3連休・・・と言ってもむささびには関係ありませんが、暖かくなってきたのは嬉しいですね。なんとかこのまま春になってくれないものか(大雪なしの冬で終わるという意味)と必死で願っております。上の写真、水牛にまたがった子供がi-padを見ているのが可笑しい。
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目次
1)タクシーの色と事故の相関関係
2)極右幼稚園に首相が肩入れ!?
3)スコットランドのジレンマ
4)人間は「自由」を嫌がる
5)どうでも英和辞書
6)むささびの鳴き声
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1)タクシーの色と事故の相関関係
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3月11日付のThe Economistがタクシーの色についての記事を載せています。それによると
- 黄色いタクシーは青いタクシーよりも事故の可能性が少ない
Yellow cabs are less likely to crash than blue ones
とのことであります。
米国科学アカデミー(Proceedings of the National Academy of Sciences:PNAS)のサイトで紹介されている、クルマの色に関する記事なのですが、シンガポール国立大学の研究者がシンガポール最大のタクシー会社の協力を得て調査した結果、乗り物の色に関しては青よりも黄色の方が安全ということになったのだそうです。このタクシー会社は2002年に二つのタクシー会社が合併したのですが、合併前は一方が黄色、もう一方が青のクルマを使っており、合併後も塗り替えなしにそのまま使っている。台数は黄色が4175台、青が12525台、どれも韓国製のHyundai
Sonataというクルマなのだそうです。
研究者たちが、3年間の操車記録を分析した結果、ひと月当たりの事故率が、青いクルマの場合「1000台あたり71.7件」であったのに対して黄色いクルマは65.6件、つまり黄色いタクシーの方が9%だけ事故率が低かった。研究者たちはまた、過去の記録だけでなく、無作為に選んだ同社の約3500人のドライバーの運転ぶりを人工衛星を使って追跡調査、事故があった場合は、前後や周囲の状況を調べたのですが、その際二つの仮説を立てたのだそうです。
- 仮説1:もし黄という色に何らかの「安全効果」(protective effect)があるのだとすると、黄色いクルマが相手ドライバーの視界にはっきり入っている場合は(他の色のクルマよりも)衝突事故の可能性は低い。しかしそうでない場合は、それは必ずしも当てはまらない。調査の結果この仮説は当たっていた。
- 仮説2:黄色いタクシーは昼間より夜間走行の場合に有利になる(夜の闇では周囲の色とのコントラストが青よりも鮮明)。これも証明された。衝突事故が起こった際の周囲の「光」の状況を比較した結果、最も事故率が高かったのは夜間の道路に光(ネオン・クルマの灯り・その他)が溢れている場合だったのですが、その場合でも黄色いタクシーの事故件数は青いものよりも低いという結果が出た。
というわけで、調査結果を総合すると、このタクシー会社の所有車を全部黄色にすると、年間の事故件数が917件少なくなり、140万ドルの節約に繋がるということになったのだそうです。
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アメリカのレンタカー兼タクシー会社のハーツ(Hertz)の創業者であるジョン・ハーツという人が、自社所有のタクシーの色を何すべきかについてシカゴ大学の科学者に相談をした。1907年のことです。当時、アメリカの都会を走るクルマの圧倒的多数が黒だったけれど、その中で最も目立つ色は何か?で、科学者が提案したのは黄色だった。だから当時のハーツのタクシーはどれも黄色だった。結果的には黄色は目立つだけでなく「安全」な色であるということが証明されたということです。
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▼ロンドンのタクシーは相変わらず黒が多いのではないかと思うのですが、楽しいのは英国で走っているタクシーの車体に描かれた広告ですね。やたらとハデハデしいのですが、きわめて特殊なデザイン感覚が必要でしょうね。 |
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2)極右幼稚園に首相が肩入れ!?
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このむささびが出るころどうなっているのか分からないけれど、いわゆる「森友学園問題」について3月4日付のThe Economistが取り上げています。「アジア」というセクションに掲載された5本の記事のうちの一本ですが、掲載順序からすると、いちばん重要でないニュースという扱いです。見出しは
となっていて、「恥ずかしいことに、その学園は首相と関係があるのだ」(Embarrassingly, it has links to the prime minister)というイントロになっている。記事内容そのものは、日本のメディアでもさんざ報道されていることなのですが、むささびがこの記事を紹介する気になったのは、この問題をThe Economistという雑誌が読者にどのようなニュアンスで伝えたのかを紹介することに意味があると思ったからです。
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記事はまず塚本幼稚園の子供たちが行っている朝礼について「天皇の写真にお辞儀をし、国家を救うために勇敢にも身を捧げる」(bow to pictures
of the emperor and vow courageously to offer themselves to defend the state)と書いたうえで、このような戦闘的愛国主義(jingoism)を教え込む学校が存在することを知る日本人は、最近まで殆どいなかった・・・けれど
- They were even more surprised to learn that the government seems to have been encouraging them.
(日本人が)もっと驚いたのは、政府自体がそのような教育を奨励してきたように思えることだった。
そして記事は、低価格による国有地の払い下げにあたって森友学園が安倍首相の名前を使って資金集めを行い、明恵夫人は名誉校長に就任して幼稚園児を相手に講演まで行っていることや森友学園が自衛隊の軍艦の帰港に際して幼稚園児を軍港に派遣して歓迎させたことに稲田防衛大臣が感謝状まで送っていることに触れている。
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The Economistは、「国有地の払い下げには一切かかわっていない」という安倍首相の言葉を伝えながらも、首相がかつては森友学園の籠池泰典理事長の教育に対する「称賛に値する情熱」(admirable
passion)をほめたたえるとともに、自分自身も籠池氏と「同じような思想」(similar ideology)を共有していると語っていたことを伝えている。籠池夫人は、韓国人の園児の親に宛てた手紙の中で、「人種差別する気はないが自分は韓国人も中国人も大嫌いだ」と書いたりもしていたんですね。
というわけで、この問題をめぐって安倍さんも大慌てだけれど、森友側も揺さぶられている(squirming)とThe Economistは伝えている。大阪府からは学校としての認可を取り消されかねないし、園児、生徒の集まりは悪いし・・・学校の名前も「安倍晋三記念小学校」(Prime
Minister Shinzo Abe memorial school)から「瑞穂の國記念小學院」(Land of Rice memorial
school)に変更を余儀なくされたのだから。
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The Economistの記事はざっと以上のような感じですが、この記事を読んだ読者はどのように反応しているのでしょうか?ここをクリックすると、読者からのコメントを見ることができます。ここでは三つだけ紹介します。まずThe Economistの記事に対する疑問のコメントです。日本人読者かもしれないのですが、記事が森友学園や安倍首相に対して批判的なトーンで書かれていることについて
- この学校のどこが悪いのというか、自分には分からない。記者は大げさに書きすぎているのでは?何も問題がないところに問題をでっちあげて・・・。中国や韓国の政府が自国民に吹き込んでいる反日精神に比べれば、森友学園のやっていることなど何でもない(nothing
compared to the Chinese and Korean governments instilling hate against
the Japanese)。
と言っている。それに対する反論風コメントが二つあります。
- 日本は中国と韓国を侵略、占領した。中国も韓国も日本を侵略したことはないし、日本と戦争を始めたこともない。だから韓国人や中国人がいまだに日本に怒りを感じるのも驚くに値しない。分からないのは、なぜ多くの日本人が中国人や韓国人を嫌うのかということだ。Why exactly do so many Japanese hate the Chinese and Koreans?
- 日本の教育基本法(Fundamental Law of Education)は学校における政治的な教育活動を禁止している。なのに森友学園ではそれをやっている。彼らのやっていることは、独裁国家で行われている教育と同じではないか。中国や韓国における反日教育を批判するのは構わないが、事情が許せば日本の学校だって同じことをやるのでは(if
given a chance there are Japanese school operators who will behave exactly
the same way)?
▼朝、寝床の中でラジオを聴いていたら、ある国立大学の「准教授」という肩書の人がこの問題についてコメントを求められ、「私は教育勅語を子供たちに暗唱させることは、それほど悪いとは思いませんね」と言っていました。「親孝行とか愛国心などを子供たちに学ばせることの何が悪いのか?」というのが准教授の言い分だった。日本が歴史的に一度は破棄した教育勅語を暗唱させることの問題点を語らずに、勅語の内容だけを取り出して語ることのインチキさには全く気が付いていないようでした。このような意見を電波に乗せることの責任を、このラジオ局はどのように思っているのか・・・むささびの理解の域を超えています。
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3)スコットランドのジレンマ
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日本のメディアでも報道されていたけれど、3月13日(月曜日)にスコットランド自治政府のニコラ・スタージョン第一大臣(首相にあたる)が、2014年に続いてスコットランドの独立を問う二度目の国民投票(indy
ref 2)を来年(2018年)秋もしくは2019年春に実施する意図であることを発表しました。スコットランドで国民投票を行なうには、ロンドンの中央政府による許可が必要なのですが、メイ首相はスタージョンの発言について下院で演説し、
- 今こそ国が団結して英国民の意思を尊重し、国民のためにより良い英国、より明るい未来を持った英国を作るときだ
It is a moment to bring our country together, to honour the will of the British people and to shape for them a better, brighter future and a better Britain.
として、スコットランドの国民投票については「政治ごっこをしている場合ではない」(This is not a moment to play politics)と批判しています。理屈の上ではメイ首相はこの国民投票を許可しないことが可能なのですが、それをやるとスコットランド人の反発が厳しくなり、自分の政権運営にも支障をきたしかねないということです。
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この国民投票のタイミングについて、スタージョンがなぜ来年秋とか再来年の春を言いだしたのか?それは英国のEU離脱のタイミングに関係しています。英国政府は今月末までにEUに対して正式な離脱通告をすることになっており、その後2年間を使って離脱にまつわる様々な条件交渉を行うことになっている。その交渉の期限が2019年3月末だからです。スタージョンとしては、英国のEU離脱の条件が明らかになった時点で、そのまま英国に留まるか、独立してEU加盟を目指すかを決めたい・・・というわけで、それを考えるとこのようなタイミングになるであろうということです。
スコットランドのUK離脱についてはむささびジャーナル366号でも触れていますが、スコットランドの新聞、The Scotsmanのサイト(3月15日)に出ていた世論調査によると、スコットランド人の心境はかなり複雑です。UKからの独立についてはかなりの支持率なのですが、同時にEUに対する懐疑的な声もまた高くなっているのだそうです。「独立=EU加盟」という世論ではないようなのです。
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この世論調査はNatCen Social Researchという、英国内では最高の信頼度を誇る社会調査機関が行なったものです。それによると、UKとの関係について「独立」(independence)支持が46%、「自治政府」(devolution)支持が42%、スコットランド議会そのものに反対が8%となっている。独立支持が46%というのは、独立促進運動が始まった2012年当時の23%に比べると倍の支持率にまで上がっているということを意味します。これを若年層(16~24才)に限ると独立支持が72%と高くなっている。
ただ同じ調査の結果として、25%が英国のEU離脱を支持し、42%がEUの権限縮小を望むという数字が出ている。つまり67%のスコットランド人がEUに対して懐疑的な感覚を持っているということになる。3年前にはこの数字が53%であったことを考えると、懐疑論者が増えているということになる。
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英国のEU離脱に関する国民投票では6割以上のスコットランド人が離脱に反対したにもかかわらず、イングランドで離脱が勝ってしまったが故に「スコットランドの民主的な意思が無視された」という意味ではUKからの独立志向は高いのですが、それが必ずしもEU支持と同じではないというところが複雑であるわけです。
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▼昨年6月の国民投票で離脱派が勝利したことから、メイ首相らはそれが「国民の意思」(people's will)であると主張している。上の二つのグラフを見ると、メイ首相のいわゆる「国民の意思」には疑いを持たざるを得ない。最初のグラフは、国民投票で実際に投票した人びとだけの内訳であり、下のグラフは当日投票しなかった人も含む英国の有権者全員の内訳です。下のグラフを見ると、EU離脱を望んだ英国人の割合が有権者全員から見ると如何に小さいかが分かる。こんな数字をもって「国民の意思」などと言えるんですかね。
▼ということを考えると、二度目のスコットランド独立に関する国民投票の場合は「賛成」が「有権者全体の3分の2もしくは5分の3」という絶対多数(super-majority)以上を獲得した場合にのみ独立が実現するという風に決めておくべきだと(むささびは)思いますね。「離脱」であれ「独立」であれ、それまで続いてきた体制が根本から変わる。それによって影響を受ける人や組織はタイヘンな数にのぼるのだから「現状維持」と「離脱・独立」を全く対等なものとして考えるのはおかしいのでは? |
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4)人間は「自由」を嫌がる
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SALONというアメリカの雑誌のサイト(2月25日)に、次のような見出しのエッセイが掲載されていました。
エッセイを書いたのはコナー・リンチ(Conor Lynch)というジャーナリストですが、「専制政治」はトランプ政権による政治のことです。エーリッヒ・フロムについては、むささびジャーナル364号で『正常な社会』(The Sane Society)という著書を紹介したばかりですが、フロムの代表作は1941年に書かれ、ヒトラーの台頭を「心理学的に」分析した
"Escape from Freedom"(日本語版は『自由からの逃走』)という本です。
SALONのサイトにエッセイを寄稿したコナー・リンチは、トランプ政権下のアメリカ人が置かれた状況が、今から80年以上も前にヒトラーの台頭を許したドイツ人が置かれた状況と余りにも似通っていると言っている。リンチは、"Escape from Freedom"に込められたフロムのメッセージを吟味することで、あのような悲劇を防ぐことができると考えている(個人的なことですが、この本が書かれた1941年はむささびが生まれた年、でもむささびがそれを読んだのは今から半世紀ほど前のことです)。
"Escape from Freedom"は次のような文章で始まっています。
- 現代のヨーロッパとアメリカの歴史は、それまで人間を縛り付けてきた政治的、経済的、精神的な鎖から人間を自由にしようとする努力の歴史でもあった。
Modern European and American history is centred around the effort to gain freedom from the political, economic, and spiritual shackles that have bound men.
確かに人間の「進歩」の歴史は「貧困からの自由」、「飢餓からの自由」、「独裁からの自由」という具合に、「~からの自由」の歴史という側面がある。そして「表現の自由」とか「個人の自由」という風に、人間にとって「自由」は大いに守り育てる価値があると考えられています。ただフロムの"Escape
from Freedom"という本のテーマは、人間には自由を求める一方で、自由であることを怖れる側面もある・・・ということにある
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"Escape from Freedom"に出てくる言葉 |
「欲望」(greed)は「底の抜けた穴」(bottomless pit)のようなもので、それに取りつかれると、人間は自分の満足を満たすべく決して終わらない努力を続けて疲れ切ってしまうものだ。 |
ヨーロッパには教会や国家が「権威・権力」として個人の自由を縛ってきた歴史があり、それらに対抗する形で政治的には民主主義、経済的には資本主義が発達し、「個人の自由」という概念も生まれた。しかし人間は個人の自由を手に入れる代わりに、古い権威に従属していたときに味わっていた、自分が大きなもの、パワフルなものに帰属しているという安心感(feeling of belonging)を失うことになる。フロムはそのような現代人の心理状況について次のように表現しています。
- 人間が「個人」となるに伴って孤独感、不安感のようなものが大きくなる。そのことによってこの世の中における自分の役割、生きていることの意味などについての疑問が大きくなり、一人の人間としての無力感や自分には存在価値がないという感覚にうちひしがれるようになる。
Growing individuation means growing isolation, insecurity, and thereby growing doubt concerning one’s role in the universe, the meaning of one’s life, and with all that a growing feeling of one’s own powerlessness and insignificance as an individual.
かつては教会や国家によって自然に与えられていた「生きる意味」とか「自分自身の存在価値」のようなものが、「自由」を手にすることで失われていった。そして不安感や孤独感に堪えられなくなると、手に入れた自由そのものから逃避(escape)して自分を別の権威のようなものに従わせようとする。「個人の自由」(personal
freedom)など楽しいものでないばかりか、望ましいものでさえもなくなり、それよりも「自分が何かに属している」という安心感を求める・・・フロムによると、人間には常に母親の胎内に戻りたいという本能のようなものがあるのだそうですね。
政治指導者が発する「あいつは我々の敵だ!」とか「~をやっつけろ!」という激しい言葉にたくさんの群衆にまじって「そうだ!」と熱狂することの心地よさに酔いしれてしまう。そのことによって「独りである」ことの恐怖からは逃れることができる。人間が独裁者のような存在になびいてしまう傾向があることについて、エーリッヒ・フロムは
- (自由であることの)恐怖に打ちひしがれた個人は、自分自身を縛り付ける「誰か」や「何か」を求めるようになる。独りだけの「自己」には耐えられなくなり、懸命にその恐怖を取り除き、「自己」などという重荷を失うことによって再び「安心の世界」に戻ろうとする。
The frightened individual seeks for somebody or something to tie his self
to; he cannot bear to be his own individual self any longer, and he tries
frantically to get rid of it and to feel security again by the elimination
of this burden: the self.
と分析しています。
フロムは人間の「自由」にも2種類あると言っている。消極的自由(negative freedom)と積極的自由(positive freedom)で、前者は古い体制による社会的抑圧や制約などから「解放される」ことであり、後者は「本当の自分自身」(true individual self)を実現するような生き方をすることであると言っている。
- 消極的自由のみが与えられても、積極的自由が伴わなければ、人間は(消極的自由の中で)不安・孤独・無力感などにさいなまれ、自由そのものから逃避して自分よりも高い位置にいる権威に従属することを望むようになる。
If one is granted negative freedom without positive freedom, and thus left uncertain, alone and powerless, he or she may be inclined to escape from freedom and submit to a higher authority.
コナー・リンチは、グローバル化する自由主義・資本主義社会の中で無視され、置き忘れられたと感じながら、トランプ支持に駆けつけた現代アメリカの白人労働者階級こそがフロムのいわゆる「消極的自由だけを与えられた人びと」であると言っている。生活上の安定を望み、自分が何かに所属しており、根無し草ではないという安心感に飢えている人びとです。フロムが"Escape from Freedom"を書いた時代には、同じような感覚に陥ったドイツ人がいてヒトラーを熱狂的に支持したということです。
現代アメリカを生きるコナー・リンチは、彼のエッセイの締めくくりとして
- フロムは社会民主主義を支持し、真に民主的な社会(政治的かつ経済的にも民主的な社会)のみが独裁主義の暗雲が広がることを阻止することができると信じていた。
Fromm advocated democratic socialism and believed that only a truly democratic society - politically and economically - could stop the dark clouds of despotism.
と書いており、独裁政治に対抗できるアメリカにおける政治家として民主党左派のバーニー・サンダースの名前を挙げています。
▼そう言われてみると、トランプが選挙運動中に叫んだのは「アメリカを再び偉大な国にしよう!」(Let's make America great
again!)ということでしたよね。スローガンの最後に "again" という単語がついていることがポイントですな。「昔は偉大であったアメリカに戻ろう」と叫んでいるのと同じです。トランプの言う「昔」とは1950~60年代のアメリカ、何もかもが世界一だったあのアメリカです。クルマと言えばフォードでありシボレーでありキャデラックであった、あの頃のアメリカです。トランプが訴えたのは「第二次大戦直後のアメリカ、白人が主流の分かりやすい世界、アメリカにとって経済競争の相手などが存在していなかった時代のアメリカを取り戻す」ということだった(むささびジャーナル364号)。それから半世紀、日本や中国のような海外の競争相手に押されるアメリカ企業で働く労働者たちにとってトランプの訴えるノスタルジアは魅力的だった。
▼全く同じ心理状態にあるのがBREXITの英国人ですね。EU加盟国からの移民に職を奪われ、EUなどという巨大超国家(外国)に管理されるなんてまっぴらだ!俺たちを何だと思っとるんだ、大英帝国だぞ!ノーベル賞の受賞者だってアメリカに次いで多い、そんなすごい国なんだ、文句あっか!というわけです。サッチャーリズム以後の脱工業化の中で職を失い、コミュニティもさびれてしまった地方の住民たちにとって、「EUのおかげで英国は損をしている、国を取り戻そう!」という、右翼勢力からの訴えは魅力的だった。
▼"Escape from Freedom"の最初の部分に、ユダヤ教の聖典からの言葉として次のような文章が載っています。
- If I am not for myself, who will be for me?
If I am for myself only, what am I?
If not now - when?
自分が自分のために生きないとしたら、誰が自分のために生きるのか?
自分が自分のためだけに生きるとしたら、自分とは何なのか?
「いま」でなければ、「いつ」だというのか?
▼自分の人生は「自分のもの」ではあるけれど、「自分だけのもの」なのか・・・人間が生きている限り付き合っていくしかない矛盾のようなものですよね。ただ、この矛盾を「くだらない」と笑い飛ばした後に何が来るのか?ということです。たぶんトランプとBREXITと森友学園だけだと思います、むささびは。 |
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5) どうでも英和辞書
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party pooper:場をしらけさせる人
"poo"や"poop"がワンちゃんのウンチであることは知っていたけれど、"party pooper"なんて聞いたことがなかった。辞書によると
- a person who refuses to join in the fun of a party(他人がパーティーを楽しんでいるのに加わろうとしない人物)
となっている。「他人とうまくやっていけない人」(one who refuses to go along with everyone else)という意味でもあるらしい。最近のSpectator誌に次のような文章が載っていた。
- Theresa May’s statement today on the EU withdrawal bill should have been a victory lap - after the government succeeded in getting a clean bill through both Houses. Instead Scottish independence proved a party pooper...
上下両院でEU離脱に関する法案が通過したことは、メイ首相にとっては「勝利の祝走」になるはずだった。なのにスコットランド独立などという話題が出て来て、全くもってシラけてしまった・・・というわけですね。もちろんしらけさせたのは、スコットランド政府のニコラ・スタージョンというわけです。 |
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6) むささびの鳴き声
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▼森友学園の件、来る木曜日(3月23日)に籠池氏が国会で証人喚問されるというので大騒ぎになっていますよね。何を知りたくて喚問するんでしたっけ?国有地の払い下げに政治的な力が働いたかどうかってことでした?「安倍さんが奥さんを通じてこの学園に100万円を寄付した」と籠池さんが発言して話題にはなっているけれど、仮にそれが本当だとしてもシンゾー側には「法的な問題」はないのだそうですね。だとしたらメディアは何故そのことに大騒ぎをするのでありましょうか?それは、首相が「教育勅語を採用するような学校を、100万円という大金を寄付してまでも支援したい」と考えていることを示すことになるからなのではないのですか?
▼新聞報道によると、籠池さんの寄付金発言について自民党の竹下亘国対委員長が「首相に対する侮辱だ」と怒りをあらわにしたのだそうですね。なぜ侮辱になると考えるのでしょうか?首相の奥さんは、この学園の教育を素晴らしいと絶賛するメッセージまで書いていた。国有地払い下げ問題さえなければ、シンゾーも奥さんも籠池さんの「勅語教育」を大いに支持・支援していたのではないのですか?
- 「あなた、あの人、すっごくいい教育やってんのよ、何かしてあげたら?」
「そうだな、この際だから10万円ほど寄付しとくか・・・」
「10万?何言ってんのよ。ちゃんちゃらアハハでおならも出ないわよ」
「わかったよ、15万にしておくから」
「一桁足りないわ。領収書なしの100万、これで行きますからね!」
「・・・」
▼こんな会話はなかった(と思う)けれど、籠池さんの問題は100万円のことではない、勅語教育ですからね。教育勅語なるものをシンゾー自身がどのように思っているのか?問題はそれっきゃないんですからね。「民間人だから国会に呼ぶのは慎重に」と言っていたのが「100万円」が出たとたんに「首相に対する侮辱だからしょっぴいてやる!」と息巻く竹下亘という人は、かつてはNHKの人だったんですね。
▼2番目の記事で、The Economistの記事に関する読者からのコメントを紹介しました。歴史上の事実として日本が中国や韓国を侵略して爆弾を落としたことはあっても、その反対は一度もない・・・だから中国人や韓国人が日本人を嫌ったとしても大して不思議ではない。「でも何故日本人が中国人や韓国人を嫌うのか、さっぱり分からない」とのことです。むささびにも分からないけれど、あえて説明すると「後ろめたさから来る恐怖心」ということなのかも?
▼それに関連して、「スコットランドのジレンマ」の記事にあるスコットランド独立に関する国民投票のことを考えてしまった。2014年の国民投票では「独立賛成派」が敗れたけれど、2016年のスコットランド議会選挙では「国民投票を再度実施する」ことを公約に掲げたSNPが圧勝している。イングランド中心の英国(UK)に対するスコットランド人の複雑な心理が反映されている。同じことが北アイルランドやウェールズにも言える。イングランド人がスコットランド人らに抱く感情もまた複雑です。EUに対しては「あんたらに管理されたくない」と言いながら、スコットランド人らに対しては「国を二分するなんてとんでもない」と怒ったりする。矛盾もいいとこで、それを言われるとイングランド人としては「いやなら英国から出て行け」と言うしかない、でもそれを言ったらおしまい・・・。
▼"Escape from Freedom"(自由からの逃走)ですが、「個人が自由に自分の利益を追求していけば、全体もうまくいく」という資本主義のバックボーンになった考え方が行き着いたのが保護主義・自分中心主義の現代であるとも言えるのではありませんか?人間、自由になった途端に不自由を求めるようになる・・・というフロムの指摘はいまでも当たっている。トランプのアメリカ、BREXITの英国、両方とも自由と民主主義の本家とされ、「個人の自由」が絶対的な価値観として定着していたはずだった・・・けれど両方ともそれに我慢できずに内向き社会に進もうとしている。皮肉だけど、事実としか思えないよね?
▼もうすぐ本当の春ですね。お元気で! |
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むささびへの伝言 |