2016年最初のむささびジャーナルです。それにしても暖かいですね、埼玉県は。海抜700メートルという山の上にも白梅が咲いています。1月中旬にもなっていないのにです。いつかは豪雪に見舞われるのではないか・・・どうもいやな予感が。 |
目次
1)「コイウルフ」をご存知で?
2)ひとりっ子政策を止めてもベビーブムは起こらない?
3)北朝鮮:英国大使にも分からない?
4)日韓「慰安婦」合意:「英国メディア」の伝え方
5)どうでも英和辞書
6)むささびの鳴き声
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1)「コイウルフ」をご存知で?
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前号のむささびで「動物の進化は案外早い」という記事を載せました。今回も進化に関する話題で、The Economistのサイトに出ていたものです。カナダ中東部のオンタリオ地方を中心に出没する「コイウルフ」(coywolf)という動物のこと、聞いたことあります?コヨーテ(coyote)とオオカミ(wolf)とイヌ(dog)が組み合わさったもので、DNAの構成比率は4分の1(25%)がオオカミ、イヌが10%、残り(65%)はコヨーテとなっている。つまり新種の動物とはいえ、かなりコヨーテ的な要素が高い生き物であります。
この動物が出現したのがいつ頃であるのかThe Economistの記事には書いていないのですが、きっかけは今から100年~200年前ごろから始まったオンタリオ地方におけるオオカミ人口の減少にある。なぜオオカミの人口が減ったのか?この地方の森林の伐採と農地の拡大によって、森の生活者であるオオカミの生活基盤が失われてしまったからです。それと逆比例するように、本来は草原地帯の生き物であるコヨーテが新しくできた農地にまで進出するようになってしまった。これに加えて人間が持ち込んだ犬も農耕地で大いに見られるようになった。オオカミは繁殖に必要な交尾の相手が少なくなり、コヨーテや犬との間で繁殖行為を繰り返すうちに。純粋な意味でのオオカミでもコヨーテでもイヌでもない「コイウルフ」が出現したというわけです。
普通は異なる動物同士の交尾によって生まれてくる動物は生存能力の点でも繁殖力の点でも弱いとされるけれど、オオカミ+コヨーテ+イヌの組み合わせにはこの常識が当てはまらないようなのです。動物学者の研究によると、コイウルフは体重が25kg以上もあり普通(純血)のコヨーテよりも重い。顎も大きく、足が速いので群れを成すと大型の鹿のような動物も楽々と捕まえて餌にしてしまう。コヨーテは森林の狩猟が苦手、オオカミはそのほうが得意。二つが交じると森林でも草原でも生きていける動物の誕生となる。コイウルフは現在のところ数百万頭はいると推定される。
コイウルフの行動範囲はアメリカ北東部全体に及んでおり、さらに南東部にまで広がりつつあることが確認されている。コヨーテという動物はこれまではアメリカ東部では生存することができなかったし、オオカミは東部の森林消滅に伴って絶滅されたと思われていた。それが二つの動物が交配することで、それまではオオカミもコヨーテも生きることができなかった場所で生存する動物が生まれてしまったということです。コイウルフはボストン、ワシントン、ニューヨークのような大都会にも出没するのだそうです。都会でも住める能力は犬のDNAのなせる技であり、コイウルフは食べ物も幅広くカボチャ、スイカのような庭園植物、人間によって廃棄された食べ物も食べる。
ではコイウルフは新しい「種」(species)の動物と言えるのかとなると議論が分かれる。動物が「種」として定義づけられるためには、他の「種」との交配なしに然るべき人口を維持する必要がある。コイウルフの場合は現在でもオオカミやイヌとの交配を続けており、この定義からすると「種」とは言えない。ただそもそもコイウルフがこの世に誕生した経緯(コヨーテとオオカミが交配したということ)からすると、オオカミとコヨーテを別の「種」とすることも不自然ということになる。そうなると、家で飼われているイヌにしてからが「オオカミの一種」という定義も成り立ってしまう。
考えてみると「種」という概念そのものが人間の考え出したもので、何を称して「種」とするのかいまいちはっきりしていない。コイウルフの例が示しているのは、「進化」(evolution)という現象が、学校で教えられるように、一つの種から数多くの種が枝分かれするというようなものではないということである、とThe Economistの記事は言います。むしろそれは異種同士の交配(hybridisation)によって起こる「変形」のようなものなのではないかということです。
The Economistによると、人間(ホモサピエンス)の遺伝子研究の結果、近代ヨーロッパ人が受け継いでいるのはネアンデルタールの遺伝子であり、東アジア人の場合はデニソバンズ(Denisovans)と呼ばれる人類初期の遺伝子を受け継いでいるということが分かっている。なぜそのようなことが起こったのかは解明されていないけれど、コイウルフの誕生と同じように、それぞれの地域に存在したホモサピエンスにとって異種交配が唯一の子孫を残す方法だったということなのではないかということであります。
▼コヨーテ、オオカミ、イヌ(ジャーマンシェパード)はいずれも仲間を呼ぶような「遠吠え」をするらしいのですが、それぞれ鳴き方が違う。当たり前ですよね、同じであったりしたらややこしくて仕方がない!下の写真をそれぞれクリックすると違う遠吠えを聴くことができます。カッコイイのはやはりオオカミかな。 |
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2)ひとりっ子政策を止めてもベビーブムは起こらない?
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ちょっと古いけれど11月24日付のアメリカのPew Researchのサイトに
という見出しの記事が出ています。書いたのはPew Researchで人口問題を研究するグレッチェン・リビングストン(Gretchen Livingston)で、中国が1980年以来続けてきたひとりっ子政策を廃止したことについて書いています。
リビングストンによると、国の人口構成を変えるのは必ずしも政府の政策だけではない。経済発展とそれに伴う都市化現象、さらにその国の文化なども家族の大きさや人口における男女の割合などに影響する。ひとりっ子政策が始まった1980年以来、中国における出生率が下がったことは事実ではあるけれど、出生率の低下はそれ以前からも起こっていた。例えば1960年代の中国では女性一人が生む子供の数は6人であったけれど、1980年にはこれが3人に下がっていた。そして2013年における「典型的な中国女性」(typical Chinese woman)が生む子供の数はざっと1.6人と推定されていた。
どんな国でも、都市化が進み、経済が発展すると出生率は下がるものであり、中国にもそれが当てはまる。中国以外のアジアの国でも、ここ数十年の間、出生率は下がっている。
リビングストンによると、中国のひとりっ子政策がもたらしたのは、世界でも最も偏った(skewed)男女の比率かもしれないと言います。現在の中国では女子100人の出生につき男子は116人となっており、これは世界平均の女子100人につき男子107人をはるかに超えている。ひとりっ子政策が実施された1980年以前の中国ではこのような極端なことはなかった。
女児一人につき生まれる男児の数
トップ6 |
中国 |
1.16 |
アゼルバイジャン |
1.14 |
アルメニア |
1.14 |
インド |
1.11 |
ジョージア |
1.11 |
ベトナム |
1.10 |
世界平均 |
1.07 |
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中国では、ひとりっ子政策によって男女の比率がアンバランスなものになったかもしれないが、その政策を廃止すれば直ぐに女児の誕生数が増えるとは限らないとリビングストンは言います。政府がひとりっ子政策を廃止したとしても、都市化、経済発展などを背景に、中国の国民は相変わらずひとりっ子を続ける可能性もある。しかも娘より息子を望むという傾向そのものは中国の文化に根ざすものであり、そう簡単には変わらない・・・というのがリビングストンの見方のようであります。
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▼一人っ子政策が続いていた時代でも二人目、三人目を産むことができた。「社会維持費」という名の罰金さえ払えば、です。罰金額は場所によって違っていたのですが、上海の場合、年収の3~6倍にもあたる金額です。一人っ子政策が始まった1980年から2012年までの12年間で生まれた「予定外の子供」の数はざっと2億人、中国全土の社会維持費の平均を1万元とすると中国政府が1980年からの12年間で集めた「社会維持費」は2兆元(3140億ドル)と推定されているのですね。これは生まれてきた「予定外」の数字です。命として存在はしたけれど、この世に出てくることがなかった「予定外」(つまり堕胎されてしまった子供)は、多い年で1400万人であったそうです。日本の堕胎件数は2012年の数字で19万6639件であったそうです。
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むささびジャーナル関連記事 |
中国:一人っ子政策の悲惨 |
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3)北朝鮮:英国大使にも分からない?
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1月6日付のTelegraphのサイトが、
というタイトルのエッセイを載せています。書いたのは2006年から2008年まで、駐北朝鮮英国大使を務めたジョン・イブラッド(John Everard)です。
北朝鮮が核兵器を使用するということは、北朝鮮自体の現体制そのものの崩壊を意味する・・・と考えるのが「常識」というものですよね。ただイブラッド大使は、その常識を北朝鮮の指導部が共有しているのかどうかは全くはっきりしない、と言っている。それどころか
- 北朝鮮という閉鎖された奇妙な世界においては、指導層が「自分たちが核兵器を使っても恐れおののいている外人たちは決して反撃などしてこないと自分に言って聞かせていることは大いにあり得る話である。
In the strange, closed world of North Korea it is quite possible that the leadership has convinced itself that craven foreigners would not dare to counter-attack if it used a nuclear device.
というわけです。また北朝鮮では非常に大がかりな防空壕網が整備されているのだそうで、指導者たちが、いざとなればそこへ逃げ込めば敵の核攻撃をかわすことができると考えているとすると、彼らが自分たちの核兵器を使うことには、我々が考えるほどの躊躇の念はないだろうとのことであります。
今後、何がどうなるのかは、中国次第だろう(Much of what happens next will depend on China)と大使は言っている。中国はこれまでにも国際社会と協力して北朝鮮の非核化に積極的に関わることを言明しているけれど、それが北朝鮮への経済制裁の強化を意味しているのだとすると、北朝鮮にとっては厳しい事態になる。中国は例えば北朝鮮への石油の供給を停止することもできるし、貿易を停止するために中朝の国境を閉鎖することだってできる。そうなると北朝鮮の経済には大打撃となる。
しかし中国は、これまではそのようなドラスティックな制裁は行っていない。それをやると北朝鮮国内が混乱して、事態がさらに悪化(making a bad situation worse)することを恐れているということです。キムジョンウンは新年の約束の中で「少しでも挑発するものには情け容赦のない聖なる正義の戦いによって応じるだろう」と断言しているけれど、大使によると、この約束によって中国側の消極姿勢はさらに消極的になっているだろう・・・というわけで、
- 「聖なる戦い」は核兵器を使うのか?誰か知っている人はいないか?
Does a “sacred war” involve the use of nuclear weapons? Does anybody want to find out?
と結んでいます。
▼要するに北朝鮮の指導部が何をするのかは大使にもさっぱり分からないということですよね。むささびジャーナル261号に載せたこの大使の話によると、北朝鮮の人びとは中国人に対しては全くいい印象を持っていないのですね。
▼北朝鮮というとシリアを想起してしまいませんか?両方とも大統領が同じ家族から出ており、欧米のメディアによると、独裁者のおかげでそこで暮らしている人びとがかなり厳しい状況にある。違うのは、シリアが民衆による反政府デモをきっかけに内戦状態となり、それにISISがからみ、欧米による軍事介入も・・・というわけで外国勢が入り乱れて代理戦争のようなことをやっている。北朝鮮にはそれがないけれど、それにしてもなぜ今のような独裁体制が延々と続くのか?締めつけの厳しさなどの理由はあると思うけれど、根本的にはそこで暮らしている人びとが今の状態を受け入れているということなのでは? |
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4)日韓「慰安婦」合意:「英国メディア」の伝え方
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従軍慰安婦問題に関する日韓の「合意」についての英国メディアの取り上げ方をいくつか紹介します。Guardian, The Economist, Financial Timesのサイトに掲載されたものです。The EconomistとFinancial Timesが「英国メディア」と呼べるのかどうか分からないし、Guardianにしてもネット版の読者はむしろ海外の方が多いくらいなのだから「英国メディア」というより「国際メディア」と言ったほうが正確ですよね。いわゆる「国際世論」の形成に影響を与える可能性のあるこれらのメディアがどのように伝えているのか・・・ということです。
苦痛は否定できない
まずガーディアンですが、12月28日付の「社説」(Guardian view)でこの問題を取り上げています。見出しは「過去の傷を癒すための一歩となるだろう」(one step towards healing the wounds of the past)となっており、書き出しは
- 第二次大戦中、最高で20万人もの女性(その多くが朝鮮人)が性奴隷の扱いを受けた。いま日本がようやく謝罪した。
Up to 200,000 women, many Korean, were reduced to sex slavery during the second world war. Now, at last, Japan has apologised
となっています。"at last" という言葉がガーディアンのメッセージを表現しています。社説は前半の部分で、日本軍が女性を性奴隷扱いしたことへの日本の謝罪が「極めて遅かった」(long overdue)ことを強く非難しながらも、今回の合意は東アジアの安定に向けて「明らかな一歩が踏み出された」(a clear step forward has been taken)ものだと言っています。
この社説は安倍首相について「日本のナショナリズムを煽り立てる首相として知られている」としながらも、今回の合意については「ビジョンを持って行動した」(visionary)と評価しているのですが、これにはもちろんアメリカからの圧力があるし、ひょっとすると昨年(2015年)初めに日本を訪問したドイツのメルケル首相との対話も影響しているかもしれないとしている。
この問題については、日本自身の責任は否定のしようがないけれど、韓国においてこのことによって利益を得た人びと、そしてこれらの女性をリクルートした日本人らの役割と責任も問われなければならない、とガーディアンは言っています。
- 外交上の「合意」というものは、相互に対立する国としての記憶を和解させるという点では意味があるが、そこまでの話である。数年前にある韓国の歴史家が、これらの女性の中には、貧しさと絶望が故に自発的な売春行為に走った者もいると主張したことがある。が、否定のしようがないのは(これらの女性たちが被ったであろう)苦痛そのものなのである。
A diplomatic agreement can only go so far in reconciling conflicting national memories. A few years ago, one Korean historian claimed some of the women, poor and desperate, volunteered for prostitution. But what cannot be doubted is the suffering itself.
安倍さんは「夢見る右翼」
12月29日付のファイナンシャル・タイムズ(FT)には、Joji Sakuraiというジャーナリスト・エッセイストによる「タカ派の政治家である安倍晋三氏が韓国との仲直りを実現した理由」(Why it took hawkish Abe to bury the hatchet with Seoul)というエッセイが載っています。この人は、安倍首相が国内の右派勢力からの反発に直面することは承知の上で「勇気と現実主義」(courage and pragmatism)を発揮したことを大いに評価しています。ただ安倍さんの「現実主義」の背後には、彼を取り巻く現実主義的で明確な将来展望を持った(clear-sighted realists)ブレーンの存在があったことに触れて、特に菅官房長官の存在を高く評価しています。
- ロマンチックなナショナリズム(彼の本音)と勇気ある経済・外交政策の遂行(日本の繁栄にとって唯一の道)の二者択一を迫られた安倍氏は「心」ではなく「頭」に耳を傾け、後者を選択したということである。
Faced with the choice between the romantic nationalism close to his heart, and the recognition that only bold economic and diplomatic measures can restore his country to prosperity, Mr Abe appears to have listened to his head and chosen the latter.
韓国の苦悩
12月30日付のファイナンシャル・タイムズ(FT)には、今回の「合意」に関する韓国側の事情についての記事が出ています。書いたのはSong Jung-aという記者なのですが、主として韓国のシンクタンク、アサン政策研究所(Asan Institute for Policy Studies)のBong Young-shik研究員のコメントを引用する形になっている。
それによると昨年(2015年)4月に安倍・習近平会談が実現、同じ月に安倍首相がアメリカを訪問、これが「大成功」と言われ、そして11月に日米韓の首脳会談が実現している。
- (この日米韓首脳会談において)安倍首相が従軍慰安婦問題を年末までに解決する希望があると表明、これが韓国側には驚きであるとともに、このままでは韓国の外交上の孤立が深まるのではないかという恐れが深まった。
But Seoul’s fear of diplomatic isolation must have deepened after Mr Abe at the summit surprisingly expressed his desire to settle the issue by the end of the year.
韓国はアメリカと中国の間に立って「バランスのとれた外交」を目指しており、2015年9月3日の北京における軍事パレードに朴大統領が参加することで中国寄りという印象を与えたことについて懸念する意見が韓国内にあった。従軍慰安婦を巡る日本との「合意」によって、朴大統領は中国寄りとの「批判」を避けることはできるかもしれないわけですが、Bong Young-shik研究員は、これまで朴大統領に対して借りがあると考えていた中国側は、この日韓合意のおかげで韓国に対して気兼ねすることなく北朝鮮と付き合えるという気持ちになったのではないかと言っている。
永続きするのか?
最後に1月2日付のThe Economistですが、今回の「合意」について、オバマ政府が「欣喜雀躍」(cock-a-hoop)であることは間違いないけれど、実は韓国内でも日韓関係の行き詰まり状態を憂慮する声はあり、朴大統領があまりにも中国寄りに傾きすぎるという批判の声もあった、と伝えています。北朝鮮の危機に対処するためには米韓日の3カ国による協力が欠かせないということなども含めて、これらのことが朴大統領に分かるまでにちょっと時間がかかった(It has taken time for Ms Park to see all this)と皮肉な言い方をしている。
問題はこの「合意」が永続きするものなのかということ。日本国内の右翼は安倍に裏切られたと思っているけれど、現在の安倍政権の安定度からすると、それは大した心配事ではない。安倍さんは言葉では「ごめんなさい」(saying sorry)とは言ったけれど、法的な責任を負ったわけではない(それは1965年の日韓条約で解決済みとされている)。またオーストラリア国立大学(Australian National University)のテッサ・モリス=スズキ教授によると、今回の合意は、1993年の河野談話からは後退している。河野談話では、これらの女性が日本軍によって「強制」(coercion)されたことを公的に認めている。今回の合意では、女性たちの募集について日本軍が「関わった」(involvement)とは言っているけれど、「騙した(deception)」とか「強制した」(force)という言葉は使われていないのだそうです。延世大学のChung-in Moon教授などは、この合意を「壊れやすい」(fragile)ものだと言っているのだそうです。ただThe Economistは
- うまくいけば、世界の危険地帯とも言えるエリアにおける二つの民主主義国がお互いに話もしない状態に戻ることが実にアホらしいと思えるときが間もなく来るだろう。
With luck, the idea of two democracies in a dangerous corner of the world not talking to each other will soon look too absurd to go back to.
と書いています。
▼Joji Sakuraiさんは、安倍さんの右翼思想のことを「ロマンチックなナショナリズム」と表現しています。むささびもこれは当たっていると思いますね。安倍さんは、戦前の日本への回帰を夢見る「右翼坊ちゃん」であるというのがむささびの見るところで、本当は憲法はもちろんのこと日米同盟も破棄したいと考えているのではないかと思っています。
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5) どうでも英和辞書
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irreversible:不可逆的
2015年12月28日付のロイター通信のサイトが次のような見出しの記事を配信しています。
「韓国と日本がいわゆる慰安婦問題に終止符を打つことに同意」というわけですが、その終止符の打ち方が"irreversibly"(不可逆的)ということですよね。"irreversible"という形容詞の意味を辞書で引くと "not possible to change"(変えることができない)というのと "impossible to return to a previous condition"(以前の状態に戻ることはできない)というのが出ています。慰安婦問題を「以前の状態に戻すことはない」というわけです。ロイターによると、ソウルで行われた日韓外相による記者会見では、さらに踏み込んで "finally and irreversibly resolved"(最終的かつ不可逆的に決着)という言葉が使われたのですね。「これでお仕舞い、二度と蒸し返されることはない」というわけです。
英語の世界で "irreversible" という言葉がどの程度一般的に使われるものなのか、むささびには分からないけれど、日本語の「不可逆的」はとても一般的ではありませんよね。むささびはこのニュースをラジオで聴いたとき、一瞬何のことか分からなかった。
ただネットを見ると、化学反応なるものの世界において「可逆」と「不可逆」というのがある。例えば水素とヨウ素を混ぜ合わせると「ヨウ化水素」ができる。 しかし生成されたヨウ化水素を瓶の中に放っておくと一部が元の水素とヨウ素に戻る。すなわち「可逆的反応」です。水素と酸素を混ぜ合わせると「水」ができる。水は何をやっても元の水素と酸素に戻ることはない、すなわち「不可逆的反応」ですな。
話を慰安婦問題に戻すと、可逆だろうが不可逆だろうが、慰安婦と呼ばれる人たちが存在したという事実は "irreversible"(不可逆)であるということですよね。ね?でしょ?安倍さん!
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6) むささびの鳴き声
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▼2016年元日の朝、久しぶりに朝日新聞の『天声人語』を読みました。と言っても紙の新聞ではありません。ネットに出ているものです。紙の新聞に出ているものと違ってネットの『天声人語』には見出しがつくのですね。元日号のものには「節目の時代の新春に」という見出しがついていました。いまはあらゆる意味で物事が変化する「節目の時代」であるけれど、何がどのように変化するのかが読めない時代であるというのがメッセージのようなのですが、書き出しと結びは次のようになっています。
- 書き出し:特別なことは何もせずに新年を迎えるようになって久しい。ただのものぐさである。
- 結び:迷い、ためらいながらの多難な道行きになることは、今年もまた覚悟しておくことにする。
▼じいさんむささびの個人的な好き嫌いなどは、大したことでないと聞き流してもらって結構なのですが、私、このエッセイがどうしても好きになれないのでありますよ。書き出しの「ただのものぐさである」も結びの「覚悟しておくことにする」も主語は書き手ですよね。書き手が自分のことを言っている。しかし主語は書かれていない。それが日本語のスタイルというもので、いちいち「私は」なんて入れない。むささびだって主語を省くことはある。なのに私がこのエッセイにおける主語の省略を不愉快に思うのは、自分の個人的な思いを文章にしているのに、まるで他人事のように言う無神経さに腹が立つのでしょうね。
▼このようなスタイルをとるのは『天声人語』だけではない。他紙の一面コラムはどれもそうです。主語を省くのであれば、せめて書いた人の名前を入れるのが礼儀ってものなのではないのか?と(むささびは)考えたりするわけです。無署名、無主語で読者からのコメント欄も記事の傍には用意されていない。筆者が言いたいことを読者に向かって名前も言わずに一方的に伝えるだけ。現在、新聞を購読する人の数が減っていると言われます。「紙の新聞の時代ではない」と嘲笑する人もいる。この『天声人語』を読んでいると、新聞が敬遠されるのは紙とかネットとかの問題ではないのではないのかと思ってしまう。文章を書いている人の読者への眼差しの問題なのだということ。
▼年末にラジオを聴いていたら、むささびと同年輩とおぼしきジャーナリストが自分の好きな歌謡曲について想い出を語るという番組をやっていました。そのジャーナリストにとっての「忘れられない一曲」は西田佐知子の『アカシヤの雨が止むとき』だった。"アカシヤの雨が止むとき、このまま~死んでしまいたい・・・"というあの曲です。その人によるとこの曲が世に出たのは昭和35年(1960年)、いわゆる「安保闘争の年」であり、政治闘争に破れた若者たちの「挫折感」にぴったりであったことでヒットしたのだということでありました。
▼むささびはあの1960年に大学生になりました。一年生として、安保闘争に直面し、デモに行って警官に蹴飛ばされて大いなる恐怖感を覚えたわけです。機動隊が履いている靴てえものは固いのでありますよ、これが。靴も凶器になるのですね。それはともかく、このジャーナリストは西田佐知子の歌声が自分たちの挫折感にぴったりだったというのですが、安保成立を阻止できなかったことへの挫折感のことを言っているのですよね。しかしむささびも含めた、あの学生たちは本当に「挫折感」なんて味わっていたのでしょうか?挫折感なんて口にするようなものなのですかね。ゴタゴタ言っているのは、むささび自身が変わってしまったということですよね。
▼というわけで、2016年が始まりましたね。ほとんど異常と言っていいほど暖かい1月です。お元気で! |
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むささびへの伝言 |