musasabi journal

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394号 2018/4/1
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美耶子の言い分 美耶子のK9研究 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
3~4日前にウグイスを聴きました。うちの近所、どこを見ても桜・桜・桜・・・神社も河原も自動車学校も丘も空地も・・・サクラサクラサクラ。いくらなんでもやりすぎなんじゃありません?他に植える樹木は思いつかなかったのでありましょうか?上の写真は、イングランドのどこかの林ですね。ブルーベルの花が満開です。

目次

1)フィンランド人の幸福度
2)悪乗り教授の女性差別論
3)AIの悪用防止:他人を見たら泥棒と思え
4)いま『自由からの逃走』を読む意味
5)どうでも英和辞書
6)むささびの鳴き声


1)フィンランド人の幸福度

3月初めに国連の持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(Sustainable Development Solutions Network:SDSN)という組織が発表した「世界幸福度報告書」(World Happiness Report)というレポートによると、世界で最も幸福度が高い国はフィンランドなのだそうですね。3月26日付のThe Economistに出ていました。この報告書はSDSNという組織自体が調査した結果の報告ではなくて、アメリカのギャラップ社が行っている国際世論調査の結果をまとめたものです。2018年の報告書では2015年~2017年の3年間の調査をまとめているのですが、156か国中のトップ4がフィンランド、ノルウェー、デンマーク、アイスランドという北欧諸国が並んでいる。このあたりの順位についてはここ数年全く変わっていない。

世界幸福度ランキング

世の中にはいろいろな国がある。それぞれを性格付ける尺度もGDP、社会福祉制度、選択の自由、政治に汚職が少ない等いろいろあるけれど、要するにそれぞれの国の人びとがどの程度の自分の生活に満足しているか(how pleased people felt with their lives)ということにこれらの尺度がどのような影響を与えているか・・・それをまとめたのがこの報告書なのだそうです。

The Economistの見るところによると、人びとの幸福感覚は、その国の社会的な支援制度が充実していて、「落伍者」と呼ばれる人びとが少ないことから生まれるのではないか、と。経済的な貧困国や戦争やテロに見舞われている国は幸福度が低い。イエメンやシリアがその例であり、156か国中156位となった東アフリカのブルンジ共和国は1962年の独立以降、多数派のフツと少数派のツチの間で対立があり内戦にまで発展している。


で、フィンランド人はなぜそれほど幸せなのか?あの国の諺に「幸せとは、夏を過ごす赤い山小屋とジャガイモ畑を持っていること」(Happiness is having your own red summer cottage and a potato field)というのがあるのだそうです。山小屋でジャガイモを育てながら夏を過ごす・・・フィンランド人の幸福を支えているのは「退屈」(how boring it is)ということなのかもしれない、とThe Economistは言っている。ただ、フィンランド人が世界のどの国民よりも幸せなのは、教育費がタダ、休暇の取得にも寛大、ワーク・ライフ・バランスに優れているetcの条件に恵まれているからこそのハナシで、それがあるから山小屋でジャガイモを育てることも楽しめるということかもしれない(とむささびが呟く)。

2018年の報告書では、初めて「移民」を幸福度の尺度に入れている。それぞれの国で移民として暮らす人びとの幸福度はもちろんですが、移民を受け入れている国の人びとの幸福度も考慮に入れている。そこでもフィンランドはトップなのだそうです。ただ、The Economistによると、フィンランドの「移民が幸せ」という理由の一つは、移民がエストニアやロシアのように比較的近くの国から来ていることがあるということなのだそうです。

フィンランドの公共放送(YLE)のサイト(英語版)によると、英国のEU離脱が決まった2016年の国民投票以来、フィンランドの市民権を申請する英国人が急激に増えているのだそうですね。2015年の申請件数は33件だったのに、2016年には倍増の64件、2017年には153件へと増えており、2018年はこれをさらに超えるのではないかとされている。フィンランドの市民権を得るためには5年以上住んでいること、フィンランド語もしくはスウェーデン語に堪能であることが要求される。

▼もう一つYLEのサイトからの話題ですが、「自分を笑い飛ばすフィンランドのサイトがバカ受け」(Self-deprecating Finnish memes a big online hit)なのだそうですね。"Very Finnish Problems" というFacebook上のサイトがそれで、「自分を・・・」(Self-deprecating)というけれど、主宰しているのは英国人(アメリカ人かも)のようです。
  • フィンランド人は、自分たちが世界でどのように思われているかを語るような新聞記事を読むのが大好き。但し自分で自分のことを持ち上げるのは嫌いで、他国の人がフィンランドのことを褒めているのを読むのが好き
  • などと書いてある。
▼フィンランドという国は教育であれ、福祉であれ、ハイテクであれ、何でも世界一という感じではありません?そのことについてフィンランド人は特に自慢するわけではない・・・ように思っていたけれど、実際には気にしているのです。

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2)悪乗り教授の女性差別論

いま英国とアメリカの「ある種の人びと」の間で熱狂的に支持されている大学教授がいるのをご存じで?カナダのトロント大学で心理学を教えるジョーダン・ピーターソン(Jordan Peterson)という先生。1962年生まれの55才なのですが、ウィキペディア情報によると、教授がメディアの注目を集め始めたのは2年前の2016年にYouTube上で、政治の世界における「きれいごと」(political correctness)、カナダ議会が成立させた、女性や同性愛者の人権保護を促進する法案(Bill C-16)などを痛烈に批判する講義を始めてからのことだそうです。規模は小さいけれどカナダ版のトランプ現象ですね。


ピーターソン教授が最近出版した "Twelve Rules for Life" (生きるための規則12カ条)という本が売れに売れているらしく、3月15日付の書評誌London Review of Books (LRB) に出ていた サミュエル・アール(Samuel Earle)という著述家のエッセイによると「聖書より売れるのではないか」(Outselling the Bible)とさえ言われているのだそうです。この本には"An Antidote to Chaos"(混乱を乗り切る対策)という副題がついている。混乱を極めている今の世の中、こうすれば丸く収まる・・・ということのようです。「はしがき」に書いてある文章からして変わっている。
  • 数年前まで自分は名もない大学教授で、誰も読まない学術書を数点著しただけという存在であった。が、神の助けを得て、私は自己憐憫の気持ちにこだわることを止めにして、自分の潜在能力を充分に伸ばそうと決意したのだ。
    Just a few years ago, I was an unknown professor writing academic books that nobody read. Then, with God’s help, I decided to stop feeling sorry for myself and develop my potential.

確かに大学教授の書く本にしては変わったイントロです。いまの世の中、最も望まれるのは「当たり前のことを当たり前に語る自助の書」(self-help book)なのだというわけで、この本の出版となったのですが、基調は「リベラル嫌いの保守派宣言」という感じの本であります。まともな世の中にするために教授が主張する12カ条の中からいくつかピックアップしてみます。



男は秩序・女は混乱
この世には神が存在し、神が人間に望むのは「秩序」(Order)である。秩序は男、混乱(Chaos)は女だ。世の中が秩序立つためには皆が「男らしく」ならなければならない。幸福を望むなどというのはくだらない(pointless)。我々は苦しむためにこの世に存在しているのだ。男らしく苦しむことを身につけよ。ダメさ加減が少なくなるように努力すること。

自分で努力しろ
エデンの園の物語によると、人間はすべて原罪につきまとわれているが、我々には選択肢がある。天国へ行くことを目指すか、地獄へ突き落とされるかという選択肢だ。人間が本来的に恥ずべき、罪深い存在であることは確かなことだ。少しくらい自分で努力はして、自分のダメさ加減を減らすようにしろ。他人に助けてもらうのを待っていてはだめだ。

常に勝ち組の中にいろ
世の中には優れた人間と救いようがない人間(beyond help)がいる。後者は他人に助けてもらうことしか考えていない。そんな人間と付き合うと自分自身が彼らと同じレベルに堕落してしまう。とにかく勝者と共にいること。人間の違いが分かるようになれ。Learn to tell the difference. 堕落する奴はさせておけ。彼らはどの道、聖なる存在とは無関係なのだ。

女は引っ込んでろ
世の中、ばらばらに崩れつつある。なぜそうなのか?それはリベラルの連中が男子を女子になるようにしつけているからだ。男子は男子らしく、女子は女子らしくさせろ。男がいい職場を独占して、女が家庭に居て子供の面倒をみる、それのどこが悪いのだ。ご婦人どもよ、引っ込んでいてくれ。男を休ませてあげてくれ。So back off, ladies, and give us men a break.

というぐあいです。要するに女性や同性愛者の権利とか思想・言論の自由のようなリベラル的発想をやっつけろ、というわけですね。詳しくは1月28日付のGuardianに出ています。

 

今年(2018年)の1月にこの本のPRを兼ねて英国を訪問した際に、チャネル4テレビのインタビュー番組に出演したのですが、その際にも「男女の給与格差があるのは当たり前、女性が低賃金の仕事をするのは自然の成り行き」と発言した。それに対して女性司会者が「あなたの批判などしようものなら、オンライン・フォロワーによって叩きのめされるのだそうですね」と皮肉ったところ、彼女のSNSに教授支持者からの抗議メッセージが殺到、テレビ局が警備の専門家を雇うことを検討したこともあったほどだった。

ピーターソン教授のツイッターのフォロワー数は50万、フェイスブックの「お友だち」は約10万、Youtube講義の登録者は11万3000人・・・という具合で、LRBの記事によると、教授としての給料以外にファンからのドネーションだけで一か月6万ドル(約600万円)の収入があるのだそうです。教授の著書の英国内の出版元(Penguin)などは、ピーターソン教授は「心理学者としてはカール・ユング以来の影響力」、「アルベール・カミユ以来の哲学者の登場」etcという大絶賛の見出しで盛り上げている。ロンドンにおける講演会はどれも超満員、聴衆の圧倒的多数が白人男性であったとのことです。


教授が著書の中で書いているメッセージに
  • 他人に頼るな。絶対に、だ。
    Don’t be dependent. At all. Ever. Period.
というのがある。人間には独立心が必要だと訴えているわけですが、LRBのエッセイを書いたサミュエル・アールは「独立心を説きながら、信じられないほどに彼を頼りにする若者のネットワークを構築している」(cultivates a network of young men who have become disconcertingly dependent on him)と矛盾を指摘している。

ここをクリックすると、教授とチャネル4テレビとのインタビューを見ることができるけれど、この動画は850万回のクリックを記録しています。850万ですよ!気味が悪いと思いません?

▼この教授が訴える「独立心」(independent mind)という言葉で思い出すのが、全米ライフル協会(NRA)が金科玉条のように主張する「個人の自由」(individual freedom)です。両方とも極めて抽象的だと思うのですが、独立・自由を叫ぶわりには殆ど狂信的とも言えるほど熱心なキリスト教信者なのですよね。聖書に書いてあることをそのまま狂信するタイプです。

▼もう一つ言えるのは「きれいごと」(political correctness)に対する嫌悪感です。ノーベル平和賞なんかもらってしまったバラク・オバマなんて吐き気がするほど嫌いなのでしょう。人間の考える「理想」とか「理念」というものをどれも一律に「偽善的」とか「にせもの」とかの言葉で否定するのはいいけれど、むささびによるならば狂信的個人主義よりも「きれいごと」の方がはるかにまともというものです。

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3)AIの悪用防止:他人を見たら泥棒と思え

前回のむささびジャーナルで紹介したスティーブン・ホーキングの言葉の中に人工知能(Artificial Intelligence:AI)に関するものがありました。「AIの開発がフルに進むと、人類は終末を迎える可能性がある」と言っていました。人間が開発したものであるにもかかわらず、人間がこれを制御することができなくなる事態が出現するからだ、というわけです。


2月21日付のBBCのサイトに「人工知能が悪用される、と専門家が警告」(AI ripe for exploitation, experts warn)という見出しの記事が出ていました。英米の専門家26人がオックスフォード大学に集まって "Malicious Use of Artificial Intelligence"(人工知能の悪用について)というテーマで検討会を開き、同じタイトルの報告書が発表された。AIについては、「囲碁の勝負で人間を負かした」というような、AIが持つ積極的な機能について語る報道が多いように思います。この報告書は、AIの技術がならず者国家(rogue state)、犯罪組織、テロリストらによって悪意をもって(malicious)使われることは大いに可能なのだから、設計者はAIの悪用防止に力を入れるべきであるし、政府はその問題に対処する新しい法律を作る必要があると訴えている。

報告書を詳しく読んで理解するのは(むささびには)無理としても、さわりの部分に書いてある「悪用」の例を読んでいると、ホーキングならずとも暗然とした気分になってきます。人間の顔認識能力を有したカメラを搭載したドローンを使って特定の人物を上空から攻撃・暗殺する、自動走行車にわざと誤った信号認識機能を装備させて交通事故を多発させる、ある特定の有名人が演説しているフェイク動画を流布する・・・などというものです。

上の写真は「敵対的生成ネットワーク」(Generative adversarial networks:GANs)という人工知能技術を駆使してロボットが人間の顔を合成して作った写真だそうです。左側が2014年の時点で作られた合成写真で、右側は2017年現在で作られたもの。左の写真がピンボケなのに対して右側のものは、人間の顔を極めてクリアに再現しています。

この報告書が言及しているのは、遠い未来のことではなくて、現在すでに悪用が可能である分野とこれから5年以内に可能になると思われるものに集中しているのですが、会議に参加したオックスフォード大学の「人類の未来研究所」(Future of Humanity Institute)のマイルス・ブランデージ(Miles Brundage)研究員によると
  • AIは市民や組織、国家を取り巻くリスク状況そのものを変えてしまう。
    AI will alter the landscape of risk for citizens, organisations and states
とのことです。リスクの桁が違うということです。悪意を持った人間がコンピューターに人間なみかあるいは超人的なハッキングやフィッシュ技術(他人のクレジットカード番号を盗むなど)を学習させることが出来るし、国家による個人の監視技術を飛躍的に高度化させることで、個人のプライバシーなど有名無実化してしまうことも可能になる。



AIに懐疑的であったスティーブン・ホーキングは筋萎縮性側索硬化症(ALS)という難病によって、言語によるコミュニケーションが難しかったわけですが、英国のSwiftkey、アメリカのIntelが開発したAIの機械学習(machine learning)装置を使って言語による意思疎通が可能になったのだそうですね。その装置はホーキングが頭で考えたことを察して、然るべき言葉を「提案」する機能を有していたもので、いまではスマホのキーボード・アプリなどで使われているのだそうです。BBCの記事によると、ホーキングも「原始的なAI」(primitive forms of artificial intelligence)の有用性は認めていた。ただ人間の能力を超えたものの開発には懐疑的だった。
  • AIが自分の力で「離陸」して、速度を増しながら自分自身を変えていく。そのスピードに人間自身がついて行けない。生物としての人間の進化がAIとは競争にもならず、最後はAIに取って代わられる。
    It would take off on its own, and re-design itself at an ever increasing rate. Humans, who are limited by slow biological evolution, couldn't compete, and would be superseded.
というわけです。つまり完全なる人工知能が開発されることによって人類は終末を迎えることになる可能性がある、「考える機械」の登場が人間存在そのものにとって脅威となる (thinking machines pose a threat to our very existence) というわけです。


もちろん科学者の誰もがホーキングのように悲観的に考えているわけではないけれど、オックスフォードにおけるこの専門家の集まりは、AIを意図的に悪用しようとする人間への対処を検討するもので、報告書にはさまざまな悪用の可能性が紹介されている。が、「それではどうすればいいのか?」ということについては具体的には語っていない(というより語りようがない)。報告書が提案しているのは、AI技術の開発に関わっている企業や研究者、さらには政策立案者たちが「より活発かつオープンに」(more actively and openly)議論を交わすこと」なのですが、その一方で
  • AIの研究者は偏執狂であると言われるほどに疑い深く、より閉鎖的であること
    AI researchers becoming more paranoid, and less open.
ということも欠かせないということのようであります。他人(ひと)を見たら泥棒と思え・・・と?

WIREDという雑誌のサイトによると、AI開発の分野はこれまで、アマゾン、グーグル、マイクロソフトのような企業による開発などが比較的オープンに行われてきたのだそうですね。人手不足で、企業がそれぞれ閉鎖的になっている余裕がないということだった。この報告書が言うように、研究者に対して閉鎖的であることが要求されるようになると、かつてのような自由でオープンという雰囲気はなくなるかもしれないとのことです。

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4)いま『自由からの逃走』を読む意味



3月27日付の毎日新聞(夕刊)のサイトに
という記事が出ています。エーリッヒ・フロムの『自由からの逃走』(Escape from Freedom)は、むささびが半世紀以上も前に読んで大いに感銘を受けた本であり、むささびジャーナル267でも取り上げたことがある。その本のことが書いてあるというので、懐かしさも手伝って庄司哲也という記者が書いたこの記事を気を入れて読みました。



まず今なぜこの本について書くのか?ということですが、庄司記者によると、最近の日本はナチズムに傾倒したころのドイツに似てきている。
  • 書店には「反中・嫌韓本」とともに「日本礼賛本」が並ぶ。排他的な雰囲気が漂う現代日本。
というわけです。フロムが『自由からの逃走』を書いた1941年(どうでもいいことですが、むささびが生まれたのも1941年=昭和16年です)頃のドイツも似たような状況だったのではないか、ということです。その頃のドイツ人は「自由を持て余し、不安や孤独から強い権威(ナチス)に身を委ねていった」とのことで、今の日本人も同じような精神状態にあるのではないか、と。ある日本の大学教授が学生相手に行っている「ファシズム尺度調査」という意識調査によると、「上下のけじめ」「規律の必要性」のような「権威主義」の意識が「ナチス・ドイツの親衛隊員」と似たような数値が出ている、と。

自分とは?
『自由からの逃走』のイントロの部分に書かれている文章です。フロムが書いたのではなく、ユダヤ教の聖典から引用したものです。人間の自由を考えると行き着かざるを得ない疑問である、とフロムは考えたのではないかと(むささびは)思います。
  • 自分が自分のために生きなければ、誰が自分のために生きるというのか?
  • 自分が自分のためだけに生きるとすれば、自分は誰なのか?
  • もし今でないとしたら、いつなのか?

またいまの日本にはヘイトスピーチで在日朝鮮人を攻撃したり、生活保護受給者やホームレスのような社会的に立場の弱い人を攻撃する空気もある。なぜそのような空気が生まれるのか?精神科医の水島広子さんは次のようにコメントしている。
  • ヘイトスピーチを行うのは疎外感を持っており、自己肯定感が低い人です。自信が持てないため、『仮想敵』を作り上げ、優位に立とうとすることで自信を持ったような気になる。ただ、あくまでも形だけの自信なので、団結することで疎外感を抱かない場を作るのです。
水島さんによると、「反中・嫌韓本」や「日本礼賛本」が売れるのも、そのような人びとが「自信」を与えられるからであり、少子高齢化などで先行き不安だらけの日本においては、中国や韓国を非難することで自国の存在価値を膨らませ、「欧米から評価されている日本」を強調することでやすらぎを求めるのだそうであります。

自由が重荷になるとき

『自由からの逃走』には、いろいろと有名な言葉がある。これもその一つ。
  • 自由が重荷になるなどということがあるだろうか?人間が引き受けるには余りにも重過ぎる負担であり、逃げ出したくなるような重荷である。さらに人間には自由を求める本能のみならず、何かに従うことを欲する本能もあるとは言えないだろうか?
    Can freedom become a burden, too heavy for man to bear, something he tries to escape from?..Is there not also, perhaps, besides an innate desire for freedom, an instinctive wish for submission?

フロムはナチス台頭の温床となった時代現象の一つとして、周囲に合わせて自我を捨てる「機械的画一性」があったことを指摘しているのですが、庄司記者によると、それは現在の日本の言葉でいえば「空気を読む社会」ということになる。 庄司記者の記事は
  • 経済的な繁栄の時代から右肩下がりとなり、少子高齢化、人口減など先が見えない不安感が募る現代日本。それを転化して隣国への憎悪をあおったり、排外的になったりする動きの背景に何があるのか直視しなければならない。
という彼自身のメッセージで終わっている。

▼「ヘイトスピーチ」、「弱い者いじめ」、「反中・嫌韓・日本礼賛」などの動きの背景には、日本人の自信喪失があり、自信喪失の背景には「落ち目の経済」とか少子高齢化社会のような社会現象がある、と。そして自信を喪失した人間が陥りがちなのが他人を攻撃することであり、排外的になったりすることである・・・と庄司記者は言っている。それにしても自信喪失して「ヘイトスピーチ」に走るような人間が、喪失以前に持っていた「自信」というのはそもそもどんなものだったのか?中国や韓国がまだ発展途上とされ、日本が日の出の勢いの経済成長をとげていた1970~80年代、日本で「反中・嫌韓・日本礼賛」の書籍なんてあったんでしたっけ?

▼八方ふさがりの閉塞感。日本についてはずいぶん長い間そんなことが(日本人によって)言われている。ただそれは日本に限ったことではない。英国なんか、第二次世界大戦後ほぼ70年間、落日の帝国、英国病、欧州の重病人・・・さんざ言われてきた。誰がそれを言ってきたのか?主に英国人です。特にエリート階級と呼ばれるインテリ層です。そのことが右翼勢力の台頭を招きBREXITに繋がった。同じことが「トランプ現象」という形でアメリカでも起こった。英米で起こっている現象と日本の「反中・嫌韓・日本礼賛」は根っこが同じという気がしてならない。フロムのいわゆる「従属したいという本能」(instinctive wish for submission)です。

▼エーリッヒ・フロムは、『自由からの逃走』の中で、人間には「~からの自由」(freedom from)も欠かせないけれど、「~への自由」(freedon to)も大切だと言っています。前者は圧政・貧困・暴力・差別などから逃れようとする「自由」であるのに対して、後者は「まともな社会」(sane society)を作ろうとする「積極的な自由」です。人間にはこの二つの自由が欠かせない、と言っている。後者の基になるのは(フロムによると)、reason(理性)、enlightment(覚醒)、brotherhood(兄弟愛)などの人間ならではの姿勢です。

▼"Escape from Freedom" が書かれたのは1941年ですが、和訳の『自由からの逃走』が出版されたのは1952年、終戦後7年目のことです。むささび自身が初めて読んだのが1970年代初頭のことです。日本ではまだ「反戦・平和」が大いに語られていた時代です。あれからほぼ半世紀、「平和憲法を守ろう」などというとヘンな顔をされ、挙句の果てに「自虐史観」などと蔑まれるようになった。毎日新聞の庄司記者は現在の「反中・嫌韓・日本礼賛」の背後にあるものを「直視しなければならない」と言っています。それはおそらく今の日本人の多くが抱えている「閉塞感」ということになるのでしょう。でもその「閉塞感」を生み出しているものは何なのか?「落ち目の経済」という説明がされるけれど、むささびが思っているのは、「理想」とか「理念」とか言われるものの欠如感覚、フロムの言う「~への自由」(freedom to)の姿勢です。

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5) どうでも英和辞書
A-Zの総合索引はこちら 

null and void:無効

「無効」と名詞風に書いてあるけれど、実際には形容詞。法律とか条約のような取り決めが効力を失した状態になることです。英国議会が主宰するオンライン署名に、2016年に英国で行われたEUへの加盟継続をめぐる国民投票について次のような署名活動の提案が掲載されています。

というもの。アメリカの大統領選挙と同様に英国の国民投票にもロシアが介入していたという噂が広がっている、だったらそんな国民投票は無効にしろ、というわけです。3月30日現在で18,239人がこれに賛同する署名をしている。この署名制度の場合、1万人以上集まれば、政府は何らかの反応を示さなければならないことになっている。そして10万以上集まると、それについて議会で審議することを考慮しなければならない。

署名の締め切りは2018年5月21日だから、あと2カ月弱、ちょっと無理かもね。

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6) むささびの鳴き声
▼2番目の「悪乗り教授」の記事は、4つ目の「自由からの逃走」の記事と一緒に読むといいかもしれないですよね。政治や社会の問題を語る際の「きれいごと」をどのように考えるのか?ということです。トランプはこれを唾棄するかのようなコメントを連発していましたよね。ヨーロッパの極右勢力も似ている。「きれいごと」を嫌った人びとが惹かれるのが「正直」ですよね。しかしトランプやBREXITEERSのいわゆる「正直」は単なる「そのまま」もしくは「昔は良かった」なのよね。それで済むくらいなら苦労は要らないっつうの!

▼いわゆる「森友問題」について3月27日付日本経済新聞のサイトに出ていた「財務省解体の危機か」という見出しの記事を読んで妙に納得してしまった。飛田臨太郎、石橋茉莉という記者が書いた記事、3月27日といえばあの佐川さんが国会で証人喚問をされた日です。

▼森友問題というのは、国有地の売却に絡んで8億円もの値引きが行われたことが発端だったのよね。記事によると国有地の売却は、財務省の「支店」である各地域の「財務局」が担当する事柄であり、東京にある本省理財局は関与しない。このたび森友学園の籠池さんらに国有地を売却したのは「近畿財務局」で、理財局長の佐川さんを始めとする東京の「メインストリーム」の人たちからすると「なに、それ?」というハナシだった。

▼一方、かつては「泣く子も黙る」と言われた財務省というお役所は、第2次安倍政権下で力の陰りを指摘されていた。彼らが主張していた消費税の値上げが2度も首相官邸の意向でぽしゃってしまった。「官邸ににらまれたら何もできなくなった」という状態だった。日経の記事の中でむささびが妙に納得してしまったのは次の部分です。
  • もともと森友学園への国有地売却は、買い手が見つからなかった近畿財務局が前理事長の籠池泰典被告の強い要望に「特例」での売却を迫られた失敗案件だった。しかし、特例での売却理由を本省に説明するため、籠池氏が強調した安倍昭恵首相夫人など政治家の存在を「いわば使った」。
▼自分たちの管轄下にある国有地を売りたくて仕方がなかった近畿財務局を訪ねたのが籠池さんだった。以下はむささびが勝手に想像するフェイクドラマです。
  • あの土地、なんぼだんねん。
  • 9億円です。
  • 分かりました、そんなら「特例」で、1億ということで・・・。
  • 1億もまかるわけないでしょ。
  • 違いまんがな。1億まけるのやない、1億で売ってくれ言うとりまんねん。
  • 帰ってください、こっちは忙しいんだ。9億が1億にまかるわけないでしょ。
  • そやから「特例で」と言うとりまんがな・・・ほんなら帰ります。このビデオ、暇なときに見といてくんなはれ。
▼で、近畿財務局の人がビデオを見ると、森友学園が子供たちに教育勅語を暗唱させるという「素晴らしい教育」をやっていることに感涙にむせぶ安倍昭恵さんが写っている・・・。近畿財務局長の耳に籠池さんが口にした「特例」という言葉が残る。9億を1億にまけたとなると、本省から説明を求められる。そうだ、「特例」だ、特例ということにしよう!「どういう特例なんだ?」と聞かれたら「籠池には首相がついているようです」と説明すればいい。な~に、自分だって本省の人間だって、こんな土地、どうだっていいんだから。

▼というわけだから、安倍さんが「一切関わっていない」と言うのも当たり前ですよね。事実、関わっていないのだから。シンゾーも奥さんも関わっていないし、籠池さんだってそんなこと言っていない。あの国有地を売りたくて仕方なかった近畿財務局が、あのビデオを見て「特例」を思い付いたというだけのこと。

▼ただ・・・むささびが言っておきたいのは、森友問題の核が「特例」だの「文書改ざん」だのという問題ではないってこと。中核は子供たちに教育勅語を暗唱させるような教育に感涙を流すような人物が首相夫人であるということであり、彼女の感涙が夫の思想と無関係ということはあり得ないということです。我々はそんな人物を首相にしている・・・そこが問題なのであります。

▼プロ野球が始まりました。何だかほっとします。今年の優勝(日本一という意味)は埼玉ライオンズで決まりですから、ご安心を。ジャイアンツ?あるわけない。阪神?問題外。広島?最初だけ。横浜?やるだけ無駄。ヤクルトと中日?まだいたんですね!ライオンズ以外のパ・リーグ、毎度、引き立て役ご苦労さんです。お元気で!

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むささびへの伝言