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美耶子の言い分 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
第35号 2004年6月13日
むささびジャーナルの35号をお届けします。毎度ながらお邪魔します。人間いつかは死ぬ・・・と分かっていても、死んでもらいたくない人がいなくなると寂しいですね。私にとって最近の例はレイ・チャールズ(悪いけどロナルド・レーガンではない)。皆様の中に彼の生のステージをご覧になった方はいますか?私は3度見ました。そのうちの2度については「エンターテイメントとはこういうものなのか」と感じ入ってしまった。早いものですね、もう今年も半分が過ぎようとしている。本日の関東地方は梅雨の晴れ間の日曜日でありました。

目次

@地方選挙で労働党が大敗北
A新聞のタブロイド化
Bマスター由の<シリーズ「カウンセラーへの道」>
C外交には哲学を持とう:猪口邦子教授の話
D短信:
E編集後記


1)地方選挙で労働党が大敗北

木曜日に行われた英国の地方選挙で労働党が大敗北を喫してしまいました。「地方選挙」ですから地方の議会議員を選ぶ選挙で、今年が議員選挙にあたる町とそうでない町があるのですが、今年選挙があったのは166議会、そのうち165議会における主要3政党の選挙結果は次のとおりです。

  • 保守党:335議席増(56減)・総議席数1675
    労働党:84議席増(560減)・総議席数2197
    自民党:243議席増(111減)・総議席数1254
地方議会における総議席数ではまだ労働党がトップなのですが、保守党と自民党がかなり議席を増やしたのに労働党はたったの84議席しか増えておらず、減らした数の560というのは画期的ともいえる敗北です。さらに保守党が多数を占める議会が13増えて51になったのに対して労働党が支配する議会は差引き8つ減って39議会(自民党は9議会を支配)となっています。BBCによると政権政党が地方議会の選挙で最下位の結果を得たのは歴史上初めてのことだそうです。

労働党が何故かくも決定的に敗北したのかというと、言うまでもなく「イラク」です。それまで労働党に投票していた人が、ブレアのイラク戦争参加に反対して、主に自民党に流れたのではないかとされています。そうなるとこの政策を先頭に立って推進したブレアに対する労働党内(元々イラク戦争反対の意見が強い)からの反発が強くなることが予想されています。ただ直ぐにブレアを辞めさせようという動きになるわけではない、というのがBBCの政治記者の見解でそれを裏打ちするように有力な労働党議員で環境大臣のマーガレット・ベケットは「確かに国民の間にはイラクを巡っての不満は大きいが、トニー・ブレアは労働党の指導者として素晴しい仕事をしており総選挙も彼の指導の下で戦うことになるだろう」とコメントしています。

今回の地方選挙でもう一つ注目されたのがロンドンの市長選挙。ご存知の向きも多いと思いますが、日本やアメリカと違って英国では地方の首長が住民の直接選挙で選ばれるということが殆どないのです。例外がロンドンで、2000年から直接選挙制を取り入れた。初代の選挙で選ばれたロンドン市長になったのが、ケン・リビンストンという人で、今回が2期目をかけての選挙だったのですが無事当選しました。

リビンストン氏は今でこそ労働党に復帰していますが、2000年当座はブレアらの右より労働党から嫌われて、無所属で立候補して当選してしまったという人気者です。どちらかというと労働党左派の考え方をする人で、イラク戦争反対はもちろんのこと、常日頃からどちらかというと保守党的な政策を推進するブレア首相には極めて批判的な人です。昨年、イラク戦争に反対して「ブッシュは人類に対する脅威である」(the greatest threat to life on this planet that we’ve most probably seen)という発言をして問題になった人です。

この人が勝ったということは、ロンドン市議会が労働党の支配化にあると言う意味でもあるのですが、イラクが絡むと、これが直ぐにブレア承認ということにはならないのが、首相にとっては苦しいところです。


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2)新聞のタブロイド化
新聞のサイズでタブロイド版というのがあるのはご存知ですよね。朝日・毎日・読売のような大きな新聞の半分のサイズのもので、日本での代表的なものとしては夕刊フジとか日刊ゲンダイなどがある。英国でいうとSunとかMirrorのような「大衆紙」(popular paper)と呼ばれる新聞がタブロイドで、Times, Guardian, Telegraphなど、いわゆる「高級紙」(quality paper)と呼ばれる新聞はいずれも大判の新聞(broad sheet)であったわけです。

それが最近になってちょっと様変わりしていて、英国ではTimesやIndependent、ドイツではDie Welt、アメリカではChicago Tribuneのような、それまで高級とされてきた新聞がタブロイド化する傾向にあるようなのです。殆どの場合、大判も残しながらタブロイド判も出すという二股なのですが、英国のIndependentなどは従来の大判を全てやめてタブロイドになってしまった。The Economistによると世界の主要新聞約30紙がタブロイド化に移行したか、これを検討しているのだそうです。

実際Independentの場合、小さい判になってから15%も売り上げが伸びているというのだから全面的な移行も当然でしょうね。 何故、タブロイド化するのかというと(当り前ですが)その方が売れるからです。では何故売れるのかというと、若い人たちに受ける・駅売りが売れやすい(電車の中で読みやすい)ということ。英国の場合、Independentはもともとどちらかというと若い層に人気があったけれど発行部数はイチバン小さいものだった。これがTimesあたりになると、お年寄りの読者もかなりいて、これを無視するわけにいかないというので、大判とタブロイドの両方を発行したりしている。

大判を出してきた新聞が、若年層に受けるとわかっていても全面的なタブロイド化に踏み切れない一つの理由が広告収入だそうです。大判に比べて半分のスペースなんだから、当然広告料金も少なくしないと広告主が納得しない。広告収入が少ないとなると、販売収入にあげなければならない。そのためには発行部数を増やさなければ・・・というわけですが、Independentのように22万部という小さな部数でやってきたところは比較的気軽・身軽に変われるTimesは65万部、Telegraphは90万部以上ともなると、なかなか気軽に変えるわけにはいかないということですね。

ただいずれにしても、世界的な傾向として、部数が伸びない新聞業界がこれからの読者である若者を狙ってタブロイド化の方向に動いていることは事実のようです。タブロイドといえば、セックスとスキャンダルのことしか載せない「はきだめ新聞」(gutter press)などと悪口を叩かれてきたものですが、最近では必ずしもサイズでは判断できないことになっているわけです。

では日本でも同じようなことが起きるのかというと、そうはならないと思います。これは私の考えに過ぎないので、それほど当てにはならないかもしれないけれど、日本の普通の新聞は殆どが宅配されていて、駅売りの割合は英国の新聞よりもはるかに低い。そうなるとタブロイド版にしてみても余り変わらない、どころか却って嫌われたりすることになるかもしれない。

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3)マスター由の<シリーズ「カウンセリング心理学者への道」>
前回の掲載で「次回は予備試験について書きます」とお伝えしましたが、あれからちょっと考えたところ、予備試験について述べる前にもう一つの「ハードル」について書いた方が全体的に流れが良くなる、と思い予定を変更させて頂くことにしました。もし皆さんの中に「予備試験について知りたくてうずうずしていた」という方がいたならば、この場を借りてお詫び申し上げます。予備試験については次号で紹介します。

ハードルその2:カウンセリング実習

カウンセリング心理学の博士課程というのは、他の分野のプログラムに比べると職業訓練的な色が濃い、と言えると思います。博士課程の大学院生というと、だいたい4年かまたはそれ以上を自分の研究、あるいは大学で教えることに費やすというイメージがありがちですが、カウンセリング心理学の場合そういった学術的な要素もさることながら、実際に心理カウンセラーとしての職業訓練も重要視されます。

だいたいどの博士課程プログラムでも、前回述べた「コースワーク」の他に、カウンセリングの実習を受けることが義務付けられています。 この実習は、コースワークで得た知識を実際に生かす機会として重要視されています。僕の所属するプログラムの学生は、カウンセリング実習は大学のカウンセリングセンターで受けます。カウンセリングセンターというのは、学生あるいは大学職員が心理カウンセリングを受けるための施設です。

カウンセリングセンターでの実習は、プログラムの2年目から始まり、コースワークを終えるまでの2、3年間ずっと続けることになっています。カウンセリング実習の内容は、実際に学生を相手にカウンセリングをすること、心理テストを実施、分析すること、あるいはカウンセリングセンターが実施しているいろいろなワークショップを手伝うことなどがあります。また実習中は、週1回、割り当てられた監督者(たいていカウンセリングセンターにいるプロのカウンセラー)との個別面談、およびグループでのケースディスカッションをすることになっています。

実習1年目は、だいたい4−5人のクライアントを受け持つことになっています。 また相談内容も、1年目はあまり複雑でないもの(例えば軽いうつ病や不安、恋愛相談など)を任せられます。2年目からは、受け持つクライアントの人数を増やされるだけでなく、相談内容もより複雑、多様化します。例えば自殺願望のある学生、あるいはちょっとした行動障害の疑いのある学生など。さらに個別カウンセリングだけでなく、カップルのカウンセリングを任せられるのも大体2年目からです。

ちなみに僕は、カウンセリングセンターでの実習は2年前から始めました。僕がこれまで行ってきたカウンセリングの時間数を先日計算してみたところ、この2年間で約250時間、人数にして70人近くの学生のカウンセリングをしてきたことが分かりました。250時間人の悩みを聞き続けた(それも英語で)というのは、読者の皆さんからすればかなり苦痛なことに聞こえるかもしれませんが、僕にしてみれば、これまで70人の学生のために何か役に立ってあげることができたというのは、何となくうれしいというか、感慨深いものがあります。


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4)外交には哲学を持とう・・・
日本記者クラブというところで仕事をさせてもらっていると、非常に知的な刺激になる人のお話を聞くことができるのが役得です。最近の例でいうと、猪口邦子・上智大学教授の話があります。彼女はごく最近まで、日本の政府の代表として国連軍縮大使という仕事をやっていた。要するに軍縮のことについて国連と言う場で各国と交渉をして、いろいろと決めるということをやってきた。

彼女の話は面白い点がいろいろあったけれど、それを全部書くだけのエネルギーは今はないので一つだけ報告します。それは日本の国連常任理事国入りの話です。常任理事国というと今のところ米・英・仏・ロシア・中国の5カ国がそのメンバーになっていることはご存知のとおりです。第二次世界大戦の勝者がなっているわけですが、このメンバーになっているとイラク戦争だの環境問題だのについて、日本も主要国と対等にやっていけるということで、日本も国連常任理事国入りするべきだという人が多い。

猪口教授はこの点について、ジュネーブにおける国連軍縮大使としての経験から「日本も国際的な紛争で積極的な軍事的貢献をすべし・・・」とか「日本は国連に対する世界第二の資金提供国だから」という理由で常任理事国になるのだ、と主張してもダメだと言っていました。軍事的貢献なんてもっと大きな貢献をしている国があるから何のとりえにもならない。世界第二の資金提供国云々は「金出してんだから発言権を・・・」ということで、あたかも国連を金で買うという印象で誠によくないのだそうです。

では何がポイントになるのかというと(唯一の被爆国であり平和憲法も持っている)日本が軍縮の面での先進国になりうるし、そのつもりである・・・という「哲学」をしっかり主張することなのだそうです。そうすることで皆が日本の言うことに耳を傾けることになるのだそうです。私、猪口さんの話を聞いていて、個人レベルでも分かるような気がしました。

私の勝手な解釈によるならば「哲学を語る」ということは、相手が誰であれ自分をちゃんと語るということだし、対等に付き合うということでもあります。「日本人」である前に「人間」であるということです。これ、結構大切なことだと思いますね。「アメリカに頼らなければ日本は生きていけない・・・」「アメリカなんかに頼らなくても・・・」という卑屈か傲慢かという極端な(従って殆ど現実的でない)姿勢では相手だって付き合いにくいはずです。

「日本は外交という場所で、殆ど自分を(つまり自分の哲学のようなものを)語らずに”無口な働き者”という役回りを喜んで演じてきたけれど、多分それではもう続かない」といのが猪口教授のメッセージであると私は解釈しました。

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5)短信

ピザの定義 

英国のPA通信が伝えるところによると、イタリア農務省がピザの定義をはっきりさせるための規則作りをやろうとしているのだそうです。背景には最近のイタリアで増えている「ピザまがい(pizza pirate)」を取り締まろうという意図がある。農務省が検討中の規則によるならば、ピザがピザと呼ばれるためには、@ヘリが1-2cmで中心部の厚さが3ミリ以上であること、A直径は35センチを超えてはならない、B450℃の温度で焼かなければならない・・・の3点がクリアされていなければならないのだそうです。 なるほど・・・私、比較的ピザが好きなのでありますが、やたらと薄いピザがありますね。あれ、どうも好きになれない。ピザはピザらしくぼってりしろよ、と言いたくなる。

ラザーニャ・ブーム 

もう一つイタリアの食べ物の話題。今度はラザーニャが英国でも一番人気の食べ物になりつつあるのだとか。かつてのトップはインド料理のティカマサラを抜いてしまった。英国のスーパーの大手、セインズベリーによると昨年1年間で売れた出来合い惣菜としてのラザーニャの数は1390万切れだった。第2位はかなり差をつけられてチキンティカマサラで740万食。同じくスーパーのテスコの数字ではラザーニャが980万、ティカマサラは630万となっています。何故ティカマサラが負けたのかというと、最近販売されたものの中に染料が入っているものがあるという警告がなされてから人気ガタ落ちになった、ということもあるけれど、トマトとオリーブオイルを使っているラザーニャは「地中海風の健康食」というイメージで得しているらしい。 ラザーニャ、嫌いではない。けど・・・とても健康食とは思えない。

鉄道職員のボイス訓練 

ミドランド・メインラインという英国の鉄道会社がスタッフ73人の特別「声だし訓練」を行っています。と言っても自社内ではなくて外部のプロのアナウンサーに仕込んでもらうもので、一番大切なのは「はっきりとアナウンスすること」なのだそうです。「特にプラットフォームにおけるアナウンスは、明確に発音することで乗客を効果的に誘導することができるようになる」のだとか。「こうすれば乗客がホームで迷って、電車の遅れの原因になることもなくなる」と同社では言っています。 最近、東京の地下鉄でも車内で英語のアナウンスをするところが出てきたのを知ってます?ただこれが(私には)結構聞き取りにくいんです。「次はXX・・・丸の内線は乗り換えです」という意味の「Please here for the Marunouchi line」は何度聞いてもPlease change your board for Marunouchi・・・としか聞こえなかったのであります。


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6)編集後記
●英国の地方選挙の結果について、結構いい成績を収めた自民党(といっても英国の自民党です、Liberal Democrats略してLibDem)のケネディ党首は「英国は三大政党の時代なのだということをマスコミは知るべきだ」といっています。日本では小沢一郎さんあたりが、何かというと「二大政党」を金科玉条のようにたてまつり、その例として「議会制民主主義の本場」英国を見習えというような言い方をしていませんか?●前文に書いたレイ・チャールズのほかにもう一人「お金を払ってもみてよかった」と思わせてくれたエンタテイナーは、デューク・エリントンというジャズのビッグバンド。レイ・チャールズは音楽の楽しさに、エリントン・バンドは音の美しさに感じ入ってしまった。もう30年以上も前のこと。もう一人、桂文治(昔の伸治)という噺家もよかった・・・いずれも年寄りのノスタルジアです。お付き合い頂き有難うございました。

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