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301号 2014/9/7
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美耶子の言い分 美耶子のK9研究 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書

日の暮れが早くなり、虫の音が騒がしく聞こえるようになりました。植えていたトマトやキュウリもしおれて元気がなくなって、これで本当に夏は終わりなのでしょうか?9月もさっと消えてしまうのでしょうね。

目次

1)記憶と「時間」
2)イスラム国はアルカイダを凌駕するか?
3)「スコットランド独立は避けられない」
4)エリート支配から抜けない?英国
5)どうでも英和辞書
6)むささびの鳴き声
*****
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1)記憶と「時間」

あなたは記憶力がいいほうですか?私?いいわけないでしょ。自慢する気はないけれど、最近ますますひどくなっています。ネット情報によると、人間の記憶は脳の中にある「海馬」(hippocampus)という部分が司るのだそうですね。さらに言うと、「記憶」にも2種類あって、特定の場所や時間とは無関係な普通の知識や情報(例えば「一日は24時間である」とか「英語のappleは日本語ではリンゴである」等々)に関する記憶(力)のことは「意味記憶」(semantic memories)という。それに対して、具体的なものや出来事(「昨日の夕飯は冷やし中華だった」とか「XXさんと食事したのは先月の末だった」など)についての記憶は「エピソード記憶」(episodic memories)というのだそうです。

Discoverという科学誌に
という記事が出ています。「記憶喪失」(amnesia)に関する研究についての記事なのですが、米・ワシントン大学のカール・クレイバー(Carl Craver)という記憶研究者らが行った実験によると、「エピソード記憶の喪失者といえども時間の概念まで失っているわけではない」(Individuals with episodic amnesia are not stuck in time)のだそうです。

クレイバーらが研究したのは、交通事故で左右の海馬を失った、あるロック歌手のケースです。このロック歌手(ここではKCという名前にしておく)の場合、長期的記憶が出来ず、いま起こったことでも数分経つと忘れてしまうし、過去や未来について想像することができない。そのKCと研究者(ETとしておく)の会話を再現すると・・・


ET

あなたは明日、何をする予定ですか?
What will you be doing tomorrow?
<15秒間の沈黙があって>
KC 分からない。
I don’t know.
ET 私の質問は憶えていますか?
Do you remember the question?
KC 私が明日何をしているかってことでしょ?
About what I’ll be doing tomorrow?
ET そうです。そのことを考えようとしていたときのあなたの心理状態をどのように説明しますか?
Yes. How would you describe your state of mind when you try to think about it?
 <5秒間の沈黙があって>
KC 空白、かな。
Blank, I guess.

実はKCという人の記憶喪失はよく知られているケースで、神経心理学者の中には海馬を失ったKCは過去だの未来だのという時間の観念がなく「永遠の現在」(permanent present)に生きているのだという主張をする人もいる。しかしクレイバーらによると、KCは過去と未来を想像することはできないかもしれないが「完全に理解することはできる」(he understands them perfectly well)とのことで、次の会話をその例として挙げている(SRは研究者の名前)。

SR

将来起こることが過去に起こったことを変えてしまうということはあり得るか?
Can something that happens in the future change what has happened in the past?
KC あり得ない。 No.
SR ある出来事が将来に起こるとすると、その出来事はいつも将来に存在するものか?
If an event is in the future, will it always be in the future?
KC  違う。No.
SR なぜ? Why?
KC 時間が進むからだ。
Because time moves on.
話題を変えて 
SR  あなたが人生の中で最も後悔していることは何か?
What do you regret most about your life?
KC 何もない。何も思いつかないのだ。
Nothing - I can’t think of anything.
SR リチャード・ニクソンを知っているか?
Do you know Richard Nixon?
KC  知っている。
Yes.
SR  彼(彼女)は人生で後悔することがあると思うか?
Do you think he/she has any regrets in life?
KC  あるとは思えない(思わない)。
I don’t think so.
SR  あなたの母親には後悔の念はあると思うか?
Do you think your mother has regrets?
KC ノー(思わない) No.

KCが喪失したのが自分の個人的な経験とか過去の特定の出来事が中心の「エピーソード記憶」であって一般的な知識についての記憶はそれほどダメージを受けているわけではない。リチャード・ニクソンが大統領であったことは「意味記憶」の範疇に入るからよく憶えている。しかし過去の特定の出来事(ウォーターゲイト事件)については想い出せないのだそうです。カール・クレイバーの見るところによると、KCには時間の感覚はあるし過去や未来についても理解ができる。KCが苦手なのは、将来であれ過去であれ、特定のモノや出来事をアタマに描くという作業であるとのことです。となると、これまで言われてきたように、海馬を喪失したら記憶も時間の観念も失って「永遠の現在」に生きるしかないという見方は必ずしも当たっていないということになる。

▼私の海馬がどうなっているのか知らないけれど、最近特に目立つのは、1分前にやろうとしていたことを忘れてしまうということです。「エピソード記憶」の喪失状態ですね。例えばいま「そうだ、畑のキュウリに水をやらなきゃ」と思いながらトイレに行き、出てきて畑の方へ歩き始める。で、「え~っと、何やるんだっけ?」となって、5秒ほど考えてようやく思い出す。全く思い出せないというのはない(と思う)。でも、この5秒は長いのであります。「意味記憶」の喪失はもっとひどいかもしれない。テレビで見るタレントの名前が思い出せないというのは「意味記憶の喪失」ですよね。細川たかしのヒット曲、「アタシ、バカよね、オバカさんよね~」のタイトルが『心のこり』であることを想い出せなくて往生したのでありますよ、最近も。
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2)イスラム国はアルカイダを凌駕するか?

6月15日付のむささびジャーナル295号で、「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」というイスラム教の武装組織がイラク北部のモスルという町を占拠したということを書いています。この組織はあのとき急に登場、イラクとシリアの間にスンニ派のイスラム国家を作ることを目指しているということを紹介しました。その後、この組織の活動は一向に収まっていない。どころか英国内のイスラム教の若者がこの組織が展開している戦いに参加、アメリカ人ジャーナリストの記者殺害に手を貸したりという情報が伝わって、何やらとんでもないテロ組織として警戒され、アメリカなどはイラク国内のこのグループを空爆することで壊滅作戦に乗り出している。

最近の報道では「イスラム国」(Islamic State:IS)という名前が使われているのですが、むささびなどにはいまいちよく分からない・・・と思っていたら、ドイツの週刊誌、シュピーゲル(Spiegel)の英文版のサイト(8月23日)にかなり詳しい解説が出ていたので紹介します。この記事はシュピーゲル編集部がアメリカのブルッキングス研究所(Brookings Institution)のチャールズ・リスター(Charles Lister)研究員に聞くという形式で書かれています。それによると、この組織はかつて伝えられていたようなアルカイダの関連組織というよりもライバル組織のようですね。以下はシュピーゲル編集部とリスター氏との一問一答です。今回は余りにも長くなるので全てではなく、数か所は省略しますし、英文はつけないことにします。興味のある方は原文をご覧ください。記事のタイトルは
となっています。
Spiegel イスラム国」(Islamic State:IS)という組織は何やら急に出てきたという印象だが、どのような歴史を持っているのか?
Lister ISの起源はアブー・ムスアブ・アッ=ザルカーウィー(Abu Musab al-Zarqawi)という指導者が率いる組織がアフガニスタンに訓練所を作ったことにある。1999年だから今から15年前のことだ。2001年末にアメリカがアフガニスタンを攻撃したとき、このグループはアフガニスタンを出てイラン経由でイラク北部にたどり着いたのだ。彼らは2003年にはイラクにおけるイスラム過激派運動の主体となっていた。
Spiegel: ISとアルカイダの違いは?
Lister: ISもアルカイダもイスラム教の「シャリーア法」によって統治されるイスラム国家の樹立を目指している点では同じだ。しかしそこへ至る戦術の点で大きく異なる。アルカイダは忍耐強く、長期的な視野に立って社会的な支配と統治を実施しようとしている。つまりまずは社会的・政治的な条件を整えることに力を注いでいる。ISの場合はもっと「短気」だ。ISはある地域を支配すると直ちにシャリーア法を施行して人びとを管理しようとする。この点では2000年代も今も変わっていない。シリアを見れば、ISとアルカイダの戦術の違いが分かる。シリアにおけるアルカイダの友好組織はアルナスラ(Al-Nusra)という名前だが、彼らはシリア国内の社会レベルではかなりの影響力を持っている。しかし彼らはごく最近までシャリーア法を施行しようとはしなかった。その理由は、まだ機が熟していない、社会的な条件が整っていないということだ。そんな状態で施行しようとすると拒絶されるだけだということだ。
Spiegel: アルカイダはISよりも過激でないと言えるのか?
Lister: それは間違いない(Absolutely)。ISに比べればシリアにおけるアルカイダはおとなしいものだった。ただそれも変化しつつあるようだ。アルカイダの下部組織(Al-Nusra:アル=ヌスラ)も自分たちのテリトリーを守ろうというので、イスラム法を厳重に施行するようになっている。
Spiegel: ISは本当に国家を作ろうとしているのか?彼らの活動を見ていると、貧困者に食料を配ったり、老人の面倒を見たりという社会活動に力を入れているようにも見える。国家を作るというよりも既存の政府に取って代わるという感じではないか。それにしてもこれらの活動のための資金はどこから出ているのか?
Lister: ISがほぼ自己資金で活動していることは良く知られている。どのようにしてカネを作るのかと言うと、石油・ガス、農産品などの販売管理(非合法も含む)、水と電力の管理、それと自分たちが支配している地域における税金の取り立てだ。一週間に何百万ドルもの収入があり、それを社会活動に使っている。Islamic State(イスラム国家)という名前のとおり、彼らは「国家」として自分たちの存在を広めている。「国家」であるためには、政府のやるようなことをやらなければならない。例えばイラクのモスル・ダムを一時的に支配したときには、専門家も含めて地元民を雇用したりしていたのだ。正当な給料を払うときもあるし、強制的というときもあるが、いずれにしてもイラクやシリアにおいてはレストランのウェイターからダムの専門技術者まで自分たちの傘下に置くことに成功している。
Spiegel: あなたは、ISのリーダーであるアブー・バクル・アル=バグダーディーはアルカイダのオサマ・ビン・ラディンやザワヒリよりも宗教的な権威legitimacy)があると言ったことがある
Lister: ビン・ラディンもザワヒリもイスラム教の「エキスパート」であるかもしれないが、イスラム教の聖職者としての正式な訓練を受けたことはない。聞くところによると、バグダーディーはイスラム神学者としての博士号もあるし、自分の故郷であるイラクのサマーラにあるモスクの聖職者だったこともある。バグダーディー直属の部下というと軍事・諜報専門家とイラク軍からのプロの軍人などだが、そのような人間をまとめていこうと思えばトップには宗教者を置いておく必要があるだろう。バグダーディー本人は、これと言ったカリスマ性がある人物とも思えない。ということは宗教的な権威があるということだろう。
Spiegel: ISには何人くらいの戦闘要員がいるのか?
Lister: シリアに6000人から8000人、イラクに1万5000人といったところだ。イラクでの人数が増えているのは、このところ地方で武器を持っている人間を自分たちに吸収しているからだ。ISが町へ入ると、彼らは武器をISに献上するか、自らISの戦闘員になるかのどちらかを選択することを要求される。
Spiegel; 聖戦の戦闘員をヨーロッパからリクルートしているが・・
Lister: 最近のISには前代未聞と言っていいほどの数の外国人兵士が参加している。その多くがヨーロッパ出身だ。おそらく2000~3000人がヨーロッパ人だ。ヨーロッパそのもので戦いを遂行するときには彼らの存在は役に立つかもしれない。しかし現時点でそれを望んでいるかどうかは疑問だ。
Spiegel: いま振り返ってみて、ISがここまで伸びることを阻止するためには何をするべきだったのか?3年前にシリア内戦が始まった時点で欧米が反政府勢力の穏健派に武器を与えておくべきであったということか?
Lister: それは国際的にも意見の分かれるところだ。ISは2009年の中ごろにはイラクでの勢力を拡大しつつあったと思う。つまりシリア内線があってもなくてもイラクにおけるISの勢力は今程度にはなっていたということだ。シリアにおける穏健派を武装していればISがシリア国内で「領土」を獲得するようなことはなかったのでは・・・という意見がある。そういうことも言えるかもしれないが、シリアが内戦状態になったこと自体が彼らが拡張する舞台が用意されたようなもので、どのみち何らかの領土獲得はしていたはずだ。
Spiegel: ISは他のイスラム過激派とはどのような関係を保っているのか?
Lister: 極めて薄い(very minimal)。シリアには仲間(allies)と呼べるようなグループはいない。特に大きな過激派組織との関係は薄い。イラクには支持者がたくさんいるが、それは部族グループとかバース党支持者であって武装集団というのではない。ISは自分たちがアルカイダより優越していることを誇示しすぎて、アルカイダを支持・支援する過激派から浮いてしまっているという部分がある。
Spiegel: ISの拡大を止めるために欧米に何ができると思うか?
Lister: ISがここまで拡大と発展が許されてきたということは、拡大を食い止めるには何をやっても時間がかかる。時間だけではない。かなりの資源(resources)が必要ということだ。それも軍事的な意味での資源だけではない。社会、経済、宗教、政治、外交等々、あらゆる分野における「資源」ということだ。それとシリアにおける内戦を一刻も早く終結させること。ISのような組織には内戦は絶好の土台なのだ。そしてイラクにおいては、政府がスンニ派の部族を自分たちの体制に組み入れる努力が必要だ。

Spiegelの記事とは全く別に、英国Independent紙の中東専門記者、ロバート・フィスクが8月31日付のコラムで「イスラム国」とアルカイダの関係について書いているのですが、その中で2011年にアメリカの特殊部隊に殺されたオサマ・ビン・ラディンが殺害される前に書いたとされるメモについて触れています。メモそのものは殺害後にアメリカの特殊部隊が入手したものだとのことですが、その中でビン・ラディンは「あちらにいる我々の兄弟たち(イスラム国のこと)に団結と集団行動の重要性を伝えるべきだ」とか「イスラム教の義務を果たすことがすべてに優先することを伝えるべきだ」などと述べている、とのことです。フィスク記者によると、ビン・ラディンはISの指導性やイスラム運動に果たす役割について疑問視していたとのことです。記者はさらに「アメリカがあそこでビン・ラディンを殺さずに捕捉していれば、もっといろいろと彼の言うことを聞き出すことができたのに・・・」と残念がっている。

▼「イスラム過激派」と称される組織は、むささびが聞いたことあるだけでもアルカイダ、ハマス、ヒズボラ、ファタハ、ムスリム同胞団、タリバン・・・ずいぶんありますよね。日本も含めた欧米のメディアの報道だけを見ていると、どれもこれも「けだもの集団」という評判なのにイスラム圏ではそれなりに市民権を得ているところもある。エジプトのムスリム同胞団、パレスチナのハマス、レバノンのヒズボラなど、いわゆるテロ活動もやるけれど貧民救済のような活動もやっていて、市民の支持を得ている部分もあるのですよね。

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3)「スコットランド独立は避けられない」

スコットランドの独立を問う国民投票(9月18日)が間近に迫りましたね。最近の世論調査によると賛成38%、反対51%(分からない:11%)で、おそらく独立は否決されるであろうと思うけれど、こればっかりはやって見なければ分からない。この際、独立賛成の意見を紹介しておきましょう。ニール・アチャソン(Neal Ascherson)というスコットランド人のジャーナリストがニューヨーク・タイムズ(7月18日付)に寄稿したエッセイです。外国人としてのアメリカ人を意識して書いてあるので、私などにも比較的分かりやすい。見出しがすごい。

というのですから。さらに書き出しも明確です。
  • 一つだけはっきりしていることがある。それは国民投票の結果がどうであれ、この国民投票のキャンペーンがスコットランドを決定的に変えてしまうということである。9月18日にスコットランドの人びとが賛成票をいれようが反対票をいれようが、この小さな国に何ができるのかということについて彼らの意識が変革されてしまうということでもある。
    ONE thing is certain: Whatever the outcome, this referendum campaign is changing Scotland irrevocably. Whether the Scots vote yes or no to independence on Sept. 18, their sense of what is possible for this small nation will have been transformed.
つまり独立が否決されたとしても、この独立推進運動を通じて盛り上がってしまったスコットランド人の自信のようなものはもう止められないということのようです。

独立とまでは言わないにしても、スコットランドに対する権限移譲についての国民投票はこれまでに2回行われています。最初は1979年で選挙によるスコットランド議会の創設に関するものだった。これは僅差で創設派が勝ったのですが、投票率が余りにも低かったので法制化するに至らなかった。次いで1997年には権限が大幅に移譲された議会の設立に関する投票が行われ、設立派が勝って議会ができた。現在、エディンバラにある議会の外側にはユニオン・フラッグとEUの旗と並んでスコットランドの「国旗」が掲揚されている。

そして2014年9月18日に3度目の国民投票というわけですが、是非が問われるのは、カナダやオーストラリアのような英連邦諸国(Commonwealth countries)のような形で英国と関係する国としてのスコットランドである、とアチャソン記者は言う。

今回の投票については独立反対の意見が勝つのではないかとされているのですが、アチャソン記者によると、「独立否決でことが終わってしまうわけではない」(a no vote will not be the end of the story)とのことで、今回の独立推進キャンペーンを通じてスコットランドが変わりつつあることをこの眼でみてしまったということです。スコットランド議会の合計議席数は129、与党のスコットランド民族党(Scottish National Party:SNP)の69議席を筆頭に、以下労働党(37議席)、保守党(15議席)、自民党(5議席)、緑の党(2議席)、無所属(1議席)なのですが、「独立」をはっきり打ち出しているのはSNPのみで、あとは「分権推進」とは言うけれど独立とまではいかない。

アチャソン記者によると、ここ数か月の間で与党のSNPが嫌いだという人の態度が変わってきているのだそうです。
  • サーモンド(SNP党首)は信用できないし、SNPに投票する気にもならないが、態度を改めざるを得ないと思った。今回は独立に反対票を入れることはできない。
    I don’t trust Salmond, and I’d never vote SNP. But I’ve had to re-examine my ideas, and I don’t see how I can vote no.
つまりSNPはイヤだが独立は賛成という人が増えているというわけですが、なぜそうなっているのか?一つには経済面における自信ができたということ。鉄鋼・造船のような重工業が中心だった20年前までは脱工業化後のスコットランドの経済は全くのアウトであろうと思われていた。今では北海油田からの収入をうまく使うことでスコットランド経済は充分にやっていけるという意見が多いとのことで、独立についても「出来るかな?」(Can we?)から「するべきかな?」(Should we?)へと意見が変わっている(とこの記者は言っている)。

アチャソン記者によると、スコットランド政治が「英国」のそれと決定的に異なるのは「保守党嫌い」ということなのだそうです。確かにはスコットランド議会における保守党の議席数はSNPと労働党には遠く及ばない状態であるし、ロンドンの議会におけるスコットランド選挙区からの議員を見ても、合計59のうち保守党はわずか一人だけです。で、保守党の何がそんなに気に入らないのか?記者によると、それはサッチャー流の反福祉国家路線です。多くのスコットランド人にとって、戦後英国の福祉国家(ゆりかごから墓場まで)こそが理想の国家像であったのに、「英国」では労働党までがサッチャー路線にすり寄っている、実に嘆かわしいということです。

スコットランドがイングランドと合併したのは1707年ですが、記者によると、それはまたスコットランドが大英帝国の富のおこぼれ欲しさに独立を放棄した年でもある。それ以来300年にわたってスコットランド人が自分に呟いてきたのは
  • (独立さえしていたら)良かったのに、何とかして独立さえしていたら・・・
    Wouldn’t it be grand if only, if somehow...?
であり、
  • 俺たちはちっぽけで、貧乏で、アホで・・・
    We’re too wee, too poor, too thick...
という言葉だった。が、いまやそのような文化的劣等感はほぼ跡形もなく消えたのだ、とアチャソン記者は言います。

そのように考えていくと独立を指向するスコットランド人の心も容易に想像することができる。が、実は独立に反対する人びとの気持ちはもっと容易に察しがつく、と記者は言います。それは独立後の生活ということです。今のような生活水準は保てるのか?年金はどうなるのか?グローバル化する経済の中では巨大な禿鷹たちが闊歩している。そんな中でスコットランドは生き残れるのか?

イングランドのメディアや政治家の多くがスコットランドの独立志向を「反イングランドの差別感覚」(anti-English racism)に取りつかれているのだと考えているけれど、アチャソン記者によると、全く見当違い(exact opposite)なのだそうです。最近のスコットランド人は、自分たちの国のことを考えるので精一杯でイングランドのことなどほとんど忘れている。
  • イングランドのことなど忘れているということは、イングランド人にとっては苦々しいハナシだろう。彼らは憎まれることには我慢できても無視されることだけは我慢できないのだから。
    This is sour news for the English, who can bear being hated but not being overlooked.
スコットランド人の独立志向を反イングランド意識であると決めつけてしまうイングランドの人びとの発想こそが、如何にスコットランドのことが分かっていないかの証拠のようなものだ、と記者は言います。この2月、キャメロン首相が何とスコットランドにおいて政府の閣僚会議を開催したことがあった。首相としてはそのことによって如何に彼がスコットランド想いであるかを示そうとした。さらに4月、財務大臣のジョージ・オズボーンがグラズゴーを訪問して「もしスコットランドが独立したら貨幣としてのポンドは使えない」という発言をした。キャメロンがスコットランド人に対するおべっかを使ったのだとすれば、オズボーンは脅しできたというわけです。ただその結果として起こったのは、独立賛成の意見が増えたということだけだった。

アチャソン記者はまたジョン・メージャーが首相であったころに本人から言われた言葉を想い出しています。それは地方分権が盛んに言われていたころのことで、
  • 分権なんてアホらしい。要するにスコットランド人は疎外されていると感じているということだ。私自身がもっと頻繁にスコットランドへ行くべきなのだ。
    This whole devolution idea is loopy. The problem is that the Scots just feel left out of things. I really should go up there more often.
と、これを聞いて記者はどう答えればいいのか、返答に窮したと振り返っている。スコットランド人が思っているのは、国づくりについてイングランドとは考え方が異なるのだから、自分たちのやり方で行きたいということだけなのに・・・ということです。メージャーが上記の発言をした3年後、300年ぶりにスコットランドに議会が設立された。記者によると、あの時点でスコットランドとイングランドの合併を定めた合併条約(Union Treaty)による体制が崩壊し始めた、即ちスコットランドは独自の道を歩み始めたのであって、9月18日の国民投票もそのようなプロセスの一環なのである、というわけで
  • 私自身は独立賛成の票を入れるつもりだ。これまでの活動を通じてはっきりしたことは、この三度目の国民投票で独立が否決されたとしても、いずれ4回目の国民投票があるであろうということだ。スコットランドはスコットランド自身のやり方で世界と関わる時期が来ているということだ。
    I shall vote yes this September. The campaign has already taught me that if we don’t make it with this third referendum, there will be a fourth. It’s time to rejoin the world on our own terms.
というのがニール・アチャソン記者の結論です。

▼「イングランド人は憎まれることは我慢できても無視されることは我慢できない」という、この記者の見方は痛烈ですね。長年イングランド人と隣り合わせで付き合ってきた人の実感なのかもね。

▼今回の国民投票に限っていうと独立賛成が勝つ可能性は低いけれど、もしスコットランドが独立したら「英国」(イングランド・ウェールズ・北アイルランド)はどんな国になるのか?8月19日付のBBCのサイトがいろいろな数字で示しています。まず極めて単純に国土面積はどうなるのか?英国は現在の国土の32%を失うことになる。今の面積は約24万平方キロだからスコットランド(8万平方キロ)がなくなると16万平方キロになる。人口は?現在の6410万が5870万になるだけだから、こちらの方は減ると言っても「わずか8%」(only 8%)というわけですが、これを国土面積と併せると人口密度が分かる。現在の密度は1平方キロあたり263人なのですが、スコットランド独立後は355人にまで膨れ上がる。平方キロ当たり263人は世界的には45位ですが、355人となると29位に上昇する。

▼例えば(例えば、ですよ)北海道が日本から独立したとすると、国土面積は約38万平方キロから8万平方キロがなくなって約30平方キロとなる。人口は1億2760万から547万(北海道の人口)を引くと1億2213万人となる。減少率は4%強です。人口密度はというと、現在は1平方キロあたり337人、北海道が独立すると約30万平方キロに1億2213万人が住むということで・・・ええっと・・・414人ということになりますね。人口密度はいまでも英国よりはかなり高いけれど、日本の場合は起伏が激しいので住めない部分が英国などよりは、はるかに多く、しかも人口密度も高いのですね。

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4)エリート支配から抜けない?英国
 

英国教育省の関連機関にSocial Mobility and Child Poverty Commissionという委員会があります。訳すと「社会的移動性・児童の貧困対策委員会」となるのでしょう。いずれにしても長すぎるので英文を略してSMCPCとしておきます。「社会的移動性」(social mobility)というのは、どのような家庭に生まれ育っても本人の努力次第で社会の上層にも昇れるような環境の整い方のことです。士農工商で、商売人は絶対に武士にはなれないような社会はsocial mobilityがゼロということです。

そのSMCPCが最近 "Elitist Britain?" というタイトルの報告書を発表しています。「英国はエリート主義の社会か?」と問いかけているわけですが、答えは
  • 英国は大いにエリート社会である。なぜならパブリックスクール(名門私立学校)やオックスブリッジの卒業生たちが社会の上層部を独占してしまっているからだ。
    Britain is "deeply elitist" because people educated at public school and Oxbridge have in effect created a "closed shop at the top".
とのことであります。

SMCPCは報告書作成にあたって公務員、法曹界、メディア、ビジネス、クリエイティブ産業などのトップにいる人びと約4000人の学歴を調査した結果として「英国はエリート主義社会だ」と言っているわけです。SMCPCがそのように言う根拠となる数字をいくつか並べてみます。どちらかというと公的な色彩の濃い職業の世界における「私立学校出身者」と「オックスブリッジ卒業生」のパーセンテージです。

 私立校出身 OXBRIDGE出身
上級裁判官:71%
陸軍上級将校:62%
事務次官:55%
上級外交官:53%
貴族院議員:50%
公的機関会長職:45%
長者番付に登場:44%
新聞コラムニスト:43%
閣僚:36%
下院議員:33%
BBC役員:26%
上級裁判官:75%
閣僚:59%
事務次官:57%
外交官:50%
新聞コラムニスト:47%
公的機関の会長職:44%
貴族院議員:38%
BBC役員:33%
下院議員:24%
長者番付に登場:12%

SMCPCによると、英国で私立学校で義務教育を受ける人の数が教育年齢に達した全ての人の7%にすぎないことを考えると、これらの数字が如何に普通の社会とかけ離れているかを示していると言っている。ここでいう「私立学校」(private school)とは、国からの財政支援を受けない独立学校というわけでindependent schoolとも呼ばれる。全寮制で特別な精神で運営される「パブリック・スクール」もこの範疇に入ります。

イングランドにおける私立学校の数は約2500校、公立(state school)校の数は2万4000強。ここで英国の教育制度について語ることは止めにしますが、英国では義務教育(5才~16才)を私立学校で受けるということがかなり恵まれたことであることが学校の数だけ見ても分かりません?

教育関係のサイトによると、英国では公立の小中学校の授業料はタダですが、私立校に自宅から通う(day school)の場合、年間授業料が約1万3000ポンド(約2万2000ドル)、寄宿舎に住む場合は2万9000ポンド(約5万ドル)が相場なのだそうです。ましてや子供を5才から18才まで小中高一貫教育の私立に通わせようとすると、自宅通学者で13年間で27万ポンド(約46万ドル)、寄宿舎暮らしの場合で44万ポンド(約75万ドル)かかる。ロンドン以外の町における住宅の値段だってもっと安いのだとか。

次に大学における「エリート」とくれば「オックスブリッジ」ですよね。オックスフォードもしくはケンブリッジ大学の卒業生は英国人全体の1%にも満たないわけですが、司法・行政・立法の各分野のトップは半分以上がオックスブリッジ出身者で占められている。ウィキペディア情報ですが、2012年の時点で英国には「大学」(university)と名のつくところが162ある。そのうちRussell Groupというグループに属する、いわゆる「有名大学」はオックスブリッジもいれて24校ある。でも閣僚の6割がたった二つの大学(オックスブリッジ)出身者で占められている。では、どのような学生がオックスブリッジに入学するのか?今年のケンブリッジ大学の学生(undergraduates)の39%、オックスフォード大学の学生の43.2%が私立学校の卒業生で占められているという数字もある(5月27日付Guardian)。

むささびジャーナルとしては、普段からお世話になっているだけにメディアの世界が気になりますよね。英国の場合、大衆紙と高級紙の読者が全く異なるので、この報告書も分けて扱っているのですが、大衆紙のコラムニストの38%が私立学校、20%が公立の出身、25%がオックスブリッジを出ている。これが高級紙となると、45%が私立教育を受けており、なんとほぼ6割の57%がオックスブリッジ卒業生という数字が出ています。さらに先に述べたラッセル・グループの「有名大学」にまで範囲を広げると、高級紙のコラムニストのほぼ8割(78%)がこのグループの大学の出身者です。ラッセル・グループに属する大学にはエディンバラ大学、インペリアル・カレッジ・ロンドン、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス、シェフィールド大学などがあります。

最後にもう一つ、極めて興味深い数字を紹介すると、調査された4000人の半数をはるかに超える65%の人が、人生でうまくやっていくためには、「何を知っているか」(what you know)よりも、「誰を知っているか」(who you know)が大切であると考えており、
  • 4分の3の人が、現代の英国で人生に成功するためには家柄がものを言うと考えている。
    Three quarters of people think family background has a significant influence on life chances in Britain today
とのことであります。

SMCPCのアラン・ミルバーン(Alan Milburn)委員長は、今回の報告書の中身について
  • 世の中の組織や機関が、余りにも限られた経歴を有する、余りにも限られた経験の中で過ごしてきた、余りにも限られた人びとに依って立つという状態にあるということは、それらの人びとが社会の多数ではなく少数の人間の発想に偏るリスクを抱えることになる。
    Where institutions rely on too narrow a range of people from too narrow a range of backgrounds with too narrow a range of experiences, they risk behaving in ways and focusing on issues that are of salience only to a minority but not the majority in society.
とコメントしています。もっと多彩な人材が起用されるべきだということ。でないと世の中が硬直してしまうということですね。さらにこのように限られた階級の人だけが社会の上層部を占めることになると、英国人全体で「どうせ俺みたいな人間のためになるようなことはやってくれない」(not for the likes of me)という諦め感が広がってしまうことの危険性も指摘されています。

▼むささびでも何度か紹介したことがあるけれど、Ipsos-Moriという英国の世論調査機関が行っている職業別信頼度調査(veracity index)をこのSMCPCの調査結果と併せて読むと、現代英国が抱える問題点の一つが見えてくると思います。16の職業人に対する信頼度を比較しているのですが、ワースト3がジャーナリスト(19%)、閣僚(17%)、政治家一般(14%)となっている。SMCPCの報告書では、この3つの職業人のかなりの部分が「私立校・オックスブリッジ」卒業者であるわけですが、国民的な信頼度は全くダメという結果になっている。SMCPCの調査でもとびきりのエリートである「裁判官」はIpsos-Moriの調査では4番目です。

▼高級紙のコラムニストの8割が「有名大学」出身者というのも驚異的な数字ですが、Anatomy of Britainの著者として知られるジャーナリスト、アンソニー・サンプソンによると、高級紙のコラムニストたちはみんな自分たちが政治家よりもアタマがいいことを知っているのだそうです。そして最近では有名コラムニスト同士が結婚するケースも増えていてメディアの世界の「名門家系」のようなものが出来ているとのことです。その彼らはロンドンの高級住宅街で暮らし、話が面白いのでディナーパーティーのゲストとして引っ張りだこ・・・となると政治家たちと仲良くなるための世界が用意されているということですね。ただサンプソンによると、有名コラムニストたちも内面では自分たちの職業の持つ限界と頼りなさにびくびくしているのだそうです。自分がコラムを持っている新聞のオーナーの気分しだいでいつクビになるか分からないということです。くわしくはむささびジャーナル153号に書いてあります。

▼ところで日本社会には英国のような問題はあるのでしょうか?英国のように「家柄」が武器になったりするのでしょうか?9月3日の改造前の安倍内閣のリストを調べたら東大出というのは3割を下回っていたと思います。英国の場合、政治とメディアが同じような「階級」であったりして、家族同士の付き合いなどがあるかもしれないけれど、日本の場合はどうなのか?確かに「階級」というのはないかもしれないけれど、少なくとも政治家の世界では「世襲」が多いですよね。その意味においては英国同様に「閉ざされた世界」なのかもしれない。メディアは?

▼非常に正直に言ってしまうと、例えばGuardianのような新聞で自分の意見を堂々と述べ立てるコラムニストの書く記事は、日本の新聞に掲載される解説記事よりも面白いと感じることは多い。ただ、ときには英国のコラムニストにはウンザリということもある。単に偉そうな顔をして、偉そうなことを言っているだけ(中身は空っぽ)という場合も大いにある。それに自分たちだけの狭い世界でいろいろと議論しているような記事もある。日本のメディアには英国のメディア社会のような閉鎖性はないかもしれない。かな?日本の場合は、自分が給料をもらっている新聞社の社員であることが先に来るから、その分だけおとなしいかもしれない。けど特徴もない。よね?
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5)どうでも英和辞書
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Knee-Defender:ニーディフェンダー


つい最近アメリカのニュージャージー州ニューアーク発デンバー行きのユナイテッド航空で乗客同士のケンカがあり、緊急着陸するという事件があった。ケンカのもとになったのが「ニーディフェンダー」という商品だった。前座席のリクライニングを防止するための用具なのですが、前の席に座った女性がリラックスしようと思って椅子を倒してきたため、後ろ座席の男性が自分のスペースが狭くなってしまうというので、この用具を前座席の下に取り付けたところ、取り付けられた前座席の女性との間でもめることになってしまった。
  • 「ちょっとアンタ、それ外してよ、アタシだってゆっくりしたいんだからさ、ねえ、アンタ、聴いてんの1?」
    「聴いてるよ、このクソばばあ。だけどよ、オレにだってゆっくりする権利ってものがあるんだ。ちょっとくらい我慢しろ、このデブ女」
    「デブとは何よ、このハゲ野郎!」
    「アホ!」
    「マヌケ!」
なんて言ったかどうか知らないけれど、女性が男性の顔に水をぶっかけてしまったから、さあタイヘン、飛行機はシカゴに緊急着陸ということになってしまった。この事件が起こったのは普通のエコノミーより5インチ(約12.7センチ)広いスペースのため追加料金のかかるエコノミー・プラスの座席でのことだった。飛行機に乗って何がわびしいかというと、前の座席とのスペースが本当に小さいシートで我慢することですよね。

この事件は英国でもかなり話題になったと見えて、YouGovという世論調査会社がアンケートをとったところ、英国人の間では53:27で「昼間のフライトなのだから座席を倒そうとする方が間違っておる」という意見の方が多かった。ところがアメリカ人を対象にした調査では55対24で「リクライニングは許される」という意見が勝ち、しかも「ニーディフェンダー」という用具を使うことが怪しからんという意見が65対16という大差で勝ってしまったのだそうです。

あなたはどう思います?確かに強制的にリクライニングをできなくしてしまうというのはまずい。アメリカ人の方がまともだ。
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6)むささびの鳴き声
▼日本の主なる新聞社が集まって作っている業界団体に日本新聞協会というのがあります。朝日だの読売だのという新聞のことは知っていても業界団体のことなんて普通は知らないし、興味もないかもしれない。ただ「新聞協会賞」については、単なる茶飲み話のネタとしても面白いかもしれないですよ。毎年、優れた報道を行った新聞を表彰するものなのですが、今年は「編集部門」では5つの新聞社が受賞しています。詳しくはここをクリックすると出ていますが、受賞社リストのトップに出ていたのが朝日新聞社で、表彰されるのは、あの猪瀬・東京都知事が徳洲会なる団体から5000万円を受け取っていたことをスクープ報道したことにあります。なぜこの報道が受賞したのかについて、新聞協会のサイトは
  • 多くの国民が疑念の目を向ける「政治とカネ」の問題を暴き出し、社会に大きな影響を与えたスクープとして高く評価され、新聞協会賞に値する。

    と言っています。
▼他の4社は次のとおりです。
  • 河北新報潮路はるかに 慶長遣欧使節船出帆400年
  • 毎日新聞:「太郎さん」など認知症の身元不明者らを巡る「老いてさまよう」の一連の報道
  • 福島民報東日本大震災・東京電力福島第一原発事故 原発事故関連死 不条理の連鎖
  • 信濃毎日新聞「温かな手で―出産を支える社会へ」
▼朝日新聞と他の4社の受賞報道の性格が際立って違うのが面白いと思いません?朝日の場合は、東京都知事本人のカネ疑惑に関するもので、いわゆる「特ダネ」だったから、どの社が報道しても大騒ぎになったはずですよね。他の4社のものは、わーっと大騒ぎになることはないけれど、それぞれのアイデアとか社会観などがはっきり出ており、「読んでよかった」と思わせるような内容だったのでしょうね。受賞した新聞社の関係者が大いにアタマを使って実現した企画報道という感じです。

▼で、朝日新聞については(むささびが思うに)あと二つ候補があった。一つは原発事故に絡む「吉田調書」報道、もう一つは従軍慰安婦に関する誤報報道です。前者についてはむささびジャーナル294号でもディスカッションをしてあります。あの時点では他社は全くの知らん顔を決め込んでおり、政府も「吉田調書の公開はしない」と言っていたのですよね。それが最近になって他の社も報道するようになり、結局、政府も隠しておく理由がなくなって公開すると言い出した。

▼ずいぶん政府に都合よく出来ていますね。反原発を鮮明にしている朝日に出し抜かれたので、この際、他紙にもリークしてしまえば朝日の記事も独占スクープではなくなる・・・というわけ?ちょっと可笑しいのは、朝日の次に調書を入手した新聞社がもっぱら「朝日の書き方は間違っておる!」という論陣を張っているように見えることです。そんなことのための「スクープ」なんですか!?

▼次に従軍慰安婦に関する誤報報道ですが、8月30日付のThe Economistが、朝日が誤報を認めたことを「驚愕すべきこと」(stunning)であると言って、安倍さんが「朝日の記事のおかげで多くの人が傷ついたと産経新聞に語った」とも伝えています。ただThe Economistは、朝日新聞は誤報をしたかもしれないけれど「戦争中、女性に強制的に売春行為をさせたことについての日本の責任については疑う余地がない」(Japan’s responsibility for forcing women into prostitution during the war is beyond doubt)とも言っている。

▼あなたが新聞協会賞の選定委員だとして、朝日新聞について、「猪瀬の5000万」、「吉田調書」、「慰安婦問題の誤報報道」の三つのうちどれが報道として最も貴重であった(表彰に値する)と思います?私なら「猪瀬の5000万」を真っ先に落とすでしょうね。理由?いまさら「政治とカネ」なんて・・・それに都知事は辞めさせれば代わりはいくらでもいるけれど、「原発事故」や「慰安婦」はそういうレベルの問題ではないから。前者について言うと「原発 命令違反し9割撤退」という見出しがちょっと違うかもしれないけれど、吉田さんらをあのような絶望的な状態に追い込んだ原発について報道したのだから必ずしもけなされるべきではないと思います。「慰安婦」については、自分たちの間違いを認める報道をしたのだから立派なのではありませんか?というわけで、むささびが選考委員だったら新聞協会賞は「慰安婦問題の誤報報道」で決まりですね。

▼と言っておいてこんな風に締めるのも情けないけれど、むささびの知り合いでこの新聞協会賞の選考委員をやったことのある人物によると、選考委員そのものが朝日・読売・毎日のような新聞社の人たちなのだそうですね。つまり仲間うちで表彰し合って喜んでいるということのようです。な~んだ!
 
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むささびへの伝言
バックナンバーから
2003
ラーメン+ライスの主張
「選挙に勝てる党」のジレンマ
オークの細道
ええことしたいんですわ

人生は宝くじみたいなもの

2004
イラクの人質事件と「自己責任」

英語教育、アサクサゴー世代の言い分
国際社会の定義が気になる
フィリップ・メイリンズのこと
クリントンを殴ったのは誰か?

新聞の存在価値
幸せの値段
新聞のタブロイド化

2005
やらなかったことの責任

中国の反日デモとThe Economistの社説
英国人の外国感覚
拍手を贈りたい宮崎学さんのエッセイ

2006
The Economistのホリエモン騒動観
捕鯨は放っておいてもなくなる?
『昭和天皇が不快感』報道の英国特派員の見方

2007
中学生が納得する授業
長崎原爆と久間発言
井戸端会議の全国中継
小田実さんと英国

2008
よせばいいのに・・・「成人の日」の社説
犯罪者の肩書き

British EnglishとAmerican English

新聞特例法の異常さ
「悪質」の順序
小田実さんと受験英語
2009
「日本型経営」のまやかし
「異端」の意味

2010
英国人も政治にしらけている?
英国人と家
BBCが伝える日本サッカー
地方大学出で高級官僚は無理?

東京裁判の「向こう側」にあったもの


2011
悲観主義時代の「怖がらせ合戦」
「日本の良さ」を押し付けないで
原発事故は「第二の敗戦」

精神鑑定は日本人で・・・

Small is Beautifulを再読する
内閣不信任案:菅さんがやるべきだったこと
東日本大震災:Times特派員のレポート

世界ランクは5位、自己評価は最下位の日本
Kazuo Ishiguroの「長崎」


2012

民間事故調の報告書:安全神話のルーツ

パール・バックが伝えた「津波と日本人」
被災者よりも「菅おろし」を大事にした?メディア
ブラック・スワン:謙虚さの勧め

2013

天皇に手紙? 結構じゃありませんか

いまさら「勝利至上主義」批判なんて・・・
  
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