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Spiegel:あなたは1985年3月にソ連共産党の書記長に就任し、就任演説の中で「核兵器の完全破壊とその使用の永久禁止」(complete
destruction of nuclear weapons and a permanent ban on them)を呼びかけている。あれは真面目にそのように思ったということか? |
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Gorbachev: 核軍縮についての話し合いはそれまでにも延々と続いていた。うんざりするほど「延々と」話し合いをやっていた。私としては単に言葉だけでなく、行動を伴った言葉(words
followed by action)が絶対必要だと思っていた。あの頃は軍拡競争が続いていただけでなく、武器の数、殺傷能力などの点でより危険な状態になっていたのだ。何万という核弾頭がさまざまなシステム(航空機、ミサイル、潜水艦など)に搭載されていたのだ。 |
Spiegel:当時のソ連はNATO加盟国が所有する核兵器によって脅威にさらされていると感じていたのか? |
▼役立たずだったジュネーブの外交官たち
Gorbachev:あの頃、核ミサイルがNATO加盟国の国境地帯に配備されることが進められていた。我々との距離がますます近くなりつつあったし、NATOには核兵器使用のための具体的な計画もあったのだ。ちょっとした技術的な誤りで核戦争が勃発することが大いにあり得る状態にあったということだ。その一方でジュネーブにおける軍縮会議では、外交官たちがペーパーの山を築きながらワインを飲みまくっているという状態で、全く役に立っていなかった。そういう状態だったのだ。 |
Spiegel:1986年、ワルシャワ条約加盟国の会議の席上、あなたはソ連の軍事上の目標は来るべき戦争に備える計画づくりではなく、西側との軍事衝突を避けることに力を入れると宣言した。つまり戦略転換というわけだが、その理由は何だったのか? |
Gorbachev:あの当時、私にとってはっきりしていたのは、欧米との関係における行き詰まり状況が続いており、核軍縮は進まず、相互不信と敵対心だけが大きくなっていっているということだった。だからソ連にとっては核軍縮が外交上の最重要課題であったということだ。 |
Spiegel:軍縮を進めようという背景には、1980年代にソ連が直面していた経済的な行き詰まりもあったのではないのか? |
▼軍拡と経済
Gorbachev:軍拡競争が自分たちの経済にとって大いに負担となっていることは我々にも分かっていたし、そのことが我々の政策において一定の役割を果たしたことも事実だ。が、我々にとって明らかだったのは核兵器による衝突の可能性はソ連人のみならず人類全体にとっての脅威であるということだった。問題の兵器の破壊的な性格、それがもたらす結果について我々(ソ連)はよく知っていた。チェルノブイリにおける核事故によって、核戦争というものがもたらす結果についても正確に想像することができた。核軍縮が絶対に必要だと考えるに至ったのは経済的な負担という理由よりも、政治的・倫理的な考察の結果であるということだ。 |
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Spiegel:アメリカのレーガン大統領との経験について聞かせて欲しい。多くの人びとはレーガンこそが冷戦の推進者だと思っているが・・・。 |
▼核:モラルと政治
Gorbachev:レーガンは正直な確信をもって行動していたし、本気で核兵器(の存在)を拒否していた。彼と初めて会ったのは1985年11月だったが、その会談を通じて我々は最も大切な決意を共有することができたのだ。すなわち「核戦争に勝者はおらず、核戦争は絶対にあってはならない」(Nuclear war cannot be won and must never be fought)ということだ。この短い文章がモラルと政治を結びつけたと言える。政治と道徳は相容れないものだというのが大方の意見だった。残念ながらアメリカは米ソ共同宣言におけるもう一つの重要なポイントを忘れてしまった。それは米ソ両国とも軍事上の優位は求めない(They will not seek to achieve
military superiority)というものだったのだ。 |
Spiegel:アメリカには失望したか? |
Gorbachev:何年たっても変わらない部分が(アメリカには)ある。例えば1950年代の時点ですでにアイゼンハワー大統領が指摘した産軍複合体の持つパワーもその一つだ。彼らはレーガン時代にもブッシュ時代にも強大な力を発揮していた。 |
Spiegel:あなたの軍縮政策について、ソ連の指導部内では反対はなかったのか? |
Gorbachev:当時の指導部は軍縮の重要性を理解していた。全ての指導的な政治家が、彼らなりの経験を通じて厳しいものの見方をしていた。西側との交渉では「ノー」ばかり言っていた、あのグロムイコ(外相)でさえ軍拡競争の危険性を理解しており、その意味では我々は団結していた。 |
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Spiegel:お互いが破滅するような核兵器を持つことが核戦争を防止するという「理論」をどう思うか? |
▼「破滅の恐怖が核戦争を防止する」という論理の危険性
Gorbachev:その言い分には危険な論理がある。もし世界の中の5カ国や10カ国が核兵器の所有を許されるのなら、それが20カ国になっても30カ国になっても大して変わらないのではないかという理屈もある。核兵器を作る能力を有する国が何十もあるのだから、それは可能なハナシではある。核兵器のない世界に向かって進むのか、核兵器が地球のすみずみまで拡散するという事態を甘んじて受け入れるのか・・・選択肢はそれしかない。たった一国が、ほかの国の防衛予算をすべて足したもの以上の軍事予算を使って、圧倒的多数の通常兵器を所有する・・・そんな世界で「核兵器のない世界」(a
world without nuclear weapons)が実現するなどと想像できると思うか?核兵器が廃絶された後はその国だけが軍事的な優位を保つようになるのだ。 |
Spiegel:アメリカのことを言っているのか? |
▼あまりにも大きすぎるアメリカの軍事力
Gorbachev:そのとおりだ。アメリカが圧倒的な数の通常兵器を有しているということこそが、核兵器のない世界へ向けての道筋をつけるにあたってのどうにもならない障害になっているのだ。だからこそ国際政治の世界で、非軍事化(demilitarization)ということを課題として復活させなければならないのだ。軍事予算の削減、新しい兵器開発の凍結、宇宙の軍事化禁止などを課題にする必要があるのだ。そうしない限り、核のない世界を目指す話し合いも「空虚な言葉の羅列」に終わってしまうのだ。世界はより不安定で危険な場となり、何が起こるか予想ができない場になる。皆が敗者になる世界だ。世界を支配することを狙っている国も敗者となるのだ。 |
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Spiegel:現在、核戦争の危険があると思っているか? |
▼諦めとパニックが怖い
Gorbachev:非常に心配だ。現在の状況は怖い(scary)くらいだ。核保有国は未だに数万もの核弾頭を持っており、核兵器そのものがヨーロッパに存在している。貯蔵核兵器を削減するペースも遅々としている。その一方で新たな武力競争が始まっている。宇宙の軍事化は実に危険であり、核拡散の危険は以前よりも大きくなっている。包括的核実験禁止条約(Comprehensive
Test Ban Treaty:CTBT)はアメリカの批准がない中で効力を発揮するに至っていない。 |
Spiegel:「核兵器のない世界」というのは、結局単なる「夢」にすぎないのではないか? |
Gorbachev:現状が如何に厳しいものであっても諦めたりパニックに陥ったりしてはならない。1980年代の中頃には「原子爆弾の地獄」行きの列車は止めることができないという意見が多かった。それでも我々は短期間に多くのことを成し遂げたのだ。何万もの核弾頭が破壊されたりしたのだから、それは誇りとするべきだし、オバマ、プーチン、メルケルらにとってはいい教訓となるはずだ。 |