先日、埼玉県の山奥で、鹿の鳴き声を耳にしました。夜の7時ごろ、全くの暗闇で、いきなり「ピーッ」という鳥の鳴き声のような音がしたのですが、どこか哀しげな声でもありました。奥山に紅葉(もみじ)踏み分け鳴く鹿の声聞くときぞ秋は哀しき・・・むささびが父親から教わった初めての百人一首の和歌でした。2017年も残りわずかになってしまいましたね。上の写真、イヌの後ろ姿は実に楽しいですね。
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目次
1)英国人とモーゼの十戒
2)オスロ合意の裏側で
3)トランプとアジア
4)アメリカ:銃規制を阻む「直感」と「迷信」
5)どうでも英和辞書
6)むささびの鳴き声
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1)英国人とモーゼの十戒
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旧約聖書に出てくるモーゼの十戒(Ten Commandments)は欧米のキリスト教社会を律する教義の代表格ですが、世論調査機関のYouGovの調査によると、ここに出てくる10の戒めのうち4つは現代社会に合わない・・・と英国のキリスト教徒が考えているのだそうです。何はともあれ「10の戒め」をリストアップしておくと・・・
- 我のほかなにものをも神とするなかれ
Thou shall have no other gods before Me.
- 偶像をつくり これにひれ伏しつこうるなかれ
Thou shall not make idols.
- なんじの神 主の名をみだりに言うなかれ
Thou shall not take the name of the LORD your God in vain.
- なんじ安息日を聖として忘るるなかれ
Remember the Sabbath day, to keep it holy.
- なんじ父と母とを敬え
Honor your father and your mother.
- なんじ殺すなかれ
Thou shall not murder.
- なんじ姦淫するなかれ
Thou shall not commit adultery.
- なんじ盗むなかれ
Thou shall not steal.
- なんじ偽りの証を立つるなかれ
Thou shall not bear false witness against your neighbor.
- なんじむさぼるなかれ
Thou shall not covet.
英国統計局(Office for National Statistics: ONS)のサイトを見ると、2011年の人口調査では自分がキリスト教徒であると答えた人は全体の63.1%、「無宗教」が27.9%、「イスラム教徒」が4.8%などとなっている。2005年の調査では77%がキリスト教徒であるとしていたことからして、キリスト教徒の数が減っていることは事実としても、6割以上が自分をクリスチャンであると言っているのだから、英国が「キリスト教の国」であることは間違いない。
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十戒の大切さランク |
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では、自分がクリスチャンであると考えている、21世紀の英国人はキリスト教という宗教で謳われている「戒め」をどのように受け取っているのか?YouGovの調査は「キリスト教徒」と「無宗教」の意見を聞いているのですが、「殺すなかれ」と「盗むなかれ」は両方とも90%以上が「大切」と答えている。「偽証するなかれ」は別の言葉でいうと「うそをつくな」ということになるけれど、これは3番目に高い。
いわゆる「不倫の戒め」についてはやや下がって、キリスト教徒の76%、無宗教の69%が「大切」と答えているけれど、ざっと30%が「大切でない」としている。同じようなのが「父母を敬え」なのですが、キリスト教徒の場合はほぼ8割が「大切」だとしているのに対して「無宗教」の場合は60%。この違いは何なのか?「父母を敬え」が宗教的な教義として受け取られているということ?
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この調査の場合、現実の世の中との関連で考えると、「大切でない」とされてしまった戒めの方が面白い。「神の名をみだりに使うな」について言うと、キリスト教徒の38%が(例えば)"Oh, My God" とか "Good Lord!" のような言葉を気にしているのに対して、無宗教者の場合は、気にするのはわずか7%に過ぎない。
「我のほかなにものをも神とするなかれ」(You shall have no other gods before Me)という言葉はモーゼの十戒の中でも一番最初に出てくるものなのですが、21世紀の今では、これを大切と考える人は下から2番目に過ぎない。大切さ加減が最も低いのは、日曜日を安息日(Sabbath Day)と考えるべきだという姿勢です。キリスト教徒で尚且つ安息日を特別視するのは3分の1以下、無宗教者の場合はわずか7%に過ぎない。
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「安息日」が最も問題になるのが、日曜日に店を開けることを許すかどうかということ。英国にはかつてThe 1950 Shops Actという法律があって、日曜日の営業は禁止されていた。これに挑戦したのがサッチャーさんで、1986年にこの規制を取り払おうとしたのですが、これに英国国教会とKeep Sunday Specialという市民グループが一緒になって規制緩和大反対のキャンペーンを繰り広げ、サッチャーさんの夢は叶わなかった。が、時代の波には勝てませんね。英国人のレジャーの過ごし方が変わるにつれて、日曜日に買い物ができないなんて・・・という不満が高まり、1994年になってSunday Trading Actなる法律が出来て、大型店舗に限り、午前10時から午後6時の間の6時間だけ営業してもいいということになり現在に至っている。
小売業の開店日もさることながら、統計局の数字によると現在の英国で日曜日にも仕事をしている労働者の数は520万人で、1994年当時の210万人をはるかに上回っている。英国はオンラインショッピングを利用する消費者の数がヨーロッパで一番多く、デパートやスーパーに規制をかけてもオンライン・ショッピングを規制するのは至難の業というわけです。
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▼1980年代初期に初めてロンドンへ行ったときには面喰いましたね。日曜日にショッピングをしようとしたらどの店も閉まっているのだから。金曜日の夕方になると、繁華街でウィンドウ・ショッピングをする人が目立ったような気がしましたが、あれは翌日の土曜日に買い物に来るための品定めだったのではないかと思ったりして。とにかく日本ではない習慣だった。今でも日曜日にパブへ行くと「サンデーロースト」というご馳走メニューがある。ローストビーフを店主が切ってお皿に載せてくれるのですが、肉を切りながらなぜか鼻歌を歌うんですよね。どのパブも同じだった。あれも英国的習慣なんですかね・・・? |
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2)オスロ合意の裏側で
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上の写真、歴史に残るものとして有名ですよね。真ん中にいるのはアメリカのクリントン大統領、左側がイスラエルのラビン首相(当時)、右側がパレスチナ解放戦線(PLO)のアラファト議長(当時)です。今からほぼ25年も前の1993年9月13日、イスラエルとパレスチナ解放機構(PLO)の間で同意された「オスロ合意」(Oslo
Accords)という協定が、クリントン大統領の仲介で締結・調印された直後にワシントンで撮影されたものです。イスラエルとパレスチナの問題は歴史的にも余りにも長くて深すぎるし、いまそのことを話そうとしているわけではありません。むささびが紹介しようとしているのは、この歴史的な写真の背後で奔走したノルウェーの若い社会学者と外交官の夫婦のことです。
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1950年代の初頭から1992年までの約40年、イスラエルとパレスチナの和平は全く不可能とされていた。パレスチナ側の非公式の代表機関とされていたアラファト議長率いるPLOはイスラエル政府によってテロ組織と認定され、幹部はアルジェリアのチュニスで亡命生活を送っていた。パレスチナ側もまたイスラエルを正式な国家としては認めておらず、アメリカを仲介役とする和平工作も暗礁に乗り上げたままという状態だった。
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オスロ合意に向けた秘密交渉が行われたお城 |
そんな状態のときにノルウェー政府の後押しで乗り出したのが、テリエ・ロード・ラーセン(Terje Rod-Larsen)という社会学者とモナ・ユール(Mona
Juul)という外交官(女性)の夫婦だった。夫は45才、妻は33才。彼らはイスラエル、パレスチナの双方を説得、ノルウェーの首都、オスロ郊外のお城で極秘裏に両者の代表団を会わせることに成功した。その結果、出来上がったのが「オスロ合意」と呼ばれる一連の協定だった。基本的には、パレスチナがイスラエルを国家として承認する一方で、イスラエルはアラファト議長率いるPLOをパレスチナの自治政府として承認するもので、イスラエルとパレスチナの指導者が握手したことで「ついに中東に平和がやってきた」と世界中が沸いた。が、その後のイスラエル・パレスチナの関係は対立に次ぐ対立で、現在は「オスロ合意なんてあったのか」という状態に逆戻りしてしまっているというわけですよね。
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あれから約25年、現在ロンドンのHarold Pinter Theatreという劇場で "Oslo" というタイトルの劇が上演されています。期間は12月30日までとなっている。この劇は、オスロ合意が締結・調印のために舞台裏で駆けずり回った若いノルウェー人夫婦を主人公とする実話の政治劇です。昨年(2016年)、アメリカで制作され、ニューヨークで上演され大ヒットしたのちにロンドンで上演されている。この劇に出てくる女性外交官(当時34才)は、現在は駐英ノルウェー大使をつとめている。9月11日付のThe Timesのサイトにモナ・ユール大使とのインタビューが掲載され、オスロ合意に向けて行動した彼女の和平外交についての「哲学」が語られています。インタビュー記事の見出しは
となっている。ユール大使の言葉をいくつかピックアップしてみます。 |
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話し合うこと
- Q:この劇がヒットしている理由は何だと思いますか?
この劇が伝えようとしているメッセージは「話し合わなければならない」(we need to talk)ということだ。いま世界は余りにも極端に二極化(polarised)して、人と人を結びつけるだけの希望が持てなくなっている。でもあのPLOとイスラエルが話し合ったのですよ。どの国だって話し合いはできるはずですよ。
殆ど誰とでも話をするべきです(We should talk to almost everyone)。
- Q:「殆ど」誰とでも・・・つまり例外はある・・・?
私は政治家ではない。個人的にはいろいろな理由で話し合えない相手がいるかもしれない。しかし平和を生み出したいと思うのなら敵とでも話をしなければならないのです。
- Q:トランプ大統領は北朝鮮とは話し合いの時は過ぎたと言っています。
そのとおりかもしれない。しかし現在の英国政府は、北アイルランドでテロを行っていたグループと同じ席についているのですよ。あの頃にはそんなことは考えられなかったはずです。
漸進主義って?
- Q:オスロ合意のようなことを実現できたについては、貴方たちがノルウェー人であったことが理由だと思いますか?
夫のテリエ・ロード・ラーセンが提唱したGradualism(漸進主義)という考え方でしょう。双方の代表が個人レベルで知り合いとなり信頼し合う仲となる中で、それまでは合意できなかった点に合意を見出す。一つ一つ順を踏んで(consecutively)時間をかけること。Gradualismの反対は
"Totalism"(全体的対立主義)です。お互いの対立点をはっきりさせて交渉を行おうというもので、妥協よりも対立が重視される。これまでノルウェーが関与してきた和平交渉(スリランカ、コロンビア、スーダン、グアテマラなど)はGradualismの精神で行われている。
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- Q:EU離脱交渉に臨む英国の姿勢はとてもGradualismとは言えない・・・
どのような交渉でも参加者は大きなプレッシャーを感じながら交渉に臨むのだから、お互いのパーソナリティは重要だし、交渉会場の雰囲気も大切だ。何よりも大切なことは交渉者が相手の言い分に耳を傾ける気持ちと能力を有していること。
裏ルート民主主義!?
公にしない部分はもちろんある。交渉の中身にコメントをすると政治家はどうしても自分の有権者に対して話しかけようとする。そうなると彼のコメントは必ずしも本当の交渉内容を反映しないことになる。交渉者は(有権者ではなくて)交渉相手に対して自分がルートを踏み外していないことを知らせる必要がある。
- Q:裏ルート(backchannel)による交渉は必要か?
自分自身は「裏ルート民主主義」(backchannel democracy)を大いに信じており、交渉の中には公にしない部分もあることが大切だと思っている。 |
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オスロ合意でPLOのアラファトと握手をしたイスラエルのラビン首相は、「合意」から2年後の1995年11月4日、テル・アヴィヴで、オスロ合意に反対する狂信的なユダヤ教徒の青年によって暗殺された。その日モナ・ユールはテル・アヴィヴでアラファト議長と夕食を共にしていた。そこへ飛び込んできたのがラビン暗殺の知らせだった。彼女の証言によると、悲報を聞いたときのアラファト議長の落胆ぶりは相当なもので、震える声で「パートナー失った」(I
lost my partner)と言ったのだそうです。
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▼上のインタビューで出てきたGradualismについての付け足し説明。オスロ郊外の交渉会場にはイスラエル、PLOの双方から担当者が複数やってきて、それぞれの担当議題に分かれて1対1で交渉するという方法だった。ノルウェー人夫妻が狙ったのはそうして向かい合った人物同士の「人間としての共感」の醸成で、交渉の話をする合間にも、ときには自分の家族の話をしたりするし、自分の故郷の思い出を語ることもある。そうする中でお互いの人間としての共通点を発見すること。それこそがオスロ合意を実現した秘訣だった・・・とユール大使は語っている。 |
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3)トランプとアジア
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11月5日から14日までトランプ大統領が日本・韓国・中国・ベトナム・フィリピンのアジア5カ国を訪問するのに合わせて、11月3日付のアメリカの世論調査会社、Pew Researchのサイトに、中国を除く4か国の人びとのトランプ観を紹介しています。その中に国際問題について、トランプと中国の習近平のどちらが信頼するか?という質問があります。それによると、韓国人がトランプに厳しい目を向けている(ように見える)のに対して、日本・ベトナム・フィリピンではトランプの方が信頼できると考える人が多いのですね。アジア以外の世界平均では習近平の方が信頼されているようです。
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トランプと習近平:どちらが信頼できるか? |
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ただ習近平の場合、「信頼されている」と言っても、韓国であれ世界平均であれ40%に届かないのだから、それほどの信頼度でもない。さらに日本人の対トランプ信頼度は、習近平よりはマシというだけで、ベトナムやフィリピンにおける信頼度とは比較にならないほど低い。
もう一つ、トランプのアジア歴訪についてBBCのサイトに出ていた "President Trump and Candidate Trump" というビデオには笑いましたね。中国についてのトランプの過去の発言をまとめているのですが、大統領候補時代と大統領になってからでは全然違う。ちょっと違い過ぎる。これではヨーロッパでは信用されるはずがない。ここをクリックするとビデオが見れるけれど、その中から彼の対中国発言を4つ紹介すると・・・
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■大統領候補のときは・・・
2014年5月
中国はアメリカにとって脅威だ。友人などではない。
China is a threat to America. They are not our friend.
2016年5月
我々は中国が我が国をレイプすることを許し続けることはできない。彼らがやっているのは、そんなことなのだ。
We can't continue to allow China to rape our country - that's what they are doing.
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■大統領になったら・・・
2017年4月:習近平氏のアメリカ訪問中
我々は友好関係を発展させてきたのであり、自分にもそれは分かります。
We have developed a friendship. I can see that.
2017年11月:北京にて
しかし、しかしですよ、私は中国を非難することはしませんよ。ある国が他の国を利用して自国民のために役立てようとすることを責めることなんて、できますか?
But, but, I don't blame China. After all, who can blame a country for being able to take advantage of another country for the benfit of its citizens?
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▼正直言って、あまり興味がなかったので知らなかったのですが」、トランプは、規制が厳しいあの中国でツイッターができたのだそうですね。 |
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4)アメリカ:銃規制を阻む「直感」と「迷信」
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11月5日、米・テキサス州の教会で銃の乱射事件が起こり26人が死亡したというニュースがありましたよね。その事件のひと月前、10月5日付のThe
Economistに、銃規制の問題についてアメリカ人がどう思っているのかを知るためには彼らの「迷信」(superstition)の世界を知る必要があるという記事が出ている。"superstition"
を別の言葉で表現すると "belief that is not based on human reason or scientific
knowledge"(人間の理性や科学的知識に基づくことのない考え方)ということになる。即ち「銃規制」について言うと、
- 多くの共和党支持者が魔法の世界の発想に浸っている
A large number of Republican voters indulge in magical thinking
とのことであります。どういう意味なのか?
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銃規制に賛成
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元凶は共和党支持者?
銃規制について共和党・民主党の支持者を対象に調査すると、共和党支持者のほぼ8割が銃の所有を認めるべきだとしているのに対して、そのように考える民主党支持者は20%しかいない。銃規制に賛成の民主党支持者はほぼ8割なのに、共和党支持者の場合は2割にも届かない。さらに民主党でも共和党支持でもない「独立系」支持者の間ではいずれも意見は半々という感じです。要するに銃規制に強硬に反対するアメリカ人とは「共和党支持者」である、と。
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銃規制に反対
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アメリカでは他の先進国に比べて25倍もの数の銃による殺人事件が起こっている。世界の常識によると、銃による殺人事件を減らすための対策といえば銃の所有を規制することであり、英国でもカナダでもオーストラリアでもそのように法律を変えたことで銃による殺人が減っている。然るにアメリカの共和党支持者のほとんどが「一人でも多くのアメリカ人が銃を持てば犯罪が減る」(America would have less crime if only more Americans were armed)と信じている・・・。
「ワクチンの接種は自閉症に繋がる」!?
なぜそうなるの?常識的な説明(usual explanation)によると全米ライフル協会(National Rifle Association:NRA)のロビー活動があるから、となる。The Economistの記事によると、昔は銃規制の問題は「公衆安全」(public safety)という観点から語られていたのに、1970年代あたりから、「自由」の問題として語られるようになった。即ち政府という潜在的に暴虐的なものからの攻撃が身を守るのは「人民の自由」であり、何を犠牲にしてでも守られなければならない絶対的な価値であるという思考方法です。そのためには殺人事件が増えるのも仕方ない・・・と。
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とてもまともな考え方とは思えないけれど、The Economistによると、銃規制に反対するアメリカ人の多くが合理的とは思えない考え方をする。例えば共和党支持者の半数がダーウィンの進化論に反対している。しかも「ワクチンの接種は自閉症に繋がる」(vaccines cause autism)などと発言するような人物(トランプのこと)を大統領にまで押し上げている。
「思考」よりも「恐怖心」
最近出版された "Enchanted America”(魔法にかかったアメリカ)という本が、アメリカ人の銃規制観に新しい説明を加えている。銃規制反対論者らが主張する「銃があるからアメリカ社会は安全なのだ」という考え方は、アメリカ政治に昔から存在する「迷信」(非合理的・非科学的な思い込み)の反映なのだそうです。この迷信は右翼にも左翼にもあるけれど、最近ではもっぱら右翼が多い。彼らは「思考」よりも「直感」を信用する。こうした“intuitionists”(直感論者)は世の中を経験や事実ではなく、自分の感覚や本能だけを頼りに理解しようとする。 |
2017年:米国内の射撃事件数 |
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理論や事実よりも直感や本能が支配する社会では、現在のような「変化の時代」や「不確定の時代」を生きていくために採用する判断の多くが客観的な事実ではなく「恐怖心」(fear)によってなされることになる。不確定の中で生きるために頼りにするのは本能と「思い込み」(self-validating)である、と。その例がこの本の著者の息子(5才)が発する次のような言葉です。
- 本当に押入れの中に怪物がいないのなら、なぜボクは怖いのさ?
If there’s no monster in the closet, then why am I scared?
偏執狂的な政治スタイル
自分の恐怖心を客観的に証明するより、怖いという感覚に固執してしまう。銃規制によって自分たちの家族だって安全になることが分かっていながら、銃規制という考え方を拒否するアメリカ人の感覚は、5才の子供が持つ「恐怖を基にした論理」(white-knuckled logic)の反映に他ならないというわけです。
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それにしても何故アメリカのようなリッチで先進的な民主主義国家がそのような政治思考なのか?The Economistによると、アメリカの政治では対立が激しくなると偏執狂的な政治スタイルをとる政治家が現れる。終戦直後に現れて反共運動の戦闘に立ったジョセフ・マッカーシー、ベトナム反戦運動や黒人による市民権運動などが盛んになった1960年代、バリー・ゴールドウォーターという極端な反共主義者が共和党の大統領候補になったりした。偏執狂的な政治家が主流というわけではないけれど、時と場合によってはそれが噴き出すこともある。それが現代である、と。
共和党幹部の戸惑い?
現在のトランプ政権を支え、銃規制に強硬に反対する「共和党支持者」の中には、KKKのような原理主義的キリスト教徒や「プワホワイト」もかなりの数存在する。いずれもアメリカにおける文化的敗残者(losers in America’s cultural struggles)と言われる存在であり、共和党支持者の間でさえもとても主流とは思えない存在である。が、トランプは正にそのような「共和党支持者」に支えられて大統領になった。実際、トランプ自身はむしろ非宗教的(irreligious)で銃規制にはそれほど反対でもなかった。なのに彼らはトランプを支持した。何故なら、彼らの直感的選択によるならばトランプは自分たちの味方であったから。 |
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The Economistによるならば、いわゆる「共和党支持者」がここまで極端に銃規制反対に走るとは、共和党の幹部や全米ライフル協会でさえも考えてはいなかった。ある意味「嬉しい悲鳴」とも言えるけれど、それはトランプ支持者という名の「共和党支持者」が抱えている、時代の変化に対する恐怖心や子供じみた「思い込み」抜きにはあり得ない。昨年の選挙でトランプ支持者にすり寄ってしまったが故に共和党幹部は、ポピュリズムと本来のアメリカ保守主義の間の戦争に直面せざるを得なくなってしまった。それだけではない・・・
- アメリカ史上でも過去100年間で最悪の大量殺人を目の当たりにしながら何も言うことができないという状態に追い込まれてしまったとも言えるのだ。
It has also left them, in the wake of America’s worst civilian massacre in a century, with nothing to say.
とThe Economistは締めくくっている。
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▼もともとThe Economistという雑誌はビジネス・マガジンで、どちらかというと共和党寄りです。このエッセイからは、そのような雑誌のコラムニストの共和党の現状に対する嘆き節のようなものが聞こえてくる。トランプ支持者のような輩に乗っ取られてしまった共和党幹部のだらしなさに対するいらだちでもある。むささびの眼から見ると、まさか「草の根プアホワイト」たちが自分たちの大統領候補選びを乗っ取ろうなどとは夢にも思わなかった共和党的(小さな政府大好き)エリートたちがおたついている状態ともとれる。KKKだの「草の根プアホワイト」は本来なら民主党支持なんですからね。
▼文中に出てきたEnchanted Americaという本には "The Struggle between Reason and Intuition in US Politics"(アメリカ政治における理性と本能の争い)という副題がついている。確かにアメリカという国には科学技術の最先端を走る面もあるけれど、学校でダーウィンの進化論を教えることを禁止したりするという現代の「常識」に合わない面もある。銃の所持を認めることは「暴虐的政府から自らを守る人民の自由」を守ることに繋がる・・・250年も前の独立戦争時代の哲学(?)を21世紀のいま持ち出すこと自体がどうかしている。Wake up, America!と言っておきたい。 |
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5) どうでも英和辞書
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burglar:空き巣狙い
T「泥棒」にもいろいろある。"thief" は(手持ちの英和辞書によると)「通例暴力によらないでこっそり行なう」もの、"robber"
は「暴力を行使する場合が多いが行使しないこともある」ものだから、「強盗」ですかね。もう一つの専門職に "burglar"
がある。これは他人の住居に侵入して盗みを働く、「空き巣狙い」ですね。
Co-op Insuranceという英国の保険会社によると、burglarの皆さんが最も嫌うもののトップ5は
- 1) 防犯カメラ
2) 犬の吠え声
3) 丈夫なドア
4) テレビの音
5) ロックされたサッシ窓 だそうであります。この保険会社が元空き巣12人から取材した結果がGuardianに出ています。防犯カメラがトップに来るのは分かるけど「犬の吠え声」(Sound of a barking dog)がそんなにイヤですかね。「テレビの音」が聞こえるのが分かっていながら泥棒に入るのは、かなりの「勇気」が要るよね。案外ダメなのが空き巣除けの警報器で、警戒度13番目です。最近日本でも流行り(だと思う)の人影などを察知すると点灯する照明装置はトッぷ10中の10番目に来ている。空き巣が狙う品目のトップ5はというと、現金、宝飾品、電気製品(テレビなど)、電話、パソコンなどとなっております。
英国人2000人を対象に行った調査によると、半数以上が夜、窓を開けたまま(カギをかけずに)寝てしまうし、12%が庭のドアも開けっ放しなのだとか。また保険会社によると、自分が旅に出ているということをツイッターだのフェイスブックだの投稿する人が2割ほどいたのだそうです。この点について銀行強盗も含め、過去200回以上の犯罪歴があり、32年間を刑務所で暮らしたという輝かしい(?)経歴を誇るノエル・スミスによると、ソシアル・メディアで自分の旅行について投稿するのは、「どうぞ我が家に空き巣としてお出で下さい」(come
and burgle my house)と言っているのと同じだそうであります。この人は「カミソリ(Razor)」のニックネームで知られるプロ中のプロなのだから信用した方がいいかも・・・。
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6) むささびの鳴き声
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▼2番目に載せた「オスロ合意」についての裏話の主役の一人だった現駐英ノルウェー大使の話、何も画期的なことは言っていないように見えるけれど、「とにかく話をしよう」という熱意は何よりも今の時代に貴重なメッセージだと思います。トランプやシンゾー支持者からは「きれいごと(political
correctness)を並べているだけ」という嘲笑が聞こえてきそうですが、だったら「きたないごと」(political incorrectness)ならいいのか?と聞いてみたいよね。ノルウェー人の二人が「オスロ合意」に向けての秘密交渉のお膳立てをできたことについて、ユール大使のコメントは、ノルウェー人気質を「ノルウェー人は同じ部屋にいても大きなスペースをとらない」(A
Norwegian never takes up too much space in a room)いう譬えで説明していました。「でしゃばりではないから、誰も敵とは思わない」という意味です。
▼トランプが日本にいる間に拉致被害者の家族と顔を合わせることがありましたよね。神奈川新聞の記事によると、トランプとの面会後の記者会見で横田早紀江さんが「(トランプ大統領に)もっと大事なことも言いたかったが、言えないままだった」と発言したそうですが、本当なのでしょうか?NHKのサイトを見てもその種の発言については全く触れられいない。その会見の動画を見てもその発言が出ていない。
▼神奈川新聞には、記者会見後に同紙の記者が横田夫人と交わした会話が出ており、記者が「以前から『戦争には反対』と言っていたが」と問いかけたのに対して、彼女は「拉致被害者が北朝鮮に残されているという理由だけでなく、戦争は全体の破壊、地球の破壊ですから」と答えたと出ている。この記事を読む限りにおいて、横田さんがトランプに伝えたかった「もっと大事なこと」とは「北朝鮮との戦争は避けるべきだ」ということだったとしか解釈のしようがない。だから(むささびは)知りたいわけです、記者会見における「もっと大事なことも言いたかったが、言えないままだった」という横田夫人の発言はあったのか、なかったのか・・・。もしあったのだとしたら、記者たちはその点について「もっと大事なことって何ですか?」という質問をしたのか?
▼その神奈川新聞のサイト(10月11日)に拉致被害者連絡会元事務局長の蓮池透さんとのインタビュー記事が出ています。その中で蓮池さんが、拉致問題に対する安倍首相の態度について次のように語っている部分がある。
- 拉致も核もミサイルも一緒くたにして「断固、許さない」などと情緒的な言葉を繰り返す無策ぶりに、解決する気などないのだと感じてきた。
▼むささびが思うに、シンゾーには拉致問題を解決する気は、もちろんある。けれど憲法改正ほどには大切ではないし、靖国参拝ほどには熱心にはなれないということ。当たり前のことではあるけれど、拉致被害者の家族が求めているのは、トランプとの面会ではない。拉致された自分たちの家族との面会です。でもシンゾーにできたのはトランプとの面会までであったということ。被害者家族がトランプとの面会後に行った記者会見についてもう一つ知りたいと(むささびが)思うのは、「安倍首相が言うように、制裁や圧力だけで拉致問題が解決すると思うか?」という趣旨の質問は記者から出たのかということ。
▼4番目の記事で触れたとおり、銃規制を拒んでいるのは全米ライフル協会のロビー活動かもしれないけれど、その活動がこれほどまでに効果的であるについては「トランプ支持者」の薄気味悪いとしかいいようのない、狂信的白人優越主義(のようなもの)が大いに影響している。むささびジャーナル379号で紹介した「バノニズム」です。オバマが象徴した「進歩主義的インテリのきれいごと」を憎み切っている自称「忘れられた人びと」です。シンゾーとトランプの蜜月関係を考えるとき、アタマにおいておくべきだと(むささびが)思うのは、二人の背後にいる「忘れられた人びと」のことです。「きれいごと」を憎む彼らが考える世界とは、どのような世界なのか?
▼というわけで、飯能市の我が家の庭にある楓(かえで)が剪定され、葉っぱを落として夕暮れの空に向かって立っている様子は、熊が空に向かって吠えているようで、何やらユーモラスでもあります。お元気で! |
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むささびへの伝言 |