musasabi journal

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383号 2017/10/29
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美耶子の言い分 美耶子のK9研究 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
とうとう10月も終わりですね。先日の台風でむささびが育てていた「ノラボウ」という野菜が殆ど壊滅状態、地中の根っこが無事であれば何とか育つのではないかと・・・。植物の世界は地面の下が真剣勝負なので人間にはどうにもならない。ということで思い出したのですが、当方の敷地内でモグラが大活躍しているらしく、あちこちで土が盛り上がり柔らかくなっている。ミセス・むささびによると、モグラが耕した土というのは植物には非常にいいらしい。で(全然関係ありませんが)上の写真はアメリカ・ネバダ州の砂漠地帯に設置された太陽発電のパネルです。

目次
1) 「9条改正は正しい、けれど・・・」
2) グラフ:日本人と民主主義
3) BREXITとカタルーニャ独立
4) MJスライドショー:this britain
5) どうでも英和辞書
6) むささびの鳴き声


1)「9条改正は正しい、けれど・・・」

10月22日の衆議院議員選挙について英国メディアの報道は、予想されたとおり自民・公明の連立政権が勝利したという「事実の報道」が多かったように思います。ニュースとしては取り上げていたけれど、話題性という点ではそれほどの扱いではなかったというのが(むささびの)の印象です。そんな中でちょっと驚きだったのが10月28日付のThe Economistで、この話題を社説(leaders)の一つとして取り上げていました。見出しは
  • 日本の首相が憲法を変えるときが来た
    Time for Japan’s prime minister to change the constitution
となっていて、「(日本国憲法の)平和主義的な文面が世界の平和維持にとって妨げとなっている」(Its pacifist wording is a hindrance to global peacekeeping)という説明がついている。どうやら自民党の勝利を憲法改正という視点から語っているようなのですが、社説の本文は次のような書き出しで始まっている。
  • これほど評判の悪いリーダーが、自由で公正なる選挙でこれほど一方的な勝利を収めるのも珍しい。日本人のわずか3分の1しか自分たちの首相であるシンゾー・アベをいいとは思っておらず51%もの人たちが不満を示しているのに・・・
    RARELY has such an unpopular leader won a free and fair election so lopsidedly. Only about one-third of Japanese people approve of Shinzo Abe, their prime minister; a whopping 51% disapprove.
安倍さんにとっては大して嬉しくない書き出しですが、とにかく選挙では勝ったのだから、今年の6月、同じように議会解散による選挙を実行して負けてしまった英国のティリーザ・メイとは大違いというわけであります。

 

安倍さんの勝利を実現させた一つの理由が野党側の分裂状態(the opposition imploded)であることは間違いないけれど、The Economistが挙げるもう一つの理由は「不安な心理にある有権者が安心を求めたこと」(nervous voters sought reassurance)です。現在の日本には二つの「危機」がある。一つは高齢化であり、もう一つは「北朝鮮」である、と。そしてこの二つの「危機」のうち高齢化社会の問題は取り組むにも大いに時間のかかる問題であるのに対して「北朝鮮」は今そこにある問題です。「個人的には嫌いだけど安全を守ってくれる」(to keep them safe)存在としての安倍さんを買ったというわけです。さらに安倍さんの「お友だち」であるトランプという人物に対する日本人の好感度も決して高いものではない。
  • トランプ大統領の存在も助けになった可能性もある。強く否定はされているけれど、トランプが日本の有権者に対して「アメリカは常に日本を守るとは限らない」という印象を与えたということだ。
    President Donald Trump probably helped him, too, by giving Japanese voters the impression (strongly denied) that America cannot always be relied upon to defend Japan.


今回の勝利によって安倍さんは、日本の平和憲法を変えるための信任を得たと考えている。The Economistは、安倍さんのその目標が「理にかなったもの」(a sensible goal)であると考えている。憲法第9条が謳うような平和主義は文字通り実行することなど出来るはずがない。また過去70年、日本は陸海空30万人に及ぶ「素晴らしく装備された」(superbly equipped)軍隊を所有してきたし、その軍事予算は世界でも第8位という大きさなのだから・・・。

というわけで、「平和憲法」が世界の現実、そこで生きている日本を取り巻く現実に即さないことは明らかである、にもかかわらず第9条を変えることは簡単ではないだろう(Changing Article 9 will not be easy)とThe Economistは言います。第9条をどのような文面(wording)にするのかについては、自民党内のハト派をも納得させなければならないし、国民投票で多数を得るのもタイヘンなこと(a struggle)だろう、と。


もちろん第9条を変えるとなると、中国・韓国・北朝鮮などが黙ってはいない。「1930年代・40年代に東アジアを破壊した軍国主義日本に戻ることになる」と非難するであろうが、The Economistによると、そのような非難は「たわごと」(bunk)なのだそうです。
  • 富裕国であり、成熟した民主主義を有する国でもある日本は、世界の安全を確保するためにその役割を果たすべきなのだから。高齢化と人口減少がつづき、平和主義が根を下ろしている日本は誰にとっても脅威であるはずがない。
    As a rich, mature democracy, it should also be doing its bit to keep the world safer. With its elderly, shrinking population and ingrained pacifism, Japan is no threat to anyone.


日本が平和主義の国であることは明らかである・・・なのに(alas)実はミスター・アベ自身が平和主義とはまるで反対の印象を与えてしまっている、とThe Economistは指摘します。彼(安倍さん)が憲法を変え、なおかつ海外における反対意見を抑えたいのだとしたら、戦犯が祀られている靖国神社を参拝することを止め、過去の殺戮を認め、彼の祖父から距離を置くことである、と。「彼の祖父」はかつての首相であった岸信介氏のことであり、彼は中国における日本の植民地支配の責任者として中国人を奴隷扱いしたことに関わった人物であるというわけです。つまり・・・
  • 日本が真に「普通の国」になるためには、自らの過去ときっちり折り合いをつける必要があるということだ。
    For Japan truly to become a normal power, it needs to come to terms with its history.
というのがThe Economistの社説の結論です。

▼自民党の勝利は、日本人が安心・安全を求めたことに原因がある、という分析は当たっていると思いません?選挙前の何か月もの間、あれほど北朝鮮の脅威なるものを有権者の心に吹き込めば、嫌でも時の政府に頼らざるを得ないという心境になりますよね。シンゾーのそのような脅迫行為を先頭に立って支援したのがメディア(特にテレビ・メディア)ですよね。「北朝鮮の脅威に対抗するためにはトランプと組んで軍事力も含めて圧力をかけるっきゃない」というヒステリアをそのまま受け入れるような番組やコメントを流し続けて、日本全体を思考停止状態に陥れた。それでも立憲民主党のような政党に投票する人が1000万人を超えたということにむささびとしては一縷の望みを託す気分でいるわけよね。

▼憲法改正についてThe Economistの社説が言いたいのは、「改正そのものは正しいけれどシンゾーじゃダメ」ということなのですよね。どうしてもやりたいのなら靖国参拝だの岸信介だのという「日本」とは縁を切らなければならない・・・そう言っているのですよね。でも彼はその種の日本を守るために首相になったつもりなのですよね。だからそれを止めろと言われても・・・ということになる。結果として、The Economistは「ないものねだり」をしているということになるわけ。

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2)グラフ:日本人と民主主義
 

10月19日付のアメリカの世論調査会社、Pew Researchのサイトに、現在の日本人の政治意識や対米感などを特集した報告が掲載されています。それによると、日本における民主主義の現状については日本人の意見は分かれている(Divided on Democracy’s Success)けれど「国民の声は大事にするべきだ」(Value Voice of the People)と考えている点では一致している。またアメリカについては批判的な見方が増えている。

この調査が行われたのは今年(2017年)の3月8日から4月2日までの約3週間、トランプが大統領に就任してから約2か月後のことですが、発表されたのは10月17日だから、トランプ大統領の訪日が発表された後のことです。そういうつもりはなかったのかもしれないけれど、日本のことなど何も知らない(であろう)トランプにとってはある種の参考材料にはなる・・・という意味で、「トランプも読んだかもしれない」資料として紹介するのも悪いこっちゃない(とむささびは考えた)。

 日本の民主主義の現状に日本人は・・・

まず民主主義の現状については「ほぼ半々」で「満足」(satisfied)と答えており、政府に対する信頼度もかなり高いのですが、政権に対して「大いに信頼している」(a lot of trust)と答えた日本人はわずか6%にとどまっている。尤も現在の世界で政府が国民に「大いに信頼」されている国なんてあるんですかね!?

政府に対する信頼度

アメリカという国・大統領への好感度


この調査には、過去約10年間(2006年~2017年)のアメリカという国およびアメリカの大統領に対する日本人の好感度の推移も紹介されている。アメリカ合衆国に関してはほぼ常に6割以上の日本人が好意的なのですが、大統領に対する感覚は極端に揺れている。2006年~2008年はジョージ・ブッシュが大統領であったのですが、好感度は常に4割以下であったのに、オバマが大統領になった途端に8割以上へと跳ね上がり、彼の任期中は最低でも6割、平均すると7割と8割の間という高い評価で終始している。それが2017年になると好感度が前年の8割から2割強へと激減してしまった。

アメリカという国についての好感度も、オバマからトランプへと大統領が変わった途端に72%→57%と下落している。これはフィリピン人の対米好感度(78%)や韓国のそれ(75%)に比べるとかなり低い。

日米関係のこれから
 

日米関係の将来については「良くなる+変わらない」(51%)が「悪くなる」(41%)を辛うじて上回っているけれど、積極的に「良くなる」とする日本人は「悪くなる」の半分以下(17%)となっている。ただこの点については年齢による違いもあるのだそうで、18~29才の日本人の25%が「良くなる」としているのに対して、50才以上となると、そのように考える日本人は13%にすぎないという数字もある。

 アジア諸国の対日好感度

Pew Researchの調査には、日本がアジア各国にどのように見られているのかということも含まれている。韓国人の対日好感度が他に比べるとかなり低いことは普段から言われていることなのですが、ちょっと意外なのがインドです。日本に対して好意的な人びとは42%だけなのですね。ただインド人の多くが「反日」なのかというと必ずしもそうではないようで、日本に対して批判的なイメージを抱いているインド人は15%で、42%が「分からない」と答えているのだそうです。つまり日本を知らないということのようであります。

▼この調査の中に「アメリカ人が日本をどのように見ているのか」というポイントがなかったのは残念ですね。特に知りたいのはトランプ支持層とされる「超保守」の人たちの感覚ですね。

▼このグラフはPew Researchの記事とは関係なしに、むささびが勝手に作ったものです。日本と英国では選挙制度が違いますよね。日本は小選挙区制と比例代表制を併用、英国は完全小選挙区制です。今回の衆議院議員選挙の「比例代表」で「自民党」に投票した人は全体の33%(得票率)だけだったのに、国会における議席占有率は465議席中の284議席で61%にものぼっている。「得票率=議席占有率」という考え方で計算すると自民党は153議席、立憲民主党は55議席ではなく93議席ということになる。「だから日本の制度はダメなんだ」と言うつもりはありません。おそらく現在の併用制には何らかのメリットがあるけれど、むささびがそれを知らないだけということなのですよね。

▼一方、今年の6月に行われた英国の選挙では保守党の得票率は42.4%で議席占有率は48.9%だった。得票率がそのまま議席数に反映されるべしということになると、保守党は276議席であるはずなのに実際には318議席を占有している。労働党の場合は260議席であるはずなのに実際には262議席となっている。

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3)BREXITとカタルーニャ独立


10月1日、スペイン東部のカタルーニャ自治州で、カタルーニャ州のスペインからの独立の是非を問う住民投票が行われ、圧倒的多数(92%:8%)で独立支持派が勝った。けれどスペインの中央政府が国民投票そのものを認めていないというわけで、実際にはこれからどうなるのか分からないわけですよね。

 カタルーニャ独立に

むささびはスペインのことなど全く分からないし、カタルーニャの問題について長々と語るつもりはないけれど、独立支持派と目される団体から送られてくるメールなどを見ていると、「カタルーニャは独自の歴史と文化を有している国であるにもかかわらず、フランコを始めとするスペインの指導者によって認められてこなかった、もう我慢できない、我々に独立と自由をよこせ!」と言っている。詳しいことを知りたい方は、10月12日付の読売新聞に法政大学の田澤耕教授が『歴史を通して読み解くカタルーニャ独立問題』というエッセイを寄稿しています。

「形式上の主権」と「本当の主権」

一方、London School of Economics (LSE) のサイト(10月7日)は ポール・デ・グラウェ(Paul De Grauwe)という国際経済の教授のエッセイを掲載している。題して
と言っている。教授によると、カタルーニャ独立を主張するナショナリズムもドイツやオーストリアを始めとするヨーロッパ諸国で見られるナショナリズム(BREXITも含む)も「形式上の主権」(formal sovereignty)は追求しているけれど、それぞれの国の人びとにとっての「本当の主権」(real sovereignty of the people)の獲得にはなっていないとのことです。どういう意味?


同じ国の中の一地方が独立を求めるという意味では、最近の例として2014年9月18日に行われたスコットランドの独立投票がある。結果的には独立賛成は45%にとどまったわけですが、教授に言わせると、当時英国の首相としてこの住民投票を許したキャメロンは賢明だった。カタルーニャの場合は、スペインのラホイ首相が力ずくで住民投票を阻止しようとしたことで住民の反感を招いてしまったけれど、キャメロンと同じように平和的に対処していれば、スコットランド同様の結果になったはずである(would most probably have led to a similar outcome)というわけです。確かに投票に参加した人だけを見ると「92対8」なのだから独立派の圧勝ですが、カタルーニャ地方の有権者の数全体から見ると投票率自体が43%とかなり低いものではあった。

ナショナリストの作り話

教授に言わせれば、頑迷なる首相の愚行のおかげで、ロボットのように無表情なスペインの警官が、自由を求める人民を抑圧するというイメージがテレビを通じて拡散してカタルーニャのナショナリストが力を得てしまった。もちろん現実は大違い。カタルーニャ人は抑圧された人民などではなく、十分な自治を有している。自分たちの言語で教育する権利も与えられているし、文化の伝承も充分に行われている。スペインで最も裕福な地方であるカタルーニャのナショナリズムはBREXITを呼び込んだ英国のナショナリズムと同じようなもので、いくつかの「作り話」(myth)がある・・・と教授は指摘します。
  • 作り話①:外部に敵がいるという作り話。BREXIT人間にとってはそれがヨーロッパの官僚であり、政府であり、裁判所でありということになる。「ヨーロッパ」の意思を英国に押し付けているというわけだ。カタルーニアのナショナリストにとっては、自分たちを抑圧している敵はスペイン政府ということになる。
  • 作り話②:自分たちの独立のために戦っている人びとが、自分たちが何者であるのかということについての明確なアイデンティティを有しているという作り話。政治家の仕事は国民の意思(will of the people)に耳を傾けることであり、「国民の意思」は一つしかないと主張する。異なる意見・反対意見などを認めない。英国政府がいま国民に求めているのは「愛国心」であり、BREXITに反対する者は真の愛国者(true patriots)ではないというわけだ。
  • 作り話③:「独立」さえ勝ち取れば、自動的に経済的な繁栄が付いてくるという作り話。最近の英国における流行言葉を使うと、EUを離脱して「(自分たちの運命について)コントロールを回復すれば」最大限の経済的繁栄を勝ち取る手段を得ることになる・・・というわけです。保護主義のEUから離脱しさえすれば、「グローバル・パワーに恵まれた英国」は、世界中の国々と自由な貿易協定を結ぶことができる。それによってかつてないほどの経済的繁栄を英国は享受することになる、と。これと同じような主張がカタルーニャのナショナリストたちからも聞こえてくる(と教授は主張する)。独立しさえすれば、繁栄は自分たちのものである・・・と。
弱まる主権

グラウェ教授は、このような「作り話」ではなく「現実」(reality)に目を向けることを主張している。即ちグローバル化時代のいま、「国の主権」(national sovereignty)は弱くなっているという現実です。一つの例がヨーロッパで活動する巨大多国籍企業がそれぞれが活動する国に対して支払っている法人税。教授によると、どの国でもこれらの企業の圧力(blackmail)によって法人税が引き下げられている。国民が望んでそうなったのではなく、企業からの圧力に屈してそうなっている。そのような状況が生まれるのは、それぞれの政府が国単位で動いているからだ。法人税をヨーロッパ全体として決めることにしたらどうなるのか?多国籍企業は政府と裏取引というわけにはいかない。法人税がいつの間にか下がっているというような状況もなくなるだろう・・・と教授は言っている。


グラウェ教授が挙げるもう一つの例が国際貿易における非関税障壁(non-tariff barriers)です。関税が高くなると貿易に影響が出てくるのは当然だけれど、最近の国際貿易に影響を与えるのは関税障壁ではなく、非関税障壁なのだそうです。つまり国内の基準や規制を厳しくすることです。ただ教授によると、最近の国際貿易で非関税障壁を作るのは、アメリカ・中国・EUであって、他の国はこれに関与することができない。英国はEUの加盟していることでこれに関わることができるけれど、離脱するとそれがなくなる。つまり「主権」を回復するべく英国がEUを離脱するけれど、そこで得られる「主権」は単なる形式に過ぎない。実際には本当の意味での主権は少なくなる。同じことはカタルーニアにも言えるというわけです。


BREXITの幻想


「国境を取り戻す」と主張するナショナリストが実際に取り戻すのは「形式上の主権」にすぎず、その国の人びとにとって本当の意味がある「主権」はむしろ小さくなってしまう・・・それがグローバル化した世界が直面するパラドックス(逆説)である、と教授は主張しています。BREXIT推進派は、EUを離れることによって自分たちの運命に対する「コントロール」を取り戻すと主張するけれど、BREXITによって英国が得るのは、自分たちのコントロール範囲が狭まるということであり、同じことがナショナリスティックな夢を求めるカタルーニアのナショナリストについても言える・・・ということです。そして・・・
  • この逆説から導き出される必然的な結論もある。即ち、ヨーロッパの国々が「形式的な主権」を放棄すると、ヨーロッパの人びとはこれまで以上に「本当の主権」を獲得することになるということである。
    Yet this paradox also has a corollary: when countries in Europe renounce formal sovereignty this leads to more real sovereignty for the peoples of Europe.
というのがグラウェ教授の結論です。

▼BREXIT支持者が求める「EUからの独立」とスコットランド独立支持者が求めた「UKからの独立」には感覚的な違いがあるように思えます。後者は被支配者意識を持つ人びとが支配者から独立することを求めたもので、スコットランド人がイングランド人に対して優越意識のようなものを持っていたわけではない。BREXIT支持者の場合はイングランド人たちのヨーロッパ大陸に対する優越意識に基づく拒否反応のようなものがある(としか思えない)。

▼グラウェ教授によると、カタルーニャ人は「抑圧された人民」などという存在ではなく、充分な自治が認められ、言語を始めとする文化的な伝統も十分に尊重されている。しかも経済的にも豊かというわけで、この教授のエッセイに見る限りではカタルーニャ人の独立志向はBREXITのそれに似ていなくもない。けれど読売新聞に掲載されている田澤教授のエッセイを読むと、カタルーニャ人たちは普段からスペイン人によって自分たちの自主性や誇りが踏みにじられていると感じており、独立を志向するのも当然という感じになる。

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4)MJスライドショー:this britain
 

むささびジャーナルをお読みの皆さまは、殆ど誰もが一度は英国へ行ったことがおありだと思います。中には英国で暮らした方、今も暮らしている方もおいでです。皆さまはどのような風景に「英国」を感じますか?ここで紹介する写真は、主として英国内を旅行した英国人が写した風景写真です。Guardianの風景写真コンテストでいい成績をおさめたものが中心です。むささびも含めて外国人が写すとどうしても緑の田園とかロンドンの街角とかが中心になります。自分の国にないものを写したがるのは当たり前です。英国人は、自分たちの国内を旅してどのような風景が気に入るものなのでしょうか?上の写真をクリックするとスライドショーに移ります。画面は大きくして見た方がいいかもしれません。

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5) どうでも英和辞書
A-Zの総合索引はこちら 

mandate:権限

The Economist誌のオンライン版に、日本における衆議院議員選挙で自民党が大勝したことに関する記事が出ていたのですが、それによると
  • Mr Abe has won a big victory, but he has a weak mandate.
となっている。「大勝(big victory)はしたけれど、mandateは弱い」ということですよね。ネット辞書によると "mandate" は
  • the power to act that voters give to their elected leaders
となっている。「有権者が選挙でリーダーに与える行動するための権限」ということです。今回の選挙で大勝した安倍さんにしてみれば「日本国民から自分が大事だと思う政策を実施する権限を与えられた」と言いたいし、事実そのとおりなのだろうと思うけれど、ある世論調査によると半数以上の人が安倍さんが首相であり続けることに反対、彼が首相であり続けることを望んでいるのは3分の1しかいない。となると選挙に勝ったものの有権者が与えた権限(mandate)はそれほど無条件なものでもない、と。そうなると安倍さんも自分のやりたいことをどんどんやるわけにもいかない?

今年の4月にEUから離脱交渉に臨むにあたり、メイ首相が国会を解散して選挙を行うと発表してあっと驚かせたことがある。国のリーダーとしての "mandate" を強化しようとしたメイさんですが、保守党が完敗、却って彼女の権限基盤の脆弱さのようなものを露呈することになってしまった・・・あれですね。

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6) むささびの鳴き声
比例代表制の得票率(%)と得票数


▼上のグラフは今回の選挙における「比例代表」で、それぞれの党が獲得した票数と得票率を示すものです。議席数とは別に「何人の人がどの党にいれたのか」という一種の人気投票の情報ですが、議席数の勝ち負けでは出てこない「世論の動き」のようなものが見えて面白いですよね。

▼約1900万の人が自民に投票しているのですが、立憲民主党は1100万人から投票を集めている。投票総数が約5600万であることを考えると、設立ほやほやの「立憲」に1100万票というのは凄い数字だと思うけどなぁ。

▼衆議院議員選挙の結果に関連して、田中良紹という政治ジャーナリストの『どの政党もハッピーになれない総選挙結果』というエッセイを読みました。「政局」ではなくて「政治の在り方」を語っていて好感が持てるのですが、かなり長い記事なので、むささびの独断で面白いと思った部分だけを抜き出して語ってみたいと思います。まず今回の選挙における民進党代表の前原さんがとった行動(希望の党への合流)について、どちらかといと好意的に語っている。
  • 希望の党と民進党が合流し小池氏が総理を目指す選挙にすれば、自公を過半数割れに追い込み安倍総理を退陣させることは可能であった。
▼前原さんがとった行動は(田中さんによると)、冷戦後の1995年にイタリアで起こった「オリーブの木」という運動と同じものだった。右派連合のベルルスコーニ政権に対抗するために12の中道、左派政党が作った緩やかな連合体で、翌年の総選挙で勝利したものですよね。前原さんとしては、希望の党との合流で日本版のオリーブの木を立ち上げれば、延々と続いている安倍政権を打倒できると考えた。でも希望の党の小池さんが首相になる気がないというわけで、「希望」の勢いが失速、「オリーブの木」の夢もぽしゃってしまった。おかげで前原さんが民進党を潰したとして批判されることになったというわけですが、田中さん自身は自民党にとって代わる政権党を作ろうする前原さんの意図そのものは正しかったとしている。

▼田中さんが語っているもう一つの動きが枝野さんらによって旗揚げされた「立憲民主党」です。ただこれについてはやや厳しい見方をしているようです。
  • 野党第一党であるから「政権交代を目指す」ことが期待される。立憲民主党にそれができるだろうか。申し訳ないがはなはだ悲観的にならざるを得ない。
  • その主張には正しいことが多く、国民も耳を傾けエールを送るが、しかし政権を任せるかとなれば国民はそれほど信頼を寄せない。
▼なぜ国民が立憲民主党には「信頼を寄せない」のか?田中さんによると「官僚機構をコントロールする力と知恵を信用できないからだ」となる。立憲民主党は昔の日本社会党や現在の共産党と同じで「原理・原則」にこだわりすぎるので「一定の支持は得られるが権力を奪うところまではいけない」のだそうです。安倍政権が行なった安保法制の強行採決は許されるものではないけれど、かと言って、「政権を奪ったその日から米国と立ち向かわなければならない政権が直ちに安保法制を廃止すれば大混乱に陥る」というわけで、「限定的な運用」で事実上の廃止に近づけるような柔軟性も必要だ・・・と田中さんは言っている。

▼田中さんが期待するのは、「希望の党に結集した現実派が自民党の補完勢力としてではなく、自民党の反安倍勢力と手を組んで政界再編を仕掛け、政権交代可能な政治体制を構築する方に向かうこと」であり、そうなれば「政治の先行きを面白くする方向に向かう」と言っている。

▼このエッセイを読んでむささびが思うのは、(いつも言うことですが)田中良紹という人自身はどこに立っているのか?という疑問です。「希望」の現実派が自民党の反安倍勢力と手を組むことで構築される「政権交代可能な政治体制」と「日本人の大多数が幸せになる」ということの間にどのような関係が存在するというのか?田中さんのエッセイを読むと政治家の役割は「二つの選択肢を提供することにある」と言っているとしか思えない。有権者が問うているのは「選択肢」の中身であるのに、それについては殆ど触れない。

▼このコーナーの一番最初で紹介した「比例代表制の得票率と得票数」というグラフについてですが、いずれは日本では憲法改正の国民投票を行なわなければならなくなりますよね。単純多数決だから、一票でも多い方が勝ち。このグラフによると投票総数が約5600万だから、国民投票で過半数をとるためには、2800万票以上が必要になる。この選挙における自民党の獲得票数に1000万をプラスした数字です。一方、立憲民主党に入れた1100万人はおそらくシンゾー政府が提案する改憲案には「反対」に入れるのでは?「希望」の約1000万にしても「9条改正・自衛隊明記」というシンゾーの考え方にもろ手を挙げて賛成するとは思えない。となるとシンゾーにとっても自分が思うような形での改憲は難しいってことかもね。

▼埼玉県はほとんど冬のような天気です。お元気で!

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むささびへの伝言