musasabi journal

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393号 2018/3/18
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美耶子の言い分 美耶子のK9研究 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
寒い寒い冬がようやく終わって、上の写真のような花(スノードロップ)が顔を出したのが、3週間ほど前のことだったかな?それから埼玉県西部はあっという間に本当の春になってしまったようです。梅はもちろんのこと、我が家の近所の庭の桜が開花したりしています。東京でも昨日(3月17日)「開花宣言」なるものがあったのですね。あとは・・・ウグイスが鳴くのを待つのみ。

目次

1)MJスライドショー:世の中、ゴチャゴチャ
2)ホーキングが遺した言葉
3)「金王朝」の存続に手を貸す?トランプ
4)楽観主義の復権を求める
5)どうでも英和辞書
6)むささびの鳴き声


1)MJスライドショー:世の中、ゴチャゴチャ

前回のむささびジャーナルで "higgledy-piggledy" という単語を紹介しましたよね。「無秩序のごちゃまぜ状態」という意味です。新幹線の窓から見える日本の街の風景は英国人にとってはhiggledy-piggledyである、と。ただむささびのような年代の日本人は、そのゴチャゴチャに懐かしさというか居心地の良さのようなものを覚える。"feeling at home"ですね。というわけで、ネット上に散在するさまざまな写真を集めて「世の中、ゴチャゴチャ」を表現してみたいと思ってしまった。2分半の"higgledy-piggledy"に付き合ってくれません?

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2)ホーキングが遺した言葉

「車椅子の物理学者」で知られるスティーブン・ホーキング博士が亡くなりましたね。76才、むささびと同い年だった。朝日新聞によると、ホーキングは21才で筋肉が動きにくくなる難病「筋萎縮性側索硬化症」と診断され、以降は車椅子の生活を余儀なくされた、となっています。この人については、むささびジャーナル351号の『富はシェアしてこそ「富」なのだ』という記事で触れていますが、正直なところ物理学については(むささびは)全くアウトです。彼が生前に言った言葉の中からいくつか紹介させてもらいます。


知能指数

自分の知能指数を自慢する人間は敗者である。People who boast about their IQ are losers.
  • 2004年にニューヨーク・タイムズとインタビューした際に出た言葉です。「天才物理学者」という評判のホーキングに記者が「あんたが天才だなんて、どうやって分かるんです?」とギャグ混じりで質問したのですが "I have no idea" と言ってから出てきたのがこの言葉だった。
知識の敵
知識の最大の敵は「無知」(ignorance)ではない、「知っている」という幻想(illusion of knowledge)である。
  • ごもっともです。
宇宙はなぜ存在するのか?
この疑問に対する答えを見つけることができれば、それこそ正に人間の理性(reason)の勝利であると言える。それこそが神の心(mind of God)を知るということになるからだ。
  • 1988年のベストセラー "A Brief History Of Time" に出てくる言葉だそうです。むささびには「神の心」と「人間の理性」を対比的に語っているところが頷ける。
不完全な世界
「不完全」というものが存在しないとなると、キミも私も存在しないということになる。Without imperfection, you or I would not exist.
  • 人間は不完全なものである、ということが分からない人間は何も分からないのと同じということ?
有名であること
自分が知られていることの問題点は、どこへ行っても自分であることが気付かれてしまうということだ。私の場合、サングラスをかけて、かつらをかぶったとしてもダメ。車いすで分かってしまう。The wheelchair gives me away.
  • でしょうね!
安楽死について
患者がそれを望むのであれば、自分の命を終結させる権利を持つべきだと思う。しかし私はそれを望むこと自体が大きな誤りだと思う。人生は如何にひどいものに思われようと、必ず出来ることがあるし、うまくいくことだってある。生きている限りにおいて希望は存在するのだ。While there's life, there is hope.
  • 「患者がそれを望むのであれば」(if he wants)と言っておきながら、「望むこと自体が誤り」(it would be a great mistake)というのは矛盾していると思うけど。むささびの誤解でしょうか?
死ぬこと
これまでの49年間、自分が早死にするものとして生きてきた。私は死を怖れてはいないが、急いで死ぬこともない。その前にやりたいことがたくさんある。I’m in no hurry to die. I have so much I want to do first.
  • I have so much I want to do firstという言葉の中の "first" というのがいいと思う。「まず最初に」という意味ですよね。まずやりたいことをやって、死ぬのはそれからにしよう・・・そう言うと、死が生の延長線上にあるという感じになる。
神について
単純に言うと、神は存在しない。宇宙は誰が創り出したものでもないし、人間の運命を支配する者など存在しない。No one created the universe and no one directs our fate.
  • 全ては人間しだいである、と。人間の知恵と理性しか頼るべきものはない・・・と?
語る・聴く
何百万年もの間、人類は動物と同じような生き方をしていた。その後、我々の想像力を解き放つようなことが起こり、人類は語ることと聴くことを学んだ。We learned to talk and we learned to listen.
  • 自分の言葉で語り、他人の言葉に耳を傾ける・・・人間しかやらない行為である、と。言葉が故に傷つくこともあるけれど、進歩もあるというのは事実だよね。
人工知能
完全なる人工知能が開発されることによって人類は終末を迎えることになる可能性がある。AIが自分で人間から飛び離れ、とてつもない速さで自分自身を変えていく。そのスピードに人間自身がついて行けない。生物としての人間の進化がAIとは競争にもならず、最後はAIに取って代わられる(superseded)。
  • 4年前にBBCとインタビューしたときに語った言葉です。これ、本当に当たっていると思いますね、むささびは。「生物としての人間の進化」(biological evolution)に眼を向ける、この発想だけでも、ホーキングには死んでほしくなかった・・・。

▼The Economistの追悼記事によると、スティーブン・ホーキングは1942年1月8日生まれなのですが、それからちょうど300年前(1642年)の同じ日に、地動説を唱えて異端児扱いされた、あのガリレオ・ガリレイが死亡しているのですね。

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3)「金王朝」の存続に手を貸す?トランプ

このむささびが出る時点でどうなっているのか分からないけれど、この原稿を準備している3月11日前後の時点では、日本でも英国でも、北朝鮮の金正恩とアメリカのトランプが直接会談することに決まったというニュースで大騒ぎという感じです。英国メディアに関する限り、この首脳会談が何を生むのかについては懐疑的なものが多い。

例えば3月9日付のGuardianは、アメリカの核軍縮に関する専門家の意見として「金正恩がトランプと会うのは、自分が行ってきた核兵器やミサイル開発のお陰で、ついにアメリカが自分を対等に扱うことになったということを見せつけるためだ」というのを紹介している。トランプ側についても「大統領の単独行動」(flying solo)については、「トランプは自分が交渉の名人のように思っているけれど、実際には彼が経営する不動産会社は何度も倒産している」(real estate business drove him to bankruptcy several times)とからかい気味のメッセージを載せている。


3月9日付のGuardianに掲載されたジャスパー・ベッカー(Jasper Becker)というジャーナリストのエッセイはちょっと変わっている。
という見出しが示すとおり、北朝鮮の現体制が続く限り、非核化も南北統一も意味がないと言っている。むささびが知らなかっただけで、ジャスパー・ベッカーは30年ほどにわたって香港、北京などでジャーナリスト活動を続けており、著書もかなり日本語にも訳されている人なのですね。彼によると、全く作動していない経済体制を変え、とてつもない資源を軍事力に振り当てることを止めない限り、国として成り立たないというのが北朝鮮なのであり、トランプが如何なる取引をしようが、「金(キム)王朝」の存続を許すということは、相手に白地の小切手を渡すようなもので、経済援助は手に入れても自らの核を放棄することは絶対にない、と。


金正恩の祖父である金日成の時代からこれまで変革の機会があったにもかかわらず、金日成も金正日もこれを止めてしまった。それは彼らがアホであったということではない。変革などということを考え始めると、どうしても根本的な疑問、すなわちそもそも北朝鮮が存在している意味は何なのか?(what is the point of North Korea?)という疑問に直面せざるを得ないからだ。北朝鮮が「南」同様に市場経済など導入しようものなら、金持ち韓国の単なる付け足し(appendage)に過ぎなくなる。北朝鮮が軍事優先の政策を転換してしまうと、社会主義体制の下で南北統一という可能性は消えてしまう。

ベッカーによると、アメリカはクリントン政権のときに北朝鮮には食糧と金を与えて非核化を図ろうとしたけれど、北朝鮮は騙しの手口を使って、それらの援助を核兵器開発に使うことができるようにしてしまった。北朝鮮はなぜそのようなことをしたがるのか?単純です、核兵器を持つことで体制の維持を確かなものにすることができるから。それ以外のことはどうでもいい。プーチンによると、北朝鮮は核兵器の開発計画を止めるくらいなら、草を食べた方がいい(would rather eat grass)と考えているのだそうです。



今回の会談実現について、トランプの「圧力外交」(coercive diplomacy)が功を奏したのだと言う向きもあるかもしれないが、ジャスパー・ベッカーによれば、それは北朝鮮の体制変革には繋がらない。むしろトランプはこの首脳会談を行うことで北朝鮮の政権に正当性を与えることになる。北朝鮮の人口は約2000万、うち700万人がキム・ファミリーの手で殺されたとされている。トランプは金正恩と会談することによって北朝鮮国内の反政府の声を封じることに手を貸すことになる。
  • トランプが「取引」に成功して北朝鮮の体制が残存するというのは好ましい事態と言えるのか?もちろんそうではないだろう。北朝鮮の人びとがこの忌まわしい体制から解放されること、それこそが我々が北朝鮮の国民に借りを返すことになるのだ。
    So would it be a good thing if Trump did succeed with a “deal”, and the Democratic People’s Republic of North Korea survived? Surely not. We owe the North Korean people a way of escaping from this odious regime.
とジャスパー・ベッカーは言っています。

▼筆者のジャスパー・ベッカーの著書で日本語に訳されているものとしては、『ならず者国家―世界に拡散する北朝鮮の脅威』、『餓鬼(ハングリー・ゴースト)―秘密にされた毛沢東中国の飢饉』などがあるようです。むささびはまだ読んだことがありません。

▼要するに筆者が言っているのは、「金王朝」によって弾圧されている北朝鮮の人びとが解放されない限り、何をやっても朝鮮半島の不安定はつづくということですよね。3月13日付のロイター電が「日本政府、北朝鮮との首脳会談を模索へ=政府関係者」と伝えていますよね。「日本が北朝鮮との間で独自に抱える拉致問題の解決を目指す」というわけです。アメリカは非核化を、韓国は南北統一を、日本は拉致問題の解決を、それぞれ目指しているけれど、どの国にも北朝鮮国民のことはアタマにない?

▼北朝鮮はこれまで1985年、92年、94年、2005年、2010年の5回にわたってさまざまな約束をしてきたけれど、その都度「何もならなかった」(promises came to nothing)と。摩訶不思議な国ですよね。考えてみると、むささびは北朝鮮については全く何も知らないのですよね。出来れば知ってみたいのは、社会主義国家を標榜しているのに何故、個人崇拝的独裁主義がまかり通っているのか?ということ。なぜキム・ファミリーの独裁が許されてきたのかということですね。それと拉致問題については、なぜ拉致などという手段をとることにしたのか?という素朴な疑問です。拉致を命令した北朝鮮の指導層は何を考えていたのか?

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4)楽観主義の復権を求める




スティーブン・ピンカー(Steven Pinker)というアメリカの社会心理学者が書いた“Enlightenment Now”という本があちこちで書評されています。褒めているものあれば、批判的な意見もある。2月24日付のThe Economistに掲載された書評は、どちらかというと好意的なのですが、見出しを見ると本のおよその内容が分かる。
  • Steven Pinker’s case for optimism: “Enlightenment Now” explains why the doom-mongers are wrong
    スティーブン・ピンカーが主張する楽観論:“Enlightenment Now” が悲観主義者の誤りを説明している
というのです。Enlightenment というのは18世紀のヨーロッパを支配した「啓蒙思想」のことで、人間の問題は理性が解決するという「合理的」な態度のことです。“Enlightenment Now” という本には
  • 理性・科学・ヒューマニズム・進歩の復権を主張する
    The Case for Reason, Science, Humanism and Progress
    militarism
という副題がついている


理性の復権を訴える

すなわち人類は「啓蒙思想」の時代からこれまで「理性」に基づく姿勢によって科学技術を発展させ、民主主義の普及を支えてきたのだというわけで、人間の理性に対する不信感に満ち満ちているかのように見える今こそ、理性が大切だと言っており、理性的に考えると、今の世の中、悪いことだけではないということになる。著者はさまざまな統計情報を調べ上げて「昔に比べれば良くなった」例を挙げている。例えば:
  • 人間が雷に打たれて死亡する可能性:20世紀初頭に比べると37分の1にまで減っている。天気予報の技術が向上したこと、安全教育が広まったこと、都市生活者が多くなったことなどが理由。
  • 主婦が洗濯に要する時間:1920年では1週間に11時間半であったのが2014年には1時間半にまで短縮されている。洗濯機の普及と性能向上が理由ですが、それによって主婦の自由時間が増えたことの好影響は計り知れない。
  • 仕事上の事故で死亡する人の数:1929年当時のアメリカでは年間約2万人だったのが、最近では約5000人にまで下がっている。建設現場などでの死亡事故が減ったということですが、1929年当時のアメリカの人口は現在の5分の2に過ぎなかったことを考えると、この違いは劇的だ、と。
このほか、世界は200年前に比べると100倍も裕福になっており、富の分配もその頃に比べればはるかに平等になっている、現在の戦争による年間死者数は1980年代に比べると4分の1、第二次世界大戦時に比べると100分の1以下となっている等々、世界は明らかに良くなっており、それは人間が培ってきた知恵と理性の賜(たまもの)であるというわけです。

世界にある核兵器の数
現在、核保有国とされているのは、米ロ中など8か国、核兵器の数は1万を少しだけ超える。広島・長崎の悲劇があった1945年の時点では世界に存在する核兵器の数は、アメリカの2つだけだった。1950年になってこれが304個(米299個・ソ連5個)となり、ピークの1986年では全部で6万4000個以上に達した。この時点での内訳を見ると、ソ連が4万、アメリカが2万3000だったのですね。それが2014年になるとアメリカが4760個、ロシアは4300個にまで下がっている。核廃絶の傾向は確実に進んでいるということです。(参考:Our World in Data)

メディア報道と悲観主義

なのに「世の中、良くなっている」などと口にしようものなら冗談を言っているか、アホなのかのどちらかに違いないと罵倒されてしまう。続出する難民、頻発するテロリズム、地球温暖化、貧富の格差拡大、核戦争の危機・・・世の中、悪いことだらけではないかというわけです。何故このように悲観的な見方が有力になるのか?一つの理由としてピンカーが挙げているのがメディア報道です。
  • メディアは悪いニュースを誇張して伝える。そのような歪曲がそれなりの結果を生んでしまっている
    The media exaggerates negative news. This distortion has consequences
要するにメディアの報道をそのまま受け取ってしまうと、世の中どうしようもないほど狂っているという気分に陥ってしまうから気を付けた方がいいということです。狂っている部分が全く無いとは言わないけれど、正常な部分だって大いにある、にも拘わらずそれが余り話題にならない。

ただ「ニュース」というものが持っている性格からすると、どうしてもネガティブなものが多くなりますよね。飛行機が1機墜落すると大ニュースになるけれど “100,000 AEROPLANES DIDN’T CRASH YESTERDAY” (昨日、飛行機が10万機墜落しなかった)という新聞見出しなど見たことがない。

極貧人口、増えた?減った?
国連のいわゆる「極貧」(extreme poverty)は「一日あたり1.90ドル」で生活することを指す。英国人を対象に「過去30年間で世界の極貧人口は増えたと思うか、減ったと思うか?」という調査をしたところ、上のグラフに見るとおり過半数が「極貧人口は増えたと思う」と答えており、「減ったと思う」という人は極めて少ないという結果になった。で、現実はどうなのか?下のグラフは世界銀行の資料に基づいて作られたもので、世界の全人口に占める極貧人口の割合の移り変わりを示している。過去約30年で確実に減っている。
貧困の現実
メディアが貧困の問題を報道するときは、どうしても極端に貧しい国や地域に焦点を当てがちだから、読者や視聴者はどうしても「世の中、悪くなっている」と考えがちです。極楽とんぼの楽観主義よりはましかもしれないけれど、状況を正確に把握することも大事ですよね。(参考:Our World in Data)

悲観が生むシニシズム

尤もピンカーによると、現代のアメリカ・メディアの世界においてはジャーナリストや編集者たちが余りにも「真面目なニュース」(serious news)=「悪いニュース」(bad news)という発想に固まり過ぎており、ジャーナリストの責任は悪いニュースを伝えること(negative coverage)だとジャーナリストや編集者たち自身が信じているということです。

ピンカーに言わせると、アメリカのメディアが流し続けている「悪いニュース」で常にやり玉に挙げられてきたのがワシントンの政治家たちであり、そのルーツは1960年~70年代に遡るのですが、メディア報道のおかげでアメリカ人の間に「選挙で投票などしても何の意味もない」(Why should I vote? It’s not gonna help)というシニカルな気分が蓄積されている。多くのアメリカ人が今日、制度改革などという手段では何も変わらないと思い込むようになってしまっているということです。そのシニシズムを利用したのがトランプである、と。


アメリカにおけるトランプ現象は英国ではBREXITという形で表れ、他のヨーロッパ諸国では右派・愛国主義的政党の躍進という形で表れているけれど、そのどれにも共通する言葉が三つある。
  • 昔は良かった(the old days were golden)
  • 専門家の言うことはあてにならない(experts can’t be trusted)
  • リベラル民主主義の諸機構は特権階級を富ませるためのものにすぎない(institutions of liberal democracy are a conspiracy to enrich the elite)
楽観主義の根拠

トランプはメディア報道によって醸成されたアメリカ人の欲求不満に耳を傾けながら彼らの個人的な生活上の不満を「国の衰退」という大きな枠組みの中で語ってみせた。アメリカの「衰退」は生易しい改革などでは取り返すことができず、いま必要なのは「何もかもぶっ壊せ!」という革命なのであると訴えた。そしてその革命を実行できるのは自分しかいないと語りかけたわけです。それがアメリカの「衰退」によって特に影響を受けていた(とされる)製造業で働く白人労働者階級に受けた。


但しトランプ現象やBREXITのようなポピュリズムの台頭にもかかわらず、ピンカー自身は楽観的で、トランプのようなデマゴーグもいずれは飽きられるし、ポピュリズムの支持者たちも幻滅を経験することになるであろう、と。ピンカーがそのように考える一つの理由が、世界的な傾向である「信仰心の衰退」(decline of faith)です。つまり宗教の衰退ということ。ピンカーが紹介している統計によると、100年前の世界では何らかの宗教を信じていると言う人がほぼ100%であったのが、いまでは59%にまで落ち込んでいる。人間、リッチになると信念(belief)のような杖は放り出して、理性に頼るようになるということだそうです。

The Economistの書評は次のような文章で結ばれています。
  • 悲観論にはそれなりの意味がある。用心深さを養うということだ。そして面倒なことに注意を向けようとするのは人間の本能であり、健全なことでもある。それによって物事が解決されるのだから。とはいえピンカー氏の考え方は大まかには正しいと言えよう。現在も何から何まで崩壊しつつあるわけではない。惑星が地球に衝突したり、核戦争が起こったりしない限り、これからも物事は良くなっていくだろう。
    Pessimism has its place - it fosters caution. And the human instinct to focus on problems is sound - it means they often get fixed. Nonetheless, Mr Pinker’s broad point is surely right. Things are not falling apart. And barring a cataclysmic asteroid strike or nuclear war, it is likely that they will continue to get better.

▼この本が描く楽観主義については、いろいろと批判もある。例えば科学雑誌の "Nature" は筆者が称賛するヨーロッパの啓蒙主義時代は別のアングルから見ると、植民地主義、奴隷制度などの時代でもあったというわけで、あのフランス革命(1789~1799年)でさえも混乱の中で終わったものだとのことであります。ピンカーは「理性尊重・合理主義」の延長線としての「グローバル化」を大いに支持しているのですが、Natureのエッセイは、グローバル化がさまざまな技術改革をもたらし、貧困の追放にも貢献したことは認めながらも、貧富の格差、環境破壊のようなマイナスの部分を如何にコントロールするかを考える必要があるとも言っている。

▼スティーブン・ピンカーの考え方の中で最も興味深かったのは、現代では100年前に比べると信仰心(faith)が衰退しており、そのことが狂信主義(fanaticism)の蔓延を防いでいるという発想です。信仰とか信念というものが狂信的な思想や行動を生むのに対して、損得で動く合理主義は理性・科学技術の発展を促す。合理主義のおかげでリッチになった人類は狂信主義のようなものは受け付けなくなるであろう・・・そのことがポピュリズムが長続きしないことに繋がるという見方です。このような見方を(むささびは)興味深いと思うけれど、必ずしも正しいとは思えない。信仰・信念・情熱 etc のような「理屈では割り切れないもの」は人間が永遠に付き合わなければならない癖のようなものだと思っているわけです、むささびは。

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5) どうでも英和辞書
A-Zの総合索引はこちら 

shortbread: ショートブレッド

ショートブレッドというクッキーをご存知ですよね?バター味がして、サクサクしていて美味しいよね。お恥ずかしいのでありますが、むささびはこのショートブレッドがスコットランドのものであることを知りませんでした。いちばん有名なのがウォーカーズ(Walkers)というメーカーで、60か国以上に輸出されているのだそうです。日本で売られているのもこれですよね。

グラズゴーの日曜紙、Sunday Heraldのサイトに
という見出しの記事が出ていました。「ウォーカーズ社のショートブレッドがユニオン・フラッグの旗の下で売られていたことで文句が出ている」というわけ。記事によるとドイツで売られているウォーカーズのショートブレッドの缶に描かれているのがスコットランドの国旗ではなく、ユニオン・ジャックになっていることを知ったスコットランド人がFacebookに投稿して文句を言ったのがきっかけでこれが広まってしまったらしい。

ダンディーに住むアリソン・ブラウンさんが投稿したもので、「我がスコットランドのショートブレッドがドイツじゃこんな風にして売られているなんて、実に情けない!It breaks my heart!」と言った上で、これはきっと英国(UK)からの独立に反対するスコットランドの連合派(unionists)の仕業に違いない、と怒っている。この投稿に対しては応援メッセージがわんさか掲載されている。
  • これからはウォーカーズのものなんて絶対買わない(We will not be purchasing any more Walkers products)。
  • あんたらはスコットランドのルーツと遺産を売り払おうとしているのだ(now selling out your Scottish roots and heritage)。
  • これであんたらは得意客を一人失ったな(you've just lost another regular customer)。
これに対してユニオン・ジャック派も
  • ウォーカ-ズのショートブレッドは素晴らしい英国製品だ(A great British product!)
  • ウォーカーズにだって金をもうける権利はある。ドイツではユニオン・ジャックを使った方が売れるというのなら、それでいいではないか(Walkers are entitled to make money and if they do this by using the British flag on the tin in Germany then so be it)
などと応酬している。

ウォーカーズ社は1898年にウォーカー・ファミリーが始めたショートブレッドの老舗メーカーなのですが、ドイツ向けの商品の缶に英国国旗が使われたことについて「グローバルなお客様にはさまざまな商品を提供する必要があるので」とコメントしている。Facebook上の反ユニオン・ジャック・キャンペーンを始めたアリソン・ブラウンさんは、「ドイツ人だって、スコットランド国旗(Saltires)の方が好きに決まっている」と言っているのでありますが・・・。ただ、むささびが調べたところでは、ネット上にスコットランド国旗をあしらったウォーカーズのショートブレッドは見当たらなかったのですが!?

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6) むささびの鳴き声
▼いくらなんでもひどすぎるんじゃありません?前川喜平・前文科省事務次官が名古屋の市立中学で講師を務めたことについて、文科省が名古屋市教育委員会に授業内容や録音データの提出を求めたという、あれ。毎日新聞のサイトに文科省が送ったというメールに添付された質問状が掲載されている。ご一読をお勧めします。が、気分が悪くなる可能性があるので食後にした方がいいと思います。

東京新聞の記事によると、この件を新聞報道で知った文科省教育課程課長の淵上孝という人が、初等中等教育局長の高橋道和さんと相談、課長補佐(氏名不明)という人が名古屋市教育委員会にメールを打ったらしい。むささびの想像による淵上さん、高橋さん、課長補佐の3人の会話(発言者名は勝手に想像してください):
  • 局長、た・た・た・・・タイヘンです! あ、あのマエカワがですね、名古屋の中学校で講演をしたらしいんです。
  • ナニ!?あのマエカワが中学生相手にハナシをしたってか?直ちに関係者を処分しろ!
  • ご、ご安心ださい、局長、アタシの補佐が教育委員会に質問状を打ってありますから。
  • (ドアをノックする音)課長、こんなメールで如何でしょうか?
  • 何だ、まだ打ってなかったのか。「出会い系」のことは書いてあるんだろうな。
  • もちろんですよ、課長、「前川・前文科次官、出会い系バーに出入り」と書いたあの読売の記事ですよね。
  • そうだ、あの記事は、官邸に頼まれてオレが読売に書かせたんだから、しっかり使わんとな。マエカワは「出会い系に入り浸るスケベ男」なんだ。報道が「悪い」と言ってるんだから「悪い」に決まっておる、分かってるな?
  • 分かってますよ、局長!で、あなたが読売に漏らしたときのメールは削除してありますね?
  • もちろん。オレのメールどころか、読売の記事そのものがサイトから削除されてるんだ。
  • 局長、あんたも悪(わる)ですねぇ・・・!
▼というわけで出来上がった質問状の一部は次のように書かれている。
  • (前川氏は)報道などにより文部科学事務次官在任中にいわゆる出会い系バーの店を利用し、そこで知り合った女性と食事をしたり、ときに金銭を供与していたことなどが公になっています。こうした背景がある同氏について道徳教育が行われる学校の場に<中略>どのような判断で依頼されたのか具体的かつ詳細にご教示ください。
▼このような文章が延々続くわけです。「具体的かつ詳細にご教示ください」という言葉が何度も何度も使われる。前川さんは、このメールの書き手のような人間がうろうろしている職場で仕事をしていたのか、と思うと心底「ご苦労さま」と言いたくなる。その一方で、このような文章を平気で他人に送る人間が「教育」を司るお役所にいるのか、と思うと寒々とした気分になる。

▼でもこの問題にも「希望の光」めいたものが少しだけ見えましたね。それは名古屋教育委員会が文科省とのやりとりを文字で示すペーパーをすべて公開したということです。おかげで極めて「具体的かつ詳細」な事情が分かる。もう一つ林文科大臣がこの件について、文科省側に「やや誤解を招きかねない面」もあったとコメントしたこと。「誤解を招きかねない」という意味不明のコメントはいい加減聞き飽きている。それをこの場でも使ってしまった林大臣はシンゾーの足を見事に引っ張ってくれた・・・その意味で「よくやった、林さん」と言っておきたい。

▼ちなみに前川さんが名古屋の中学で講演した云々について読売新聞がどの程度熱心に伝えているのか・・・むささびにはよく分かりません。お元気で!

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むささびへの伝言