musasabi journal

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270号 2013/6/30
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美耶子の言い分 美耶子のK9研究 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書

本日をもちまして2013年も半分を通過することになります。もうすぐ夏ですね、と言う時期なのですが、時間の経過があまりにも速いので「あっという間に秋が来ますよ」と言いたくなります。

目次

1)トイレを見ると国が分かる・・・!?
2)「平和」の意味
3)クールジャパンとCool Britannia
4)自閉症:理解が希望を生む
5)どうでも英和辞書
6)むささびの鳴き声


1)トイレを見ると国が分かる・・・!?
 

左派系のオピニオン・マガジン「ニュー・ステイツマン」(New Statesman)のサイト(6月5日付)に同誌のヘレン・ルイス(Helen Lewis)副編集長がWhy the world needs better loos(世界はトイレをもっと改善する必要がある)という見出しのエッセイを載せています。looはトイレのことです。「トイレを見ればその国が分かる」(If you want to know a country, look at its loos)というわけで、書き出しは次のようになっています。
  • 私は2週間の日本訪問を終えて帰ってきたばかりなのであるが、滞日中、文句なしに素晴らしい電車、食べもの、そして靴下に熱狂するばかりであったけれど、なんと言っても最大の驚きは日本のトイレであったし、これは今も変わらない。
    I’ve just returned from two weeks in Japan, and in between enthusing about its effortlessly superior trains, food and socks, my greatest level of wonder is still reserved for its toilets.
電車とか食べものが気に入ったというのは分かるけれど、「靴下」というのは何なのでしょうか?多分男である私が知らないだけで、女性なら分かるのでしょう。日本のソックスは素晴らしいものなのでしょうか?ソックスのことはともかくこの人は日本のトイレ事情に大感激して帰国したようなのであります。

第一にすごいのは、神聖なる神社だろうが、深山幽谷だろうがいたるところにladies'(女性用トイレ)があり、広島の宮島にある弥山 (みせん)に登ったときには、「現在工事中で頂上のトイレが使えません」という看板が少なくとも3つはあったのだそうです。

第二の驚きはどのトイレもピカピカにきれい(spotless)であったこと。この人によると英国の公衆トイレはとにかく「汚い」(grubby)のだそうですが、日本の公衆トイレは「私のキッチンよりきれい」(cleaner than my kitchen)で紙もたっぷりある。しかも英国の公衆トイレは少し破くと切れ目が入っており、充分な紙が使えないようになっているのに対して日本のそれは利用者を信用してか、ちゃんとしたロールが使われている。

そして最後にかの有名な「ハイテク便器」というわけです。ウォシュレットだの温かい便座だのというあれですが、この人の観察によると、日本人はセントラルヒーティングには熱心でないのに便座が温まっている・・・不思議だと言っています。

日本における公衆トイレの充実ぶりを称賛しているのは、この人だけではないようで、英国下院が2008年に発表した「公衆トイレの整備について」(The Provision of Public Toilets)という報告書が東アジアにおける公衆トイレ事情について触れて次のように記述しています。
  • 日本は(東アジアにおける)トイレ革命の中心にある。地理的な意味できわめて広範囲にわたって整備されており、用を足す場所の数という意味からして2対1で女性が優遇されている。
    Japan is at the centre of the restroom revolution. Standards as to geographical distribution of toilet provision are very high, and ratios of 2:1 in favour of women are to be found in terms of numbers of places to pee.
この報告書によると英国で最初に公衆トイレができたのは1852年、ロンドンのFleet Streetというところだったそうです。そもそも英国内にある公衆トイレの数がはっきりしていないのですが、不動産の価値査定を行うValuation Office Agencyという政府機関が「課税対象になる価値のあるトイレ」(toilets with a rateable value)として挙げているものだけを数えるならば、2000年に5,410個所だったものが2008年には4,423個所にまで減っているとのことであります。1936年公衆衛生法(Public Health Act 1936)によって地方自治体に公衆トイレを作る権限が与えられたのですが、トイレの整備を地方自治体の義務としなかった(it imposes no duty to do so)ことが整備の不徹底を招いたとしています。

▼町を歩いていて急にトイレに行きたくなったらどうします?日本でなら付近のコンビニとかスーパーへ行けば確実にあるし、電車の駅も間違いないですよね。これらはどれも地方自治体が運営しているという意味での「公衆」トイレではないけれど、かなり充実していると思います。特に電車の駅のものはかつてに比較すると格段の進歩です。うちの近所にあるホームセンターのトイレはホテル並みなのですが、利用者が「うちもこれにしようかな」と思うかもしれないという店側の思惑もあるのでしょうね。一種のショールーム。でもきれいなのは結構ですよね。

▼英国でもコンビニ、スーパー、ガソリンスタンドにはトイレがあるけれど、しょっちゅう「故障中」だった印象が強い。地方の駅のトイレは「破壊行為が頻発するので閉鎖」したっきりだった。街中にある公営トイレは見てくれが古くて汚いんですよね。入るのにためらってしまう。日本の公営トイレはどうなのでしょうか。

▼日本人はセントラルヒーティングはやらないのに便座は温かいというニュー・ステイツマンの記者の不思議感覚には笑ってしまった。別にセントラルヒーティングが悪いからやらないのではない。単にコストが高いから採用する家が英国などに比べれば少ないということですよね。ただ・・・日本人の知恵かもしれないと思うのは、便座もこたつも空気を暖めるのではなく、身体を直接暖めるという発想です。これ、当たっている。日本人のお風呂観はその典型です。

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2)「平和」の意味
 

ちょうど1年前の7月1日にお送りしたむささびジャーナル244号の中に「日本の平和度・イラクの平和度」という記事が出ています。国際経済・平和研究所(IES: Institute for Economics & Peace)というthink-tankが毎年発表している世界平和度指数(GPI:Global Peace Index)というランキングの2012年版に関する記事だった。このほど2013年版のGPIが発表されたのですが、それによると調査対象となったのは162カ国、トップ10とボトム10は次のようになっています。

トップ10 ボトム10
1 アイスランド 1.162 153 中央アフリカ共和国 3.031
2 デンマーク 1.207 154 北朝鮮 3.044
3 ニュージーランド 1.237 155 ロシア 3.060
4 オーストリア 1.250 156 コンゴ民主共和国 3.085
5 スイス 1.272 157 パキスタン 3.106
6 日本 1.293 158 スーダン 3.242
7 フィンランド 1.297 159 イラク 3.245
8 カナダ 1.306 160 シリア 3.393
9 スウェーデン 1.319 161 ソマリア 3.394
10 ベルギー 1.339 162 アフガニスタン 3.440

それぞれの国の横にある数字が平和度指数で、これが1に近ければ近いほど平和度が高いということなのですが、それぞれの国について「国内外における紛争の有無」「近隣諸国との関係」「国内の犯罪件数」「政治的安定度」「暴力的なデモの可能性」「人口10万人あたりの囚人数」「GDPに占める防衛費の割合」等々、22に上る項目を調査・分析しています。IESによると犯罪件数のような国内要因と隣国との領土争いのような国外要因の比率は6:4であるとのことです。ちなみに英国は44位(1.787)、韓国は47位(1.822)、アメリカは99位(2.126)、中国は101位(2.142)などと記録されています。

日本について言うと、国内的な平和要因だけとるとアイスランドに次いで世界第二の平和国家なのだそうです。例えば暴力犯罪は非常に少なく、テロも非常に考えにくい(highly unlikely)し、服役者の数(10万人中55人)の少なさは殆ど世界一というわけで、いいことずくめの国です。が、それは国内要因だけを見た場合です。対外要因を見ると事情が違ってくる。まず平和憲法の存在にもかかわらず防衛力の点では「高性能・高能力」(sophisticated and capable)であり、最近では中国の防衛力増強、北朝鮮の核兵器などに対抗してミサイル防衛力の強化などを謳っている。さらに中国との間では尖閣問題、韓国との間の竹島問題などもあり、「近隣諸国との関係」(relations with neighbouring countries)という意味ではGPIトップ10の間では際立って悪いし、全体のランキングでも一挙に88位へと転落する。

今回の調査報告で世界平和度指数(GPI)の数字とは別に興味深いと思う情報としてポジティブ平和指数(Positive Peace Index:PPI)というのがあります。この報告書によると、各国の「平和度」を考えるときに二つのやり方がある。一つは「暴力や暴力への恐怖が存在しない状態」(absence of violence or fear of violence)を考えるという方法で、これをNegative Peaceと呼ぶのだそうです。日本が6位になっているGPIはこれにあたります。「戦争が起こっていない=平和」という考え方です。いわば「受け身の平和」ですね。

それに対してポジティブ平和指数は、平和な社会を築きそれを維持するために必要な制度や政治・社会構造そして人々の姿勢(attitudes, institutions, and structures)がどの程度の強さを持っているのかを国別に比較するものです。具体的に言うとそれぞれの国が「社会の透明度」「高い能力を有した人的資本」「機能する政府」「他者の権利を許容する姿勢」「近隣諸国との良好な関係」等々の点でどの程度発達しているのかということで、これらは「平和」構築のための条件であり、人々の努力次第で強くも弱くもなる・・・その意味では「能動的平和度」とも言える。

PPIについては126カ国が調査対象となっているのですが、トップはデンマークで、以下ノルウェー、フィンランド、スイス、オランダ、スウェーデンなどが続いており北ヨーロッパの国々が圧倒的に強い。英国は15位、日本は16位で、アジアではシンガポール(17位)、韓国(26位)などが30位以内で中国は81位となっています。項目別にみると、日本は「資源の公平な分配」「他者の権利を許容する姿勢」「政治・社会の腐敗が少ない」の3点では「非常に高い」のですが、「機能する政府」「健全なビジネス環境」「自由な情報の流れ」「近隣諸国との関係」では「中くらい」の評価しか受けていない。

報告書の原文はここをクリックすると読むことができます。

▼Negative Peaceでは第6位なのにPositive Peaceでは18位というのが日本らしいと思いませんか?もう一度言うと、Negative Peaceはどちらかというと「たまたまトラブルがない」という状態であるのに対してPositive Peaceは「トラブルを防止するシステムがある」と解釈することができる。前者の平和が「守る」ものであるのに対して、後者のそれは「作り出す」ものであるとも言える。もちろんNegativeであろうがPositiveであろうが、平和であるのはいいことなのですが、日本の「平和」は自分たちでそのような状態を生み出してこれを守っているという感じではない。偶然そうなっているという感じです。TPPのみならず、これから外国人や外国企業が日本の国内で活躍する時代が来るはず。そういうときのための意図的な環境づくりがどの程度できるのかということです。

▼むささびジャーナルでたびたび取り上げるフィンランドは、全体のランキング(Negative Peace)では日本の次につけているのですが、国内的に安定しているだけでなく、近隣の北欧諸国との関係も良好(harmonious)で、隣国ロシアとの関係は「改善されている」(improved)となっています。そういえばフィンランドはNATOに加盟していないのですよね。私の想像によるならば、これはフィンランド人の生きていくための知恵なのであります。それからフィンランドを始めとする北欧諸国はPositive Peaceでもやたらと成績がいいのですが、それでもスウェーデンで暴動が起き、ノルウェーでは大量殺人が起こったりしている。どこもそれぞれが身がすくむような思いをしながら生きている部分はある。

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3)クールジャパンとCool Britannia

 

ラジオを聴いていたら、安倍政府が推進している「クールジャパン」という構想についてディスカッションをしていました。その番組では「クールジャパン」を説明するものとして、安倍首相が5月17日に行った「成長戦略第2弾スピーチ」の一部を流していました。
  • まだ、世界の人々は、日本のことを知らない。どうやって日本に引っ張り、日本の文化を輸出するか。この分野でも、安倍内閣は、攻めまくります。
また内閣府のサイトを見るとクールジャパン戦略担当大臣の稲田朋美という人がクールジャパン推進会議で
  • クールジャパン戦略の核とは、一部の特別な人による、何か特別なものではなくて、私たちみんなが、今一度身近な『いいね!』と思う日本を再発見し、世界に発信していく社会的なムーブメントである。
という趣旨の発言をしたとのことであります。さらに6月5日付の毎日新聞のサイトには、「クールジャパン戦略」という言葉の説明として
  • 日本の魅力ある商品・サービスのうち、世界の人々も「クール(格好いい)」と憧れ、欲しがるようなものを海外ビジネスにつなげる取り組み。アニメや漫画といったポップカルチャーのみならず、ファッション、食、伝統産品、観光など、海外から評価されるものが広く含まれる。
と書いてありました。安倍さんはそのようなものの例として「きゃりーぱみゅぱみゅ」というファッションモデル・歌手がフランスでバカ受けであることを挙げています。要するにアベノミクスの一環として、これまでのような自動車、家電製品のようなモノに加えてよりソフトな「文化」の輸出を奨励するということのようであります。

ところで1997年、英国にトニー・ブレアの労働党政権が誕生して繰り広げられたキャンペーンにCool Britanniaというのがありました。おそらく「クール・ジャパン」というキャンペーンの名前の起源はCool Britanniaにあるのであろうと(むささびは)想像しているのですが、Cool Britanniaの活動を提唱した政策集団「デモス」(DEMOS)が1997年に発表したBritain TMというペーパーを読むと、国際社会における英国という国のイメージを変えようということに重点が置かれていたと思います。

デモスによると、国際社会が英国を表現するのに使う言葉はbackward-looking(後ろ向き)、hidebound(頑迷)、arrogant(傲慢)、 aloof(冷淡)などであり、ビジネスの世界でも英国企業は革新性に欠け、製品の質も劣るとされており、観光地としても行ってみる価値はあるかもしれないけれど退屈な場所(worthy but dull)と考えられているというわけです。 これからはデザインとかファッションのようなクリエイティブ産業の振興に力をいれなければ・・・というので、例えば海外にある英国大使館の受付エリアにはモダンなソファや家具が置かれ、大使公邸に飾られている絵画も歴史的な作品からモダンアートに変えられたりした。要するに政府を挙げてCool Britanniaを推進していたわけです。

実はブレア政権誕生の半年ほど前(1996年11月)にアメリカのニューズ・ウィーク誌が「ロンドンは世界で最もクールな首都である」(London is the coolest city on the planet)という特集記事を掲載、Cool Britanniaのお膳立てが出来ていた。

ブレア政権がCool Britanniaのキャンペーンを始めてから約半年後、The Economist誌(1998年3月12日号)の社説欄が次のようなタイトルの記事を掲載した。
きついですよね。「クールであろうとして懸命に努力するほど哀しいことはない」というのです。ブレアさんが「英国はクールです」というスピーチを行ってクリエイティブ産業の成功を強調することについては次のように批判します。
  • もし英国のクリエイティブ産業がブレア氏の言うように成功しているのだとしたら、英国が抱えているとされる「古くさくて後ろ向き」というイメージが邪魔になっていることがないということだ。反対に英国が本当はブレア氏が言うほどには新しくもないし「トレンディ」でもないのだとしたら、英国のブランド・イメージを変えようという努力そのものが浅薄かつ単なる自画自賛ということになる。
    But if Britain's creative industries are the success story that Mr Blair suggests, then the country's allegedly backward-looking and fusty image is clearly no bar to commercial success. If, on the other hand, Britain is not quite as trendy as Mr Blair would like everyone to believe, then efforts to rebrand Britain may end up looking hollow and boastful.
本当にクールな人は自分のことをクールだなどとは言わない。ダサい人間に限って自分のことを飾って言いたてるものだ。そもそもクリエイティブ産業とか若者文化と呼ばれるようなものを政府が行うイメージチェンジ作戦の中心に持ってくること自体が間違っている。これらはいずれも「自発性」(spontaneity)とか「ファッション性」が不可欠の世界。そしてこの世の中に背広姿でにこやかに笑っている政治家ほど「自発性」「ファッション性」からほど遠いものはない・・・というのがThe Economistの意見であります。

そしてこの記事が出た約1年半後、文化振興機関のブリティッシュ・カウンシルが海外13カ国の若者を対象に英国のイメージについてのアンケート調査を実施した。約2年間にわたるイメージ・チェンジ作戦の成果を占う調査であったのですが、外国の若者にとって英国が代表するものはといえば「王室」「ビッグベン」「サッカー」「サッチャー元首相」であり、英国といえば「歴史と伝統の国」であるいうイメージが圧倒的に強く、ブレアさんのCool Britannia作戦も大して効果があったとは言えない。1999年11月26日付のThe Economistは、英国のイメージについてCompellingly dullであるということだと伝えています。即ち「息を呑むほど退屈な国」ということであります。

1997年に若き宰相として登場したブレアさんは確かにCool Britanniaを体現しているかのように見えたのですが、そのイメージが完全に覆されてしまったのが、2011年の9・11テロだった。ブレアさんはアメリカの「対テロ戦争」に全面協力して「ブッシュのプードル犬」と言われるようになりCool Britanniaなどどこかへ吹き飛んでしまった。

で、安倍さんのやっている「クールジャパン」ですが、Cool Britanniaのように、日本という国のイメージを変えることによって、新しい産業を育成しようというような意識はない(ようです)。日本の良さが外国では知られていないということが出発点になっている。日本や日本文化について「日本人がいいと思うこと」を宣伝していきましょうというわけで、寿司あり、ファッションあり、歌舞伎あり、「きゃりーぱみゅぱみゅ」あり・・・ほとんど何でもありという感じであります。このあたりのことについては、日本経済新聞のサイトに出ていた『クールジャパンって何だっけ?』という記事が
  • 日本食や日本車、伝統工芸などの海外での人気を高めたり、それらの輸出を伸ばそうと努力したりすることは、日本の国益にかなうことであり重要なこと。しかし、それをクールジャパンとひとくくりにして論じることに違和感を覚えるのです。
と言っています。

▼日本食や工芸品、自動車、家電製品などの輸出促進は悪いことではないけれど、それをマンガ、アニメ、ポップ音楽のような、どちらかというと若者中心のアングラ的文化と同じように扱って「クールジャパン」としてしまうのは確かにおかしい。この企画を推進するために「株式会社海外需要開拓支援機構」という支援組織が作られ、国が500億円を出資し、株式の50%を保有するのだそうですね。漢字が14個も並ぶ組織が推進するのが「クールジャパン」というカタカナ企画というのも本当に不思議というかアホらしいというか・・・。ある新聞のサイトに出ていた読者からのコメントは実にまともです。
  • クールジャパン政策に何だかゾワゾワしたものを感じる理由は、感受性が低く、創り出した経験もなく、美や洗練と言うものの正反対にある人々が、「仕組みを作ってやる」と威張っているからだろう。創造する人の意見は「聞いてやる」という姿勢。創造する人はだから怒る。ダサイ人々に言われたくない。
▼ブレアさんらが推進したCool Britanniaというキャンペーンのタイトルの由来は、世界を支配した大英帝国華やかなりしころに流行った愛国ソングRule Britanniaです。CoolとRuleの響きが似ていることからくるダジャレみたいなものです。クールジャパンというタイトルがCool Britanniaに倣ったものなのかどうか確かなところは分からないけれど、そうだとしたら他人のキャンペーンの真似をしたわけで、発想そのものが「クリエイティブ」とは全く無縁ということになります。マネです。それが日本のクリエイティビティということ?

▼経済産業省のサイトに「株式会社クール・ジャパン推進機構の法律説明会を開催します」という呼びかけが掲載されているのですが、稲田という担当大臣は「官製クールジャパンは誰も興味がないでしょう」と言っている。500億円もの税金を使って政府が筆頭株主になるようなプロジェクトが「官製」でないのだとしたら、官製って何なんですか?ちなみに以前にも紹介したインターネットの国民投票サイト「ゼゼヒヒ」における投票によると「クールジャパン」を評価する人は7%、評価しないと言う人は93%であります。

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4)自閉症:理解が希望を生む

 

BBCのRadio4にBook of the Weekという書評番組があります。その番組で最近 "The Reason I Jump"という本が取り上げられたところかなりの反響を呼んでいるようであります。この本は『自閉症の僕が跳びはねる理由』という日本語の本の英訳本で、著者は東田直樹という人なのですが、1992年生まれだから今年で21才。『跳びはねる理由』を書いたのは13才のときで、本の副題は「会話のできない中学生がつづる内なる心」となっています。情けないことを白状すると、私(むささび)、この本のことも自閉症のことも全く知りませんでした。NHKの福祉関係の番組サイトによると
  • 自閉症の人は会話や人と関わることが苦手で、突然飛び跳ねるなど一見理解しにくい行動をとることもあります。しかし、そうした行動にも、彼らなりのきちんとした理由があるといいます。
だそうですが、『跳びはねる理由』の特徴は自閉症の子どもの世界が、「本人の言葉で語られている」ことで、これは極めてまれなものなのだそうであります。『跳びはねる理由』は、自閉症である著者が自分の立ち振る舞いなどについての質問・疑問に答えるという形式で自分の心の中を語ろうとしています。例えば・・・
  • 飛び跳ねるのはなぜ?
    僕は飛び跳ねているとき、気持ちは空に向かっています。空に吸い込まれてしまいたい思いが、僕の心を揺さぶるのです。
  • 目を見て話さないのは?
    相手の人の目を話すのが怖くて逃げていたのです。
  • ひとりでいるのが好き?
    僕たちだって、みんなと一緒がいいのです。だけど、いつもいつもうまくいかなくて、気がついた時にはひとりで過ごすことに慣れてしまいました。
  • 何が一番辛い?
    僕たちが一番辛いのは、自分のせいで悲しんでいる人がいることです
  • 普通の人になりたい?
    僕たちは自閉症でいることが普通なので、普通がどんなものか本当に分かっていません。自分を好きになれるのなら、普通でも自閉症でもどちらでもいいのです。
というぐあいです。本ではこのような質疑応答が50件ほど綴られているのだそうです。


『跳びはねる理由』の英語版の "The Reason I Jump" は作家のデイビッド・ミッチェル(David Mitchell)が奥さん(KA Yohsidaという日本人)と二人で仕上げたもので、英国では7月4日に出版されるようです。6月21日付のBBCのサイトにデイビッド・ミッチェルがエッセイを寄稿、この本について語っています。ミッチェル夫妻には東田直樹氏と同じような重度自閉症(autism)の息子がいるのですが、この本を通じて自閉症の子供の心の中を覗くことができ、自閉症を理解するようになり、それが希望につながったと言っている。
  • 東田氏は自閉症を抱えて生きることの難しさを過小に語ることはしていないが、そうした難しさは「心や脳の欠陥」から出てくるのではなく、むしろ同じ心と脳にあるものを伝えることができないということから来るものだということを証明している。
    Without downplaying the challenges of life with autism, Higashida proves that these challenges derive less from hearts and brains that are 'miswired' or 'defective', and more from the inability to communicate what is in those same hearts and brains.
つまり自閉症は精神や頭脳に欠陥があるというのではなく、心にあることをうまく伝えることが困難ということだとデイビッド・ミッチェルは観察しているわけです。ミッチェルはまた自閉症と言語についても面白いことを言っている。
  • この本は妻と私が日本語から英語へ翻訳したものであるけれど、ある意味で日本語の原作そのものが翻訳ものであるとも言えるのだ。すなわち「自閉症→日本語」という翻訳である。東田直樹氏も言っているように自閉症を抱えている人たちには「母語」というものがないということなのだ。
    My wife and I translated the book from Japanese to English, but in a sense even the original is a translation, from Autism to Japanese - as Naoki Higashida says, people with autism have no mother-tongue.
デイビッド・ミッチェルはさらにいわゆる「障害」のある子供を持っている親が願うことについて次のように語っています。
  • 私が言いたいのは、「憐憫」は「蔑み」よりはマシかもしれないが、素晴らしいと言えるものではない。「同情の気持ち」の方がいいけれど、それは「寛容さ」につながるものであれば、という条件付きである。自分たちが心から欲するのは世の中の「理解」なのである。
    I wanted to say: that pity is better than mockery but it's still not great; that sympathy is better, if it engenders tolerance; but that what we really crave is public understanding.

▼BBCのサイトには、この番組を聴いたという人からのコメントが60件以上寄せられています。その中には自分の子供も自閉症だという人が多く含まれています。30歳になる息子さんが重度の自閉症であるという母親は
  • 番組を聴きながら泣いてしまいました。まるで自分の息子が初めて自分に話しかけたような気がしました。自分たちがいつも理解しようとしてきた息子の行動の多くの部分がこの番組によって説明されていた。
    I cried while I listened to the programme. My eyes are still damp now. It was like listening to my son speak to me for the first time. So emotional. It explained so much of his behaviour that we have always tried to interpret.

    と言っています。

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5)どうでも英和辞書
 A-Zの総合索引はこちら 

whistleblowing:内部告発

whistleは「笛(ホイッスル)」、blowingは「吹く」。通常は二つをそのままつなげて「内部告発をする」という意味で使われているようですね。内部告発をする人のことはwhistleblowerと言うわけです。ウィキペディアによると、スポーツの試合で反則があったときに審判が警告のためにホイッスルを鳴らすことに源を発する米語だそうです。


この言葉を広めたのはアメリカの市民運動家、ラルフ・ネーダーなんだそうですね。企業の悪を告発する運動などをしていたときに使ったのですが、もともと"informers"とか"snitches"という言葉があるけれど、「密告者」「告げ口野郎」というニュアンスであまりかっこいいものではないというので、whistleblowersという言葉を使ったのだとか。日本語でも「告げ口」というのはかっこ悪いけれど「内部告発」となるとイメージが違いますね。

これもネット情報ですが、アメリカのレイモンド・チャンドラーという推理小説作家の代表作品に『長いお別れ』(The Long Goodbye)というのがあって、警官が私立探偵のフィリップ・マーローに対して
  • Come on, Marlowe. I’m blowing the whistle on you.
と言う場面がある。マーローに情報提供を強要するために使われた言葉で「よお、マーローちゃんよ、こっちはあんたを訴えることだってできるんだぜ」というような意味ですね。

最近のwhistleblowerといえば何と言っても、アメリカ国家安全保障局(NSA)による個人情報収集活動を告発した元CIA職員のエドワード・スノーデンですね。米当局からスパイ容疑で追いかけられているという、あの人。この件についてAP通信のGary Pruitt会長は「内部告発者は今後も出続けるだろう」(Whistleblowers will continue to leak state secrets)と言っている。余りにも多くの人が政府の機密情報にアクセスできるようになってしまっているということがその理由だそうです。

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6)むささびの鳴き声
▼はっきり言って、サッカーというスポーツは見ていて疲れるだけで、熱狂する人の気持ちが分かりません。が、日本のチームが外国と試合などしているとつい日本びいきになって見てしまい結局疲れてお終い。ブラジルで行われたコンフェデレーション・カップという試合で日本はイタリアに惜敗したのですが、以前紹介した元外交官の浅井基文さんのサイトに、中国の新聞がこの日本・イタリア戦を伝える記事が紹介されています。どれも日本チームに好意的な記事になっています。抜粋して紹介します。
  • 人民日報:日本は敗れたが、岡崎慎司はジダン的な動きによって日本のプレーヤーの自信とテクニックを示した。残念ながら、ディフェンスとチャンスをつかむという点で不十分なところがあったために最終的に敗北した。
  • 北京青年報: リードから逆転されても日本チームは闘志を失わず、岡崎慎司の同点ゴールで追いつき、その後はゴール・ポストとバーが日本のシュートを阻んだ。
  • 重慶晨報:我々としては、日本人が今日できるに至ったことを何時の日かできるようになることを憧れるほかないのかもしれない。
  • 華西都市報:中国がタイに1-5で敗れたという背景のもと、中国のサッカー・ファンにおける日本チームの人気はうなぎ登りだ。
▼最後の華西都市報という新聞は、7月に韓国で行われる日韓豪中の試合について触れて、この4チームのうち日韓豪はワールドカップへの出場が決まっているのに対して「中国チームは恥ずかしさで顔に汗を浮かべる以外にない有様だ」と中国チームをこきおろしています。自国のチームが負けると爆発するのはどの国の新聞も同じですよね。2010年のワールドカップにおけるイングランドの敗退を伝える英国の新聞は選手たちを犯罪人扱いでした。

▼話題を変えて、プロ野球の「飛ぶボール」問題の報道に接しているとあらゆる意味で悲しくなりますね。もっぱら「知らなかった」という加藤良三コミッショナーが悪者になっているけれど、誰が「飛ぶボール」への変更とそれを公表しないことを決めたのかについての報道が全くない(と思う)。日本野球機構という組織と選手労組のことは報道するけれど、今回のことについてオーナーと呼ばれる人々が何を考えているのかについての報道も全くない。加藤コミッショナーの「大変な失態であったと思い、猛省をいたしております・・・」というコメントがあって、「第三者委員会」の設立があって、それで何となくお終い。長嶋さんと松井選手の国民栄誉賞、飛ぶボール・・・納得がいかない。

▼ハナシはさらに変わりますが、Page 3 Girlsって何だか分かります?英国の大衆紙、The Sunの第三面に写真を掲載される女性たちのことを言うのですが、いずれもヌードっぽい写真で登場します。いまから42年前に始まった名物ページなのでありますが、最近この新聞の編集長が変わったので、この名物もお終いかと思われたのですが、結局残ることになったのだそうです。その理由として新聞社では「読者が望んでいるから」と言っているのですが、YouGovのアンケート調査では「続けるべき」(Should keep page 3 girls)という意見が32%、「止めるべき」(Should stop showing Page 3 girls)が49%と、止めた方がいいという意見の方が多いという結果になっています。

▼蒸し暑い中、とりとめのないダベリングにお付き合いをいただき感謝します。明日から7月。7月5日はむささび72回目の誕生日です。知らなかったのですが、70を超えてからの運転免許の更新は運転の実技試験に受かる必要があるんだそうですね。自動車学校と交通安全協会の癒着による規則なのだ、と事情通が教えてくれました。
 
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