1)対EU関係:つかず離れずは難しい
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前回のむささびジャーナルで、ユーロ危機を議論するEUの首脳会議でキャメロン首相が「栄光ある孤立」(splendid isolation)に陥ってしまったことを報告しました。あれ以来もこのことは大きな話題になっていて、英国内ではキャメロンの人気が上昇したりしています。
英国内では相変わらず反EUの世論が強いのですが、かと言ってEUを脱退するのかと言われるとびびってしまう。そんな雰囲気の中で、特に保守党議員の間で関心を集めているのがスイスとノルウェーです。EUに加盟はしていないけれど、まぎれもなくヨーロッパの国であるし、EUともそれなりに付き合っている・・・英国もこの二つの国のセンを行った方がいいのではないかということです。
まずノルウェーですが、EUに加盟はしていないけれど欧州自由貿易連合(European Fair Trade Association:EFTA)と 欧州経済領域(European Economic Area :EEA)には加盟している。EFTAは1960年に英国が中心になって設立されたもので、EUの前身である欧州経済共同体(EEC)に加盟していない国が集まって作った組織です。設立当初は英国も含めて7カ国が加盟していたけれど、現在はノルウェー、スイス、アイスランド、リヒテンシュタインの4カ国となっています。またEEAは、EFTAの加盟国がEUに加盟しなくてもEUの単一市場に参加することを可能した協定です。
つまりノルウェーの場合、EUに加盟はしていないけれど、加盟国と同じようにEUの市場でビジネスをすることができる。しかし欧州議会(European Parliament)や欧州委員会(European Commission)には代表を送っていないので、EUのさまざまな取り決めに自分たちの意見を反映させることはできない。EU議会やEU委員会における決定事項が一方的に通知されるだけという立場で、こういうのをファックス民主主義というのだそうです。
ノルウェーは北海油田からの石油で潤っているのですが、ブラッセルではノルウェーの発電企業、食品会社それに地方政府の関係者などがそれぞれの分野でロビー活動を盛んに行っている。ただThe Economistによると、対EUの石油輸出については結構もめたりしているのだそうです。
スイスはどうかというと、EFTAの加盟国ではあるけれどEEAには加盟せず、EU加盟国と個々に貿易協定を結ぶやり方をしている。ノルウェーよりもさらにEUから遠い位置にあるのですが、パスポートなしに行き来出来るSchengen passport-free zoneに加盟しているので、スイス人はEU諸国へパスポートなしに入ることができる。ただ売り物である銀行業務における情報公開に関してEU本部とのあつれきはかなりのものがあるのだそうです。
スイスもノルウェーもEUに加盟していないが故の不便さはあるものの一応のところは現状のままでやっていけると考えているように見えるのですが、果たしてそれが英国にも当てはまるのか?
EUの外側にいながら単一市場としてのEUと付き合うということは、EU圏内の重要な決定事項に直接影響を与えることができないということでもある。これまではあらゆる国際組織においてトップテーブルに坐り、声高に自己主張を通してきた英国のような国が、ノルウェーやスイスのような外様の地位に甘んじることができるのか疑問であり、実際にその立場になったら「栄光ある孤立」(splendid isolation)というよりもかなり「さえない孤立」(un-splendid isolation)を感じてしまうのではないか、とThe Economistは言っています。
▼BBCを聴いていたらDivorcing EU(EUと離婚する)というテーマでディスカッションをやっていました。それを聴いていると確かにいまさら「離婚」は一般市民のレベルでもため息がでるほど面倒ですね。ヨーロッパ諸国へ自由に出たり入ったりできなくなるというのは旅行者の話ですが、私の友人の英国人でフランスへ引っ越して暮らしている人などは滞在上の資格は何になるのか、自分たちが購入した土地や家屋の処理はどうするのか等々です。
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2)英国はキリスト教国なんですか?
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クリスマスを一週間後に控えた12月16日のBBCのサイトに
David Cameron says the UK is a Christian country
キャメロン、英国はキリスト教国と発言 |
という見出しの記事が出ていました。
これはオックスフォードで開かれたジェイムズ王欽定訳聖書発刊400周年の記念集会での発言だった。ジェイムズ王欽定訳聖書(King James Bible)というのは、ネット情報によると「19世紀末に至るまで英国国教会で用いられた唯一の公式英訳聖書」であり、1611年(イングランド国王ジェームズ1世の時代)に完成したものだそうです。
キャメロン演説のテキストはここをクリックすると読めるのですが、その中の次のようなくだりが注目されてしまった。ちょっと長いのですがコピペしてみます。
Many people tell me it is much easier to be Jewish or Muslim here in Britain than it is in a secular country like France. Why? Because the tolerance that Christianity demands of our society provides greater space for other religious faiths too. And because many of the values of a Christian country are shared by people of all faiths and indeed by people of no faith at all.
多くのひとが私に言います。英国においてユダヤ教徒やイスラム教徒であることは、たとえばフランスのような非宗教国よりもはるかに楽である、と。なぜか?それはキリスト教が我々の社会に求める寛容な態度のおかげで、キリスト教以外の宗教についても大きな空間が与えられているからであります。さらにいうと、キリスト教国が持っている価値観の多くがあらゆる信仰を持った人々と共有されています。いや信仰というものを持たない人々でさえもこれら価値観を共有しているのであります。 |
この中の「たとえばフランスのような」(like France)という部分がセンセーションを呼んでしまったようで、BBCの記事に対する読者からのコメントが、なんと1033件も集まってしまった。例えば
Well done David Cameron. Finally a Prime Minister who is willing to stand up for Britain with respect to the EU bullies and is proud to say that Britain is a Christian nation. At last Britain's future looks brighter than it has done in ages.
よくやったぞ、キャメロン。ついにEUからのいじめに対して英国のために立ち上がると同時に英国はキリスト教国であることを堂々と宣言する首相になったということだ。ついに英国の未来が明るくなったのだ。 |
というのもあるし
I vehemently disagree with the PM, the UK is a secular country. Perhaps our moral values run alongside many perceived Christian values but saying the country is Christian sends out a very dangerous message that can only be designed to alienate people of no faith or other faiths and other nations who may perceive Christianity to be a threatening position for the UK to take.
私は首相(の言ったこと)には絶対反対だ。英国は非宗教国なのだ。我々の道徳観の中にはキリスト教的な価値観に基づくものもあるかもしれないが、英国がキリスト教国だと発言することで、非宗教の人々や他の宗教を信じる人々、それにキリスト教国であると宣言することで、英国に脅迫されているような感覚に陥るかもしれない外国に対して非常に危険なメッセージを与えることになってしまう。 |
で、本当のところ英国はキリスト教国なのか?英国人はどのように考えているのか?10年前(2001年)のセンサス(国勢調査)によると、自分がキリスト教徒であると回答した人が全体の72%、非宗教が16%、イスラム教徒が3%で、ヒンズー教徒が1%となっています。その一方、英国社会問題研究所という機関が行っているBritish
Social Attitudesという英国人の意識調査によると、自分がキリスト教であると答えた人は43%しかおらず、半数を上回る51%が「無宗教(no
religion)」と答えています。どうしてこのような違いが出るのか?どちらが本当の英国社会に近いのか?
センサスは政府主催の調査であり、すべての国民や世帯が調査対象になるけれど、Social Attitudesの場合は約3000人が対象です。センサスにおける宗教に関する質問はWhat is your religion?(あなたの宗教は何ですか?)となっていて、リストアップされたものから選択するようになっているのですが、まずNo religion(無宗教)というのがあり、続いてChristian, Buddhist, Jewish, Muslimなどときて、最後にother religion(その他の宗教)となっている。
Social Attitudesの場合は質問が違う。Do you regard yourself as belonging to any particular religion? IF YES: Which?(あなたは自分がどれか特定の宗教に属していると思っていますか?もしそう思う場合は、どの宗教に属しているのですか?)という聞き方をしている。センサスのように予め宗教の種類が示されていて適当なものを選ぶのではなく、自分で考えて答える方式です。
▼センサスのように予めリストとして掲載されている宗教の中から選択しろと言われると、普通の英国人はキリスト教に印をつけるでしょうね。でもそれはどちらかというと受け身の回答であり、「あえてリストの中から選べと言われれば」という感覚です。Social Attitudesのように、リストも何も示さずにどの宗教に属しているかを書けと言われると「特にない」という答えが多くなる。つまりそれほど熱心なキリスト教徒ではないということもできる。
▼この種の話題になると私がいつも引き合いに出す英国人を対象にしたアンケート調査があります。質問は「あなたは神を信じるか?」(Do you believe in God?)というものなのですが、これに対してNo(信じない)と答えた人は11%、Yes(信じる)という人は21%だった。でも一番多かったのはDoubt but believeというもので23%だった。「神様なんていないと思うけど、ひょっとするといるかもな」という微妙な答えであるけれど、私は英国人の大多数はDoubt but believe組に属すると思います。
▼ところでセンサスにおけるWhat is your religion?という質問は、答えたくなければ答えなくてもいいとなっていますが、圧倒的多数(vast
majority)が答えを記入したのだそうです。フランスなどでは、国家が国民に宗教の質問をすること自体が許されないのだそうですね。 |
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3)閣議のメモは非公開で
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日本の内閣官房長官は選挙で選ばれた政治家がなるけれど、英国ではこれが公務員です。Cabinet Secretaryというタイトルなのですが、この立場の人は官僚のトップ(head
of the Civil Service)でもあります。2005年から2011年の12月末まで、ブレア、ブラウン、キャメロン内閣のCabinet
Secretaryを務めて退官したSir Gus O’Donnellという人がThe Timesとインタビューをした記事が12月17日付のサイトに出ていました。その中で彼が英国の情報公開法(Freedom
of Information Act)と閣議の関係について述べている部分が非常に面白いと思ったので紹介します。
現在の情報公開法は2000年に施行されたもので、公的な機関が保持する情報の開示を請求する権利を国民に与えるものであるわけですが、Gus O’Donnellによると、情報公開法が閣議における自由な議論を阻害しているというわけで、閣議の公式メモはこの法律の対象から外すべきだというのです。閣議で首相のとなりに坐って公式メモをとるのは官房長官の役目であるわけですが、
I want the minutes accurately to reflect what people have said. I want good governance. I want them to have an open space. I want us not to be fudging the issue by saying there was a little discussion.
私は閣議の記録は、出席者の発言を正確に反映したものであるべきだと思う。それがすぐれたガバナンス(統治)につながると思う。出席閣僚にはゆったりした空間が必要なのだ。議論を記録するのに「ちょっとした討論があった」というような言葉を使って問題をごまかすことは止めるべきだ。 |
閣僚が集まったミーティングでは、ある政策に反対ならばそれを自由に発言すべきであり、メモもそれを正確に記録するものであるべきなのに、情報公開法によってそれが公になってしまうことを考えると、閣僚も遠慮するし、官房長官としては、意見対立があったような場合にそれをそのまま文字として記録することをためらってしまうということです。O’Donnell自身が誤魔化したようなことはあったのか?という質問には
No, I’m not fudging it but I’m really nervous. Can I guarantee that this is going to stay private? No, I can’t.
自分の場合はないが、大いに神経質にはなる。このメモが公開されないということを保障できるのかと言われれば答えはノーだからだ。 |
と言っています。
ただメモを誤魔化して書いたということはないにしても、情報公開法に基づく裁判所の命令に「拒否権」を使ったことは二度あるのだそうです。一度はイラク戦争に関連した閣議メモで、もう一度は地方分権に関するディスカッションに関するメモだった。いずれもブレア首相のときだった。
情報公開法ができたのはトニー・ブレアが首相のときだったのですが、ブレアさんは自分の回想録の中でこの法律を作ったのは自分にとって最大の間違いであったとして、そのときの自分について次のように書いています。
You idiot. You naive, foolish, irresponsible nincompoop. There is really no description of stupidity, no matter how vivid, that is adequate. I quake at the imbecility of it.
お前はアホだよ。青二才で間抜けで無責任なバカ野郎だ。この愚かさには適切な言葉が見当たらない。その愚かさに身ぶるいがする。 |
閣議のメモはいずれにしても公文書館に保存され、20年後には公開されるわけで、Sir Gusがそこまで反対しているわけではありません。20年間は公開されないということがはっきりしていれば閣僚もしっかり発言するし、それが優れたガバナンスに繋がるというのが彼の言い分です。
▼The Timesのインタビュー記事によると、Sir Gusはキャメロン首相に対して大臣たちは極力その地位にとどめるべきであって、メリーゴーラウンドのようにたびたび入れ替えるのは良くないと進言(urge)したのだそうです。昨年(2011年)10月ごろにキャメロン内閣の防衛大臣が交友関係をめぐって辞任に追い込まれたことがあったのですが、その際にこの大臣の行為は閣僚にふさわしくないというニュアンスの報告をキャメロンにあげたのは、Sir
Gusだった。官僚が政治家をクビにしたようなもので、当時のThe Economistなどはそのことについて警戒する記事を掲載したものです。 |
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4)いまさらですが・・・日英同盟を読む
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前々回(229号)のむささびジャーナルでH.G Wellsの世界史の本に出てくる日本に関する記述について紹介しました。明治維新から約30年、Wellsのいわゆる「最も進んだヨーロッパの大国のレベルにまで西洋化していた」日本です。その日本と英国が、ロシア帝国の南下を阻止するという利害の一致から締結したのが1902年の日英同盟(Anglo-Japanese
Alliance)ですよね。
現在の駐日英国大使館のサイトには「日英同盟の調印により、日英の友好関係が確認され、両国関係がより緊密になった」と書かれている。2012年は、日英同盟が締結されてから110年目にあたります。110年前、1902年2月25日付のThe Timesに日英同盟に関する分析記事が出ています。非常に長い記事なので書き出しと結論だけ紹介すると・・・
It is natural that the Anglo-Japanese Alliance should be as welcome to all classes of the Japanese people as it is to ourselves.
日英同盟があらゆる階層の日本人にとって歓迎であるのは、それが我々(英国人)にとっても歓迎であるのと同じように自然なことである。 |
これが書き出しです。このあと日英同盟を結ぶ日本の意図はあくまでも極東アジアにおいて平和裏にビジネスを行う環境を作り、これを維持することにあるということを延々書いており、結びの言葉は
We do not believe that there is the slightest reason to suppose that she is or intends to be aggressive.
我々は日本が侵略的な国であり、侵略的な意図を持っていると考える理由は全くないと信ずるものである。 |
となっています。で、日英同盟協約という条約の序文には次のように書かれています。
The governments of Great Britain and Japan, actuated solely by a desire
to maintain the status quo and general peace in the Extreme East, being
moreover specially interested in maintaining the independence and territorial
integrity of the Empire of China and the Empire of Korea, and in securing
equal opportunities in those countries for the commerce and industry of
all nations, hereby agree as follows: |
日本国政府及び大不列顛政府は偏に極東に於いて現状及び全局の平和を維持することを希望し、 且つ清帝国及び韓帝国の独立と領土保全とを維持すること及び該二国に於いて各国の商工業をして均等の機会を得せしむことに関し、
特に利益関係を有するを以って茲(ここ)に左の如く約定せり。 |
英国(Great Britain)のことは「大不列顛」(大ブリテン)と書かれて、何だかさっぱり分からない日本語であり、英語であるわけですが、要するに日英両国は極東における平和を欲しており、そのために中国と韓国の独立を維持することに大いなる関心を抱いている。中国も韓国も独立国であり、固有の領土は尊重されなければならないと言っておいて、英国と日本は、中国と韓国においてすべての外国がビジネスを行うための平等の機会を確保することをも望んでいる・・・と言っているのですよね?
妙な感じですね。中国も韓国も独立国であると言いながら、その二国における外国の「商業・工業(commerce and industry)」活動については「平等の機会」を提供するべしなどと言っている。中韓両国にしてみれば、それは自分たちの国内問題なのだから「平等の機会の確保」など余計なお世話ってことになりません?
以上は日英同盟のイントロ、すなわち「総論」です。しかし条文(各論)を見るともう少し露骨になってくる。第1条は次のような書き出しになっています。
The High Contracting Parties, having mutually recognized the independence
of China and Korea, declare themselves to be entirely uninfluenced by any
aggressive tendencies in either country. |
両締約国は相互に清帝国及び韓帝国の独立を承認したるを以って該二国孰れに於いても全然侵略的趨向に制せらるることなきを声明す。 |
「日本も英国も中国と韓国の独立を認めたのであって、この二つの国を侵略しようなどとは夢にも思ってもいないということだけは、はっきりさせておこうではないか」と言っている。declare(宣言する・声明する)という言葉を使って強調するのは却って怪しいなと思ったら案の定、「然れども」(however)ときて次のような文章が続いている。
Having in view, however, their special interests of which those of Great
Britain relate principally to China, while Japan, in addition to the interests
which she possesses in China, is interested in a peculiar degree politically
as well as commercially and industrially in Korea... |
然れども両締約国の特別なる利益に鑑み即ち其の利益たる大不列顛に取りては主として清国に関し、 また日本国に於いては其の清国に於いて有する利益に加うるに、
韓国に於いて政治上並びに商業上及び工業上格段の利益を有するを以って・・・ |
日英両国にはそれなりの利害というものがあって、そのことはアタマにいれておかねばならないというわけですね。なんですか、それ!?と思ったら「英国は中国内に特別な利益を持っており、日本は中国だけでなく韓国内にも政治的かつビジネス上の利害関係がある」と言っている。そして・・・
the High Contracting Parties recognise that it will be admissible for either of them to take such measures as may be indispensable in order to safeguard those interests if threatened either by the aggressive action of any other Power, or by disturbances arising in China or Korea, and necessitating the intervention of either of the High Contracting Parties for the protection of the lives and property of its subjects. |
両締約国は若し右等利益にして列国の侵略的行動に因り、 若しくは清国又は韓国に於いて両締約国孰れか其の臣民の生命及び財産を保護する為干渉を要すべき発生に因りて侵迫せられたる場合には、
両締約国孰れも該利益を擁護する為必要欠くべからざる措置を執り得べきことを承認す。 |
ちょっと長いけれど、「中国と韓国で暮らしている日本人と英国人の生命や財産に危害がおよぶような事態になった場合は、それが他国による侵略によって惹き起こされたものであれ、中国人や韓国人が惹き起こしたものであれ、日本と英国はこれを阻止するために必要な措置をとることを了解する」ということであります。言い換えると、日本が中国や韓国で、英国が中国で何をしようとそれに対してはお互いに文句は言わない・・・。
これに続く第2条では、第1条で言われている日本と英国のいずれかが、自国の利益を守ろうとして別の外国と戦争状態に入った場合、もう一方は中立の立場を維持するとともに、他国が敵として戦争に加わることがないように努力すると定めている。つまり日本が韓国や中国を舞台にロシアと戦争状態になった場合、英国は(例えば)フランスがロシアに加担することを阻止するように努力しなければならないということ。日本は世界一の富と海軍力を有する、大英帝国を味方につけて、清国と韓国における「国益」を保護する体制を手に入れたということであり、しかも仮に外国と戦争することになったとしても相手は一国だけになるように英国が最大限の努力をするというシステムを手中にしたということです。
私、この頃の歴史に詳しいわけではないので、自信をもって何か言えるものではないけれど、200年の鎖国状態から抜け出した日本にとって、明治維新からわずか34年後に、あの超大国・英国と同盟を結んだのですから、日本人はさぞや晴れがましい思いであったろうと察しがつきます。英国の日本研究家、Richard Storry (1913-1982) はA History of Modern Japanという本の中で、日英同盟の締結が日本人与えた心理状況について
Emotionally the conclusion of the alliance gave back to the Japanese the inner pride that they had lost half a century earlier, when Perry and his successors thrust themselves upon the country. The sense of grateful friendship towards Britain was sincere and widespread.
この同盟の締結を感情面から見るならば、半世紀前にペリー(提督)とその後継者たちが日本に乗り込んできたときに日本人が失った内面的な誇りを取り戻すことになる同盟でもあった。英国に対する日本人の感謝に満ちた友好の情は本物かつ広範に行き渡るものでもあった。 |
と書いています。が、この同盟の舞台にされている中国や韓国の人たちの思いはどのようなものであったのか?The Timesの1902年4月9日付の新聞に同紙のソウル特派員からの記事が出ています。ソウルから記事が送られたのは2月24日で、見出しはKorea
And The Anglo-Japanese Agreement(韓国と日英同盟)となっていて、日英同盟が謳っている「韓国の独立を維持」というくだりについて次のように書いてある。
The very fact that Korea has enjoyed so much independence during the past few years makes Koreans believe that this alliance, though from the military point of view merely defensive, is, from the political point of view, not subject to such limitation. To the Koreans it seems that this alliance implies that neither England nor Japan is satisfied with the present methods of government in Korea, and is determined to see changes made.
韓国はここ数年間にわたって独立を謳歌しているという事実がある。そのことから韓国人たちは、この同盟(日英同盟のこと)が軍事的には防衛的なものに過ぎないとしても、政治的にはそのような限定は考えられていないと思っている。この同盟が意味するのは、英国も日本も現在の韓国における政権のやり方には満足しておらず、これを変革すると決意している、というのが韓国人の見方なのである。 |
つまり2月25日付のThe Timesは、「日本は侵略的ではないし、侵略的な意図も全くない」と言っているけれど、4月9日付の同紙によると、韓国ではこの同盟が自国の内政に干渉するもの、つまり侵略的なものであることが分かっていたということになる。少なくともThe
Timesのソウル特派員はそのように見ていた。2月の記事はロンドンの本社にいる記者が書いたものであり、現場に近い特派員の観察とは異なるのも仕方がないのかもしれない。いずれにせよ、日英同盟では、日本が韓国内でどのように振る舞おうとも英国はこれを「承認す」となっていたのであり、韓国政府関係者にはそれが分かっていた(と特派員は感じた)。
▼19世紀後半から20世紀前半までのことを「帝国主義時代」といいますよね。「帝国主義」とは何かをウィキペディアで調べたら
一つの国家が、自国の民族主義、文化、宗教、経済体系などを拡大するため、新たな領土や天然資源などを獲得するために、軍事力を背景に他の民族や国家を積極的に侵略し、さらにそれを推し進めようとする思想や政策。
と出ていました。 |
▼日英同盟当時(20世紀初頭)の英国は、それ以前に比べれば大英帝国衰退のきざしが見えており、非同盟外交(splendid isolation)などと言っていられない状況になりつつあった。一方の日本は若き帝国で、その侵略の対象にされてしまったのが中国と韓国というわけです。つまり日英同盟協約のイントロで書かれている「清帝国及び韓帝国の独立と領土保全とを維持・・・」というのも、日英両国がロシアに対して、「中国や韓国で勝手なことはさせねえぜ」と凄んでいると解釈すれば分かりやすい。日英同盟締結の2年後に朝鮮半島と中国・満洲南部を主戦場とする日露戦争が起こり「勇敢なる小国・日本(Gallant
Little Japan)」がロシアを破って英米の拍手喝采を浴びる。その戦争で使われた戦艦が英国で建造されたものだった。
▼それにしても日本の歴史に関する認識不足には我ながら赤面のいたりですね。日英同盟も日露戦争もそれが起こった年は暗記で憶えているけれど、それらの意味については全く考えることをしなかった。受験戦争のせいにはできませんね。 |
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5)どうでも英和辞書
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A-Zの総合索引はこちら |
pedestrians:歩行者
道(会社の廊下でもいい)を歩いていて、向こうから人が来るのが見える、だんだん近づいてくる、どちらかによけないと衝突してしまう・・・という場合、あなたなら右へよけますか左へよけますか?最近読んだあるブログによると、欧米人はほぼ間違いなく(almost
certainly)右へよけるのだそうですね。歩行者や群衆の動きを研究しているドイツの研究者がそう言っている。アジアの都市の場合は左へよけるのだとか。これはその国のクルマが左側通行か右側通行かとは関係なしにそうなるらしい。ロンドンでもパリでも同じだそうです。
考えてみると、我々(日本人)は昔から「クルマは左、ひとは右」という標語のようなものを聞かされていません?で、いつも気になっていた(最近はどうでもよくなった)のですが、狭い道をクルマと人間が同じ方向に動いているような場合はこの標語は交通事故防止のためにはあっているけれど、クルマと人間が鉢合わせするような方向に動いていた場合、この標語を守ると衝突することになりません?
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6)むささびの鳴き声
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▼12月26日、英国のチョコレート・メーカーからセールスメールが届いたのですが、そのキャッチコピーが
Get ready to beat the January blues(1月ブルースをやっつけろ!)
というものだった。 |
▼英国人にとっては1年を通して1月は最も憂鬱(most depressing)な月らしいですね。楽しいクリスマスがあり、大みそかの花火大会ありで、12月はお祭り気分であったのに1月というと、朝は真っ暗な中を通勤、新年の誓いの禁煙・禁酒も早々とギブアップ、12月のお祭り騒ぎの請求書が送られてくるし、これからしばらくはお祭り気分になれる行事もないし・・・というわけで面白くもなんともないのが1月なのだそうです。でも大丈夫、美味しいチョコレートがあればJanuary bluesなんて吹っ飛んじゃうんもんね。しかも最高半額の大安売り(up to 50% off in our Sale)、これを買わない手はない!というわけです。でもチョコレート食べて憂鬱が飛んでいくんですかね。やけ酒というのは聞いたことあるけど「やけチョコ」なんて知らない。
▼政治のハナシですが、消費税を上げるということで決着したことについて、毎日・朝日・読売の社説を読んでみたら3紙ともそれなりに野田さんの行動を支持しているのですね。毎日新聞の次のくだりが3紙に共通の認識のようであります。
決して立派な出来だとほめられる内容ではない。それでも、増税そのものへの反対論が渦巻き、離党者まで出る状況下で、何とか年内に増税時期と幅を決めたことは評価する。 |
▼これとは別にNHKのラジオを聴いていたら、解説委員というひとたちが集まっていろいろと議論する番組をやっており、その中で消費税関連のニュースを担当する解説委員が野田さんの提案について「私もね、増税がやむを得ないという点は理解するのですよ。ただね、消費税を上げるのであれば歳出削減の努力もしなければダメですよ」という趣旨のことを言っていました。つまり政治家の数を減らすとか、公務員の給料をさげる等の努力をしなければ「国民は納得しない」というわけです。
▼NHKの解説委員のようなことは、テレビが街頭でインタビューをすると言われるのですよね。「庶民の意見」というわけですが、この人たちの言うことを聴いていると、あたかも政治家も役人もみんな役立たずで無駄遣いばかりしているように響く。詳しい数字は調べないと分からないけれど、政治家の数などは英国よりはかなり少ないのでは?公務員の給料はそれほどキャンキャン騒がなければならないほど不公平に高いのでしょうか?
▼毎日新聞は野田さんの消費税値上げ案が「決して立派な出来だとほめられる内容ではない」と言っているのですが、どのような案であれば「立派な出来」としてほめられるのか?新聞にしても放送にしても、いろいろと不平・不満めいたことを言うけれど、実はそれほど大したことを言っておらず、押し切ってしまえば勝ちと野田さんたちは考えているのかも?
▼1月1日、埼玉県は曇りと言われていたのですが、結局晴れのようであります。でも地震がありました!私の住んでいる埼玉県南部は震度4だそうです。今回もお付き合いをいただきありがとうございました。
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