1)いまイラクで起こっていること
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イラクがおかしくなっていますね。6月12日付の朝日新聞のサイトには、
- イラク北部の主要都市モスルで、国際テロ組織アルカイダ系の武装組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」が軍や治安部隊を追い出し、市全域を占拠した。
というニュースが出ているのですが、同じ日付の英国誌、Prospectのサイトには中東問題の専門家のロバート・フライ(Robert Fry)氏が"Iraq Crisis: Mosul is just one battle in Islam’s civil war"(イラク危機:モスルの戦闘はイスラム教の勢力同士の内戦なのだ)というエッセイを寄稿しています。
筆者によると、モスルの占領を伝える報道の多くがISIS(Islamic State of Iraq and Al-Shams)とアルカイダの繋がりに重点を置いているけれど、今回の戦闘はアルカイダとは無関係であり、あくまでもイスラム勢力同士の「内戦」(civil
war)と見るべきであるとのことです。
2003年に米英軍がイラクを民主化するという目的で攻め込んだけれど、そのことによって実際には自分たち(欧米)には理解不可能な力を解き放ってしまった。トニー・ブレアもジョージ・ブッシュもスンニ派の独裁者・サダム・フセインを追放すれば民主化が達成できると思ったことが間違いで、実際にはスンニ派を追い出してシーア派による別の専制国家を作り上げてしまったのだということです。それに対して、中世のオットーマン帝国の時代からこの辺りを支配してきたスンニ派が再び権力を握ろう戦闘を仕掛けてきたとしても何の不思議もないというわけです。
イラクという国は人口の6割がシーア派であり、マリキ首相自身もシーア派です。彼はスンニ派に占拠されたモスルを何としてでも奪回しようとするはずです。彼がこれに成功すれば自身の地位は大いに強化されるけれど、万一これに失敗すると、中東におけるシーア派とスンニ派の間の「新しい冷戦」(a
new cold war)が始まることになる、とフライ氏は主張します。
ISIS勢力は隣国シリアで訓練され、武器もシリアの反政府勢力に提供されているのだそうですが、彼らの活動もまたスンニ派の資金によって賄われている。その一方でアサド政権はシーア派のイランの支援を受けている。ISISが狙っているのはイラクとシリアの国境地帯にスンニ派の国家を作り上げることだそうで、噂ではカタールやサウジアラビアからの資金提供を受けている。
ロバート・フライによると、これは一種の宗教戦争であり、数年や数か月で片が付くものではないし、欧米が口出しすべき事柄でもない。もし欧米が干渉しようというのであれば、最後の最後までこの宗教戦争に付き合う必要がある。いかなる和平工作であれ、それはイスラム・コミュニティの内部で行われなければならないということです。
この争いはどちらかが相手よりも相当に優位な情勢にならない限り和平交渉の可能性も低いわけですが、
- 心配なのは、この戦争が代理同士の争いではなく、国家間の戦争になる日がくるかもしれないということである。
But the worry is that one day, this war might not be fought between proxies and surrogates. It might be fought between nation states.
とロバート・フライは言っています。例えばシーア派のイラク、シリア(アサド政権)、イラン対スンニ派のサウジアラビア、カタールが国として戦うという構図です。
▼つまり2003年に「極悪人サダムを追放してイラクを民主主義の国しよう!」というスローガンで、あろうことか独立国家の指導者を外国軍隊が捕まえて死刑にしてしまったブレアとブッシュの両リーダーがやったことは、実際にはスンニ派を倒してシーア派の政権を樹立したというだけのことであったということです。返す返すもひどいことをやってしまったのですよね。フセイン政権下のイラクは、本当にブッシュやブレアが主張するほど人々が苦しんでいたのか?
▼あのとき日本(小泉政権)はどうしたのか?ちゃんと確認しておきましょう。戦闘行為のかたがついた2003年12月から2009年2月まで、イラクの国家再建を支援するという名目で自衛隊を派遣したのですよね。つまりブレア・ブッシュの「民主主義チーム」がシーア派の政権を据え付けた後のイラクの体制を強化するためのお手伝いをした。でも「戦争」はしていない・・・というわけですよね。それでは日本はいつまでたっても一人前扱いされないってんで、安倍さんが集団自衛権なるものを確立しようとしている、とこういうことになる。その安倍さんを日本人が圧倒的多数で支持している・・・情けないで、ホンマに。
▼米英によるイラク破壊の犠牲になっていたイラクの子供を救済に行った日本の女性(確か高遠さんという名前だった)が誘拐されたときに、メディアは一斉に「自己責任」を叫んだのですよね。放送局も新聞各社も「素人が余計なことするな」と非難したのです。そのあたりのことは、むささびジャーナルもばっちり記録してあります(ここをクリック)。 |
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2)書籍出版のための募金サイト
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Unboundという英国のサイトを見たとき「世の中、面白いことを考える人がいるもんだ」と、私(むささび)しみじみ感心してしまいましたね。Unboundというのは書籍がまだ製本されていない状態(未製本)のことを言うのですが、このサイトは自分で本を出したいと思っている人が、そのアイデアをネット上で紹介する、それを見て「面白い」と思った人は出版のための募金に応募する、本が出来上がったら募金した人の名前が本のどこかに印刷される・・・というわけです。このやり方で本が出版された暁には
- あなた(サポーター)は、自分の助けなしにはこの世に存在しなかったはずの本を初めて手にすることができるのです!
For the first time, you will be able to hold in your hands a book that wouldn't have existed without you.
ということになり、筆者の側からするとスポンサー探しですが、サポーターの側からすると、自分が面白いと思った本を出すことに関わったことを公に発表することへの満足感が「報酬」ということになる。ただ、募金の額に応じてそれなりに特別扱いがあるようで、
- 10ポンド:サポーターの名前入り電子本贈呈
- 20ポンド:ハードカバー(初版)、裏表紙に名前印刷
- 50ポンド:ハードカバー(初版)、裏表紙に名前印刷+著者のサイン
- 100ポンド:上記のサービス+出版記念パーティー招待
- 350ポンド:著者と食事
等々という具合です。
ここをクリックすると、スポンサー募集中の本が並んでいるのですが、私(むささび)のお気に入りは、Shaun Usherという人が書きたがっている "Lists of Note"
という本ですね。和訳すると『注目のリスト集』とでもなるのでしょうか。有名人が作ったいろいろな「リスト」を集めた本で、著者によると
- 人類にとってリスト作りは手紙書きよりも古い歴史がある。
Human beings have been making lists for even longer than they’ve been writing letters
とのことであります。この本で網羅されるリストの例としては次のようなものがある。
- 万有引力のアイザック・ニュートンが19才のときに作ったリストで、それまでに自分が犯した罪が57件リストアップされている。
The 19 year-old Isaac Newton’s list of the 57 sins he had already committed
- 『種の起源』のチャールズ・ダーウィンが作ったとされる結婚することのいい点と悪い点のリスト
Charles Darwin’s list of the pros and cons of getting married
- ミケランジェロが1518年に作ったとされるイラスト入りショッピングリスト
Michelangelo's illustrated shopping list from 1518
- 1609年後にガリレオが製作した望遠鏡の部品リスト
Galileo's list of parts needed to build his telescope from 1609
- ウォルト・ディズニーが7人の小人たちにつけるために作った名前47件のリスト
Walt Disney’s list of 47 possible names for the seven dwarfs
これを見ると、この本が人類の発展とはあまり関係ないかもしれないことが分かります。中でもどうしようもないのが、2003年に死んだロック歌手、ジョニー・キャッシュが作っていたとされる「本日やるべき事柄リスト」(THINGS TO DO TODAY!)という代物であります。念のために紹介しておくと:
- 1.禁煙する(not moke)
2.ジューンにキスをする(Kiss June)
3.ジューン以外にはキスをしない(Not kiss anyone else)
4.咳をする(cough)
5.おしっこをする(pee)
6.食べる(eat)
7.食べ過ぎない(not eat too much)
8.心配する(worry)
9.ママに会いに行く (Go see Mama)
10.ピアノを練習する(Practice piano)
というわけですが、4番と8番は意味不明。これだけリストアップしたあとで「注意書き」として「メモなんかつけるな」(Not write notes)と書いてある。
▼はっきり言って、この手の「役立たず本」が嫌いでないのです、私は。ミケランジェロのショッピング・リストだのガリレオの望遠鏡の部品なんてどうでもいいんでないですか?こんな本、自分でも書いてみたい!
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3)ヨーロッパ在住ユダヤ人のいま
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知らなかったのですが、5月24日(土曜日)、ブラッセルにあるユダヤ人博物館で銃の乱射があり4人が犠牲になるという事件があったのですね。その翌日、ブラッセルの町のスクリーンには欧州議会の選挙結果としてネオナチむ含めた極右政党の健闘を伝えるニュースが映し出された。ユダヤ人たちにしてみれば穏やかでない週末であったことは間違いないのですが、この二つの出来事に関連性はない・・・と言い切れるのか?というのが6月7日付のThe Economistに掲載された「銃と投票箱」(Of guns and ballot boxes)というコラム記事のテーマです。
ユダヤ系のアメリカ人ジャーナリストが自分自身のツイッター上で、ヨーロッパのユダヤ人はそろそろ引き払った方がいいという趣旨のメッセージを発信したらしいのですが、昨年、EUの基本的人権機構(Fundamental Rights Agency)という組織が行った調査によると、EU域内で暮らすユダヤ人の3分の1が過去5年間で自分たちの安全が脅かされていると感じたことがあると答えている。特にハンガリーとフランスでは4分の3のユダヤ人が反ユダヤ感情の高まりを感じているのだそうです。
ヨーロッパのユダヤ人たちにとって特に気がかりなのがフランスです。ヨーロッパ最大のユダヤ人社会があるのはフランスであり、イスラム教徒が非常に大きな存在になっているのもフランスです。デュードネ(Dieudonne)というコメディアンがナチス式敬礼を流行らせたりしているし、フランス政府もイスラエルのパレスチナ政策に批判的などなどがあるところへ持って来て、今回の選挙で国民戦線(National Front)がフランスの第一党となった。これらを反映してか、今年1月~3月、フランスからイスラエルへ移民したユダヤ人の数が前年同期比で4倍にも増えているという数字もある。
ただヨーロッパのユダヤ人が実際の脅威を感じているのは、極右よりもイスラム教過激派の若者たちであるという見方が一般的です。2年前にフランスのツールズで起こったユダヤ人学校における銃の乱射事件と今回のユダヤ人博物館における事件の共通点は両方とも犯人が北アフリカ出身のイスラム過激派の若者で、二人ともアフガニスタンとシリアで「聖戦」を戦った経歴を有している。
ただ、極右だのイスラム過激派だのという脅威はあるものの、いまのヨーロッパには反ユダヤを政策にしている政府があるわけではない。いまから20年前にベルリンの壁が崩壊したときにはヨーロッパのユダヤ人がそれまでになかった解放感を持ったものだし、いまでもベルリンのユダヤ人社会の成長ぶりは世界でも最も急激とされている。イスラエルへ移住することによって宗教的・文化的・政治的な欲求を満たすユダヤ人は多いかもしれないけれど、イスラエルが必ずしもヨーロッパ以上に安全とは限らない部分もある。今回のヨーロッパ議会の選挙では極右勢力が躍進した部分はあるけれど、最近の彼らが敵にしているのはユダヤ人というよりもイスラム過激派です。
The Economistのエッセイは「EUにはいろいろと改革しなければならない点が多いが、欧州統一という理想そのものは守るべき価値がある(worth
defending)」として、次のように結ばれています。
- ユダヤ人を保護することは、ヨーロッパの民主主義にとって貴重な試金石となる。同じことはイスラム教徒も含め、法を順守しているすべての少数民族の保護についても言えることである。ヨーロッパから寛容さの精神が失われるようなことがあったならば、ここを去るのはユダヤ人だけではなくなるかもしれないのだ。
The protection of Jews is an important test of Europe’s democracy, as is the treatment of other law-abiding minorities, including Muslims. Should the spirit of tolerance ever disappear, Jews may not be the only ones to leave Europe.
▼2011年の国勢調査(census)によると、英国在住のユダヤ人は約26万人、ヨーロッパでは二番目に大きなユダヤ人コミュニティを有しています。世界的には五番目の大きさだそうです。労働党のミリバンド党首がユダヤ人ですよね。
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4)「ブリティッシュ」の意味
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我々が日本で「英国」とか「イギリス」と呼んでいる国は、北から順にスコットランド、イングランド、ウェールズ、北アイルランドという4つの地域から成り立っています。日本が北海道、本州、四国、九州(沖縄)から成り立っているのと表向きは似ていなくもない、ということをまずはお分かり頂いたうえで・・・。
あなたが外国へ行って「お国はどちらですか?」(Where are you from?)と聞かれたら何と答えます?普通なら「日本です」(I'm
from Japan)ではありませんか?では、日本にいる英国人に同じ質問をしたらどのような答えが返って来るのか?私のカンによると "I'm
from Britain/UK" (英国です)と答える人は10人中多くて5人、おそらく3人であろうと想像します。かなりの数の「英国人」がI'm
from England"またはScotland, Wales, Northern Irelandという風に、いわゆる「英国」(BritainとかUK)の中のどの地方の人間であると答えるという意味です。
いまから3年前の2011年に行われた英国人の意識調査の中にnational identityを尋ねる質問があった。「貴方は自分を何人(なにじん)であると思っているか?」という質問です。答えが3つあって、自分に合っていると思うものを一つ選択するというものだった。例えばイングランドに住んでいる人は、次のどれかを選択する。
- 1) English only:自分はイングランド人であり、それ以外ではない
2) British only:自分はブリティッシュであり、それ以外ではない
3) English & British:自分はイングランド人であると同時にブリティッシュでもある
スコットランド、ウェールズに住んでいる人たちにも同じ質問、同じ選択肢が与えられた。何故か北アイルランドの住人たちには行われていない。で、答えはどうだったか?
- イングランド人の場合:
English only(60.4%) British only(19.2%) English & British(9.1%)
スコットランド人の場合:
Scottish only(62.4%) British only(8.4%) Scottish & British(18.3%)
ウェールズ人の場合:
Welsh only(57.5%) British only(16.9%) Welsh & British(7.1%)
いずれも自分が暮らしている地域への帰属意識が極めて高いのですね。外国に行った日本人が「私は四国の人間でして・・・」とは言わないであろうというのとは大違いです。さらにちょっと興味深いのは、自分が「ブリティッシュ」であると考えるスコットランド人が極端に少ないということです。イングランド人やウェールズ人の半分以下です。
もともと現在の英国とアイルランドの辺りには4つの王国が存在していたのですよね。
- イングランド王国(Kingdom of England)
- ウェールズ王国(Kingdom of Wales)
- スコットランド王国(Kingdom of Scotland)
- アイルランド王国(Kingdom of Ireland)
それが次のような順で合併していった。
- 1536年:イングランド王国とウェールズ王国が合併(というより前者が後者を吸収)
- 1707年:イングランド王国とスコットランド王国が合併、Kingdom of Great Britainとなる
- 1801年:アイルランド王国も吸収してUnited Kingdom of Great Britain and Irelandとなる
- 1922年:アイルランドが独立、その際に北アイルランドだけが残り、現在のUnited Kingdom of Great Britain and Northern Irelandができた。
海を隔てたアイルランドは別にして、陸続きのスコットランドとウェールズがイングランドと合併して国の名前としてのGreat Britainが登場するのは今から約300年前のことなのですね。その意味では1600年に徳川家康によって全国制覇された日本より100年若いということになる。ましてや現在の体制になったのは20世紀に入ってかなり経ってからのことなのでありますね。
そのように考えると、いわゆる「英国人」が外国で「お国はどちらですか?」と聞かれたときに咄嗟にアタマに浮かぶ「お国」というのが必ずしもBritainではないことも頷けるのでは?Britishという意識が全く存在しないというわけではないにしても、です。
ということを踏まえたうえで、5月20日付のGuardianに出ていた
という記事を読むと、英国という国が持つ特徴のようなものが見えてきます(「アイデンティティ危機」は「自分はいったい何者なのか?」が分からなくなっている状態のことをいいます)。この記事はイングランド人たちが直面している「オレたちって何者なのさ」という落ち着かない心境について語っています。
今年の9月にはスコットランド人たちが「英国」から独立を問う国民投票を行うことになっている。2017年には英国のEU脱退をテーマにした国民投票が行われ可能性が高い。最近の欧州議会議員の選挙でEUからの脱退を主張するUKIPという政党が最大の得票で勝ちましたよね。UKIPの支持基盤は圧倒的に白人のイングランド人です。彼らは自分たちがEUからの独立を叫んでいる一方で、北のスコットランド人たちがイングランド中心の「英国」からの独立を叫んでいるのを複雑な想いで見ているわけですね。
トム・ネアン(Tom Nairn)というスコットランドの政治学者が「BritainとかUKという概念には大英帝国とか植民地主義というイメージが付きまとう」として「いい加減に捨て去る(shrug off)方がいい」と主張したのは殆ど40年も前の1977年のことなのですが、アービン・ウェルシュ(Irvine Welsh)というスコットランドの作家は
- イングランドには包容力のある多文化主義の国となる使命がある。古ぼけた帝国主義のUKという考え方がイングランドのそのような使命を達成することの妨げになっている。
England had a mission to be an inclusive multicultural nation and this old-fashioned imperialist UK has stopped it from fulfilling its national destiny.
と主張している。この二人のスコットランドの知識人の言葉を見ると、国民意識調査において、自分たちがBritishであるというスコットランド人の割合が異常に低かったことも分かります。彼らにとってBritishであるということは、侵略主義的な大英帝国の一員であることを意味する。
一方、イングランド人(イングランドで生まれ育った人々という意味)の6割が自分たちのことをEnglish onlyであると考えているようなのですが、これは白人のイングランド人のハナシで、イングランドで生まれ育っていても少数民族(ethnic groups)に属するような人々の感覚はかなり違う。パキスタン、バングラデッシュ系の人々の場合は38%が「自分はBritish only」であると言っている。白人の場合は14%です。パキスタンからの移民のような人々にとって
- 「ブリテン」こそが包容力があり、外向的な概念を意味する。しかし孤独めいたイングランドは、ブリテンよりはるかに不安感をそそるものの代表である。
Britain is an inclusive, outward-looking place, but a solitary England would represent something much more problematic.
と考えられているというわけです。
▼「大英帝国」は英語でBritish Empireといいます。English Empireとはいわない。Guardianの記事を読んでいると、スコットランド人がBritishという言葉に侵略的な植民地主義を感じるのに、British
Empireによって植民地にさせられたパキスタン系の人々はそれを感じない。むしろEnglishの方に内向性や排他性のようなものを感じるわけです。過激な人種差別集団の名前がEngish
Defence Leagueというのもどこか象徴的です。 |
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5)どうでも英和辞書
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A-Zの総合索引はこちら
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cat:ネコ
写真(上)のネコちゃん、南西イングランドのボーンマスで暮らしていたのですが、6月6日午後3時半に死去しました。トータシェル(tortoiseshell)という種類で名前はポピー(メス)、1990年2月生まれで年齢は24才だった。ネコの年齢を人間のそれに直すためには、最初の2年間で人間でいうと25才になり、それ以後は3か月ごとに1才年を取るというのが定説だそうです。だとすると、1990年2月生まれのポピーは人間でいうと114才ということになる。ネコの平均寿命は15年、ポピーがダントツの世界一としてギネスブックにも登録するのも当然であります。
飼い主・ジャッキー・ウエストさんのコメント:
- We knew she was old but it's still very upsetting.
「高齢なのはわかっていた・・・でもやっぱり悲しいわよ」という意味であります。むささびとしては「分かるよ、その気持ち、ジャッキー。でも大往生だったじゃん」と言ってあげたいと思ってグーグルの翻訳ソフトに「大往生」と入れたら答えはdaioujouと出た。「なんだそりゃ」ってんで、他をあたってみたら「大往生だったですね」の英訳が
"She lived a full life, didn't she?" となっていた。"full life"か・・・うまい訳だなぁ!
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6)むささびの鳴き声
▼5月31日の『報道特集』(TBS)を見ていたら、京都府にある過疎の町に米軍レーダー基地が作られようとしているというレポートをやっていました。近畿地方では初めてとなる米軍専用の基地建設なのですが、番組ではこれを不安に思う住民が防衛省に十分な説明を求めてもその声はなかなか届かないという様子が報道されており、見ていて本当に痛ましい想いがした。
▼その報道の中で、京都府の町と似たようなケースとして、青森県に既に存在している米軍レーダー基地と周辺住民の関係についてのレポートもあった。それによると、この基地を受け入れた青森県の町には温泉施設ができたり、18歳までの医療費がすべて無料化されたりという恩恵があったとのことだったのですが、住民の一人がインタビューされて「米軍のレーダー基地を受け入れたことで出稼ぎに行かなくても済むようになったのは有難い」という趣旨のことを述べていた。私、この言葉を聞いてハッとしてしまった。むささびジャーナル288号で紹介した『放射能とナショナリズム』という本で紹介されていた次の短歌を思い出したのであります。
▼福島第一原発がある大熊町で、農業をやりながら短歌を詠む生活をしていた歌人・佐藤祐禎氏が『青白き光』という歌集の中で詠ったのがこの短歌だった。佐藤氏は2013年3月に亡くなったのですが、ネット情報では最後まで原発には否定的な考え方をしていた人であったらしい。
▼佐藤氏がこの短歌を詠んだのは平成8年(1996年)のことです。福島第一原発の1号機の着工が1967年、6号機の運転開始1979年3月となっている。地元の人々にとって建設工事の着工が原発との本格的な付き合いの始まりであると考えると、佐藤氏のこの短歌は着工後30年、1~6号機がフル稼働を始めてから17年後に詠まれたことになる。
▼短歌、俳句、詩などの世界では作者の想いと読者の解釈が必ずしも一致しないことがあると思うけれど、読者であるむささびの想像によると、この短歌の舞台は春先の農家の縁側、佐藤氏と彼の友人が腰を下ろしてお茶を飲んでいる。平成8年の時点においても反原発の考え方であった佐藤氏と、原発を容認する友人(歌の中では「批判者」と書かれている)の二人です。遠くにそびえる原発の建物を見ながら佐藤氏が「どうもあれは好きになれねえな」と呟く。友人が「でもよ、なんのかんの言っても原発のお陰で、俺たち冬場に出稼ぎなんかしなくても済んでいるんだぜ」と応じる。そして「有難いではないか。あんた、いまさら何の文句があるんだ」と言いながら咎めるような眼で佐藤氏を見た・・・と佐藤氏は感じてこの短歌を詠んだ、というのがむささびの想像であるわけです。
▼この短歌を読んで、むささびが気になって仕方がなかったのが、佐藤氏を「咎むる眼」で見たという「批判者」の心の中なのであります。冬になると農作業もできなくなり、収入がなくなるので、東京のようなところへ出かけて行って道路工事や建設現場などで力仕事をやっておカネを稼いで家族を養う・・・出稼ぎというライフスタイルの過酷さなどとは無縁の世界で生きてきたむささびですが、そのようなことをしなくても済むようになった生活の有難さについては想像は出来る。ただ(むささびの想像によると)、この人が佐藤氏に「出稼ぎなんかしなくても済むのは結構じゃないか」と言うとき、心の中では「誰だって原発なんて欲しくないけどよ」という言葉を呑み込んでしまっているのではないか。私(むささび)が気になって仕方ないのは、言葉とは裏腹に、佐藤氏の姿勢を完全には否定できないでいる(とむささびが想像する)「批判者」の心の中です。
▼大熊町に原発が出来たのは、町民たちに出稼ぎをしなくても済むような生活を提供するためではない。東京を中心とする日本全体の経済発展には欠かせない(と政府が言った)エネルギー政策遂行のためです。青森県に米軍レーダー基地が出来たのは日本全体の「防衛」のためであり、地元の人たちに楽な生活を保障するためではない。「出稼ぎをしなくても済むような生活」は付録(ボーナス)にすぎない。戦争にでもなれば、レーダー基地がまず最初に叩かれる施設の一つであり、原発が「絶対安全」などということはないことは地元の人は百も承知だった。でもアメリカや「東京」が既に決めてしまっているものは何をどうやってもひっくり返すことなどできっこない。となると「原発がある町」や「米軍レーダー基地がある町」は「出稼ぎ無き町」ということで納得するっきゃない。
▼着工から30年、全機フル稼働から17年も経つというのに反原発の姿勢を崩さない佐藤氏を、「生活が楽になったんだからいいではないか」と言いながら「咎むる眼」で自分を見た・・・というのは佐藤氏の思い込みで、本当はその「批判者」は「あんたはすごいよね」と言いたかったのかもしれない・・・というのは、出稼ぎ生活などしたこともないし、基地や原発の近くで暮らしたこともない、むささびの考えすぎですよね。ね?
▼ちなみにTBSの『報道特集』によると、京都府の過疎の町に作られる米軍レーダー基地に反対する集会への参加者では地元の人たちは非常に少なかったのだそうです。 |
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