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吉田調書:門田隆将さんの朝日新聞批判:その@
「命令違反」の真相
2014年6月7日 

むささびジャーナル294号で、朝日新聞が特ダネとして報道した吉田調書の件について、他紙が無視しているとしか思えないのは不健全だという趣旨の記事を掲載しています。この記事の場合は、吉田調書の中身について検討したわけではないし、朝日新聞の報道そのものついて何か言ったわけでもない。朝日新聞の報道に対する他のメディアの姿勢のようなものについて文句を言ったにすぎません。

が、門田隆将という人が書いた
という記事を読んで、朝日新聞による報道そのものが間違っていると考えている人もいることがわかりました。彼の主張の詳細は皆さま自身で彼の記事(ちょっと長い!)をお読みになれば一応はお分かりになると思います。朝日新聞のサイトに掲載された「吉田調書」と門田さんの「お粗末な朝日新聞」論の両方をむささびなりに読んでみました。

まずはむささびが見た5月20日付朝日新聞第一面の見出しは次のようになっています。
  • 原発 命令違反し9割撤退
    福島第一所員 震災4日後
    政府事故調の「吉田調書」入手
これを読むと、福島原発で事故処理に当たっていた所員の90%が、本来やってはいけない「命令違反」を犯していた・・・としかとれませんよね。「命令に背いた所員はけしからん」と言っているようにもとれる。門田さんは
  • 私は吉田さんの生前、ジャーナリストとして唯一、直接、長時間にわたってインタビューをさせてもらっている。
と言っている。数あるメディア関係者の中でも自分ほど吉田氏らの苦闘を知っている人間は(皆無ではないにしても)極めて少ないはずだ、と言っているようにも見えますね。その彼が朝日新聞が掲載している「吉田調書」の中でも最も重要な部分として紹介しているのが下記の吉田さんの語りです。ここでいう2Fというのは「福島第二原発」のこと。第一原発から10キロほど南へ行ったところにある。「1F」は第一原発のことです。

吉田所長

本当は私、2Fに行けと言っていないんですよ。ここがまた伝言ゲームのあれのところで、行くとしたら2Fかという話をやっていて、退避をして、車を用意してという話をしたら、伝言した人間は、運転手に、福島第二に行けという指示をしたんです。私は、福島第一の近辺で、所内に関わらず、線量の低いようなところに一回退避して次の指示を待てと言ったつもりなんですが、2Fに行ってしまいましたと言うんで、しようがないなと。2Fに着いた後、連絡をして、まずGMクラスは帰って来てくれという話をして、まずはGMから帰ってきてということになったわけです。
調査官 そうなんですか。そうすると、所長の頭の中では、1F周辺の線量の低いところで、例えば、バスならバスの中で。
吉田所長 いま、2号機があって、2号機が一番危ないわけですね。放射能というか、放射線量。免震重要棟はその近くですから、ここから外れて、南側でも北側でも、線量が落ち着いているところで一回退避してくれというつもりで言ったんですが、確かに考えてみれば、みんな全面マスクしているわけです。それで何時間も退避していて、死んでしまうよねとなって、よく考えれば2Fに行った方がはるかに正しいと思ったわけです。いずれにしても2Fに行って、面を外してあれしたんだと思うんです。マスク外して。

この語り言葉をむささび流に「翻訳」すると、吉田さんとしては所員たちに「第二原発へ行け」などと言ったつもりではなく、第一原発の中でも放射能の線量が低いところへ一時的に退避しろと言ったつもりだった。しかし現場の混乱もあって、吉田さんのメッセージを「伝言ゲーム」のようにパスしていく間に誤解が生じてか、(あるいは所員の誰かが意図的にか)運転手に「第二原発へ行ってくれ」という指示を出してしまった・・・ということになる。そして第一原発にいた所員の9割にあたる約650人が第二原発へ向かってしまった。

ただ、「全面マスク」状態で第一原発の構内で何時間も「退避」などしていたら、それこそ死んでしまったかもしれない・・・ということを考えると、結果的には自分の「指示」と異なる行動(第二原発へ向かうという行動)をとったことは正解だったのではないかとも考えた、と吉田所長は証言しているわけですよね。吉田さんは昨年亡くなっているのですが、今も生きていたとしたら朝日新聞の記事にある「第一原発にいた所員の9割にあたる約650人が吉田氏の待機命令に違反し、10キロ南の福島第二原発へ撤退していた」という文章はどのように見るのだろう?「おれの言うことなど聞かずによくぞ第二原発へ行ってくれたものだ、ありがとう」と言うかもしれない。それくらい現場も所長のアタマの中も混乱していたということなのでしょうね。

門田さんはどのように言っているのか?
  • 吉田所長は「2F」、すなわち福島第二に「行ってはいけない」とは全く言っていない。むしろ、その方がよかった、と述べている。
確かに吉田さんは「第二へは行くな」とは言っていないし、結果論としては「それでよかったんだ」という趣旨のことを証言している。その意味では門田さんの言うことは当たっている。門田さんはさらに、
  • これのどこが「吉田所長の命令に違反して、現場から退避した」ことになるのだろうか。サプチャンが破壊されたかもしれない場面で、逆に、総務、人事、広報、あるいは女性職員など、多くの“非戦闘員”たちを免震重要棟以外の福島第一の所内の別の場所に「行け」と命令したのだとしたら、その方が私は驚愕する。
と言っている。吉田さんは「福島第一の近辺で、所内に関わらず、線量の低いようなところに一回退避して次の指示を待てと言ったつもり」だったのですよね。門田さんは「驚愕する」かもしれないけれど、現場で指揮を執っていた吉田さんのアタマの中はそうだった。それくらい現場の状況は混乱していたのであり、門田さんの「驚愕」は部外者の結果論というものなのではないか?というのがむささびの考えるところです。

では第一面の見出しで「命令違反し9割撤退」と太い文字でうたった朝日新聞はこのあたりのことについてどのように書いているのか?
  • 吉田は部下が福島第二原発に行く方が正しいと思ったことに一定の理解を示すが、放射線量の推移、2号機の白煙やゆげの出現状況とを重ね合わせると、所員が大挙して所長の命令に反して福島第二原発に撤退し、ほとんど作業という作業ができなかったときに、福島第一原発に本当の危機的事象が起きた可能性がある。
「所員が大挙して所長の命令に反して・・・」という表現だと、まるで皆が一致団結して吉田さんの制止も聞かずに「第二」へ行ってしまったというように響きません?それとこの文章だと、たとえ「全面マスク」状態のままで第一原発内で退避していて命を落とす可能性があったとしても、全員が第一原発に残るべきであったと朝日新聞が考えているとも読めてしまう。要するに東電の人たちが怠慢であったと責めている。
  • 東電によると、福島第二原発に退いた所員が戻ってくるのはお昼ごろになってからだという。吉田を含む69人が逃げなかったというのは事実だとして、4基同時の多重災害にその69人でどこまできちんと対応できたのだろうか。政府事故調も東電もほとんど情報を出さないため不明だ。
と言っています。「たった69人で何ができたというのか」と非難しているわけです。

このように見ていくと、少なくともこの部分に関する限り、朝日新聞は、皆が第二原発へ行っていなければ事故の拡大は防げたはずだという、あまり意味のない「結果論」
(should-have-done / could-have-done)を振りかざしているように見えてしまう。その意味で、門田さんの朝日新聞批判は当たっている(とむささびは思う)。

▼門田さんは、さらに吉田調書の公表についても自分の意見を述べています。それについては別に書かせてもらいます。ここをクリック。

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