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443号 2020/2/16
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BREXIT 美耶子の言い分 美耶子のK9研究 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
上の写真、おそらくアメリカのフロリダ州のどこかで撮ったものなのでしょうね。沼だか川だかの水面から顔をのぞかせるワニを3匹のワンちゃんがこわごわのぞき込んでいる風景なのですが、ワンちゃんたちの緊張感が伝わってくる傑作です。3匹とも野良犬とは思えない雰囲気なのに首輪をつけていない。

目次

1)スライドショー:本橋成一の世界
2)どうなっているのか、フィンランドの教育
3)億万長者は社会民主主義を目指す!?
4)ウィルスとアフリカ
5)どうでも英和辞書
6)むささびの鳴き声


1)スライドショー:本橋成一の世界


全くの偶然で、写真家・本橋成一さんの作品を掲載した本を手にする機会がありました。その作品の素晴らしさに感激、是非ともむささびの友人たちにも見てもらいたいと思いました。この人はむささびが知らなかっただけで、写真家、映画監督として有名な人だったのですね。ウィキペディアによると1940年生まれだから、むささびとほぼ同い年。「市井の人々をテーマにした作品を数多く残している」とのことで、確かにどの作品を見ても懐かしさを覚える。ノスタルジアも悪いものではない、と思ったりも・・・。

一つだけ注釈を。スライドショーの最後に「ふたりの画家」の写真が出ています。この二人とは夫が丸木位里(1901~1995)、奥さんが丸木俊(1912~2000)という画家夫婦のことです。ふたりが共同制作した『原爆の図』は有名ですが、夫は水墨画、妻は油絵の芸術家なのですね。彼らの作品は埼玉県東松山にある丸木美術館で見ることができます。

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2)どうなっているのか、フィンランドの教育



フィンランドの公共放送YLEの英文サイト(1月16日付)に
という見出しの記事が出ています。

OECDが主宰する世界の子供たちの学力調査にPISAというのがありますよね。Programme for International Student Assessmentの略ですが、ほぼ常にフィンランドがトップもしくはかなりの上位に格付けされ、外国から大いに羨望の眼差しを向けられていた。それが最近の調査である2018年度PISAの結果によると、フィンランドの子供たちのスコアはどの分野でもOECDの平均を上回っているのですが、順位ということになると読解力で79か国中第7位、数学は15位、科学は第6位などとなっている。


フィンランドの教育の現状についてYLEが問題視していることの一つに「読解力」(reading)における男女差がある。2018年度の調査では、女子の平均スコアが546なのに対して男子のそれは495で50ポイント以上の差がついている。PISAの学力調査ではおしなべてどの国でも女子が男子をリードしているのですが、その差がOECD平均で30であることを考えると、フィンランドにおける男女差の50以上というのは大きすぎるとYLEは言っている。OECDの報告書によると、フィンランドの男の子たちは読むことが好きでないのだそうで、63%の男子が「必要がない限り読まない」(they read only if they have to)などと答えたりしている。ちなみに科学や数学になると男女差はぐっと小さくなるのだそうです。


YLEによると、最近のフィンランドにおける教育の問題点として「家庭環境(family background)における格差」というのがあるのだそうです。家庭環境の違いが子どもたちの成績に表れているということで、社会的・経済的に恵まれた家庭で育った子供が、そうでない家庭で育つ子供よりも優れた成績を上げる傾向にあるということです。YLEは、かつてフィンランドにおける基礎教育の最大の強みは、家庭環境の如何を問わず平等が保障されていること(guarantee of equality)であるとされていたはずだ、と言っている。特に必要なのが移民の子供たちの教育の改善で、移民問題は隣国のスウェーデン、ノルウェー、デンマークにもあるけれど、フィンランドにおける移民の子供の成績が特に悪いのだそうです。

これらの問題とは別にフィンランド社会そのものが抱える問題を指摘する声もある。ヘルシンキ大学で心理学を教えるアイノ・サリネン(Aino Saarinen:女性)は、最近のフィンランドでは精神衛生上の問題(mental health problems)、失業問題などが増えており、それが「社会的な疎外現象」(societal alienation)の増加に繋がっている、と指摘している。


サリネンは現代フィンランドの教育における問題点としてさらに二つ挙げています。一つは教育現場におけるデジタル化、もう一つは、余りにも子供任せの状態にあるという点です。

今から4年前の2016年、教育省が、学校現場におけるデジタル化に対応するべく5000万ユーロを投資すると発表しました。具体的に言うと授業で使われる様々なデジタル機器の使い方を教師が身につけるための訓練費用として予算を投じるというものだった。が、サリネンによると「デジタル機器を使えば使うほど生徒の学力が低下する」(The more that digital tools were used in lessons, the worse learning outcomes were)のだそうです。ただそれは生徒がデジタル機器を使えないというのではなく、彼らがタブレットだのノートPCだのを授業以外の目的に使ってしまうので、学力向上には役立っていないということです。ただこの傾向はフィンランドだけでなく他の国でも見られる現象らしい。


ではサリネンが指摘する「子供任せ教育」の問題点とは何か?これも2016年に教育省によって採用が決まった"phenomenon-based learning"と呼ばれる授業のあり方に関係している。「現象ベースの学習」と訳しても何のことだか分からないけれど、要するに子供たちが自分たちの学習に対してより積極的(more active in their studies)な姿勢をとることを奨励する・・・教育というものを教師が生徒に教えるというより、生徒が自分で身につけるものという発想です。

サリネンによると、この種のやり方は、もともと出来のいい子供たちや家庭環境に恵まれた生徒にはいいかもしれないけれど、そうでない子供たちは単に置いてきぼり(left behind)を食うだけという結果になってしまう。"phenomenon-based learning"を推進しようとした教育関係者は、それが生徒間の格差の是正に繋がることを期待していたのですが、サリネンによると「全く反対のことが起こってしまっている」(exactly the opposite has happened)とのことであります。

▼最も最近(2018年度)のPISAの学力調査に関する報告書のイントロ部で、この調査の意義が語られています。それは「ますます相互依存が強くなる国際社会(increasingly interconnected world)に充分な貢献を行える市民を育成する」ことにあり、参加国政府の教育政策も、そのような目的のために市民の技能を向上させることに重点が置かれなければならない・・・という趣旨のことが述べられている。でもこのような形でランク付けすることに何の意味があるのか、どうもよく分からない。フィンランドや日本は、かつての優等生であったけれど、日本について言うと、「読解力」「数学」「科学」、どの分野においても首位を走る中国(北京・上海中心)にはかないっこない。フィンランドについていうと、読解の部分で自分たちは7位なのに、対岸のエストニアは第5位というのは気に入らない・・・なんてこと考えたりしていないよね。

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3)億万長者は社会民主主義を目指す!?

不平等が資本主義を脅かす 社会的市場経済
博愛資本主義 億万長者の限界?

スイス・ジュネーブに本拠を置く非営利財団、世界経済フォーラム(World Economic Forum)が毎年1月にスイス東部の保養地ダボスで開催する年次総会は「ダボス会議」として知られているのですが、発足したのは1971年というから、もうほぼ50年経っているのですね。そのダボス会議について、英国のNew Statesmanが
  • Solving global inequality through vacuous buzzwords: welcome to the new “Woke Davos” 世界の不平等をもったいぶった言葉で解決しようとする・・・ようこそ新しい「良心的ダボス」へ
というイントロの記事を掲載しています。

不平等が資本主義を脅かす

"woke"という言葉がいま流行っているのだそうですね。社会的不公正などに対して敏感に声を上げるような姿勢のことだそうです。従って“Woke Davos”は、億万長者の集まりではあるけれど、世界が抱えるさまざまな問題にについて真摯に対応しようとする姿勢をとっている人たち即ち「良心的な億万長者」の集まりということになる。もちろん皮肉なのですが、New Statesmanは、昔ながらの左派系オピニオン誌だからダボス会議については批判的に語るのも不思議ではない。


世界中の億万長者と呼ばれる人間が持っている「富」(wealth)を合計すると、全世界の人口が有する富の6割を超える、と英国のチャリティ組織であるOxfamが報告している。人間社会の不平等現象を象徴する数字ですが、「ポピュリズム」の嵐が吹き荒れる最近では、世界中の「庶民」が街頭デモを展開したりして社会の規律を乱しているので、「不平等」は億万長者にとっても楽しい話題ではない。どころか、不平等は億万長者の基盤ともいえる資本主義社会そのものを脅かしているともいえる。ヘザー・ボウッシー (Heather Boushey)というアメリカの経済学者は"Unbound"という著書の中で、現代資本主義が成り立つための条件である自由競争とか財政上の安定などが貧富の差によって阻害されている、と言っている。

博愛資本主義

その結果として起こったのが「良心的ダボス」(Woke Davos)という現象だった。かつてダボス会議といえば世界をリードする政治家とビジネスマンが一堂に会する社交の場という雰囲気であったけれど、最近では、行き過ぎた資本主義がもたらす社会不安などについて話し合う場となってしまった。使われる言葉も「博愛資本主義」(philanthro-capitalism)、「企業の社会的責任」(corporate responsibility)、「インパクト投資」(impact investment)のようなものが並ぶ。要するに良心的資本主義とでも呼ぶべき現象が起こりつつあるということです。
 

「目覚めたダボス」で歓迎される企業の代表格と言えばAmazonです。労働条件が悪いとか脱税しているなどの批判を浴びてはいても、これから2025年まで毎年、労働者の訓練のために1億1700万ドルを投資すると言明してダボスでは拍手を浴びている。反対に歓迎されない存在の代表はラジャー・ブレグマン(Rutger Bregman)という歴史家。彼はかつてダボス会議において「博愛主義の話ばかりしていないで、税金の話もしたらどうか」(just stop talking about philanthropy and start talking about taxes)という趣旨のスピーチをやって参加者の顰蹙を買ってしまった。

社会的市場経済

「良心的ダボス族」(Woke Davos-ites)たちが求めている「社会的市場経済」(socially cohesive market economies)というややこし気な思想は、「実際には昔からあるものなのだ」とNew Statesmanは言います。それは「社会民主主義」(social democracy)というものだ、と。具体例を挙げるならば再分配課税、社会保険、公共サービス、労働組合や協同組合のようなものがそれに当たる。最近の政治の世界ではさして評判のいい発想ではないかもしれないけれど、一部に言われているほどには時代遅れではない。ヨーロッパでは今でも大きな影響力を持っているし、アメリカでは民主党の政策として採用されている。

世界経済フォーラムが発表した2020年における「社会的流動性指数のランキング」。トップ5は北欧の国々で独占されている。例えばトップのデンマークの貧困家庭に生まれた人間が、デンマークにおける中間所得を得るまでに2世代が必要なのに対して、スウェーデン、フィンランド、ノルウェーの場合は3世代となっている。指数が15位の日本の場合は4世代、英・米・韓国は5世代となっている。調査対象国の中で最も長いのはコロンビアで、貧困家庭の出身者が中間所得を得るまでには11世代かかるとのことであります。ここをクリックすると詳しく出ています。

社会民主主義には、刷新しなければならない側面はあるにしても、新しい時代に即した考え方として受け入れることができる。ダボス会議が発表した「社会的流動性に優れた国」というランキングでトップを占めるのはデンマーク、ノルウェー、フィンランド、スウェーデンのような国であるわけですが、これらの国々は社会民主主義的な発想で発展してきた。これらの国々の発展過程においては、「良心的ダボス族」が好んで使う「博愛資本主義」とか「企業の社会的責任」のような言葉は存在さえしていなかったけれど、結果的にはWoke Davos-itesたちが目指す社会と同じようなものを実現している。

億万長者の限界?

今こそグローバルな問題についての社会民主主義による解決の道を探るべきなのだが、それを「良心的ダボス族」の億万長者たちにも理解できるように作り直すことが必要なのかもしれないけれど、それをやったからと言って億万長者たちが社会民主主義が賛同することには繋がらないかもしれない。となると・・・:
  • それよりダボス会議のライバルになるような地球規模の集まりを発足させる方がいいのかもしれない。つまりダボス会議が議論してきたのと同じような課題を議論する集まりではあるけれど、ダボス会議の参加者たちが提案する気にならなかったのような野望と展望に満ちた議論をする場である。誰かやる気のある人はいないものか? The better alternative would probably be to launch a rival global gathering confronting the same issues as Davos, but with an ambition and scope that it cannot comfortably offer. Any takers?
とNew Statesmanは言っている。

▼むささびは「億万長者」のことなど全く知らないけれど、Business Standardというサイトには、2020年1月のダボスに参加した億万長者として、主に金融業界の人たちの名前が挙がっています。約120人いたのですが、財産を合計すると5000億ドル(たったの50兆円強!)ということになる。もちろん全員が召使付きの私用ジェット機でお越しになり、$43のホットドッグを食した・・・というのですが、ほんまかいな。

▼いずれにしても北欧諸国が追求しているかに見える「社会民主主義」の世界では、この人たちは暮らせない。人間それぞれ私欲を追求することが許されることによってのみ社会全体が潤うのだという「弱肉強食」の「自由主義」は社会民主主義には合わない。億万長者に「博愛」は合わない・・・というのは億万長者になどなれっこないむささびのひがみかもしれない(けれどさして興味もない)。

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4)ウィルスとアフリカ
 

科学誌、Natureのサイト(2月13日付)が、新型コロナウィルス(coronavirus)の拡散について、「これを抑止する能力に最も欠けている国々に広がることを科学者たちが怖れている」(Scientists fear coronavirus spread in countries least able to contain it)という見出しの記事を掲載しています。記事掲載の時点では、中国以外の24か国で検知されているのですが、単に検知されていないだけで実際には広がっている国がたくさんあるのではないかということです。Natureが特に書いているのが、東南アジアやアフリカの国々で、国による保健対策が十分に整っていないかもしれないところです。

 

2月11日に世界保健機関(WHO)が今回の新型コロナウィルスをCOVID-19と正式に命名したのですね。Natureの記事によると、それ以後に国際的な科学者たちがネットワークを組んで、COVID-19を「輸入」する危険性の高い場所として30の国や地域特定している。「危険性」の根拠として挙げられたのが、中国との人的往来で、モデルとして一昨年(2018年)2月におけるフライト・データが使われたのだそうです。

東南アジアの中で最もこのウィルスに晒されていると見なされるのがタイで、2月5日の時点で33人の感染者が報告されており、このうち23人が中国への渡航経験者であったとのことです。が、この数字は武漢の渡航制限が実施された後から見つかった人の数字であり、規制実施前の2週間で実際には207件の感染が記録されている・・・とこの調査に参加している英国・サザンプトン大学のシェンジー・ライ(Shengjie Lai)教授は言っているのだそうです。

インドネシアでは(Natureの記事が掲載された時点では)感染者の報告がされていないけれど、ライ教授は、インドネシアが中国人にとって人気のある旅行先であることを考えると、感染者ゼロということは考えにくく、少なくとも30人は感染しているはずだとのことです。


アフリカはどうか?記事掲載の時点では一件の感染例も報告されていない。確かにアフリカはアジアに比べると観光面での中国との行き来は少ないのですが、アフリカ諸国における様々な建設工事などで働くために渡航する中国人労働者の数は極めて多い。米ジョン・ホプキンス大学のCHINA AFRICA RESEARCH INITIATIVEというサイトにアフリカにおける中国人労働者(Chinese Workers in Africa)というデータが出ています。それによると2017年末現在の数字ですが、約20万人の中国人労働者がアフリカで仕事をしています。最も多いのがアルジェリアの約6万1000人、次いでアンゴラ(2万6000人)、ナイジェリア(1万人)、エチオピア(9600人)、ケニア(8700人)などとなっています。

特に中国との人的往来が激しく、その意味ではCOVID-19感染の危険性が最も高いのはエジプト、アルジェリア、南アフリカなどだそうですが、これら三国は、公衆衛生面が発達しており、感染者が出たとしても食い止める能力もある、という専門家もいる。それよりも危険なのは中国との人的往来はあるけれど、政府による保健体制がいまいちできていない国としてナイジェリア、エチオピア、スーダン、アンゴラ、タンザニア、ガーナ、ケニアの7か国が挙げられている。


ただこれらのアフリカ諸国でも状況は急速に変化している、という専門家もいる。例えばつい最近までCOVID-19のウィルスを検知できる検査機関は、アフリカ全体でセネガルと南アに一か所ずつしかなかったけれど、最近になって6か所増えて全部で8か所の検査機関が出来たとのこと。特にナイジェリアには3つの検査所が新たに設置されており、中国からの帰還者(二人)を検査したけれど、いずれも陰性だったとのことです。ただナイジェリアの防疫関係者は、最悪の事態とは、感染者が見逃されて入国してしまい、感染を広げてしまうことだ、として
  • That is really what keeps me up at night. それを考えると夜もおちおち寝ていられない。
と告白しています。

前号(442号)の「むささびの鳴き声」で医療ガバナンス研究所の上昌広理事長の意見を紹介しましたよね。このウィルスの拡散を防ぐ手だてはないのだから「最優先すべきは公衆衛生ではない。国民の健康や不安に地道に向き合うことだ」と言っていました。ここでいう「公衆衛生」は(むささびの定義によると)「大きなものを守るために小さなものが犠牲になるのはやむを得ない」という発想です。この考え方をさらに積極的に推進すると「公の衛生」のためには「個人の衛生」は進んで犠牲にするべきだ・・・ということになる。

▼この自発的犠牲主義の何が悪いのか?そのあたりがむささびにはうまく説明ができないのでありますが、前号で紹介した意見に続いて上昌広理事長は文春オンラインのサイト(2月13日付)に「クルーズ船3700人隔離は正しかったのか」というエッセイを寄稿しています。前回紹介したものよりもさらに長くて専門的な記事なので、とても詳しく紹介することはできません。一か所だけ:
  • では、厚労省は何をすべきだろうか。それは中国への渡航歴や濃厚接触に関わらず、希望者すべてにウイルス検査を受ける機会を提供することだ。正確に診断することができれば、効果が期待されるエイズ治療薬などを服用することができる。
▼上さんが疑問を呈していることの一つに、厚労省(つまり日本政府)が国立感染症研究所という組織の検査体制が整備されるのを待つということがある。彼に言わせると、この研究所は厚労省の管轄ではあるけれど「本務は研究であり、大量の臨床サンプルを処理することではない」とのことであります。だからと言って、むささびは鬼の首でも取ったように「だから政府はダメなんだ!」と騒ぎ立てるつもりはない。そんなことをやって留飲を下げて喜んでいる(としか思えない)議論が余りにも多いから。

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5) どうでも英和辞書
A-Zの総合索引はこちら 

insubordinate:従順でない、反抗的な

アメリカ上院の弾劾裁判で無罪の評決を受けたトランプが、自分に不利な証言をしたビンドマン陸軍中佐(国家安全保障会議の幹部でもある)をホワイトハウスでの職務から外しましたよね。その際にトランプがツイッター上で使ったのが"insubordinate"という言葉だった。
  • Actually, I don't know him, never spoke to him, or met him (I don't believe!) but, he was very insubordinate, reported contents of my "perfect" calls incorrectly, &. was given a horrendous report by his superior...アタシは彼のことを知らないし、話したことがないし、会ったこともない(と思う!)けれど、彼は実に(アタシに対して)反抗的な態度だったですよね。何も問題のないアタシの電話の中身を誤って報告した。お陰で自分自身の上司からひどいことを言われたりした・・・
要するに(むささびは知らなかったけれど)上司に逆らったりすることを"insubordinate"と言うのですね。似たような意味を持つ言葉に"disobedient"というのがあるけれど、こちらは子供が親や教師に逆らうような場合に使われる。ネット辞書によると、"insubordinate"は法的に権限を有する人間に対して不服従の姿勢を示したような場合に使われるらしい。つまりトランプとしては、こともあろうに自分の上司である大統領に逆らうとは・・・と言いたかったのでしょうね。でも、あの人間がこのような難しい単語を知っていたものですね。
 
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6)むささびの鳴き声 
▼思いつくままに。メディア関係の専門媒体であるPress Gazetteによると、英国における全国紙22紙のうち3分の1を上回る8紙の編集長が女性なのだそうです。例えば大衆紙としてたびたび物議をかもす、あのThe Sunの編集長はビクトリア・ニュートンという女性が就任したばかりなのですが、彼女の場合はこれまで日曜版の編集長も務めてきており、それはこれからも続けるのだから、2紙の編集責任者ということになる。それ以外の主なところではフィナンシャル・タイムズ、サンデー・タイムズ、ガーディアン、デイリー・ミラーなどがいずれも女性の編集長というわけです。

▼英国の場合、日刊紙はそれぞれ日曜版というのを持っています。Daily MailがMail on Sundayを、The SunはThe Sun on Sudayを、GuardianがObserverをという具合で、それぞれが編集長も編集スタッフも異なるから日曜紙は事実上の週刊誌のようなものです。「全国紙22紙」というとき、日曜紙も全国紙として計算されています。日本の新聞の場合、女性の編集長・編集局長はいるのですかね。あまり聞いたことがない。週刊誌はどうなのでしょうか?

▼もう一つPress Gazetteの記事から。2月3日(月曜日)のことなのですが、首相官邸で予定されていた記者懇談会が中止された。何故?首相の報道官が参加メディアを勝手に絞ってしまい、中には出席を許されない記者が出てきてしまったことから、記者側が怒って全員が出席拒否のwalk-out戦術に出たというわけです。首相官邸の会見に出ることが許される記者のことを、業界用語でLobbyと呼び、主なるメディアには最低一人はいる。2月3日のイベントは、いわゆる記者会見というよりも懇談会に近いもので、それだけに首相と直接話ができるのだから誰でも参加したいはず。それを報道官が勝手に"inner-Lobby"とかいうグループを作ったことが記者たちの怒りを買ってしまった。その後、首相と記者たちの間がどうなっているのか・・・報道されていません。

▼確か日本の首相官邸における記者会見でも、特定の記者に質問をさせないという官邸側の暴挙に記者たちが黙って従っているとかいう話がありませんでした?東京新聞の記者だったと思うけれど。このクラブの場合、記者たちはwalk-outどころか、官邸と一緒になって自分たちの仲間を排除しようとしている・・・のよね?そうですよね?ね?むささびが新聞を買う場合、東京新聞に限るのは値段が安いからだけではないのよ。

▼1月30日、アメリカのトランプ大統領が下院で一般教書演説なるものを行った際に、二つのテレビ向けのジェスチャーがありましたよね。一つは演説前にトランプがペロシ下院議長との握手を拒否したことであり、もう一つは演説終了後にペロシがトランプの演説原稿を引き裂いて見せたこと。前者はともかく、後者についてはトランプ陣営の選挙用の動画でさんざ使われているらしい。つまりペロシに代表される民主党の政治家のひどさ加減の宣伝材料として使われているということです。

▼あの行為に及んだ時に、ペロシはそれがどのような影響を与えるのかについて考えない筈がないよね。自分の行為を咎める人も称賛する人間もいるだろうけど、致命的に民主党に不利益を与えることはないだろう、と(ペロシは)考えた(とむささびは考えている)。ペロシが何を考えていたかはともかくとして、民主党びいきのメディアであるNew York TimesやCNNのサイトを見る限りにおいて全くペロシを咎めておらず、CNNなどは「効果的だった」(effective)とまで言っている。

▼で、トランプの行為は?トランプびいきのアメリカ人に受けていることは分かるけれど、いわゆる浮動票を握る有権者はどのように思ったのだろう。常識的にはペロシとの握手を拒否するのは敵をたくさん作るようなものだなのだから「アホらしい」(silly)と思うのでは?でもトランプだってそんなこと十分に分かっていたはずですよね。

▼自分の行為に眉をしかめるアメリカ人がそれなりの数いるはずだということ。でも、それを敢えてやってしまった・・・なぜ?自分の行為に拍手喝さいを送るアメリカ人の方が多いはずだと思ったから、ですよね。トランプの行為は自分たちの敵(この場合は民主党)に対する怒りや憎しみを掻き立てるものであり、彼もそれを意識したうえでやったのですよね。自分たちの敵に対する怒りや憎しみを共有することにおいてのみ団結することができる、それがトランプの発想なのですよね。そのことだけ考えてみてもトランプが如何に現在の職にふさわしくないかが分かりますよね。

▼大統領の一般教書演説といえば、あのロバート・F・ケネディ(RFK:1968年に暗殺)の孫(ジョセフ・ケネディ3世)がいま下院議員をやっており、トランプの演説に反対する演説を議会で行ったのだそうですね。NHKのサイトに出ていました。37才で、「民主党のホープ」と書いてあった。彼のお祖父さんが暗殺されたのは43才のときで、大統領候補として選挙運動をやっていたときだった。あのとき、むささびは初めてアメリカへ行っていた。あれから50年以上が経って、あのRFKの孫が議員をやっているなんて・・・。お祖父さんのお兄さんであるジョン・F・ケネディが大統領になったのも43才のときで、46才のときにダラスで暗殺されたのですよね。

▼長々と失礼しました。お元気で!

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