1)「中国は北朝鮮を見捨てるべきだ・・・」!?
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2月27日付のFinancial Times(FT)のサイトにChina should abandon North Koreaという見出しの記事が出ています。「中国は北朝鮮を捨てるべきだ」という意味ですよね。書いたのはDeng Yuwenという人なのですが、FTにはStudy Timesという新聞の副編集長(deputy editor)と書いてある。Study Timesは中国語名が「学習時報」で、中国共産党の高級幹部を養成する機関である中央党校(Central Party School)の機関紙なのだそうです。
中国のことなどほとんど何も知らないむささびですが、中国共産党に関係のある組織の機関紙の「副編集長」という肩書の人が、Financial Timesのような国際メディアのサイトに載せるにしてはずいぶん刺激的な見出しだと思いました。どの程度の重要性があるのか分からないけれど中身を紹介してみます。まずイントロは次のような文章になっています。
- 最善の策は韓国との統一を促進するべく、そのための音頭とるということである。
The best way is to take the initiative to facilitate unification with South Korea
この文章には主語がないけれど、どう見ても「中国」がそれですよね。つまり中国が南北朝鮮統一の音頭をとるべきだと言っているわけです。筆者は中国が北朝鮮を「捨てる」(abandon)理由として6つほどポイントを挙げている。
- ポイント1:国家と国家がイデオロギー(思想)を基礎とする関係を保とうとするのは危険である。
- a relationship between states based on ideology is dangerous.
現在の中国は欧米との関係がきわめて密接なわけですが、これはいわゆるイデオロギーによる結びつきではない。それどころか中国と北朝鮮は社会主義同士であるにもかかわらず、両者の違いは中国と欧米よりも大きい、とDeng Yuwen氏は言っています。
- ポイント2:中国の安全保障の基盤を地政学的な同盟国としての北朝鮮に求めることは時代遅れである。
basing China’s strategic security on North Korea’s value as a geopolitical ally is outdated.
北朝鮮による核の脅威を感じたアメリカが、北朝鮮に先制攻撃を仕掛けてきたら中国は同盟国として助けないわけにはいかない。ということは火の粉が中国にも降ってくるということ。北朝鮮は冷戦期には「役に立つ友人」(useful friend)であったかもしれないが、いまや使い道(usefulness)があるかどうか疑わしい、と言っています。
- ポイント3:北朝鮮が改革・開放路線を歩むとは思えない。
North Korea will not reform and open up to the world.
金正恩体制になってからもさしたる改革が行われる気配はない。ひとたび開放のドアが開かれるや現体制そのものが崩壊する可能性もある。「どうせダメになる体制や国と関係を保つ意味があるのか?」(Why should China maintain relations with a regime and a country that will face failure sooner or later?)とこの副編集長は言っています。
- ポイント4:北朝鮮は中国から離れて行っている。
North Korea is pulling away from Beijing.
朝鮮戦争において中国は北朝鮮のために大いなる犠牲を払ったのであり、両国は血で封印された友情関係(friendship sealed in blood)にある・・・と考えるのは中国人。北朝鮮は自国の隣人に対してそのような感情は全く持っていない。Deng Yuwen氏によると、朝鮮戦争で国連軍を38度線まで押し戻すについて中国人が大変な犠牲を払ったにもかかわらず、これがすべて金日成のお手柄にされている。北朝鮮は「中国との絆(Chinese bond)」を断ち切ることで独立と自治を勝ち取りたいと思っている・・・とこの中国人編集者は主張しています。
- ポイント5:北朝鮮がひとたび核兵器を手に入れたら、あの移り気な金体制が核を使って中国をだまし討ちにする可能性は捨てきれない。
Once North Korea has nuclear weapons, it cannot be ruled out that the capricious Kim regime will engage in nuclear blackmail against China.
副編集長は、スタンフォード大学のXue Litai教授のハナシとして、2009年にビル・クリントン元米大統領が北朝鮮を訪問したときのことを伝えています。それによると金正日総書記(当時)がクリントン氏に向かって、北朝鮮が貧しいのは中国のせいだと言って、アメリカが北朝鮮を助ける気があるのなら北朝鮮はアメリカのために対中国の砦となることもできる・・・などと伝えたのだそうで、場合によっては中国に圧力をかけるために核兵器を使う可能性にまで言及したのだそうであります。
以上のようなわけで、中国は北朝鮮を見捨てることを考えた方がいい(China should consider abandoning North Korea)として、そのための最善の策は中国が音頭をとって北朝鮮と韓国の統一のためのイニシアティブをとることだ・・・とのことであります。朝鮮半島の統一をもたらすことによってワシントン・東京・ソウル間の戦略的同盟関係(strategic alliance)を弱めることができる。そのことが北東アジアにおける中国への圧力を和らげ、台湾問題の解決にもつながる・・・とDeng Yuwen副編集長は申しております。
▼私、国際政治のやりとりなど全く門外漢なのであり、Deng Yuwen副編集長なる人物がどれほどの影響力を持っているのかも全く分かりません。はっきり分かっているのは、Financial Timesという新聞が中国のいわゆる「西側」のメディアの中でも、かなりの影響力を有している存在であるということだけです。アホらしいギャグは掲載しない。ということは、この副編集長はこれらのことをマジで言っているということですよね。この人がFinancial Timesというメディアのサイトでこのような考え方を発信する・・・どうなっているのでしょうか?
▼「イデオロギーに基づく関係はあてにならない」「北朝鮮はもう使いものにならない」「北朝鮮は恩知らずである」・・・いずれもちょっと正直すぎる言い回しですよね。このような感覚で中国がイニシアティブをとる南北統一ってなんなのか。韓国内の統一を望む人たちはどのような感覚でこれを読むのか?分からないことだらけです。誰か教えてくれません? |
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2)イラク戦争開始から10年目:ブレアの目算違い
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前号のむささびジャーナルの「英国史上最大の反戦デモから10年」という記事でも触れたとおり、3月20日はイラク戦争が始まってからちょうど10年を迎えます。前号でも紹介したとおり、2013年の世論調査の世界では、ブレア政府がアメリカ政府に同調してイラク爆撃に参加したことは間違っていたというのが多数意見です。ところで、そのブレア首相が2月26日、BBCのニュース番組(Newsnight)に出演、イラク戦争への英国の参加について語ったのですが、その内容が新聞各紙のサイトで伝えられています。いずれもブレアさんの発言の中からピックアップして見出しにしています。
- BBC: 10年後のイラクの生活は私が期待したようなものではないようだ
Life in Iraq 10 years on not as I hoped
- Guardian:サダム・フセインの政権下では今日のイラクはもっともっとひどい状態になっていたはずだ
Iraq would be far worse today under Saddam Hussein
- The Independent: イラクはいまだに長くて厳しい戦いに直面している
Iraq still faces 'long, hard struggle
- The Times: イラクの戦争が正しかったということを国民に説得することをあきらめました
I’ve given up trying to convince people that war in Iraq was right
- Telegraph:イラク戦争後10年、英国民はいまだに私に対してきわめて攻撃的です
People are still 'very abusive' to me 10 years after the Iraq War
いずれもあたかもブレアが(イラク爆撃を)後悔しているかのように響くかもしれないけれど、全然そうではない。「現在のイラクは昔より安全な国になったのか?」という問いに対する答えがブレアのメッセージなのではないかと思います。
- (イラクが安全なところになったかと問われれば)そのようには言えないでしょう。しかし私の見解によるならばサダム(フセイン・イラク大統領)を除去した結果として、それなりに(以前よりは)安全であると言えるでしょう。つまり我々は(世界を安全な場所にするための)この戦いの真っただ中にいるのだと思うのです。戦いは一世代は続くでしょうし、極めて辛く、困難なものになるでしょう。
No I wouldn’t say that. But what I would say is it is safer, in my view, as a result of getting rid of Saddam. In other words I think we are in the middle of this struggle, it’s going to take a generation, it’s going to be very arduous and difficult.
- 戦死者のことや2003年以後に起こっているさまざまなトラブルのことを考えないのか?と言われれば、もちろん考えますよ、と言いたい。死んだ人のことを考えないのは非人間というものです。が、サダム・フセインがまだいたとしたらどうなっていたのか?ということを考えてください。
So when you say “do you think of the loss of life and the trouble there’s been since 2003?” of course I do and you would be inhumane not to. But think what would have happened if he’d been left there.
要するにいろいろと批判はあろうが、あの悪者独裁者(フセイン大統領)をやっつけたのだから、その分だけ世界は安全な場所になったという事実を忘れないで欲しいと言っている。ブレアによると、イラク爆撃への参加決定は極めて「複雑かつ困難」(complex and difficult)な決定ではあったけれど正しい決定だった。世界を安全な場所にするためには、シリアやイランでも同じような問題に直面するだろうということであります。
さらにブレア元首相は「戦争で家族を失った人々のことを考えないではないが」として
- 最終的には首相に選ばれたということは、そのような(複雑かつ困難な)決定をしなくてはならないという意味でもあるのですよ。
In the end you are elected as prime minister to make these decisions.
と訴えています。
英国軍はイラクから2009年4月に撤退しているのですが、英国軍兵士の死者は179人(うち139人が戦闘による死者)となっています。イラク人の死者は民間人も含めて約10万人と推定されていますが、これはかなり控えめな推定だそうです。
▼Newsnightにおけるブレアさんのインタビューの動画はここをクリックすると見ることができます。
▼英国人の死者数はぴったりなのに、イラク人の犠牲者数については「少なく見積もっても10万人」とやけにおおざっぱです。
▼「イラクが安全な場所になったのか」という問いに対して、「フセイン大統領がいなくなった分だけ安全になった」という答えをする中で、ブレアさんは"in my view"という言葉を挟んでいます。「自分の見方によれば」という意味ですよね。私(むささび)は以前からブレアさんのコメントにin my viewもしくはそれに類する表現(I myself believe / you may have different views from mine等々)が非常に多いことが気になっています。よく言えば「信念」ですが、別の言い方をすると「意見はいろいろですよね」と言うことで議論を封じてしまうやり方です。一種の開き直りですね。 |
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3)イラク戦争は正しかった!
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イラク開戦から10年、ブレアとBBCのインタビューが話題を呼ぶ中で、2月26日付のGuardianが、2005年8月から2006年12月まで、ブッシュ政権下でアメリカの国連大使を務めたジョン・ボルトン氏の「イラク攻撃は正しかった」という趣旨のエッセイを掲載しています。
のであり、アメリカおよび同盟国の軍事行動によって「中東全域および全世界に向かって(我々の)力と決意の強さの明確なシグナルを送ることができたのだ」(sending an unmistakable signal of power and determination throughout the Middle East and around the world)と主張しています。
ボルトン氏のエッセイは、イラク戦争反対派が世界中にデマ(myth)を振り撒いているとして、デマの例をいろいろ挙げているのですが、最初のものだけ紹介してみます。そのデマというのは
- イラクはフセイン政権時代よりも状況が悪くなった。
Iraq is worse off now than under Saddam
というものです。
ボルトン氏によると、現在のイラクはサダム・フセインという独裁者がいなくなっただけ、以前より状況は改善しているのであり、もし国内的な混乱があるとすればそれはイラクという国の歴史(さまざまな部族を独裁者がまとめていたという歴史)によるものであってアメリカ軍による攻撃が引き起こしたものではない。アメリカと同盟国が独裁者を追放したおかげで、イラク人は少なくとも新しい社会を作り上げる機会に恵まれているではないか・・・というわけで、その状況を第二次世界大戦で同盟国が破った日本とドイツに譬えています。敗戦国であった日本とドイツは新しい社会を作り上げたではないか・・・として次のように語っています。
- (第二次大戦の敗戦国が新しい社会を築いたかもしれないが)アメリカは真珠湾攻撃の後に(日本と)戦争したのは、敵の国家建設を助けるためにやったのではない。いずれにせよ、問題はイラク人の生活を向上させるということにあるのではない。あくまでもアメリカおよびその同盟国にとってより安全な世界を確保すること・・・それが問題であったのだ。
But we didn't wage war after Pearl Harbor to do nation-building for our enemies. And, in any event, the issue was never about making life better for Iraqis, but about ensuring a safer world for America and its allies.
つまりアメリカや英国がイラク爆撃に踏み切ったのは、フセインという独裁者を追放することで世界を安全な場所にすることが目的であったのであり、イラク人の生活を向上させるためにやったのではないのだから、現在イラク人の生活がどうなっていようとそれはイラク人の問題であるということです。
サダム・フセインは大量破壊兵器など隠していなかったではないか・・・というイラク戦争反対派からの批判についてボルトン氏は、大量破壊兵器があってもなくてもサダム・フセインは中東および世界の平和と安全にとって戦略的な脅威であったのだとして次のように主張しています。
- ひとたび国連の経済制裁が解除され、兵器の査察官もいなくなれば、サダム・フセインは直ちに大量破壊兵器の開発計画に立ち戻ったであろう。10年前のフセインはほとんどそのような立場にあったのだ。
Once free of UN economic sanctions and weapons inspectors, which 10 years ago he was very close to achieving, he would have immediately returned to ambitious WMD programs.
ボルトン氏は現在のオバマ政権が、軍事費を減らすという方向に向かうのであれば、アメリカは世界中から撤退することになるだろうとして、まさにそれこそがイラク戦争反対派が望んでいることだとしています。しかし彼によると、そのような状態が実際に起こるならば、イラク戦争反対派は大いに後悔することになるだろう・・・と言っています。
▼ずいぶん乱暴な言い分だと思いません?フセインをやっつければ世界は「アメリカおよびその同盟国にとって」住みやすいところになるというのです。ボルトン氏のアタマには「アメリカにとっていいこと=世界にとっていいこと」という図式がしっかり定着してしまっている。大量破壊兵器については「持っていようがいまいが」(with or without)フセインは危険人物なのだからやっつけるのだと言っている。
▼さらにボルトン氏は、アメリカは防衛費を減らすことなく世界の警察官であり続けるべきだと主張している。でもアメリカにはお金がないというのが現実であり、オバマが大統領に選ばれた時点で世界はアメリカを中心に動いている状態ではないということをアメリカ人自身が認めたようなものです。
▼私、イラク戦争が起こったときに真珠湾攻撃当時の日本のことを想像しました。私が生まれた年(1941年)の12月のことだった。あのころのアメリカ人や英国人は、日本のことをフセイン政権下のイラクや現代の北朝鮮やイランと同じように考えていたのですよね。日本の独裁政権を打倒することが、「アメリカと同盟国」にとって世界が住みやすくなることに繋がる・・・アメリカにとってそれがright
move(正しい行動)だった。独裁政権の下で暮らしている人々のことは二義的な問題ということです。
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4)ワシントン・ポスト:安倍インタビューの不思議
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はるか昔のことのように思える安倍首相のアメリカ訪問について、元外交官の浅井基文さんのブログを読むまで安倍さんが訪米前にワシントン・ポスト(Washington Post)との単独インタビューに応じていたことを知りませんでした。早速、ワシントン・ポストのサイトをあたってみたところ2月20日付で確かにインタビュー記事が出ていました。見出しは
中国が領土問題をめぐって日本を始めとする近隣諸国に紛争をふっかけているのは、中国共産党が国内的に統制を強める必要に駆られているからだ・・・という意味です。記事を書いたのはChico Harlanという記者のようです。インタビュー記事は、そのほとんどが安倍さんの「中国脅威論」の説明に費やされていて、北朝鮮、日米同盟、TPPのことなど全くゼロでした。
ただ私(むささび)がちょっと奇妙に思ったのは、ワシントン・ポストのサイトにChico Harlanの記事とは別に安倍さんと記者との一問一答がtranscriptとして速記録風に全文掲載されていたということです。これを読むとインタビューの最中に交わされた言葉がそっくりそのまま文字化されているので、安倍さんの言ったことが正確かつ詳細に知ることができます。
安倍さんは、中国脅威論以外に日本経済の現状や自分が再び首相に就任した背景、北朝鮮、TPP、日米同盟などについても語っている。私自身はジャーナリストではないので正確なところは分からないけれど、このような「速記録」をインタビューの記事と同じサイトに併載するなどということは通常はないのではないかと思うわけです(「速記録」はもちろん紙のワシントン・ポストには載っていないと思います)。
そこで最初に書いた浅井基文さんのブログですが、最近のエッセイの中に安倍さんのアメリカ訪問をどのように評価すべきなのかを検討したものがあります。これが非常に面白い。ワシントン・ポストのインタビュー記事と「速記録」は、今回の安倍・オバマの首脳会談、岸井・ケリーの外相会談には必要不可欠なもの、極端に言うと日米首脳会談の一部でさえあったのではないか・・・浅井さんのエッセイを読んでそのような気持ちになったのであります。浅井さんの文章を引用すると
- より注意深く検討してみますと、首脳及び外相会談では、WP(ワシントン・ポスト)での安倍発言をいわば下敷きにして日本側の「認識表明」「説明」があり、オバマ及びケリーはその発言を「歓迎」「確認」「評価」するというスタイルになっていることが分かります。
このような会談では、テーブルを挟んでお互いがそれぞれの認識や立場を述べ合った後に「一致点」や「共通の認識」、「今後の検討課題」などを記すのが通常なのだそうですが、今回の場合、安倍さんは自分の立場をすべてワシントン・ポストとのインタビューで首脳会談の前に述べてしまっている。
- このスタイルを取った会談内容をどう解釈するか、具体的には、アメリカ側の「歓迎」「確認」「評価」が日本側発言のどこまでを含むのか(WPでの安倍発言も入っているのか)について、受け取る側がどう判断するかによって、安倍訪米がその目的を達成した、あるいは逆に空振りに終わったという判断の違いが出てくるのだと思います。
中国脅威論・日本の軍事力増強・集団自衛権・・・ワシントン・ポストとのインタビューには安倍さんが中国についてオバマに言いたかったことが全部入っている。浅井さんによると
- それらを丸呑みにした形でオバマの「同盟強化に向けた日本の取組を歓迎」という短い発言があるということです。
となるけれど、このような変わったスタイルの会談はアメリカにとっても「大きなメリットがあったことも間違いない」と浅井さんは言います。つまり中国を怒らせるような露骨なことは、すべてワシントン・ポストを通じて安倍さんに言わせる。アメリカは単にそれらを「歓迎」「確認」「評価」しただけ。それによってアメリカは「中国の神経をさらに逆なですることは回避できた」わけです。
- そういう意味でも、今回のようなスタイルが取られたことはかなり念入りな細工の産物だったことが窺われます。
と浅井さんは考えているわけでありますが、それもこれもワシントン・ポストのサイト上にインタビューの「速記録」が掲載されて初めて成り立つハナシである、と私は思うわけです。それにしても浅井さんのいわゆる「念入りな細工」を手配したのはアメリカ政府なのか日本政府なのか、それとも両者の合作なのか・・・。
▼私自身の見聞の範囲にすぎないけれど、日本の新聞がインタビューをすると、かなりの部分がインタビューをされた人の発言に割かれるし、掲載の見てくれも一問一答スタイルが多い。英国の場合は一問一答は殆どなく、ほぼ最初から最後まで記者が聴いたことを自分の言葉を通じて読者に伝えるというスタイルが多い。一問一答というよりも普通の記事のような見てくれです。その「記事」の中でインタビューされた人の言葉がカギカッコに入って登場するわけで、どの言葉を登場させるかは記者次第ということになる。
▼ところが今回のワシントン・ポストと安倍さんのインタビューの場合、サイトに関する限り、速記録も併載されているから、記者のChico Harlanが安倍発言のどの部分を取り上げたかがはっきり分かってしまう。これは楽屋裏を見られるようでHarlanにとっては嬉しいことではないのではないか?と思う一方で、安倍さん側にとっては、自分の言葉がそのまま伝わるのだから有難い。
▼私自身のつたない広報マン経験によると、新聞社や放送局がどこかの政府の意向を受けて、記者と取材相手のハナシの「速記録」を掲載するなんて聞いたことがない(もちろん何かの理由で、新聞社が自分の意思でやることはあるかもしれないけれど・・・)。
▼ちなみにChico Harlanによるインタビュー記事(速記録ではない)は後日(2月26日)のGuardianにも転載されています。 |
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5)どうでも英和辞書
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A-Zの総合索引はこちら |
labour:陣痛
3月8日付のDaily Mailによると、3月7日、ロンドンの地下鉄の中で赤ちゃんが誕生するという「事件」(?)があったらしいですね。18時18分、London
Victoria発→Ashford International行きの電車がWest Mallingという駅にさしかったとき電車が少々遅れるという車内アナウンスがあった。夕方のラッシュアワーで混雑しており、このアナウンスに乗客は「またか」とウンザリ。ところがその理由が「乗客の女性の陣痛が始まった」(going
into labour)であるとアナウンスされてびっくり。
世の中、奇跡的なことがあるもので、同じ電車に非番の助産婦、看護婦、警官が乗り合わせ、問題の女性(22歳)を電車の床の上に寝かせて無事女の赤ちゃんを出産させた。時間は夜の7時半であったそうですが、車内は拍手と歓声に包まれ大騒ぎとなったのだそうです。この間の電車の遅れはたったの37分。Daily Mailはremarkable(特筆もの)だと言っております。
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6)むささびの鳴き声
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▼安倍さんのアメリカ訪問の続きですが、左の写真をクリックして見てくれません?小さい写真では分からないけれど、安倍さんのスーツの左襟にバッジが二つついています。オバマのスーツには一つ。ニューズウィーク日本版のサイトを見ていたら、冷泉彰彦さんというアメリカ在住の「作家・ジャーナリスト」が安倍訪米について書いており、安倍さんのバッジについて触れていました。上についている青いバッジは北朝鮮による拉致被害者の救済、下のバッジは五輪の東京招致に関係するものなのだそうですね。
▼冷泉さんによると、「日米首脳会談の席で背広の襟に2つのバッジをつけているというのは、どうしても軽く見える」のだそうです。本当は何もつけないのがカッコイイらしい。オバマさんがつけているのは星条旗バッジなのですが、本当は「自分の愛国心はバッジに示すような目に見える安っぽいものではない」というので、着けていなかったのだそうです。それを批判したのがヒラリー・クリントンで「バッジに愛国心を感じるような庶民感情をバカにしたエリート意識こそオバマの欠点」と決めつけた。それ以来、オバマも「意地になって着けている」のだそうであります。
▼今日は3月10日。2年前(2011年)の明日、大震災が起こったのですよね。それぞれがいろいろな想いで3月11日を迎えるのですが、共同通信のサイトに「政治劣化考」というコーナーがあり、その中で内田樹(たつる)という「思想家」が次のように語っています。
- 東日本大震災直後は、大連立内閣を立てるべきだった。政権の延命に加担するリスクを冒しても、自民党が、国難に立ち向かう姿勢を示して、成果を挙げていれば、国民の政治不信や国政の停滞への倦厭感もここまで進行してはいなかったのではないか。
▼私も震災当時そのように考えていました。でもそのようにはならなかった。菅さんの民主党政権がぐらぐらに揺らぎ、自民党のみならず民主党の内部からも「菅おろし」の声が上がり、さんざ批判されて震災から5か月半後の2011年8月末に野田さんに変わった。その野田さんもめちゃくちゃにこき下ろされ1年半後に、「日本を取り戻す」という安倍・自民党に完敗してしまった。
▼その安倍・自民党の選挙スローガンが「日本を取り戻す」でした。うちの近所にはこのスローガン入りの安倍さんの選挙ポスターがまだ貼ってあります。それを見ながら思ってしまうのは、安倍さんがどのような日本を「取り戻す」と言っているのかということです。一つの参考になるかもしれないのは、安倍さんが2月22日にワシントンで行ったスピーチ「日本は戻ってきました」(Japan is back)ですね。その中で安倍さんは
- I will get back a strong Japan, strong enough to do even more good for the betterment of the world.
強い日本を、取り戻します。世界に、より一層の善をなすため、十分に強い日本を取り戻そうとしているのです。
と言っています。
▼おそらくこの「強い日本」のシンボルの一つとも言えるのが、安倍さんの背広の襟につけられた「東京五輪」のバッジなのでしょう。あの大悲劇にもめげず五輪という巨大プロジェクトをなしとげた日本、すごい!というわけですね。
▼東京五輪の招致活動で思い出したけれど、猪瀬都知事が副知事であったころの2012年7月27日、自分のツイッターに次のようなメッセージを載せたのだそうです。
▼あなたは「世界のアスリートから生きる意味を学びたい」と思います?「日本の選手の活躍を眼の前で見つめたい」はどうですか?私はウサイン・ボルトの走りは見てみたいとは思うけれど、彼から「生きる意味を学びたい」とは思いません。日本選手の活躍にしても「眼の前で」見る必要は感じない。それより、猪瀬さんのこのツイッターメッセージをそのまま解釈すると、東京五輪の招致に反対する人はすべて「復興への使命感に欠ける引きこもり人間」ということになりますね。
▼最近のメディアを見ていると、東京の五輪招致に反対なんてとても言えないような雰囲気を感じます。五輪に反対などと言おうものなら「お前それでも日本人か!」などと言われてしまいそうです。中国の方々には申し訳ないけれど、この状況は噂に聞く中国と同じであります。
▼玉木正之さんというスポーツ評論家の「2020年東京五輪招致をどう考える」というサイトを読んでいたら、精神科医の香山リカさんが招致反対の立場から「開催が成功すれば国際的評価も上がり、人々の自己肯定感も高まることが期待されるかもしれません。しかし、それはあくまでも一過性のもの」と述べていると伝えられていました。
▼国際的評価の上昇→自己肯定感の高まり・・・NHKなどを見ていると「日本はこんなに素晴らしいと思われているんですよ、皆さん、自信持ちましょう!」というトーンの報道が多すぎると思いません?他人からの評価によって自分の自分に対する評価を決める・・・人間にはよくある哀しい習性ですが、そのような「自己肯定」をいい加減に乗り越えましょうというのが、大震災の教訓だったのでは?
▼ところで猪瀬さんの「やりたい人でやります」というメッセージはなぜか彼のツイッターから削除されてしまったのだそうです。今回もお付き合いをいただきありがとうございました。
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