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345号 2016/5/15
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美耶子の言い分 美耶子のK9研究 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
最近の埼玉県の天気はちょっと「異常気象」を思わせます。空が真っ青で日向にいると夏のような暑さなのですが、湿気がないので日陰に入ると涼しい。はるか昔、アメリカのニューメキシコ州のアルバカーキという町を歩いたときにこんな感じであったのを思い出します。埼玉県の山奥へ行くと、10年前に比べると明らかにタンポポの数が増えています。これも気温が上昇したせいなのでは・・・?上の写真は今ごろのイングランドの林に咲くブルーベルです。

目次

1)認知症の増加は避けられる(かもしれない)
2)広島と原爆:BBC、記事訂正の背景
3)トランプと日本の核武装
4)トランプとレーガン、似て非なるところ
5)カーン(ロンドン市長)とトランプ
6)英国版「ゆとり教育」の主張
7)どうでも英和辞書
8)むささびの鳴き声

1)認知症の増加は避けられる(かもしれない

4月19日付のBBCのサイトに
  • 認知症の脅威は予想されたほどには深刻ではないかもしれない
    Dementia threat 'may be less severe' than predicted
という見出しの記事が出ています。科学誌「ネイチャー」のNature Communicationsのサイトが4月19日に掲載した報告をBBCが取り上げて報道しているものです。「深刻ではないかもしれない」(may be less severe)という部分が強調されており、断定的には言えないけれど、認知症の問題は思われているほどには深刻ではないかも・・・というニュアンスが伝わってくる。

Nature Communicationsのサイトが伝えているのは、ニューカッスル大学やケンブリッジ大学の医療研究者が医療協議会(Medical Research Council:MRC)の資金で行った「認知機能・高齢化研究」(Cognitive Function and Ageing Study:CFAS)と呼ばれる共同研究の結果として判明したものです。

1990年代初頭(1989~1994年)にイングランドのケンブリッジシャー、ノッティンガム、ニューカッスルという3つの町で暮らす65才以上の高齢者約7500人を対象に、それぞれの認識能力と生活ぶりについての面接調査が行なわれたのですが、その20年後に同じ町で同じ年齢層の住人を対象に同じテーマで面接調査が行われた。つまりその20年間で3つのコミュニティで暮らす高齢者の間における認知症の罹患率に何らかの変化が見られたのかどうか見極めようという研究だったのですが、女性の罹患率が横ばいであったのに対して男性の罹患率は低下するという傾向が見られたのだそうです。

例えば20年前の調査で「1000人あたりの認知症罹患率」は80~84才の男性で42.4人であったのが20年後には24.8人にまで減っている(女性の場合は35.6人から39.6人へと増えている)。


なぜ男性の認知症罹患率が低下したのか?研究者たち自身にも明確な理由は分からないらしいのですが、20年間で男性の方が女性よりも健康を意識するような生活スタイルが採用される傾向が強くなったということがあるのではないかと言われている。例えばかつてに比べると明らかに喫煙率は下がっているし、食事面でも塩分の摂取量が少なくなったりもしている。しかも昔に比べればジムだのウォーキングだのという活動も盛んになっている。女性に男性のような傾向が見られないのは、女性は男性よりももともと健康的な生活をしていたのであり、男性はただ女性に追いついただけ(catching up)ということなのではないかとされている。


この調査に参加しているケンブリッジ大学のキャロル・ブレイン教授は
  • 認知症の罹患率が安定化してきていることについては楽観的であるが、これからさらに健康面での向上が図られないと高齢者人口の増加に伴って認知症も再び増加傾向をたどることもあり得る。すなわち「慎重な楽観論」ということだ。
    I'm pretty optimistic that it's stabilising, but if we don't further improve health, then we would expect the numbers to go up with further ageing of the population, so it's a sort of cautious optimism.
とコメントしている。英国における認知症罹患者は年間約20万人と言われているのですが、今回の調査結果を全国に当てはめると、20年前に予想されていた罹患数よりも4万人ほど少なくなるという声もある。ただ、アルツハイマー協会のジェームズ・ピケット調査部長は「高齢化が進み、糖尿病や肥満のようなリスク要素も増えていることからすると、年間20万人の増加という傾向そのものはこれからも続くだろう」と警告しています。

▼確かに上のグラフを見ると、男性の罹患数の低下傾向の方が女性のそれよりもはっきりしていますね。ただ罹患者の絶対数を見ると、女性の方が明らかに低い。おそらく女性は男性に比べると、中年のころに喫煙・飲酒のような不健康生活を送ることが少ないということが理由なのでしょうね。

▼ケンブリッジ大学のブレイン教授は、認知症の今後について「慎重な楽観論」というわけですが、それでも今回の研究の結果として、認知症の増加が「避けられない」(inevitable)というものではなく、「何とかなるかもしれない」(can be fought)ような問題であることが分かったことは成果に違いないと言っています。
むささびジャーナル関連記事
2025年の英国、認知症が100万人に
認知症を「哲学」する

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2)広島と原爆:BBC、記事訂正の背景
オバマ大統領の広島訪問が決定したことを伝えるBBCのサイト(5月11日付)を読んでいたら「関連記事」(More on this story)のリストの中に "Hiroshima: The human cost and the historical narrative"(原爆投下の人的犠牲と歴史の説明)という記事があることに気が付きました。原爆投下70周年の昨年(2015年)8月4日付のサイトに出ていたのですが、むささびジャーナルではこの記事に触れることがなかったと思います。で、その記事を読んでみたのですが、むささびが国際ジャーナリストとしてのセンスや経験があったら見逃すことはなかったでしょうね。この記事にまつわる後日談も含めて紹介してみます。

まず昨年8月4日付の記事ですが、ルパート・ウィングフィールド=ヘイズ(Rupert Wingfield-Hayes)というBBCの東京特派員が書いたもので、次のような書き出しになっている。
  • アメリカは広島と長崎への原爆投下について第二次世界大戦を終わらせるのに必要だったと主張してきた。が、その説明では悲惨な人的被害についてはほとんど強調されていない。
    The US has always insisted that the atomic bombs dropped on Hiroshima and Nagasaki were necessary to end World War Two. But it is a narrative that has little emphasis on the terrible human cost.
このイントロでも想像がつくと思うけれど、記事全体として原爆投下がもたらした人的被害の深刻さを延々と語っているのですが、その中に次のような部分があった。
  • アメリカにおける常識では、広島、長崎への原爆投下によって戦争が終わったのであり、それが故に正しかったのだ、それだけのことだ、と。それは本当に「それだけのこと」なのだろうか?確かに便利な説明ではある。が、それはアメリカの指導者たちが自分たちの行ったことを正当化するために、戦後でっちあげたストーリーだったのだ。そして彼らの行ったことはあらゆる尺度で考えても恐ろしいことであったのである。
    The conventional wisdom in the United States is that the dropping of atom bombs on Hiroshima and Nagasaki ended the war, and because of that it was justified - end of story. Is that really the end of the story? It's certainly a convenient one. But it is one that was constructed after the war, by America's leaders, to justify what they had done. And what they had done was, by any measure, horrendous.
この文章は2015年8月4日付のサイトに掲載されたものです。然るにこの部分は、後日ある歴史家からクレームがつき、これを検討した結果、今年(2016年)3月23日に記事が訂正(update)されて次のように変わっている。
  • (アメリカにおける)常識では、広島、長崎への原爆投下によって戦争が終わったのであり、それが故に正しかったのだということになっている。このように歴史を見ることの危険性は、そのような見方が広島や長崎の民間人が被ったすさまじい苦しみを軽視することに繋がるということだ。実際それはあらゆる尺度で考えて本当にひどい苦しみと言えるようなものであったのだ。
  • The conventional wisdom is that the dropping of atom bombs on Hiroshima and Nagasaki ended the war, and because of that it was justified. The danger of this version of history is that it diminishes the appalling suffering inflicted on the civilian populations of Hiroshima and Nagasaki. And it was, by any measure, appalling.
つまり2016年5月にむささびが読んだのは二番目の記事(訂正された後の記事)であったわけです。で、最初のオリジナル記事の何が悪かったのか?「それはアメリカの指導者たちが自分たちの行ったことを正当化するために、戦後でっちあげたストーリーだったのだ」という部分だった。クレームをつけた歴史家によると、「でっちあげたストーリー云々」というのは、筆者の「見解」に過ぎないのにあたかも「事実」であったかのように書かれているというわけです。そして特派員本人も交えて検討した結果このクレームを受け入れることにした、と。

もう一つ、2015年8月4日付のサイトに掲載された記事の見出しは
  • 広島への原爆投下についての「洗浄された説明」:原爆投下は戦争終結のために必要だったというアメリカの見解は、いまも続くひどい犠牲に目をつぶっている。
    The 'sanitised narrative' of Hiroshima's atomic bombing: The US view that the bombing was necessary to end the war ignores a terrible and enduring cost.
となっていたのですが、「訂正後」は
  • 広島:原爆投下の人的犠牲と歴史の説明
    Hiroshima: The human cost and the historical narrative
となっています。訂正前の文章は、原爆投下は必要悪だったというアメリカの説明を "sanitised narrative" と決めつけている。むささびは「洗浄された説明」と訳しているけれど、別の言葉でいうと「綺麗ごと」ということになる。痛烈な批判です。それと比べると訂正後の文章はかなり「和らいだ」という感じですよね。

この写真はBBCの記事の中で使われているもので、キャプションには「原爆を人口密集都市に落としたことで英雄扱いされるエノラゲイの乗組員たち」とあり、いかにも「ひどいことをしたのに英雄扱いとは・・・」という批判のニュアンスが感じられる。

BBCの特派員は、戦時中に日本軍が中国や朝鮮、アジア諸国で行った残虐行為は事実であるとしても、アメリカが日本に対して行った爆撃は、第二次大戦の中でも群を抜いて集中的かつ破壊的なものであり、30万~90万人もの犠牲を出したとして、彼の広島取材を次のような文章で締めくくっています。
  • 70年後のいま、次のことを問い直すことはおそらく意味のあることであろう。すなわち、文明を救うという目的で参戦した国(アメリカ)が、なぜ何十万もの民間人を虐殺することになってしまったのかということである。
    Seventy years on, it is perhaps worth asking again how it is that a country which entered the war to save civilisation ended it by slaughtering hundreds of thousands of civilians.
▼オリジナルの記事が「訂正」されたことについてのBBCの説明はここをクリックすると出ています。

▼広島に関するこの記事は、「訂正」後のものを読んでもかなり厳しくアメリカの原爆投下を告発しているニュアンスで書かれている。NHKでは考えられない。この記事を書いた東京特派員のルパート・ウィングフィールド=ヘイズ記者ですが、生まれは1967年だから今年49才。1999年にBBCの記者になり、2000年~2006年に北京特派員、2007年~2010年はモスクワ、その後はエルサレム駐在の中東担当記者などを経て、2012年に東京特派員になっている。ムバラク政権が崩壊した「カイロの春」を取材したときはエジプト警察に捕まって拘留されたりしている。

▼そして・・・何と言っても最近の「勲章」はというと、北朝鮮の労働党大会を取材していて国外追放の憂き目にあってしまったことでしょうね。BBCによると、彼の取材・報告の内容に北朝鮮が大いなる「不快感」を持っていたことによる追放処分であったのだそうです。おそらくこの人にとって、ジャーナリズムとは文字通り命がけの戦いなのでしょうね。それだけ敵も多いかもしれないけど、さぞやファンも多いだろうと推察します。
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3)トランプと日本の核武装


アメリカ共和党の大統領候補間違いなしであるドナルド・トランプが、日本や韓国、ドイツなどの同盟国による「安保ただ乗り」は怪しからんと言ったことについては、日本でもかなり広く伝えられていますよね。自民党の石破さんが「トランプは日米安保条約をまともに読んでいない」と発言したりして・・・。

ちょっと古いけれど、2か月ほど前(3月26日)のNew York Timesのサイトに、ドナルド・トランプとNYタイムズの記者とのインタビューの文字起こしが掲載されています。3月31日・4月1日の2日間、ワシントンで「核セキュリティサミット」という会議が開かれたのですが、NYタイムズとしては、アメリカの大統領になるかもしれない人物が核拡散防止の問題をどのように考えているのかを聞き出そうという意図であったわけ。この中でトランプが日本や韓国の核武装について語った部分があるので紹介します。読みにくいかもしれないので英文は省きますが、ここをクリックすると全文を読むことができます。

インタビューではまずNYタイムズの記者が、「中国や北朝鮮の脅威に直面する日本や韓国が核武装をするということに、あなたは反対ですか?」と質問、それに対してトランプは次のように答えています。

いずれは現在のようなやり方が続けられない時が来るんですよ。(日本や韓国に防衛費を負担させるについては)いい点と悪い点がある。ただ今現在言えることは、我々が日本を守っているということだ。北朝鮮がおかしなことをやり始めると、必ず日本やほかの国からアメリカに電話がかかってきて「何とかしろ」(Do something)と要求するわけだ。そんなことが出来ない時が必ず来る。そこで、問題はそれが核武装についても言えるのかってことだ。それは言えますよ。核戦争の世界なんて恐ろしいじゃないですか。最大の問題は核拡散であるわけですが、同時に分かっておいてもらいたいのはアメリカには金がないってことです。

通常兵器という意味での日本や韓国の軍事増強はぜひやるべきだけど、核兵器となるとちょっと・・・となる。でもアメリカには他国を守り続けるようなお金がないということだけは分かっておくべきだ、と言っているのですよね。NYタイムズによると、日本の軍事増強論はトランプが過去30年間主張し続けているものらしいですね。トランプはアメリカには金がないということをさらに繰り返して

アメリカは金持ちの国じゃないんです。昔は金持ちだった。軍隊も強かったし能力も素晴らしかった。でももう違うんですよ。アメリカの軍隊は非常に弱体化しているし、核兵器庫などは全くひどい状態にある。それが使いものになるのかどうかさえ彼らには分からない。もうアメリカは昔のような国ではないってことなんですよ。

と言っている。この発言の中の「それが使いものになるのかどうかさえ彼らには分からない」(They don’t even know if they work)という部分の「彼ら」とは誰のことを言っているのか?日本を始めとする「同盟国」のことを言っているのか、それとも(まさかとは思うけれど)ワシントンの政治家や軍関係者のことを言っているのか・・・。

日本や韓国の社会の一部には、自分たち自身で核武装をしたくてうずうずしている勢力がおり、「アメリカが守れないのなら自分たち自身で核武装して、北朝鮮に勝手なことをさせないようにしよう」という意見が根強くある・・・と前置きしてから、NYタイムズの記者は
  • (日本や韓国の)そのような主張は理にかなった(rasonable)ものと言えるか?あなたはいずれは彼らも核武装するべきだと考えているのか?
と質問する。それに対するトランプの答えは次のとおりです。

そういう考え方もあるだろうな。それについては、いずれは話し合う必要があるだろう。ただ、アメリカが今までのような道、つまり「弱体化の道」を歩み続けるのだとしたら、彼ら(日本や韓国)は、私が何を言おうと、いずれは核武装することを望むようになるだろうよ。今のアメリカの状態を見れば彼らだって安心してはいられないから。アメリカが如何に自分たちの敵を支援してきたか、あるいは同盟国を支援してきたかを見れば、アメリカは大して強くはなかったってことがわかるはずだ。世界のいろんな場所を見ればアメリカが決して強い国ではなかったことが分かるよ。外国がアメリカを見る目が、20年、25年、30年前とは違っているんだ。いいですか、それが問題なんだよ。アメリカが非常に強くて、パワフルで、しかも金もある・・・そんな国に(短い時間で)ならない限り、あちら(日本や韓国)でそのようなこと(核武装のこと)を話し合うようになるってこと。我々がそのことについて検討しようがしまいが同じことだよ。

トランプは、自分が「親日家」(a big fan of Japan)であり、「友人が沢山いる」(many, many friends there)と言いながら、次のように発言します。

アメリカが攻撃されても彼ら(日本)は何もしなくていい、彼らが攻撃されたらアメリカは全兵力をもって駆けつけなければならない。要するに我々が攻撃されても彼らは我々を守ってはくれない。なのに彼らが攻撃されたら我々が全力で彼らの防衛にあたらなければならない。それが大きな問題なんだよ。

このインタビュー記事を読んだアメリカの物理学者、ジェレミー・バーンスタイン(Jeremy Bernstein)が、書評誌、New York Review of Books(NYRB)に "The Trump Bomb"(トランプ爆弾)という見出しのエッセイを寄稿、
  • 要するにトランプは、日本が核武装するように働きかけるべきだ、そうなれば彼らが我々を守ってくれることも可能になるのだから・・・と言っているのだ。
    In short we should encourage the Japanese to have nuclear weapons so that they can come to our defense.
と言っている。ただバーンスタインによると、それが許されるならばいろいろな国が核武装することになるのだから、核拡散防止の反対ということになる。ということは、トランプのアタマの中には「良い核拡散」と「悪い核拡散」(good proliferation and bad proliferation)というものがあるということなのだろうと言っています。

▼NYタイムズのトランプ・インタビューは3月26日に掲載されているのですが、その約1か月半後の5月5日に安倍さんがロンドンでキャメロン首相との共同会見を行っている。首相官邸のホームページにこの会見における安倍さんと記者たちの質疑応答が収録されています。それによると、アメリカのブルームバーグ通信の記者が「トランプ大統領が実現した場合、日本は建設的に協力できると思うか」と質問している。安倍さんの答えは「米国の新たな政権とも今後とも引き続き緊密に連携しながら、日米同盟を更に深化、強化させていくように努力していきたい」というものだった。

▼日本の記者としては、NHK、日本テレビ、テレビ朝日の記者が質問したけれどトランプにからむものはありませんでした。「総理、トランプ氏が日本も核武装するべきだと言っています。総理もそのように思いますか?」というような質問はなかった。実はトランプのこの発言直後の3月28日に菅義偉官房長官が「『持たず、作らず、持ち込まず』という非核3原則は政府の重要な基本政策で、これを今後とも堅持していくということに全くは変わりない」と言っている。ただ、これは東京の首相官邸における会見です。同じ質問をロンドンの記者会見でしてみてもよかったのでは?

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4)トランプとレーガン、似て非なるところ

4月29日付の米シカゴ・トリビューン紙が「ドナルド・トランプとロナルド・レーガン」(Donald Trump vs. Ronald Reagan)という見出しの社説を掲載しています。トランプが共和党の候補者を決定づける4日ほど前のことです。レーガンが大統領に立候補・当選したのは1980年だから、あれから36年が経つのですね(その1年前には英国でサッチャー政権が誕生している)。トランプがスローガンにしている「強いアメリカを取り戻そう」(Let's make America great again)というのは、レーガンが使ったスローガンだったけれど、それ以外にもこの両者の間には類似性がある。

まず時代の雰囲気が似ている。1980年頃のアメリカはというと、5年ほど前に「撤退」という形のベトナム戦争に敗れた後遺症で意気消沈している部分があった。イランではアメリカ人人質事件が起こり、ソ連がアフガニスタンを侵略しているのに、アメリカは「打つ手なし」という感じだった。また国内では日本などからの輸入のおかげで工場労働者の職が失われたりして、ブルーカラーの欲求不満が高まっており、JFケネディが大統領であった1960年代の理想に燃えた超大国の時代は終わった・・・という雰囲気だった。どこか現代と似ていますよね。

1980年の大統領選挙は民主党のジミー・カーター大統領(当時)と共和党のレーガンの争いであったわけですが、その選挙の流行言葉のようにメディアで使われたのが「レーガン・デモクラッツ」(Reagan Democrats)という言葉だった。普段は民主党に投票するはずのブルーカラーの白人労働者のことで、レーガンは彼らの人気を集めることに成功した。

ただレーガンについては、「世間知らずのアホ」(reckless ignoramus)、「単純細胞的な世界観」(simple-minded view of the world)、さらには「人種間の対立を利用している」(a knack for exploiting racial resentments)というような批判も根強かった。レーガンを大統領にすれば第三次世界大戦が起こると警告する人びとも多かった。要するに支持であれ、反対であれ、あのときのレーガンといまのトランプには類似点があるということです。

ただシカゴ・トリビューンによると

  • 似ているように見えるので騙されがちだが、80年のころのレーガンと2016年のトランプでは類似点より相違点の方が大きくて深いのだ。
    But the resemblance is deceptive. The differences between the Reagan of 1980 and the Trump of 2016 are bigger and deeper than the similarities.
とのことであります。


まずレーガンには保守主義者として「一貫性」(consistency)があり、ワシントンの連邦政府が何をするべきであり、するべきでないかということについても明確なビジョンを持っていた。そのうえで一級のアドバイザーにも恵まれていた。しかも8年間にわたってカリフォルニア州知事を務めた経験を通じて、理想と現実のバランス感覚を鍛え上げていた。トランプの方は公職の経験は皆無であり、思想的にも「一貫性」というものはない。またこれといったアドバイザーもいない。

シカゴ・トリビューンはまた具体的な政策面でも二人の間には違いがあると言います。例えば不法労働者への対応。トランプはメキシコとの間に壁を作ると言っているけれど、レーガンの場合は1986年に数百万の外国人労働者に就労資格や市民権を与える「恩赦」(amnesty)に大統領として署名したりしている。またカナダ、メキシコとの間で締結された北米自由貿易協定(NAFTA:North American Free Trade Agreement)はレーガンの発想(brain child)であると言われているがトランプはこれを忌み嫌っている。
  • レーガンは自分以上に大きな目標のために奉仕したが、トランプの場合は、心の中で自分自身以上に大きなものはないと考えているという印象を与える。
    Reagan served a cause bigger than himself. Trump gives the impression that in his mind, there is nothing bigger than himself.
というわけで、シカゴ・トリビューンはトランプを支持しようとする共和党員に対して
  • 自分はロナルド・レーガンが推進した理想をさらに進めることになるのか?それとも自分が大いに尊敬・称賛した人物が遺したものをダメにしようとしているのか?
    Would I be advancing the ideals that Ronald Reagan advocated? Or would I be undercutting the legacy of someone I admired?
ということを自問自答するべきだ、と言っています。

アメリカは外国のことにかかわりすぎ?


▼アメリカのPew Researchの調べによると、アメリカが自分以外の国のことにかかわることについて、いまの状態だと「やりすぎ」(Too much)という意見が一番多く、「やらなさすぎ」(Too little)をかなり上回っている。でも「ちょうどいいくらい」(Right amount)という人もけっこういるんですね。つまりアメリカ人は国際問題についてメディアで伝えられるほどには内向きになっているわけではない、と。

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5)カーン(ロンドン市長)とトランプ
 

5月5日、英国内でいろいろと選挙があり、BBCなどは徹夜でその模様を伝えていました。日本ではもっぱらロンドンにイスラム教徒の市長が誕生したということが伝わっていたように思いますが、ほかにもいろいろあったのでございますよ。順を追って説明します。

まずはスコットランド、ウェールズ、北アイルランドの「自治区議会」の議員選挙から。「自治区議会」というのはイングランド以外の3つの「国」がそれぞれに持っている議会のことです。英国(UK)全体の政治的な安定という意味からも一番注目されたスコットランド議会議員の選挙では、民族党(SNP)が第一党を続けることになったことは予想通りだったけれど、議席の過半数を獲得することはできなかったという意味ではSNPは多少の「落胆」を感じているかもしれない。大喜びなのが保守党で、前回よりも16議席も増やして第二党に躍進、がっくりだったのが労働党でしょう。13議席も失って第三党にまで落ち込んでしまったのですから。ウェールズでは労働党が第一党、ウェールズ党(Plaid Cymru)が第二党ときて、以下保守党、英国独立党(UKIP)、自民党となっているのですが、注目はUKIPが議席ゼロから7議席にまで伸ばしたということですね。北アイルランドの議会は、第一党が英国への帰属を主張する民主統一党(DUP)で38議席、最大野党がアイルランド民族主義を掲げるシンフェイン党(28議席)と、この二党で全議席(108)の半分を超えてしまうという構図には変化なしだった。今回はイングランドの124の地方議会でも議員選挙があった。議席数の合計でいうと労働・保守・自民の順なのですが、労働党も保守党もかなり議席数を減らすという結果になっている。

で、国際的に最も注目され、報道もされたのがロンドンの市長選挙です。勝ったのは労働党のサディク・カーン(Sadiq Khan)で、得票数は約130万票(57%)で、保守党のザック・ゴールドスミス候補(約100万票:43%)を破っての当選だった。カーン市長についてはむささびジャーナル339号でも紹介されています。年齢は45才、パキスタン系の移民の息子で、父親はタクシーの運転手だった。

カーン市長の誕生を喜んでいるのが5月14日付のThe Economistの政治コラム Bagehot で、カーン候補の勝利を「ものの分かった、大人の無関心の勝利」(a victory for enlightened, grown-up indifference)であると言っている。これだけでは何のことか分からないけれど、Bagehotによると、カーンの当選はドナルド・トランプにとっては悪夢のようなもの(Donald Trump’s nightmare)なのだそうです。なぜ「悪夢」なのか?それはロンドン市民がカーンを選んだのは、イスラム教とは関係なしに、もともとロンドンはどちらかというと労働党が強い町であったということで、イスラム教徒の市長が生まれたからといって大騒ぎするでもなく「だから何なのさ?」という雰囲気である・・・そのような態度こそがトランプや最近世界的に流行している右翼的な勢力に対する最も効果的な反撃であるというわけです。「ものの分かった、大人の無関心の勝利」というのは、この「だから何なのさ」的な勝利のことを言うわけです。

「イスラム教徒の入国は禁止だ!」と訴えて、ある部分のアメリカ人からは支持されているトランプは、カーン市長誕生後の5月10日に「ロンドンの市長については例外とする」と言ったのですよね。それに対してカーン市長は
  • この問題は単に私だけのことではない。私の友人たち、私の家族、私と同じ生まれと経歴を持っている世界中の人びと問題でもある。
    This isn’t just about me. It’s about my friends, my family and everyone who comes from a background similar to mine, anywhere in the world.
としてトランプによる例外扱いを拒否する姿勢を明確にしたわけです。

Bagehotによると、トランプのような人びとに対する反撃は、こぶしを振り上げて「反対!」を叫ぶことではなく、肩をすくめて(shrugging your shoulders)通り過ぎることなのだそうであります。「あんたら、何やってんの?」という態度を示すことです。英国のある研究所の報告書によると、2045年までに英国は、現在のアメリカと同程度に非白人の国になっているとのことで、そんな社会で宗教だの人種だのにこだわっているわけにはいかない。

カーン市長は2009年、当時のブラウン労働党政権の運輸大臣でもあったのですが、英国では閣僚になるとバッキンガム宮殿における認証式に出席することになっている。その際には女王を前に聖書を使って「宣誓」をするのですが、カーン大臣はイスラム教徒だからコーランを使いたいと言ったけれど、宮殿にはそれがない。というわけで彼自身のコーランを持って行ったのだそうです。宣誓式が終わって、宮殿の担当者がコーランを返却しようとすると「次の人のために置いて行ってもいいですか?」(Can I leave it here for the next person?)と言ったのだとか。

Bagehotはこのエピソードに触れながら
  • ドナルド・トランプはおそらくヒラリー・クリントンに敗れるだろう。しかし彼の最終的な敗北は、少なくとも英国においては、カーン氏がバッキンガム宮殿に置いてきたコーランが使い古されてぼろぼとになっているのに、誰も気にしないようになったときにやって来るのだ。
    Donald Trump will probably lose to Hillary Clinton. But his final defeat, in Britain at least, will come when Mr Khan’s copy of the Koran in Buckingham Palace is well-thumbed?and no one cares.
と結んでおります。

▼トランプと英国政治の絡みで言うと、カーン市長以上にまずいこと(?)になっているのがキャメロン首相ですよね。トランプが昨年「イスラム教はアメリカへ入れるな!」と言明した際に、キャメロンがこの発言を「あほらしくて、世論分断的そして間違っている」(stupid, divisive, wrong)とコメントしてしまった。その頃はまさかトランプがここまで人気が高まろうとは思ってもみなかったということなのでしょうが、5月5日に安倍首相との共同会見をやったときにも英国記者から「あの発言についてトランプに謝罪する気はあるか?」と質問され、イスラム教徒への態度については「謝る気はない」と回答、これが大々的な見出しになっておりました。

▼そのトランプは、英国のEU離脱に関する国民投票についてBrexit(離脱派)を支持すると言明したわけですよね。そのことが英国のメディアでも大きく報じられているのですが、不思議なのはBrexitの方々からトランプ発言を歓迎するという類のコメントが全く聞こえてこないこと(むささびが知らないだけかも?)。英国内におけるトランプの不人気からすると、なまじ "Thank you, Donald!" などと言ったりすると、肝心の国民投票で負けてしまうのではと恐れているのかもしれない。


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6)英国版「ゆとり教育」の主張
 

5月3日付のBBCのサイトによると、現在英国(イングランド)では小中学校の父兄を中心に
  • Let Our Kids Be Kids
    子供は子供らしくさせておけ
というキャンペーンが行われているのですね。何かというと、政府が行っている児童を対象にした学力評価テスト(Sats)をやめさせようという運動であります。英国の義務教育は基本的には(例外はある)5~16才の11年間ということになっているのですが、2年目・6年目・9年目の児童はSats(Standard Assessment Testsの略)を受けることになっている。で、このキャンペーンによると、今の政府のやり方は
  • 試験のやりすぎ、勉強のやらせすぎで、子供たちの幸福や学ぶ楽しさよりも試験の結果や成績順のことだけが重視されている。
    over-tested, over-worked and in a school system that places more importance on test results and league tables than children's happiness and joy of learning.
というわけであります。5月3日現在で約4万組の父兄がSatsに反対する署名に賛同しており、子供たちと一緒に授業のボイコットまで行っている。参加者が教育大臣あてに送りつけた公開状では、現在の学校が「受験工場」(exam factories)のようになっており、試験によって子供たちが自分を「ダメ人間」(failures)であると思い込むようになっていると抗議している。

もちろんSatsには大いに賛成する声もある。学校教育の監査を業務としているOfsted(教育監査局)という機関の局長であるサー・マイケル・ウィルショウ(Sir Michael Wilshaw)はBBCの取材に対して、世の中の流動性を確保するためには、子供たちの時代において「落ちこぼれ」(falling behind)を作らないことが肝心であり、そのためにはSatsのような制度が必要であると力説しています。
  • このテストに反対する人たちはOECDの教育ランキングで英国(イングランド)が如何に遅れているかを考えるべきだ。
    Those who oppose this testing need to consider England's mediocre position in the OECD education rankings.
というわけです。むささびが調べたところによると、2015年のOECDの教育ランキング(15才・数学と科学)ではトップ5がシンガポール、香港、韓国、日本、台湾のアジア勢が独占、英国は76か国中の20位だった。

BBCの記事でちょっと可笑しかったのは、ラジオのニュース番組の司会者が、教育省の学校担当大臣(Schools minister)にインタビューする中でSatsについて話題にしたときの会話です。

司会:大臣に英文法の問題をやってもらいましょうか。"I went to the cinema, after I'd eaten my dinner."(夕飯を食べたあとで映画を見に行った)という文章があったとします。この中の "after" という言葉は「接続詞」(subordinating conjunction)なんでしょうか、それとも「前置詞」(preposition)なんでしょうか?

大臣:それは前置詞でしょう(Well it's a preposition)。

司会:(笑いながら)違うと思いますねぇ(I don't think it is)。

大臣:"After" とくれば前置詞でしょうが。まあ場合によっては接続詞として使われることもあるだろうが・・・。

司会:この場合は接続詞だと思いますね。

大臣:だけど、いまは私の話をしているのではない。将来の子供たちが、きちんとした文法も教わるようにするという話をしているんです。私の場合、小学校でまともな文法を教わらなかったから・・・。

司会:そのようですね。

というわけで、大恥をかいてしまった大臣ですが、それでもSatsの意義について
  • 英国は15才の時点で中国よりも3年遅れているんですよ。国際的にみると英国は遅れているんです。
    We're three years behind the Chinese at the age of 15. We are a bit of a basket case internationally.
と主張することは忘れなかった。そのためのインタビューなんですからね。

ただ、BBCのこの記事には「つづき」がありまして、5月10日付のサイトによると、今年のSatsは結局行われたのですが、何とその問題が事前にネット上に掲載されてしまったのだそうです。と言ってもテスト作成業者のサイトに掲載されてしまったもので、パスワードがないと見ることができないところに載ってしまったということで、ひょっとすると90人程度の人が見てしまった可能性はあるとのことです。そのような「事故」にもめげずテストそのものは強行されたとのことであります。

子供たちの人生をダメにする(かもしれない)という学力評価テストですが、実際にどのような問題が出ているのかと思って調べてみました。まず小学校3~4年生のための数学テストは:

問題1:次の数字の中で500に一番近いものを丸で囲め(Circle the number closest to 500):
  • 525 491 511 408 550
問題2:「735 + 2669」を計算せよ(Calculate 735 + 2669)

問題3:リアム(子供の名前)は自転車を借りた。午後3時までに返さなければならない。いま2時25分だ。あと何分残っているか?(How many minutes has he got left?)

という具合です。

次に英語(つまり彼らには国語)の問題は、空欄に適当な単語を書き込めというもので、

1. There was a big ________ in the garden.
2. Hannah ran __________ than Lee.
3. Yesterday it was very _____________.
4. The ____________ in the box are different colours.
5. Our new __________ is black with white paws.

となっている。この英語の問題ですが、単語の綴り(spelling)が正しく書けるかどうかというテストなので、例えば1番の問題の場合、答えは "car", "man", "flower", "box" etcと何でもあり得ますよね。ポイントは記入した単語のスペルが正しいかどうかということです。
▼子供たちをテスト漬けにするのは教育的に間違っている・・・日本でもあった詰込み教育批判ですね。日本では1990年代に「ゆとり教育」というものが行われたけれど、いつの間にか「ゆとり教育こそ間違っていた」という話になってしまい、最近では文科大臣が「ゆとり教育と明確に決別」などと言っているわけですね。

▼英国では1980年代のサッチャリズムの時代に「子供たちにもっと暗記させろ」という、いわば詰込み教育推進政策が始まったのですよね。そのころに常に「模範」として出てきたのが「奇跡の経済成長」の波に乗る日本の教育だった。それが今では「我々は中国より遅れている」というわけですが、いまだにアジアに見習えと言っている人たちが保守層には多い。しかしあの頃も今も、英国の教育関係者が心底から「アジアに見習え」などと思っているのかについては疑問です。
むささびジャーナル関連記事
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7) どうでも英和辞書
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rude:無礼な


エリザベス女王が最近のパーティーで、中国の政府関係者は「非常に無礼だ」(very rude)と発言したことが世界中のメディアで伝えられましたよね。もちろん中国人についての悪いニュースならほぼ何でも載せる日本のメディアなんて大喜びで伝えていた。BBCによると、5月10日にバッキンガム宮殿でガーデンパーティーが開かれたのですが、それに招待されたロンドン警視庁のルーシー・ドーシ(Lucy D'Orsi)長官(女性)との会話の中で「中国人は無礼」発言が女王の口から飛び出し、それがテレビカメラによって音として拾われてしまったというわけです。

女王と長官の会話の話題は、昨年国賓として英国を訪問した中国の習近平国家主席が女王と面会したときのことだった。女王のお付きがドーシ長官を紹介するにあたって「中国による国賓訪英の際の警備の責任者でした・・・」と説明すると、女王の口から出た第一声が「それは運が悪かったわね」(Oh, bad luck)というものだった。で、長官が習近平一行の振る舞いには「大いに苦労しました」(it was quite a testing time)と答えると、女王が
  • They were very rude to the ambassador.
    あの人たちは大使(駐北京英国大使)に対しても非常に失礼だったんですよ。
と応じる。長官も
  • They were... it was very rude and undiplomatic I thought.
    そうですね。非常に無礼で外交的でない、と私も思いました。
と返答したり・・・というわけで、ほんの数秒の会話が中国人についての悪口で埋められてしまったというわけ。

BBCによると、この会話の一部始終を撮影したのは、放送局で使われるビデオ撮影をするカメラマンだったとのことなのですが、むささびの想像によると、それはバッキンガム宮殿に雇われたカメラマンではなくて、放送局によって代表カメラマンとして派遣された人だったのではないか、と。そうでない限り、このような会話を拾ったテープが無編集で放送局に提供されることなんてあり得ませんよね。違います?

いずれにしてもここをクリックすると、その会話を字幕付きで聴くことが出来ます。
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8) むささびの鳴き声
▼「トランプとレーガン」の記事に関連して、人間のやることにはいつも「時代性」のようなものがあるんですかね。レーガンがカーターを破って大統領になったのが1980年ですが、その前の年(1979年)に英国ではサッチャーの保守党がキャラハンの労働党政権を破っている。日本では大平首相が急死して鈴木善幸さんが首相になっている。カーター、キャラハン、大平さんに共通しているのが、どことなくお人好しなところがメディアに叩かれたことであり、鈴木善幸はそうではなかったけれど、サッチャーもレーガンもそれまでの「体制」(establishment)とされていた政治に対する否定勢力であったということですよね。あの当時のメディアによると、サッチャーは「乾物屋の娘」であり、レーガンは「ハリウッドの三流俳優」だった。決して褒め言葉ではない。ただサッチャーは1975年以来、保守党の党首を務めていたし、レーガンは1967年から75年(1月)までカリフォルニア州知事をやっていたのですよね。

▼トランプという人物については「インチキ野郎」という意見が強いし、むささびもどちらかというと眉に唾をつけたくなるけれど、問題は彼を熱狂的に支持している(とメディアに言われている)有権者ですよね。トランプが落選しても支持者が持っている時代の流れに対するフラストレーションが消えるわけではない。ちょっとここでも過去を振り返っておくと、1980年は日本が自動車生産台数が世界第1位になった年でもある。まさにいまの中国があのころの日本であったわけです。つまりアメリカの自動車産業の労働者たちにとっては「冬の時代」が到来した年でもある。2016年の今、トランプを支持しているアメリカ人のかなりの部分が製造業で暮らしを立てている労働者であると言われていますよね。その彼らにとっては産業や経済の「グローバル化」を推進してきた「アタマのいい」政治家や経済学者は敵なのですよね。ヒラリーが大統領になったとしても、この人たちの不満が消えてしまうわけではない。

▼トランプは30年間にわたって日本の軍備増強を主張し続けており、日本には友だちがわんさかいる、と。その友だちには安倍さんも入っているのでしょうか?トランプは69才、安倍さんは61才。前者が後者に対して "Hey, Shinzo, do you want to buy one or two bombs? If you do, let me know"とか何とかいう会話なんて、なかったでしょうね(たぶん)!

▼舛添都知事が昨年ロンドンやパリを訪問したときの経費が5000万円ということで叩かれていますよね。産経新聞のサイトによると「知事や職員ら20人」で5000万円を使ったというわけで批判されて、東京都は「今後は節減に努める」と言っているとのことです。常識的に考えて、この種の「豪遊」が舛添さんが知事になってから始まったのではないはずですよね。都庁の会計係にとっては、昔から知事の外遊ともなると5000万円程度が当たり前だった、だからこそ承認の印を押したということですよね。二代前の石原都知事の場合はどうだったのか?産経新聞は調べて報道したのでしょうか?

▼もう一つ、舛添さんについては「会議費の名目で家族旅行」という報道もありますよね。これを報道したのが週刊文春だったのですね。確か甘利・経済再生大臣の金銭スキャンダルも週刊文春の報道だったのでは?この雑誌はこれら以外にも特ダネ報道が非常に多いのだそうですね。日本雑誌協会という団体のサイトによると、週刊文春の発行部数は68万部で週刊誌としてはダントツ。2位は週刊新潮(53万)、3位は週刊現代(50万)などとなっている。つまり英国と異なり日本ではまだ紙媒体が生存できているということですよね。何が理由なんですかね。

▼その昔、立花隆さんが『文藝春秋』で「田中角栄研究〜その金脈と人脈」という記事を書いて、大騒ぎになったとき、新聞社の記者たちが「あんなこと、オレたちはみんな知っていたさ」という趣旨のことを言ったということで、大いに顰蹙を買ってしまった。「知っていたのならなぜ書かなかったのか?」と言われてしまったわけ。ただ・・・むささびジャーナル97号の「鳴き声」によると、2006年8月9日付けの朝日新聞で、外岡秀俊(東京本社編集局長)という人が、立花隆の記事をバカにしたように言っていた新聞記者たちは「本当は知らなかったんだと思います」とコメントしている。なぜ知らなかったのに「知っていたよ」などと言ったのでしょうか?「知らなかった」と認めることが記者たちにとっては堪えられない屈辱だったということなのではないか(とむささびは想像している)。

むささびジャーナル341号で、英国に誕生した新しい日刊新聞、New Dayについて紹介しました。最近では珍しくネットではなくて紙による新聞であるということで大いに注目を浴びたのですが、結局5月6日号をもって廃刊ということになってしまいました。2月29日の創刊、5月6日に廃刊だから2か月とちょっとという寿命でありました。新聞専門紙のプレス・ガゼットによると、販売部数20万部を目指したのですが、4万部しか売れなかったとのことです。明らかに女性読者をターゲットにした中身でありデザインであったのですが、一部50pの紙の媒体を買おうという女性がそれほどにはいなかったということですね。

▼編集長のアリソン・フィリップスはFacebookに載せた「お別れメッセージ」の中で「これほど熱心な読者を相手に仕事をしたのは初めてだった」と言いながらも「読者の数が発行し続けるには足りなかった」と語っています。ただ読者の一人が言っているように「ネット新聞として続けることはできなかったのか?」という疑問は、むささびも感じますね。紙の新聞がうまくいかなかったのが残念なのではなくて、「政治的中立」とかセンセイショナリズムとはちょっと異なる「大衆紙」路線というのが新鮮味があって面白いと思っていたのに・・・。フィリップス編集長は「やるだけのことはやったのです」と言って、劇作家サミュエル・ベケットの有名な言葉で「お別れメッセージ」を締めくくっています。
  • Ever tried. Ever failed. No matter. Try Again. Fail again. Fail better.
▼挑戦して、失敗して、気にすることはない。もう一回挑戦して、もう一回失敗すればいい。以前より上手に失敗できればそれでいいのだ・・・と言うような意味らしいです。ちなみに編集スタッフの25人のうち、半数は親会社のTrinity Mirrorに復職することができるけれど、残りの半分はそこでパートで働くか、職場を離れるしかないのだそうです。

▼だらだら長々と失礼しました。
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