musasabi journal

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395号 2018/4/15
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美耶子の言い分 美耶子のK9研究 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
いきなりですが、むささびは1941年(昭和16年)7月5日に生まれました。その年の12月8日に日本による真珠湾攻撃があって、太平洋戦争が始まったのですよね。むささびの年齢は5か月だから太平洋戦争の始まりを身をもって知っているわけではない。ただ・・・最近のシリア情勢を見ていて「ひょっとすると第三次世界大戦の始まりなのか」と思わざるを得ない。で、上の写真はシリアの首都、ダマスカスから北方面を見たところです。煙が上がっているのが、シリア政府によって化学兵器が使われたと(トランプ、メイ、マクロン+シンゾーが言っている)ドゥーマという町なのだそうです。

目次

1)シリア:欧米にできることは何もない
2)シリア:交渉以外に解決はない
3)シリア:イスラエルが気になる
4)ガーディアンの使命
5)どうでも英和辞書
6)むささびの鳴き声


1)シリア:欧米にできることは何もない

4月13日、米英仏によるシリアへの軍事攻撃が行われました。英国の参加については国会の承認が必要だという意見もあったのですが、結局メイさんの判断で参加が決定されたわけです。攻撃の4日前(4月9日)のGuardianにエッセイを寄稿したコラムニストのサイモン・ジェンキンズは
と言い切っています。化学兵器による攻撃は(それが事実であるとすれば)ひどいハナシではあるけれど、「欧米による軍事介入はシリア人苦しみを長引かせるだけだ」(western military intervention would only prolong Syria’s suffering)というわけです。


シリアで内戦が始まったのは、2011年のこと。最初は国内的な民主化要求運動だったのが、いつの間にかアサド政権打倒を目指す内戦状態となり、それにロシア、イラン、欧米諸国にプラスしてISISまでもが加わって何が何だか分からない状態になってしまった(むささびジャーナル328号)。ただ2011年当座は、欧米の情報筋やメディアは、アサド政権崩壊は時間の問題と言っていた。結果としてそれは間違っていた。ジェンキンズによると、そもそも欧米によるシリアへの軍事介入は、「及び腰」(half-hearted)でしっかりした姿勢に欠けていた。そのような介入ならしない方がいい・・・とジェンキンズは言っている。中東における国内問題に外部がちょっかいを出すと、生まれるのは「死と破壊」(death and destruction)だけというのが通例である、と。

首都ダマスカス近郊の東グータ地区の中のドゥーマと呼ばれるエリアには、反体制派が生き残って抵抗を続けており、政府軍が空爆した際に毒ガス兵器を使ったと非難されているわけですが、アサド政権による化学兵器使用が言われたのはこれが最初ではない。昨年にも同じ非難がなされたけれど、それ以後アメリカはシリア軍の基地があるシャリアートと呼ばれる町に59回もミサイルの雨を降らせている。にもかかわらず事態は一向に良くなっていない。ジェンキンズによると、自らの生き残りをかけて戦っている政権は、国際社会の非難など気にするものではない。同じことが同盟国(シリアにとってはロシアとイラン)にも言える。

対シリア軍事介入:揺れる英国世論
上のグラフは、世論調査機関のYouGovが調べた対シリアの英国世論の動向です。2013年のときは圧倒的に反対意見が多かったのですが、その後、ISISの活動が激しさを増したりする中で、アサド政権への軍事介入に賛成する意見が増えている・・・とはいえ、やはり一番多いのは軍事介入に対する反対意見です。世論とトランプの間で板挟み状態のメイ政権がどのような態度をとるのか?

化学兵器については、1997年の化学兵器禁止条約(Chemical Weapons Convention: CWC) というのがあるけれど、兵器そのものは比較的安価に作れることもあって、いわゆる「大国」でなくてもこれを大量に抱えている国がいくつもある。ジェンキンズに言わせると、化学兵器の使用によって被害を受けた子供たちが苦しんでいる場面はメディアで取り上げられて非難の対象になるけれど、「あの子供たちには生き残る可能性は残されている」(at least they might survive)。アメリカによって雨あられと撃ち込まれるミサイルはさらに多くの民間人を殺害しているけれど、ミサイルによって打ち砕かれた人間の身体は何も残らない、その方が残酷さが少ないとでも言うのか?

戦争には必ず民間人の犠牲が伴う。シリアについていうと、首都ダマスカスの近郊の住宅地を狙ったような攻撃の残酷さには吐き気を催すほどであるけれど、それをやっているのはアサドの政府軍だけではない。否定はしているけれど、欧米の軍隊も同じことをやっている。昨夏、モスルの陥落に伴って命を落とした民間人は8000人を超えるとされており、そのほとんどがイラク、アメリカ、英国の軍隊によって撃ち込まれたミサイルによるものである、と。アメリカのペンタゴン自体が数千人もの人間を殺したことを認めているし、英軍の司令官は、民間人の死は、都市部における戦闘では「止むを得ない」(the price you pay)とも言っている。おそらくアサドも同じことを言っているだろう、と。

 英国世論:シリアとの付き合い方(2013年)
今から5年前の2013年にもシリア政府軍による化学兵器の使用が伝えられ、キャメロン政府(当時)が英国もアメリカに同調してシリア爆撃に参加するという動議を国会に提出して否決されたことがある。その前に行われた世論調査でも英国人のシリア爆撃に対する気持ちがうかがえます。他国の内戦に介入すること自体に反対しているけれどシリア人の苦しみに無関心というわけではなく、人道支援は行うべきだという意見が圧倒的に多い。

ジェンキンズによると、戦争に関連する法令や条約は「偽善」によってくるまれている。なぜそうなのか?主としてそれらが戦勝国によって作られるからだとジェンキンズは主張します。アメリカは未だに遅延クラスター爆弾を禁止する条約に署名していない。この兵器はイエメン攻撃を繰り返すサウジ・アラビアによって未だに使われているのだそうです。ジェンキンズに言わせると、アメリカの姿勢は「非道徳」というよりも「汚い」(obscene)と表現した方が適切である、というわけで、
  • シリアの戦争はアサドの勝利によってのみ終結するだろう。居心地のいいソファに坐りながらそのことを非難しても事態は変わらない。どのようにしてアサドを非難しようか、と検討するのは構わない。が、現時点における欧米による軍事介入は全く何の意味もない。我々は世界を支配しようとする習慣をいい加減に止めなければならない。
    The Syrian war will only end when Assad wins. No amount of armchair ranting will alter that. Then we can all discuss how to condemn him. For the moment, western military intervention is utterly pointless. We must kick the habit of trying to rule the world.
と言っている。

▼同じ4月9日付ガーディアンでもサイモン・ティズドールという国際問題ジャーナリストは「アサドのシリア国民殺害行為を許すことは道義に反する」というわけで「軍事的な対応以外にはあり得ない」(the west’s response to Syria’s regime must be military)と主張している。むささびはというと、この種の「アサド悪者」論を単純に支持する気にはとてもなれない。トランプが狙っているのは「偉大な軍事大国・アメリカ」の復活であり、そのような人物と行動をともにしようと呼びかける「道徳論」はとても正気とは思えない。

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2)シリア:交渉以外に解決はない

むささびがこれまでにもたびたびお世話になってきたThe Independentのパトリック・コバーン記者が、米英仏軍によるシリア爆撃の直前(4月13日)、同紙のサイトに寄稿したエッセイには、中東問題の専門記者としてシリア内戦を見つめてきたジャーナリストならではの「良識」が伺えます。できればすべてを紹介したいのですが、時間がないので、これはと思う部分だけを抜き出します。


戦争を止めるしかない

米英仏によるシリア攻撃の目的はアサド大統領がシリア内戦において化学兵器を使うことを阻止することにある、とされている。しかしこの戦争ではすでに50万もの人間の命が失われているのだ。その間に政府側も反政府側も、敵を殺すためにありとあらゆる手段を使ってきた。その中のたった一つだけの武器(しかも最も重要とは思えない武器)の使用を禁止しても何の意味もない。Preventing the use of one type of armament will make little difference.

シリアにおいて毒ガスの使用を止める唯一の方法は、あらゆる武器の使用を止めることしかない。そのためには戦争を止めるしかないのだ。なのにアサド政権軍に対する今回の軍事行動に突入する前にこのこと(戦争自体を止めるということ)についてどの程度の検討が為されたのか?情けないほどに何も検討されることがなかった。


どちらにも勝たせない努力?

仮にアサド政権による毒ガスの使用が本当であり、米英仏による軍事介入によってそれが止まったとしてみよう。これまでにシリアで何人の民間人が化学兵器によって死亡したのか?1900人だ。で、内戦の開始以来、何人が命を落としたのか?50万人である。このような民間人の犠牲を防ぐ唯一の方法は戦争を終わらせること。それ以外はすべて偽善と見せかけである。シリアにおける戦争の特徴は、どちらにも勝たせないように(西側主要国が)努力してきたことにある。


メディア報道の責任

現在の優先課題は交渉によってシリアの戦争を終わらせることだ。化学兵器は「二義的な問題」(side issue)なのだ。ただこの交渉には困難が伴う。シリアの国内問題の複雑さもあるが、これまでメディアによる報道ぶりもある。欧米のメディアはこの戦争を常に悪玉(アサドのこと)vs善玉(アサドに反対する者すべて)の間の戦いとしてのみ伝えてきたのだ。一方を悪者扱いすることでは平和はやってこない。誰だって(アサドのような)悪者と握手する場面を見られるのはイヤだから。そうなるとミサイルでやっつけるしかない・・・ということになってしまう。しかしそれでは何も変わることなく戦争だけが長引いてしまうのだ。

▼むささびが言いたいのは、最後の「メディア報道の責任」という部分ですね。英国のメディアを見る限り、読者や視聴者はアサド大統領がとんでもない極悪人であり、戦争犯罪人として死刑にしなければならない・・・という気持ちに陥ってしまう。独裁者とはいえ、一つの国を治めてきた人物を単純に悪人と決めつけてしまう浅はかさはどうしようもない。同じことがイラクのフセイン大統領にも言えたと思います。BBCも含めて "President Hussein" ではなくて "Saddam" という呼び方しかしなかった。

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3)シリア:イスラエルが気になる

シリアに関連して4月12日付のThe Economistに気になる記事が出ています。"The other Syrian conflict"(もう一つのシリア紛争)という見出しで
  • イランがシリア国内に軍事基地を設けることをイスラエルが阻止する決意を固めている
    Israel is determined to stop Iran from establishing bases in Syria
というイントロになっている。シリアのアサド政権を支えている外国勢力で、ロシアに次ぐナンバー2とされているのがイランです。そのイランは中東においてイスラエルが最も気にしている存在です。

6日前の4月9日早朝、イスラエルの戦闘機からシリア中部の古都、パルミラの近くにある軍事基地に向けて大量の巡航ミサイルが発射された。この基地(T-4)はアサド政権を支援するイラン軍の駐屯地なのですが、このミサイル攻撃で少なくとも7人のイラン兵が死亡した、と記事は言っています。ただイスラエル政府はこのミサイル攻撃を公式には認めていない。


恥ずかしながら知らなかったのですが、イスラエルとシリアはほんのわずかな部分とはいえ国境を接しているのですね。2011年にシリア内戦が始まって以来、イスラエルによるシリア領内への爆撃は100回を超えているのですが、それはアサド政権や反政府勢力を狙ったものではない。ほとんどがレバノンにベースを置きながらシリア国内でも活動しているヒズボラと呼ばれる「テロ組織」(イスラエルの言い分)を攻撃するためのものだった。が、ヒズボラはイランが支持しているイスラム教シーア派の組織であり、イスラエルとは2006年の「レバノン侵攻」以来、対立を続けてきた。イスラエルによるシリア爆撃はヒズボラの基地を攻撃するもので、シリア内のイラン軍の基地を狙ったものでもなかった。が、4月9日のそれはイスラエルがイランの基地に対して攻撃を仕掛けたものだった。

The Economistによると、イスラエルとイランはこれまで何十年にもわたって「シャドーボクシング」ならぬ「シャドーウォー」の状態にあった。イスラエルによれば、それはイランがヒズボラやパレスチナ人を使って自分たちを攻撃してきたからだということになる。ただここ数か月の動きを見ていると、シリア国内で永久軍事基地を作ろうとしているイランに対してイスラエルが直接軍事攻撃を仕掛けるようになっている。今回のイスラエルによる攻撃対象になったT4と呼ばれる基地もそのようなイラン軍の基地の一つだった。


4月9日の攻撃が自分たちによるものであるとイスラエルが公には認めていないのは、イスラエルのネタニエフ首相がロシアのプーチン大統領とは度々会談を繰り返すなどして親しい間柄を維持してきているということが背景にある。つまりシリアにおいてはロシアの「お友だち」であるイランを直接攻撃することには慎重だったということです。但し最近ではイスラエルの軍関係者の間では、ロシアがイランやヒズボラを抑える気はないとする考え方が広がっており、ネタニエフ首相ほどには対プーチンに慎重な姿勢ではなくなっている。

一方、The Economistによると、プーチンはプーチンで、シリアへの軍事介入についての国内世論を気にしていて、シリア支援はもっぱら空軍だけで陸上でシリア軍を支援することには消極的だった。アサド政権は陸上の戦いについては、ロシアよりもイランを頼りにするようになっている。これまでにもシリア国内における厳しい軍事衝突を支援したのは、イランに支援されたヒズボラの軍隊だった。そしてプーチンもまたシリア国内ではイランとの協力を尊重するようになっている。


ロシアとイスラエルはこれまでのところはシリア国内の上空で衝突することは避けてきた。ロシアはイスラエル軍によるヒズボラ攻撃のためのシリア領空での軍事行動には見て見ぬふり(turned a blind eye)をしてきた。が、4月9日の攻撃後には、モスクワ駐在のイスラエル大使を呼びつけて説明を求めたりするなどして、態度が変わってきている。イスラエルはこれまでロシアに対して、シリア国内におけるイスラエルの利益が害されることがない限り、アサド政権を傷つけるようなことはしないことを約束している。が、The Economistは「それが変わりつつある」と言っている。ナタニエフ政権の閣僚の中に公然とアサド批判をする者が出て来ているのだそうですが、それが実はプーチン政府向けのメッセージなのだ、と。つまり・・・
  • イスラエルは、シリアにおけるイランの影響力拡大を阻止することを決意しており、そのためにはロシアのお客さん(アサド政権)にとって脅威となることもやむを得ないとしている。
    Israel is determined to prevent Iran from expanding its foothold in Syria, even if it means threatening Russia’s client in Damascus in the process.
ということです。

▼この記事の言っていることが本当だとすると、トランプのアサド政権攻撃の背後にイスラエルが存在するような気がしてならないわけ。トランプにしてみれば、アサドをやっつけるということは、イランをやっつけるということに繋がる。それを願っているのがイスラエルなのでは?ということ。となると、シリアで起こっていることは「内戦」どころか「アメリカ・イスラエル」対「ロシア・イラン」の対決ということになるのではないか?シリアの「内戦」だとされていたものが、7年目のいま本当に世界的な戦争に繋がりかねない様子であることは事実であり、その意味では朝鮮半島どころではない危険を感じませんか?

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4)ガーディアンの使命


2月4日にお送りしたむささびジャーナル390号に「がんばれ、ガーディアン」という記事が出ています。新聞業界が時代の変化に苦しんでいる中で、ネットの世界で健闘していることを紹介するものであったのですが、同紙のサイトにはLong Readという不定期の読み物記事が掲載される。Long Readというだけあって、それぞれ並みの長さではない記事ばかりです。昨年(2017年)11月16日付のサイトに掲載された特別企画は
と題するエッセイでした。




書いたのはガーディアンのキャサリン・バイナー(Katharine Viner)編集長で、ガーディアンという新聞がこだわっている「使命感」について語っている。記事の長さは7500語という異常な長さです。この際、拾い読み風にむささびが面白いと思った部分だけを抜き出して紹介します。キャサリン・バイナーは1971年生まれの47才、ガーディアンの編集長に就任したのは3年前の2015年です。ウィキペディアで見ると、ジャーナリストであると同時に脚本家でもあると書いてあります。

報道機関には「価値観」が必要だ
報道機関も時として誤りを犯す。物事を正しくとらえるために必要なのは、自分たちが固執する価値観であり原則(core values and principles)なのだ。

で、ガーディアンが固執する価値観(最も大切であると考えるもの)って何?という質問について、バイナー編集長が挙げるのが、正直・清潔・勇気・公平のような言葉と「読者に対する義務感」(a sense of duty to the reader)と「コミュニティに対する義務感」(a sense of duty to the community)という言葉です。

いまいち抽象的という気がするけれど、これらの概念を具体化するものとして、かつて同紙の編集長であったCPスコットが1921年、創刊100周年記念号に掲載したエッセイの中で使った「意見は自由、事実は聖なるもの」(comment is free, but facts are sacred)という言葉です。「自分たちの意見に対する反対意見は、賛成意見と同じように聴かれる権利がある」(the voice of opponents no less than that of friends has a right to be heard)が紹介されている。

公共空間・公共の利益・共通の善
人間は自分たちが属する社会を理解し、良い社会を築こうという欲求を持っている。私たちは「公共空間」(public sphere)というものが存在することを信じているし、「公共の利益」(public interest)や「共通の善」(common good)というものの存在をも信じている。さらに人間がすべて平等な存在価値を持っているものであり、世界は自由かつ公平(free and fair)であるべきだと信じている。

人間には「社会を理解し、良くしていこう」という意欲というものが備わっている・・・と考えることはガーディアンにとっての「信念」(faith)であり、「道義上の確信」(moral conviction)と言っている。"faith"とか"moral conviction"は、いわゆる「理屈」とか「本能」の世界ではない。人間の生き方のハナシです。

ジャーナリストは誰に奉仕するのか?
ジャーナリストは自分たちが奉仕しようとしている人びとからの信頼を勝ち得なければならず、自分たちが代表しようとしている社会を反映する存在でなければならない。そのような時代であるにもかかわらず、メディアの世界がますます世の中の「恵まれた階層」(privileged sector of society)の出身者によって占められるようになっている。

2012年に英国政府が行った「社会的流動性」(social mobility)に関する調査によると「ジャーナリズムは他の職業に比べると社会的に閉鎖的な存在になりつつある」(journalism has had a greater shift towards social exclusivity than any other profession)と報告されているのだそうです。

▼むささびがたびたび紹介する職業別信頼度調査でも、ジャーナリストは常に最下位付近をウロウロしている。

「希望」とは?
希望(hope)とは、知らないこと・知り得ないことをも喜んで迎え入れる(embrace of the unknown and the unknowable)ということであり、楽観主義者や悲観主義者が提供する「確かさ」にとって代わるものである。

これはバイナー編集長ではなくアメリカの作家、レベッカ・ソルニットの言葉です。「希望を持つ」ということはうぶな心で現実を否定(naively denying reality)することではない。編集長は「希望」という言葉を「ともに行動して変革する」人間の能力を信ずることであると定義しています。

▼「変革」に関連して、バイナー編集長はアメリカの作家、ジェームズ・ボルドウィンの次の言葉を紹介しています。
  • 直面する現実の全てが変えられるわけではない。が、現実に直面しない限り何も変えることはできない。
    Not everything that is faced can be changed. But nothing can be changed until it is faced.
▼今から55年以上も前の1962年に語ったものです。黒人であるボールドウィンが、自分たちを取り巻く状況を変革しようとすることについて語った言葉です。

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5) どうでも英和辞書
A-Zの総合索引はこちら 

micro-crime:軽犯罪

厳密に言えば違法であることを分かっていながらやってしまった・・・これが軽犯罪ですよね。世論調査機関のYouGovが調べたところ、英国人の7割強が過去において軽犯罪を犯したことがあると告白しているのだそうです。この調査はYouGovが「軽犯罪」の例をいくつか挙げて、それらをやったことがあるかどうかを聞き出しているものなのですが、結果よりもリストアップされた軽犯罪の種類を見る方が微笑ましい気がする。

例えば・・・自分ではできない大工仕事のようなものをプロの大工さんに臨時の仕事としてやってもらった場合、料金を払う際に領収書も請求書も発行しない、いわゆる「現金払い」(paying someone cash-in-hand)にしてもらうケース。相手は収入に伴う税金を払わなくて済むし、請求金額もそれだけ安くなる。でも厳密には違法行為ですよね。英国人の4割強が「やったことある」と言っているのだそうです。ネット上の音声や動画の違法ストリーミングやダウンロードは若年層でほぼ5割がやっている。スーパーで有料(約5円)のビニールバッグを無断で持ち去ったことがある人は17%という具合です。公共交通機関の乗車賃不払い(24%)、年齢詐称(19%)、レストランなどで飲み物を無断でリフィル(16%)などなど。

マクドナルドなどでモノを注文する際に、店内で食べるのか(in)・持ち帰りか(out)と聞かれることがありますよね。"out"にする方が多少安くなる。そう言っておいて、実際には店内で食べる(飲む)・・・こんなのは「許してあげてよ」と言いたくなる。YouGovによると、この種の犯罪は女性よりも男性に多く、労働者階級よりミドルクラスの方が多いのだそうです。

ネット上の音声や動画を違法ダウンロードするのは、若者層は誰でもやっているけれど、60才以上になると6%程度なのだそうです。でしょうね、年寄りにはどうやればそんなことできるのか分からないもんな。
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6) むささびの鳴き声
▼アサド政権が毒ガスを使用・・・納得いきます?いきません、全然。いいですか、2011年から7年、シリアのほぼ全土が政権側に制圧されているのですよ。殆ど勝ったようなものなのですよ、政権側は。それをなぜ今更毒ガスなんか使う必要があるんです?国際的な非難を浴びるだけじゃありませんか。そんなことがアサドに想像できない筈がない。だとしたら自分たちに不利になりかねないことを何故やるんです?彼が極悪非道・人殺し大好き人間だからですか?そんな人間に人口1800万もの国を治めることなんかできますか?2011年に内戦が始まる以前は普通の国だったのですよ。どう考えても納得いかない。

▼アサドによる化学兵器使用について、トランプは「これらのアクションは人間のやることではない。怪物のやる犯罪だ」(These are not the actions of a man; they are crimes of a monster instead)と言っている。トランプの演説原稿はここをクリックすると読むことができます。そんな「怪物」が大統領なんかやれます?ロシアやイランが「怪物」など相手にするんですか?納得いきませんよ、絶対。

▼メイ首相は演説の中で「化学兵器の使用が当たり前になってはならない」(We cannot allow the use of chemical weapons to become normalised)と言っているけれど、それ以外の兵器が当たり前になるのは構わないってことですか?サイモン・ジェンキンズが問うているけれど、毒ガスで民間人を殺すのは残酷だが、ミサイルで何百人も一挙に粉々にしてしまうのは構わないというわけですか?「化学兵器の使用は極めて非人道的であり、わが国として断じて容認することはできません」というのはシンゾーのコメントです。化学兵器ではなくてダイナマイトで殺せば人道的ってこと?シリアがサリンを作るための原料になる化学製品を輸出したのは英国なのだそうですね(BBCのサイト)。

▼今年はあのイラク戦争から15年という年です。9・11テロとは何の関係もないサダム・フセインを極悪人扱いして死刑にしたのがブッシュ、ブレアを始めとする欧米のリーダーと彼らを「熱狂的」に支持した欧米の「世論」だった。ここでは「あの戦争以後イラクや中東は良くなったのか?」という結果論を展開するのは止めましょう。イラクというちゃんとした国に勝手に上り込んで爆撃するという行為そのものが正しかったのか?それをきっちり論じましょう。いま英米仏がシリアでやっているのは、15年前に欧米がイラクでやったことと同じですからね。ちなみにあのころアメリカの国連大使だったジョン・ボルトンは今、トランプの国家安全保障問題担当補佐官です。

▼最初の記事(欧米にできることは何もない)と二番目の記事(交渉以外に解決はない)でジェンキンズとコバーンが言っているのは、化学兵器の使用を非難するのなら、ミサイルを打ち込むことも非難しろということです。が、厳密には「両方とも悪い」論ではない。自分たちの国でもない場所へ勝手に上り込んで爆弾を落とすことをまず止めろと言っているのですよ。でも彼らは止めない。なぜ?「極悪人を許すべきではないから」というのが、ボルトンらのアタマにあることです。自分たちが極悪人に正義の鉄槌を打ち下ろすのであり、それは神が自分たちに与えた権限なのだ、と思い込んでいるということです。

▼こんなこと言い始めると止まらなくなるから止めとこ。我が家の窓から見える丘の緑が本当に美しくなっています。お元気で!

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むささびへの伝言