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296号 2014/6/29
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美耶子の言い分 美耶子のK9研究 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書

むささびジャーナルを始めたのは2003年2月末、英米によるイラク戦争開始の直前です。あれから11年、あの戦争はイラク人の生活を破壊しただけだった。その2年前に英米によるアフガニスタン攻撃があり、これも結局アフガニスタンという国をがたがたにしただけ。全ては2001年の9・11テロに始まっているのですが、イラクのフセインもアフガニスタンのタリバンもアメリカや英国を攻撃したわけではない。2014年のいま、「むささび」の最初のころの号を見ていると、いろいろな人の「だから言ったろ」(I told you so)という声が聞こえてきます。

目次
1)「孤独」(loneliness)と「独り」(aloneness)の違い
2)ジェリー・コンロンの死
3)イラク混乱:ブレアの言い分
4)「ブレアさん、あんたは狂っている」
5)イラク分割統治の愚かさ
6)どうでも英和辞書
7)むささびの鳴き声
*****
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1)「孤独」(loneliness)と「独り」(aloneness)の違い

英国統計局(Office for National Statistics:ONS)が発表した数字によると、英国はヨーロッパ一番の「孤独の都」(loneliness capital)なのだそうです。「自分がピンチに陥ったときに個人的に頼れる人間がいるか」とか「隣近所に親しみを感じているか」という調査をしたところ、EU28か国の中で英国は下から3番目という結果だった。つまりそのような人はいないと感じている人が非常に多いということでもある。英国よりも下だったのは、デンマークとフランスだった。

このことについて6月22日付のThe Observerがバーバラ・エレン(Barbara Ellen)という女性コラムニストのエッセイを載せているのですが、
という見出しになっている。日本語にすると分かりにくい(とむささびは思う)けれど、中身を読むと、筆者が言いたいのは「寂しさ」(loneliness)と「独りでいる」(aloneness)ということを混同するべきではないということのようであります。

バーバラ・エレンは自分のことを「独りでいる方が自然な人間」(natural loner)であると感じることが多いのだそうですが、それは自分が子供のころに本ばかり読んで過ごしたせいで、「陰気(sullen)で非社交的(unsociable)、人間嫌いの雌牛(misanthropic cow)」になってしまったことを言い繕っているに過ぎないのかもしれないとも言っています。(何もそこまで卑下することはないと思うけれど)いずれにしてもalone(独り)ということがさして苦にならないのだそうです。

「独り」にも2種類ある。好きでそうなっているという「独り」と、環境がそうさせてしまっている、いわば「強制された独り」(enforced solitude)です。高齢、身体障害、家庭崩壊、失業などなどによって引き起こされる孤独は誰も望んでいるわけではない。

最初に紹介したEU諸国との比較に話を戻すと、その調査では「人生、生きるに値する」(life is generally worthwhile)と感じている人の割合についていうと英国は平均以上なのだそうです。となると「孤独な人間が多い」というのも「好きで独りでいる人が多い」とも解釈できる。つまり困難な状況に陥っても独力で解決することを望み、他人のプライバシーには立ち入らず、「過剰な仲良しや詮索的」(not over-chummy and intrusive)であることを避ける・・・これこそが英国流の近所付き合いなのだ、などと言うのは「ええかっこしい」(flippant)というものであろう、と筆者言っている。

実際には、英国においては「独りでいる人間」は憐憫の眼で見られたり、懐疑の眼差しを向けられたりすることが多い。いわゆる「社交性」は身につけるべきスキルとして尊重され、社交的でない人間は敗者もしくは変人と見られがちである。バーバラ・エレンの見るところによると、英国は小さな国の割には人が多すぎるのだそうです。

ただ、バーバラ本人は、独りでいることに我慢ができないような人は信用しないのだそうです。自分自身と共にいることに我慢できないような人間は、「群衆とともにいることで何を隠そうとしているのか?」(what are they trying to hide in the crowd?)ということです。

▼バーバラ・エレンによると、最もみじめな女性の孤独死のスタイルはというと "to die alone, surrounded by 17 cats"(17匹のネコに囲まれて独りで死ぬ)なのだそうです。笑っちゃ悪いけど、ちょっと可笑しい。ネコ好きがネコに囲まれてこの世とお別れするのはそれほどみじめとは思えないのですが、「人間に囲まれずに死ぬこと=みじめ」という固定観念のようなものがあるってことですよね。

▼バーバラの個人的エッセイには260件以上のコメントが寄せられているのですが、どちらかというと彼女の言うことに賛成(独りでいることは悪くない)が多い。ある男性は「近所のパブは地獄だ。群衆はイヤだね」と言っている。中には哲学的なコメントもある。
  • To live alone one must be an animal or a god - says Aristotle. There is a third case: one must be both - a philosopher.
    アリストテレスいわく、独りで生きるためには動物になるか、神になるかしかない。が、第三の道がある。それは動物であると同時に神でもあるということ、即ち哲学者になるということである。


    これはニーチェの言った言葉なのだそうです。
▼それはともかく、社会政策のようなものを考えるとき、(例えば)孤独死というのはそれほど避けなければならないものなのでしょうか?死に際も含めて「好きで独りでいる」という人だっているということは理解するべきですよね。

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2)ジェリー・コンロンの死

6月21日、ジェリー・コンロン(Gerry Conlon)という名前の男性(60才)が北アイルランドの首都、ベルファストで死去したニュースは日本のメディアではどの程度報道されたのでしょうか?英国のメディアでは大きなニュースだったのですが、日本では全く報道されていなかったとしても大して不思議ではありません。彼の死そのものは日本とは無関係な話題ですから。でも彼の人生は必ずしも日本人と無関係ではない(とむささびは思っています)。

いまからちょうど40年前の1974年10月5日、南西イングランドのギルフォード(Guildford)という町にあるパブが何者かによって爆破され、7人が死亡するという痛ましい事件があった。当時は英国のあちこちでアイルランド共和国軍(Irish Republican Army: IRA)によるテロ事件が頻発しており、ギルフォードの爆破事件もIRAの仕業に違いないと言うわけで、4人のアイルランドの若者が逮捕された。そのうちの一人がこのほど死去したジェリー・コンロン(当時21才)だった。この4人はその後は「ギルフォード4人組」(Guildford Four)と呼ばれて裁判を受けて有罪となり、15年間を刑務所で過ごすことになる。

4人とも無実を主張したのですが、それが認められて釈放されたのは1989年のことだった。いわゆる「自白」が強要されたものであり、証拠も警察と検察がでっち上げたものであることが明らかにされてしまい、英国政府と司法界にとっては大恥となる事件であったわけです。実は事件はこれだけではなく、ジェリー・コンロンの父親までが爆発物製造の容疑で逮捕され、獄中で死亡したけれど、これもまた全くのでっち上げだったことがあとになって分かったというわけで、英国の司法史上、最悪の誤審(miscarriage of justice)とされています。

ギルフォード4人組のような悲劇が起こるについては、背景の一つとして英国社会によるアイルランド人への偏見があり、戦後の英国ではアイルランドからの移民については、"No blacks, no dogs, no Irish"(黒人、イヌ、アイルランド人はお断り)というような看板が作られたりするということがあった。それを語り始めるとアイルランドの歴史そのものを語らなければならなくなるわけですが、ギルフォードのパブが爆破されたころはIRAのテロ活動が盛んで「爆破=IRA=アイルランド人=テロリスト」という連想がさしたる疑問もなく横行していた。

ジェリー・コンロンの死に関連して、Observer紙のオーエン・ジョーンズ(Owen Jones)記者は、
という記事の中で、最近のイラクにおけるイスラム過激派の動きに連携するようにキャメロン首相が下院における答弁の中で
  • (ISISのような)体制に属する人びとは領土を奪取するのみならず我々を襲撃すべく計画している。英国において我々を攻撃するということだ。
    The people in that regime, as well as trying to take territory, are also planning to attack us here at home in the United Kingdom.
と述べたことを取り上げています。英国籍の若者が中東へ出かけて行って、過激派としての訓練を受けて帰国、英国内でテロ事件を起こす恐れがあるという考え方を反映しており、英国内で暮らすイスラム教徒への偏見を煽り立てているということです。実は首相によるこの答弁を引き出したのはミリバンド・労働党党首だった。最近の世論調査などでもイスラム教徒が多すぎると考える英国人が45%にものぼっているのだそうです。

ギルフォード4人組の事件が起こった1970年代の英国には反アイルランド人偏見もあったけれど、これと闘う左派系の活動家もたくさんいて、ジェリー・コンロンのような人々の支援にあたった。しかし最近では「自称進歩派」(self-described progressives)の中にはイスラム教を民主主義に対する脅威であると考えるような風潮もある。というわけでオーエン・ジョーンズ記者は
  • 将来出てくる可能性があるイスラム教のジェリー・コンランのような人びとは彼らのために大きな声を上げる人びとがいる、と信頼してもいいのだろうか?
    Can the possible Muslim Gerry Conlons of the future count on strong voices to speak out for them?
と言っています。

▼英国という国には意外に冤罪が多いのだそうですね。いつか調べて報告させてもらいますが、無実の罪で15年も刑務所に入れられて人生を棒に振ったというハナシが比較的頻繁に聞こえてきます。ジェリー・コンロンの場合も刑務所内のひどい待遇(食事に小便を入れられたとか)のおかげで精神的に参っており、何度も自殺を図ったのだそうです。

▼この記事の最初に載せた写真、釈放されたジェリー・コンランを真ん中に彼のお姉さんが両側にいる。左端にいるのは裁判を取材に来た女性の記者なのでしょう。気のせいか、記者もほっとしたように見える。そして彼らの背後にいる警官・・・この写真の中で笑っていないのはジェリー本人と警官だけなのですよね。いまから25年前に撮られたものですが、弟を挟んだ姉さん二人の表情、見事な出来栄えだと思いませんか?

▼キャメロンやミリバンドのような政治家が、世の中の反イスラム的な風潮を盛り上げているというObserver紙の記者の警告ですが、確かにそれはある。ISISの動きによってイラクが混乱し始めた途端にメディアもイスラム教への警戒感を盛り上げるような報道が目立っている。左の写真は最近のDaily Mailの日曜版の第一面です。"SCHOOL BOY TO JIHADIST"という大見出しになっている。英国の若者がイスラムのテロリストに変身したというストーリーです。Daily Mailは最近の英国では最も多く読まれている「中間紙」(高級紙と大衆紙の中間)です。

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3)イラク混乱:ブレアの言い分

前回のむささびジャーナルで「いまイラクで起こっていること」という記事を掲載しましたよね。あの記事で紹介したロバート・フライという人の見方を再確認しておくと
  • いまのイラク危機はイスラム圏におけるスンニ派とシーア派という勢力の間の「内戦」「宗教戦争」のようなものであり、欧米は口を挟まない方がいい。
ということになる。つまり2003年にブレア・ブッシュの「民主主義コンビ」が行ったイラク爆撃という過ちは決して繰り返してはならないということです。シーア派とスンニ派と呼ばれる勢力の代表的なところを、英国メディアの情報を参考にリストアップしておくと次のようになる。
  • シーア派:イラクの現政権、シリアのアサド政権、イラン
  • スンニ派:サウジアラビア、カタール、現在イラクで破壊活動をしていると報道されるISIS(イシス)という組織

この中でISISが目標としているのはシリアとイラクというシーア派同士の間にスンニ派の国を樹立するということです。つまりアメリカや英国が、自分たちが樹立したイラクの現政権を破滅から守るためにISISを叩こうとすると、常日頃から敵国扱いしているイラン、シリア(アサド政権)の敵を叩くという結果になる。だからイランとアメリカがISIS対策のために会談を持とうかという話にまでなっている。ややこしいのですよね。

前回のむささび以来、イラク情勢については英国メディアでも大きな話題となっているのですが、注目を浴びてしまっているのが、トニー・ブレア元首相が自分のブログに掲載した "Iraq, Syria and the Middle East" (イラク、シリア、そして中東)というタイトルのエッセイです。イントロは次のようになっている。
  • シリア内戦とそれに伴う(同国の)崩壊状態が、思った通りの影響、極めて好ましくない影響を与えている。イラクはいまや決定的に危険な状態にあるし、中東全体も脅迫されていると言えるのだ。
    The civil war in Syria with its attendant disintegration is having its predictable and malign effect. Iraq is now in mortal danger. The whole of the Middle East is under threat.
ブレアさんが主張しているのは、現在のイラク危機を自分とブッシュ米大統領が行ったフセイン政権打倒と結びつけて論じるのは誤りであり、現在の危機の根源はシリアの内戦にある。10年前のフセインよりもひどい独裁者であるアサドの政権がISISのような暴力組織を生み出しているというわけで、シリアが化学兵器を使った(とされる)ときに欧米はシリアを軍事的に叩いてアサドを追放しておくべきだった・・・と言っている。

ブレアさんのエッセイは2800語もあって、とてもむささびなどにはまとめきれないので、BBCのニック・ロビンソン記者の要約を拝借すると、ブレアさんの言い分は次の3点に集約される。
  • 1. 現在イラクとシリアで起こっていることは我々、英国で暮らす人間にとって決して他人事ではない。何故ならイラクで活動する新しいイスラム過激派(ISIS)の中には英国育ちのイスラム過激分子も混じっており、彼らは中東での「仕事」が終わったら英国へ帰ってきてテロ事件を起こす可能性があるからだ。

    2. 現在のイラク危機に欧米が軍事的に介入することは、必ずしも事態を悪化させるとは限らない。むしろ反対だ。いまのシリアを見ろ。欧米がイラクでフセイン政権を打倒したのと同じように、シリアのアサド政権も軍事介入によって追放するべきであったのに欧米は何もしなかった。だから現在のような悲劇的な状況になっているのだ。

    3. 軍事介入といっても、いわゆる"boots on the ground"(陸上軍の展開)を伴うとは限らない。リビアやコソボを思い起こしてほしい。あのときは空爆によって力の均衡を変えることができたのだ。
要約を要約すると、イスラム過激派(ISIS)を打倒するために欧米は軍事力の行使もためらうべきではないと言っているのですが、それはISISのような勢力を叩かないで放置しておくと、それはやがて欧米にまで影響力をもたらすからだとなります。

ブレアさんが繰り返し使っているのが "extremists" という言葉です。極右とか極左というときの「極」にあたるのがこれですが、ここでブレアさんが言っているのはイスラム教の過激派と呼ばれる集団のことです。彼によると、イスラム過激派に悩まされているのは欧米だけではない。ロシアはチェチェンで、中国はウィグルで、アメリカはあちこちで・・・それぞれextremistsを敵として戦っているのだから、反イスラム過激派という意味で東西の連帯が可能だとさえ言っている。そして
  • 要するに(イスラム過激派との)戦いは、戦いの性格を我々が受け入れない限りこれに勝利するということはないということだ。
    The point is that we won't win the fight until we accept the nature of it.
というのがメッセージだと言っている。ここでいう「戦いの性格」(the nature of it)とは、「武力行使を容認する覚悟がない限り絶対に勝てないような戦い」という意味です。

英国のメディアを見ている範囲においては、ISISの活動を語る際に2003年の英米によるイラク爆撃を遠因とする意見が多い。尤も2003年の軍事介入については、ISISがあってもなくてもブレアさんやブッシュ大統領に対する風当たりがきついことに変わりはないのですが・・・。ありもしない大量破壊兵器の存在を理由に爆撃することで、イラクや中東全体を混乱に陥れたことへの批判が強いということです。

ブレアさんは、この非難についてエッセイの中で、サダム・フセインは過去においてイランに対して化学兵器を使って100万人以上も人を殺したし、クルド族のような自国民に対してもこれを使用して弾圧していたのだ。兵器そのものは除去されていたかもしれないが、その製造技術は保持されていたのだから、サダムをあのまま放置しておいたら・
  • サダムが昔の方法(化学兵器を使うということ)に戻るようなことはなかったはずだなどと言えるだろうか?少なくとも彼が大量破壊兵器に再び手を出す可能性はあったということは言えるだろう。
    Is it likely that Saddam would have refrained from returning to his old ways? Surely it is at least as likely that he would have gone back to them.
と言っています。あのときサダムを死刑にしておいたからこそ、それ以後のイラクでは化学兵器が使われることもなくて済んだのだ、と言っている。しかしシリアのアサドが化学兵器を使った(とされた)とき欧米は何もしなかった、と文句を言っている。

ブレアさんのこのエッセイについては反響さまざまですが、ここでは「よく言ってくれた」という意見を紹介しておきます。保守派の新聞、Telegraphのサイト(6月16日付)に出ていたベネディクト・ブローガン(Benedict Brogan)という政治記者のエッセイがそれで、「ブレアの言うことには一理ある」(he's got a point)と言っている。英国内はもちろんのこと、ナイジェリアのボコ・ハラム、パキスタン空港でのテロ等々、イスラム過激派による破壊活動は全世界で続いている。
  • トニー・ブレアを憎みたい人はそのようにすればいい。しかし彼は(イスラム過激派によるテロ活動の)点をつなぎ合わせて語っているという意味では正しいのだ。我々は英国のみならず世界中で自分たちの価値観に対する公然たる挑戦に直面しているのであり、ブレアはそれを大声で叫んでいるのである。12年前の出来事について終わりのない非難合戦をする中でちょっと立ち止まって考えてみれば、少なくとも過激派によって我々の価値観そのものが挑戦を受けているというブレアの指摘を認めることから始めるべきであろう。
    Loathe Tony Blair as much as you like, he is right to connect the dots and to say loudly that we face a direct challenge to our values not just here but across the world. If we can trouble to pause in our endless recriminations about events 12 years ago, we should start by acknowledging that at least.
というのがこの記者によるブレア擁護のメッセージです。

もう一つ紹介しておきたいのは、BBCの政治ジャーナリストであるアンドリュー・マー(Andrew Marr)が6月14日に生(なま)で行ったブレアとのインタビューです。ただ紹介するのはその中の一か所だけです。インタビューの動画はここをクリックすると見ることが出来るし、それを文字化したものはここをクリックすると読むことができます(両方とも英語のみ)。ポイントは2003年にイラクを爆撃してサダム・フセインを死刑にしたことが本当に正しかったのかどうかということです。
  • MARR: 最近になってヒラリー・クリントンがイラク戦争を支持したことをしみじみ後悔すると発言している。あなたの同志であるはずのデイビッド・ミリバンド(元英国外務大臣)も似たようなことを言っている。あなたは自分のあの当時の決定について同じような言葉を使って「後悔」すると言う気はあるか?
  • BLAIR: だから・・・何度も言うように、(あの決定によって)人命が失われたこと、あるいはその後に直面したさまざまな困難については、当然誰だって後悔するし・・・
  • MARR: でも、決定そのものは間違っていなかった?
  • BLAIR: 2003年当時、サダム・フセインをそのまま放置した方が状況は良かったと思うのか、その方が中東がより安全で安定した場所になったと思うのか、と言われれば、私の答えは躊躇することなくノーだ。
ヒラリー・クリントンが何と言おうが、自分とブッシュのやったことは正しかったのだと言い張っている。

▼ブレアのエッセイの中でおそらくいちばん英国人の危機感に訴えるのは、イスラム過激派の活動に参加したパキスタン系移民のような「英国の若者」がやがて帰国して、英国内でテロ活動を行うようになるであろうという部分だと思います。英国におけるイスラム教徒の人口はほぼ300万、全人口の5%弱です。ブレアやキャメロンがイスラム過激派に対する警戒を呼びかければ呼びかけるほど、イスラム教徒は世間の冷たいまなざしに晒されるような気持になる。

▼しかしブレアの言う「イスラム過激派」(extremists)は「勢力」であって「国家」ではない。どこかに政府や議会のようなものがあって、首相や大統領がいるのであればそこを叩き、リーダーを抹殺すれば一応は収まるのであろうけれど、そのような意味では「姿」が見えない。だから叩きようがない。しかしブレアは欧米はもちろんのこと、イスラム過激派に手を焼いているロシアや中国にも呼びかけて反イスラム過激派共同戦線を張ろうと言っている。

▼かつては資本主義vs社会主義というのが「東西冷戦」の構図とされたけれど、ブレアの言うことを聞いていると「イスラム vs 非イスラム」の冷戦を薦めているとしか思えない。そのリーダーとなるのは?「決まってるでしょ、私、正義の味方、トニー・ブレアで~す」というわけです。ロシアや中国は彼らなりの打算もあって乗ってくるかもしれないけれど、アメリカやヨーロッパの世論は、空爆だけで済むなどということは信用しない。というわけで、ブレアの勇ましい正義論は彼が考えているほどには受けないだろうと思います。

▼ブレアさんは現在、国連、EU、ロシア、アメリカの4国・機関(quartet)の中東問題に関する代表(envoy)ということになっているけれど、6月23日付のGuardianによると、英国の元駐イラン、駐リビア、駐エジプトの大使らが、ブレア氏は代表としては何も仕事をしていないというので「解任すべきだ」という連名の手紙を発表したりしています。
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4)「ブレアさん、あんたは狂っている」
 

イラクの混乱について、欧米が武力行使をしてイスラム過激派を打倒することを訴えるブレアさんのエッセイについては極めて批判的な見解も伝えられています。ここでは二つ紹介します。一つはThe Independent紙のロバート・フィスク(Robert Fisk)記者が6月15日付のサイトに掲載している
という見出しのレポートです。「ブレアが主張した、欧米によるシリア爆撃によって助かったであろう勢力は反アサド勢力であり、その勢力がISISとしてイラクに脅威を与えている」ということです。フィスクという記者はレバノンで暮らす中東の専門ジャーナリストなのですが、彼の報告は戦闘の現場からのものが多く、この記事もシリア政府軍への同行取材によって書かれています。


フィスクによると、シリア政府軍に参加して戦っている兵士にはシリア人以外にアフガニスタン人やイラン人が多く、いずれもシーア派のイスラム教徒だそうです。そしてアフガニスタンの場合、スンニ派のイスラム教徒もおり、彼らは反政府軍に参加して戦っている。つまり同じアフガニスタン人でも宗派によって敵味方に分かれて戦闘に参加している。イラン人の兵士は、翌日はテヘランに帰るのだと言っていたのだそうです。
  • トニー・ブレアは、欧米諸国がシリアに対して何もしなかったことがイラク危機を生んだのだと主張している。しかしシリアを爆撃した結果としてダマスカス(シリアの首都)の権力の座に就くのは誰だったのか?今まさにイラクのバグダッドにとって脅威となっているイスラム過激派ではないか。バラク・オバマがブレアのような人間の言うことに耳を傾けないでいるとすれば幸いというものだ。
    Now Tony Blair tells us that Western “inaction” in Syria has produced the Iraq crisis. But since bombing Syria would have brought to power in Damascus the very Islamists who are now threatening Baghdad, it must therefore be a mercy that Barack Obama does not listen to the likes of Blair.
とフィスク記者は言っている。

このあたりのことについて、ブレアさんはエッセイの中で、シリアのアサド大統領を極悪人扱いする一方で、アサドと戦う反政府勢力の中にも過激派ではない勢力もいるはずだと言っている。アサドを打倒し、しかもISISのような過激派をも排除するとなると、反政府勢力の中に自分たちの意に沿うようなグループを求めるしかない。ただブレアさんはそのような「穏健派」が実際に存在しているのかどうかについては語っていない。


フィスクとは違う立場でブレアのエッセイに批判的なのがボリス・ジョンソン(Boris Johnson)ロンドン市長です。この人は保守党の国会議員もやったのですが、それ以前には保守派のオピニオン・マガジン、The Spectatorの編集長もつとめたメディア人間です。ひょっとすると、来年の総選挙のころには保守党のリーダーになっているかもしれない人でもある。その彼が6月15日付のTelegraphに寄稿したエッセイは
という書き出しで、「この際、ブレアは専門の精神科医に診てもらった方がいい(he surely needs professional psychiatric help)」とまで言っている。ジョンソン市長が「吐き気を催す」(emetic)とまで言ってブレアを非難しているのは、サダム・フセインを打倒したのは正しいことであり、現在のイラクの混乱とは無関係だと(ブレアが)主張している点です。
  • サダムは血も涙もないバアス党の独裁者であり、自国民をとてつもなく残酷な目に合わせた人間であった。が、彼自身は世界貿易センターを襲った9・11のテロとは無関係であったし、実際には大量破壊兵器さえも持っていなかったではないか。
    Saddam was a ruthless Ba’athist tyrant who treated his population with appalling brutality. But he did not have anything to do with the 9/11 attack on the World Trade Centre, and he did not possess Weapons of Mass Destruction.
実はジョンソン市長は2003年のイラク爆撃のころには保守党の下院議員であり、イラク爆撃には賛成票を投じている。ただブレアらがやったことは、フセインを死刑にし、イラクの社会体制をぶち壊しただけで、その後に何をするのかということを全く考えていなかった。おかげで10万人ものイラク人と英米・連合軍の兵士が意味もなく命を落とした。ジョンソン氏はフセイン大統領が死刑になった直後に国会議員としてバグダッドを視察したのですが、その際に英国軍の幹部から「背骨(フセイン大統領のこと)は取り去ったのですが、それに代わるものを用意していないのです」と聞かされて愕然としたのだそうです。

英米によるイラク爆撃は誤りであったけれど、ブレアがイラクで過ちを犯したからと言って、英国には世の中をよくしようという能力がないというわけではない。しかしそのような役割を果たそうと思えば「少なくとも自分たちが犯した失敗については正直でなければならない」(at least honest about our failures)というのがジョンソン市長の言い分で
  • 誰かがトニー・ブレアのところへ行って「黙っていろ」と告げるか、自分が生み出した悲劇の現実を受け入れるように言う必要がある。それを受け入れるのであれば彼の言うことも聞く価値があるかもしれない。いいかね、真実だけがあんたを自由にするんだ、トニー・・・。
    Somebody needs to get on to Tony Blair and tell him to put a sock in it - or at least to accept the reality of the disaster he helped to engender. Then he might be worth hearing. The truth shall set you free, Tony.
と結論しています。

▼ロバート・フィスクはThe Great War for Civilizationという本の中で、9・11テロ直後のアメリカのメディアが、テロリストたちがなぜ(why)あのような事件を起こしたのかについては殆ど話題として取り上げなかった、と述べています。whyを問題にすることはテロリストに味方するのと同じという風潮があったということです。フィスク自身は2001年のテロのwhyはパレスチナ問題にあると言っているのですが、whyを話題にしなかったということは、メディア全体が思考停止状態に陥っていたということですよね(むささびジャーナル263号)。

▼ロンドン市長のボリス・ジョンソンは1964年生まれだから、ようやく50才です。来年の選挙でキャメロンを継いで保守党の党首となり、首相になったとしてもまだ51才。若いですよね。基本的に言論人だからあちこちで書いているけれど、代表的なところでは保守派の新聞Telegraphのサイトにあるブログです。

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5)イラク分割統治の愚かさ
 
 イラクという国がこれからどうなっていくのか、むささびなどには想像もつきませんが、現在ささやかれているのが、三つに分裂するということですよね。シーア派、スンニ派、そしてクルド人の3グループが三つのエリアで別々に暮らすということです。どこかウクライナを想起させますが、ロンドンのメトロポリタン大学で社会学を教えるサミ・ラマダーニ(Sami Ramadani)氏は6月16日付のGuardianに「イラクが分裂しているというのは作り話だ」(The sectarian myth of Iraq)というタイトルのエッセイを寄稿しています。この人はサダム・フセイン政権のイラクを逃れて英国へ政治亡命した学者です。
  • 我々(イラク人)は何世紀にもわたって平和に共存してきたのであり、残忍な独裁者も要らないし、欧米による干渉も必要としていない。
    We coexisted peacefully for centuries, and need neither brutal dictators nor western intervention
というのがエッセイのメッセージです。


イラクが英国からの支配から「イラク王国」として独立したのは1932年、それ以来さまざまな民族や宗派の人々が混ざり合って暮らしてきた。欧米人の中にはブレアのように、イラクに民主主義が根付くためには欧米の干渉が必要だと主張する人間もいるし、そもそも民主主義は根付かないのだからイラクのような国はサダム・フセインのような強力な独裁者が支配しない限り分裂は避けられないという人もいる。しかしラマダーニ氏によると
  • どちらの側も、イラクにおける宗教、部族、民族、国籍などが異なるコミュニティ同士が戦ったという歴史的な証拠を提示できていない。
    Neither side, though, has yet produced historical evidence of significant communal fighting between Iraq's religions, sects, ethnicities or nationalities.
とのことです。ブッシュとブレアの「民主主義コンビ」が乗り込んできてイラクの体制を破壊する前、国内の異なる部族や宗派が血で血を洗うような戦いに明け暮れてきたという証拠はどこにあるのか?と言っている。

2003年の英米の軍事介入以前でその種のことがあった例としては、1941年に起こったユダヤ人地区襲撃事件というのがある。しかしそれにしてから誰が計画したものなのかが未だに分かっていない。関連書類が英国政府の公文書館にあって未だに秘密事項となっているのだそうです。もう一つ、1950年~52年、バグダッドで起こったユダヤ教会爆破事件というのがあったけれど、これはイスラエルでの建国運動(シオニズム)の活動家が、これへの参加を拒んだイラク在住のユダヤ人を脅迫する目的で行ったものであることが分かっている。


今から約70年前の1943年、シリアの首都・ダマスカスにバアス党(Ba'th Party)という政党が誕生した。アラブ諸国が団結して社会主義を確立することを目指したもので、設立者の多くがシーア派のイスラム教指導者だった。

イラクにもバアス運動が広がるわけですが、ラマダーニ氏によると、イラクではサダム・フセインがバアス党の実権を握る1970年代後半までは政治の世界はすべて無宗教(secular)の世界であったのだそうです。国の運営を巡って宗教や宗派が指導権争いをするというのではなかった。ただイラクのバアス運動には最初からエリート主義的なところがあり、イラク国内のクルド族や非アラブ系の人々、それにアラブ系であっても貧困層を見下すようなところがあった。80年代になってフセイン政権がバアス党以外の政党を弾圧するようになると、教会やモスクなどで政治集会が持たれるようになり、宗教組織が政治活動にも関与するようになる。

ただ、イラク国内における部族間、宗派間、人種間の対立を強調しすぎると現実のイラクが見えなくなる。例えばバグダッドの人口は約800万ですがその中には100万人近くのクルド人がいる。イラク第二の都市、バスラの人口(約350万)の2割はスンニ派であり、イラクでも最もスンニ派が多いと言われるサマーラにはシーア派の聖堂(shrine)が二つあり、いずれも過去数世紀にわたってスンニ派の聖職者が護持している。イラクにおける虐げられた存在としてクルド族のことを挙げる専門家が多いけれど、サミ・ラマダーニ氏によるとクルド弾圧を行ったのは政府(特にサダム・フセインの政権)であって、普通の国民の間では反クルド族政策は決して人気のあるものではなかった。


イラクという国が現在の危機を乗り切って存在し続けることができるかどうかは予断を許さない部分はあるけれど、ラマダーニ氏は、「シーア派、スンニ派、クルド族という3つのグループに分割統治させることが唯一の方法だと主張する人は、イラクという国の成り立ちが分かっていない人たちだ」と決めつけています。そのようなことをすれば、3つの地域のどれもが狂信的指導者によって牛耳られることになるということです。そうなると・・・
  • イラクはどの地方も人種的・宗教的な混合社会なのだ。特にバグダッドとイラクの中央部はそうである。そのような国を(人為的に)3つに分断したら何が起こるのか?三つの地域間における永遠の戦争である。そうなって得をするのは石油会社、武器商人、そして将軍様たちだけなのである。
    Given how ethnically and religiously mixed Iraq's regions are, particularly in Baghdad and central Iraq, a three-way national breakup would be a recipe for permanent wars in which only the oil companies, the arms suppliers, and the warlords will be the winners.
とラマダーニ氏は訴えています。

▼イラクにおけるさまざまな宗派間、部族間、人種間などの対立は、あくまでも2003年の米英によるイラク攻撃以後に激化したものだ、というのがラマダーニ氏の主張です。アメリカ軍がイラクを占領するにあたって採用した「分割統治」(divide and rule)というやり方によって、国内対立がフセイン政権下におけるよりもひどいものになったということです。

むささびジャーナル第3号(2003年3月23日)にジャーナリストのアンソニー・サンプソンが書いたエッセイが載っています。ブレア・ブシュによるイラク爆撃が始まる直前に書かれたもので、彼はその中で次のように言っています。
  • 何と言ってもこの戦争がもたらす本当の危険性はイラクが国として存在しなくなるということにある。そうなった後にはさまざまに異なる部族間の対立と抗争が始まる。それをコントロールすることは西側の外国にできるような事柄ではないのだ。
▼むささびジャーナルの記事は、サンプソンが2月16日付のThe Observerに寄稿した "Why is Britain so committed to this war?"(英国はなぜそこまでこの戦争に関わるのか?)というタイトルのエッセイの要約です。これを読むと、10年以上前に現在のイラクを取り巻く状況を悲しいほど見事に予測しているのが分かります。よろしければぜひご一読を。

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6)どうでも英和辞書
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i'm lovin' it:うっめぇ!

ワールドカップの試合を見ていたら、スタジアムの宣伝スペースにマクドナルドの "i'm lovin' it!" というコマーシャルが目立ちましたよね。何かが「とても好きだ」という場合、普通は "I love it" 言いますよね。文法の本によると、英語の世界には「状態動詞」(stative verbs)と「動態動詞」(dynamic verbs)というのがあるのだそうです。前者は文字通り何かの状態を表すもので、例としてlove, hate, knowなどが挙げられている。なるほどいずれも心もしくはアタマの「状態」を表していますね。これらの言葉には進行形を表すingは使わないのが「普通」だそうです。「動態動詞」にはwalk, run, readのようにものの動きを表現する言葉が属する。ingはもっぱらこれらの動詞に使われるとのことであります。

つまりマクドナルドの宣伝文句は文法的には間違っているということ?わざと間違えて目立とう・・・そういうこと?「これ、たくさん美味しいねぇ!」というのと同じってこと?いや必ずしもそういうわけではないのでありますね。"I love it"は「マクドナルドって美味しいよね」で、"I am loving it" は、いま口にしている「このマクドナルドは美味しいなぁ!」という意味なのだそうです。

ということは、loveとかhateのような場合は、いま現在の感情や感覚を強く表現するために、状態動詞でもingをつけて使うことがあるということです。「うっめぇ!」という、あれですが、そのためには全部小文字で "i'm lovin' it!" となる必要があるのかも。
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7)むささびの鳴き声
▼今回はイラク特集のようになってしまいました。一か所しか引用しなかったけれど、BBCのアンドリュー・マー記者とのインタビューの中で、ブレアは2003年のイラク爆撃について、サダム・フセインを殺害したことは正しかったけれど、「結果として起こることの複雑さを過小評価(underestimate)していた」と言っている部分があります。首相としてのブレアは英国内で一時は圧倒的な人気を誇りましたよね。人気の理由は(むささびの見るところによると)「英国かくあるべし」という「べき論」を語ったことにある。「べき論」とは物事を「善か悪か」(right or wrong)で語ろうとする思考回路のことです。

▼サッチャー時代を経てそれなりに豊かになっていた英国人(特にメディア界のインテリたち)は「べき論」を滔々と述べたてる「若き宰相」に熱狂した。「理念がある」というわけです。「極悪人の独裁者、サダム・フセインを打倒せよ!」「そうだ!」という熱狂の中に保守党議員だったボリス・ジョンソン(現ロンドン市長)がいたということです。

▼それが最高潮に達したのが9・11後のブッシュ大統領との蜜月です。あの事件でショックを受けたアメリカ人にとってジョージ・ブッシュという、ちょっと頼りないリーダーの下へ大西洋を越えてはせ参じた「歴史と伝統の国・英国」の若きリーダーは本当に輝いて見え、「ブレアを大統領にしたい」という声が上がったくらいだった。それを見てアメリカ人以上に熱狂したのが英国人だった。「あのアメリカ人たちが、オレたちのリーダーを崇め奉っている!」というわけで、常日頃の米国コンプレックスも吹っ飛んでしまった。大英帝国の再来!英国はすごいんだよ、な?な?というわけです。

▼しかし・・・ブレアが主張した大量破壊兵器なんてイラクのどこにもなかった、イラクへ行った英国人の兵士にも死者が出てきた、ロンドンでもテロ事件が起こった、アメリカ国内でもブッシュへの風当たりが強くなってきた・・・というわけで英国人の熱狂にも冷水がかけられ、「うそつきブレア」(Bliar)というあだ名までもらったりするようになった(むささびジャーナル9号参照)。

▼あれから11年、「サダム・フセインを殺害したことは正しかったけれど、結果として起こることの複雑さを過小評価していた」ということは、イラク爆撃(とフセイン殺害)が間違っていたと言っているのと同じです。結果として起こることが分からなかったというのだから政治としては過ちですよね。ロンドン市長の怒りは、そのようなブレアを見抜けなかった政治家としての自分に対する怒りなのかもしれない。

▼今はどうか知らないけれど、ブレアが首相であったころは、日本の政界、報道界の中には「信念の政治家」として大いに褒め称えた人たちがいたものです。ブレアが言っているように「イスラム過激派と戦う国際共同戦線」のようなものが出来上がって、日本にも参加を要請してきたとき、安倍さんはどうするのでしょうか?むささびはもちろん反対するのですが、それは日本に憲法第9条があるからではない。自分たちが襲われたわけでもないのに、よその国へ出かけて行って破壊の限りを尽くすなどということは、人間ならやってはならないことだからです。

▼(話題を変えて)東京都議会の女性議員が性差別的ヤジを浴びた問題ですが、英国メディアでもそれなりに報道されたけれど、日本の多くのメディアがハンで押したように伝えた「海外でも大きく報道されている」ほどのものではなかったというのがむささびの観察です。日本の地方議員がセクハラ発言?それで?So what? 世の中いろいろなことが起こっているのです、そんなことにいちいちかまっていられないのであります。

▼政治の世界における女性差別について外国メディアの報道を挙げて「だから日本はダメなんだ」というたぐいの発言をするのはかなりの確率で男です。日本記者クラブという組織があって、優れたジャーナリスト活動をした人を表彰する制度を持っています。1974年からこれまでの40年間で50人を超える記者がこの賞をもらっているけれど、うち女性のジャーナリストは何人いるのか?4人(うち一人は死後の受賞)です・・・ということを聞いて「外国だって同じだ。ピューリッツァー賞を見ろ」とか言うのもたぶん男です。

Guardianが、日本の政治の世界で如何に女性が進出していないかを数字で示すために都議会における女性議員の数を "Just 27 of the chamber's 127 representatives" (127人中わずか27人)と言っています。127人中の27人というと21%だから確かに多くはないけれど、ロンドン市議会の議員名簿を見ると女性は25人中の7人(28%)となっている。東京より率が高いけれど、それほど自慢するような数字とも思えない。

▼(さらに話題を変えて)いまから12年前(2002年)の日本で何があったか、憶えています?日韓ワールドカップ?それもそうなのですが、駐日英国大使館が主宰する「日英グリーン同盟」というのがあったのでありますよ。イングリッシュオークという木(ナラの一種)の苗木が全国200か所以上の町や村に植えられたのですが、最近、そのうちの2か所であの木が丈夫に育っているということが分かりました。いずれも福島県で、一つは新地町の尚英中学、もう一つは楢葉町のJビレッジというところです。新地町は町の5分の1が津波で流されたのですが、尚英中学は高台にあったために助かったのだそうです。Jビレッジはサッカーのナショナルトレーニングセンターなのですが、いまは原発事故に関連して東電の「福島復興本社」として使われている。大震災にもかかわらず2002年に敷地内に植えられたオークが元気であることは嬉しいじゃありませんか。


▼長々と失礼しました。もう7月です。
 
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バックナンバーから
2003
ラーメン+ライスの主張
「選挙に勝てる党」のジレンマ
オークの細道
ええことしたいんですわ

人生は宝くじみたいなもの

2004
イラクの人質事件と「自己責任」

英語教育、アサクサゴー世代の言い分
国際社会の定義が気になる
フィリップ・メイリンズのこと
クリントンを殴ったのは誰か?

新聞の存在価値
幸せの値段
新聞のタブロイド化

2005
やらなかったことの責任

中国の反日デモとThe Economistの社説
英国人の外国感覚
拍手を贈りたい宮崎学さんのエッセイ

2006
The Economistのホリエモン騒動観
捕鯨は放っておいてもなくなる?
『昭和天皇が不快感』報道の英国特派員の見方

2007
中学生が納得する授業
長崎原爆と久間発言
井戸端会議の全国中継
小田実さんと英国

2008
よせばいいのに・・・「成人の日」の社説
犯罪者の肩書き

British EnglishとAmerican English

新聞特例法の異常さ
「悪質」の順序
小田実さんと受験英語
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「日本型経営」のまやかし
「異端」の意味

2010
英国人も政治にしらけている?
英国人と家
BBCが伝える日本サッカー
地方大学出で高級官僚は無理?

東京裁判の「向こう側」にあったもの


2011
悲観主義時代の「怖がらせ合戦」
「日本の良さ」を押し付けないで
原発事故は「第二の敗戦」

精神鑑定は日本人で・・・

Small is Beautifulを再読する
内閣不信任案:菅さんがやるべきだったこと
東日本大震災:Times特派員のレポート

世界ランクは5位、自己評価は最下位の日本
Kazuo Ishiguroの「長崎」


2012

民間事故調の報告書:安全神話のルーツ

パール・バックが伝えた「津波と日本人」
被災者よりも「菅おろし」を大事にした?メディア
ブラック・スワン:謙虚さの勧め

2013

天皇に手紙? 結構じゃありませんか

いまさら「勝利至上主義」批判なんて・・・
  
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