1)ロンドン五輪の田園風開会式
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天の邪鬼とかひねくれ野郎と思われてしまうかもしれないので言いにくいのですが、私、7月27日に開幕するロンドン・オリンピックへの関心が全くと言っていいほどありません。もちろん「ロンドンの五輪」に無関心というわけではなく、オリンピックそのものにいまいち興味がわかないということです。
従って開会式のセットが発表されたというニュースが日本のメディアでどの程度取り上げられたのかさっぱりわかりません。当たり前のことですが英国のメディアでは大きく伝えられていました。Danny Boyleという映画監督が演出するものでテーマは英国の田園風景。上の写真がその模型なのだそうです。
にわとりやヒツジがのんびり放牧されている傍では人間がクリケットをやっている、空には雲が浮かんでおり雨まで降ってくる・・・つまり殆ど可笑しくなるほど典型的な英国の田園風景で、ご丁寧にもM25というロンドン外環高速道路(交通渋滞で有名)まで「散歩道」としてフィーチャーされている。にわとりだのヒツジだのクリケットだのがすべて本物なのだそうですね。
オリンピックの開会式というと大体において自国を売り込むという目的もあって世界中の度肝を抜くド派手な演出をするのが普通で、北京五輪などがその典型であったわけですが、The Economistのブログは、「英国の場合はアイロニーを売り物にしようとしているようだ」(Britain appears to be selling irony)と言っています。
▼にわとりやヒツジの「本物」はともかくクリケットの本物はどうするのかと思ったらパントマイムでやるのだそうですね。本当でしょうか?イングランドを歩くと小さな村にもクリケットのグラウンドがあるのですが、私は何度見てもさっぱり分からない。クリケットが主なるスポーツとして楽しまれている国としては豪、バングラデッシュ、イングランド、インド、パキスタン、ニュージーランド、南ア、スリランカ、ジンバブエ、西インド諸島の10か国があります。これらは国際クリケット協会(International Cricket Council)の正式メンバーです。これ以外に準メンバー国としてアフガニスタン、カナダなど6か国がある。これ以外の国でもプレーはされているところはあるけれどいずれもごく少数の人々です。
▼サッカーと並んで英国(イングランド)人が最も興奮するスポーツであるクリケットですが、今回の五輪競技にクリケットは含まれていないし今後も含まれるかどうか・・・。実は昨年(2011年)6月にロゲIOC会長が2020年の五輪にクリケット含める可能性を示唆したのですが、7月に発表された競技リストにクリケットは入っていなかった。競技が長すぎる(最短でも3時間)ということがあるけれど、なんといってもクリケットが主なるスポーツとなっている国が少ないということがある。サッカーのFIFAの場合、加盟国は208もあるのだそうですね。あまりにも違いすぎる。
▼野球はどうかというと、2009年のWorld Baseball Classicに参加した国は16、2013年は23か国(予定)だそうです。これも少なすぎる。
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2)ウガンダ・アスリートたちの怒り
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上の写真、クリックすると大きくなります。大きな文字でWelcome to THE LIGHT OF NEW HOPEと書いてあって、その右側にRYUHO OKAWAとあります。6月23日付のBBCのサイトに出ていた記事で使われている写真なのですが、横断幕が張られているのはアフリカのウガンダにある国立競技場(national stadium)です。記事の見出しは
- Uganda athletes anger at Happy Science Olympic mix-up
となっている。ウガンダのアスリートたちがHappy ScienceとOlympicの混乱に怒っているということですね。
Happy Scienceは日本の「幸福の科学」という「宗教組織」なのですが、6月23日にRYUHO OKAWAという指導者による大集会がこの競技場を使って行われた。ちょうどその日がロンドン五輪に向けたウガンダの陸上競技選手の選考会にあたったのですが、「幸福の科学」とウガンダ陸上競技連盟(Uganda
Athletics Federation)の二者による会場のダブルブッキングが判明、陸上競技連盟の側が折れて、別の会場で選考会を行うことになった。ただ別の会場は国立競技場に比べるとグラウンドの状態も悪く、それがゆえにまともな記録が出なかったことで、何人かのアスリートが五輪出場を断念せざるを得なかったというわけであります。
BBCの記者によると「幸福の科学の金がアスリートによる競技会に勝ったのだ、という雰囲気だ」(Happy Science's money enabled them to get the venue over the athletics meeting)とのことなのですが、幸福の科学の関係者であるBrian Rycroftという人は「6月23日の会場予約は第三者を通して行ったもので、そのような混乱があったとは知らなかった」とコメントしています。
幸福の科学の集会(アフリカ初)には数千人が参加したのだそうですが、ウガンダの宗教関係者の間でも幸福の科学に対する批判があり、カルト呼ばわりする宗教指導者もいる、とBBCは伝えているのですが、幸福の科学のRycroft氏は「カルト呼ばわりは根拠がない」として
- 入会したい人は人種、宗教の如何を問わず誰でも歓迎される。幸福の科学に残りたくないと思えばいつでもやめられる。
People are welcome to join us from whatever background race or religion. And they're free to leave anytime too if they don't want to stay in Happy Science.
と強調しています。
▼ネットで調べたらウガンダにはNew Visionという日刊紙があるのですが、そのサイトに出ていた記事によると、ウガンダのIryn Namubiruという女性歌手が首都カンパラにあるSheratonホテルで行われたHappy
Science主催のパーティーで一曲歌って700万シリング(ウガンダの通貨単位)の出演料を手にしたとのことです。これをドルに直すと2835米ドル。ユニセフのサイトによると、ウガンダ人の平均年収は490ドルとなっている。私の計算に間違いがなければ、この歌手はたった一曲歌っただけでウガンダ人の平均年収の5年分を超えるお金を手に入れたことになる。New
Visionの記事は、この歌手が「銀行に行くまで笑いが止まらなかった(smiled all the way to the bank)」と伝えています。当たり前!
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3)国の豊かさ:GDPからIWIへ?
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6月30日付のThe EconomistにThe real wealth of nations(真の国富とは)という記事が出ています。国の豊かさというものを測る新しい物差しが出てきたというレポートです。従来のGDP(国内総生産)とは異なる基準という意味です。国連環境計画と国連大学が、ケンブリッジ大学のSir
Partha Dasguptaという経済学者らの協力でまとめた報告書(Inclusive Wealth Report 2012)に書かれているものです。
Dasgupta教授らによると、これまで国の経済力の象徴として使われてきたGDPは「モノやサービスの流れ」(a flow of goods and services)を金銭で表すもので、いわば国の「収入」(income)を測りはするけれど、その国がストックとして保持している財産(a stock of assets)は分からない。GDPで国の経済力を判断するのは、企業の業績を見るのに四半期(3か月)の利益だけを見て判断するようなものであり、それでは本当の収支決算書を見たことにはならないというわけです。
そこで教授らは国の持つ富(wealth)を物理的資本(physical capital:機械・建物・インフラのように人間が作ったもの)、 人間資本(human
capital:人々の教育レベルや技術力)、自然資本(natural capital:河川・森林・天然資源など)の3つの「資本」に分けて考え、これらの要素を全部まとめて金銭で表そうとしているものです。教授らはこれをinclusive
wealth(包括的な豊かさ)と呼んでいるのですが、要するに「人間が作ったもの」「人間そのもの」「人間ではどうにもならない自然環境」などを一切合財をまとめて評価することで、それぞれの国がGDPでは表せない「豊かさ」をどの程度ストックとしてため込んでいるかということを金銭の数字で表そうということです。
調査対象となった20か国は各大陸から、高・中・低所得の国々を選んだもので、あわせて世界人口の56%、世界GDPの72%を占めています。そのうちの上位10か国の2008年の「包括的な豊かさ」(Inclusive
Wealth:IW)を次のようにランク付けしています。
アメリカのIWは117.8兆ドルでダントツ、この年(2008年)のGDPの10倍にあたるのだそうです。2位は日本で55.1兆ドル、3位の中国(20兆ドル)の2倍をはるかに超える豊かさを享受していることになっている。ただ1990年から2008年までの18年間におけるIWの成長率を見ると中国は2.1%でダントツの伸び率です。
国民一人当たりのIW(inclusive wealth per person)では日本が1位、アメリカは2位となっています。日本・英国・フランスに共通するのは「自然資本」がほとんどゼロに近いこと。カナダ、オーストラリア、サウジアラビア、ベネズエラなどは石油や鉱物資源が豊富であるというわけで「自然資本」は非常に大きい。日本がトップに立っている最大の要因は「人間資本」(human
capital)が大きいこと。この表におけるhuman capitalの比較は「国民の平均教育年数」「平均賃金」「引退(もしくは死亡)までの労働年数」などが計算されているのだそうです。ただ日本の場合、物理的な資本(機械・インフラなど)でもトップに立っているというのがすごいですね。
▼そもそも「経済」にまつわる言葉というのは、なんだか分からないものが多いですよね。ネットを見ていたらGDPの意味について「GDPは国内で新たに生産されたモノやサービスの付加価値の合計額のことをいう」と書いてあった。分かります?Dasgupta教授が提唱するIWも(私には)はっきりは分からないし、教授自身がこの概念については「いまだに荒削り」(still
crude)と言っている。ただGDPにしてからが、いまから70数年前に言い出されたときには大いにcrudeであったのが、いつの間にか経済統計の定番のようになってしまったのだそうです。
▼IWの場合、人間資本や自然資本などは金銭には直しにくい(priceless)ものを金銭に換算することの難しさがあるのですが、それをやるのが経済学というものだ、という考え方もあるのだそうですね。経済学者の間でそのようなものの典型がミツバチの飼育だとされている。ミツバチを飼うと蜜がとれ、それを販売する・・・これが経済活動です。ただ飼育された同じミツバチが樹木に授粉する行為はどうなのか?米バーモント大学の教授の研究によると、コスタリカのコーヒー園で育っているコーヒーの木に対するミツバチの授粉活動がコーヒー業者にもたらす利益は年間6万2000ドルなのだそうです。自然資本の金銭的表現というわけです!
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4)アイルランド人の3・11
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上の写真、Le Monde Diplomatique(LMD)の昨年9月号のサイトに出ていたものでタイトルはYorugohan(夜ご飯)となっています。‘Ganbaro’, keep fighting onという見出しの短いエッセイと一緒に掲載されているのですが、写真を撮影し、エッセイを書いたのはアイルランド人の作家(writer)でRonan
MacDubhghaillという人です。2011年3月11日に仙台に滞在していて東北大震災に遭遇したのだそうです。エッセイが掲載されたのは震災後6か月のことです。このほかにもいろいろな写真が掲載されています。
震災後の東北地方の写真が20枚ほど掲載されているのですが、全体のテーマは人々の復興活動です。MacDubhghaillは地震直後の自分の体験について次のように記述しています。ちょっと長いのですが紹介します。
- 地震の直後、この災害の規模が分かる前、私は最悪のことを怖れていた。つまり人々がお互いを襲撃し合うという事態である。そうなると外国人である私はターゲットになるだろうということである。が、実際はぜんぜん違っていた。街で人々は私に近づいてきて、何か助けが必要なことはないか?食べ物は十分にあるのか?などと聞いてきたのだ。一度ならず、である。あとから分かったことがある。それはよくある現象であるということだ。つまり大災害のあとには大混乱と暴力的な無政府状態が出現するというのは大体において作り話であるということだ。危機的状況になると、人間の精神というものは本当の強さを発揮するということだ。団結するということである。
Immediately after the quake, before I knew the full scale of the disaster, I feared the worst. I thought people might turn on one another, and perhaps being a foreigner would make me a target. The truth was very different. More than once, I had people approach me on the street, asking if I needed any help or had enough to eat, when they were themselves struggling. I later discovered that this is a common phenomenon; chaotic and violent anarchy following a disaster is largely a myth. It is in times of crisis that the human spirit can show its true strength, through solidarity.
MacDubhghaillの目には、大震災という悲劇を生き残った人々は前進しようと決意しているように見えるのですが、その理由は
- 外部の観察者や見物人にとってはここは災害の現場かもしれないが、仙台市、宮城県、東北地方の人々にとって、ここは家(ホーム)なのだ。
To observer and, onlookers, this is a disaster zone. To the people of Sendai, Miyagi and Tohoku, it is home.
と伝えています。
▼大震災や福島の原発事故を大々的に伝えるメディアの報道についてMacDubhghaillは「それらの報道は事故をじっと眺める我々の暗い欲求を満たす」(This
feeds the same dark desire that makes us stare at accidents)と言っています。悲惨な交通事故の映像などを見て「こわいね~」とか言いながらも結構楽しんでいる「暗い欲求」です。彼によると、そのような悲惨なイメージのみに焦点を当ててしまうと「事態の全体像が見えなくなる」(to
ignore the full picture)として、大震災に遭いながらもGanbaroと言っている人もいることに眼を向けるべきだと言っている。
▼ちなみにYorugohanという写真のキャプションは「わずかな食べものをみんなで分け合っている風景」(What little food that
was available was shared out between anyone that needed it)となっています。外国に知ってもらいたい「日本」はこれなのですよね。前の記事にある日本人が世界一である「人間資本」(human
capital)というのはこういうことに表れるのだと思うのですが・・・。
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5)日本の平和度・イラクの平和度
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The EconomistグループのThe Economist Intelligence Unit (EIU) が Institute for
Economics & Peace(経済・平和研究所)という国際機関と共同で毎年作成しているGlobal Peace Index(GPI:世界平和度指数)の2012年版が発表されたのですが、それによるとトップ5はアイスランド、デンマーク、ニュージーランド、カナダ、日本の順、ボトム5は(下から順に)ソマリア、アフガニスタン、スーダン、イラク、コンゴ民主共和国となっています。
世界158カ国の「平和度」を数字化したものなのですが、どのように数字化するのかというと、「政治テロが起こる可能性」「軍事費の対GDP比」「暴力的デモの可能性」「紛争による死者」「隣国との関係」等々、23にのぼる項目が挙げられ、それぞれに1~5の評価ポイントを付けていき平均値を比べる。ポイントが1に近いほど平和度が高いということになる。
例えば日本の場合、政治テロの可能性についてのポイントは1.5だから「ほぼ平和」ということです。「軍事費の対GDP比」は1.3ですが「軍事能力」は4.0と平和には程遠い。米英の数字に比べて日本が確実に劣るのは「隣国との関係」という項目で評価は3.0、アメリカの2.0、英国の1.0に比べると平和度指数という意味では劣っている。ちなみに5位の日本の総合平均点は1.326、アメリカ(88位)は2.058、英国(29位)は1.609などとなっています。
トップ5の国々の人口を見るとアイスランド(32万)、デンマーク(550万)、ニュージーランド(420万)、カナダ(3400万)などとなっています。一番多いカナダでさえ日本の3分の1程度です。日本は人口の割には平和度が高い。
ただ私が最も意外かつ複雑な気分にならざるを得なかったのはイラクです。158カ国中155位ですよ。イラクのあとにはスーダン、アフガニスタン、ソマリアしかいない。評価項目のポイントを見ると、「社会における犯罪発生の可能性」「警護官・警察官の数」「武器入手の容易さ」などで最悪の5ポイントであり、「政治テロの可能性」、「難民の発生」、「国内紛争による死者」などでも4.0と平和にはほど遠い。ブッシュのアメリカ、ブレアの英国がイラク戦争を始めたのが2003年3月20日、ブッシュ大統領が「大規模戦闘終結宣言」なるものを出したのが同じ年の5月です。あれから9年経っているのに「平和度」はいまだに下から4番目というわけです。
昨年12月、駐留アメリカ軍の最後の47000人が撤退したのですが、国内紛争はいまだに続いており2011年の1年間で市民の死者は4087人にのぼっている。あえて事態の好転を示す数字を探すと、戦争によって難民として国を出ざるを得なかった人々が徐々に戻りつつあるのだそうですが、それでもシリアに100万人、ヨルダンに47万5000人のイラク人が暮らしているとされています。
オックスフォード大学で中東を研究するパレスチナ系アメリカ人のIssa KhalafはOpen Democracyのサイトに「イラクの悲劇(The tragedy that is Iraq)」というエッセイの中で、アメリカはイラクを民主的で安定した豊かな国(a stable,
prosperous democratic Iraq)と言っていたのに、フセイン後のイラクはスンニ派、シーア派のイスラム教徒、クルド人の対立が縦割り的に固定化した社会になっていると言っています。
▼158カ国にうち日本が5位であるということはもちろん悪いことではないけれど、これらの評価項目を見ると、とりあえず戦争や紛争に巻き込まれていないというだけのことで、ラッキーなだけであるとも言えますよね。日本人が自分たちで勝ち取った平和ではないということです。
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6)中国:一人っ子政策の悲惨
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中国の陝西省安康市というところで妊娠7カ月の女性(27歳)が強制的に堕胎させられた事件は日本のメディアでも報道されたと思うけれど、英国のメディアのサイトではベッドに横たわる女性の横に胎児の死体が置かれている、ちょっと見ていられないような写真を掲載したところもあったようです。
よく知られているように、中国では1979年以来、一人っ子政策という方針がとられており、原則として子供は一家族につき一人と決められている。但し「社会維持費」という名の罰金さえ払えば二人目も三人目も認められる。陝西省の女性の場合、二人目の子供を身ごもっていた。The Economistなどの記事によると、陝西省安康市における「社会維持費」は4万元(約50万円)だったのですが、地元の発電所で働く夫の月給は4000元(約5万円)で、とても払えるようなお金ではなかった。そこで夫は内蒙古の炭坑で働いて罰金を稼ぐべく家を出た。その留守に地元政府の家族計画担当官がやってきて無理やり堕胎させてしまった。
この夫婦が払えなかった社会維持費ですが、中国内の場所によって違うのですね。The Economistによると例えば上海の場合、第二子については夫婦それぞれが11万元、第三子は夫婦合わせて43万5000元の支払いを求められる。これは上海市民の年収(月収ではない)の3~6倍にあたる。富裕地域とされる浙江省で130万元(20万ドル)を払った夫婦がいて話題になったことがある。
一人っ子政策が実施されてからこれまでに生まれた「予定外の子供」の数はざっと2億人、中国全土の社会維持費の平均を1万元とすると中国政府が1980年からこれまでに集めた「社会維持費」は2兆元(3140億ドル)と推定されている。
一人っ子政策に反して子供を産み、「社会維持費」が払えない場合、2番目以下の子供は戸籍に登録されることがない。そうなると教育が受けられなくなるのだそうです。「社会維持費」の支払いを拒否したひとが家族計画担当官によって自分の家を壊されたなどという例もある。
尤も強制的な堕胎手術という例は昔ほどの件数ではなくなっている、とThe Economistは書いています。一人っ子政策が始まって4年目の1983年、政府の家族計画委員会によって実施された堕胎件数は1400万だったのですが、30年目の2009年には600万件にまで減っている。その理由は地方の行政当局が、無理やり堕胎させるより生ませて社会維持費を徴収する方が賢明だと考えるようになったということです。
最近では一人っ子政策に反対する声が国内でも大きくなりつつあり、インターネットなどを通じておおっぴらに反対運動をする人も出てきている。ヤン・ジジュ(Yang Zhizhu)という大学教授の夫婦は二人目の子供を産んで社会維持費の支払を拒否したところ大学をクビになり、妻の銀行口座から24万元が強制的に引き出されていた。
いずれにしても一人っ子政策にほころびが出てきていることは事実で、実際にこれが適用されたのは人口の40%以下であると推定されています。またお役人とのコネクションがあると罰金も小さくて済むケースがあるし、地方では一人目が女であった場合は二人目の子供が許されたりするところも出てきているのだそうです。
最初に紹介した陝西省安康市で堕胎を強制された女性の件ですが、堕胎を強制した担当官はクビになり、市当局は女性と夫に謝罪したとのことですが、The Economistは「そのことは事件の表面(symptom)をさわったにすぎず、根本原因(cause)には触れていない」として、女性の夫による無念のコメントを次のように伝えています。
- I had no money to pay the fine. But does that mean we should suffer the grief of losing a child?
私には罰金を払うような金はなかったのですが、それが子供を一人失う悲しみを経験しなければならないということになるのですか?
▼確かに信じられないような乱暴な話です。ただ「だから中国はダメなんだ」という風には考えませんね、私は。この堕胎事件は中国人によるツイッターのような通信手段によって海外にまで知らされた。その部分に注目するべきだと思うからです。めちゃくちゃな政策を推進してきたのも中国人ですが、その暗部を明るみに出したのも中国人です。 |
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7)「メディア規制」に反撃する英メディア
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前回のむささびジャーナルで、メディアと政治家の関係について調査・検証するリーブソン(Leveson)公聴会においてジョン・メージャー元首相が、ルパート・マードックによる政治圧力について証言したことを紹介しました。この公聴会は昨年11月に始まったもので、今年の11月ごろには公聴会を終えて何らかの提言を行うという計画になっています。つまりあと4か月ほどあるわけですが、6月23日付のThe Economistにこの公聴会について気になる記事が出ています。
この公聴会はルパート・マードック経営の大衆紙による電話盗聴事件をきっかけにメディアの世界の倫理がどうなっているのかを調査・検証することを目的にキャメロン首相の肝いりで始まったものでしたよね。キャメロン首相自身も証人として呼ばれたのですが、首相の前にキャメロン内閣の閣僚であるマイケル・ガブ(Michael
Gove)教育大臣が呼ばれて証言した中で、リーブソン公聴会そのものが自由な報道活動に対する妨げになるという趣旨の発言をした。例えば:
- 確かにジャーナリストおよびその他の人たちが許しがたい行為をしたというケースはあるでしょう。しかし我々の中には、メディア規制を考える前に自由を主張する意見というものもあっていいのではないかと考える人々もいるのであります。
I am sure that there are cases where journalists and others have behaved in ways which are deplorable, but some of us believe that before the case for regulation is made, the case for liberty needs to be asserted as well.
という発言です。マイケル・ガブは教育大臣になる前はThe Timesのジャーナリストだった人物で、公聴会ではThe Timesの経営者であるルパート・マードックについて「この50年間で最も印象的かつ重要な人物のひとりであることは間違いない(one of the most impressive and significant figures of the last 50 years)」と証言したりしている。
実はこの大臣は今年2月にも公聴会とは別のところで同じような批判発言をしており、そのことについて公聴会のリーブソン委員長が不満をもらしたということが報道されている。それはそうですよね、キャメロン首相に言われて始まった公聴会の委員長にしてみれば、キャメロン内閣の一員である人物が「公聴会自体がくだらない」などと言っているのでは、一体どうなってるんだと首をかしげたくなるのも不思議ではない。
いずれにしても公聴会終了後に出される報告書では、電話盗聴だの首相に対する圧力だのということが起こらないないようにするためのメディア規制(regulation)に関する提言がなされることになるわけですが、The Economistによると、現役の主要政治家の間でもこの公聴会に対する態度はさまざまなのだそうです。ガブ教育大臣のようなメディアについては自由放任主義者もいるし、労働党のエド・ミリバンド(Ed Miliband)党首などは厳しい規制をかけるべきだという考え。キャメロンとは連立の相手である自民党のニック・クレッグ(Nick Clegg)はミリバンドに比べれば穏健派、そしてキャメロン首相はちょうど真ん中あたりとされている。
あの電話盗聴スキャンダル以来報道関係者の間でも意見が一致しているのは、これまでのメディアによる自主規制機関であるPress Complaints Commission(報道に関する苦情委員会:PCC)が役立たずであるということなのですが、それではどうすればいいのかについてはよく分からない。The Economistによると、リーブソン判事のアタマにあるのは業界からも政府からも独立した規制機関なのですが、具体的な姿はいまいちはっきりしていない。報道被害を受けた人が無料でメディア機関と交渉を行える、アイルランドのオンブズマン制度に似たようなものも考えられているらしい。またジャーナリストがメディア企業と契約を交わす際に「良心条項」(conscience clause)というのを契約書に入れることによって、会社から良心に反するような取材命令を受けてもこれを拒否することができるようにするなどというアイデアも提言されている。
この秋に出されるリーブソン提言がなんらかのメディア規制に関するものであることは間違いないのですが、苦しいのはキャメロン首相で、提言を受け入れればTelegraphやDaily Mailのなどの保守系新聞で、しかもキャメロンの「進歩的保守主義」を右側から攻撃している新聞の怒りを買うし、マードック系列の新聞(The TimesやThe Sunおよびその日曜紙)もここぞとばかりキャメロン攻撃をする可能性もある。かと言って、リーブソン報告を拒否すれば「プレスに甘い」と言われるし、何のための公聴会だったのか?と非難される。どっちへ転んでも苦しい立場に置かれてしまう。
一方、Open Democracyというサイトが6月18日付で掲載しているキングストン大学でジャーナリズム科の講師をしているBrian Cathcartという人(元The
Independent副編集長)のエッセイも、リーブソン公聴会に対するメディアからの反撃はすでに始まっていると言っています。メディア側がメガホンを持って自分たちの主張をがなり立てるもので、リーブソン公聴会の声をかき消してしまおうというメディアによる「メガフォン大作戦(Operation
Megaphone)」というわけです。一つの例が6月16日付のDaily Mailで、一面にでかでかと
- LEVESON'S 'THREAT TO QUIT' OVER MEDDLING MINISTER
という見出しを掲げている。「おせっかい大臣(ガブ教育大臣のこと)をめぐって辞任をほのめかすリーブソン」という意味です。これだけ見るとガブ大臣に対する批判記事のように見えるけれど、実際にはガブ大臣が2月にジャーナリストを相手に行ったスピーチの中で「リーブソン公聴会は報道の自由に対する侵害だ」と述べたことを再度報道するために掲載されたものだ、とBrian
Cathcartは主張しています。6月16日付のDaily Mailのサイトを見ると、真ん中あたりに今年2月のガブ大臣の発言を伝える同紙のコピーがでーんと掲載されている。いかにもわざとらしい。
Cathcartによると、メディアによるリーブソン攻撃は、自分たちだけは絶対正しいとする「メディアによる権力の乱用」でありこれは「いまに始まったことではない(old and familiar abuse of power)」のだそうです。
この「いまに始まったことではない」についてですが、ウィキペディア情報によると、終戦直後の1949年に新聞による不正確な報道や政治的な偏りが問題になり報道関連審議会(Royal
Commission on the Press)という場が持たれたことがある。その際に「無責任なジャーナリズムを監視し”報道の自由とプレスティージを守る」ことを任務とするGeneral
Council of the Press(報道に関する一般審議会)の設立が提案され、1953年のPress Councilという組織の設立につながった。
▼このように政治家、警察、メディアの関係者を呼んでメディアの世界について証言させるという公聴会も珍しいと思うのですが、その結果として出てくる報告書や提言をどうするのかというのは微妙な問題ですよね。政府の力で(法律で)メディア規制をするのは、言論の自由を標榜する国としてはやりにくい。結局、メディア側の自主的なモラルの向上に頼らざるを得ないということになるのかもしれない。
▼キャメロンは、なるべく穏便に済まそうとすると思いますが、それでもこの公聴会は意味があると(私は)思います。自分たちでは絶対に明かさないメディアの振る舞いが明るみに出ただけでも貴重です。しかも証言が速記録としてネット上に公開されており、リーブソン公聴会の主宰者が削除しない限り永遠に残る。本当ならこの種の公聴会は日本でもやってもらいたいくらいです。「報道の自由への権力の介入だ!」とか言ってメディアは大騒ぎをすると思うけれど、野田さん、ぜひやってみせて!
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8)どうでも英和辞書
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A-Zの総合索引はこちら |
superstitions:迷信
どの文化にも迷信はありますよね。日本の場合の代表例は「霊柩車を見たら親指を隠さないと親の死に目会えない」「ミミズに小便をかけるとおちんちんが腫れる」などかな。「霊柩車」の迷信は「親が死ぬ」だと思っていたし、「おちんちんが腫れる」のは「たき火をしょんべんで消した場合」ではなかったのか。
英国の場合、よく言われるのは「梯子(はしご)の下をくぐると不運が起こる」(walking under ladder will bring a bad luck)「塩をこぼすと悪いことが起こる」(it is bad luck to spill salt)など。
アメリカ人や英国人を前にしてくしゃみをすると、なぜか"Bless you!"と言われますよね。"101 American Superstitions"という本によると、くしゃみをすると「心」(soul)が体から出ていくとされており、これを防ぐために神様に祝福してもらうようにお願いする。God bless you!が本来ですが、普通はGodは言わないらしい。
迷信といえば笑ってしまったのは、関西のコメディアン、上岡龍太郎にまつわるものだったですね。上岡さんはめちゃくちゃな阪神ファンなのですが、あるときラジオでナイターを聴きながら畳にすわって足の爪を切っていたところ田淵がホームランを打った。それ以来、田淵がバッターボックスに入るたびに足の爪を切ってみたのですが、深爪しただけのことだったとのことです。タブチには私もさんざ泣かされたっけ!
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9)むささびの鳴き声
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▼2009年9月に民主党政権が誕生したときに、60年以上も続いた自民党政権がついに倒れたということで国全体が大いに盛り上がったのですよね。ただその際に自民党にとって代わった民主党がどのような党であるのかについては大して気に留めていなかった。消費税について自民と民主がどのような態度であったかなんて「聞いてねえもんな」ということだった。だいいち野田さんなんて、いたんでしたっけ?
▼記録のために言っておくと、2012年6月26日午後5時現在のBBCのサイトのトップニュースは「トルコ戦闘機がシリアに爆撃されたことについてトルコがシリアの脅威について警告を発した」というものであったのですが、二番目に大きなニュースとして取り上げられていたのがJapan house passes sales tax bill(日本の議会、消費税法案を通過)というものでした。
- 日本の衆議院が、問題になっている野田首相の消費税を2倍にするという計画を支持したが、今回の投票によって政権与党内部の根深い対立があらわになってしまった。
Japan's lower house backs PM Yoshihiko Noda's controversial plan to double sales tax, but the vote lays bare a deep rift in the ruling party.
▼消費税値上げ、TPP、脱原発などの善し悪しについて、いろいろな「識者」がいろいろなことを言っておりそのどれもが尤もらしく思えてくる。が、確かなことなど誰にも分からない。私に関していうと消費税値上げとTPPは賛成であり、原発は反対であるわけです。ただ「こんな景気のときに消費税を上げたら余計ひどいことになる」とか「TPPはアメリカの陰謀であり日本の農業をダメにする」とか「原発なしでは日本の経済は立ちいかない」等々と言われると、そうかもしれないなと思ったりする。
▼で、いま選挙があったらどの党に投票するか?私は民主党でしょうね。理由を挙げると長くなってしまい、しかもさして説得力のあることが言えるとも思えないので、直感的なことだけ言っておくと「自民党もダメだったけど民主党はもっとダメだったな」という評論家のような考えを拒否したいと思うからです。「政治というのはbetterではなくless badを選ぶこと」という自分なりの現実感覚にこだわりたいということでもある。いまの日本が抱えているとてつもない借金、事故が起こってもなすすべもない原発・・・いずれも自民党政権時代に蓄積された垢のようなものです。なのに何らの責任も問われていない。だから民主党に投票するわけです、私は。ダメさ加減が少ないから。
▼ところで6月30日付のThe Economistが民主党の小沢さんについてA shadow of a shogunという記事を掲載しています。これまで小沢さんというともっぱらshadow shogun(闇将軍)と表現されていたはずなのに、この記事は「将軍の影」となっている。記事のニュアンスとしては、日本政治における小沢という政治家の影響力がようやく薄れていく(fading)というものです。
▼この記事によると小沢さんという人は「優れた戦術家(brilliant strategist)」ではあったけれど、no man of the peopleであったとのことです。「国民のための政治家ではなかった」というニュアンスですかね。その証拠として
- 昨年、津波が岩手県を壊滅したとき小沢氏はほとんど東京にいて、自分の政治仲間と酒を飲みながら当時の首相を引きずりおろす策略を練っていた、と報道されている。
When the tsunami battered Iwate last year, he stayed for most of the time in Tokyo, reportedly drinking sake with his political friends and plotting the downfall of the prime minister of the day.
▼と書いています。いわゆる「菅おろし」の作戦会議をやっていた、と報道されている(reportedly)わけですね。小沢さんはいまや実物の将軍というよりも将軍の「影」にすぎなくなっているというのがA
shadow of a shogunという見出しの意味なのかもしれない。The Economistは小沢さんのことを「過去25年間で最も影響力のある政治家(most
influential politician of the past 25 years)」と表現しています。 日本語というのは面白いですね。influentialという英語は「影響力」と訳される。「影響」の語源は何なのでしょうか?影を響かせて相手に恐怖心を与えるってこと?
▼今回も長々とお付き合いをいただき有難うございました。2012年もとうとう半年過ぎてしまいましたね。おそらくあっという間に秋が来るのでしょう。
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