musasabi journal

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442号 2020/2/2
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BREXIT 美耶子の言い分 美耶子のK9研究 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
文字通りあっという間に2020年も最初のひと月が終わってしまいましたね。確かに今年は暖冬のようで、1月30日の木曜日なんて本当に春爛漫の気候でした。その間、むささびの俳句のお師匠さんが「招かれざる客目に見えず」という事態が起こったりして、これからの11か月、どうなることやら・・・。

目次

1)MJスライドショー:動物の友だち
2)ちょっと待て、ウィルス・パニック
3)「未知の海」の道しるべ
4)どうでも英和辞書
5)むささびの鳴き声


1)MJスライドショー:動物の友だち


スティーブ・マカリー(Steve McCurry)というカメラマンは、アフガニスタン、チベット、モロッコのような、どちらかというとへき地とされる国の人びとの生活を写した作品が多く、見ていてもほのぼした気分になる。1950年、米フィラデルフィア生まれ。ここに集めた作品は、どれも人間の子供と動物がお互いに支え合いながら生きている様子を写したものばかりです。

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2)ちょっと待て、ウィルス・パニック



保守派のオピニオン誌であるSpectatorのサイト(1月24日)に
という見出しの記事が出ていました。書いたのはロス・クラーク(Ross Clark)というジャーナリスト。医学の専門記者でも何でもないようなのですが、彼なりの意図をもって「慌てるな」と言っている。新型肺炎についての最近のメディア(日本であれ英国であれ)のヒステリアぶりを見ていると、むささびでさえも「少しは落ち着け」と言いたくなる・・・というわけで、あえてこの記事を紹介することにしました。


ロス・クラークは、今から15年前の2005年9月のSpectatorに、当時流行していた鳥インフルエンザについて記事を書いたのですが、ニュアンスとしては、その病が「大げさに語られ過ぎている」(over-hyped)というものだった。あの当時も世界保健機構(World Health Organisation:WHO)が「最悪の場合、世界中で5000万人の死者が出る」と予想していた。が、実際には世界中の死者数は482人だった。「わずか482人などと言うつもりはない」としながらもクラークが指摘するのは、2005年当時、マラリアによる死者は100万、結核のそれは200万にものぼっていたにも拘わらず、それが語られることは殆どなかったし、もちろん英国でもだれもパニックに陥ったりしなかったではないか、というわけです。

英国の世論:コロナウィルスの感染拡大は

クラークによると、中国発のウィルスが世界中をパニックに陥れているけれど、1月23日現在、中国国内の感染者は571人、他国で10人となっており、95人が重症、17人が死亡、いずれも健康状態が優れない人たちだったと報道されている。しかしどの数字を見ても(例えば)英国におけるインフルエンザ流行の最悪のケースに比べればマイルドなものである、と。2年前(2018年)の冬には英国中で155人がインフルエンザで死亡したのだそうです。

2005年に鳥インフルエンザが英国中をヒステリアに陥れた際、頻繁に言われたのは、それが1918年から1919年にかけて全世界的に流行して5000万人もの死者を出したと言われるスペイン風邪(Spanish flu)の再来であるということだった。が、ロス・クラークが力説したのは、20世紀初期と21世紀初頭の間にはほぼ100年もの歳月が流れており、その間にはとてつもない規模で緩和ケア(palliative care)の分野における進歩が為されていることを無視してはならないということだった。



というわけで、ロス・クラークは
  • The real danger from coronavirus isn’t that it will cause mass deaths, but that it will cause economic harm as tourists cancel trips to China. コロナ・ウィルスがもたらす真の危険は、たくさんの人間が死ぬかもしれないということではない。中国への観光客が激減することによる経済的な打撃なのだ。
として、コロナ・ウィルスが鳥インフルエンザよりも多くの人間(482人)を殺すことになったら「驚きに値する」(I will be surprised)と言っています。1月29日付のBBCのサイトによると、このウィルスによる死者数は132人となっています。

▼このジャーナリストの言っていることがどこまで正しいのか、むささびには分かりようがないけれど、少なくともキャンキャン騒いで危機感を煽り立てる報道よりはましだと思います。

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3)「未知の海」の道しるべ

1月31日、英国がEUを離脱しましたよね。これから1年間の移行期間を使って、離脱後のEUとの貿易関係などの詳細についての交渉を行うわけで、それはそれで結構もめるのではないかと言う人もいる。いずれにしてもEU離脱後の英国は「未知の海」(uncharted waters)への航海に乗り出すわけですが、1月30日付のThe Economistが社説でこの問題を語っています。イントロは次のようになっている。
  • 英国は今や単独航海に出発しようとしている。ボリス・ジョンソンに必要なのは道しるべであり、それを提供するのはリベラリズムである。Now that Britain is sailing alone, Boris Johnson needs a lodestar. Liberalism offers one


そもそもThe Economistは離脱には反対という立場を明確にしていたのですが、離脱派のリーダー格であったジョンソン首相に対して「リベラリズムで行け」と主張している。彼らのいわゆる「リベラリズム」とは、どのような姿勢のことを言っているのか?この社説は次のような言葉を使って説明している。
  • 文明の基盤としての「自由」を信じ、国家は個人に対する奉仕者であるという発想であって、その反対ではない。The belief in freedom as the underpinning of civilisation, in the state as the servant of the individual rather than vice versa.
そしてリベラリズムはモノ、サービス、意見などを大っぴらに公開して議論するものであり、そのような姿勢は英国で生まれたものだと言っている。The Economistはさらに
  • リベラリズムは権威や権力を嫌い、理想主義よりも実用主義に走ろうとする英国人の国民性とも合致する。It fits naturally with a national character which suspects authority and tends towards pragmatism rather than idealism.
というわけで、リベラリズムこそが19世紀から20世紀にかけて起こった英国の進歩を後押しすると同時に世界的な政治思想として定着したけれど、現在はそのリベラリズムが存在を脅かされている時代であり、英国も例外ではない(it is now under threat, not least in Britain)と言っている。
 

第二次大戦後の英国が大きな進路変更を行ったことが2回あった(とThe Economistは言う)。一つは終戦時の1945年から始まった福祉国家の建設であり、もう一つは1979年のサッチャー政権の誕生に伴う市場経済主義の導入です。前者は「大きな政府」、後者は「小さな政府」路線と言うこともできるけれど、両方に共通しているのは「進路変更」に当たって、十分な時間をかけて計画が練られたこと。何でもかんでも「EUを去ること」だけに集中してしまったBREXITとはそこが違う。

EUを離脱するということは、これまで英国の輸出の半分を引き受けていた市場を失うということであり、これまでは加盟国のどこへでも自由に行き来して仕事探しする権利を失うということでもある。首相として」ボリス・ジョンソンを見ていると、離脱に伴う諸問題については「アタマのいいご都合主義者」(brilliant opportunist)に過ぎないという印象を拭うことができない。
 

ボリスには選挙運動の「戦術」(tactical campaigning)はあるかもしれないけれど、英国の将来像を描くような長期的な視野に立った「戦略的展望」(strategic vision)が見られない、と社説は指摘する。例えば中国の通信機器メーカー、ファーウェイとの付き合い方。米国のトランプ政権は、英国がこの企業の参入を許すことを望んでいないけれど、ジョンソンは望んでおり、その点は正しい。中国を国際的なサプライチェーンから除外しようとするかのようなトランプのやり方はリベラリズムとは相容れない。しかし離脱後の英国にとっては最大の「お友だち」である米国との駆け引きはご都合主義では乗り切れない、と。

さらにThe Economistの社説がリベラリズムの根幹として強調するのが、英国人が「自分たちの運命は自分たちで決めるだけの力を持っていると感じること」(people need to feel they have power over their own destiny)ということ。英国ではウェールズやスコットランドはそれなりの自治権を認められているのにイングランドでは圧倒的にロンドン中心の中央集権がまかり通っている。つまり国内政治における権力拡散が必要であるということです。

世論調査:国民投票の結果は正しかったか?<YouGov> 
上のグラフは英国のEU離脱を決めた2016年の国民投票について、英国人が何を感じているのかを調べたものです。これを見ると、離脱の善し悪しについてはあれからずっとほぼ50:50であることが分かります。ごく最近(昨年12月)の調査でも離脱に批判的な意見が勝っている。

The Economistの社説の結論部分を紹介すると、「EUを離脱した英国の未来は不確定要素に満ち溢れているけれど、EUという大きなブロックの一部ではなくなった今、世界における新しい役割を見つけなければならない」というわけで、
  • ことはそれほど簡単ではないだろうが、1945年と1979年における進路変更によって、英国は世界の形を変えることに貢献した。EU離脱によって同じような貢献をするように試みるべきだ。The difficulties should not be underestimated. But when Britain previously reset its course, in 1945 and 1979, the choices it made helped reshape the world. It should aim to do that again.
という文章で結ばれています。

 BREXIT Fatigue

▼上のグラフは"Brexit fatigue"(Brexit疲れ)即ち「Brexitにはウンザリした」と感じている英国人の割合です。昨年10月末時点の数字です。この場合の「ウンザリ」はこの話題をめぐって英国全体が分裂・対立状態でにっちもさっちもいかない状態に飽き飽きしたと言う意味です。ほぼ7割以上がそのように感じていたというわけです。現在の英国世論は、行き詰まり状態を脱したと言う意味ではハッピーかもしれないけれど、ボリスが誇示したほどにはEUを去ることを喜んでいたとはとても思えない。

▼The Economistが主張するリベラリズムの根幹は「理想主義よりも実用主義」、「個人が国家に奉仕するのではなくて、国家が個人に奉仕する」という関係を主張する点にあるような気がします。彼らがボリス・ジョンソンのような強硬BREXIT論者に眉をひそめるのは、彼らの「英国アズ・ナンバーワン」的な臭いがするからだろうと思います。それはアタマでっかちのお坊ちゃんによる「観念論」であり、「国家中心主義」に通ずるものだということです。

▼ボリスは「新しい時代の夜明け」(dawn of new era)という言葉を使って国民的団結を呼びかけたけれど、彼の言う「新しい時代」とは、英国がEUのような巨大組織から独立して「わが道を行く」時代のことを指しているのでしょう。英国であれ日本であれ、いま追求すべきなのは、異なる国や人間同士が平和に共存する世界であるはずなのに、今さら「独立独歩」を追求することが「理想」だというのは、余りにも悲しい時代錯誤であると(むささびは)言っておきたいわけよね。

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4) どうでも英和辞書
A-Zの総合索引はこちら 

leap year: 閏(うるう)年

ケンブリッジの辞書によると
  • leap year: a year that happens every four years and has an extra day on 29 February 4年に一度起こり、2月29日が付け足される
となっています。Math-is-funというサイトは "leap years" を算数的に説明しています。すなわち:
  • can be exactly divided by 4
  • except if it can be exactly divided by 100
  • except if it can be exactly divided by 400
要するに「4で割り切れる年」であることが絶対条件ではあるけれど、4で割り切れたとしても100と400で割り切れてはならないというわけよさ。ややこしい?2020年は4で割り切れるけれど、100では割り切れないし、400でも割り切れない。だから"leap year"というわけ。ね?アイルランドの伝統によると、leap yearのleap dayに限り、女性が男性に結婚を申し込むことが許されるのだそうですね。
 
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5)むささびの鳴き声 
▼中国の武漢で発生した新型コロナウイルス対策として日本政府が1月28日の閣議でこれを「指定感染症」にすることを決定したのですよね。それによって感染の疑いがある人を法律に基づいて強制入院させたりすることが出来るようになったというわけですよね。ラジオを聴いていたら、医療ガバナンス研究所・理事長の上昌広(かみ まさひろ)という人が、このウィルスの「拡散を防ぐ手だてはない」と言っていました。

▼医療のことなので、上さんの言っていることが100%理解できたと言う自信はないけれど、感染が疑われる人を「隔離をするというのは良くないと思う」と言う発言には頷いてしまった。彼によると、国家が隔離などを始めてしまうと、感染を疑われた当人がそのことを他人に隠そうとするようになる。このウィルスが日本に入ってくることを「水際で止める」ことは不可能なのだから、感染しやすい人びと(病人・高齢者・幼児)などの被害を抑えることに力を入れるしかないというわけ。

▼「面白いことを言う人だ」と思って、ネットを当たってみたら、週刊東洋経済のサイト(1月24日付)にこの人の書いたエッセイが出ていました。題して『「新型肺炎」日本の備えに不安しか募らない理由』で、非常に長くてしかもどちらかというと専門的な内容なので、むささびにも分かる部分だけ抜き出してみます。例えば次の文章。
  • 新型ウイルス対策で最優先すべきは公衆衛生ではない。国民の健康や不安に地道に向き合うことだ。
▼ここでいう「公衆衛生」は、一人一人よりも「全体」を守ろうというわけで(むささびの定義によると)「隔離」の思想に繋がるものです。では「国民の健康や不安に地道に向き合う」とはどういうこと?上さんらのグループは東日本大震災以降、被災地で診療や被曝対策を続けているのですが、福島第一原発事故について付近の住民が求めたのは「自分が被曝しているかどうか」ということであって被曝に関する「一般論」ではない。にも拘わらず原発事故後、政府や著名な研究者が「被曝は問題とならないレベル」と繰り返して住民の信頼を失っていったと上さんは指摘します。

▼上さんは、今回の新型ウイルス対策でも厚労省などは、空港検疫によって「新型ウイルスの流入を水際で食い止める」と言い、この方針に疑問を呈するメディアもいない、と嘆いている。
  • 水際対策とは、国家が感染者を見つけて隔離するという前近代的な発想に立った施策だ。感染しても多くは軽症で済むなら、「隠そう」とする人もいるだろう。必要なのは国民を統制することではない。不安になった国民に寄り添い、サポートすることだ。
▼東京大学医科学研究所の井元清哉教授らの研究によると、2009年の新型インフルエンザ流行でも、空港検疫で感染者を1人見つけるのに、14人の感染者を見逃していたと推計されているのだそうであります。上昌広さんの話をラジオで放送したキャスター自身は、反隔離論にはあまり納得が行っていないようでした。

▼埼玉県は本日も天気がよさそうです。お元気で!

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