musasabi journal

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439号 2019/12/22
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BREXIT 美耶子の言い分 美耶子のK9研究 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
クリスマスですね。このむささびの下の方にクリスマス特別盗稿というのを載せました。ご一読を。このところラジオを聴いていると「年末」を謳いあげるような音楽やコメントが頻繁に耳に入ります。大体において「ウキウキ」気分を掻き立てるようなものが多い。「あれをやろう・これもやろう」という類の呼びかけが煩いよね。ラジオだから黙っているわけにいかないのは分かるけれど、幸せ感の押しつけのようなものは止めてもらいたいのよね。「日本人にとってNHKの紅白歌合戦を見ることが幸福」という思い込みコメントもいい加減にして欲しい。というわけで、今年最後のむささびです。

目次

1)スライドショー:むささびの2019年
2)韓国社会とキリスト教
3)フィンランドの新首相
4)英国選挙を振り返る
5)どうでも英和辞書
6)むささびの鳴き声

特別盗稿

1)スライドショー:むささびの2019年


今年のむささびジャーナルはこれが最後です。だからってどうということはないのでありますが、この際、今年1年を表紙で使った写真を見ながら振り返ってみることにしました。一年間お付き合いを頂いたことに、心より感謝いたします。いろいろとありましたが、むささびもミセスむささびも、そして2匹のワンちゃんも、とりあえず生きています。皆さまもお元気で。来年もよろしくお願いします。


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2)韓国社会とキリスト教



11月28日付のThe Economistが "An unholy alliance"(神聖とはいえない同盟)という見出しの記事を載せています。韓国におけるキリスト教の話題なのですが、プロテスタントの「福音派」(evangelicals)と呼ばれるグループが政治権力と結びついて大きな影響力を発揮しているとのことです。このグループのキリスト教徒と韓国のエリート層とのコネクションはかつて独裁政治が盛んであった時代から続いている、と言っている。


キリスト教の「福音派」といえば、アメリカではトランプを熱狂的に支持する保守派のキリスト教徒たちのことですよね。同性婚やLGBTなんてとんでもないし、人間は神が生んだものというわけで、ダーウィンの進化論を子供たちに教えることにも反対というタイプの人たちです。The Economistの記事によると、現代の韓国社会では福音派のキリスト教が非常に大きな力を持ってしまっているとのことで、記事はそのことについてやや批判的なトーンで書かれています。

むささびは韓国へ行ったことがないので、地理的なことは何も知らないのですが、ソウルの江南地区にChurch of Loveという名前の教会があるらしい。いわゆるメガチャーチという感じで、ショッピングモールのような規模と派手派手しさで有名なのだとか。地下にある祈祷ホールは9000人分の椅子が用意されており、日曜日ともなるとこれが満員になる。


このメガチャーチのすぐ近くに最高裁判所があるのですが、裁判所によると、この教会が占有している土地は合法の範囲を超えている。なのにそれが許されているのは、教会が立地している瑞草区という地区の区役所が教会に公的な土地を貸す契約をしてしまった。The Economistによると、その契約自体が違法だったのですが、ある国会議員による圧力で通ってしまった。それが李明博大統領(任期:2008年~2013年)のころに承認されたのですが李大統領はプロテスタントであった、と。


李明博大統領

韓国自体はそれほど宗教の盛んな国ではない。ウィキペディアによると、世論調査では韓国人の半数以上が「無宗教」と答えている点では日本とも似ている。違うのは「宗教を持っている」とする人たちの間におけるキリスト教の存在感です。ほぼ2割が福音派のプロテスタントであると答えており、カソリックを併せると国民の3割がキリスト教徒ということになる。日本の2.3%とは大違いです。The Economistによると、韓国にはプロテスタント関連の組織が約5万5000あり、これはコンビニの数を上回る。しかも世界におけるメガチャーチのトップ100のうち20が韓国にあるのだそうです。


これほどの存在感を有すると、大きなキリスト教会の牧師の支持を得ると選挙結果にも影響することがあるのは当たり前です。さらに自分たちの主義に合わない活動を締め出すこともある。現在の文在寅大統領はカソリックで、常に福音派プロテスタントからの圧力にさらされていると言われている。福音派のキリスト教徒によると「文在寅は国を北朝鮮に売り渡そうとしている」とのことで「悪魔の仕事を企んでいる」と主張している。10月に文政権の法務長官を「汚職」の疑いで辞任に追い込んだのも自分たちの手柄である、と言っている

そもプロテスタントのキリスト教を韓国に広めたのは19世紀、アメリカの宣教師たちだった。が、政治的な影響力を発揮するのは、独裁的な政権が力を発揮し始めてからのこと。例えば1948年から1960年までの12年間、独裁的大統領の座にあった李承晩は、熱心なプロテスタントでクリスマスを国の祝日にまでしてしまうほどだった。朝鮮戦争のころ、北朝鮮の共産主義を悪魔の仕業と決めつけることで、北からの難民にキリスト教に帰依することを勧めた。1960年代から70年代の経済成長期に大統領だった朴正煕氏は、本人が仏教徒であったのにプロテスタント派の教会を増やすことを奨励した。


李承晩(左)、朴正煕(右)の両大統領

The Economistの記事によると、文在寅大統領に反対する福音派プロテスタントたちは、いまでも李承晩や朴正煕はヒーロー扱いしており、強硬発言で知られるJun Kwang-hoonというプロテスタントの牧師は、信者の間ではリーダー扱いされている。その牧師によると、文在寅大統領は北朝鮮との友好を深めようとする人間で「ヒットラーよりも悪い」(worse than Hitler)となる。

尤もThe Economistによるとは福音派のキリスト教徒による反文在寅キャンペーンがどこまで功を奏するかは疑わしい(unlikely to be successful)とも言っている。彼らはキリスト教徒以外の韓国人、特に若年層には受けていない。さらに文在寅大統領を支持する左派系の学生やキリスト教徒が教会を使って集会を開いたりもしている。が、その規模は福音派のメガチャーチなどに比べると余りにも小さいとのことであります。

▼むささびは常日頃から韓国という国を注目しているわけではないので、知識もお粗末なのですが、それにしても国民のほぼ2割が福音派のキリスト教徒というのは全く意識にありませんでした。2か月ほど前に文大統領の閣僚である法務大臣が親族の疑惑を理由に辞任に追い込まれたことがありましたよね。それが福音派のなせる業とは言いませんが、あの事件を支配しているように(むささびが)感じた「集団リンチ」のようなものは大いに気になりましたよね。それとやはり気になるのは、北朝鮮に対する福音派の拒否反応ですね。この人たちがいる限り大統領も動きがとれないのでは?

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3)フィンランドの新首相



フィンランドの新首相に就任したサンナ・マリン(Sanna Marin)という女性が34才で世界一若い首相であるというニュースは日本のメディアでもかなり話題になっていましたよね。

1985年ヘルシンキ生まれ。幼いころに両親が離婚、経済的には全く恵まれない環境で育ったのですが、彼女の家系では初めて大学(タンペレ大学)まで進学した。20才で社会民主党に入党、22才でタンペレ市の市会議員に立候補、最初は落選、5年後に27才のときに再挑戦して当選、そして2015年に30才で国会議員に当選したというわけです。


5党連立の党首は全員30代だそうです

彼女の前任者であるアンティ・リンネ首相(57才)は最近発生している国営郵便局の労働者によるストライキの解決に手こずっている間に連立を組む中央党から不信任案を出されて辞職、社会民主党内の投票で32票対29票の僅差でサンナ・マリンが当選、首相に就任ということになった。彼女が率いる政権は社会民主党を中心にした「中道左派」5党による連立政権です。驚いてしまうのは、社会民主党以外の4党の党首もまた全員が女性で年齢は30代、マリン率いる内閣に中央党から送り込まれている財務大臣などは32才なのだそうです。

フィンランドの議会(200議席)に議席を持っている政党は8つある。最大の勢力は社会民主党の40議席ではあるけれど、力関係では右派のフィンランド人党と殆ど変わらない。いずれにしても一党による単独過半数はほとんどあり得ないので、政策をすり合わせることによる連立政権ということになる。フィンランドは比例代表制の国なので、そのあたりはさしたる支障もなく行える。現在は社会民主・中央・緑・左派同盟・スウェーデン人民の5党(116議席)による「中道左派」(centre-left)の連立政権ということになる。

フィンランドの政党と議席
2015年の選挙結果
議席数 得票率
社会民主党 40 17.7
フィンランド人党 39 17.5
連立党 38 17.0
中央党 31 13.8
緑リーグ 20 11.5
左派同盟 16 8.2
スウェーデン人民党 9 4.5
キリスト教民主党 5 3.9
その他 2 2.9

新首相は、中東などからの移民制限に反対、2035年までに「炭素中立」を達成、NATO加盟にも反対・・・という具合で、社会民主党の左派路線を推進している。個人的にも「自分のような貧困家庭出身者が大学まで行けたのは福祉国家・フィンランドのおかげ」と言い切っている。

が、そうは言っても野党との議席差は32議席しかない。また最近はフィンランド人党(Finns Party)と呼ばれる極右・ポピュリスト政党の躍進が目覚ましく議会第二党にまで成長しているのが気になるところです。

▼フィンランド湾を挟んでヘルシンキから船で約2時間半行くと、対岸のタリンという町に着きます。エストニアの首都です。船にはヘルシンキまで買い物に来たエストニア人もたくさん乗っていて、昔の青函連絡船を思わせる。そのエストニアの極右政党の党首で内務大臣でもある男性(70才)が、ラジオのトーク番組の中でフィンランドの新首相について「最近ではセールスガールが首相になるなんてこともあるんだ」(we see how one sales girl has become a prime minister)などと発言、エストニアの大統領(女性)が謝罪のコメントを発表するまでに至っている。

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4)英国の選挙を振り返る

前号のむささびジャーナルで12月12日の選挙についてのThe Economistの予測を紹介しました。それによると、この選挙は「クリスマス前の悪夢」であるとなっていた。この場合の「悪夢」は、保守・労働両党の過激化が進んで「中庸勢力」がかすんでしまうという意味でもあった。The Economist自身は、中庸勢力の自民党(Lib-Dems)を推薦してはいたけれど、同時に「勝ちっこない」とも言っていましたよね。

 

結果はどうだったか?上の地図は英国の中の北イングランドおよび中部イングランドにおける選挙結果を示しています。左が前回(2017年)、右が今回(2019年)の選挙結果としての勢力図で、赤い点が労働党が勝利した選挙区、青い点が保守党が勝った選挙区を示しています。北イングランドおよび中部イングランドは、昔は炭鉱で栄え、1980年代以後は製造業でそれなりに潤ってきた地域で、政治的には労働党の心臓部(heartlands)と呼ばれるような場所だった。この二つの地図を比べると、今回の選挙で労働党が減り、保守党が増えていることが明らかに分かります。

北イングランドに限らず、英国全土に存在する、ブルーカラーの労働者が支配的とされる100選挙区における獲得議席数の変化を見ると一目瞭然です。労働党が72議席(2017年)から53議席(2019年)とほぼ20議席も失っているのに対して、保守党は2017年には13議席しか取れなかったのが、今回は31議席も。つまりこれまで文句なしに労働党に投票していた労働者が保守党の候補者を支持する側に回ったということです。
 

選挙の翌日(12月13日)のThe Economistは、保守党が北イングランドで決定的な勝利を収めたことを挙げて「英国政治の再編成」(realignment in British politics)と言っている。
  • 金持ちの党が、北イングランドと中部イングランドの労働者階級の票を使って労働党を壊滅させたのだ。 The party of the rich buried Labour under the votes of working-class northerners and Midlanders.
というわけですが、果たしてこの傾向は「今後も続くのか?Will it last?」と問いかけてもいる。
 

 北イングランドにおける得票率アップを狙った保守党が力を入れたのは、庶民の日常生活の向上のための諸政策を提案することだった。例えば「公共投資を増やして雇用を確保する」「犯罪に厳しく対処すべく警察力をさらに充実する」「移民は厳重に規制する」等々です。どこかアメリカのトランプの政策と似ており、リベラルな保守党支持者からは嫌われた。が、北イングランドにおける昔ながらの労働党支持者には受けた。

保守党はまた労働党支持者の中に存在するBREXIT支持者への働きかけにも力を入れ、ボリス・ジョンソンは "Get Brexit done"(Brexitを片づける)のスローガンを繰り返した。英国全体がBREXITをめぐる分裂と対立にウンザリしており、かつてほどにはBREXITに対する拒否反応がなくなっていた。これに輪をかけたのが労働党の態度だった。「自分たちが政権を取った暁には、保守党よりも優れた合意案を取り付けてEUと交渉するだけでなく、あの国民投票をもう一度やるとまで言い切ってしまった。


「EUを離脱することがいいことなのか、悪いことなのか?」という有権者の迷いに対して、ボリスの保守党は「もちろんいいことに決まっている」と断言したのに対して、労働党のコービンが伝えたのは「もう一度国民投票をやって決める」ということだった。余りにも曖昧だった。

今回の選挙では北イングランドの民心を掴むことに成功したボリスですが、The Economistによると、北イングランドの庶民層に受けようとすることの問題点もある。ボリス自身が彼らの考え方に共鳴しているのではなく、便宜上口当たりのいいことを訴えたに過ぎない。保守党が北イングランドの庶民層の支持をつなぎとめるためには、彼らが望むような政策を打ち出し続けなければならない。それが保守党本来の姿勢と合致するのか?ということです。


本来の保守党を支えているのは南イングランドの富裕層(ミドルクラス)であり、彼らがボリスに期待するのはBREXITをやり遂げ、EUのくびきから放たれた「グローバル・ブリテン」の颯爽たる経済活動のはずです。かつての流行り言葉を使うならば「小さな政府」の英国です。そのような独立独歩のビジネスマインドに富んだ階級が喜ぶような政策が北イングランドの労働者階級の支持を得るのか?ということです。彼らが期待するのは、公共投資による職場の創出であり、保健・医療などの点で面倒見のいい政府です。

この選挙でジョンソンの立場は強くなった。保守党内の反ジョンソン(反BREXIT)は姿を消し、新しいジョンソン主義者がこれを埋めている。このところ議会に押されっぱなしだった政府がようやく立場を逆転させた。それはは間違いない。が、
  • ジョンソン首相が憶えておくべきなのは、労働党支持者が保守党に投票したのは、それによって首相に票を貸してあげただけ。本当の意味での政界再編はまだ全く定着はしていないということだ。 But he should remember that the Labour Party’s red wall has only lent him its vote. The political realignment he has pulled off is still far from secure.
とThe Economistは言っています。


▼選挙後、特に反保守党の人間の口から出るのが選挙制度の問題です。小選挙区制(First Past the Post)ではなくて、比例代表制(Proportional Representation)だったらなあ!というわけです。上のグラフは各党の得票率を示しています。EU離脱に賛成である保守党とBrexit党のパーセンテージを足すと45.6%になる。この二つの党以外は、かなりEU離脱には批判的だった。これらの得票率を合計すると50.3%になる。実際の得票数は前者が14,608,774票、後者が16,100,407票というわけです。明らかに反BREXIT票が上回っている。。

▼これだから小選挙区制はダメなんだなどと言うつもりはありません。おそらくどのような選挙制度にしたとしてもそれぞれに問題は出てくるのだろうと想像します。が、この得票数を見ると、ボリスが勝ったと言っても「民意が真っ二つ」という状態に変わりはないことが分かるということです。

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5) どうでも英和辞書
A-Zの総合索引はこちら 

Christmas:クリスマス

世論調査機関のYouGovのアンケート調査によると、英国人の5人に2人がクリスマス・シーズンになると「不安」(anxiety)とか「憂鬱」(depression)な気分になるのだそうです。一番多いのが「普段と変わらない」(There is no difference)の31%であり、「すごく楽しくなる」(very positive)の11%や「かなり楽しくなる」(fairly positive)の27%とあわせると、クリスマス・シーズンは大多数(7割以上)の英国人にとって悲しい季節でないことは間違いない。


が、それでもこの季節に対して否定的な気分でいる人間もいることはいる(26%)。どのような人間がそのように感じるのかというと、失業者(unemployed)、離婚した人(divorced)、連れ合いに死なれて一人になった人(widowed)などで、どれも自然な現象です。ちょっと変わっているのは「子供と同居している夫婦」(parents with kids living at home)の23%が否定的な気分でいるということです。煩わしいってことですかね。年寄りに限って「クリスマスには何も感じない」(makes no difference)というのが多い。

イングランド銀行のサイトによると、典型的な英国家庭の一か月の支出は2500ポンドなのですが、クリスマスシーズンでは800ポンド余計に使ってしまうのだそうです。為替レートで円に換算すると2500ポンド=約36万円、800ポンド=11万円ということになるけれど、むささびが記憶している金銭感覚によると、それぞれ25万円、8万円という感じです。いずれにしても結構使うものですね!

そういえば、英国ではクリスマス・シーズンになると「クリスマスにペットを贈るのは止めよう」(No pets for Christmas) というコマーシャルのようなものが流れるのだそうですね。英国でも子どもたちにクリスマス・ギフトとしてペットをせがまれることが多い。動物愛護団体がこれを奨励できないとしている理由として「子どもたちが飽きっぽくて世話をまともにしなくなる」「親自身が責任をもって飼う姿勢になっていないことが多い」「急いで決めてしまって後悔するケースが多い」などが挙げられています。
 
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6)むささびの鳴き声 
▼このむささびの俳句の下に載せた「特別盗稿」は、北九州の牧師さんによる人間論のようなものです。俳句も特別盗稿も、物事をありのままに受け入れようという姿勢があります。その姿勢を貫こうとすると、どうしても「ゆっくり志向」になる。トランプやボリスらとは正反対の思考態度です。

▼4つめの英国の選挙に関する記事。とにかくこれで英国がEUを去ることはほぼはっきりしたわけですが、その後の英国がどうなるのか?最大のポイントは、英国人が「独立・独歩の英国」というボリスらが掲げる旗の下に「希望」のようなものを見出して国民的団結のようなものを維持できるのか?ということですよね。むささびはもちろん悲観的です。BREXITを熱狂的に支持した北イングランドの労働者階級の意識は「ロンドンのインテリ野郎たちが気に入らねえ」という憎しみの感覚でしかない。とても前向きの将来性のようなものは感じられないということです。

▼それにしても、労働党はなぜかくもEUに対して懐疑的なんですかね?これが分からない。労働党は昔からこうなのですよね。1973年にEEC加盟したときも党としては反対で、その理由は加盟すると英国の労働者の生活に響くというような趣旨のものだった。コービンが労働党左派に属する熱心な社会主義者であったとしても、EU加盟国内の社会主義政党と連携しようという気持ちは全く起こらなかったということ?「一国主義」ってこと?そのあたりの説明がGuardianのような労働党寄りとされる新聞でもいまいち掲載されていなかった(と思います)。

▼性暴力被害にあったジャーナリストの伊藤詩織さんのことについて、12月19日付の東京新聞のサイトに出ていた「見える光景、前と違う」という記事を読みました。その中に出ていた印象に残る言葉をいくつか紹介します。まず伊藤さん本人の「刑事事件として明らかにできなかったことを、この民事訴訟で公にできた」という言葉。記事によると、この伊藤さんの行為を東京地裁が「公益」のためと評価した、と。この訴訟が伊藤さん自身による民事訴訟のお陰で単なる個人的な出来事の域を超えたものになったということですよね。

▼(東京新聞の記事とは関係ありませんが)この事件の「加害者」とされている元TBS政治記者の山口敬之氏には『総理』という著書がある。それによると、彼は安倍首相とはツーカーの間柄で、自分が書き上げたばかりの演説草稿を、公表前に「ちょっと聞いてみてよ」と言って、首相が山口氏の前で読み上げたこともあるのだそうです。この人はTBS記者だったころに社長賞や報道局長賞などを39回ももらっているとのことです。ここをクリックすると「永田町を震撼させた一冊」について詳しく読むことができます。表紙を飾って?いるシンゾーの写真が、この著者と彼の親密さを示しています。幻冬舎文庫で、594円だそうであります。

▼(東京新聞の記事に話を戻すと)伊藤さんが勝訴の会見をしている頃に山口氏の方も会見をやっているのですが、そこで彼が強調したのは「法に触れる行為を一切していない」と「犯罪行為はない」ということだった。本人は何とも思っていないのでしょうが、レイプ行為を非難されたのに対して「法には触れていない」とか「犯罪行為はない」と言う言葉でしか反論できないということ?「政治記者」というのはそういう存在だってこと?控訴の意向を示した山口氏に対する伊藤さんのメッセージは「自分に向き合っていただきたい」だった。

▼この件について外国特派員協会が12月18日に山口氏を、同19日に伊藤さんを呼んで記者会見をやっているようですね。二人とも日本記者クラブでは何も語っていない?この「事件」についてのネット上のコメントの類を眼にすると心底寒々とします。冬の寒さはいずれ消えてくれるけれど、人間の「知」の部分が作り出す寒さは消えないもんな。とにかく、来年もよろしくお願いします。

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むささびジャーナル特別盗稿
下のエッセイは筆者に断りなく、Facebookからむささびが勝手に掲載するものです。むささびの読者には是非ご一読願いたい文章であるということが理由です。なぜ無断掲載なのか?それはむささびが筆者のことを個人的には全く存じ上げないから。どなたか奥田牧師をご存知の方がおいででしたら、是非この無断掲載について彼に告げ口してください。盗稿についてむささびから直接謝罪させてもらいます。

奥田 知志
東八幡キリスト教会 牧師
NPO法人抱樸 理事長

「ダメだけど、そんなこともある―クリスマスの街角で」

大阪の釜ヶ崎は、僕にとっては「原点」のような町。18歳で大学に入り初めての独り暮らしが始まった。親元を離れて「自由になった」という解放感もあったが、それ以上に「孤独」が僕を試みた。そんな時に出会ったのが釜ヶ崎だった。ここで人の限界と温もりを知った。日本最大の寄せ場、日雇労働者の町。80年代の釜ヶ崎は、活気にあふれていた一方で路上には多くの人々が寝ておられた。

時折「社会勉強」と称して日雇い仕事にも行った。しかし、所詮「もぐりの学生」に過ぎず、現場では全然役に立たなかった。スコップの使い方ひとつわからない。「学生!邪魔だ、あっちに行ってろ!」。おやじさんに怒鳴られる。「土方のプロ」は違う。丸いスコップで四角い穴が掘れる。僕には全くできなかった。仕事が終わり帰りの車の中で、さっき怒鳴られたおやじさん(その現場の班長)から日当をもらう。「学生、お前全然ダメだけど、また来いよ」と声がかかる。この一言で救われた気がした。

先日、釜ヶ崎で会議があった。コピーをするためにコンビニに入った。僕のすぐ後に少々お酒の匂いがするおやじさんがフラフラと店内に入ってきた。なんと、レジ前あたりで「ペッ」と口の中のものを吐いた。店は大混乱。「何すんねん!おじさんアカンがな、そんなことしたら!!」。店員一同レジから飛び出しおやじさんを囲み始めた。どうなるんだろうか。割って入ろうかと思案していると、ひとりの店員は実に手際よく(慣れている?)床を掃除し始めた。店長らしい人は、そのおやじさんの腕を抱えながら買い物を手伝っている。そして、会計を済ませたおやじさんは店長に「おっちゃんアカンでほんまに、おおきに」と見送られた。「アハハ」と笑い片手を上げて店を後にするおやじさん。なんだか、胸が熱くなった。懐かしい感じがした。

「ダメ」なことを「いい」とは言えない。「アカン」ことは「アカン」。でも、ダメだけど「そんなこともある」のが人間。釜ヶ崎には、そんな人間の弱さ(現実)がどこか共有されているような「空気」が残っている。それは「あきらめ」に近いかも知れない。自分をも含め人間に対する「あきらめ―そんなこともある」がまず供給される。社会には、そんな空気が必要だと思う。

クリスマスは、救い主がこの世に来られた日。それは、僕らが「いい子」だったからで決してない。「ダメでアカン存在」であることを承知で救い主は来る。「そんなこともある、が、もうするな」と言うために救い主は来た。それは確かに「あきらめ」ではあるが、その受容がなければ、人は新しい一歩を踏み出せない。

「ダメだけど、そんなこともある。だから生きろ。もうするな」。今年もクリスマスを迎える。

ちなみにここをクリックすると、奥田さんの書いたものを読むことができます。