musasabi journal

242号 2012/6/3
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美耶子の言い分 美耶子のK9研究 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
我が家の垣根に卯の花が咲いています。私自身知らなかったのですが、となりの奥さんに「きれいですねぇ!」と言われて分かりました。気が付いたら6月、卯の花の、匂う垣根に、ほととぎす、早も来鳴きて、忍音もらす、夏は来ぬ・・・という季節です。

目次

1)湖水地方に放射性廃棄物の地下貯蔵施設?
2)数字が語る欧州のペシミズム
3)在英ギリシャ人が見る「夢遊病の祖国」
4)美耶子のK9研究:よだれの科学
5)"God Bless..." と "God Save..." の違い
6)どうでも英和辞書
7)むささびの鳴き声


1)湖水地方に放射性廃棄物の地下貯蔵施設?

BBCのサイトに北イングランドのカンブリア地方に原子力発電所から出る放射性廃棄物の地下貯蔵施設が建設される可能性が出てきたというニュースが掲載されています。この地方の住民約3000人を対象にした世論調査を行ったところカンブリア地域全体では53%が賛成、33%が反対という結果が出た。

カンブリア地方というと日本ではピーター・ラビットが生まれた湖水地方で知られていますが、面積(約6800平方キロ)からいうと島根県と同じくらいです。人口は約50万。セラフィールド核燃料再処理工場はこの地方にあります。今回の世論調査の結果を見ると、カンブリア全体では5割強が賛成となっていますが、セラフィールドの再処理工場があるコープランドというエリアだけをとるとほぼ7割(68%)が賛成という結果になっています。

まだセラフィールドに作られると決まったわけではないのですが、これまでのところ放射性廃棄物の地下貯蔵施設の建設に名乗りを上げているのはカンブリアだけであり、さらに今回の世論調査で半数以上が受け入れに賛成しているという結果が出ているだけに可能性は極めて高い。本決まりになっても実際に放射性廃棄物が貯蔵され始めるのは2040年のことだそうです。

地下500メートルのところに施設を作るフィンランドのやり方を踏襲する可能性が高いとのことですが、カンブリアに地下貯蔵施設を作ることに反対の科学者もいます。エディンバラ大学のStuart Haszeldine教授もその一人で、施設の建設が予定されている西カンブリアは地質が多孔性で浸透性にすぐれた粘板岩なので、地下水が放射性廃棄物の貯蔵施設に入り込み、廃棄物が水で地上に押し出される危険性があるというわけです。
  • The only reason it is being considered now is because the UK government has decided that the local populations should have a much more pre-eminent vote than the scientific evidence. To me that is the wrong way round.
    カンブリアが候補地として考えられている唯一の理由は、英国政府が科学的な見地よりも地元民の意見の方が大事という姿勢をとっているからだ。逆立ちしているのだ。

と教授は言っています。

▼Channel 4 Newsによると、セラフィールド処理場のあるコープランドでは、3人に一人が原子力関連施設で働いているそうですが、コープランドも含めた西カンブリア地方の3つの町では、今回の世論調査結果も踏まえて町議会で検討し、今年の10月か11月までには受け入れるかどうかの結論を出すと言っています。

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2)数字が語る欧州のペシミズム

アメリカの世論調査機関、Pew Researchがヨーロッパを対象に行ったEuropean Unity on the Rockという調査の結果を発表しています。「揺れるヨーロッパの団結」という意味ですが、EU加盟国の人々がお互いの国やそれぞれの政治家についてどのようなイメージを持っているかを調べたものです。予想されたこととはいえ、ドイツやドイツ人、それからメルケルさんに対する評価が最も高い一方で、ギリシャについては芳しくないという結果になっています。

まずはそれぞれの国の人々がEUの加盟国(自分の国も含む)についてどの程度「好意的」(favourable)に見ているのかをパーセンテージであらわすと次のようになります。


この種の数字がどの程度あてになるものなのか分からないけれど、あてになるものだとするとこの表からいろいろなことが見えてきます。ギリシャに対する評価がいちばん低いということなのですが、チェコ人とドイツ人による評価が特に低いのですね。英国人の対ギリシャ評価はほぼ5割でそれほど低くないのは、英国がユーロ圏ではないのでギリシャ危機をドイツ人ほど身近に感じていないということなのでしょうか?でもチェコもユーロ圏ではないのにドイツ人と同じくらいギリシャを低く見ているというのはなぜ?ドイツ人とフランス人がお互いを非常に高く評価しているのですね。ギリシャ人のドイツ評価が異常に低い(21%)は感情的反感でしょうね。無理もない。

それより興味深い(と私が思う)のは、それぞれの国民が自国についてどのように評価しているのかという点です。ドイツ人と英国人が自国を最も高く評価しており、ギリシャ人も似たようなものなのですが、スペインだけが自国評価が5割を切っている。スペインに対する外国の評価はかなり高いのに、です。自己批判能力が高いのか現実の生活に不安・不満があるのか・・・。いずれにしても面白そうな人々ですね、スペイン人というのは。

EUの経済危機に対する指導者の対応についての評価は次のとおりです。


この調査が行われたのはフランスにおける大統領選挙の前(サルコジ大統領のころ)のことなのですが、メルケルさんに対する評価が圧倒的に高い。特にドイツ人の間で高い。メルケル、サルコジ、キャメロンに対するギリシャ人の評価はいずれもほとんど最低なのですが、政治指導者の話となるとギリシャ人の自国指導者に対する評価は決して高くないのですね。

さらに国民の勤勉さ(hardworking)と政治的な腐敗(corruption)に関する意見です。ここでは両方ともmostとleastという選択肢が与えられて調査されています。


「勤勉さ」についてギリシャの人々が「自分たちこそいちばん勤勉」(most hardworking) と言っている以外は、みなさんドイツ人がいちばんの働き者であると評価している。いちばん勤勉でない(least hardworking)というカテゴリーではギリシャ人という人が多い。ただ政治的な腐敗となると、ギリシャ人も含めてみなさんがドイツ人の腐敗度が最低(least corrupt)と言っている。反対にいちばん腐敗していると思われているのはイタリアの政治家のようであります。が、ギリシャ人は自国の政治家が最も腐敗していると感じている(ポーランドとチェコも同じ)。

最後にWho is to blame for the current economic problems?(現在の経済危機の責任は誰にあると思うか?)という設問に対する各国の反応を紹介します。糾弾すべき対象としてour government(自分たちの政府), banks & financial institutions(金融機関), US(アメリカ), EU, ourselves(自分たち自身)の4つの候補があって複数回答もありというものだった。


興味深いと思うのは独・英・仏・スペインでは政府よりも金融機関に責任があると考える人が多いのに、イタリアやギリシャでは政府の方を責める人が多い。もっと興味深いのは「自分たち(国民)自身が悪い」と考える人がギリシャでいちばん多いということです。そんなこと考えている人は殆どいないというドイツと対照的です。

▼ギリシャ人の勤勉さについてですがOECDの統計によると、ギリシャ人の平均労働時間は年間2017時間で、韓国(2193時間)、チリ(2068時間)に次いで世界で3番目のに長いことになっている(日本は15位、英国は22位)。もちろん労働時間が長ければ生産性も高いというわけではないのですが、Pew Researchの調査でギリシャ人が自分たちこそ一番の働き者と答えているのは理解できますね。ちなみにドイツ人の年間労働時間は1408時間でOECDの中では下から2番目です。

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3)在英ギリシャ人が見る「夢遊病の祖国」

前回のむささびジャーナルでギリシャ人のジャーナリストと思われる人による「ギリシャ人の怒り」という内容のエッセイを紹介しました。今回紹介するのは、現在オックスフォード大学で研究員をしているPavlos Eleftheriadisというギリシャ人の学者によるエッセイです。5月27日付のFinancial Timesのサイトに出ていたものでタイトルは
  • Only a new political order can rescue Greece
    新しい政治体制のみがギリシャを救うことができる
となっています。ギリシャの現代史に詳しい人にはさして珍しくもない内容かもしれないのですが、私のようにこの国のことなどほとんど何も知らない人間にとっては、それなりに「なるほど」と思わせる内容であると思います。

まず、おさらいをしておくと、財政赤字がどうにもならなくなっているギリシャは、ユーロ圏に残りたいのならEUやIMFからの財政支援を受け入れて、これまで以上に厳しい窮乏政策を実施しなくてはならないとされている。5月7日に行われた選挙ではEUの要請を受け入れようという主要2政党が惨敗、窮乏政策に反対する急進左派勢力が大躍進したけれど、どの政党も大多数はとれず、連立協議も失敗・・・というわけで、6月17日にもう一度選挙をすることになっている、これが現状です。

エッセイの筆者であるEleftheriadisによると、ギリシャがこのような混乱状態になってしまったについては3つの理由がある。一つは長年にわたる国民間の憎しみの醸成(cultivation of hatred)、二つ目が多数万能主義(rise of majoritarianism)の横行、そして三つ目がメディアの衰退(decline of the press)です。

最初に挙げられている「憎しみの醸成」について。1946年から1949年にかけて、英米の支援を受けた右派勢力と共産主義勢力の間で内戦が起こり共産主義勢力が敗れるのですが、結果として右派勢力による左派の徹底的な弾圧が横行した。その間、社会は家族や階級がモノを言う血縁社会のような状態となり、冷戦時代には左派=危険分子・非愛国者とみなされる軍事独裁政権のような状態続く。このような状態は1974年の軍事独裁政権の崩壊で終結するのですが、1981年に社会主義政権が誕生すると、今度は左派勢力による支配の独り占めのような状態となった。つまり公的な職業やプロジェクトは左派によって独占されるようになり、右派=危険分子・非愛国者と呼ばれるようになってしまった。

左右両派による憎しみのぶつけ合いはいまでも続いているそうで、ギリシャの政治は大仰で悪意だらけの言葉のぶつけ合いの様相を呈している。例えば左派勢力はEUによる緊縮財政を条件とする支援策を「野蛮な行為」(barbaric act)であり「犯罪」(crime)であると決めつけているし、極右はEU寄りの政治家を「裏切り者」(traitors)であり「敵の回し者」(collaborators)呼ばわりするだけで、ギリシャの財政赤字がなぜ起こり、どのようにしたら解決するのかについて落ち着いて考えようという姿勢がほとんど見られない。このような状況だから連立政権を作るということは、それぞれが「公式に」表明している強硬な意見を裏切ることになってしまう。

このようにして党派間の対立が先鋭化の一途をたどると、出てくるのが二番目の問題である多数万能主義(majoritarianism)の横行である、とEleftheriadisは言います。ギリシャには1864年以来、自由主義憲法というものが存在するにもかかわらず、左右両派の対立が激しすぎて憲法による権力のチェック・バランス(constitutional checks and balances)がほとんど効かず、連立政権の樹立も非常に難しい。それだけではない。公共サービスが政治化(politicisation)されて政府による公的な財やサービスの購入がすべて大臣が一人で決まってしまう。ギリシャでは裁判長までが政府によって任命され、政党間の争いのタネとなっている。つまり何から何までが「政治」によって決められ、政府としての機能不全に陥る結果となっているというわけです。

三つ目の問題であるジャーナリズムの衰退は日本人などには理解しがたい部分かもしれません。ギリシャでは今から20数年前の1989年にいたるまでラジオとテレビは政府による独占(つまり国営)だったのですが、これをめぐって裁判がぐずぐずしている間に、地上波のテレビ局を勝手に開局する事業者が出てきてしまった。事実上周波数を盗んでしまったということです。しかも当時の政府はそれについて何もやらなかった。そして1993年には8つのテレビ局に対して「仮免許」(temporary licences)が与えられ、2007年にはこれらが更新された。しかし2010年になって最高裁判所が仮免許による放送は憲法違反unconstitutional)という判断を下した。

にもかかわらず事態は何も変わっていない。Eleftheriadisによると「政治家が事を荒立てることを怖れている(Politicians have been afraid to rock the boat)」のだそうですが、テレビ局はさらに印刷媒体である新聞も自分たちの傘下におさめており、客観的な報道、節度ある報道を尊重することはほとんどなしで、政治家のセンセイショナルな言辞だけがテレビ記者たちによって何度も繰り返し放送され拡大される。熟慮とかコンセンサスなどの入る余地はほとんどない。

Pavlos Eleftheriadisによると、現在のギリシャ政治は無節操な政治家、冷笑的な態度の労働組合、そしてメディアの親玉たちによってハイジャックされている状況であり、ユーロ離脱についても危機感はほとんどないのだそうです。5月の選挙で主要2政党が敗れたのも彼らの無能ぶりと汚れている部分に国民の怒りが爆発したことの表れであり、この2大政党には国民に犠牲を呼びかけるような道徳的な権威もなかった・・・というわけで、Eleftheriadisはギリシャ国民の気持ちを次のように表現しています。
  • The electorate is fed up with austerity, but it is livid at being led by those who dishonestly caused the problem. So even though 80 per cent of the electorate wants to stay in the euro, 68 per cent voted for parties that oppose the bailout deal. This was their way of voting for change.
    国民(選挙民)は緊縮政策にうんざりしているが、その一方で不正直さゆえにこのような問題を生み出してしまった人間をリーダーにしていることには怒りを覚えている。国民の8割がユーロ圏に残ることを希望しているのに、ほぼ7割もの人々がEUからの支援取引に反対する政党に投票している。これはギリシャ人たちなりの変革のための投票行動であったのだ。
Pavlos Eleftheriadisは、古い勢力は5月の選挙で死んだけれど、新しい勢力がまだ誕生していないというのがギリシャの現状であり、選挙で躍進した左派急進勢力のポピュリズムは一時的には国民に受けるかもしれないが、将来的には大失敗に終わるだろうとして、ギリシャの危機打開については
  • The answer lies only in the emergence of new and credible political parties. We should be aiming to restore faith in our democratic institutions, clean up the media, punish the corrupt and give hope of a productive and competitive economy. The Greek electorate is wise in demanding complete and swift renewal.
    危機に対する答えはただ一つ、新しくて信頼のおける政党の出現しかない。我々は自分たちの民主主義の伝統に対する信頼の念を復活させることを目標にしなければならない。そのためにはメディアの世界を浄化し、汚れた人物を処罰することで生産的かつ競争力のある経済に対して希望を与えなければならない。ギリシャ国民(選挙民)は完璧かつ急速な変革を求めており、その点では彼らは賢明なのである。
と述べています。

▼このエッセイの筆者は、現在はオックスフォードにいながら祖国を見ているという状態にあるのですが、外国へ行くと自分の国のことがはっきり見えるということはよくあることです。この人によると、いまのギリシャはsleepwalking to disaster、すなわち悲劇に向かって夢遊病患者のようにふらふら歩んでいる状況なのだそうであります。

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4)美耶子のK9研究よだれの科学

今回のSAPの課題に
  • Describe the journey through the canine digestive system of a meal consisting of meat mixed with cereal mixer. Include details of how and where digestion of the various nutrients occurs.
    イヌがシリアルと肉の混ざった食物を食べた時の消化の一部始終を、いろいろな栄養の消化がどのようにどこで起こるのかを詳しく述べよ。
という、いつもの「describe・・・」方式の出題があり、まとめるのにかなり苦労をしました。

イヌの消化がどの時点で始まると考えるのが妥当なのかを判断する決め手になるのが「よだれ」です。よだれは人間にもイヌにも共通している、食べ物に対する反応ですが、これを誘発する条件に大きな違いがあります。人間はテレビの中に出てくる美味しそうなラーメンを見るだけで「よだれ」が出てくることがありますが、ワンちゃんはテレビの画面で美味しそうな生肉を見ても「よだれ」は出ません。何故でしょうか?テレビの画面からは「臭い」が出ないからです。ワンちゃんの食欲は「見かけ」ではなく「におい」に触発されるのです。さらに言えば、食べもの自体は見えなくても、食べた経験のある美味しそうな「におい」さえあれば、たちまち待ちきれなくなってだらだらとよだれを出します。
  • 余談ですがテレビと言えばウチのボーダーコリーのジョイスは、野球の試合を見ていてピッチャーがボールを投げる瞬間と、大相撲の取り組みの時間いっぱいの瞬間を察して画面に飛びつくので困るのですが、もしその上「におい」の出るテレビが開発されでもしたら大騒ぎになるので、我が家を始めワンちゃんを飼っている家には、そういうテレビはお勧めできません。
「におい」がしない場合でもワンちゃんが「よだれ」を出すのは、あの有名な「パブロフの犬」と同様、美味しい食べ物と必ず結びつく何らかの条件を学習した場合です。飼い主が何かを食べている時に傍に来たワンちゃんにそれを少しでも分けてあげて、それが美味しかったりしたら、もうそのワンちゃんは飼い主の食べる動作を見るだけで、「よだれ」が涙のようにこみ上げる(?)ことになります。ある時、スターバックスの外のテーブルでトイプードルを連れた若いカップルが何かを食べていました。テーブルの下にいたそのワンちゃんはジッと上を見て「よだれ」をポタポタと落とし始めました。これだけでこのカップルはワンちゃんに人間の食べ物をあげる生活(飼い方)を普段からしていることが他の人にバレてしまいます。よだれの量の違いは犬種によるものなのか、それとも食いしん坊の度合いによるものなのかは分かりませんが、我が家のGSP(German Shorthaired Pointer)のフロイデの「よだれ」の量は並大抵ではありません。まるで汗のようにポタポタと落とすのです。


汗と言えば人間とイヌの「よだれ」にはもう一つ違いがあります。人間の場合「よだれ」にはアミラーゼというでんぷんを消化する酵素が含まれているので、「よだれ」が出始めた段階で、つまり口の中で既に消化活動が始まったと考えても良いのに対して、ワンちゃんの場合「よだれ」の成分は99%が只の水であり、アミラーゼも含まれていません。食べ物に対して出るイヌの「よだれ」は人間と違って、消化のためではなく食べ物をのみ込みやすくlubricate(滑らかにする)役割なのです。もう一つ食べ物には全く関係なく出る「よだれ」は、汗腺の無いワンちゃんの体温が上がり過ぎないようにする時の汗の役割も兼ねているのです。ですから実は口から出すあの液体は「よだれ」でもあり「汗」でもあるというわけです。道理で運動した後に汗のように見える「よだれ」を口から出すわけです。

犬との暮らし方も人によっていろいろなので、人間が何かを食べているのを見てダラダラと「よだれ」を出すワンちゃんもいれば、none of my businessという様子で全く興味を示さないワンちゃんもいます。英国のパブの店内ではよくワンちゃんを見かけます。彼らは全く人間の食べ物には知らん顔で、よだれをたらしてお客さんの傍にへばり付くワンちゃんは見たことがありませんでした。これはこれで素晴らしい光景で、そういうワンちゃんを褒めたくなるのですが、どうも日本人はこういう飼い方が苦手な人が多いような気がします。犬の飼い方にも国民性が出てしまうのかもしれないと感じた一例です。

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5)"God Bless..." と "God Save..." の違い

 

この週末、英国中がエリザベス女王の在位60周年(Diamond Jubilee)をお祝いする行事で沸き返っているようです。町や村の道路を使ってパーティーを楽しむstreet partyのための道路の使用許可願いがお役所に提出された件数が8000件にのぼっているのだそうです。

そのDiamond Jubileeに絡めて、オピニオン・マガジン、Newstatesmanに英国人の考え方を示すような興味深いエッセイが掲載されます。5月14日付のサイトに掲載された"God, the Queen and Tony Blair"(神と女王とトニー・ブレア)がそれなのですが、似て非なるものがある英米人によるナショナリズム(愛国心と言ってもいい)の発露の仕方の違いを書いています。
  • The British are uncomfortable with a politician who "does God", but don't mind when the monarch does.
    英国人は政治家が神を語ることに居心地の悪さを感じるが王室がそれをやる分には気にしない。
という書き出しになっています。筆者のNelson Jonesによると、トニー・ブレアが首相であったころ、イラク戦争への参加に関連してテレビ演説をすることになったのですが、その演説を "God Bless Britain" という言葉で締めくくりたいと言いだしたことがあった。「英国に神の祝福を」という意味ですよね。ところがお役人も含めた周囲がこれに大いなる難色を示したのだそうですが、みんなが口々に言ったのが "this is not America" ということだった。「アメリカじゃあるまいし」ということですよね。確かにアメリカでは大統領演説のみならず "God Bless America" と言う言葉が非常に頻繁に使われますよね。大リーグの試合などでもGod Bless Americaの歌が聞こえる。

でも英国の首相が同じことをやるとun-British(英国らしくない)であるとされる。
  • This is not so much a reflection of the greater religiosity of Americans as one of culture and history. God, in Britain, has not been usually been requested to bless the nation. Rather, He has traditionally been required to Save the Queen.
    このことは必ずしもアメリカ人が(英国人よりも)宗教的だということではなく文化と歴史の違いによるものなのだ。英国において神は国を祝福するようには頼まれないのが普通なのである。神は英国では昔から女王を祝福するように求められるものなのだ。

アメリカにおける "God Bless America" にあたるのが英国では "God Save the Queen" となるわけですが、両方ともGodという言葉を使ってはいても宗教心の表れというよりも国民の団結(national solidarity)を呼びかけるスローガンであるわけです。

Nelson Jonesによると、あのときのブレアにはGod Save the Queenという言葉で演説をしめくくろうなどという気は全くなかった。なぜならそれをやってしまうと、英国人の多くが「古臭い」のみならず「狂信的な戦争好き」(jingoistic)と考えたに違いないということです。いまの英国には愛国心に対する否定的な偏見(prejudice against nationalism)があり、God Save the Queenは「愛国的」ととられてしまうということです。

アメリカでは国家(country)が神に「祝福」され、英国では君主(monarch)が神に「守られる」わけです。アメリカでは毎年7月4日の独立記念日に「アメリカ人であること」(Americanness)を祝福するけれど、英国には建国記念日(national day)の類が存在しない。英国人がナショナリズムらしきものを楽しむとすれば、不規則的に行われる王室関係の行事(結婚式とか在位何周年とかいう式典)かワールドカップでイングランドが優勝するときしかない。
  • We are condemned to celebrate our nationhood by proxy, by pretending to celebrate an hereditary ruler or her heirs.
    我々(英国人)は世襲の支配者やその後継者たちを祝福するふりをすることで、自分たちが英国人であることを代用品で祝福しているようなものなのである。

英国の君主にはDefender of the Faith(信仰の擁護者:教会のトップという意味)という称号がつけられているのですが、最近行われた世論調査によると英国人の4分の3が、女王(君主)が今後ともこの称号を保ち続けることを望んでいる結果が出ている。Nelson Jonesに言わせると、英国人の多くが君主こそが自分たちの国を祝福する聖なる役割を担っていると考えていることの表れである。アメリカ大統領が国民に対して"God Bless America"と呼びかけるのは、大統領がpriest-king(神父であり王様でもある)として神に成り代わってアメリカやアメリカ人を祝福するという聖なる行為であるわけですが、英国でそれを行えるのは君主であって首相ではないわけです。
  • It's not his job. God, like the Queen, is supposed to be above politics.
    神に成り代わって国民を祝福するのは首相の仕事ではない。神は、女王と同じで、政治を超越していることになっているのだ。
別の世論調査によると、英国人の80%が女王が「信仰の守護者」として重要な役割を果たしていると考えている。この場合の「信仰」は当然キリスト教に対する信仰という意味なのですが、次なる王位継承者であるチャールズ皇太子が以前、自分はDefender of the FaithよりもDefender of Faithになりたいと発言して話題になったことがある。Faithの前のtheがとれているということはキリスト教に限らず別の宗教も含めた「信仰」の擁護者になりたいと言う意味です。これはさまざまな人種が共存する「多文化社会」英国における宗教対立を避けたいという皇太子の意思の表れであるとされている。

Nelson Jonesによると、英国人は宗教にはそれほど熱心ではないが、取り立てて無神論というわけでもない。多くは「漠然としてはいるが精神性のようなものを求める(vaguely spiritual)」国民なのだそうです。信仰はあくまでも個人の領域に属するものであり、アメリカのように国民の団結のようなものには積極的な役割は果たしていない。組織だった宗教は結婚式や葬式で顔を出す程度である。Jonesは、愛国心が大仰に表現されるのは、ときどき行われる王室関係の記念行事に限っておいた方がいいとして、
  • For this reason, unenthusiastic about the monarchy as I am, I say God Save the Queen.
    このような理由によって、自分自身は君主制度には熱心ではないけれど、God Save the Queen(神よ女王をお守りください)とだけは言っておこう。

と締めくくっています。

▼国民に向かってイラク戦争への支持を訴えるブレア首相がGod Bless Britainという言葉を使いたがったというエピソードは知らなかったけれど、もし使っていたらさぞやメディアに叩かれていたでしょうね。ましてやGod Save the Queenなんてとんでもない。ジョージ・ブッシュの「悪の枢軸」(axis of evil)でさえもかなり叩かれたのですから。

BBCのサイトがエリザベス女王の在位60年を記念するスライドショーを掲載しています。

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6)どうでも英和辞書
A-Zの総合索引はこちら

austerity:緊縮経済

2010年にキャメロンが首相になって保守・自民による連立政権が誕生してから今まで、英国の新聞にausterityという言葉が載らなかった日は一日たりともないのではないか?と思われるくらいであります。労働党政権のむだ遣いによって政府の赤字が大幅に膨らんでしまった。この際、財政を健全に立て直さなくてはというので政府を挙げて推進しているのがausterityつまり緊縮財政です。

しかるに最近、英国の人気ニュース番組、Newsnightに出演したアメリカの経済学者でノーベル賞も受けたPaul Krugmanが英国政府が推進するausterity政策を真っ向から否定した発言をしています。Krugmanによると、英国政府のみならず財政赤字を解消しようとする政府は例外なく国の赤字を家計の赤字にたとえるのだそうです。収入が少ないのだからむだ遣いをするとは何事か、というわけです。これに対してKrugmanは、いまこそ政府は積極的にお金を使うべきだと主張して「これは経済の話であって家計の話ではない」(We are not a household. We are an economy)として
  • Your spending is my income, and my spending is your income.
    あなたの支出は私の収入であり、私の支出はあなたの収入なのですよ。

と言っていました。要するに不景気なときこそ政府は率先してお金が市場に出回るように支出すべきだと言っている。英国政府がausterityに精を出すのは、実は借金だの赤字だのということではなくて、赤字パニックを利用して社会が必要とする政策を崩壊させようとしているのだ・・・とのことであります。彼に言わせるとアメリカも同じだそうです。

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7)むささびの鳴き声
▼ラジオのニュースを聴いていたらギリシャの首都、アテネで年金生活者の男性が自殺、着ていた衣服のポケットから「孫がギリシャで生まれないことを望む」という遺書が見つかったと伝えていました。今回の3つ目の記事(夢遊病のギリシャ)で紹介した在英ギリシャ人のエッセイは、「ギリシャ国民の8割がユーロ圏に残りたい」としている一方でほぼ7割もの人々が、ドイツなどのいう緊縮生活を受け入れようという主要政党には断固としてノーと言っている。ユーロ圏には残りたいけれど切り詰め生活はイヤだ・・・そんな勝手な言い分は通らないという意見がドイツなどでは(たぶん英国でも)多い。

▼少なくとも英国のメディアに見る限りでは、現在のユーロ危機を克服するにはギリシャにユーロ圏から出て行ってもらうしかないという意見が圧倒的です。Grexit(Greek exit)という造語が使われるくらいなのだから。

▼そんな中でNewsnightというBBCのニュース番組で、プレゼンターのJeremy Paxmanがギリシャのユーロ圏離脱を「不味いケバブが吐き出されるのと同じ」と表現したことが話題になっています。Greece is vomited out という言い方をしているのですが、vomitは「嘔吐する」という意味です。ギリシャをユーロ圏の嘔吐物にたとえているわけで、番組に出演していたギリシャの政治家が抗議し、BBCには視聴者からも抗議が寄せられたのですが、BBCはこの発言がPaxman特有の「毒舌」とユーモア感覚の一環であるとしています。

▼BBCは以前にも「二度も原爆の被害にあった日本人」のことをお笑いのネタとして使ったことがあり、そのときも「英国流のユーモアだ」と言いながら在英日本大使館から抗議されると結局謝罪したことがあります。ギリシャがユーロから出て行かざるを得ないかもしれないことを「吐き出す」と表現することのどこが「ユーモア」なのか?アテネで自殺した老人のことを考えるとPaxmanのvomit発言は単なる「無神経」なのではないかと思えてしまう。

▼確かにPaxmanは、特に政治家を相手にして"Why should I believe you?"というような毒舌質問で相手の度肝を抜いたりするやり方が人気を集めているのですが、それは政治家(のような偉い人たち)に対する庶民の反感を利用した「受け狙い」にすぎない。今回の毒舌はギリシャ人に向けられているものであり、英国の偉いさんをやっつけたというわけではないので、彼が考えたほどには受けていない。噂によるとPaxmanはBBCの次期理事長の座を狙っているのだそうですが、Telegraph紙などはこの発言で「Paxman理事長の目はなくなった」と言っています。

▼6月17日のギリシャの選挙がどのような結果になるにせよ、これまでの主要政党に対する国民的信頼が急に回復するなどということはあり得ない。このむささびジャーナルの3つ目の記事として紹介したEleftheriadisのエッセイは「主要政党には国民に犠牲を呼びかけるほどの道徳的な権威がない」(They do not have the moral authority to ask for sacrifices)と言っています。アテネで自殺した男性は、遺書の中で「ギリシャが地図から消し去られる」と憂慮するとともに、サッチャー元英首相のような強いリーダーしか国を救えないなどとも記していた・・・と時事通信の記事が伝えている。

▼Eleftheriadisのエッセイはそれほど詳しく述べていないけれど、主要政党に対する国民的不信感とメディアの状況の相関関係はどうなっているのでしょうか?テレビ、ラジオ、新聞というメディアがギリシャの現状について具体的にはどのような報道をしているのか?このエッセイに見る限りでは、「あいつが悪い・こいつはアホだ」という非難合戦に終始しており、国民感情もそれに引きずられて「悪者探し」をやっているという構図なのでしょうか・・・。日本と非常に似ている。「強いリーダー」という幻想を求めている点でもほとんど同じですね。自殺した老人の「強いリーダーシップが必要」という遺言(?)は新聞やメディアの言葉をそのままコピーしたのではないか?

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