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美耶子の言い分 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
第37号 2004年7月11日
酷暑の毎日、むささびジャーナル第37号をお送りします。余計に暑くなってしまうかもしれませんが。先日、ついに蜩(ひぐらし)の声を聞きました。本当に日本の季節の移り変わりは素晴しいですね。今回掲載したBBCのマニフェストはメチャクチャ長いものなのですが「パブリック」という言葉が非常に気になりました。確かアメリカにはPublic Broadcasting System (PBS)という放送局があったと思うのですが、あれはいわゆる「国営放送」(視聴者から殆ど税金のようにお金をとる)ではないですよね。

目次

@BBCのマニフェスト
A英国内の「南北格差」
B王室の人気
Cマスター由の<シリーズ「カウンセリング心理学者への道」>
D短信
E編集後記


1)BBCのマニフェスト

ブレア政府のイラク政策に関連して、BBC放送と政府が対立、ハットン報告なるものが行われてBBCが負けたということになったのはいつごろでしたっけ?あのことで経営陣が入れ替わったのですが、このほどその新しい指導者らが作ったBBCの将来ビジョンを示す「マニフェスト」が発表されました。マニフェストというのはとにかく奇麗事の羅列なのだ、私のような門外漢は違和感を覚えますよね。

デジタル技術による教育番組の充実や地方局の充実などいろいろなビジョンが語られていますが、一番のポイントはPublic Value Testなるものの強化にあるそうです。民間放送にはできないサービスを提供しているかどうかをテストする制度を強化しようというもので、例えば現在のBBCのウェブサイトにはこのテストに合格しないレベルの部分もあるとのことです。Public Valueって何?そもそもPublicって何なの?Public(公共)とState(国家)の違いって何?などなど気になる部分です。

マニフェストは「放送はcivic art(公民的芸術)である」として次のように述べています。
  • Broadcasting is a civic art. It is intrinsically public in ambition and effect. We may experience it individually, but it is never a purely private transaction. To turn on a TV or radio is to enter a communal space and to be constantly aware of and influenced by that fact.
「テレビを見る・ラジオを聴くという行為は一人一人の体験ではあるがプライベート(個人的)というのとは違う。一種のコミュニティ空間のような部分に入り込むことを言う」という意味なのだろうと思いますが・・・。 BBCマニフェストのフルテキストはBBCマニフェストをクリックすると到達できるようになっています。

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2)英国内の「南北格差」
「南北格差」というと世界的な規模の富の分配関係のようですが、これが英国にもあるというのはご存知ですか?昔からスコットランドはどちらかというと労働党の天下であったし、北イングランドは労働者の地域で、南はお金持ちのそれ・・・ということは言われていました。最近シェフィールド(この町自体が北イングランドにある労働者の町と言われていた)大学の調査によるとこれがますます顕著になっているとのことです。

1991年から2001年までの10年間の移り変わりをまとめてこれを地図にするという企画を行ったもので、例えばこの10年間で一番職場を生んだのがロンドンにベースを置く金融関連企業で170万もの職場を生んでいる。それに対してこれまで「北」を中心にしてきた熟練労働者(skilled trade workers)と呼ばれる人々の職場は50万件も減ってしまったとされている。 また北の大都市では人口が減っており、例えばマンチェスターは10%、リバプールで8%、バーミンガムの場合は3%という人口減の傾向を示しています。それに比べてロンドンでは、人口に占める大卒の割合が91年当時は16%であったのが2001年にはこれが20%へと増えている。つまり若い人々の人口が増えているということです。

この調査を行ったドーリング教授によると、英国では人口が北から南へ移動する傾向は100年前くらいからあったそうで、北の町は産業誘致・都市の再開発などの対策を進めてはいるのですが、傾向としては南への移動は止まっておらず「よほど劇的なことが起こらない限り今後も続くだろう」と言っています。

教授によると、南イングランドを見るとロンドンを中心とした大都市圏(メトロポリス)の繁栄があり、北西を見るといろいろな町が「村列島」(archipelago of the provinces)という観をなして並んでいる。「英国はますます分断された都市国家のような様相を呈していくことになる」というのが教授の見通し。

尤も大都市ロンドンには金持ちもいるけれど貧困もまた他よりも目だって存在しているようで、英国内で最も貧しいのはロンドンにあるHackney、Tower Hamletsという地区だそうで、一番の富裕地区はハンプシャーにあるHartというところとSouth Buckinghamshireというところなのだそうです。

またロンドン以外の大都市で一番貧困層が多いのがスコットランドのグラズゴーで41%。また英国中で一番歯医者が少ないのはウェールズにあるGwent & Merthyr Tydfil(発音が分かりません!)で人口9370人に歯医者一人だそうです。



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3)王室の人気
最近、皇太子殿下が記者会見で「雅子は疲れきっている・・・」という発言をして大いに話題になりました。日本で皇室のことが話題になると必ず引き合いに出されるのが英国の王室です。そして大体においては英国の王室は開かれているのに、日本のそれは・・・というコメントが為されたりする。

それはともかく、英国を共和国にしようという活動を続けている団体(Marylebone Charitable Trust)がつい最近、世論調査会社のMORIに委託して行った調査によると「現在のエリザベス女王が退位した場合、王室は今のまま変わらなくてよい」と答えた英国人はわずかとはいえ半数を切った47%となっています。ついで多かったのが「王室の規模(つまり人数や活動)を縮小すべき」と答えた人が35%となっています。国家元首は選挙で選ぶべきだ、という共和国派は17%。つまり80%以上の圧倒的多数が王室そのものの存続は望んでいるということです(ただ共和国の17%は”案外多い”と見ることもできますよね)。

で、仮に国家元首を選挙で選ぶとなった場合、その性格はアメリカやフランスの大統領のような実際の権力を持った存在(Executive Head of State)であるべきなのか、アイルランドやフィンランドの大統領のような象徴的な存在(Ceremonial Head of State)であるべきなのか・・・という問いについては、30%がアメリカ型を、45%がアイルランド型を望むとしている。ブレア首相は本当はアメリカ型の大統領でありたいと思っているらしいのですが、この30%という数字を高いと見るのか、低いと見るのかは微妙な点ですね。

ところでチャールズ皇太子には言いにくいのですが、母上に比べるとちょっと人気がないようであります。即ち「エリザベス女王は何歳で退位すべきか?」という問いについて25%が80歳と答えているのに対して、69%が「可能な限り長い間女王であって欲しい」と言っている。で、女王の退位後にチャールズ皇太子が王になることを望むか?という問いについては、辛うじて過半数の55%がyes、12%が「分からない」と答えています。そして「(チャールズ王になるくらいなら)国家元首を選挙で選んだ方がいい」という人が31%いた。「分からない」も含むとかなりの割合で否定的なのであります。


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4)マスター由の<シリーズ「カウンセリング心理学者への道」>
大学院でのコースワーク、カウンセリング実習、そして資格試験を終了すると、カウンセリング心理学プログラムの学生はいよいよインターン(研修生)として全米各地に羽ばたいて行きます。このインターンシップと呼ばれる実地訓練の期間中、我々は身分上はまだ「学生」なのですが、週40時間つまりフルタイムの就労が義務付けられている、あるいはインターン先から給料が支払われるという点では、少なくとも就労先では学生としてではなく「プロフェッショナル」として扱われるといってもいいでしょう。

ハードルその4:インターンシップ

インターンシップでは、1年間カウンセリング心理学関係の仕事をすることになっています。その仕事の内容は場所によってさまざまですが、だいたい心理カウンセリングやテスト、実習生の指導や監督、あるいは場所によっては授業を教えるというのが一般的です。 アメリカでプロのカウンセリング心理学者として開業していくためには、各州で定められた心理学者のための資格試験を受けなくてはいけません。

その資格試験を受けるためには、だいたいどの州も博士課程を終える前にインターンとして1500時間(つまりフルタイムで週40時間働いたとして約1年間)の職業経験を積むことが条件の一つとなっています。その1500時間のインターンシップは、だいたいコースワークを終えた年の夏、つまり7、8月から始まります。 インターンシップは、何も所属する大学内で行うとは限りません、それこそ全米のいろいろなところに行くことができます。

勤務先の種類も、大学のカウンセリングセンターだけでなく、病院の精神科、退役軍人のための医療施設、あるいはメンタルヘルスクリニックなどに勤務する人たちもいます。 ということで、今から1年後にマスター由は別の州で活動しているかもしれませんが、また改めてインターンとしての実際の経験を寄稿できたらと思っています。もっとも、それまでに「フロム・ザ・ウェスト」およびむささびジャーナルが続いていればの話ですが。次回は最後のハードル、つまり博士論文について書きますのでお楽しみに。

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5)短信
帰ってみたら見知らぬ男がぐでんぐでん

アメリカ・南フロリダ大学のテレサ・ホ-ルという女学生が自分のアパートへ帰ったら居間も台所もメチャクチャに荒らされていた。ビックリして警察へ通報。警官が到着するのを待っている間に家の中を見回ったところ、洗濯部屋に見慣れぬ男がぐでんぐでんに酔っ払って寝込んでいた。彼女が地元のテレビ局に語ったところによると、この男は冷蔵庫にあるものは片っ端から飲み食いしたのみならず、テレサの下着まで着こんで眠っていたのだそうです。男はもちろん逮捕された。洗濯部屋のカギをかけて警官の到着を待つ間、生きた心地がしなかったそうです。そりゃそうだ。

アリバイ引き受けます

ドイツにPerfect Alibiという会社があります。完璧アリバイとはヘンな名前ですが、察しのいい人なら分かりますよね。要するに何かの理由(大体が男女関係)でニセのアリバイが必要な人のためにアリバイ作りをして差し上げましょうというサービス会社。これがバカに流行っているそうで、一月に何と350人ものお客があるそうです。ニセアリバイにも値段によっていろいろあるそうですが、イチバン値のはるのが「週末セミナー」というサービスで約1万円かかる。何かというとダンナさんが奥さんに「週末はビジネスセミナーに行く」と言って、どこか別のところへ行くお手伝いをするわけ。「別のところ」ったって決まってますよね。この場合は印刷したセミナー招待状を用意して、ダンナさんに送りつける。これをダンナは奥さんに見せて「週末だってのにセミナーか」とか言ってニセの溜息をつく。その招待状には会場のホテルの電話番号(もちろんニセ)などを印刷しておく。万一奥さんから電話がかかってきたらPerfect Alibiのスタッフが応対して、これをダンナの携帯に取り次ぐというサービス。これで1万円、です。このサービスが当って、ついにオーストリアに支店までオープンしたのだそうです。

英国人はワーカホリック

英国の労働者の3分の2以上が仕事の間ほとんどど休憩というものをとらない・・・アイスクリーム店のハーゲンダッツが行った調査の結果、英国人は結構ワーカホリックであるということになっています。1000人のオフィスワーカーを対象にした調査であったのですが、68%が規則で認められた休みをフルにとっておらず、30%以上が休みそのものをとっていないらしい。理由は「仕事が忙しい」。60%の人が、全体の拘束時間が長くなってもいいからスペイン風の昼寝の時間(シエスタ)を2時間とるというアイデアに賛成しています。デイリー・エイクスプレス紙によると、この調査を行ったハーゲンダッツ社は「全国シエスタ・デー」なるものを展開しているそうです。昔は「日本人は働きすぎ」と言われたものですが・・・。

ドイツの森で迷子になったアメリカ人

79歳になるアメリカ人観光客(男)がドイツにある森で2日間行方不明になった末に救助された・・・ドイツには深い森が沢山あるそうですね。だからこんな話もあるだろなと思ったのですが、この人が持っていたのが1914年発行のガイドブックであったそうなのです。ハンク・エドワーズという名前のこの人は、何故か子供の頃からこのガイドブックを愛読、将来はこのドイツの森へ行くということを楽しみにしてきた。「大恐慌あり、戦争あり、家族もいたし・・・」ということで、なかなかこれを実現できなかったのですが、ようやくヒマとお金ができたので、ドイツへやって来た。が、ガイドブックに記載されている森と今の森とではいろいろと違っていて、クルマでうろうろするうちに迷子になってしまったというわけ。「戦争や森の改造計画などもあって、昔の森とは全然ちがっていますから・・・」というのが、救助した地元警察の話です。ちょっと怖いけど嬉しいですね、この種の話は。
 
6)編集後記
 ●37回もお付き合いを頂きどうも有難うございました。むささびジャーナルを始めたときに申し上げたのですが、このメールは世の中から忘れて貰いたくないと思っている老人からの手紙のようなものです。それが37回も続いてしまった。こうなると50回を目指したいですね●この中で私がイチバン力を入れているつもりなのが「短信」のコーナーです。これがあと4回くらいで100個のストーリーを掲載することになります●「チリも積もれば山となる」とはよく言ったもので、むささびジャーナルも37回分をプリントアウトしてみると、よくぞこれだけ書いたものだ、と我ながら呆れてしまいます●有難いことにたまにメッセージをくれる人がいます。これ、本当にうれしいものですね。今後ともよろしくお願いします●チリも積もれば山となる・・・を英語で言うと・・・things pile upかな?

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