながら、意味も分からずに6000という数字には注目するけれど、死んでいった人びとにはどの程度の感覚が動くのでしょうか?「イスラム国の戦士」と言われると、かろうじてそれが人間であることを感じるかもしれないけれど、6000などという数字がつくと、途端に物体のような感覚に陥る。
▼この記事では6000という数字の前に "more than" という言葉がついている。成果とか戦果を強調するために使わているのですよね。"about"ではなく
"more than" なのです。要するに戦況は有利に進んでいると言いたいわけですね。それを「数字で表す」とこうなるわけです。実際には殺された約6000人には6000とおりの人生があり、その一人一人にそれぞれの家族があり、友だちがあったはずで、それぞれの悲しみや怒りがあったはずなのに・・・。
▼半世紀も前に、殺害された「共産主義者」を単なる数字で表現していたとき、それぞれの「共産主義者」が抱いていたであろう、アメリカに対する憎しみや怒りについてアメリカはどこまで気がついていたのか?4番目に紹介した「シリアへ消えた子供たち」の記事の最後の部分で紹介したBBCによるイスラム教徒へのアンケート調査の中で、「欧米の利益に反抗して戦う人びとに対して共感を覚える」という意見が11%ある。1000人中の100人がイスラム国の「思想」そのものには共感を持つということです。6000人の聖戦戦士を殺したら、殺された戦士一人一人の両親・兄弟・親戚・友人が悲しみ、怒るわけだから、6000の数倍のジハディー・ジョンを作り出すということです。
▼2月26日付の毎日新聞のサイトに、日本国籍を取得した日本文学研究者のドナルド・キーンさんとのインタビュー記事が出ています。「戦後70年:今も続いている国民への忍耐押しつけ」というタイトルです。彼自身が太平洋戦争で日本兵と戦った経験を語っているのですが、学生として日本文化を研究しながらも、中国における日本軍の「蛮行」を聞くにつれて日本を怖しい国だと思うようになったのだそうです。それが自分も兵隊として戦争に参加する中で日本人も「我々と同じ人間なんだ」と分かった。キーンさんは、最近の日本人について
- あれほどの地震と津波に見舞われながら、互いに助け合う日本人の姿に世界が感動しました。けれども、国民は理不尽に忍耐を押し付けられてはいないでしょうか。
と言っている。
▼キーンさんによると、中国の詩人で杜甫という人が書いた「国破れて山河あり」という言葉について俳人の松尾芭蕉が反論しているのだそうですね。この詩の意味は「戦乱で国が滅びても、山や川の自然はもとのままのなつかしい姿で存在している」というような意味ですよね。芭蕉によると、山だって河だって崩れたり、埋もれたりすることがあるから永遠のものとは言えない、しかし山や川がなくなっても残るのは人間の言葉である・・・とのことであります。
▼終戦直後の日本ではそれまでの言論統制が解かれて日本文学が黄金期を迎えたことで、「谷崎潤一郎、川端康成らに加え、三島由紀夫、安部公房などの新しい才能が咲き誇った」とのことで、キーンさんが、この芭蕉の言葉を通じて言いたかったのは、「戦後70年を迎え、言葉の力が再び試されています」ということのようであります。
▼今回もお付き合いを頂きありがとうございました。 |
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むささびへの伝言 |