上の写真はベネズエラの首都、カラカスにあるアパート。不法居住者が住み着いてしまい、スラム化している場所の一つだそうです。ノルウェーのフォト・ジャーナリストであるヨナス・ベディクセン(Jonas
Bendiksen)の写真集 "The Places We Live" に収められています。ベディクセンは写真家集団「マグナム」に所属する写真家。この写真集は世界で進む都市化現象とそこで暮らす人びとの生活ぶりを伝えています。
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目次
1)職業別信頼度:中学生の視線
2)退学中学生が増えている
3)国民投票とお金
4)「非暴力・不服従」をアメリカで受け継ぐ
5)どうでも英和辞書
6)むささびの鳴き声
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1)職業別信頼度:中学生の視線
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IPSOS MORIという世論調査機関が行っている職業別信頼度調査については、これまでにも何度か取り上げたことがあるけれど、同じ会社が中学生を対象にした職業別信頼度調査をやっていたとは知りませんでした。約2600人の中学生にアンケート調査をしたもので、医者・教師・裁判官・ジャーナリストなど18種類の職業人をリストアップして、それぞれが「真実を語っている」(telling
the truth)人びと、即ち信用するに足る人たちであるかどうかを聞いている。
その結果は下のグラフのようになっている。ワースト5の中にある「普通の人」(the man/woman in the street)というのは厳密に言えば「職業人」ではないのですが、この調査では評価対象にされています。
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中学生が信用する職業人トップ5 |
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中学生から信用されない職業人ワースト5 |
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そもそも「中学生に何が分かるのか?」という疑問はある。おそらく彼らの意見には大人が日ごろから口にすることが反映されているということもあるだろうと思うのですが、それだけに「分からない」という部分も結構ある・・・というわけで、一昨年、大人を対象に行った調査結果と並べて示すと次のようになる。両者間の認識の差が激しいものの順に並べてあります。
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中学生 |
大人 |
普通の人 |
-30% |
+36% |
銀行家 |
+34% |
-21% |
大臣 |
-1% |
-56% |
政治家 |
-12% |
-67% |
TVキャスター |
-8% |
+39% |
教師 |
+45% |
+79% |
警官 |
+71% |
+44% |
不動産業 |
-14% |
-35% |
ジャーナリスト |
-27% |
-47% |
裁判官 |
+64% |
+65% |
医者 |
+83% |
+83% |
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ここで使われている数字は、「信頼する」というポジティブな数字と「信頼しない」という否定的な数字の間の差を示しています。例えば「医者」については、実際には88%が「信頼する」と答えているのですが、「信頼しない」という人が5%いたので、その差をとって+83%となっている。
ちょっと笑えると思うのは「普通の人」に対する評価ですね。実は大人の間では「信頼:65% 不信頼:29% 分からない:6%」という内訳になっている。なのに子供たちの間では「信頼:13% 不信頼:43%」で、「大臣」や「政治家」より評価が低い。大人の間における信頼度が高いのは(むささびの想像ですが、おそらく当たっている)大人たちは「普通の人」のイメージを自分と重ねて考える。そして自分たちは政治家だのジャーナリストよりはマシだと考えたがる・・・これですな。子供は正直だから「普通の人」というのは(自分の親も含めて)それほど尊敬に値する存在ではない。ただそれをストレートに言うのも憚る・・・というわけで、上のグラフでも「分からない」というのが非常に多くなっているわけ。
「ジャーナリスト」(主に新聞記者)については、大人も子供もさしたる信頼は感じていないという数字になっている。しかし子供たちがどの程度新聞(ネットも含めて)を読んだうえでの評価なのか?むしろテレビのニュース・キャスター(英国ではNewsreaderという)に対する評価の方が面白い。大人たちからの評価の内訳は「信頼:67% 不信頼:28% 分からない5%」で圧倒的な信頼度と言ってもいいくらいです。でも子供たちの間では「信頼」はわずか28%なのですね。「分からない」「不信頼」が同じ数(36%)であるところを見ると、大人ほどにはテレビの言うことは信用していないともとれる。本当のところはテレビ・ニュースそのものを余り見ないということかもね。
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人種別に見る中学生の職業観 |
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最後に白人・黒人・アジア系の中学生が感じる職業人への信頼度を見てみます。はっきり目立つのが、どの職業人についても黒人の子供たちからの眼差しがきついということです。さすがに医者については5割を超える信用度を得ているけれど、教師に対しては非常に低い。つまり学校の先生が真実を述べる存在であると信じている黒人の中学生は10人に一人もいないということになる。
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▼最後の「人種別に見る中学生の職業観」の中の「アジア系」というのは主にインド、パキスタン、バングラデシュ、スリランカなどの南アジアからの移民を祖先とする人たちです。この職業観を見る限りでは、アフリカ系が多い黒人よりも、「アジア系」の方が英国という社会に溶け込んでいるように見える。それと(むささびにとっては)不思議な気がするのは、大人の間におけるテレビのニュースキャスターと呼ばれる人びとへの信頼感です。いわゆる「ジャーナリスト」は全く信用されないのに、なぜテレビの人は信用されるんですかね。ただその大人たちとテレビのニュース番組を見ている中学生は、案外しらけているのかもしれない・・・という数字が出ている。
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日本における職業別信用度:ベスト3 |
1+2=信頼できない 3=どちらとも言えない 4+5=信頼できる DK:分からない
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▼日本における職業別信用度調査というのが、IT Business Onlineというサイトに出ています。10の職業をリストアップしてそれぞれに対する評価を聞いたものなのですが、トップ3は「自衛隊」「医療機関」「裁判官」で、ボトム3は(下から順に)「国会議員」「官僚」「報道機関」となっています。英国と似ていなくもないけれど、違うのは「官僚」に対する評価ですね。英国では
"Civil servants" に対する信頼度は56%と、ちょうど真ん中あたりで、政治家(15%)やジャーナリスト(20%)に比べるとかなり高い。それと日本では政・官・マスコミが一塊になってワースト3を形成しているというのも特徴的です。この調査で一番信頼されていない人たち(政治家)が、一番信頼されている人たち(自衛隊)の地位について「憲法を変えよう!」と叫んでいるわけであります。 |
日本における職業別信用度:ワースト3 |
1+2=信頼できない 3=どちらとも言えない 4+5=信頼できる DK:分からない
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2)退学中学生が増えている
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11月9日付のThe Economistに英国(イングランド)における小中学生の退学(exclusion)についての記事が出ています。
それによると、2015~2016年の1年間でイングランドで永久退学処分(permanent exclusion)を受けた児童は6685人いる。これは5年前の数字に比べると44%もの増加を意味している。子供たちが退学させられた理由ですが、学校へ武器を持参したなどというケースもあり、必ずしも学校側を責めるわけにはいかない場合もあるとのことであります。
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ただ、学校が過度に不寛容になっているのではないかという見方も根強くある。例えば退学処分を受けた児童の多くが精神衛生上の問題を抱えていたりするケースが多い。また退学者の中に占める「黒人・男子・貧困家庭」というケースが異常に多いことも指摘されている。
もう一つ注意すべきなのは、6685人という数字が必ずしも実際の退学件数を反映していないかもしれないということ。この数字はあくまでも学校側が正式に生徒の受け入れを拒否したケースの数字で、The Economistによると実際には学校が親に対して「他の学校へ移った方がよろしいかも」とか「自宅教育」を薦めたりという「非公式退学」(unofficial exclusions)の数字まで入れると、退学者の数は4万8000人(イングランドの小中学生200人に一人)にものぼると推定されている。
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公立小中学・特殊学校における退学者数の推移 |
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gov.uk |
政府系サイトの説明によると、英国では「退学」にも二つある。「一時退学」(fixed period exclusion)と永久退学(permanent
exclusion)ですが、前者の場合は最長45日間の退学期間ののちに復学が許される。退学期間中の教育については、学校が責任を持って "pupil
referral unit" と呼ばれる特殊な教育施設を斡旋することになっている。永久退学はその学校から「追放」(expel)されることを意味するのですが、追放後は地元の自治体が次なる教育施設をアレンジしなければならない。 |
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10~20年ほど前の労働党政権時代には、問題児教育の専門家が学校に派遣されて助けたこともある。その頃は学校内に問題児を集めた特殊学級が作られ、普通のクラスで手におえないと思われる生徒はそのクラスに入れられる「内部退学」(internal exclusions)という方法がとられていたこともあった。特殊学級で専門家による教育を受け、「正常」に戻ると普通クラスに再編入されるという方法だった。それによって退学者が減るということはあったけれど、コストが極めて高くついたのでその制度は中止してしまった。
退学処分にあった生徒は、学校側の斡旋で問題児に対する教育を行う校外教育施設のようなところへ送られることがあるのですが、The Economistの記事によると、その種の施設における教育の質も必ずしも望ましいものではない。国語(英語)であれ数学であれ、ごく基本的なことしか教えないところが多い。その種の施設での教育を終えた生徒は、理論的には通常の学校に戻って教育を受けられるわけですが、現実にはその種の生徒を受け入れる学校を見つけるのが親にとtっては一苦労なのだそうです。
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英国では義務教育(5歳~16歳)を修了するときにGCSE(General Certificate of Secondary Education)と呼ばれる全国統一学力テストを受けなければならない。まともな就職をするためにはGCSEのテストの少なくとも5科目で "good" の成績をとる必要があるとされているけれど、特殊施設で教育を受けた生徒の場合、5科目で "good" を取れるのは1%だけなのだそうです。
The Economistの記事は、5年ほど前に法務省(Ministry of Justice)が行なった調査を紹介しているのですが、それによると刑務所入りした犯罪者の10人に6人が退学処分の経験者だった・・・というわけで、
- トラブルメーカーである問題児を放り出すことで、クラスの騒ぎが収まるというその場しのぎにはなるかもしれないが、そのことによる犠牲もまた大きい。
Kicking out troublesome children may solve the immediate problem of classroom disturbance, but it does so at a cost.
と言っています。 |
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▼英国のメディアで教育関係の記事を読むときにまごつくことの一つが "school" という言葉です。小学校(primary
school)と中学校(secondary school)を総称してそのように呼ぶケースが多い。日本だと必ず「小学生・中学生・高校生」と区別して呼ぶと思うけれど、英国の場合、高校生は別にしても、義務教育である小学生・中学生については、"school
children" と総称したりする。このThe Economistの記事も見出しは "More English children
are being excluded from school"(学校から退学させられる子供が増えている)となっています。childrenだから小学生のことかと思ったら、退学件数の8割以上が中学生(secondary
school children)のようなのです。 |
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3)国民投票とお金
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いまから2か月ほど前の東京新聞(9月20日)の【私説・論説室から】というセクションに『国民投票は操作される?』という記事が出ていました。岩波書店から出ている『メディアに操作される憲法改正国民投票』(本間龍著)という本に出ている事柄の紹介だったのですが、東京新聞の筆者(桐山桂一・論説委員)によると、日本における憲法改正の国民投票は
- 広告宣伝活動には投票日二週間前からのテレビCM放映禁止以外は規制がない。その結果、公平・公正であるべき投票運動が、青天井とも言える広告宣伝費の投入によって歪(ゆが)められる危険が大きいのだという。
と書いてある。桐山氏によると、自民党を中心とする改憲派の資金力は圧倒的なのだそうです。
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「国民投票」ということで気になったのが、昨年(2016年)英国で行われたEU離脱をめぐる国民投票です。離脱・残留の両派が激しいPR合戦を展開したわけですが、その際の資金面での規制がどのようになっていたのか?
あの国民投票が実施されたのは2016年6月23日ですが、その約1年前に当時のキャメロン政府が国民投票に関する法案を議会に提出、これが "European Union Referendum Act 2015"(EUに関する国民投票法)として成立している。この国民投票法によると、2016年4月15日~6月23日(投票日)が「キャンペーン期間」であるとされ、キャンペーンで使われる資金の使い方に関する規制も謳われている。
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キャンペーンも含めたこの国民投票は全て選挙管理委員会(Electoral Commission)の管理で行われたのですが、この委員会のサイト(2017年2月24日)にはキャンペーンのために使われた費用などが詳しく掲載されています。国民投票を行なうに当たっては、「残留」(Remain)および「離脱」(Leave)のリーダー組織が選挙管理委員会に登録・公認された。前者のリーダー組織は
"The In Campaign Ltd"、後者のそれは "Vote Leave Ltd" という名前で登録され、それぞれの傘下に政党・市民団体などの組織が「選挙管理委員会公認団体」として参加したのですが、「残留」に63、「離脱」に60の機関や団体が登録された。つまり両方併せて123団体が公認組織としてキャンペーンを行ったことになる。
キャンペーン期間中に使われた経費についてですが、まず両派のリーダー組織にキャンペーン費用としてそれぞれ60万ポンドが国費から支払われた。また両派のリーダー組織およびその傘下にある政党に許された支出金額と実際に使った金額の両方が次のように記載されている。
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登録組織による収入と支出:金額はポンド・概算 |
組織 |
支出上限 |
実際の支出 |
残留派 |
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The In Campaign Ltd |
700万 |
680万 |
労働党 |
550万 |
490万 |
自民党 |
300万 |
220万 |
その他の政党 |
210万 |
16.5万 |
離脱派 |
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Vote Leave Ltd |
700万 |
670万 |
英国独立党 |
400万 |
140万 |
民主連邦党 |
70万 |
43万 |
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つまりリード組織である "The In Campaign Ltd" と "Vote Leave Ltd" はそれぞれ上限700万ポンドまでのお金を使うことを許されていたけれど、実際に使われたのは前者が680万ポンド、後者が670万ポンドということになる。政党についての支出上限金額は議席数に応じて決められたのですが、この中に保守党が入っていない。これは同党がEU加盟をめぐって分裂状態にあり、党として登録することをしなかったことが理由です。上記にプラスして個人・企業・組合・業界団体のような組織から寄せられた寄付金(ドネーション)なども合わせると、両派がキャンペーンのために費やした金額は、残留派が約1600万、離脱派が約1200万ポンドということになっている。日本の金銭感覚でいうと16億円と12億円という感じです。
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キャンペーンのために使われた金額 |
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で、最初にお話した日本の憲法改正に関する国民投票ですが、『メディアに操作される憲法改正国民投票』という本の著者である本間龍氏がネット・メディアのインタビューでかなり詳しく語っている。ヨーロッパなどに比べると、広報活動のためのお金については何の規制もないとのことで、特に次の個所が気になりました。
- 自民党は政党交付金が一番高額なうえに、バックには財界や日本会議、それに神社本庁など、財力のある団体がいます。
この発言にある「政党交付金」ですが、総務省のサイトに2016年度の政党交付金(議席数に応じて配分される)の受取額が次のように書かれている(いずれも概算)。
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2016年度の政党交付金の額 |
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共産党はこの交付金という制度そのものに反対しているので受け取っていない。2017年の衆議院選挙でいろいろと変わってしまったので、立憲民主党だの希望の党だのという政党がどの程度の交付金を貰うものなのか・・・。いずれにしても自民党が群を抜いていますよね。本間氏は改憲派が300億円から400億円くらいの広告費を確保すると見ている。これを使って徹底的にテレビ・コマーシャルを流す。一方の護憲派は「運動の中心となる政党すら決まっていないうえに、有力な集金母体もない」のだそうです。
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▼総務省のサイトに出ている「日本国憲法の改正手続に関する法律」というのをざっと見ました。これが日本版の国民投票法なのであろうと思うけれど、確かに本間さんが言うとおり、キャンペーン資金などについては何も書いてありませんね。
▼本間さんの指摘によると、改憲派については有力な資金提供組織がひしめいているけれど、護憲派については「有力な集金母体もない」と。英国の選挙管理委員会への報告によると、「残留」「離脱」の双方ともに寄付金が最も多かったのは「個人」からだった。次いで企業・業界団体・労働組合などとなっているのですが、個人献金の額は企業からのものに比べると優に5倍を超えている。
▼資金の問題とは関係ないけれど、英国の国民投票法の最大の欠陥は、離脱・残留を決めるのに単純多数決制を採用したことですね。一票でも多い方が勝ち。加盟国が離脱するということは、EUの他の加盟国の人たちにだって影響する「国際問題」です。それを英国人だけの単純多数決で決めてしまっていいのかということ。せめて3分の2が賛成というようなsuper-majority以外は現状のままであるべきだったということ。法律を作ったときの議会・政府とも離脱が勝つはずがないと思い込んでいたのかもしれない。
▼日本の憲法改正については、国会発議の時点で3分の2をクリアしているという説明はできる。もちろん憲法改正だけが選挙の争点ではなかったとは言えるけれど、自民・公明がその方向であることは分かっていた。なのにそちらに入れた有権者が多かった。つまり日本にはむささびとは考え方が異なる人が多いってことですね。 |
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4)「非暴力・不服従」をアメリカで受け継ぐ
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知らなかったのですが、非暴力・不服従運動でインドを英国から独立させた、あのマハトマ・ガンディー(1869~1948年)の孫にあたる人が、現在アメリカ・ニューヨーク州ロチェスターで暮らしているのですね。アルン・ガンディー(Arun Gandhi)という人で、ウィキペディアによると83才で「社会活動家」(socio-political activist)となっている。そのアルン・ガンディー氏が "The Gift of Anger"(怒りの贈り物)という新著の出版を機に ダニエル・バティスト(Danielle Batist)という女性ジャーナリストのインタビューを受けたものが、New Internationalistというメディアサイトに掲載されています。"The Gift of Anger"は孫なりに理解するマハトマ・ガンディーの思想について語っているのですが、基本は次の3点だそうです。
- 暴力は無駄:Waste is violence.
- 謙遜こそが力:Humility is strength.
- 怒りも善になり得る:Anger can be good
以下はインタビューからの抜粋です。
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怒りをバカにするな
- Q:新しい本のテーマは怒り(anger)です。なぜそれをテーマにしたのですか?あなたのお祖父さんは「怒りは人間にとってクルマの燃料のようなものだ。それがあるから人間は前進するのだ」と言っています。
Arun Gandhi:最近、世界中で暴力が蔓延しており、その殆どが「怒り」によって引き起こされている。私は「怒り」をバカにしてはいけないと考えている。怒りは建設的かつ賢明に使うことで暴力を減らすこともできるのだ。怒りを賢明に使わないと、問題の本質ではなく、具体的な個人にそれを向けてしまうことが多い。例えば第二次世界大戦。我々はドイツ軍やヒットラーを壊滅させることはできたかもしれないが、憎しみや偏見の思想(philosophy)そのものを取り除くことはしなかった。だからそれが今でも我々を苦しめている。 |
暴力がテロリストを生む
- Q:最近では、警察が暴力的な行為に走り、政府が軍事行動を取る際に「テロとの戦い」を正当化の理屈として使うことが多い・・・?
歴史的に見ても戦争や人殺しによって物事が解決したことがないことは、我々にも分かっている。それらは問題を先送りするだけで(postpone problems)、時が経つにつれて事態が却って悪くなる。テロとの戦いはいい例だ。暴力によって一人のテロリストを殺すたびごとに10人のテロリストを生産している。何の問題解決にもなっていない。
テロの問題を解決するためには、何がテロを生んでいるのかを直視する必要がある。人間と人間の接触の在り方(how people get along
with others)ということだ。自分の個人的な利益のために他者を搾取する・・・それが現代の物質的な生活スタイルというものだ。そのような態度の結果として国家間の対立が生まれ、人間が人間によって抑圧されていると感じる状態が生まれる。そして何をするにも暴力に訴えるということになる。
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人間は「恐怖」に弱い
- Q:その中で「恐怖」(fear)はどのような役割を果たすのですか?
人間は恐怖を通じて他者を支配しようとする。残念ながらそれが長年にわたって我々自身に刷り込まれてきてしまった現実だ。家では罰が与えられることへの恐怖心を通じて、親は子供を支配しようとする。その親も外へ出ると罰への恐怖によって政府に支配される。
我々はそれを乗り越えて人間関係についてのより良き理解を創る(create)ことをしなければならない。お互いを「人間」(human beings)として見ることが必要だ。宗教、人種、国などによって人間を判断するのではない。それらは人間を分断させ、競争と暴力へと導くものであるが、どれも我々(人間)が創り出したものなのだ。
- Q:人間はなぜこうも恐怖というものに弱い(susceptible)のでしょうか?
我々自身に落ち度がある(We are all guilty of it)。お互いを知ることなく、疑い深くなっている。例えば難民を救済しようとするとき、我々がするのは彼らを自分たちの国へ連れてきて放り出す。あとは自分でやってくれというわけだ。しかし彼らの多くは何をどうしたらいいのか分からない。誰も助けようとしない。どころか難民に疑いの眼を向け始めてこれを拒否し始めるのだ。
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トランプのアメリカ
- Q:あなたは本の中で、我々が物質主義を通じて環境を破壊しているかを書いている。どうすればいいのですか?How can we correct this?
我々は自分自身の生活に浸り込みすぎており、自分の生活に直接関係のないものには眼を向けなくなっている。自分たちに直接影響があるときだけ眼を覚まして、何とかしなければ、と言うわけだ。自分たちの行動が世界や未来の世代に何をもたらすのかを直視して、責任を持たなければならない。
- Q:あなたはアメリカで暮らしており、トランプ大統領はあなたの言う方向とは反対の方向に物事を進めている。それでもまだ希望は持てるのですか?Do
you still have hope?
草の根レベルではいろいろと変化している。底辺が変わるときにのみトップが変わるのだ。私は毎年、ガンディーの遺産を訪ねるツアー(Gandhi legacy
tour)というのを組織している。他人のために自分の生命を捧げることで、何百万人もの人びとに大きな影響を与えた人びとの足跡を辿ろうというものだ。このような活動を大規模に行うこと、あらゆる場所で行なうことが必要なのだ。
- Q:‘Britain first’ とか ‘America first’と叫んでいる人びとには何を言いたいですか?
余りにも視野が狭い(very narrow-minded perspectives)考え方だが、教育を通じて人びとに気づかせる・・・それしかない。私は世界中の大学を訪れるが、若者たちはいずれも自分と世界の関係について理解しようとする熱意は持っている。社会的な姿勢については次世代に期待できると思っている。
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「独りでいること」の意味
- Q:あなたは本の中で「独りでいること」(solitude)について語っている。現在のように「つながってしまった世界」(ever-connected world)において「独りでいる」ことは可能なのですか?
それは物事を決めるときの態度の問題だ。必要なのは、自分たちの生活や人生で何が起こっているのか、自分たちは正しい方向へ進んでいるのかなどについてじっくり時間をかけて独りで考えるということだ。それをやらないと我々は単に潮の流れに身を任せて、どこかへ連れて行かれることになる。それはとても素晴らしいことであるとは言えない。我々が自分自身にとっての支配者となって自分たちの行動を支配しない限り、世界を支配することなど出来るはずがない。
- Q:最近の若者は考えるより衝動で動き、スマートフォンが提供するインスタントな満足感の虜になっている。殆ど中毒状態です。それでも我々にはまだ選択肢があると?
テクノロジーを使うのも、ほどほどにしないと・・・Technology needs to be used in moderation. 食べ過ぎ・飲み過ぎが良くないのと同じ。マーケットが我々の生活を支配して人間がハイテク商品の餌食になって、どんどん深みにはまっていっている。
究極の課題として考える必要があるのは我々の人生は自分のものなのか?それとも誰か他人のために生きているのか?ということだ。必要なのは「人生をより速くする」(to make our life faster)ことではなくて、より意味のある(more meaningful)ものにするということだ。
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世界は一夜では変わらないが・・・
- Q:我々はテクノロジーによって世界が抱える様々な問題に気が付くようになっている。その一方で不感症にもなりつつある・・・。
我々には世界を一夜にして変えてしまうような力はない。個々人には限界というものがある。それでも我々には自分自身を変える力はあるし、自分の周囲の人間を変える力もある。それを試すことだ。皆がそれをやればいずれは変化が起こる。我々が陥りがちな誤りは、壮大なる理想を打ち上げて「世界を変えるのだ」(we want to change the world)と叫ぶ、が、それに失敗するとすぐに諦めて「こんなことくだらない」(this is useless)と言い始めるということだ。
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- Q:お祖父さん(マハトマ・ガンディー)が憂慮していたのは、人びとが生前の彼に従い、死後の彼を崇めるということはするかもしれないけれど、自分の主義・主張(cause)を彼らのものとして共有しないのではないかということだった。あなたも同じような憂慮の気持ちを持っていますか?
私自身の活動を誰かが続けてくれることを期待はするけれど、人間が現在のような物質主義的な生活習慣の虜になってしまっている限り、世の中が必要としているような大きな変革は期待できない。問題はそのような習慣をどのように止めさせることができるかということだ。金儲けをし、モノを所有することだけが人生ではない。人生とは、どのようにして、自分たちの存在によって社会を良くすることができるかを考えることにあるのだ。
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このインタビューとは関係ありませんが、9月30日付のGuardianにもアルン・ガンディーの記事が出ています。その中で彼はマハトマ・ガンディーと一緒に暮らした子供時代のことを語っています。学校から帰ってきたアルンが、使い古して短くなった鉛筆を自宅近くの藪の中に捨ててしまった。それを知った祖父のマハトマ・ガンディーが夜の暗闇にもかかわらず「捨てた鉛筆を拾って来い」と命じた。真っ暗闇の中でそれを探すのに2時間かかった。探し終わったアルンにマハトマが、「鉛筆を作るには多くの自然資源が使われている、それを捨てるのは自然に対する暴力行為だ」ということと「モノを無駄遣いすることは、貧困の中で暮らす人びとから生きる糧を取り上げることにつながる、それは人間に対する暴力だ」と言って聞かせたのだそうです。 |
▼このインタビューの見出しは「人生とは、如何にして社会を良くするかということだ」(Life is about how we can enhance
society)となっています。むささびの解釈によると、この人が言いたいのは、一人一人が生きているということを「社会」と結びつけて考えるべきだということなのではないか。「個人」は単に「一人」ではない・・・と。取り立てて目新しいことを言っているわけではないし、このような考え方を「きれいごと」として片づけようとする向きもあるとは思うけれど、過去約40年、世界を支配してきた「経済がすべて」という考え方に非を鳴らしているという点ではまともな考え方だと思いませんか?物質主義を否定はするけれど、深山幽谷の精神主義に逃げ込むわけではないし、トランプやBREXITに見られるような「~ファースト」という考え方でもない。彼のいう「独り」と「一人」の違いを考えたいと思うのよね。 |
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5) どうでも英和辞書
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yawn:欠伸(あくび)
ノッチンガム大学で脳科学を研究するスティーブ・ジャクソン教授が取り組んでいるのが欠伸の研究です。Medical News Todayという専門誌のサイトに出ています。
そもそも人間は何故欠伸をするのか?それさえ分かっていないのだそうですね。欠伸は脳における一次運動野(primary motor cortex)と呼ばれる部位における何らかの作用によって起こるのではないかと言われているけれど、はっきりした証拠があるわけではない。教授によると、欠伸の原因を突き止めることができれば、例えば認知症、癲癇、トゥレット症候群と呼ばれる神経精神疾患の治療にも役に立つのではないかとのことであります。
ところで欠伸をするのは人間だけではありませんよね。イヌだって、トラだって、ライオンだって欠伸をする。トラやライオンのケースは分からないけれど、ワンちゃんが欠伸をするのは、大体において精神的ストレスの表現なのだそうで、Psychology Todayというサイトによると「アタシ、緊張して不安でイライラしてるんです」(I'm tense, anxious or edgy right now)と言っているのだとのことでございます。そういえばむささびのワンちゃんも叱られると欠伸をすることが多い。そんなとき、つい「人が注意しているのに、欠伸なんぞしやがって、このお!」とか言ってしまう。あれはまずいのかもね。
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6) むささびの鳴き声
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▼3番目に掲載した「国民投票」の話題に関連して・・・。11月3日付の朝日新聞のサイトに日本の憲法改正に絡む国民投票について、日本で暮らして40年になる英国人のピーター・バラカンさんの談話が載っていました。
- 9条は世界に誇るべきものだと私は思いますが、徹底的に議論して改正多数となればもちろん尊重したい。
とのことであります。
▼バラカンによると、日本人の特性の一つとして「権威のある人を喜ばせようとする傾向がある」のだそうであります。本来なら国民の僕(しもべ)であるはずの政治家を「先生」呼ばわりするのもその傾向の表れであり、そのような国民性の下では「権力者の都合のいい改憲につながるかもしれない」とのことです。バラカンが最も憂慮するのが「徹底的に議論して・・・」の部分です。政府の側に「有権者にじっくり判断してもらう姿勢」があるとは思えないし、北朝鮮情勢を巡っては「政治家もメディアも、あおるばかり」だと言っている。4年前に副総理の麻生太郎が「ある日気づいたらワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていた。あの手口に学んだらどうかね」と発言、あとになってこれを「撤回」したことについて、バラカンは「撤回しても私は忘れません」と言っている。
▼談話の中でバラカンは、昨年英国で行われたEU離脱を問う国民投票に触れて「市民は、EUに多少の不満はあっても現状維持を望んでいた」にもかかわらず、(キャメロン)政権が国民投票を提案すると「一部の人」やメディアによるデマも飛び交って、「一般市民もだんだんあおられていった」と言っている。
▼バラカンは、EU離脱を決めてしまった国民投票について、英国人が「あおられた」と言っている。「あおり」の典型が「英国はEUに1週間で3億5000万ポンドも払っている、これを国民健康保険に使おう!」と呼びかけた離脱派のプロパガンダだった。実際に払っているのはその約半分だったけれど、具体的な数字をあげて「我々はEUに加盟することでこんなに損をしている!」と訴えたのが功を奏したと言われているのですよね。
▼損得を考えることが間違っていると言うつもりはないけれど、あのときのPR合戦では離脱派も残留派も「英国の利益」だけを議論していましたよね。そもそも1951年にEUの原型である欧州石炭・鉄鋼共同体を作ったときには、「二度と欧州を戦場にするまい」という気持ちがあった。しかし昨年の国民投票のための議論では、このことは余り語られることがなく、もっぱら「英国の利益」だけが語られ、有権者もそれにあおられた。自分たちがEUを離脱することが、ヨーロッパや世界にとって何を意味するのかなどということを語ることは「エリート主義」として退けられた。
▼日本の憲法改正のための国民投票についても、日本が今の憲法をギブアップすることが「世界」にとっていいのか、悪いのかをきっちり議論するべきだと思う。「戦後レジームからの脱却」などという「自己中心的かつ抽象的」な目的のために、憲法を変えるなんて、とんでもない・・・というのがむささびの判断であります。
▼最初に紹介した職業別信頼度の記事のコメントの部分で、日本におけるランキングを紹介しています。ワースト3を形成するのが「政治家・官僚・マスコミ」となっている。この仲良しグループにおいてマスコミが果たしている役割については言うまでもないよね。政治家と官僚が如何にダメな奴らかということをさんざ書き立てて、読者のうっぷん晴らしをしたうえで、政治家と官僚に「もういいよ」と言われた時点で、政治家・官僚叩きを止める。そして「北朝鮮叩き」を始める。
▼ピーター・バラカンは、極論にあおられて、EU離脱なんてことをやってしまった英国についていまだに悔やんでいる。EU離脱派の唱える「独立国家・英国」論、トランプ人間の言う「銃は人民を国家の暴虐から守る」論、そしてシンゾーの「外国から押し付けられた憲法は変えなければ」論には共通点がある。どれも極めて抽象的な概念(独立・自由・外国)で、人間の感情を煽り立てようとしていることです。その際に犠牲になるのは、大体において「外国人」です。英国でいうとポーランド人、アメリカでは黒人やイスラム教徒、そして日本では「朝鮮人」と「シナ人」です。
▼もう一つ言わせてもらうと、日本における憲法改正の問題を考えるときに、4番目に紹介したアルン・ガンディーのような姿勢を真面目に考えるべきだと思うのであります。「政治家・官僚・マスコミ」によるプロパガンダ(煽り立て)作戦にやられないための武器ですな。
▼本当はもっと言いたいのでありますが、いくらなんでもお喋りがすぎると言われるのも癪なので、この辺で止めときます。 |
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